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BCG 膀胱内注入療法後に片眼ぶどう膜炎を発症した1 例

2023年7月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科40(7):978.981,2023cBCG膀胱内注入療法後に片眼ぶどう膜炎を発症した1例多田愛*1川野健一*2大池東*1中村将一朗*1平田朝彦*3西口康二*3*1碧南市民病院眼科*2名古屋大学医学部附属病院眼科*3碧南市民病院泌尿器科CACaseofUnilateralUveitisafterBCGIntravesicalInjectionTherapyAiTada1),KenichiKawano2),AzumaOike1),ShouichiroNakamura1),AsahikoHirata3)andKojiNishiguchi3)1)DepartmentofOphthalmology,HekinanCityHospital,2)DepartmentofOphthalmology,NagoyaUnivercityHospital,3)DepartmentofUrology,HekinanCityHospitalC緒言:昨今,医学の日進月歩の発展に伴い,新規の治療薬の登場や既存の治療薬の新規適応の追加が増加している.同時にさまざまな眼副作用も報告されている.今回筆者らは膀胱癌に対して,BCG膀胱内注入療法中に片眼の急性前眼部ぶどう膜炎を発症した患者を経験したので報告する.症例:70歳,女性.既往歴:膀胱癌(66歳.,BCG膀胱内注入療法中),大腸癌.現病歴:5日前に左眼結膜充血出現,前日より左眼の圧迫感,疼痛,眼球運動痛が出現したため碧南市民病院眼科を受診した.前眼部に炎症細胞と虹彩後癒着が認められ,特発性急性前部ぶどう膜炎と診断し,点眼治療を開始した.その翌日C4回目のCBCG膀胱内注入療法を施行した.翌朝,背部痛が出現し,5日後に手足関節痛も出現,CRP,WBCの炎症反応の上昇を認め,反応性関節炎(Reiter症候群)と診断された.NSAIDs,プレドニン内服治療を開始した.4カ月後に内服を終了し,9カ月後に点眼治療を終了した.結論:ぶどう膜炎を発症した時点で薬剤性ぶどう膜炎を疑い,BCG膀胱内注入療法によるCReiter症候群の可能性を考えることができれば,症状の悪化を未然に防ぐことができたかもしれない.ぶどう膜炎患者が膀胱癌の治療中であれば,治療内容の聴取および他科との連携が必要である.CBackground:Recently,withtheever-evolvingdevelopmentofmedicalscience,therehasbeenanincreaseintheCintroductionCofCnewCtherapeuticCagentsCandCtheCadditionCofCnewCindicationsCforCexistingCtherapeuticCagents.CSimultaneously,CaCvarietyCofCocularCsideCe.ectsChaveCbeenCreported.CInCthisCarticle,CweCreportCaCcaseCofCunilateralCacuteCanteriorCuveitisCduringCBCGCintravesicalCinjectionCtherapyCforCbladderCcancer.CCasereport:ThisCstudyCinvolveda70-year-oldfemalewithamedicalhistoryofbladdercancer(sinceage66,andduringtheBCGintra-vesicalCinfusiontherapy)andCcolorectalCcancer.CFiveCdaysCpriorCtoCpresentation,CconjunctivalChyperemiaCappearedCinCherCleftCeye,CfollowedCbyCaCpressureCfeelingCandCocularCandCeyeCmovementCpainCinCthatCeyeC1CdayClater.CUponCexamination,in.ammatorycellsandposteriorsynechiawereobservedintheanteriorsegmentofthateye.Adiag-nosisofidiopathicacuteanterioruveitiswasmade,andophthalmictreatmentwasinitiated.Thefollowingday,thefourthintravesicalBCGinjectionwasperformed.Thenextmorning,backpainoccurred,and5dayslater,limbandfootCjointCpainCalsoCoccurred,CandCtheCin.ammatoryCresponseCofCC-reactiveCproteinCandCwhiteCbloodCcellCcountCincreased.CTheCpatientCwasCtreatedCwithCnonsteroidalCanti-in.ammatoryCdrugsCandCprednisone,CwhichCwereCcom-pletedCafterC4CandC9Cmonths,Crespectively.CConclusions:IfCweChadCsuspectedCdrug-inducedCuveitisCwhenCtheCpatientdevelopeduveitisandhadconsideredthepossibilityofReiter’ssyndromecausedbyBCGintravesicalinfu-siontherapy,wemighthavebeenabletopreventtheworseningofthesymptoms.Thus,inpatientswithuveitisundergoingCtreatmentCforCbladderCcancer,CitCisCvitalCtoCknowCtheCtreatmentCdetailsCinCcollaborationCwithCotherCdepartments.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(7):978.981,C2023〕Keywords:前部ぶどう膜炎,膀胱癌,BCG膀胱内注入療法,反応性関節炎,Reiter症候群.anterioruveitis,bladdercancer,BCGintravesicaltherapy,reactivearthritis,Reitersyndrome.C〔別刷請求先〕多田愛:〒507-8522岐阜県多治見市前畑町C5-161岐阜県立多治見病院眼科Reprintrequests:AiTada,DepartmentofOphthalmology,GifuPrefectualTajimiHospital,5-161MaehataTown,TajimiCity,GifuPrefecture507-8522,JAPANC978(130)図1初診時の左眼前眼部写真前房内炎症細胞,虹彩後癒着認めた.はじめに昨今,医学の日進月歩の発展に伴い,新規の治療薬の登場や既存の治療薬の新規適応の追加が増加している.同時にさまざまな眼副作用も報告されている.今回筆者らは,BCG膀胱内注入療法中に反応性関節炎を生じ,片眼の急性前部ぶどう膜炎を発症した患者を経験したので報告する.CI症例患者:70歳,女性.主訴:左眼の充血と疼痛.現病歴:7日前から左眼結膜充血が出現し,眼科受診せずに様子をみていたが,2日前より左眼の圧迫感と疼痛が出現,症状が悪化したため碧南市民病院(以下,当院)眼科を受診した.既往歴:当院泌尿器科にて,4年前に経尿道的膀胱腫瘍切除術を施行後,膀胱癌と診断された.3年前に再発性・多発性膀胱腫瘍を認め,化学療法が開始された.その後,膀胱癌は落ち着いていたが,47日前より膀胱癌の再発病変に対してCBCG膀胱内注入療法が開始され,眼科受診までにC3回施行されていた.初診時初見:右眼視力C0.4(1.0C×sph.0.25D(cyl.1.50DCAx110°),左眼視力0.4(1.2C×sph+0.00D(cyl.1.00DAx100°),眼圧は右眼C13mmHg,左眼11mmHgであった.左眼の前眼部所見として,前房内に炎症細胞および虹彩後癒着を認めた(図1).中間透光体と眼底には明らかな異常所見は認めなかった.光干渉断層計でも異常所見は認められなかった.初診時の血液検査ではCCRP(C反応性蛋白):0.71mg/dl,WBC(白血球):10.5C×103/μlで軽度の炎症反応の上昇を認めた.CH50(血清補体価):>60.0,C3:152で補体価の上昇を認めた.Ig(免疫グロブリン)G:1,256Cmg/図2左眼点眼治療後50日後虹彩後癒着は解除された.dl,IgA:312Cmg/dl,IgM:44Cmg/dlは正常範囲内,ACE(アンギオテンシン変換酵素):15.6CU/lは特定の疾患を疑う上昇とは考えなかった.