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レーザー生体共焦点顕微鏡が診断に有用であった 無痛性アカントアメーバ角膜炎の1 例

2023年4月30日 日曜日

《第58回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科40(4):556.559,2023cレーザー生体共焦点顕微鏡が診断に有用であった無痛性アカントアメーバ角膜炎の1例三澤真奈美*1伊野田悟*1,2渡辺芽里*1川島秀俊*1*1自治医科大学眼科学講座*2新小山市民病院眼科CACaseofPainlessAcanthamoebaKeratitisDiagnosedwithConfocalLaserScanningMicroscopyManamiMisawa1),SatoruInoda1,2),MeriWatanabe1)andHidetoshiKawashima1)1)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,Shin-OyamaCityHospitalC症例はC52歳,男性.左眼視力低下を主訴に前医受診.前医初診時に疼痛はなく,角膜上皮障害・実質混濁のためヘルペス角膜炎が疑われ,抗ウイルス薬,ステロイド点眼を含む局所加療をC1カ月継続したが,改善なく自治医科大学附属病院(以下,当院)を紹介受診.当院初診時,左眼に毛様充血はなく,角膜上皮下に輪状浸潤影を認めた.疼痛を認めず,ステロイド点眼を休薬すると,毛様充血の出現と輪状浸潤影が増悪した.レーザー生体共焦点顕微鏡(LCM)によって,アメーバシスト様の円形高輝度物質を上皮内に認めた.浸潤影部の擦過・塗抹鏡検によりアメーバシストを同定し,アカントアメーバ角膜炎(AK)と確定診断した.角膜掻爬,クロルヘキシジン点眼,ボリコナゾール点眼で加療したが奏効せず,polyhexamethylenebiguanide点眼とベタメタゾン錠内服を開始し,病態が改善した.無痛性でもCAKを鑑別に上げることは重要であり,非侵襲的なCLCMはCAKの診断補助に有用である.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCpainlessCAcanthamoebakeratitis(AK)thatCwasCsuccessfullyCdiagnosedCwithCconfocallaserscanningmicroscopy(CLSM).Casereport:A52-year-oldmalevisitedanotherclinicafterbecom-ingawareofdecreasedvisioninhislefteye.Slit-lampexaminationrevealedcornealsuper.cialpunctatekeratopa-thyandstromalopacity,yetwithnopain.Hewasdiagnosedwithherpeticsimplexkeratitis,andtreatedwithacy-clovirCandCtopicalCcorticosteroid.CHowever,CheCwasCreferredCtoCourChospitalC1CmonthClaterCdueCtoCnoCimprovement.CUponexamination,weobservedaring-shapedcornealstromalsuper.cialopacitywithoutciliaryhyperemiainhisleftCeye,CandCCLSMCexaminationCrevealedCAcanthamoebaCcyst-likeCcircularChyperintenseCmaterialsCinCtheCepitheli-um.CornealabrasionsmearmicroscopyrevealedAcanthamoebacysts,andade.nitivediagnosisofAKwasmade.TopicalCchlorhexidineCandCvoriconazoleCwereCadministered,CyetCthereCwasCnoCimprovement,CsoCtreatmentCwasCswitchedtotopicalpolyhexamethylenebiguanideandoralbetamethasoneandtheAKgraduallyimproved.Conclu-sions:CLSMwasfoundtobeausefulnoninvasivetoolforthediagnosisofpainlessAK.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(4):556.559,C2023〕Keywords:アカントアメーバ角膜炎,レーザー生体共焦点顕微鏡,角膜知覚低下.acanthamoebakeratitis,laserconfocalscanningmicroscope,cornealhypoesthesia.Cはじめにアカントアメーバは土壌や水道水に常在する原生生物で,栄養体またはシストの二相性で存在する.