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点状表層角膜症を有する緑内障患者における実用視力

2018年1月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科35(1):144.148,2018c点状表層角膜症を有する緑内障患者における実用視力湖崎淳前田直之湖崎亮湖崎眼科CFunctionalVisualAcuityofGlaucomaPatientswithSuper.cialPunctateKeratopathyJunKozaki,NaoyukiMaedaandRyoKozakiCKozakiEyeClinic目的:緑内障点眼は長期にわたり使用し,点状表層角膜症(SPK)が起こる可能性が高い.そこで,SPKが視機能にどのように影響するかを,緑内障点眼を使用しCSPKのみられたC22名C40眼で調査した.方法:視機能を評価するため,実用視力を測定し,スタート時視力より何段階低下したかで評価した.SPKの及ぶ範囲で,中央群と非中央群のC2群に分けた.結果:中央群はC19眼で非中央群はC21眼であった.中央群のうちスタート時視力に対して,実用視力がC3段階低下したものがC78.9%,4段階低下したものがC78.9%,5段階低下したものがC57.9%であった.平均低下はC4.6段階であった.非中央群ではそれぞれC47.6%,33.3%,4.8%であり,平均低下はC2.7段階であった.結論:SPKが強い場合や角膜中央部に及ぶ場合は,実用視力が低下する可能性がある.視力や視野がそれほど悪くなくても,視機能低下を訴える患者の場合は,角膜上皮障害にも注意を払い,点眼を選択する必要があると思われた.TheCe.ectCofCsuper.cialCpunctateCkeratopathy(SPK)onCfunctionalCvisualCacuity(FVA)wasCevaluatedCinC40Ceyesof22glaucomapatientswhohadSPKduetoglaucomaeyedrops.In19eyes,SPKwasfoundatthecentralzoneofthecornea(Centergroup)andoutsidethecentralzonein21eyes(Non-centergroup).TheincidencesoflossofaverageFVAat3,4and5linesormorefromthebaselinewere78.9,78.9and57.9%intheCentergroup(Meanloss:4.6lines),and47.6,33.3and4.8%intheNon-centergroup(Meanloss:2.7lines),respectively.TheresultsCsuggestCthatCFVACeasilyCdeterioratesCwhenCSPKCisCinCtheCcentralCzoneCofCtheCcornea.CAttentionCshouldCbeCpaidCtoCtoxicCkeratopathyCwhenCpatientsCclaimCdeteriorationCofCvisionCwithoutCtheClossCofCvisualCacuityCorCvisualC.eld.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(1):144.148,C2018〕Keywords:緑内障点眼,点状表層角膜症,視機能,実用視力.glaucomaeyedrops,super.cialpunctatekeratop-athy(SPK),visualfunction,functionalvisualacuity.はじめに緑内障点眼は長期にわたり使用するため,薬剤による細胞毒性や組織毒性により点状表層角膜症(super.cialpunctatekeratopathy:SPK)が生じる可能性が高い1.6).以前,筆者が調査したところ,緑内障点眼を使用している患者C882眼のうちC47.5%にCSPKがみられた4).そのほとんどがCAD分類7)でA+D<3の軽症例であったが,A+D>4の重症例は12.8%にみられた4).SPKの影響として,異物感,易感染性,そして視機能障害が考えられる.SPKが広範囲や高密度に発生している例では高次収差の悪化がみられるが(図1),視力への影響は不明である.SPKによる視機能障害のなかには通常の視力検査では検出できない実用視力の低下がある.人が集中してものを見るとき,瞬きが抑制される.このような状態での視機能を評価しようとしたのが実用視力である8).通常の視力検査で得られた視力をスタート時視力とし,1.5秒ごとに視標が提示される.