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Soemmerring輪を伴う続発閉塞隅角症の2例

2017年7月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科34(7):1054.1059,2017cSoemmerring輪を伴う続発閉塞隅角症の2例福武慈坂上悠太栂野哲哉五十嵐遼子長谷部日福地健郎新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学講座視覚病態学分野TwoCasesofSecondaryAngleClosurewithSoemmerring’sRingMegumiFukutake,YutaSakaue,TetsuyaTogano,RyoukoIkarashi,HirumaHasebeandTakeoFukuchiDivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversitySoemmerring輪を伴って発症した続発閉塞隅角症(以下,本症)の2例を経験した.症例1は78歳,男性.10年前に両眼に超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術(以下,PEA+IOL)を受けた.左眼に浅前房と眼圧上昇(25mmHg)を生じ,細隙灯顕微鏡検査,および超音波生体顕微鏡(以下,UBM)所見から,本症と診断した.Soem-merring輪の手術的除去と周辺部前後.切開術を行い,前房深度は改善,隅角は開大し,眼圧は下降した.症例2は77歳,女性.11年前に左眼にPEA+IOLを受けた.左眼霧視と頭痛を主訴に受診した.左眼眼圧は77mmHgで浅前房と全周に周辺虹彩前癒着を認めた.同様に細隙灯顕微鏡検査,UBM所見から本症と診断し,Soemmerring輪の手術的除去と隅角癒着解離術を行った.術後,前房深度は改善し,眼圧は下降した.結論:まれではあるがPEA+IOL後の長期合併症の一つとしてSoemmerring輪を伴う続発閉塞隅角症がある.本症にはさまざまな隅角閉塞のメカニズムが関与している可能性が考えられる.診断にはUBMが有用で,正確に本症と診断された場合には,Soemmerring輪を手術的に除去することで眼内レンズを温存したまま治療できる可能性がある.Purpose:ToreporttwocasesofsecondaryangleclosurewithSoemmerring’sring.Case1:A78-year-oldmalehadshallowanteriorchamberandintraocularpressureof25mmHginhislefteye.Hehadahistoryofcata-ractphacoemulsi.cationandintraocularlensimplantation(PEA+IOL)inbotheyes10yearsbefore.Despitetopicalantiglaucomamedications,theshallowanteriorchamberremained.Ultrasoundbiomicroscopy(UBM)showedlensmaterialsroundlybehindtheirisinthelefteye.WediagnosedSoemmerring’sring-inducedsecondaryangleclo-sureandperformedsurgerytoremovethematerialsofSoemmerring’sringande.ectperipheralcapsulotomy.Aportionofthematerialsremained,buttheanteriorchamberbecamedeeperandtheanglewasopened.Case2:A77-year-oldfemalehadahistoryofPEA+IOLinherlefteye11yearspreviously.Shehadblurredvisionandheadache.Herlefteyehadshallowanteriorchamber,totalperipheralanteriorsynechiaandelevatedintraocularpressureof77mmHgdespitetopical,oralandintravenoustreatment.UBMshowedlensmaterialsroundlybehindtheiris;wediagnosedSoemmerring’sring-inducedsecondaryangleclosure.WeperformedsurgerytoremovethematerialsofSoemmerring’sringandcarryoutgoniosynechiolysisforaportionoftheangle.Theanteriorchamberbecamedeeperandtheintraocularpressuredecreasedto12mmHg.Conclusions:SecondaryangleclosurewithSoemmerring’sringmayoccurbydi.erentmechanismsinrespectivecases.UBMisveryusefulindiagnosingit.SurgicalremovalofSoemmering’sringmaterialscanresolvesecondaryangleclosure.