また,VZV(水痘・帯状疱疹ウイルス)M0.20(C.),VZVG17.5(+),CMV(サイトメガロウイルス)M0.29(C.),CMVG18.7(+)は幼児期に感染したことによる不頸性感染と考えられた.リウマチ因子,HLA-B27はともに陰性で,HLA-B13,B67陽性であった.胸部CX線でもとくに異常所見は認められなかった.この時点では全身症状はみられなかった.経過:初診時に血液検査でとくに異常を認めなかったため,特発性前部ぶどう膜炎と診断し,抗菌薬点眼(レボフロキサシン)左眼C4回/日,ステロイド点眼(1%ベタメタゾン)左眼C6回/日,散瞳点眼薬(トロピカミド配合)左眼C1回/日を開始した.点眼開始C2日後に当院泌尿器科にてCBCG膀胱内注入療法C4回目が施行された.その翌日より背部痛が出現し,5日後に手足関節痛が出現した.点眼開始後C8日で前房内炎症は消失したが,虹彩後癒着は残存した.点眼開始C10日後の血液検査でCCRP9.67Cmg/dl,WBCC10.5×103/μlで大幅な炎症反応の上昇を認めたため,関節痛に対し非ステロイド抗炎症薬(non-steroidalCanti-inflammatorydrugs:NSAIDs)(ロキソプロフェン)の内服を開始され,炎症反応は低下したが,膝や手首の部分的な関節痛が残存した.初診よりC29日後,CRP2.27Cmg/dl,WBCC12.0×103/μlで,新たな左眼の虹彩後癒着が出現したため,トロピカミド配合薬の点眼回数を左眼C4回/日に増量した.泌尿器科より反応性関節炎を疑われプレドニンC5Cmg/日の内服を開始した.そのC2週間後に虹彩後癒着は解除された(図2).ぶどう膜炎の原因として当初は特発性と考えていたが,3回目のCBCG膀胱内注入療法からC19日後に左眼のぶどう膜炎を発症したことと,そのほかに原因となる所見は認められなかったこと,一連の症状から泌尿器科でも反応性関節炎が疑われていることから,本症例のぶどう膜炎はCBCG膀胱内注入療法が原因となった可能性が高いと考えた.また,初診よりC29日後にプレドニゾロンC5Cmg/日の内服を開始後,膝や手首の痛みは軽度改善し,スムーズな歩行ができるようになったが,3週間経過しても関節痛は残存し,炎症反応上昇の持続(CRP2.15Cmg/dl,WBC9.8C×103/μl)を認めたため,プレドニゾロンC20Cmg/日に増量したところ,炎症反応は低下(CRP0.35Cmg/dl,WBC7.8×103/μl)し,関節痛も改善した.徐々に点眼とステロイド内服を減量し,プレドニゾロン増量後よりC70日後にプレドニゾロン内服中止,点眼開始後からC270日後に点眼中止とし,その後再発なく経過している.膀胱内の再発性の腫瘍も消失したままである.CII考按BCG膀胱内注入療法は,筋層非浸潤膀胱癌の治療および再発予防のための標準治療である.明確な作用機序は未解明であるが,BCG(弱毒化したCMycobacteriumbovis)を膀胱内に注入し,BCGはフィブロネクチンを介して腫瘍細胞内に取り込まれ(invitro),BCGを取り込んだ腫瘍細胞は直接的に抗原提示細胞として,あるいは間接的にマクロファージに貪食されることにより,BCG抗原または腫瘍特異抗原をTリンパ球に提示し,Tリンパ球の感作が成立する.細胞傷害性CTリンパ球は標的腫瘍細胞を直接に傷害し,Tリンパ球の産生する種々のサイトカインもまた,腫瘍細胞に傷害的に作用する.また,サイトカインの一部はマクロファージを活性化し,腫瘍細胞の貪食,破壊を効果的に行うようになると考えられる1).投与頻度は週にC1回で計C8週間繰り返すが,用量や回数は症状に応じて適宜増減し,また投与間隔も必要に応じて延長できる.おもな副作用として,排尿痛(32.9%),頻尿(29.2%),血尿(15.7%)が出現するが,重症な副作用として,BCG感染,間質性肺炎,反応性関節炎(わが国C2.0%2),国外C0.5%3))があげられる.反応性関節炎は,関節炎・尿道炎・結膜炎の三徴を示す疾患で,胃腸炎または性感染症の数週間後に発生することが多い.HLA-B27遺伝子保有者に多い4)との報告があるが,正確な関連は不明である.本症例でもCHLA-B27は陰性であった.眼症状としては,結膜炎・ぶどう膜炎・強膜炎・角膜炎などがあげられる.約C7割の症例で眼症状が関節炎に先行したという報告5)もある.本症例においても眼症状が最初の症状で,左眼結膜充血が出現したC10日後に背部痛出現,15日後に手足関節痛が出現した.また,眼症状は両眼よりも片眼に出現する頻度のほうが高く(両眼C32%,片眼C68%)6),本症例においても片眼の眼症状のみであった.