アカントアメーバ角膜炎(Acanthamoebakeratitis:AK)は重篤な視力障害をきたす可能性のある角膜感染症で,ソフトコンタクトレンズ(SCL)使用者において増加傾向を認める1).典型的には,初期に偽樹枝状角膜炎,角膜上皮・上皮下混濁,結膜充血などの所見を呈し,移行期にリング状角膜浸潤病変,完成期には角膜円盤状混濁,角膜潰瘍,前房蓄膿をきたす2).発症者の50.95%が有痛性であるとされ,診断の一助となる1,3).確定診断は往々にして困難であり,確定診断前のステロイド加療は重症化のリスクとされている4.6).〔別刷請求先〕三澤真奈美:〒329-0498栃木県下野市薬師寺C3311-1自治医科大学眼科学講座Reprintrequests:ManamiMisawa,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,3311-1Yakushiji,Shimotsuke,Tochigi329-0498,JAPANC556(124)図1当院初診時の左眼前眼部所見a:充血を伴わず,角膜輪状浸潤影を認めた.Cb:フルオレセイン染色にて角膜中央部から輪状混濁部にかけて点状上皮障害を認め,上皮欠損は伴わなかった.レーザー生体共焦点顕微鏡(laserCconfocalCscanningmicroscopy:LCM)は,レーザー光を光源として焦点に合わせるための角膜モジュールを使用すると,光学切片が2Cμm程度の高解像度の画像を得られ,アカントアメーバのシストの観察や真菌の菌糸の観察に有用とされる7,8).今回,LCMが無痛性CAKの診断に有用であった症例を経験したので報告する.CI症例患者:52歳,男性.主訴:左眼視力低下,眼痛なし.既往歴:特記すべき事項なし,2週間交換型CSCL使用.現病歴:20XX年C10月,左眼視力低下を主訴に前医受診.初診時に疼痛なく,角膜上皮障害・実質混濁を認めた.前医にて単純ヘルペス(herpesCsimplexvirus:HSV)角膜炎が疑われ,アシクロビル眼軟膏C3%,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%点眼,レボフロキサシンC1.5%点眼,ヒアルロン酸ナトリウムC0.1%点眼各C5回/日を処方された.1カ月の経過で臨床所見,症状に改善が認められずC20XX年11月自治医科大学附属病院(以下,当院)を紹介受診した.初診時所見:視力は右眼(1.2C×sph.5.5D),左眼(0.3C×sph.5.0D).眼圧は右眼C10mmHg,左眼13mmHgであった.左眼に角膜の輪状浸潤影を認めたが,上皮欠損,結膜毛様充血,流涙,疼痛は伴わなかった(図1).右眼の前眼部および中間透光体には異常所見は認めなかった.前医でのベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%点眼により,疼痛や充血などの臨床所見が修飾されている可能性を考え,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%点眼を中止した.初診C3日後には左眼結膜毛様充血の出現,角膜輪状浸潤影の増悪を認めた.なお,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%点眼中止後も疼痛はなかった.図2アカントアメーバの画像所見a:レーザー生体共焦点顕微鏡所見.深度C22Cμmでの撮影.アカントアメーバシスト様の隔壁を有した円形高輝度物質を角膜上皮内に認めた.Cb:前眼部光干渉断層計画像.角膜上皮下,実質浅層内に,輪状混濁と一致し,角膜曲線と平行に走る高反射域を認めた.Cc:角膜擦過検体の塗抹像(C×400).ディフクイック染色像.隔壁が染まったアカントアメーバシストを認めた.無痛性であったため,非侵襲的なCLCMによる探索を先行して施行した.LCMによる探索では,角膜上皮内にアカントアメーバのシスト様のC10.20Cμmの円形高輝度物質を認めた(図2a).無痛性であったが,前医からの経過,輪状角膜浸潤影所見,頻回交換型CSCL使用の既往,そしてCLCM図3角膜掻爬,0.05%クロルヘキシジン点眼,1%ボリコナゾール点眼開始後の経過a:治療開始前の左眼前眼部.Cb:治療C10日目.角膜輪状浸潤影の増悪,結膜毛様充血の前房蓄膿の増悪を認めた.Cc:治療C22日目.角膜浸潤影の深層への増悪,潰瘍病変の出現,前房蓄膿の増悪を認めた.図40.02%polyhexamethylenebiguanide点眼+ベタメタゾン1mg内服後1カ月の左眼前眼部所見治療変更からC1カ月,角膜輪状浸潤影は縮小傾向となり,瘢痕化しつつある.で確認された円形高輝度物質からCAKを疑った.前眼部光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)では角膜実質浅層に輪状混濁と一致し,角膜曲線に対して平行に走る高反射域を認めた(図2b).角膜擦過検体によるCHSV-PCRは陰性であり,角膜擦過塗抹検体のディフクイック染色でアメーバシストを認め(図2c),AKの確定診断に至った.