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1054.1059,2017〕Keywords:白内障手術術後合併症,後発白内障,Soemmerring輪,超音波生体顕微鏡,続発閉塞隅角症,眼内レンズ.complicationofcataractsurgery,aftercataract,Soemmerring’sring,ultrasoundbiomicroscopy(UBM),sec-ondaryangleclosure,intraocularlens.〔別刷請求先〕福武慈:〒951-8510新潟県新潟市中央区旭町通一番町757番地新潟大学大学院医歯学総合研究科生体機能調節医学専攻感覚統合医学講座視覚病態学分野Reprintrequests:MegumiFukutake,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,NiigataUniversity,1-757Asahimachidoori,Chuo-ku,Niigata-shi,Niigata951-8510,JAPAN1054(138)bはじめに白内障手術後の後発白内障は,残存した水晶体上皮細胞が増殖・分化して生じる.病型として,Soemmerring輪,Elschnigpearls,前.切開縁を中心に生じる線維性混濁,液状物が眼内レンズと後.の間に貯留する液状後発白内障がある1.5).このうちSoemmerring輪は,水晶体.周辺部の前後.が接着し房水から遮断された閉鎖腔内で,赤道部に存在する水晶体上皮細胞が増殖したものである2,5).閉鎖腔内での上皮細胞増殖が容量を超えると,接着部分がはずれ,後.に沿って上皮細胞が遊走し,Elschnigpearlsを形成するといわれている1,3,5).Soemmerring輪に伴う合併症として.内固定した眼内レンズの亜脱臼6,7),.外固定した眼内レンズの偏位8),人工無水晶体眼での瞳孔まで及ぶ増殖による視力低下9),続発閉塞隅角症10.12)の報告がある.今回,筆者らはSoemmerring輪に伴って発症したと考えられる続発閉塞隅角症の2例を経験した.これらの症例から,本症の診断と治療,隅角閉塞メカニズムについて知見を得たので報告する.I症例〔症例1〕78歳,男性.主訴:なし.家族歴:特記すべきことなし.既往歴:急性膵炎,高血圧.2002年(68歳)左眼,2003年(69歳)右眼の超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術(以下,PEA+IOL).挿入眼内レンズは,左眼AMOSI40NB20.5D,右眼AMOCLRFLXB22.0D.カルテの記載上,術中,術後とも合併症なし.現病歴:2012年11月に近医を受診した際に,左眼が浅前房であり眼圧は25mmHgと上昇していた.タフルプロスト,0.5%チモロールマレイン酸塩による点眼治療を開始し眼圧は下降したが,浅前房が改善しないため12月に当科を紹介され受診した.初診時所見:視力は右眼1.2(n.c.),左眼1.2(n.c.),眼圧は右眼11mmHg,左眼17mmHg(Goldmann圧平眼圧計:GAT)であった.左眼の前房は右眼に比べとくに周辺が浅く,炎症所見はなく角膜清明であった(図1a).左眼眼内レンズは前方に偏位し,前.と虹彩後面が接触していた.後.は眼内レンズのすぐ後方にあり,液性後発白内障の所見はなかった.また,後.と前部硝子体膜の間にはスペースがあった.眼内レンズの前方偏位はあるものの,硝子体後方への房水流入,aqueousmisdirectionを示す明らかな所見はなかった.隅角鏡検査では左眼の上方10.1時,下方5.8時,全体では半周に相当する範囲に周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)を認めた.前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)では,中心前房深度は右眼3.2mm,左眼2.4mmで,左眼の眼内レンズは前方に偏位していた(図1b).眼軸長は右眼22.3mm,左眼22.1mmであった.後日精査目的に入院のうえ,散瞳診察を行った.散瞳は不良であったが,視神経乳頭陥凹拡大はなく,検眼鏡的に確認できる範囲で眼底に異常所見はなかった.Humphrey静的視野検査では緑内障性視野異常はなかった.超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscope:UBM)では,水晶体.周辺部に全周にわたって高輝度の充実性組織があり,虹彩根部を前方に圧排して図1症例1:左眼a:初診時前眼部写真.右眼に比べ浅前房であった.b:初診時前眼部OCT.