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重症角膜上皮障害の原因が結膜弛緩症であった1例

2017年10月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科34(10):1445~1449,2017重症角膜上皮障害の原因が結膜弛緩症であった1例國見洋光*1秦未稀*1,2,3水野嘉信*2福井正樹*1,2,3*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2国立病院機構東京医療センター眼科*3南青山アイクリニックCACaseofSevereOcularSurfaceDisorderandSevereConjunctivochalasisHiromitsuKunimi1),MikiHata1,2,3)C,YoshinobuMizuno2)andMasakiFukui1,2,3)1)KeioUniversitySchoolofMedicine,DepartmentofOphthalmology,2)NationalHospitalOrganizationTokyoMedicalCenter,3)MinamiaoyamaEyeClinic緒言:角膜上皮にとって結膜の役割は二面性をもつ.たとえば,瞼板縫合・結膜被覆は結膜の角膜上皮保護だが,lidwiperepitheliopathyや上輪部角結膜炎などは角膜上皮障害となる.今回,筆者らは結膜弛緩症により重症角結膜上皮障害を生じたと考えられるC1例を経験したので報告する.症例:ぶどう膜炎,白内障,後発白内障の既往のある84歳,男性.角膜上皮障害で当院通院加療されていた.2015年C10月より左眼で角膜上皮障害が強くなった.ドライアイ治療に反応があるものの寛解しなかった.結膜弛緩症が強く,これによる影響の可能性を考え,2016年C2月左眼結膜強膜縫着術を行ったところ,角膜上皮障害の改善が得られた.その後右眼も結膜強膜縫着術を行った.術中,結膜.の短縮を認めた.術後,角膜上皮障害の再発はない.考按:結膜弛緩症が原因の慢性角膜上皮障害の症例を経験した.機序としては結膜炎症の波及,角結膜の擦過,盗涙現象による涙液分布の不均一性が考えられた.CPurpose:Theconjunctivahasbothgoodandbadrolesintheocularsurface.Herewereportacaseofsevereocularsurfacedisordercausedbysevereconjunctivochalasis.Methods:Casepresentation.Results:An84-year-old-malewithuveitiswasbeingtreatedinourhospitalforocularsurfacedisorder.HehadpreviouslyundergonecataractsurgeryandNd:YAGlaserposteriorcapsulotomyinbotheyes.FromOctober2015,botheyesexhibitedworseningocularsurfacedisorder,alsoshowingconjunctivochalasis.ConcludingthatonereasonforthebadocularsurfaceCwasCtheCconjunctivochalasis,CweCoperated.CPostoperatively,CtheCocularCsurfaceCimprovedCtoCclarity.CConclu-sion:Wereportacasewithsevereocularsurfacedisorderduetosevereconjunctivochalasis.Thecausesofthisconditionmayincludefriction,tearinstability,andin.ammationoftheconjunctiva.Whentreatingtheocularsur.face,thee.ectontheconjunctivashouldbeconsidered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(10):1445~1449,C2017〕Keywords:結膜弛緩症,角結膜上皮障害,結膜弛緩症手術,結膜強膜縫着術.conjunctivochalasis,ocularsurfacedisorder,surgicaltechniqueforconjunctivochalasis,conjunctival.xationtosclera.Cはじめに角膜上皮にとって結膜の役割は二面性をもつと考えられる.たとえば,角膜上皮障害や角膜潰瘍に対する瞼板縫合による治療1)では,結膜は角膜上皮を保護する役割をもつが,一方,lidCwiperCepitheliopathy(LWE)2)や上輪部角結膜炎3)などでは,結膜は角膜上皮に障害を与える.ところで,結膜弛緩症も角膜に影響を与える.結膜弛緩症とは眼球と下眼瞼の間に認める重複し,弛緩した,非浮腫性の結膜のことと定義される.広義では眼球と上眼瞼との間に認めることもある.