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増大する虹彩囊腫に対し初回治療として囊腫壁切除と白内障の同時手術を行った1例

2018年9月30日 日曜日

《原著》あたらしい眼科35(9):1276.1280,2018c増大する虹彩.腫に対し初回治療として.腫壁切除と白内障の同時手術を行った1例芝原勇磨田邊樹郎藤野雄次郎譚雪間山千尋JCHO東京新宿メディカルセンター眼科CACaseReportofaPatientwithaGrowingIrisCystReceivingSurgicalCystectomyandSimultaneousCataractSurgeryasInitialTreatmentYumaShibahara,TatsuroTanabe,YujiroFujino,SetsuTanandChihiroMayamaCDepartmentofOphthalmology,JapanCommunityHealthcareOrganizationTokyoShinjukuMedicalCenter目的:原発性虹彩.腫の治療法には穿刺吸引やレーザー治療,外科的切除などがあるが,穿刺吸引やレーザーでは術後再発や続発緑内障の報告も多い.今回,初回治療として.腫壁切除と白内障の同時手術を行い良好な結果を得たC1例を経験したので報告する.症例:45歳,男性.右眼羞明を主訴に受診した.右眼は下方の虹彩根部に.腫があり,瞳孔は上方へ偏位していた.初診からC4カ月間で腫瘤が増大して角膜内皮に接触し,併発白内障により視力も低下したため治療適応と判断した.剪刀と硝子体カッターを用いた.腫壁切除と白内障の同時手術を行い,病理組織から原発性虹彩実質内.腫と診断した.術後視力は良好で,術後C8カ月の時点まで炎症や高眼圧,.腫の再発などの合併症は認めていない.考按:外科的切除は.腫の再発や眼圧上昇といった合併症のリスクが少なく,白内障併発症例においては.腫壁切除と白内障の同時手術は根治的治療法として有用であると考えられた.CPurpose:Iriscystscanbetreatedbyneedleaspirationorlasertreatment,butpostoperativerecurrenceand/CorCsecondaryCglaucomaCareCoccasionalCcomplications.CWeCreportCaCcaseCofCirisCcystCreceivingCsurgicalCcystectomyCandsimultaneouscataractsurgeryasinitialtreatment.Casereport:A45-year-oldmalewithacystinthelowersectionCofCtheCperipheralCirisCofChisCrightCeyeCpresentedCtoCtheCclinic.CTheCcystCenlargedCwithinCfourCmonthsCaftercontactingthecornealendothelium;visualacuitywasalsoimpairedbycomplicatedcataract.Surgicalcystectomyusingscissorsandavitreouscutter,andsimultaneouscataractsurgerywereperformed;thepathologicaldiagnosiswasprimaryirisstromalcyst.Visualacuityimprovedwithoutrecurrence,in.ammationorsecondaryglaucoma,foreightmonthsafterthesurgery.Conclusion:Surgicalresectionandcataractsurgeryisane.ectiveoptionincasesofiriscystwithcomplicatedcataract.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(9):1276.1280,C2018〕Keywords:虹彩.腫,白内障,前眼部光干渉断層計,切除手術.iriscyst,cataract,anteriorsegmentalopticalcoherencetomography,surgicalresection.Cはじめに虹彩.腫はその原因により先天性,寄生虫性,外傷性,滲出性,縮瞳薬による薬剤性,特発性に分類される1).手術・外傷後に発生する外傷性虹彩.腫が比較的多く,特発性のものはまれである.虹彩.腫は,その大きさの増大に伴い,角膜内皮障害,虹彩毛様体炎,続発緑内障,併発白内障などの合併症を生じうるため2.9),外科的切除,レーザー光凝固,穿刺吸引などの治療が選択される2.9).しかし,レーザー光凝固や穿刺吸引では治療後の再発や続発緑内障などの合併症が比較的高率に生じ2,7,9),外科的切除ではそれらの合併症の可能性がより低いと考えられる.白内障を伴う症例に対して外科的切除と同時に白内障手術を行った報告7)があるが,当初レーザー治療がC2回行われた後に再発を繰り返したため,最終的な治療法として.