正答誤答によって視標の大きさが変わりC1分間の平均視力と視力維持率が測定される.これは,注視していると徐々に視力が低下することを評価している.実用視力の経時的な低下は,新聞などを見ていると霞んでくる,などの自覚症状に該当し,実臨床の現場でしばしば遭遇する.SPKが広範囲,高密度のドライアイ眼では高次収差の悪化,実用視力の低下がみらることが報告さC〔別刷請求先〕湖崎淳:〒545-0021大阪府大阪市阿倍野区阪南町C1-51-10湖崎眼科Reprintrequests:JunKozaki,M.D.,Ph.D.,KozakiEyeClinic,1-51-10Hannan-cho,Osaka545-0021,JAPAN144(144)れている9.11)が緑内障眼での報告はない.そこで,今回は緑内障点眼を使用しCSPKが発生している患者の実用視力について調査した.CI対象および方法平成C28年C10月からのC1カ月間で,当院で緑内障点眼を投与しCSPKのみられたC22例C40眼(平均年齢C69.8C±10.6歳,男性C4例,女性C18例,MD:C.5.34±4.64CdB)の実用視力を測定した.症例内訳は原発開放隅角緑内障C14人,正常眼圧緑内障C7人,高眼圧症C1人であった.視力はすべて矯正0.9以上で,視機能に影響を及ぼす可能性のある緑内障手術後,角膜混濁のある症例,眼圧がC20CmmHg以上の症例は省いた.実用視力はコーワ社製特殊視力検査装置CAS-28を用いて測定した8).この装置は視力の経時的変動を記録し,1分間の平均視力を表示する.視標の提示時間はC3秒とした.通常の視力検査で得られた矯正視力をスタート時視力として入力した.SPKの及んでいる範囲で,中央群と非中央群に分けて検討した.CII結果予備調査として,緑内障点眼を使用しているがCSPKがない緑内障症例C13眼(平均年齢C69.0C±8.4歳,平均CMD:C.10.78±6.70dB,スタート時視力:1.0.1.2,平均C1.2C±0.06)の実用視力を測定した.SPKがみられない群での視野障害(Humphrey視野計の)MD値とスタート時視力と平均視力の低下段階との決定係数はCrC2=0.011で,中心視野障害がなく,SPKのみられない緑内障患者においては,視野障害と実用視力の低下の間には有意な相関を認めなかった.角膜中央部にCSPKが及んでいない症例(非中央群)はC21眼(平均年齢C67.9C±10.6歳,MD:C.5.44±5.15CdB,スタート時視力:0.9.1.2,平均C1.1C±0.1),角膜中央部にCSPKが及んでいる症例(中央群)はC19眼(69.8C±9.7歳,MD:C.5.23CdB±3.90CdB,スタート時視力:0.9.1.2,平均C1.1C±0.1)であった.スタート時視力は両群に差はなかった.非中央群のうち,平均視力がスタート時視力よりC3段階以上低下している症例はC10眼C47.6%,4段階以上低下がC7眼C33.3%,5段階低下がC1眼C4.8%であった.非中央群の代表症例を図2と図3に示す.中央群ではC3段階以上低下している症例はC15眼C78.9%であった.4段階以上低下もC15眼C78.9%,5段階低下はC11眼C57.9%であった.中央群の代表症例を図4と図5に示す.いずれも,両群間に有意差がみられた(Fisher検定).また,平均視力低下量は非中央群ではC2.7段階,中央群ではC4.6段階で両群間に有意差がみられた(Mann-WhitnetUtest)(表1).両群のスタート時視力と平均視力の分散図を図6に示す.C6秒7秒8秒9秒10秒RMS:rootmeansquare:収差量を数量的に表示図1SPK発症例の高次収差68歳,女性.プロスタグランジン製剤点眼使用.10秒後の高次収差が悪化.CIII考按緑内障点眼を使用している患者にはCSPKがよくみられる4).原因は緑内障点眼なのか,ドライアイが影響しているのかは不明であるが,緑内障点眼が悪化要因にはなっていると思われる.緑内障点眼によりCSPKが発生または増悪すると,涙液層に異常をきたし,涙液層の安定性が低下すると考えられる.その視機能を評価するのに高次収差の連続測定が有用であるとCKohら9)は報告している.しかし,高次収差は視機能の質の評価はできても,視力の変動を直接測定することはできない.今回筆者らは,視機能の動的な変動を評価するために実用視力を用いた.実用視力は,ドライアイによる角膜障害のみならず,他の疾患の視機能の評価にも応用されている12).今回の測定で,毎回の視標の提示時間はC3秒とした.日常視においては視力検査時のように目標物を固視することは少なくC2.3秒ごとに視線が動いていると考えたからである.その結果,角膜中央にCSPKのある症例では,実用視力がより低下する傾向があった.Kohら10)も角膜中央にCSPKのある例は,中央にCSPKのない例より高次収差は大きいと報告している.