合併症としては軽度で涙液層の不安定性,中等度で涙液交換の障害,重度で疼痛や周辺部潰瘍などを認める.今回,筆者らは難治性角膜上皮障害をきたし,その原因疾患の診断に苦労し,治療的診断として結膜弛緩症手術を行ったところ術後より角膜上皮障害が改善し,再発を認めなくなった症例を経験した.結膜弛緩症が原因となり,重症角膜上皮障害をきたしたC1例と考えられたので報告する.〔別刷請求先〕國見洋光:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:HiromitsuKunimi,KeioUniversitySchoolofMedicine,DepartmentofOphthalmology,35Shinanomachi,Shinjyuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANI症例ンター(以下,当院)に通院していた.白内障手術と後発白内障切開術を両眼に受けた既往がある.ステロイド点眼,抗症例はC84歳,男性.既往にぶどう膜炎,黄斑前膜があり,菌薬点眼,ドライアイ点眼,自己血清点眼,治療用コンタク角結膜障害で平成C16年C12月より国立病院機構東京医療セトレンズ(MCUCL)による治療を受けていた.2C008年には視a.2015年6月b.2015年10月図1初診時および左眼角膜上皮障害時の前眼部所見a:初診時前眼部所見.両眼とも角結膜障害はほぼ認めなかった.Cb:左眼に重度の角膜上皮障害を認める.点状表層角膜炎(破線内および・)と角膜潰瘍(.)を認めた.図2左眼手術図a:上転させ,角膜輪部からC10Cmmを目安に下方結膜を強膜へC2列縫合した.Cb:下転させ,角膜輪部からC10Cmmを目安に上方結膜を強膜へC2列縫合した.Cc:手術終了時の縫合図.:縫合.図3結膜弛緩症手術前後の前眼部所見(右眼)a:自然開瞼で鼻側,下方,耳側の結膜弛緩症が確認できる(破線).b:3~10時の結膜弛緩症を認め(破線),角膜輪部を結膜が被っている.Cc:被っていた結膜が伸展され,結膜弛緩症がない.d:強制開瞼でも角膜輪部を結膜は被っていない.力は両眼とも矯正視力(0.7)であったが,その後徐々に視力低下し,2013年にはCVD=(0.6),VS=(0.3)になった.2015年C6月,担当医交代により診察を引き継いだ際の視力は,VD=(0.3C×sph+5.00D(cyl-3.50DCAx70°),VS=(0.1C×sph+3.00D(cyl-1.25DCAx90°),治療薬はC0.1%フルオロメトロン点眼両眼C1日C4回,0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼両眼C1日C5回,自己血清点眼両眼C1日C4回,MUCL装着であった.初診時にCMUCLが脱落していたが,角膜上皮障害は少なかった(図1a)ため,MUCLの中止も試みたが,その後異物感や見え方が悪いなどの症状が出現したため,着脱を繰り返して経過観察していた.2015年C10月の再診時よりとくに左眼で角結膜上皮障害が悪化し,しばしば角膜潰瘍を認めるようになった(図1b).MUCLで多少の改善を認めるものの,点眼治療(0.1%フルオロメトロン点眼両眼C1日C4回,0.1%ヒアルロン酸ナトリウム両眼C1日C4回,自己血清点眼両眼C1日C4回)にも反応が悪く,寛解しなかった.結膜弛緩症がもともと強かったことから眼表面に何らかの影響があるのではないかと考えた.2016年C2月には視力もCVD=(0.2C×sph+9.00D(cyl-8.00DAx85°),VS=(0.03C×sph+6.50D(cyl-1.50DCAx90°)まで低下したため,左眼結膜弛緩症手術(結膜強膜縫合術)を行った.手術は上下結膜の弛緩を認めたことから,上下結膜にC10-0ナイロン糸で輪部からC10Cmmの位置を目安に角膜輪部に水平にC5針をC2列ずつ上下結膜・強膜縫合を行った(図2).術前よりC0.1%フルオロメトロン点眼両眼C1日C4回,0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼両眼C1日C5回,自己血清点眼両眼C1日C4回,を使用していたため,術後はこれにC0.3%ガチフロキサシン点眼を左眼C1日C4回追加した.術翌日よCり結膜弛緩症は改善し,その後,徐々に角膜上皮障害の改善を認めた.2016年C4月頃より右眼の眼痛を訴え始め,視力もCVD=0.04(n.c.),VS=0.04(0.04C×sph+4.00D)と低下した.右眼にも点状表層角膜炎,角膜上皮びらん,角膜潰瘍といった角膜上皮障害を認めるようになり,左眼同様,結膜弛緩症のa.下方結膜強膜縫合b.鼻側および耳側結膜の切開c.上方結膜強膜縫合d.術終了時図4右眼術中所見a:左眼同様右眼下方結膜を強膜にC10-0ナイロン糸でC5カ所C2列に縫合.Cb:下方結膜強膜縫合術後,上方の結膜が角膜上を覆っており,伸展不可能であった.そのため,鼻側および耳側結膜を切開した.Cc:下方同様,上方も結膜を強膜にC10-0ナイロン糸でC5カ所2列に縫合.Cd:手術終了時,結膜は伸展している.関与を考え(図3a,b),同月右眼結膜弛緩症手術を行った.