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遠近両用ソフトコンタクトレンズ装用による視野への影響

2013年3月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科30(3):381.384,2013c遠近両用ソフトコンタクトレンズ装用による視野への影響柴田優子*1魚里博*1,2平澤一法*1進藤真紀*2,3庄司信行*1,2*1北里大学大学院医療系研究科感覚・運動統御医科学群視覚情報科学*2北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科視覚機能療法学*3学校法人滋慶学園東京医薬専門学校視能訓練士科EffectofWearingMultifocalSoftContactLensesonVisualFieldYukoShibata1),HiroshiUozato1,2),KazunoriHirasawa1),MakiShindo2,3)andNobuyukiShoji1,2)1)DepartmentofVisualScience,KitasatoUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,2)DepartmentofOrthopticsandVisualScience,KitasatoUniversitySchoolofAlliedHealthScience,3)CourseofOrthoptist,TokyoCollegeofMedico-pharmacotechnology目的:2種類の遠近両用ソフトコンタクトレンズ(multifocalsoftcontactlens:MFSCL)の視野への影響を検討した.対象および方法:対象は若年ボランティア15名15眼(平均年齢25.3±5.9歳).視野測定にはHumphrey視野計を使用し,コンタクトレンズは単焦点ソフトコンタクトレンズ(SCL)と,遠用中心近用加入MFSCL-Dタイプと近用中心遠用加入MFSCL-Nタイプを使用した.対照SCLを基準としてMFSCL-Dタイプ,MFSCL-Nタイプ装用下における中心窩閾値,平均網膜感度,および偏心域ごとの網膜感度を比較した.結果:3種のSCL装用下の中心窩閾値,全測定点の合計,また偏心域ごとの網膜感度には統計学的有意差はなかった.結論:MFSCL装用下の視野への影響はなかった.Purpose:Weinvestigatedtheinfluenceonthevisualfieldofonesingledistance-visionsoftcontactlensandtwotypesofmultifocalsoftcontactlenses.Methods:Subjectswere15youngindividuals(age20.41yrs).Wemeasuredvisualfieldusingstandardautomatedperimetry(HumphreyFieldAnalyzer:HFA)withthesingledistance-visionsoftcontactlenses(control)andtwotypesofmultifocalsoftcontactlenses.Theorderofexperimentwiththethreetypesofcontactlenseswasrandomlychangedforeachsubject.Weassessedfovealthreshold,totaltestpoints’sensitivitiesandaverageofthetestpointofeachlocationofvisualfieldeccentricity.Results:NostatisticallysignificantdifferencewasfoundamongthethreegroupsofthethreetypesofSCLsinregardtofovealthreshold,totaltestpoints’sensitivitiesoraverageofthetestpointofeachlocationofvisualfieldeccentricityinsubjectswithsingledistance-visioncontactlensesortwotypesofmultifocalcontactlenses.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(3):381.384,2013〕Keywords:コンタクトレンズ,自動静的視野検査,遠近両用,同時視,デフォーカス.contactlenses,automatedperimetry,multifocal,simultaneousvision,defocus.はじめに近年屈折矯正術の進歩により,加入度の付いた多焦点コンタクトレンズや多焦点眼内レンズが普及している.多焦点コンタクトレンズは老視治療の他,調節の不均衡による眼精疲労の軽減目的などでの使用が検討されている.近視予防のトライアルとして,わが国では周辺部にプラスの加入の入った眼鏡装用の試みがなされており,海外では同様なデザインの眼鏡やコンタクトレンズ装用による近視予防の研究1.3)が進んでいる.一方,このような多焦点のレンズの装用が視野へどのような影響を与えるかの検討はまだ少ない.今回,遠近両用ソフトコンタクトレンズ(multifocalsoftcontactlens:MFSCL)の装用が視野に及ぼす影響を検討するため,加入度の付いた2種のMFSCLと単焦点SCL装用下における視野の網膜感度を比較した.I対象および測定方法本研究はヘルシンキ宣言(世界医師会)の理念を踏まえ,全対象に文書による説明を行い,本人の自由意思による同意〔別刷請求先〕魚里博:〒252-0373相模原市南区北里1-15-1北里大学大学院医療系研究科感覚・運動統御医科学群視覚情報科学Reprintrequests:HiroshiUozato,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KitasatoUniversityGraduateSchoolofMedicalSciences,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara-shi,Kanagawa252-0373,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(95)381 を得て行った.