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拒絶反応既往眼に対する複数回の角膜移植術後に良好な術後経過を得た1例

2020年11月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科37(11):1435.1438,2020c拒絶反応既往眼に対する複数回の角膜移植術後に良好な術後経過を得た1例川崎麻矢*1脇舛耕一*1北澤耕司*2粥川佳菜絵*2山崎俊秀*1稲富勉*2外園千恵*2木下茂*1,2*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学眼科学教室CSuccessfulDSAEKPostRepeatKeratoplastySurgeryforCornealGraftRejectionMayaKawsaki1),KoichiWakimasu1),KojiKitazawa2),KanaeKayukawa2),ToshihideYamasaki1),TsutomuInatomi2),ChieSotozono2)andShigeruKinoshita1,2)1)BaptistEyeInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC緒言:複数回の角膜移植術後では拒絶反応のリスクが高まるとされている.今回,筆者らは拒絶反応既往眼に対するC6回目の角膜移植で良好な経過を得たC1例を経験したので,その臨床経過を報告する.症例:48歳,女性.他院にて左眼角膜ヘルペス後の角膜混濁に対しC3回の角膜移植を受けたが,いずれも拒絶反応を生じ水疱性角膜症となった.バプテスト眼科クリニックにてC2010年C12月C17日に全層角膜移植術および白内障手術,2012年C8月C9日にデスメ膜.離角膜内皮移植術(DSAEK)を施行したが,いずれも約C2カ月とC4カ月で拒絶反応を認め水疱性角膜症となった.2014年C12月C19日にCDSAEKを施行し,術後は,リン酸ベタメタゾン点眼およびシクロスポリンC500Cmg,ミコフェノール酸モフェチル(MMF)1,000Cmg,プレドニゾロンC10Cmg内服を行い,漸減した.現在もリン酸ベタメタゾン点眼およびCMMF500Cmg内服は継続している.最終観察時の術後C5年の角膜内皮細胞密度はC2,018Ccells/mmC2,矯正視力(小数換算)はC0.4で,角膜は透明であり,眼圧コントロールは良好,術後合併症は認めていない.結論:複数回の角膜移植後拒絶反応を生じていても,角膜再移植により術後に良好な視機能改善が得られる可能性が示唆された.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCanCexcellentCpostoperativeCoutcomeCinCaCpatientCwhoCunderwentCDescemet’sCstrippingautomatedendothelialkeratoplasty(DSAEK)after5repeatkeratoplastysurgeriesforcornealgraftfail-urecausedbycornealendothelialrejection.Casereport:A48-year-oldfemalepresentedwithahistoryofunder-going5repeatkeratoplastysurgeriesduetopostoperativerejectionofthetransplantedcornealgraft.InDecember2014,CDSAEKCwasCperformed,CwithCaCpostoperativeCtreatmentCofCtopicallyCadministeredCbetamethasoneCsodiumCphosphateeyedropsandagraduallytaperedoraladministrationofcyclosporine,mycophenolatemofetil,andpred-nisolone.CPostCsurgery,CtheCpatient’sC.nalCspectacle-correctedCvisualCacuityCwasC20/50CandCherCcornealCendothelialCcellCdensityCwasC2,018Ccells/mm2,CandCnoCgraftCrejectionCorCocularCcomplicationsChaveCoccurred.CConclusion:Our.ndingsrevealthatDSAEKcanbesuccessfullyperformedwithagoodsurgicaloutcomeinpatientswhohavepre-viouslyundergonerepeatkeratoplastyforrejectionofthetransplantedcornealgrafts.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(11):1435.1438,C2020〕Keywords:角膜全層移植,角膜内皮移植,拒絶反応,再移植.penetratingkeratoplasty,Descemetstrippingau-tomatedendothelialkeratoplasty,rejection,regraft.Cはじめにされた疾患であるとされている1).ただし,角膜再移植では角膜移植片機能不全は角膜移植の適応の一つであり,2018拒絶反応の出現頻度が高くなり,初回手術に比べて移植片生年のCEyeCBankCAssociationCofAmericaの報告では,Fuchs存率が低くなると考えられている.とくに術前に拒絶反応の角膜内皮ジストロフィに続いてC2番目に多く角膜移植が施行既往があると予後不良であると報告されている2,3).