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ネイルガンによる眼球穿破を伴う経眼窩的穿通性頭部外傷の1例

2016年10月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科33(10):1529?1532,2016cネイルガンによる眼球穿破を伴う経眼窩的穿通性頭部外傷の1例今永直也江夏亮山内遵秀目取真興道澤口昭一琉球大学医学部眼科学教室ACaseofTrans-orbitalHeadInjurythroughBulbarPenetrationbyNail-gunNaoyaImanaga,RyoEnatsu,YukihideYamauchi,KoudouMedorumaandShoichiSawaguchiDepartmentofOphthalmology,UniversityoftheRyukyus,FacultyofMedicine経眼窩的穿通性頭部外傷はまれな疾患であるが,脳・神経損傷,脳出血,感染などの合併症を引き起こし生命予後に影響する場合も少なくない.しかしながら,受傷した状況,部位によっては脳神経症状・所見が認められず,さらに眼球の損傷や眼窩損傷を伴う場合は救急科や脳神経外科ではなく直接眼科を受診し,眼科医が対応せざるをえない場合もまれではない.今回筆者らは眼球損傷(破裂)により眼科を受診し,神経学的所見・症状を認めなかったものの,原因検索のために行ったコンピュータ断層撮影(computedtomography:CT撮影)で脳内に釘を検出した1例を経験した.脳神経外科医の協力を得て手術は成功裏に終了できた.患者は後に自動釘打ち機(ネイルガン)を操作していたことが判明した.眼損傷においては異物の検索,さらに頭蓋骨骨折や頭蓋内損傷の検索に積極的にCT検査を行うことが重要である.Trans-orbitalpenetratingheadinjuryisararetraumaticdisease;however,prognosisoflifemaybedeterioratedinsomecases,ifcomplicationssuchasbrainandneurologicaldamage,brainhemorrhageorinfectionareassociated.Moreover,insomecasesfreefromneurologicalsignsandsymptoms,inwhichdamageisrestrictedtoeyeballandorbit,theophthalmologistmustdirectlyhandlethepatientwithoutanemergencydoctororneurosurgeon.Recentlyweexperiencedsuchapatient,withbulbarperforationandnoneurologicalsignsorsymptoms.Sincedetailedclinicalhistorycouldnotbeobtainedfromthepatient,weusedcomputedtomography(CT)toexplorethecauseandfoundanailthathadpenetratedtothebrainthroughtheupperorbit.Surgerywassuccessfullyperformedwiththeaidofaneurosurgeon.Later,theusageofanail-gunbecameevident.CTexaminationwasthusimportantinacaseofeyeinjuryofunknowncause,evenwithoutneurologicalsignsandsymptoms.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(10):1529?1532,2016〕Keywords:自動釘打ち機,経眼窩的穿通性頭部外傷,コンピュータ断層撮影.nailgun,transorbitalpenetratingheadinjury,computedtomography.はじめに異物による経眼窩的穿通性頭部外傷は比較的まれな疾患であり,脳神経外科領域における頭部外傷のなかでその発症頻度は0.4%と報告されている1).そのなかで経眼窩的頭蓋内穿通は成人では11?20%とされている2?4)が,小児では45?47%とされており注意が必要である5).また,眼球を避けて穿通することが多く,眼球損傷を伴い,頭蓋内異物に至る症例の報告はきわめて少ない.今回,筆者らは眼球損傷(破裂)を伴う経眼窩的穿通性頭部外傷の1例を経験した.患者は神経学的症状,所見をまったく認めなかったため救急外来,脳神経外科を受診せずに直接眼科外来を受診した.原因検索のためにコンピュータ断層撮影(computedtomography:CT撮影)を行ったところ脳内に異物(釘)が検出された.このため脳神経外科医と協力しながら手術を行い良好な結果を得た.I症例患者:56歳,男性,離島在住.