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360°Suture Trabeculotomy変法とTrabeculotomyの術後眼圧下降効果の比較検討

2016年12月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(12):1779?1783,2016c360°SutureTrabeculotomy変法とTrabeculotomyの術後眼圧下降効果の比較検討木嶋理紀*1陳進輝*1新明康弘*1大口剛司*1新田朱里*2新田卓也*2石田晋*1*1北海道大学大学院医学研究科眼科学分野*2回明堂眼科・歯科ComparisonofPostoperativeIntraocularPressureReductionbetweenModified360-degreeSutureTrabeculotomyand120-degreeTrabeculotomyRikiKijima1),ShinkiChin1),YasuhiroShinmei1),TakeshiOhguchi1),AkariNitta2),TakuyaNitta2)andSusumuIshida1)1)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)KaimeidoOphthalmicandDentalClinic目的:同一症例での360°suturetrabeculotomy(S-LOT)変法,金属ロトームによる120°trabeculotomy(LOT)の術後経過の比較.対象および方法:2005年8月?2008年3月に,同一症例において片眼にS-LOT変法,他眼にLOTを施行し,2年以上経過観察できた7例14眼を対象に,診療録をもとに後ろ向きに検討を行った.結果:7例中4例でS-LOT眼の眼圧下降効果がLOT眼に比べて大きく,そのうち2例でLOT眼のみでは眼圧下降が不十分であったため,緑内障追加手術を必要とした.7例中3例は両眼の比較で術後眼圧に統計学的な有意差がなかった.S-LOT眼では経過観察中に緑内障追加手術を必要とした症例はなかった.全例の平均眼圧でみると,術後6,9,12,24,48カ月の時点でS-LOT眼のほうがLOT眼に比較して統計学的に有意に眼圧が低かった.結論:S-LOT変法はLOTに比べ,より強い眼圧下降効果が得られる可能性がある.Purpose:Toevaluatetheoutcomeofmodified360-degreesuturetrabeculotomy(S-LOT)ascomparedwith120-degreetrabeculotomy(LOT)inthesamepatients.SubjectsandMethods:Thisretrospectivecaseseriesstudycomprised14eyesof7patientstreatedbetweenAugust2005andMarch2013atHokkaidoUniversityHospital.WeperformedS-LOTononeeyeandLOTonthefelloweyeinthesamepatient.Wethenobservedthepatientsoveraperiodofatleasttwoyears.Results:PostoperativeIOPafterS-LOTwaslowerthanafterLOTin4ofthe7patients;2ofthe7requiredadditionalglaucomasurgeriesontheLOTeyes;3ofthe7showednosignificantdifferenceinpostoperativeIOPbetweenS-LOTandLOTeyes.MeanpostoperativeIOPafterS-LOTwassignificantlylowerthanafterLOTat6,9,12,24and48months.Conclusion:S-LOTmightbemoreeffectivethanLOTinreducingpostoperativeIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(12):1779?1783,2016〕Keywords:360°suturetrabeculotomy変法,trabeculotomy,眼圧,線維柱帯の切開範囲.amodified360-degreesuturetrabeculotomy,trabeculotomy,intraocularpressure(IOP),incisionrangeoftrabecularmeshwork.