中心前房深度は2.4mmで眼内レンズの前方偏位と虹彩接触がみられる.c:術後前眼部写真.術前に比べ,前房は深化した.d:術後前眼部OCT.中心前房深度は3.5mmと改善した.6時ab図2症例1:左眼UBMa:術前UBM.プラトー虹彩様に虹彩根部が前方へ偏位し隅角閉塞をきたしている.虹彩後方には全周性に高輝度の充実組織を認め,Soemmerring輪と考えられる.b:術後UBM.Soemmerring輪は残存するものの,全体に輝度や容積は低下し,虹彩根部への圧排所見や水晶体.前方偏位は改善している.図3症例1:手術所見散瞳不良だったため虹彩リトラクターで術野を確保した.水晶体.内にSoemmerring輪を確認した.眼灌流液を水晶体.内に灌流し,水晶体スパーテルなどで掻爬,水流で洗い流した.その後レンズ外側下方の前後.を27ゲージ針で穿破し,硝子体腔との交通を作った.虹彩根部は隆起していて隅角は確認できなかった.いて,Soemmerring輪と考えられた(図2a).虹彩の前方弯曲や,毛様体突起の扁平化は認めなかった.経過:Soemmering輪が本症の発症に関与していると考え,除去することを目的に観血的治療を行った.散瞳不良のため虹彩リトラクターで瞳孔を拡大すると,虹彩後方に全周性にSoemmering輪を認めた.眼灌流液を水晶体.内に灌流し,水晶体スパーテルなどを用いて掻把し,軟化した組織を水流によって除去した(図3).全周の4分の3程度の組織を除去できた.眼内レンズの前方偏位から,房水が眼内レンズより後方へ流入するaqueousmisdirectionが生じている可能性を否定できないと考え,レンズ外側下方の前後.を27ゲージ針で穿破し,硝子体腔との交通を作って手術を終了した.術翌日から前房は深くなり(図1c),前眼部OCTで中心前房深度は3.5mmと改善,隅角は開大した(図1d).UBMでは,充実性組織は残存するものの,全周で容積は低下し,虹彩根部の前方圧排所見は改善するとともに隅角は開大していた(図2b).その後の眼圧は11.14mmHgで経過し,再発はない.〔症例2〕77歳,女性.主訴:左眼の霧視,眼痛,頭痛.家族歴:特記すべきことなし.既往歴:心房細動でピルジカイニド塩酸塩水和物を内服している.2002年(66歳)左眼PEA+IOL.挿入眼内レンズは,AMOSI40NB23.5D.カルテの記載上,術中,術後とも合併症なし.現病歴:2013年11月に左眼霧視と頭痛を主訴に近医眼科を受診した.左眼眼圧は66mmHgで,D-マンニトール点滴,アセタゾラミド内服,ドルゾラミド・チモロール,ピロカルピン塩酸塩点眼によっても,翌日も77mmHgと改善がみられないため,紹介され当院を受診した.初診時所見:視力は右眼0.8p(n.c.),左眼0.06(n.c.),眼圧は右眼17mmHg,左眼77mmHg(GAT)であった.左眼b図4症例2:左眼a:初診時前眼部写真.浅前房,角膜浮腫,眼内レンズ前方偏位がみられる.b:初診時前眼部OCT.中心前房深度は1.6mmで眼内レンズは前方偏位している.c:術後前眼部写真.前房は深化し,角膜浮腫も改善した.d:術後前眼部OCT.中心前房深度は3.0mmとなった.ab図5症例2:左眼UBMa:初診時UBM.虹彩後方に全周性にSoemmerring輪を認め,虹彩根部を圧排し隅角閉塞をきたしている.b:術後UBM.Soemmerring輪は残存するものの,全体に容積は低下し,虹彩根部への圧排は改善している.前房は著しく浅く,角膜は浮腫状で,眼内レンズは前方に偏鼻側の充実性組織は大きかったため,灌流・吸引(I/A)ハ位していた(図4a).隅角鏡検査では右眼はappositionalンドピースを用いて.内から摘出した.その直後に前房が深closureで,低いPASが5カ所あり,左眼は全周のPASが化した.視認性不良であり嘔気が強かったため,上方,下方あった.前眼部OCTでは中心前房深度は右眼1.7mm,左の可能な範囲のみ隅角癒着解離術を行った.術後,隅角鏡検眼1.6mmで左眼の眼内レンズは前方偏位していた(図4b).査で左眼PASは10.2時方向は残存したが半周以下となっ眼軸長は右眼21.9mm,左眼22.0mmであった.UBMではた.前房深度は3.0mmとなり(図4c,d),UBMでは充実水晶体.周辺部の高輝度の充実性組織,Soemmerring輪が性組織の容積は低下し,隅角は開大していた(図5b).その全周に虹彩に接し,虹彩根部を圧排していた(図5a).虹彩後の左眼矯正視力は1.2,左眼眼圧は12.14mmHgで経過の前方弯曲や毛様体突起の扁平化は認めなかった.し再発はない.右眼は原発閉塞隅角症と診断し,後日PEA経過:受診当日に水流によるSoemmering輪除去を行っ+IOLを行い前房は深化した.た.散瞳不良のため虹彩リトラクターを留置した.上方からII考按今回,筆者らはSoemmering輪を伴って発症した続発閉塞隅角症(以下,本症)の2例を経験した.この2例の隅角閉塞のメカニズムとしては,全周にみられたSoemmering輪が後方から虹彩根部を圧排し,直接,隅角を閉塞したことが主体と考えられた.治療として手術的にSoemmering輪を除去すること,少なくとも容積を減らすことが有効と考え,水晶体.