主訴:左眼痛,視力障害,眼球破裂.既往歴:高血圧.現病歴:工事現場作業員.作業中に左眼に衝撃を感じ,直後から視力低下,眼痛あり,近医受診し,左眼球破裂を指摘され,民間航空機,公共交通機関を使用し琉球大学医学部付属病院眼科を受診した.初診時所見:神経学的には意識レベル清明,自立歩行,会話可能でありとくに問題を認めなかった.高次機能にも問題なく,性格の変化も認めなかった.高血圧219/123mmHgを認め,脈拍70回/分,体温36.7℃,酸素飽和度95%であった.眼科的には左眼視力は光覚弁,眼球は虚脱し眼圧測定不能,また眼球下方強膜が破裂しており,虹彩を含む高度のぶどう膜脱出が観察された(図1).受傷機転が不明のため緊急でCT検査を行ったところ,左眼球を突き抜け前頭葉深部まで達している金属釘(50×5mm)が同定された(図2).同時に血管造影および3D-CT構築を行ったところ,釘の先端は側脳室前角の外側に達しており,釘の頭部は硝子体に留まっていた.また,釘の中央部位で眼窩上壁を貫通している所見が観察された(図2).頭蓋内に明らかな出血や気脳症は認めず,明らかな血管の損傷も認めなかった(図3).経過:ただちに救急科へ移送し抗菌薬,抗痙攣薬の投与を開始し,全身管理を行った.ついで脳神経外科医と相談の結果,同日に開頭手術で釘を除去することとなった.脊髄ドレナージ設置後に左前頭側から開頭し,硬膜切開術を行った後に眼窩回への刺入部を同定し,釘の中央部から先端までの位置を確認した.ついで眼球を角膜輪部で切開し,丁寧かつ慎重に眼球内容除去を行い釘の頭部を確認した(図4).再度,頭蓋内の眼窩回より釘をゆっくりと刺入方向,すなわち眼窩下方,釘の頭部に向かって移動させ,最終的に眼窩(眼球内側)より引き抜いた.釘を除去した際にも出血などは認めず,硬膜を縫合後に硬膜フラップにて眼窩上壁を補強して頭蓋を閉創し,ついで眼球を強膜縫合で閉創した.術直後に行ったCT検査では除去した釘の先端部付近に小出血,眼窩回の皮質に小骨片が残存していたが,その他の部位には新しい出血などの異常所見は認めなかった.術後,脳神経外科病棟で抗菌薬投与,抗痙攣薬投与を継続して行った.経過中合併症なく受傷後14日目に独歩での退院となった.後日,患者は義眼作製を目的に家族とともに来院した.その際に家族に問診したところ,患者は自動釘打ち機(以下,ネイルガン)を用いた工事作業に従事中であったことが判明した.II考按経眼窩的頭蓋内穿通外傷は眼科日常診療においてはきわめてまれな傷病である.穿通異物としては海外では銃やネイルガンによる報告が多いが,銃規制が厳しいわが国においては銃による受傷はまれであり,一般的には細く,長く,硬いものによって惹起され,木片,傘,ガラスなどの報告が散見される4).この外傷による早期合併症として,脳神経外科的には髄膜炎,脳膿瘍などの感染,頭蓋内出血,脳挫傷,脳室内出血,脳幹損傷,脳血管障害などがある4,6).本症例のようにネイルガンによる報告も散見され3,4,7),いずれも容易に頭蓋内へ到達している.しかしながら本症例のように重篤な眼球損傷を伴う頭蓋内穿通外傷の報告はまれである.(経眼窩的)頭蓋内穿通外傷の分類としては異物の刺入速度と侵入経路による分類が行われている.刺入速度による分類では銃のような高エネルギー損傷をきたす高速度性のものを高速度性損傷とし,その他の原因による穿通性外傷を低速度性外傷と分類している8,9).高速度性損傷では感染の危険性は低いが,脳組織が強く損傷を受け当然のことながら生命を含めた予後不良のことも多い.一方,低速度性損傷では感染の危険性が高まるが,周囲の脳組織の損傷は軽微にとどまることが多く,機能の予後や生命予後は比較的良好なことが多いとされている8,9).経眼窩的頭蓋内穿通外傷では侵入経路による分類として,頭蓋内に骨折を起こすことなく上眼窩裂や視神経管を経由して頭蓋内に到達する裂孔型と,眼窩上壁を貫通して前頭葉に穿通する前頭葉型がある6).前者は海綿静脈洞,脳神経,脳幹などの損傷を伴いより重篤な合併症を生じる可能性があるのに対して,後者では脳内血種を作る頻度が高いとされているが,脳損傷の診断および治療が速やかに行われた場合はその予後は比較的良好とされている.本症例のようにネイルガンによる穿通性外傷は低速度性損傷に分類され8,9),また経路分類としては,本症例は前頭葉型の経眼窩的頭蓋内穿通であった.患者は受傷後より眼症状以外の自覚症状に乏しく,また初診時の問診でも受傷機転,受傷原因が不明であり,眼球破裂以外に神経症状も乏しかった.患者はこのため救急外来や脳神経外科を受診せず,直接眼科外来を受診した.今回,眼球破裂の原因検索のために行ったCT撮影が異物を発見する契機となったことからも,受傷原因や受傷機転の明らかでない眼球(眼窩)損傷においては可及的速やかにCT検査を行う必要があることが改めて示された.また,本症例では脳神経外科医と協力して異物の除去を行った.経眼窩的頭蓋内異物においても脳内からの異物の摘出方法によってはさらなる脳損傷,脳出血などの合併症を引き起こす可能性があり,手術方法に関しては脳神経外科医の協力のもと,診療科を横断した体制を構築し,十分な検討を行ったうえで決定する必要がある.