はじめに流出路再建術は濾過手術に比べると,術後も濾過胞をもたずに眼球を閉鎖状態に保ち,より生理的な房水循環を維持できるという点で優れているが,術後の眼圧下降が濾過手術に比べて小さいという問題点がある1).近年さまざまな流出路再建術が試みられているが,その手術効果を濾過手術と比較した場合,流出路再建術では症例間の眼圧下降効果にバラツキが大きく2),個体差を排除して眼圧下降効果を検討するためには,同一個体の左右眼でその効果を比較することが望ましい.流出路再建術の一つである360°suturetrabeculotomy(SLOT)変法は,金属ロトームの代わりに先端を丸く加工した5-0ナイロン糸を用い,Schlemm管内壁および線維柱帯を360°切開する.これはBeckら3)が報告した360degreestrabeculotomyをChinら4)が改良し,粘弾性物質をSchlemm管内に注入することで通糸率を向上させ,糸を一度前房内に通過させることで容易に線維柱帯を切開できるようにしたものである.S-LOTは金属ロトームによる120°切開のtrabeculotomy(LOT)に比べ,流出抵抗のある線維柱帯をより広範に切開できるという特徴がある.開放隅角緑内障を対象とした筆者らの研究では,術後1年の時点でのS-LOT変法の平均眼圧はLOTと比較して有意に低く,必要とする抗緑内障点眼数も少ないことを報告した4).しかしながら,あくまでもこれは別々の症例による平均眼圧での比較であって,同一個体の左右眼で,長期にわたってその効果を比較した報告ではない.今回筆者らは同一症例において片眼にS-LOT変法を,他眼にLOTを施行し,2年以上経過観察できた症例の術後経過を報告する.I対象および方法2005年8月?2013年3月に北海道大学病院眼科において,片眼にS-LOT変法(S-LOT眼,S-LOT群)を,もう片眼にLOT(LOT眼,LOT群)を施行した7例14眼を対象とし,診療録をもとに後ろ向きに検討した.いずれの眼も緑内障手術(レーザーを含む)の既往はなく,白内障手術を含めた内眼手術の既往もなかった.2つの手術は同時期,もしくはLOTを先に行った.同時期(同一入院期間)に両者を行う場合は,眼圧がより高い眼に対して先にS-LOT変法を施行し,その後他眼にLOTを行った.眼圧下降が得られず追加緑内障手術を要した症例は,追加手術を施行した時点で観察終了とした.手術に際して,対象患者には十分説明を行ったうえで同意を得,またこの研究については,北海道大学病院自主臨床研究審査委員会の承認を得た(自016-0060).術後平均観察期間はS-LOT群50.6±16.2カ月,LOT群43.7±27.8カ月であった.男性4例,女性3例で,手術時平均年齢はS-LOT群が45.4±20.4歳,LOT群が43.7±18.4歳であった.術前平均眼圧はS-LOT群が37.1±14.4mmHg,LOT群が30.6±10.6mmHgであった.術前平均抗緑内障点眼数はS-LOT群が3.0±0.6,LOT群が3.1±0.4であった.炭酸脱水酵素阻害薬の内服を要した症例はS-LOT群が3例,LOT群が4例であった.術前のHumphrey静的視野検査(HFA)によるMD値の平均はS-LOT群が?8.9±8.0dBで,LOT群が?10.5±12.5dBであった.これらの項目に関してS-LOT群とLOT群の間には,すべて有意差はみられなかった(Wilcoxonsigned-ranktest,c2独立性の検定,p>0.05).全例有水晶体眼で,白内障同時手術をしたものは含まれていない(表1).病型は原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)2例,発達緑内障2例,ぶどう膜炎による続発緑内障(uveiticglaucoma:UG)2例,ステロイド緑内障1例であった.それぞれの症例において術後1,3,6,9,12,18,24,30,36,42,48,54,60カ月の眼圧と抗緑内障点眼数について左右眼を比較して検討を行った.また,S-LOT群,LOT群で全例の平均眼圧と術後経過時間について検討を行った.II結果各症例の術後眼圧経過を図1に示した.各症例の病型は症例1と3が発達緑内障,2と6がPOAG,4と5がUG,7がステロイド緑内障である.LOTを施行した7眼中2眼は眼圧下降が不十分であったため,1眼(症例1)は別な部位にLOTを,もう1眼(症例2)には線維柱帯切除術の追加を行い,観察期間より脱落とした.7例中2例(症例3と4)は,経過観察期間中一貫してS-LOT眼はLOT眼に比べ眼圧が低かった(Mann-Whitney’sUtest,p<0.0001).