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癌関連網膜症の2例

2018年6月30日 土曜日

《第51回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科35(6):820.824,2018c癌関連網膜症の2例浅見奈々子石原麻美蓮見由紀子澁谷悦子河野慈木村育子山根敬浩石戸みづほ矢吹和朗水木信久横浜市立大学医学部眼科学教室CTwoCasesofCancer-associatedRetinopathyNanakoAsami,MamiIshihara,YukikoHasumi,EtsukoShibuya,ShigeruKawano,IkukoKimura,TakahiroYamane,MizuhoIshido,KazuroYabukiandNobuhisaMizukiCDepartmentofOpthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUnivercityGraduateSchoolofMedicine目的:癌関連網膜症(cancer-associatedCretinopathy:CAR)のC2症例の報告.症例:症例1:80歳,男性.肺小細胞癌の化学療法中.視力は右眼(0.5),左眼(0.6)で,視野は高度に狭窄し,光干渉断層計(OCT)で網膜外層菲薄化,網膜電図(ERG)で波形の平坦化を認めた.血清抗リカバリン抗体陽性でCCARと診断し,ステロイドとアザチオプリンの内服を行ったが,視力・視野の悪化がみられた.症例C2:77歳,女性.子宮体癌の既往.視力は両眼(0.3)で,視野で輪状暗点を示した.OCT,ERG所見は症例C1と同様であった.血清抗リカバリン抗体陽性でCCARと診断した.ステロイドパルスを施行したが,視力・視野は悪化した.結論:2症例ともに治療に反応せず,視機能の悪化がみられた.CPurpose:ToCreportCtwoCcasesCofCcancer-associatedCretinopathy(CAR).CCase:CaseC1:AnC80-year-oldCmaleCwithsmall-celllungcancerunderchemotherapy,havingvisualacuity0.5ODand0.6OS.Visual.eldwasseverelyimpaired;opticalCcoherenceCtomography(OCT)showedCthinningCofCouterCretinalClayersCandCelectroretinography(ERG)showed.atwaveforms.HewasdiagnosedwithCARbasedonpositiveserumanti-recoverinantibodyandreceivedCoralCprednisoloneCandCazathioprine,CbutCbothCvisualCacuityCandCvisualC.eldCdeteriorated.CCaseC2:AC77-year-oldfemalewithahistoryofuterinebodycancer,havingvisualacuity0.3OU.Visual.eldlookedlikeringscotoma.OCTandERGshowed.ndingssimilartothoseinCase1.ShewasalsosimilarlydiagnosedasCARandtreatedbypulsesteroidtherapy,butneithervisualacuitynorvisual.eldimproved.Conclusion:Thesetwocasesdidnotrespondtothetreatment,whichfailedtoimprovevisualfunctions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(6):820.824,C2018〕Keywords:癌関連網膜症,抗リカバリン抗体,肺小細胞癌,子宮体癌,cancer-associatedretinopathy,anti-re-coverinantibody,small-celllungcancer,uterinebodycancer.Cはじめに癌関連網膜症(cancer-associatedCretinopathy:CAR)は,悪性腫瘍患者において網膜視細胞に特異的な蛋白質と交叉反応を起こす抗原が腫瘍細胞に発現し,それに対する自己抗体が産生されることで網膜視細胞が傷害され,進行性の視力低下や視野狭窄をきたすまれな疾患である1).CAR患者血清中の自己抗体に対する抗原は何種類かあるが,もっとも有名なものはリカバリンであり,あらゆる癌で癌細胞に異所性に発現しており,血清リカバリン抗体が陽性であればCCARの確定診断となる2).CARの原因となる癌としては肺癌,とくに肺小細胞癌が多く,ついで消化器癌,婦人科癌が多い.また,癌の原発巣の発見以前に眼症状が自覚されることが多いといわれている1).今回筆者らは,肺小細胞癌および子宮体癌の患者に発症したCCARのC2症例を報告する.CI症例〔症例1〕80歳,男性.〔別刷請求先〕浅見奈々子:〒236-0004神奈川県横浜市金沢区福浦C3-9横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:NanakoAsami,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,YokohamaCityUniversityGraduateSchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama-shi,Kanagawa236-0004,JAPAN820(112)主訴:両眼の視野狭窄,霧視.既往歴:25歳時に副鼻腔炎,29歳時に尿路結石,79歳時に前立腺肥大症.喫煙歴:60本/日C×45年間.現病歴:2005年に両眼の加齢黄斑変性と診断されC2010年ラニビズマブ硝子体注射にて加療され,視力は右眼(1.2),左眼(0.7)で経過していた.肺小細胞癌の化学療法中のC2016年C2月,両眼の急激な視力低下と視野狭窄を自覚し,同月に横浜市立大学附属病院眼科(以下,当科)に紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼(0.5),左眼(0.6).眼圧は右眼10CmmHg,左眼C10CmmHg.両眼とも前眼部に炎症所見はなかったが,びまん性硝子体混濁を認め,眼底には網膜動脈狭細化および網膜色調不良がみられた.フルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinCangiography:FA)では網膜色素上皮の萎縮をCwindowCdefectとして認めたが,網膜血管炎や網脈絡膜炎はみられなかった.光干渉断層計(opticalcoher-encetomography:OCT)では右眼に網膜外層の萎縮とCelip-soidzoneの消失がみられ(図1a),網膜電図(electroretno-gram:ERG)では両眼ともCa波,b波ともに著明に振幅が減弱し,平坦化していた(図1b).Goldmann視野検査では両眼とも中心視野は内でC5°以外,周辺視野が高度に障害され,abわずかな島状視野の残存を認めた(図2).血清抗リカバリン抗体は陽性であった.経過:臨床所見,眼科検査所見,肺癌加療中であること,および血清抗リカバリン抗体陽性からCCARと診断した.肺小細胞癌に対する化学療法を継続しながら,2016年C7月よりプレドニゾロン(PSL)40Cmg/日にアザチオプリンC25Cmg/日を併用したが,治療開始C1カ月後には視力は右眼(0.4),左眼(0.4)と低下し,残存していた周辺視野は消失した.左霧視の自覚症状が強かったため,同年C8月に左眼にケナコルトCTenon.下注射を行ったが,自覚症状や眼所見に改善を認めなかった.2017年C1月最終診察時,視力は右眼(0.3),左眼(0.2)であり,視野障害はさらに進行し,中心C5°のみとなった.同月に前医転院となり,永眠された.〔症例2〕77歳,女性.主訴:両眼の視力低下,視野障害.既往歴:特記すべきことなし.現病歴:2008年C2月,子宮体癌(IIb期)と診断された.同年C9月より両眼の視力低下および視野狭窄を自覚し,同月に当科に紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼(0.3),左眼(0.3).眼圧は右眼14CmmHg,左眼C14CmmHg.