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視神経乳頭陥凹拡大症例における視神経乳頭形態の変化

2008年7月31日 木曜日

———————————————————————-Page1(103)10070910-1810/08/\100/頁/JCLS18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(7):10071010,2008cはじめに緑内障では視神経乳頭の変化が視野の障害より先行して認められる1).緑内障性の不可逆的な視野欠損が通常の自動視野計で検出される頃には,すでに約2040%の視神経軸索が障害を受けている1).そのため,緑内障を長期管理するうえでは視野と同様に視神経乳頭の経時的変化を捉えることが重要である.しかし,視神経乳頭の緑内障性変化は,最近まで立体眼底写真からの主観的な判断によるところが多く,ある程度の熟練を要した.視神経乳頭の客観的,定量的な判定が可能な機器の開発が望まれていた.HeidelbergRetinaTomograph(HRT)は視神経乳頭の解析装置として1991年に開発され10年以上が経過している.このHRTの開発により視神経乳頭の客観的で定量的な指標を得ることが可能になり,早期の緑内障変化だけでなく,緑内障を疑わせる視神経乳頭陥凹拡大症例にも広く利用されている.これまで緑内障眼,高眼圧症眼,あるいは視神経乳頭陥凹拡大眼の視神経乳頭形態についての報告がある25).また,緑内障眼の薬物使用例によるあるいは手術例による視神経乳頭形態の経時的変化についての報告もある612).しかし,視神経乳頭陥凹拡大症例の経時的変化の報告はない.今回,〔別刷請求先〕引田俊一:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:ShunichiHikita,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN視神経乳頭陥凹拡大症例における視神経乳頭形態の変化引田俊一*1井上賢治*1若倉雅登*1井上治郎*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座MorphologicalChangesinOpticNerveHeadTopographywithLarge-CupDiscsShunichiHikita1),KenjiInoue1),MasatoWakakura1),JiroInouye1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine目的:視神経乳頭陥凹拡大症例における視神経乳頭形態の変化を検討した.対象:視神経乳頭陥凹拡大症例30例を対象とした.男性12例,女性18例,平均年齢は49.6±13.4歳であった.視神経乳頭陥凹拡大症例は眼底検査で垂直cup/disc≧0.8,開放隅角,眼圧正常(≦21mmHg),視野正常(Humphrey視野中心30-2SITA-STANDARD)と定義した.視神経乳頭形状はHeidelbergRetinaTomograph(HRT)IIで測定した.眼圧,視野検査のmeandeviation(MD)値とpatternstandarddeviation(PSD)値,HRTの5つのパラメータ(rimarea,rimvolume,cupshapemeasure,heightvariationcontour,meanRNFLthickness)について2年間の変化を解析した(ANOVA).結果:2年間で眼圧,視野検査のMD値とPSD値,HRTの5つのパラメータに変化はなかった.結論:視神経乳頭陥凹拡大症例では,少なくとも2年間では視神経乳頭形態に変化はなかった.Toevaluatemorphologicalchangesovertimeinopticnerveheadtopographywithlarge-cupdisc,weprospec-tivelystudied30eyesof30subjectswithlarge-cupdisc(males:12eyes,females:18eyes,meanage:49.6±13.4yrs).Large-cupdiscwasdenedaslargecupping(cup/disc≧0.8),normalopenanglesinbotheyesongonioscopy,normalocularpressure(≦21mmHg)inbotheyes,andnormalvisualeldsasassessedbytheprogramSITA30-2ofHumphreyvisualeld.OpticdiscparametersweremeasuredusingaHeidelbergRetinaTomograph(HRT)II.Intraocularpressure(IOP),meanandpatternstandarddeviationofHumphreyvisualeld,andopticdiscparame-ters(rimarea,rimvolume,cupshapemeasure,heightvariationcontourandmeanretinalnerveberlayerthick-ness)attheinitialtime(time1)werecomparedwiththoseat2yearsaftertheinitialmeasurements(time2).IOP,meandeviation,patternstandarddeviationandallHRTparametersattime1weresimilartothoseattime2.Inlarge-cupdiscs,morphologicalchangesinopticnerveheadtopographywerenotdetectedafteraperiodof2years.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(7):10071010,2008〕Keywords:視神経乳頭陥凹拡大,視神経乳頭変化,HeidelbergレチナトモグラフII.largecupdisc,opticnervechange,HeidelbergRetinaTomographII.———————————————————————-Page21008あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(104)2年後は16.2±1.2mmHgで有意な差はなかった(p=0.27,ANOVA).2.視野(図2)MD値は,測定開始時は0.1±1.3dB,1年後は0.2±1.2dB,2年後は0.2±0.5dBで有意な差はなかった(p=0.64,ANOVA).PSD値は,測定開始時は1.7±0.4dB,1年後は1.6±0.3dB,2年後は1.8±0.5dBで有意な差はなかった(p=0.21,ANOVA).3.HRTIIのパラメータ(表1)Rimarea,rimvolume,cupshapemeasure,heightvariationcontour,meanRNFLthicknessともに測定開始時と1年後,2年後に有意な差はなかった.視神経乳頭陥凹拡大症例の視神経乳頭の形態をHRTで計測し,眼圧,視野とともにHRTの各パラメータの2年間にわたる変化を検討した.I対象および方法2003年4月から2004年9月の間に井上眼科病院緑内障外来を受診し,2年間以上経過観察されている視神経乳頭陥凹拡大症例のうち,HRTII(HeidelbergEngineering,Dos-senheimGermany)で視神経乳頭形状が測定され,解析可能な画像が得られた30例30眼を対象とした.内訳は,男性12例,女性18例,年齢は49.6±13.4歳(平均値±標準偏差)(2474歳),屈折度は1.4±2.6D(8.75+4.00D)であった.測定開始時の眼圧は16.5±1.8mmHg(1421mmHg)であった.Humphrey自動視野計プログラム中心30-2SITA-STANDARDのmeandeviation(MD)値は0.1±1.3dB(2.5+1.8dB),patternstandarddevia-tion(PSD)値は1.7±0.4dB(1.02.7dB)であった.今回,視神経乳頭陥凹拡大症例は矯正視力は1.2以上で,細隙灯顕微鏡あるいは検眼鏡による観察で前眼部,中間透光体に明らかな異常を認めず,視神経乳頭と網膜神経線維層に網膜神経線維層の欠損と乳頭出血を有していない.かつ,視神経乳頭の垂直cup/discが0.8以上で,視神経症や視野異常の存在を欠く病型とした.さらに隅角鏡検査で正常開放隅角,眼圧は統計学的に決定された正常値(21mmHg)を超えていない症例とした.なお,視野異常の判定はAndersonの基準を用いた13).眼圧測定はGoldmann圧平式眼圧計を用いた.視野検査はHumphrey視野検査で偽陽性,偽陰性,固視不良のいずれかが20%以上の症例は除外した.眼科手術の既往のある症例は除外した.両眼該当者では右眼を選択した.HRTIIの撮影は3名の検査員が行い,contourlineの描写は1名の医師が行った.各測定点におけるtopography測定値の標準偏差を表すtopographystandarddeviationが30μmを超える症例は除外した.眼圧,視野(MD値,PSD値),HRTIIで計測される視神経乳頭パラメータのうち以下に示す5種のパラメータを測定開始時と1年後,および2年後でANOVA(analysisofvariance)検定を用いて比較した.視神経乳頭パラメータはrimarea,rimvolume,cupshapemeasure,heightvariationcontour,meanretinalnerveverlayer(RNFL)thicknessを用いた.