眼圧が高く追加手術を要した症例も含めると,7例中4例(症例1?4)でS-LOT変法のほうがLOTと比較して眼圧下降効果が大きく,うち2例(症例1と3)は発達緑内障の症例だった.残りの3眼では,経過観察期間の最終眼圧において左右差がみられず,うち2例は観察期間全体の術後眼圧に有意な差がなかった(p>0.05).症例4と5のUG例のLOT眼では経過観察期間中に白内障が進行したため,白内障手術を施行した.全例の平均眼圧でみると,術後12カ月でS-LOT群11.9±4.1mmHg,LOT群15.4±3.8mmHg,術後24カ月でS-LOT群12.0±4.0mmHg,LOT群14.6±1.5mmHg,術後48カ月でS-LOT群11.8±3.8mmHg,LOT群15.2±2.9mmHgであった.術後6,9,12,24,48カ月の時点でLOT群と比べ,S-LOT群では有意に眼圧が低かった(図2).最終観察時の平均抗緑内障点眼数はS-LOT群が0.43±0.79,LOT群が1.0±1.2であり,この2群の間に有意差はなく(p=0.36,Wilcoxonsigned-ranktest),また各群で術前に比べ最終観察時の点眼数は有意に減少していた(LOT:p=0.03,S-LOT:p=0.03,Wilcoxonsigned-ranktest).III考按LOTは症例によってある程度効果にばらつきがあり2),それは臨床的にも筆者らの経験するところである.その要因として,個体差や眼圧上昇を引き起こす病因などが大きな影響を与えていると考えられるが,切開範囲の違いによる影響は明らかではない.開放隅角緑内障を対象とした術後1年の時点での筆者らの研究4)では,LOTよりS-LOTのほうが眼圧下降効果が大きかったが,あくまでもこれは別々の症例による平均眼圧や成功率の群間比較であり,同一症例において比較した報告ではない.個体差や病型の違いを排除し,切開範囲の違いによる眼圧下降効果の影響を調べる今回の同一症例による研究では,7例中4例の症例でS-LOT変法のほうがLOTと比較して眼圧下降効果が優れており,かつその効果が長期にわたって安定的に持続されていたことが確認できた.その眼圧下降効果の違いは,切開範囲の違いによるものと考えられた.切開範囲についての研究は,1989年Rosenquistらが9例18眼の献体眼で検討を行っており,切開範囲が30°,120°,360°と増えるにつれて流出抵抗が減少していくが,直線的な変化をしないこと,また眼灌流圧が高いとき(25mmHg)と低いとき(7mmHg)で違いがあり,高いときは120°が360°になると有意に抵抗が減少するが,低いときには120°から360°に増やしても流出抵抗に有意な減少はみられなかったと報告している5).今回の症例では,術前平均眼圧はS-LOT群が37.1±14.4mmHg,LOT群が30.6±10.6mmHgと高眼圧であり,眼灌流圧が高めであったことによりS-LOT眼とLOT眼で違いが出やすかったと推測される.しかしながら,今回の症例においても症例5?7のように,S-LOT眼のほうが低い眼圧である傾向はあるものの,あまり差が出にくい症例も存在する.これについては以下の流出路のバリエーションが関係していると推測される.つまり,Schlemm管以降の流出路はバリエーションに富んでおり,Schlemm管からの房水の排出は全周均一なわけではなく,多い部分と少ない部分があるとされ6),さらに,先天的な異常がない健常人でもSchlemm管腔の広さは一定でなく,一周連続していない症例やSchlemm管が重複して存在する例や,Schlemm管からつながる集合管も部位によって密度が異なると,Hannらは報告している7).120°という部分的な線維柱帯切開を行った場合,房水流出に大きく寄与している集合管を含む部位を切開することができれば大きく眼圧を下降させることはもちろん可能であるが,房水流出にあまり寄与していない部分を切開した場合には眼圧下降効果が小さい可能性があり,切開範囲が広いほうが房水流出に大きく寄与している集合管を含む部分を切開できる確率が高くなると考えられる.つまり,理論上S-LOTはLOTよりも3倍高い確率で房水流出に大きく寄与している集合管を含む部分を切開できるともいえるが,全体の3分の1程度の症例では,両者が同等の眼圧下降効果を示す可能性もある.ただし今回の研究では症例数が十分でないため,線維柱帯の切開範囲と眼圧下降効果について,また術前の眼圧(または眼灌流圧)との関係については今後の検討課題である.IV結論同一症例の左右眼でS-LOT変法とLOTを比較した本研究では,半数以上の症例で明らかにS-LOT変法のほうが眼圧下降効果が高く,その他の症例でも差は小さいものの同様な傾向がみられた.S-LOT変法はLOTに比べ,より強い眼圧下降効果が得られる可能性があると考えられた.