脳内異物の摘出方法に関してO’Neillらは,異物の刺入部位から刺入経路に沿って慎重に抜去する方法がもっとも低侵襲であり,脳実質や血管,神経への損傷が少ないと主張し支持されている10).本症例はCT画像上,脳血管の損傷および頭蓋内出血を認めず,さらに釘の頭部が硝子体腔に残存していることが確認された.眼科的には眼球の操作で釘が移動し脳損傷,脳血管障害をきたす可能性を考慮し,まず慎重に眼球内要除去術を試み,釘の頭部の可視化に努めた.幸い眼球内容除去術を行ったところ釘の頭部が検出でき,硝子体腔より抜釘することが可能となった.ついで眼窩上壁の脆弱性も考慮し,眼球摘出は行わずに手術を終了した.本症例は手術方法に関してもCT検査は有用と考えられた.建築現場でのネイルガンの普及もあり,今後も本症例のような外傷が発生する可能性がある.予防としてはネイルガンに対する適切な使用法や使用の際の危険性についての教育が重要であり,ゴーグルなどの適切な保護具の着用が求められる.また,本症例のようにネイルガンによる外傷においては見た目が軽傷でも穿孔性眼外傷や頭部外傷の可能性を考慮し対応すべきである.III結語ネイルガンによるまれな眼球損傷を伴う経眼窩的穿通性頭部外傷の1例を経験した.本症例のように受診時に神経所見・症状が無症状あるいは軽微である場合は頭蓋内損傷を見逃してしまう可能性がある.受傷機転,原因が不明な眼球損傷では眼内異物,眼窩異物,あるいは頭蓋内異物・損傷を疑って早急なCT検査を行う必要がある.文献1)GennarelliTA,ChampionHR,SaccoWJetal:Mortalityofpatientswithheadinjuryandextracranialinjuryintraumacenters.JTrauma29:1193-1201,19892)DeVilliersJC:Stabwoundsofthebrainandskull.In:VinkenDJ,BmynJW,eds.HandbookofClinicalNeurology.Vol1,Injuriesofthebrainandspinalcord.Amsterdam:North-HollandPublishingCompany,p477-503,19753)duTrevouMD,vanDellenJR:Penetratingstabwoundtothebrain:thetimingofangiographyinpatientspresentingwiththeweaponalreadyremoved.Neurosurgery31:905-912,19924)野田昌幸,長嶋梧郎,藤本司ほか:経眼窩的穿通性頭部外傷の2例─頭部CTで陥るpitfallと3D-CTの有用性を踏まえて─.NeurosurgEmerg9:165-169,20045)山口武兼,畑宏,平塚秀雄ほか:眼窩壁を穿破した脳内異物および脳損傷の2例.脳神経外科6:179-184,19786)笠毛静也,浅倉哲彦,楠元和博ほか:経眼窩的穿通性損傷の臨床的検討.脳神経外科20:433-438,19927)奥永知宏,出雲剛,吉岡努ほか:金属製鈍的器物による経眼窩的穿通性脳損傷の1例.脳神経外科38:293-298,20108)金恭平,小野恭裕,藤森健司ほか:鉄鋼線が脳実質内へ完全に埋没した経眼窩的穿通性頭部外傷の1例.脳神経外科43:921-926,20159)KazimSF,ShamimMS,TahirMZetal:Managementofpenetratingbraininjury.JEmergTraumaShock4:395-402,201110)O’NeillOR,GillilandG,DelashowJBetal:Transorbitalpenetratingheadinjurywithahuntingarrow:casereport.SurgNeurol42:494-497,1994〔別刷請求先〕今永直也:〒903-0215沖縄県西原町上原207琉球大学医学部眼科学教室Reprintrequests:NaoyaImanaga,M.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityoftheRyukyus,FacultyofMedicine.207Uehara,Nishihara,Okinawa903-0215,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY図1前眼部写真下方強膜の裂傷と出血,高度の虹彩脱出が認められる.また眼球は虚脱している.図2初診時CT画像所見中央部が眼窩上壁を貫いている金属異物(釘)が観察される.1530あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(144)図3血管造影画像所見明らかな血管損傷,血種などの異常所見は認めていない.図4術中所見眼球内容除去を行ったところ,釘の頭部を観察できた.図5摘出した釘(145)あたらしい眼科Vol.33,No.10,201615311532あたらしい眼科Vol.33,No.10,2016(146)