各検査は趣旨と内容を説明し,患者の同意を得た後に行った.II結果1.眼圧(図1)測定開始時は16.5±1.8mmHg,1年後は15.9±1.5mmHg,表1HRT5種類のパラメータ(対象30眼)開始時1年後2年後p値Rimarea(mm2)1.28±0.321.33±0.321.28±0.350.30Rimvolume(mm3)0.31±0.130.34±0.130.32±0.140.34Cupshapemeasure0.04±0.070.04±0.070.04±0.070.92Heightvariationcontour(mm)0.45±0.150.44±0.160.42±0.110.60MeanRNFLthickness(mm)0.23±0.090.25±0.080.25±0.080.26(ANOVA)2018161412100眼圧(mmHg)開始時1年後2年後NSNS(対象30眼)図1眼圧の経時的変化(ANOVA)43210-1-2-3-4(dB)2.521.510.50(dB)開始時1年後2年後開始時1年後2年後NSNSNSNSMD値(対象30眼)PSD値(対象30眼)図2視野(MD値およびPSD値)の経時的変化(ANOVA)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.7,20081009(105)内障患者9例17眼を10年間経過観察したところ,HRTのすべてのパラメータの回帰直線が,緑内障性変化が進行する方向に傾斜していたと報告した11).鈴木らは1年以上経過観察した慢性開放隅角緑内障患者35例35眼に対してHRTで視神経乳頭の経時的変化をprobabilitymapanalysispro-gramを用いて悪化,不変,改善の3群に分類した.改善群(5例)においてcuparea,cup/discratio,rimareaで有意な改善がみられたと報告した12).臨床の場で,視神経乳頭所見から緑内障が疑われるものの,眼圧・視野検査ともに正常であるものを1989年に富田らはglaucoma-likediskと定義した15)が,同様な所見を呈する視神経乳頭陥凹拡大症例にしばしば遭遇する.これらが,ごく初期の緑内障の変化であるか,正常範囲の視神経乳頭のバリエーションであるかはわかっていない.さらにこのような視神経乳頭陥凹拡大症例が緑内障に移行するかどうかは不明で,今回HRTを用いて視神経乳頭の経時的変化を検討した.今回検討した30眼の経過観察期間は2年間と短かったが,眼圧,視野(MD値およびPSD値)に変化はなかった.視野のMD値が2年間で2dB以上悪化した症例はなかった.また,HRTの視神経乳頭パラメータは今回検討したrimarea,rimvolume,cupshapemeasure,heightvaria-tioncontour,meanRFNLthicknessを含めてすべてのパラメータにおいて変化はなかった.しかし,今回検討したHRTの5つのパラメータすべてが1年後,2年後に測定開始時より10%以上悪化した症例が1例認められたが,視野の異常は認められなかった.この症例については,今後も経過観察が必要である.以上から,視神経乳頭陥凹拡大症例では少なくとも2年間では緑内障に移行する症例はなく,HRTにおいて視神経乳頭形態に変化はなかった.しかし,緑内障は慢性進行性の疾患であるため今後さらに長期的に経過観察する必要がある.文献1)QuigleyHA,DunkelbergerGR,GreenWR:Retinalgan-glioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimetryinhumaneyeswithglaucoma.AmJOpthalmol107:453-464,19892)IesterM,BroadwayDC,MikelbergFSetal:Acompari-sonofhealthy,ocularhypertensive,andglaucomatousopticdisctopographicparameters.JGlaucoma6:363-370,19973)ZangwillLM,VanHornS,LimaMSetal:Opticnerveheadtopographyinocularhypertensiveeyesusingconfo-calscanninglaserophthalmoscopy.AmJOphthalmol122:520-525,19964)柳川英里子,井上賢治,中井義幸ほか:開放隅角緑内障の視神経乳頭形状の画像解析的検討.あたらしい眼科22:239-243,2005III考按現在,視神経乳頭を客観的に解析するためにHRTやopti-calcoherencetomograph(OCT)などの画像解析装置が一般的に用いられている.これらの画像解析装置が開発される前はステレオ眼底写真を用いていた.