腫壁切除と白内障の同時手術が施行〔別刷請求先〕芝原勇磨:〒162-8543東京都新宿区津久戸町C5-1JCHO東京新宿メディカルセンター眼科Reprintrequests:YumaShibahara,DepartmentofOphthalmology,JapanCommunityHealthcareOrganizationTokyoShinjukuMedicalCenter,5-1Tsukudocho,Shinjuku-ku,Tokyo162-8543,JAPAN1276(120)されている7).今回筆者らは.腫が増大傾向を示し,内容物が粘稠と考えられたため,初回治療として.腫壁切除と白内障の同時手術を行い有効であった原発性虹彩実質内.腫の症例を経験したので報告する.CI症例患者:45歳,男性.主訴:右眼羞明.現病歴:2016年C7月,右眼羞明を自覚し近医を受診した.右眼虹彩に腫瘤性病変を認めたことからC2016年C8月,当科を紹介受診となった.既往歴:10年前に両眼角膜屈折矯正手術(laserCassistedinsitukeratomileusis:LASIK)施行.家族歴,全身合併症:特記事項なし.初診時眼所見:右眼視力C0.4(1.2C×.1.5D),左眼視力C0.7(1.2C×.0.75D(.0.25DCAx180°).右眼眼圧6mmHg,左眼眼圧C7CmmHg.両眼CLASIK後だが角膜は透明.右眼下方の虹彩根部に腫瘤性病変を認め,瞳孔は上方へ軽度偏位していた(図1a).病変はC5.8時方向の虹彩に広がり,細隙灯顕微鏡検査でやや白色の内容物が透見され,.腫と考えられた.この時点では.腫前壁は角膜内皮には接しておらず(図1b).中間透光体,眼底に明らかな異常はなかった.経過:初診時においては.腫による合併症を認めないことから,外来定期通院にて経過観察を行った.2017年C1月の時点で.腫の増大を認め,角膜内皮に.腫前壁が接しており(図2a),角膜内皮障害の進行が危惧された.前眼部光干渉断層計(anteriorCsegmentalCopticalCcoherenceCtomogra-phy:AS-OCT)によって角膜内皮と比較的厚い.腫壁の接触が確認でき,.腫内部の輝度は前房と同等で.胞性病変が示唆され(図2b),細隙灯顕微鏡所見およびCAS-OCT所見から悪性病変は否定的であった.接触による角膜内皮障害がさらに進行する可能性が高く,この時点で後.下白内障の進C図4病理組織学的所見重層扁平上皮に被覆された.胞性病変を呈しており,実質内.腫が示唆された.行により右眼矯正視力はC0.8まで低下していたため,2017年C2月に右眼虹彩.腫壁切除と白内障手術を同時に行い,摘出組織の病理検査を行った.手術所見:虹彩.腫の切除を先に行うため散瞳せずに手術を開始した.上方結膜切開の後,2.4Cmm強角膜層をC11時の位置に作製した.3時とC9時の位置の角膜輪部にサイドポートを作製し前房内を低分子粘弾性物質に置換した.虹彩剪刀を用いて虹彩.腫前壁に切開を加えると(図3a),粘性の高い白色混濁した内容物が流出したため(図3b),25ゲージ硝子体カッターを用いてこれを吸引除去した(図3c).その後.腫壁を硝子体カッターにて切除しようと試みたが,組織が固くカッターの吸引口に入らなかったため,池田式マイクロカプスロレキシス鑷子で把持しながら虹彩剪刀で可能なかぎり広範囲に切除し,摘出した組織は病理検査に提出した.次にトロピカミド,フェニレフリンの点眼で散瞳し,瞳孔縁にアイリスリトラクターを設置してから通常どおりに水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を行い手術を終了した.病理組織学的所見は重層扁平上皮に被覆された.胞性病変を呈しており,実質内.腫が示唆された(図4).術後経過:術翌日には前房内にフィブリンの軽度析出を認めたが術後C2日目にはほぼ消失し,右眼視力は裸眼視力C1.2に改善した.通常の白内障手術と同様に抗菌薬,ステロイド,非ステロイド性抗炎症薬の点眼をそれぞれ術後C1.3カ月間行った.術後の瞳孔は正円で羞明の自覚はなく,現在術後C8カ月の時点まで炎症や眼圧上昇,虹彩.腫の再発はなく経過良好である(図5).CII考按Shieldsは虹彩.腫を原発性と続発性に分類し,原発性虹彩.腫を色素上皮内.腫と実質内.腫に分類した10).色素上皮内.腫は成人に発症し,7割が瞳孔縁に発生10.12),原始眼胞壁の遺残により色素上皮が解離することにより生じる13).C実質内.腫は若年者に発症することが多く,発生異常が原因と考えられている10,11,13).重層扁平上皮からなる.胞壁の脱落と杯細胞の粘液産生のため増大傾向を示すことが知られており,10歳以下では急激な経過をとり視力予後不良となることも多いとされている14).原発性虹彩.腫C62例をまとめた報告によると,実質内.腫はそのうちC3例C4.8%であり,色素上皮内.腫が多数を占めた10).本症例は外傷や薬剤使用歴などはなく,半透明の単房性であること,病理組織学的所見で.胞壁が重層扁平上皮で構成されていたことから,原発性虹彩実質内.腫と考えられた.虹彩.腫は自然経過で縮小する場合もあるが10),増大に伴い視力低下,角膜障害,白内障,続発緑内障などが発症した場合には治療適応となる.本症例では初診からC4カ月間の経過中に虹彩.腫が増大し,.腫前壁と角膜内皮の接触を認めた.増大した虹彩.腫が長期間角膜内皮に接触した症例では角膜混濁や角膜内皮障害が生じることが報告されており9),本症例でもこの時点で早期に治療を行う必要があると判断した.虹彩.腫を治療するうえで悪性腫瘍を鑑別することは重要である.