また,Kaidoら11)はドライアイの症例で角膜染色が高度になるに従って実用視力は低下し,視力維持率も低下するとしている.今回の筆者らの緑内障の症例でも,角膜中央にCSPKのある症例ではC78.9%でC4段階の視力低下,57.9%でC5段階の視力低下がみられた.緑内障点眼で図2非中央群の代表症例65歳,女性,プロスタグランジン製剤点眼,炭酸脱水酵素阻害薬/Cb遮断薬配合剤を両眼に使用.SPKは中央部に及んでいない.図3非中央群の代表症例(図2)の平均視力右眼スタート視力C1.2,平均視力C1.16.左眼スタート視力C1.2,平均視力C1.12.スタート時視力と平均視力の差はない.図4中央群の代表症例62歳,男性.プロスタグランジン製剤点眼,アドレナリンCa2受容体作動薬点眼,炭酸脱水酵素阻害薬/Cb遮断薬配合剤を両眼に使用.SPKは中央部に及んでいる.図5中央群の代表症例(図4)の平均視力右眼スタート視力C1.0,平均視力C0.46.左眼スタート視力C1.0,平均視力C0.54.右眼はC5段階低下.左眼はC4段階低下.C表1スタート視力と平均視力(実用視力)との差3段階以上視力低下4段階以上視力低下5段階視力低下平均低下段階非中央群2C1眼中央群1C9眼10眼C47.6%15眼C78.9%p<C0.05Fisher検定7眼3C3.3%15眼C78.9%p<C0.01Fisher検定1眼C4.8%11眼C57.9%p<C0.01Fisher検定C2.7段階4.6段階p<C0.05Mann-WhitneyUtest平均視力非中央群と中央群では視力低下に有意差がみられる.1.210.8中央群0.6非中央群0.40.2000.20.40.60.811.2スタート時視力図6中央群と非中央群のスタート時視力と平均視力の分散図中央群(◆)のほうが,非中央群(〇)より平均視力の低下していることがわかる.SPKが発生しても,ドライアイと同じようにCSPKによる収差ないし散乱が増加したためと思われた.緑内障患者で視力や視野が良好でも,なんとなく風景が霞んで見えたり,物を見つめていると視力が下がったような気がする患者には,角膜上皮障害にも注意を向け,薬剤毒性角膜症による視機能への影響を考え,防腐剤フリーの点眼に変更するか,配合剤に変更し点眼本数を減らすなどを考慮する必要があると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)高橋信夫,佐々木一之:防腐剤とその眼に与える影響.眼科31:43-48,C19892)小室青,横井則彦,木下茂:ラタノプロストによる角膜上皮障害.日眼会誌104:737-739,C20003)湖崎淳,大谷伸一郎,鵜木一彦ほか:トラボプロスト点眼液の臨床使用成績―眼表面への影響―.あたらしい眼科C26:101-104,C20094)湖崎淳:抗緑内障点眼薬と角膜上皮障害.臨眼C64:729-732,C20105)山崎仁志,宮川靖博,目時友美ほか:トラボプロスト点眼液の点状表層角膜症に対する影響.あたらしい眼科C27:C1123-1126,C20106)薮下麻里江,三宅功二,荒川明ほか:角膜上皮に対するタフルプロスト点眼液の影響.臨眼67:1129-1132,C20137)宮田和典,澤充,西田輝夫ほか:びまん性表層角膜炎の重症度の分類.臨眼48:183-188,C19948)海道美奈子:新しい視力計:実用視力の原理と測定方法.あたらしい眼科24:401-408,C20079)KohCS,CMaedaCN,CHiroharaCYCetCal:SerialCmeasurementsCofChigher-orderCaberrationsCafterCblinkingCinCnormalCsub-jects.InvestOphthalmolVisSciC47:3318-3324,C200610)KohCS,CMaedaCN,CHiroharaCYCetCal:SerialCmeasurementsCofhigher-orderaberrationsafterblinkinginpatientswithdryeye.InvestOphthalmolVisSciC49:133-138,C200811)KaidoCM,CIshidaCR,CDogruCMCetCal:TheCrelationCofCfunc-tionalCvisualCacuityCmeasurementCmethodologyCtoCtearCfunctionsandocularsurfacestatus.JpnJOphthalmolC55:C451-459,C201112)石田玲子:実用視力の臨床応用:ドライアイから白内障まで.あたらしい眼科24:409-413,C2007***