両眼に前房内炎症細胞および硝子体混濁を認め,眼底には網膜動脈の狭細化と白鞘化がみら図1症例1のOCT(a)とERG(b)a:OCT(右眼)で中心窩を除く網膜外層の菲薄化,elipsoidCzoneの消失を認めた.Cb:フラッシュCERG(左),フリッカーCERG(右)は両眼ともCa波,b波ともに著明に減弱し,平坦化していた.C(左)(右)図2症例1のGoldmann視野両眼とも中心と周辺にわずかな視野が残るのみであった.図3症例2の蛍光眼底造影写真両眼とも視神経乳頭の過蛍光,網膜動脈閉塞(→),網膜静脈からの蛍光漏出を認めた.(左)(右)図4症例2のGoldmann視野両眼とも上方視野が高度に障害された輪状暗点を示した.れた.FAでは両眼の視神経乳頭の過蛍光,網膜動脈閉塞,網膜静脈からの蛍光漏出を認めた(図3).OCTでは中心窩を除く網膜外層の菲薄化がみられ,ERGではCa波,b波ともに著明に低下し,平坦化していた.Goldmann視野検査では両眼の輪状暗点が認められた(図4).血清抗リカバリン抗体は陽性であった.経過:症例C1と同様,CARと診断した.2008年C9月に子宮体癌に対し子宮全摘術が施行された.同年C10月よりニルバジピン内服を開始し,ステロイドパルス療法をC1クール施行後,PSL50Cmg/日より漸減内服した.同年C11月より子宮体癌に対して化学療法が施行された.両眼の硝子体混濁は改善を認めたが,視力・視野ともに悪化し,最終視力は右眼HM/30Ccm,左眼CCF/30Ccmとなった.2009年C7月に永眠された.CII考按今回,肺小細胞癌の治療中,または子宮体癌の発見後にCARを発症し,治療に反応せず視機能が悪化したC2症例を経験した.本症は急激な霧視,羞明を伴った視力低下,視野狭窄を自覚して発症し,眼所見では網膜血管狭細化,網膜色素変性様所見,ぶどう膜炎所見などがみられる.視野は輪状暗点やさまざまな程度の視野狭窄を呈し,ERGで波形の平坦化,OCTで中心窩を除いた網膜外層の菲薄化がみられる2,3).両症例ともこれらの典型的な臨床所見,眼所見,検査所見を呈しており,CAR発症前に癌の診断がついていたので診断は容易であった.しかし,CARの臨床症状は癌の診断に先行することが多く4),眼症状をきっかけに癌が発見された報告は複数ある5.7).提示したC2症例において,CARの確定診断は患者血清中の抗リカバリン抗体が陽性になったことでつけられたが,抗リカバリン抗体自体の初回陽性率は60%程度と高いとはいえない8).今回はC2症例とも一度の測定で陽性になったが,初回の測定で陰性であった場合でも,少なくともC1カ月以上の間隔をおいてC3回採血することにより,ほとんどの症例で網膜自己抗体を確認できたという報告がある8).しかし,実際に複数回測定した報告は少なく,血清抗リカバリン抗体は陰性であっても,臨床所見や経過からCARと診断している報告も少なくない7,9).治療には原疾患の抗腫瘍療法を原則とし,それに加えて副腎皮質ステロイド薬(内服・パルス療法),免疫抑制薬,免疫グロブリン療法,血漿交換療法などが報告されているが,治療法はいまだ確立されていない10,11).抗リカバリン抗体陽性のCCARは概して治療抵抗性で,視機能予後は不良であり3),最終的に光覚なしとなる報告もある13,14).しかし一方では,視力や視野が改善した報告も散見される7,12,15).CARの治療反応性に対する確立した見解はないが,海外ではCARを含む自己免疫性網膜症(autoimmuneCretinopathy:AIR)に対してアザチオプリン,シクロスポリン,副腎皮質ステロイド薬の長期併用をすることにより,AIRのC70%に改善を認めたという報告がある11).とくにCCARでの反応が良好であり,発症早期に治療開始したほうが,進行してから開始するより治療に対する反応性がよいと報告されている.一方,癌治療が成功し抗網膜抗体が陰性になったことで,ダメージを受けた網膜構造が,正常に回復したという報告がある16).抗網膜抗体により光受容器がアポトーシスを起こす前に,抗網膜抗体が産生されなくなれば,CAR患者の視機能予後改善につながると考察がされている.このことから,CARを発症早期に治療することも重要であるが,抗網膜抗体を産生する癌を根治することがCCARの視機能予後改善には重要であると考えられる.本症例ではC2症例とも視機能予後が不良であった.