を開放し,水流による灌流とスパーテルなどによる掻爬といった比較的容易な方法によって,眼内レンズを温存したまま,病態を改善させることができた.これまでにもSoemmering輪によって生じた閉塞隅角緑内障の報告10.12)が,いくつかみられる.Kobayashiら10)は,3年前に両眼にPEA+IOL,1年前に右眼にNd:YAGレーザー後.切開術を受け,右眼に発症した本症に対し,レーザー虹彩切開術,さらにその切開部からNd:YAGレーザーを照射してSoemmerring輪を破砕し改善した1例を報告した.松山ら11)は,10年以上前に両眼白内障手術を受け,右眼に発症した本症に対し硝子体切除術を行ったが改善せず,Soemmerring輪を眼内レンズ,水晶体.ごと摘出することによって改善した1例を報告した.また,Kungら12)は,両眼PEA+IOLを受け,9年後に左眼に発症した本症に対しレーザー虹彩切開術を施行したものの,2年後に眼圧上昇とSoemmerring輪の増大を認め,保存的治療で眼圧が改善した1例を報告している.Soemmerring輪を伴う眼圧上昇には開放隅角の症例報告13)もある.白内障手術後に眼圧上昇をきたした症例で,細隙灯顕微鏡検査で閉塞隅角を疑った場合には,隅角鏡検査,UBM,前眼部OCTを施行し,PAS,虹彩の形態異常,毛様体の形態異常,虹彩後方の腫瘤性病変,眼内レンズの位置異常などがないか観察を行う.本症をきたす鑑別疾患として,瞳孔ブロック,眼内レンズ脱臼などによる水晶体ブロック,毛様体ブロック,脈絡膜出血,毛様体脈絡膜滲出,PASをきたすような血管新生緑内障,ぶどう膜炎などがある.UBMは,前眼部OCTに比べ,より虹彩後方を全周に観察することが可能で,閉塞隅角の鑑別に有用である.本症は全周性に虹彩後方に水晶体組織を疑う充実性組織を認めることから,UBMを用いれば診断は比較的容易であると考える.本症例では,虹彩はプラトー虹彩様に根部が前方へ偏位して隅角と接していた.虹彩根部の後方,つまり水晶体.周辺部には全周性にSoemmerring輪があり,これが虹彩を圧排していると考えられた.一方,眼内レンズと水晶体.が前方に移動していた点について,房水が眼内レンズよりも後方へ流入するaqueousmisdirectionが生じていた可能性があり,症例1ではその可能性を考慮し前後.の穿破を行った.しかし両症例ともUBMでは毛様体突起の扁平化はみられず,症例1では細隙灯顕微鏡検査で水晶体後.と前部硝子体膜との間に十分なスペースが保たれていたことから,房水が硝子体後方へ回りこみ硝子体が前方移動することにより生じる毛様体ブロックは本症例の主体ではないと考えた.また,症例2では前後.の穿破をせずにSoemmerring輪の摘出のみで眼内レンズ前方偏位が改善したことからも,毛様体ブロックは本症例の主体ではないと考えられる.また,UBMではSoemmerring輪と毛様体が接する所見もみられ,Soemmer-ring輪の赤道方向への増殖により毛様体とSoemmerring輪間での房水通過障害が生じる可能性もあるかもしれないが,本症例では近接するものの全周性の接触はなく,やはり本症の主体ではないと考えた.また,いずれも虹彩の前方弯曲はないことから瞳孔ブロックの所見はなく,毛様体.胞や腫瘍性病変,脈絡膜出血,脈絡膜滲出などの所見,PASをきたす新生血管,ぶどう膜炎などの所見はなかった.以上から,少なくともこの2症例における浅前房と隅角閉塞のメカニズムとしては,Soemmerring輪が全周で増大したことによって虹彩根部が前方に偏位し,直接的に隅角を閉塞したことが主体ではないかと考えた.一方,いずれの症例もUBMでSoemmerring輪が全周性に虹彩後方に近接または接していることから,Soemmer-ring輪・虹彩間で房水の通過障害をきたした可能性も考えられる.それにより眼内レンズ後方へのaqueousmisdirec-tionが生じて房水が貯留し,これらが一塊として前方へ偏位していた可能性も考えられた.既報における本症のメカニズムとしては以下が推測されている.Kobayashiら10)は,虹彩の前方弯曲を伴うことから瞳孔ブロックが主因としているが,瞳孔ブロックに効果的なレーザー虹彩切開術のみでは治癒しなかったことは,Soem-merring輪の存在自体が房水の前房への流れを妨げていた可能性があるとしている.松山ら11)は,虹彩根部の圧迫による直接的な隅角閉塞とともに,Soemmerring輪により水晶体.と毛様体の間隙が狭小化しているところに毛様体の前方移動が合併して毛様体ブロックが生じた可能性を示している.UBMでは毛様体の前方移動は認めているが,毛様体扁平化は認めておらず,硝子体腔と前後房の圧較差は高度でない可能性と,毛様体扁平化の所見はなくともaqueousmisdi-rectionの関与する可能性を指摘している.治療としては毛様体ブロックを考慮し,硝子体切除術を行ったが所見の改善が得られず,Soemmerring輪を眼内レンズとともに水晶体.ごと摘出する再手術を行い,改善を得ている.Kungらの報告12)では,虹彩の前方弯曲や眼内レンズの位置異常は認めていない.眼圧は正常であるが,PASが210°あり,UBMで同部位に一致して虹彩後方のSoemmerring輪を認めている.