悪性黒色腫や転移性悪性腫瘍では透光性に乏しく充実性の病変となるが,確定診断には病理学的検査が必要である.超音波生体顕微鏡(ultrasoundCbiomicroscope:UBM)が診断に有用で,腫瘤内部が低輝度であれば.腫を,高輝度であれば充実性の悪性腫瘍を示唆すると考えられている5,7,9,12).本症例では術前のCAS-OCTの所見上,腫瘤内部が前房内と同等の低輝度を示したことから,悪性腫瘍の可能性は低いと考えた.虹彩.腫の治療はこれまで穿刺吸引,アルゴンおよびYAGレーザーによる.胞穿孔,外科的切除が報告されている2.6).レーザー治療は低侵襲で繰り返し行えるという利点があり,わが国では初回治療としてレーザー治療を選択した報告が多いが2.6),.腫の再発や穿孔後の前房内への内容物流出に伴う虹彩炎や続発緑内障などから後に外科的治療が必要となることも少なくない2,7,9).外科的切除は侵襲的ではあるが再発や続発緑内障などの合併症のリスクが少なく,摘出組織の病理検査が可能で根治的治癒が期待できる2,7,9).本症例はCAS-OCT所見から.腫壁が厚くレーザーで穿破するのは困難であることが予想された.また,細隙灯顕微鏡によって透見できる.腫内部が白色混濁していたことから内容物が粘稠であることが示唆され,.腫内容物の性状が漿液性であった場合はレーザー治療後の眼圧上昇が軽度だが2,3),粘稠であった場合はその程度が著しく,手術加療が必要となった過去の報告があることから2,7.9),本症例でレーザー治療を行った場合には炎症や眼圧上昇をきたして再度外科的治療が必要となる可能性が高いと考えられた.さらに併発白内障による視力低下も生じていたため,本症例では初回治療として外科的切除と白内障との同時手術を選択し,.胞壁の切開と同時に内容物を吸引除去した.虹彩.腫の手術において硝子体カッターを用いて.腫壁の切除を行った報告が散見されるが7.9),本症例では.腫壁が厚く,25ゲージ硝子体カッターの吸引口には入らなかったため,虹彩剪刀を用いて切除を行った.術後瞳孔不整を認めず炎症も軽度であり,切除組織の病理検査も容易に実施できたことから,硝子体カッターが使えない場合には本法も選択肢になりうると考えられた.本症例では.腫の増大とともに比較的急速に後.下白内障の進行も認められ,羞明や視力低下はこの影響と考えられた.また,.腫の性状や角膜との接触の評価にはCAS-OCTが有用であった..腫壁切除と白内障の同時手術を行った既報ではレーザー治療で再発したのちに同時手術が行われており7),今回のように初回治療として.腫壁切除と白内障手術を同時に施行した報告はこれまでにない.本症例のように白内障も併発している症例においては,.腫壁切除と内容物の吸引除去,白内障との同時手術は有効な治療法であると考えられた.C文献1)Duke-ElderS:Diseaseoftheuvealtract.SystemofOph-thalmology,CHenryCKimpton,CIX.Cp754-775,CUniversityCofCLondon,London,19662)塚本秀利,中野賢輔,三島弘ほか:虹彩.胞のC6例.眼紀41:1195-1201,C19903)小西正浩,楠田美保子,竹村准ほか:レーザー治療により沈静化した特発性虹彩.腫のC1例.眼紀C46:272-275,C19954)大原國俊:光凝固を行った特発性虹彩.腫のC1例.臨眼C30:99-102,C19765)佐藤敦子,中静裕之,山崎芳夫ほか:原発性虹彩.腫に対するアルゴンレーザー二段階照射療法.眼科C39:301-304,C19976)岸茂,上野脩幸,玉井嗣彦ほか:Nd-YAGレーザー照射により消失をみた外傷性虹彩.腫のC1例.臨眼C83:227-230,C19897)野村真美,中島基宏,花崎浩継ほか:レーザー治療で再発し.腫壁切除白内障同時手術で治療した原発性虹彩.腫.眼科58:489-493,C20168)小池智明,岸章治:粘液分泌性の虹彩.腫による続発緑内障のC1例.臨眼61:1317-1319,C20079)戸田利絵,杉本洋輔,原田陽介ほか:急速に拡大する虹彩.腫に対し.腫全幅切除術を行ったC1例.臨眼C64:1855-1858,C201010)ShieldsJA:Primarycystsoftheiris.TransAmOphthalC-molSocC79:771-809,C198111)ShieldsCJA,CKlineCMW,CAugsburgerCJJ:PrimaryCiriscysts:aCreviewCofCtheCliteratureCandCreportCofC62Ccases.CBrJOphthalmolC68:152-166,C198412)ShieldsCL,ShieldsPW,ManalacJetal:Reviewofcysticandsolidtumorsoftheiris.OmanJOphthalmolC6:159-164,C201313)ShieldsCCL,CKancherlaCS,CPatelCJCetCal:ClinicalCsurveyCofC3680CirisCtumorsCbasedConCpatientCageCatCpresentation.COphthalmologyC119:407-414,C201214)LoisN,ShieldsCL,ShieldsJAetal:Primaryirisstromalcysts:ACreportCofC17Ccases.COphthalmologyC105:1317-1322,C1998***