ぶどう膜炎の原因はさまざまであり,2016年に日本眼炎症学会が行った疫学調査7)によると,もっとも頻度の高い疾患はサルコイドーシス(10.6%),ついでCVogt-小柳-原田病(8.1%),ヘルペス性虹彩炎(6.5%)であり,分類不能は36.6%であった.本症例は薬剤性のぶどう膜炎(drug-inducedUveitis:DIU)に分類される.DIUを引き起こす薬剤はシドフォビル,リファブチン,パビドロネート,アレンドロネート,スルホンアミド,エタナーセプト,インフリキシマブ,アダリムマブ,フルオロキノロン,ブリモニジン,ラニビズマブ,BCGワクチン,MMR(麻疹・流行性耳下腺炎・風疹の三種混合ワクチン)ワクチン,インフルエンザワクチン,B型肝炎ウイルスワクチンなどがこれまで報告されている8).DIUはまれであるが,ワクチン,内服薬,静注薬など多種多様な薬剤で発症する可能性がある.原因薬剤を特定することにより,ぶどう膜炎の再発のリスクを減少できる可能性が高いため,初診時に患者の詳細な薬剤歴も把握する必要がある.反応性関節炎の治療法は確立されていないが,NSAIDs内服が第一選択で,効果不十分の場合はステロイドを使用する.通常はC6カ月以内に症状は改善する.本症例でも反応性関節炎出現後から,NSAIDs内服,ステロイド内服,増量を経て,約C4カ月で関節痛は改善した.膀胱癌もCBCG膀胱内注入療法が奏効し,寛解した.本症例では反応性関節炎も改善がみられ,ぶどう膜炎も改善した.再発の所見もなく,膀胱癌も寛解し経過良好ではあるが,左眼ぶどう膜炎を発症した際にCBCG膀胱内注入療法を中止していれば,反応性関節炎の発症を予防もしくは症状軽減できた可能性がある.BCG膀胱内注入療法中に副作用として反応性関節炎が出現するのはわが国ではC2.0%,ぶどう膜炎の報告はC0.7%2)と頻度は低いが,ぶどう膜炎患者が膀胱癌の治療中であれば,治療内容を聴取するべきであり,他科との連携が必要である.利益相反:【F】JCRファーマ文献1)Ratli.TL:MechanismsCofCactionCofCintravesicalCBCGCforCbladdercancer.ProgClinBiolResC10:107-122,C19892)TaniguchiY,NishikawaH,KarashimaTetal:Frequencyofreactivearthritis,uveiris,andconjunctivitisinJapanesepatientsCwithCbladderCcancerCfollowingCintravesicalCBCGtherapy:AC20Cyear,Ctwo-centreCretrospectiveCstudy.CJtBoneSpineC84:637-638,C20173)LammCDL,CStogdillCVD,CCrispenCRGCetal:ComplicationsCofCbacillusCCalmette-GuerinCimmunotherapyCinC1,278CpatientsCwithCbladderCcancer.CJCUrologyC135:272-274,19864)PennisiCM,CPerdueCJ,CRoulstonCTCetal:AnCoverviewCofCreactivearthritis.JAAPAC32:25-28,C20195)小池繭美,夏山隆夫,松崎香奈子ほか:尿路上皮癌CBCG膀胱内注入療法によるCReiter症候群による自験例を加えた本邦過去C13年間のまとめ.日本泌尿器学会雑誌C106:238-242,C20156)KissCS,CLetkoCE,CQamruddinCSCetal:Long-termCprogres-sion,Cprognosis,CandCtreatmentCocularCmanifestationsCofCReiter’ssyndrome.OphthalmologyC110:1764-1769,C20037)SonodaCKH,CHasegawaCE,CNambaCKCetal:EpidemiologyCofCuveitisCinJapan:aC2016CretrospectiveCnationwideCsur-vey.JpnJOphthalmolC65:184-190,C20218)AgarwalCM,CDuttaCMajumderCP,CBabuCKCetal:Drug-indiceduveitis:Areview.IndianJOphthalmolC68:1799-1807,C2020C***