予防的にレーザー虹彩切開術を行っているが2年後に眼圧上昇,全周のPASをきたしていることから,レーザー虹彩切開術では再発の可能性がある.以上から考えると,Soemmerring輪の拡大に伴って,瞳孔ブロック,虹彩根部の後方からの圧排による直接閉塞,毛様体ブロックなど,症例ごとにさまざまなメカニズムによって閉塞隅角が生ずる可能性があり,また混在している可能性を考えることが必要である.したがって,本症に対する治療は,個々の症例におけるメカニズムの差を考慮して選択されることが必要と考えられる.しかし,本症ではSoemmerring輪の容積が増大することが,いずれのメカニズムにもかかわっていると考えられることから,もっとも有効な治療方法はSoemmerring輪を除去,少なくとも容積を減らすことである.一方,今回の2症例ではいずれも眼内レンズと水晶体.は温存されており,Soemmerring輪も容積は減少したとはいえ残存している.水晶体上皮細胞が増殖することで再度,容積が増大し,本症が再発する可能性はあり,今後も慎重に経過観察することが必要である.Soemmering輪を伴う続発閉塞隅角症の2例を報告した.まれではあるが,通常に行われているPEA+IOLであっても,長期経過後に浅前房と閉塞隅角を発症した場合には,本症の可能性を考慮することが必要である.Soemmering輪の容積が増大することが本症の主因と考えられるが,付随してさまざまな隅角閉塞のメカニズムが関与している可能性がある.細隙顕微鏡検査による所見とともに,前眼部OCT,UBMといった画像解析装置による詳細な観察が,各症例におけるメカニズムの判定と治療方法の選択に有用である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)黒坂大次郎:後発白内障(総説).日眼会誌115:659-671,20112)KappelhofJP,VrensenGF,deJongPTetal:TheringofSoemmerringinman:anultrastructuralstudy.GraefesArchClinExpOphthalmol225:77-83,19873)KappelhofJP,VrensenGF,deJongPTetal:Anultra-structuralstudyofElschnig’spearlsinthepseudophakiceye.AmJOphthalmol101:58-69,19864)MiyakeK,OtaI,MiyakeSetal:Lique.edaftercataract:acomplicationofcontinuouscurvilinearcapsulorhexisandintraocularlensimplantationinthelenscapsule.AmJOphthalmol125:429-435,19985)綾木雅彦,邱信男:眼内レンズ挿入家兎眼にみられる後発白内障の病理組織学的研究.日眼会誌94:514-515,19906)LiuE,ColeS,WernerLetal:Pathologicevidenceofpseudoexfoliationincasesofin-the-bagintraocularlenssubluxationordislocateion.JCataractRefractSurg41:929-935,20157)GimbelHV,VenkataramanA:Secondaryin-the-bagintraocularlensimplantationfollowingremovalofSoem-meringringcontents.JCataractRefractSurg34:1246-1249,20088)矢船伊那子,植木麻里,南政宏ほか:Soemmering’sringにより眼内レンズ偏位をきたした1例.臨眼61:1111-1115,20079)AkalA,GoncuT,YuvaciIetal:PupilocclusionduetoalargedislocatedSoemmeringringinanaphakiceye.IntOphthalmol34:121-124,201310)KobayashiH,HiroseM,KobayashiK:Ultrasoundbiomi-croscopicanalysisofpseudophakicpupillaryblockglauco-mainducedbySoemmering’sring.BrJOphthalmol84:1142-1146,200011)松山加耶子,南野桂三,安藤彰ほか:Soemmering輪による続発閉塞隅角緑内障の1例.あたらしい眼科27:1603-1606,201012)KungY,ParkSC,LiebmannJMetal:Progressivesyn-echialangleclosurefromanenlargingSoemmeringring.ArchOphthalmol129:1631-1632,201113)石澤聡子,黒岩真友美,澤田明ほか:眼圧上昇をきたしたSoemmering輪を伴う液性後発白内障の1例.眼臨紀8:657-660,2015***