その後,コンピュータ画像解析装置(opticnerveheadanalyzer)が開発され,臨床的に使用され,その有用性が報告された14).さらに,HRTやHRTIIが開発された.HRTIIはHRTの普及型として操作の自動化,システムの簡略化を目的に1999年に開発された.HRTやHRTIIを用いた緑内障眼の視神経乳頭形状解析や経時的変化の報告はある212)が,視神経乳頭陥凹拡大眼の経時的変化の報告はなく,今回検討した.緑内障病型の違いによる視神経乳頭形状解析の報告は多くみられる25).柳川らは,正常眼,開放隅角緑内障眼,高眼圧症眼のHRTIIによる視神経乳頭パラメータの比較では,開放隅角緑内障眼と高眼圧症眼の間にcuparea,cup/diskarearatio,rimarea,cupvolume,rimvolume,cupshapemeasureに,有意な差がみられたと報告した4).Iesterらは正常眼と高眼圧症眼とのHRTパラメータの比較では有意な差がないと報告した2).Zangwillらは高眼圧症眼と健常眼あるいは緑内障眼との間にHRTパラメータに有意な差がみられたと報告した3).国松らは視神経乳頭陥凹拡大眼,正常眼,正常眼圧緑内障眼の視神経乳頭形状を比較して,視神経乳頭陥凹拡大眼と正常眼ではheightvariationcontour以外のすべてのHRTパラメータで差を認めたが,視神経乳頭陥凹拡大眼と正常眼圧緑内障眼では視神経乳頭形状に差はなかったと報告した5).HRTを用いた視神経乳頭の経時的変化として,加藤らは無治療または薬物治療のみの正常眼圧緑内障患者30例56眼において経過観察期間5.6±1.3年の間に21眼でHRTでrimarea,rimvolume,meanRNFLthicknessのパラメータが進行したと報告した6).Bowdらは緑内障患者29例に対して平均2.7週間のラタノプロスト点眼を行ったところ,7mmHg以上眼圧が下降した症例ではcuparea,cupvol-ume,cup/discratioが有意に減少し,rimareaが有意に増加したと報告した7).中元らは正常眼圧緑内障患者25例25眼に平均55.2日間ラタノプロスト点眼を行ったところ,cuparea,cupvolume,cup/discratio,meancupdepthは有意に減少し,rimarea,rimvolume,rim/discarearatioは有意に増加したと報告した8).山本らは開放隅角緑内障または高眼圧症患者6例12眼に24週間ラタノプロスト点眼を行ったところrimarea,cupvolumeが改善したと報告した9).井上らは正常眼圧緑内障患者39例39眼に12カ月間ニプラジロール点眼を行ったところ,HRTIIのすべてのパラメータは点眼前と同等であったと報告した10).廣石らは緑———————————————————————-Page41010あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(106)5)国松志保,鈴木康之:緑内障セミナーGlaucoma-likediscを評価する.あたらしい眼科20:83-84,20036)加藤明子,杉山和久,河野吉喜ほか:緑内障眼における視神経乳頭の経時的形態変化の客観的評価.日眼会誌107:597-601,20037)BowdC,WeinrebRN,LeeBetal:Opticdisctopographyaftermedicaltreatmenttoreduceintraocularpressure.AmJOphthalmol130:280-286,20008)中元兼二,南野麻美,紀平弥生ほか:正常眼圧緑内障におけるラタノプロスト点眼前後の眼圧および視神経乳頭の変化.あたらしい眼科18:1417-1419,20019)山本哲也,澤田明,河野吉喜ほか:PhXA41点眼の視神経乳頭パラメータに対する影響.眼臨90:762-765,199610)井上賢治,安藤雅子,若倉雅登ほか:正常眼圧緑内障におけるニプラジロール点眼の効果.あたらしい眼科22:1553-1556,200511)廣石梧郎,小池生夫,池田康博ほか:眼圧緑内障における視神経乳頭形態の長期経時的変化.臨眼60:329-333,200612)鈴木順子,富田剛司,国松志保ほか:ハイデルベルグレチナトモグラフにおける新しい視神経乳頭変化判定プログラムを用いた乳頭形態の経過観察.臨眼55:1391-1396,200113)AndersonDR,PatellaVM:AutomatedStaticPerimetry.2nded,p121-190,Mosby,StLouis,199914)難波克彦:原発開放隅角緑内障とイメージアナライザー.あたらしい眼科9:1477-1483,199215)TomitaG,TakemotoT,SchwartzB:Glaucoma-likediskswithoutincreasedintraocularpressureorvisualeldloss.AmJOphthalmol108:496-504,1989***