文献1)木村智美,石川太,山崎仁志ほか:各種緑内障手術の成績.あたらしい眼科26:1279-1285,20092)ChiharaE,NishidaA,KodoMetal:Trabeculotomyabexterno:analternativetreatmentinadultpatientswithprimaryopen-angleglaucoma.OphthalmicSurg24:735-739,19933)BeckAD,LynchMG:360degreestrabeculotomyforprimarycongenitalglaucoma.ArchOphthalmol113:1200-1202,19954)ChinS,NittaT,ShinmeiYetal:Reductionofintraocularpressureusingamodified360-degreesuturetrabeculotomytechniqueinprimaryandsecondaryopen-angleglaucoma:apilotstudy.JGlaucoma21:401-407,20125)RosenquistR,EpsteinD,MelamedSetal:Outflowresistanceofenucleatedhumaneyesattwodifferentperfusionpressuresanddifferentextentsoftrabeculotomy.CurrEyeRes8:1233-1240,19896)SwaminathanSS,OhDJ,KangMHetal:Aqueousoutflow:segmentalanddistalflow.JCataractRefractSurg40:1263-1272,20147)HannCR,FautschMP:Preferentialfluidflowinthehumantrabecularmeshworknearcollectorchannels.InvestOphthalmolVisSci50:1692-1697,2009〔別刷請求先〕木嶋理紀:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野Reprintrequests:RikiKijima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,N-15,W-7,Kita-ku,Sapporo060-8638,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(101)1779表1患者背景S-LOT群LOT群p値手術時平均年齢45.4±20.4歳43.7±18.4歳0.42術前平均眼圧37.1±14.4mmHg30.6±10.6mmHg0.24術前平均点眼数3.0±0.63.1±0.40.59炭酸脱水酵素阻害薬の内服3例4例0.59術前視野の平均MD値?8.9±8.0dB?10.5±12.5dB0.92年齢は手術時のものなので,手術の時期の違いで差が出ている.全例有水晶体眼で,S-LOT変法,LOTともに単独手術.上記の項目についてWilcoxonsigned-ranktest,c2独立性の検定を行い,各群で有意差はみられなかった.1780あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(102)図1各症例の術後眼圧経過症例1と3が発達緑内障,2と6がPOAG,4と5がUG,7がステロイド緑内障.症例1と2のLOT眼は眼圧下降不十分であったため追加の緑内障手術を施行した.症例4と5のLOT眼は経過観察期間中,白内障手術を施行した.(左右の眼の術後の眼圧をMann-Whitney’sUtestにて検討した).(103)あたらしい眼科Vol.33,No.12,20161781図2平均眼圧の推移各群の各時点の平均眼圧.術後12カ月でS-LOT群11.9±4.1mmHg,LOT群15.4±3.8mmHg,術後24カ月でS-LOT群12.0±4.0mmHg,LOT群14.6±1.5mmHg,術後48カ月でS-LOT群11.8±3.8mmHg,LOT群15.2±2.9mmHgで,術後6,9,12,24,48カ月で群間に有意差がみられた.(Mann-Whitney’sUtest*<0.05**<0.01)1782あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(104)(105)あたらしい眼科Vol.33,No.12,20161783