また,本研究は北里大学医療衛生学部倫理委員会の承認を受けた(倫理承認番号:2011-013).対象は矯正視力1.0以上,乱視度.0.75D以下,屈折異常以外の眼科的疾患をもたない正常成人ボランティア15名15眼(男性6名,女性9名)である.対象の年齢は平均25.3±135°meridian60°60°30°30°45°meridian図1カスタムプログラムの測定点の配置全測定点は29点.中心窩の測定と,各象限に斜めの13点の測定点を配置した.■:遠用部■:移行部■:近用部8.0mm8.0mm5.0mm2.3mm5.0mm1.0mm図2使用コンタクトレンズのデザイン略図左はロートi.Q.14RバイフォーカルDタイプ,右はロートi.Q.14RバイフォーカルNタイプのレンズデザインの略図を示す.5.9歳(20.41歳)で,等価球面度は平均.2.58±2.03D(.6.00D.+0.50D)であった.視野測定にはHumphrey視野計を用いた.測定点は中心と,斜め方向(経線45°,135°,225°,315°)に6°ごとに28点をカスタムプログラムで設定し(図1),4.2dBのfullthresholdアルゴリズムで測定した.使用したSCLはロート製薬(株)製の単焦点SCL〔ロートi.Q.14Rアスフェリック,ロート製薬(株),大阪〕と,2種類のMFSCL〔ロートi.Q.14Rバイフォーカル,ロート製薬(株),大阪〕である.ロートi.Q.14Rバイフォーカルは同時視型の累進屈折型レンズデザインであり,近用中心遠用周辺のNタイプと遠用中心近用周辺のDタイプの2種類がある(図2).どちらも遠用部と近用部の間には移行部があり,遠用から中間部,近用への連続的な視点の移行が可能である.Nタイプ,Dタイプともに+1.0,+1.5,+2.0,+2.5Dの4つの加入度が市販されている.本検討では加入度+2.0Dを使用した.実験に先立ち各対象眼の屈折検査と視力検査を行い,完全矯正となる単焦点SCL度数を決定した.さらに,今回検討のMFSCLは,対照SCLの度数と同表記のものを用意し,Dタイプ+2.0D加入とNタイプ+2.0D加入の2種(対照SCLと合わせて計3種)とした.MFSCLの加入度は,実際の臨床では使用者の自覚に合わせて加入度数を適宜選択するが,今回の筆者らの検討では比較的加入度が大きく,したがって視機能への影響が大きい可能性のある+2.0D加入を使用した.なお,今回の検討ではMFSCL装用の視力検査は行っていない.また,3種のSCL装用の順序は各対象でランダムに割り振った.検討項目は3種のSCL装用下における中心窩閾値と,全測定点における平均網膜感度および,偏心域ごとの平均網膜感度である.統計解析には,StatView5.0(HULINKS,Inc.)を使用し,各網膜感度の比較にはKruskal-Wallis検定を行い,p<0.05を棄却域とした.表1各SCL装用下の平均網膜感度と標準偏差(dB)対照SCLMFSCL-DタイプMFSCL-Nタイプp値(Kruskal-Wallis)中心窩閾値全測定点合計測定域4.2°12.7°21.2°29.7°38.2°46.7°55.2°36.7±1.5766.3±46.334.3±1.131.7±1.230.5±0.828.0±1.123.9±2.921.4±3.815.6±3.736.7±1.4762.3±43.134.0±1.231.5±1.530.3±1.128.4±1.223.7±4.021.2±3.715.2±3.436.3±1.7748.7±65.133.6±1.531.2±1.229.5±1.627.2±2.323.3±3.520.6±5.116.1±5.00.88370.65870.40930.72710.23260.17420.81570.98590.70663種SCL装用下の中心窩閾値,全測定点合計,測定域ごとの4象限平均の網膜感度(dB)の全対象の平均と標準偏差を示す.すべての項目にて,3種SCL装用下の網膜感度に統計学的な有意差はなかった.382あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(96) II結果全対象眼で,細隙灯顕微鏡検査上,3種SCL装用時に明らかなfitting異常はなかった.各SCL装用下の網膜感度測定結果を表1に示す.視野中心窩閾値の全対象眼の平均網膜感度は対照SCL装用時36.7±1.5dB,MFSCL-Dタイプは36.7±1.4dB,MFSCL-Nタイプは36.3±1.7dBであった.また,全測定点の合計の平均は,対照SCL装用時766.3±46.3dB,MFSCL-Dタイプは762.3±43.1dB,MFSCL-Nタイプは748.7±65.1dBであった.中心窩閾値,全測定点の合計,偏心域ごとの平均網膜感度では,3種SCL装用下で有意な差はなかった(表1).III考按MFSCLには同時視型と交代視型がある4).どちらもレンズの領域を遠用と近用の屈折度に振り分けるものであるが,現在わが国で普及しているMFSCLは同時視型がほとんどである.同時視型は視軸のレンズ上の移動を伴わないため,遠方と近方の対象物は同時に網膜に投影され,注視物の網膜投影のエネルギーは低下しコントラスト感度の低下が起こり5),周辺網膜のコントラストも低下する6).しかしながら,脳内で選択的に取り上げると考えられるため,日常生活では満足できる視機能の範囲にある6)とされている.さらに,同時視型MFSCLは累進屈折型と二重焦点型(回折型)に分類される7).累進屈折型は同心円の遠用部と近用部の間に屈折度の移行部をもつ.一方,二重焦点型は間の移行部はなく,遠用,近用の層を何層か重ねてレンズ光学領域を構成している.