術式は左眼同様,上下結膜にC10-0ナイロン糸で結膜角膜縫合術を行ったが,術中,先に下方の結膜強膜縫合術をC10針行ったところで上方結膜が角膜を半分以上覆うほど下方に牽引されている所見を認め,上方の結膜強膜縫着を行うために鑷子で伸展しようとしても伸展できない状態であった.結膜.短縮による結膜の伸展不足と考え,耳側および鼻側の結膜を切開し,結膜を伸展して上方結膜もC10針,結膜強膜縫合術を行った(図4).術後点眼は左眼結膜症術後と同様,0.1%フルオロメトロン点眼両眼C1日C4回,0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼両眼C1日C5回,自己血清点眼両眼C1日C4回,0.3%ガチフロキサシン点眼両眼C1日C4回とした.結膜弛緩症は改善し(図3c,d),角膜上皮障害は徐々に改善し,点状表層角膜炎(super.cialCpunctateCkeratitis:SPK)をわずかに認めるのみになった(図5).2016年C12月の時点で視力もCVD=(0.3C×sph+1.75D(cyl-3.50DCAx75°),VS=(0.2C×sph-3.75D(cyl-3.50DCAx75°)まで改善した.経過中点眼は左眼術後C4カ月,右眼術後C5カ月をめどにC0.1%フルオロメトロン点眼液とC0.3%ガチフロ点眼液をC1日C3回に減らしたが,角膜上皮障害の再発は認めていない.CII考按難治性角結膜上皮障害に結膜弛緩症が関与していると考えられたC1例を経験した.冒頭にも述べたように一般的に眼表C図5現在の前眼部所見(2016年C12月)両眼とも角膜輪部を覆っていた結膜が伸展しており,角膜上皮は点状表層角膜炎をわずかに認める(・)までに改善している.面に対する結膜の役割には二面性があると思われる.瞼板縫合や結膜被覆を行うのは眼表面に対する結膜の保護効果を狙ってであり,LWEや上輪部角結膜炎は瞬目などの物理的摩擦で結膜が角結膜に障害を及ぼすと考えられる.今回,筆者らは結膜弛緩症に伴う角結膜上皮障害を経験し,術後に抗菌薬点眼の追加を行った以外,治療法を変えずに結膜弛緩症手術により改善が得られたことは,結膜弛緩症と角結膜上皮障害の関連性を強く示唆するものであると考えられた.ただし,術中に所見として結膜.短縮を認めており,何らかの結膜あるいは眼表面の炎症があった可能性が考えられる.この眼表面炎症が遷延することで角膜上皮障害が難治であった可能性が考えられる.また,角膜上皮障害が生じている部分は結膜の接している部分に一致しており,弛緩結膜による角膜上皮への摩擦が常に生じていたと考えられる.また,結膜弛緩により涙液メニスカスの涙液は分断され,いわゆる“盗涙現象”が生じて瞬目時の角膜上への涙液分配不全が起こり,角膜上の涙液層不安定化と眼表面摩擦の亢進がさらに角膜上皮障害を難治にさせたと推察される.また,現在,結膜弛緩症手術には,・結膜余剰部を切開して縫合する方法4),・結膜を伸展させて強膜に縫着する方法5),・結膜余剰部を熱凝固して短縮する方法6)がある.それぞれの術式に利点,欠点を伴うが,本症例のように結膜.短縮が生じて結膜弛緩が悪化しているような症例の場合に・や・といった結膜の短縮を促す加療を行うと,病態が悪化する可能性があると考えられる.とくに近年,結膜弛緩症の手術での簡便さから・が選択されることが多くなっているが,・では術中に結膜全体の様子をみることなく手術を行えるので注意が必要である.現在,術後半年が経過しているが,その後角結膜上皮障害の再発は認めていない.長期的な予後に関しては今後注意深く経過観察したい.文献1)PortnoyCSL,CInslerCMS,CKaufmanCHE:SurgicalCmanage.mentCofCcornealCulcerationCandCperforation.CSurvCOphthal.molC34:47-58,C19892)McMonniesCW:Incompleteblinking:exposurekeratop.athy,lidwiperepitheliopathy,dryeye,refractivesurgery,andCdryCcontactClenses.CContCLensCAnteriorCEyeC30:37.51,C20073)NelsonCJD:SuperiorClimbicCkeratoconjunctivitis(SLK)C.CEyeC3:180-189,C19894)YokoiN,InatomiT,KinoshitaS:Surgeryoftheconjunc.tiva.DevOphthalmolC41:138-158,C20085)OtakaCI,CKyuCN:ACnewCsurgicalCtechniqueCforCmanage.mentCofCconjunctivochalasis.CAmCJCOphthalmolC129:385.387,C20006)KashimaT,AkiyamaH,MiuraFetal:Improvedsubjec.tiveCsymptomsCofCconjunctivochalasisCusingCbipolarCdia.thermyCmethodCforCconjunctivalCshrinkage.CClinCOphthal-mol(Auckland,NZ)C5:1391-1396,C2011***