症例C1はCCARの発症からC5カ月間は肺癌の化学療法中のため体調不良であり,CARに対する治療が開始できなかったこと,また原疾患の癌の治療にもかかわらず全身転移を起こしており,癌を制御できなかったことが視機能予後不良に関係したと考えられる.一方,症例C2ではCAR発症早期に治療を開始し,原疾患の手術や化学療法をしたにもかかわらず,やはり癌の制御ができなかったことが視機能予後不良につながったと考えられた.生命予後に関しては,CARを発症した癌患者と,CARを発症していない癌患者では,前者の生命予後がよいことが知られている.その理由として,癌患者に発現したリカバリンは,細胞増殖,薬物感受性などに関係するカベオリンと共役しているため,癌細胞増殖や抗癌剤に対する薬物抵抗性を抑制している可能性が考えられている1).しかし,本症例では2症例とも発症C1年以内に永眠されており,生命予後は不良であったが,その理由は明らかではない.機序は不明であるが,カベオリンの発現量低下による癌細胞増殖や治療抵抗性が生命予後不良につながったのかもしれない.CARはまれな疾患であるため,その特徴を知らないと早期診断がむずかしく,治療開始が遅れる可能性がある.急激に進行する視力低下と視野狭窄,網膜血管狭細化やCERGで消失型の所見を認めた場合は,癌の診断がついていなくてもCARを疑い,全身検索をする必要があると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)大黒浩,吉田香織:悪性腫瘍関連網膜症.眼科C53:93-101,C20112)OhguroCH,CNakazawaCM:PathologicalCrolesCofCrecoverinCincancer-assiciatedretinopathy.AdvExpMedBiolC514:C109-24,C2002C3)上野真治:腫瘍関連網膜症.臨眼68:50-56,C20144)大黒浩,高谷匡雄,小川佳一ほか:悪性腫瘍随伴網膜症.日眼会誌101:283-287,C19975)齋藤良太,柳谷典子,堀池篤ほか:腫瘍関連網膜症を契機に発見された小細胞肺癌のC1例.日呼吸誌C2:123-127,C20136)井坂真由香,窪田哲也,酒井瑞ほか:癌関連網膜症を随伴した肺大細胞神経内分泌癌のC1例.日呼吸誌C2:39-43,C20137)高橋政代,平見恭彦,佐久間圭一朗ほか:早急な治療により視力改善が得られた癌関連網膜症(CAR)のC1例.日眼会誌112:806-811,C20088)横井由美子,大黒浩,大黒幾代ほか:癌関連網膜症の血清診断.あたらしい眼科21:987-990,C20049)二宮若菜,林孝彰,高田有希子ほか:原発性肺癌に合併した癌関連網膜症が疑われたC1例.眼臨紀9:664-668,C201610)大黒浩:癌関連網膜症.日本の眼科79:1559-1563,C200811)FerreyraCHA,CJayasunderaCT,CKhanCNWCetCal:Manage-mentCofCautoimmuneCretinopathiesCwithCimmunosuppres-sion.ArchOphthalmolC127:390-397,C200912)佐々木靖博,石川誠,奥山学ほか:悪性腫瘍関連網膜症を発症しステロイド療法が奏効した多発転移を伴う乳癌のC1例.乳癌の臨床28:219-224,C201213)森田大,松倉修司,中川喜博ほか:肺大細胞癌に伴うCAR症候群のC1例.臨眼60:1467-1470,C200614)尾辻太,棈松徳子,中尾久美子ほか:急速に失明に至り,特異的な対光反射を示した悪性腫瘍随伴網膜症.日眼会誌C115:924-929,C201115)今泉雅資,中塚和夫,松本惣一セルソほか:Cancer-Asso-ciatedRetinopathyのC1例.眼紀49:381-385,C199816)SuimonCY,CSaitoCW,CHirookaCKCetCal:ImprovementsCofCvisualCfunctionCandCouterCretinalCmorphologyCfollowingCspontaneousCregressionCofCcancerCinCanti-recoverinCcan-cer-associatedCretinopathy.CAmCJCOphthalmolCCaseCRepC5:137-140,C2017***