今回の筆者らの検討では,同時視型累進屈折型の中心遠用周辺近用(MFSCL-Dタイプ)と中心近用周辺遠用(MFSCL-Nタイプ)を用いた(図2).MFSCLの視野への影響についての既報として,Alongiらは,単焦点SCLと累進屈折型MFSCL,および二重焦点型MFSCLのHumphrey視野検査を報告している8).それによれば,単焦点SCLと屈折型では網膜感度の有意な変化がなかったが,二重焦点型は中心から周辺30°までの合計網膜感度は低下したが周辺30°から60°では低下しなかったと述べている8).今回の筆者らの検討では,累進屈折型の中心遠用と中心近用の2タイプのMFSCL装用では両者ともAlongiの検討の累進屈折型MFSCLと同様の結果を得た.高田は,中間透光体の混濁が影響を受けにくいフリッカー測定を除き,他の視野測定法はコントラストを変化させて閾値を測定するため,検査結果が低下することを報告している9).本検討に用いたMFSCLの場合は,エネルギーの低下はあるものの,視標を遮ることはなく,視感度測定に影響は与えなかったと考えられる.つぎに,遠近両用のコンタクトレンズの特徴である加入度による視野への影響も考えられる.デフォーカスを付加した場合の視野検査の影響について,Atchisonらは,Goldmann視野検査で,デフォーカス(.3.00D.+5.00D)を付加した場合網膜感度の低下を認めたが,30.40°を超える周辺では影響はほとんどなかったと報告している10).宇山らは,オクトパス視野検査計で+1.0Dから+5.0Dのレンズを負荷して視感度を測定し,その結果負荷度数が大きくなるにつれ感度は低下するが,周辺部は中心部より低下量は少なく,+2.0Dの付加では,領域10°以内では平均で2.1dBの低下,領域21.30°では1.4dBの低下と報告している11).今回の筆者らの検討では,+2.0Dの加入度のMFSCLを用いているが,対照のSCL装用と比べ網膜感度に明らかな差がなかった.その理由として,周辺部の焦点深度は中心部網膜より非常に大きい12)ため,MFSCLの場合は全体としてのエネルギー低下があっても,今回使用のMFSCLの加入度数ではデフォーカスの視野への影響を受けないことが考えられた.一方,中心部の網膜感度の変化もなかったことについては,本検討の対象が20.41歳で調節力優良な被験者群で調節麻痺剤不使用であったため,眼内の調節を働かしている可能性が考えられた.MFSCL装用下の視野への影響はレンズデザインを考慮する必要があると思われるが,今回使用したレンズデザインでは正常者の視野への影響はほとんどないと考えられた.謝辞:本研究は,北里大学大学院院生プロジェクト研究(no.2011-3155)の助成を一部受けた.ここに感謝の意を表する.文献1)ChengD,SchmidKL,WooGCetal:Randomizedtrialofeffectofbifocalandprismaticbifocalspectaclesonmyopicprogression:two-yearresults.ArchOphthalmol128:12-19,20102)TarrantJ,SeversonH,WildsoetCF:Accommodationinemmetropicandmyopicyoungadultswearingbifocalsoftcontactlenses.OphthalmicPhysiolOpt28:62-72,20083)AllenPM,RadhakrishnanH,RaeSetal:Aberrationcontrolandvisiontrainingasaneffectivemeansofimprovingaccommodationinindividualswithmyopia.InvestOphthalmolVisSci50:5120-5129,20094)塩谷浩:遠近両用コンタクトレンズの処方適応の判断から処方に至るまで.日コレ誌52:47-51,20105)ZlotnikA,BenYaishS,YehezkelOetal:Extendeddepthoffocuscontactlensesforpresbyopia.OptLett34:2219-2221,20096)Llorente-GuillemotA,Garcia-LazaroS,Ferrer-BlascoTetal:Visualperformancewithsimultaneousvisionmulti-focalcontactlenses.ClinExpOptom95:54-59,20127)ToshidaH,TakahashiK,SadoKetal:Bifocalcontactlenses:History,types,characteristics,andactualstateandproblems.ClinOphthalmol2:869-877,2008(97)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013383 8)AlongiS,RolandoM,CoralloGetal:Qualityofvisionment.OphthalmicPhysiolOpt7:259-265,1987withpresbyopiccontactlenscorrection:subjectiveand11)宇山孝司,松本長太,奥山幸子ほか:視標のボケと中間透lightsensitivityrating.GraefesArchClinExpOphthalmol光体混濁の中心静的視野閾値に及ぼす影響.日眼会誌97:239:656-663,2001994-1001,19939)高田園子:中間透光体の混濁が視野測定に与える影響.近12)WangB,CiuffredaKJ:Depth-of-focusofthehumaneye畿大学医学雑誌27:165-177,2002inthenearretinalperiphery.VisionRes44:1115-1125,10)AtchisonDA:Effectofdefocusonvisualfieldmeasure-2004***384あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(98)