しかし,〔別刷請求先〕脇舛耕一:〒606-8287京都市左京区北白川上池田町C12バプテスト眼科クリニックReprintrequests:KoichiWakimasu,M.D.,BaptistEyeInstitute,12Kamiikeda-cho,Kitashirakawa,Sakyou-ku,Kyoto606-8287,CJAPANC近年では手術技術の向上から移植片機能不全に対して全層角膜移植(penetratingCkeratoplasty:PKP)だけでなく,合併症がより少ないとされるデスメ膜.離角膜内皮移植術(Des-cemetCstrippingCautomatedCendothelialkeratoplasty:DSAEK)やデスメ膜角膜内皮移植術(DescemetCmembraneCendothelialkeratoplasty:DMEK)などの角膜内皮移植も選択肢の一つとなり,施行される機会も増加してきた4,5).今回,筆者らは,このような背景のなかで,角膜移植後に拒絶反応を生じた角膜移植片機能不全眼に対してC6回の角膜移植を繰り返し,6回目の角膜移植が長期にわたり角膜透明性を維持し,かつ高い角膜内皮細胞密度を維持し,良好な視機能改善を得た症例を経験したので,その臨床経過を報告する.I症例患者:48歳,女性.現病歴:片眼性の角膜ヘルペス(左眼)後の角膜混濁に対して,他院にてC2003年に表層角膜移植術,そしてC2004年,2009年にCPKPが施行されたが,いずれも手術後約C8カ月と5カ月で内皮型拒絶反応を発症し,水疱性角膜症に陥り,2010年C10月にバプテスト眼科クリニック(以下,当院)に紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼C0.9(1.5C×cyl.0.75DCAx90°),左眼C0.01(矯正不能)で,眼圧は右眼15mmHg,左眼11mmHgであった.細隙灯顕微鏡所見では右眼には特記すべき異常を認めず,左眼にはCPKP後の移植片機能不全による水疱性角図1術前および術後の前眼部所見a:2010年C10月,3回の角膜移植により移植片機能不全に陥ったCPKP術前の前眼部写真.Cb:2010年C10月,PKPおよび白内障手術後の前眼部写真.Cc:2012年C8月,術前の前眼部写真.Cd:2012年C8月,DSAEK術後の前眼部写真.Ce:2014年C12月,5回の角膜移植により移植片混濁に陥ったCDSAEK術前の前眼部写真.Cf:2014年C12月,DSAEK術後の前眼部写真.手術術後1カ月3カ月6カ月1年2年3年4年当日1週間図2術後投薬表ab図3術後5年の角膜所見a:前眼部写真.角膜は透明である.Cb:前眼部COCT.PASを認めない.Cc:スペキュラーマイクロスコープ像.高密度ソル・メドロール125mg静注リンデロン4mg静注リンデロン錠プレドニン錠ネオーラルカプセルセルセプトカプセルリンデロン点眼液ガチフロ点眼液ベストロン点眼液ゾビラックス眼軟膏10mg5mg100mg1,000mg4回/日1回/日5mg隔日100mg隔日50mg3日に1回500mg4回/日5mg3日に1回500mg隔日3回/日2回/日の角膜内皮細胞を認める.膜症を認めたが,周辺部虹彩前癒着(peripheralCanteriorsynechia:PAS)や続発緑内障などの合併症は認めなかった(図1a).経過:2010年C12月に当院にてCPKPおよび白内障同時手術を施行したが約C2カ月後に拒絶反応を生じたため,2012年C8月にCDSAEKを施行,術後約C4カ月で拒絶反応により移植片機能不全となった(図1b~d).この間,眼圧は正常範囲であった.その後,2014年C12月に再度CDSAEKを施行した(図1e,f).周術期および術後の全身投薬には副腎皮質ステロイドと免疫抑制薬を併用した.副腎皮質ステロイドは,術当日にはメチルプレドニゾロン(ソル・メドロール)125Cmg,術翌日よりC2日間はベタメタゾンリン酸エステルナトリウム(リンデロン)4Cmg静脈内注射を行った.術後C3日目からは内服に切り替え,リンデロンC1CmgをC5日間,術後C8日目の退院時からはプレドニゾロン(プレドニン)10mgへ変更した.免疫抑制薬は,術当日よりシクロスポリン(ネオーラル)100Cmg内服を開始し,術後C6日目からはミコフェノール酸モフェチル(セルセプト)1,000Cmgも併用した.局所投薬は術翌日よりリンデロン点眼およびガチフロキサシン(ガチフロ)点眼をC1日C4回で開始した.退院後は,図2のように投薬量の漸減を行った.現在もセルセプトの内服と局所投薬は継続している.最終観察時の術後C5年経過時点で移植片は透明で拒絶反応を認めず,角膜内皮細胞密度C2,018Ccells/mm2,矯正視力(小数換算)0.4を保っている.眼圧コントロールも良好であり,続発緑内障やCPASなどの術後眼合併症さらには全身合併症も認めていない(図3).CII考按従来,PKP後の移植片機能不全に対してはCPKPによる再移植が主流であった.しかし,繰り返すCPKPの予後は不良であるとの報告が多く2,3),移植片機能不全を繰り返す症例には人工角膜を用いた角膜移植が行われる場合もある.一方で,北澤らは複数回のCPKP施行眼の術後C5年の角膜透明維持率は約C64%であり,適切な手術と適切な免疫抑制により初回CPKPとほぼ同等の角膜透明性を維持できる可能性があると報告している6).また,最近はCPKPと比較して手術後の続発緑内障や感染症,拒絶反応などの合併症の発症率が低いといわれているCDSAEKをCPKP後の移植片機能不全例に対して行うことも増加してきている.PKP後の再CPKP群とDSAEK群のC3年生存率は,それぞれ,KitzmannらはC57.9%とC68.6%4),AngらはC66.8%とC86.4%5)と報告しており,後者のほうがより良好な傾向にあると考えられている.このため,本症例では拒絶反応や前述の合併症のリスクを減らすために,最終移植となるC6回目の手術時にはCDSAEKを選択した.角膜移植後の拒絶反応の危険因子としては拒絶反応の既往,緑内障,感染症,ステロイドレスポンダー,若年者などがあげられる7).DSAEKの拒絶反応発症率はC5年間でC5.0C±2.1%と報告されているが8),Mitryらは移植片機能不全に陥ったCPKPに対するCDSAEKではC16.7%に拒絶反応が発症したと報告している9).本症例はこれまでに拒絶反応を複数回発症しておりハイリスクと考え,術後は副腎皮質ステロイドと免疫抑制薬の全身投与を用いての管理を行った.とくに,手術直後には自然免疫応答を抑制するためにメチルプレドニゾロンの全身投与を行った.副腎皮質ステロイドはCT細胞およびCB細胞の双方を抑制することができるが,易感染性,糖尿病,消化性潰瘍,骨粗鬆症など全身的な副作用も多く,長期投与にはリスクが高く注意を要する.そこで今回は副腎皮質ステロイドだけでなく,腎移植後と同様のネオーラルとセルセプトのC2種類の免疫抑制薬を併用した.一般的な急性拒絶反応は細胞性免疫の関与により生じCT細胞が主体となり引き起こされるため,T細胞を特異的に抑制するネオーラルが効果的であると考えられる.しかし,慢性拒絶反応では抗CHLA抗体などの関与も考えられており,その場合はCB細胞や形質細胞が主体となるため,ネオーラルのみでは免疫抑制が不十分な可能性が考えられる.そこで今回はC2012年のCDSAEK術直後には投与していなかったセルセプトの内服の併用も行った.このことが長期にわたった良好な角膜内皮細胞密度の維持に寄与した因子の一つであると推測された.また,本症例では初回移植手術時から最終移植手術時までにC10年以上経過している.一般に加齢とともに免疫能が低下することが知られており,羽室らはマウスにおいて,ヘルパーCT細胞におけるCTh1/Th2バランスは加齢によりCTh2に傾斜すると報告しており10),ヒトにおいても細胞性免疫を引き起こすキラーCT細胞を誘導するCTh1が減少することで良好な術後経過が得られた可能性がある.本症例では初診時から現在に至るまでに続発緑内障やPAS,感染症などの合併症を認めていない.今回の症例は,角膜移植後拒絶反応を繰り返した移植片内皮機能不全例であっても,その他の合併症,とくに続発緑内障を生じていなければ,角膜再移植によって良好な視機能改善が得られる可能性があること,そしてその際の術式の選択としては角膜内皮移植が有用であることを示唆している.文献1)EyeBankAssociationofAmerica:Statisticalreportanal-ysis.C2018CeyeCbankingCstatisticalCreport,C10,CEyeCBankCAssociacionofAmerica,WashingtonD.C.,20192)Al-MezaineCH,CWagonerM:RepeatCpenetratingCkerato-plasty:Indications,graftsurvival,andvisualoutcome.BrJOphthalmolC90:324-327,C20063)OnoCT,CIshiyamaCS,CHayashideraCTCetal:Twelve-yearCfollow-upCofCpenetratingCkeratoplasty.CJpnCJCOphthalmolC61:131-136,C20174)KitzmannA,WandlingG,SutphinJetal:ComparisonofoutcomesCofCpenetratingCkeratoplastyCversusCDescemet’sCstrippingautomatedendothelialkeratoplastyforpenetrat-ingCkeratoplastyCgraftCfailureCdueCtoCcornealCedema.CIntCOphthalmolC32:15-23,C20125)AngCM,CHoCH,CWongCCCetal:EndothelialCkeratoplastyCafterCfailedpenetratingCkeratoplasty:AnCalternativeCtoCrepeatCpenetratingCkeratoplasty.CAmCJCOphthalmolC158:C1221-1227,C20146)KitazawaK,WakimasuK,KayukawaKetal:Moderatelylong-termCsafetyCandCe.cacyCofCrepeatCpenetratingCkera-toplasty.CorneaC37:1255-1259,C20187)PriceCM,CJordanCC,CMooreCGCetal:GraftCrejectionCepi-sodesCafterCDescemetCstrippingCwithCendothelialCkerato-plasty:Parttwo:TheCstatisticalCanalysisCofCprobabilityCandriskfactors.BrJOphthalmolC93:391-395,C20098)AngCM,CSohCY,CHtoonCHCetal:Five-yearCgraftCsurvivalCcomparingDescemetstrippingautomatedendothelialker-atoplastyCandCpenetratingCkeratoplasty.COphthalmologyC123:1646-1652,C20169)MitryCD,CBhogalCM,CPatelCACetal:DescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplastyCafterCfailedCpenetrat-ingCkeratoplasty:Survival,CrejectionCrisk,CandCvisualCout-come.JAMAOphthalmolC132:742-749,C201410)羽室淳爾:免疫とアンチエイジング眼科学.あたらしい眼科23:1283-1289,C2006***