またCCochet-Bonnet型角膜知覚計では右眼C55Cmm/左眼C35Cmmと角膜知覚の左右差を認めた.角膜知覚低下の可能性が示唆されたが,左眼角膜知覚以外の三叉神経支配領域の異常は認められず,その他の神経障害を疑う身体所見も認められなかった.確定診断後,週C2回の角膜掻爬,1時間ごとのC0.05%クロルヘキシジン点眼およびC1%ボリコナゾール点眼C8回/日で治療を開始した.しかし,徐々に角膜浸潤影の拡大,充血および前房内炎症の増悪を認めた(図3).上記C3剤による治療への反応性が悪く,治療開始よりC22日後C0.02%Cpolyhexa-methylenebiguanide(PHMB)点眼とベタメタゾンC1Cmg/日の内服を開始し,その後も同量を継続し,徐々に角膜浸潤影・細胞浸潤が鎮静化した(図4).治療開始C106日後,仕事の都合で転居が必要となったため,最終的な転機は不明である.CII考按無痛性CAKの既報としてトライアスロン選手における痛覚低下,HSV角膜炎の既往による角膜知覚の低下9)などの報告がある.本症例は初診時から無痛性であり,角膜知覚低下の可能性が示唆されたため,角膜知覚低下をきたす別の病態の関与の可能性を考慮し鑑別を行った.一般的に角膜知覚をきたしうる病態はCHSV角膜炎など角膜障害に起因するもの,糖尿病などの代謝異常に起因するもの,脳動脈瘤などの頭蓋内疾患に起因するものに大別される.本症例の既往に角膜知覚障害をきたす代謝異常はなく,左眼角膜知覚以外に神経障害を疑う身体所見はなかった.また,混合感染するHSV角膜炎は知覚低下を惹起する10)が,本症例で角膜擦過検体によるCHSV-PCRは陰性かつ前医で抗ヘルペス薬の使用歴があり,混合感染の特定はできなかった.本症例の診断において,LCMが有用であった.LCMは細隙灯顕微鏡では見えない細胞レベルの生体画像が非侵襲的に得られ,AK,真菌性角膜炎,角膜ジストロフィ,サイトメガロウイルス角膜内皮炎などの診断や病巣部位の判定に有用な画像検査である7,8).本症例でもアカントアメーバのシスト様の円形高輝度物質を検知することができた.AKの確定診断には角膜擦過検体の塗抹鏡検でアカントアメーバの同定が必須であるが,LCMは迅速に行うことができる非侵襲的な検査法であり,AK診断において中等度の感度と高度の特異度を有しており11),AKの診断補助に有用である.また,LCMによる探索を繰り返すことで治療によるアカントアメーバ.胞密度の減少をモニターすることができ,AKの予後予測や疾患モニタリングに臨床的に利用することが可能とする報告もある12).AK治療において,ステロイド局所投与はCAKの重症化リスクである.ステロイドは消炎作用によってCAKの臨床所見の増悪を修飾し,AKの診断遅延の原因となる.また,栄養体増殖作用をもつためCAKの活動性を増強し,重症化の原因となる4.6).AK診断前の抗炎症作用を期待したステロイド局所使用は症状の増悪を招くため厳に慎むべきである.本症例では,確定診断前のステロイド使用が診断の遅延,重症化をもたらし,クロルヘキシジン加療に抵抗を示した可能性がある.PHMB点眼およびベタメタゾン内服へと薬剤変更後の病勢変化も,転居のため最終経過を確認できておらず,ステロイドによる消炎効果によって臨床所見を修飾していた可能性は否定できない.確定診断前のステロイド使用は避けるべきであり,確定診断後もその病勢変化を修飾するため,消炎目的の安易なステロイド使用は控えるべきである.AK診断後のステロイド使用に関しては,有効性を論ずる報告もあるが13,14),その知見は少なく,今後の知見の集積が期待される.今回筆者らは,SCL装用者で無痛性のCAKを発症したC1例を経験した.無痛性でもCAKを鑑別に上げることが重要であり,非侵襲的で迅速に行うことができるCLCMはCAKの診断に有用であった.文献1)中川迅:アカントアメーバ角膜炎診断スキルアップへのコツ.臨眼C73:1418-1412,C20192)石橋康久:アカントアメーバ角膜炎.あたらしい眼科C35:C1613-1618,C2018C3)石橋康久,加治優一:疾患別診断・治療の進め方と処方例角膜疾患アカントアメーバ角膜炎.臨眼C70:204-211,C20164)SternGA,ButtrossM:Useofcorticosteroidsincombina-tionCwithCantimicrobialCdrugsCinCtheCtreatmentCofCinfec-tiouscornealdisease.OphthalmologyC98:847-853,C19915)森谷充雄,子島良平,森洋斉ほか:アカントアメーバ角膜炎に対する副腎皮質ステロイド薬投与の影響.臨眼C65:C1827-1831,C20116)McClellanCK,CHowardCK,CNiederkornCJYCetal:E.ectCofCsteroidsConCAcanthamoebaCcystsCandCtrophozoites.CInvestCOphthalmolVisSciC42:2885-2893,C20017)小林顕:レーザー生体共焦点顕微鏡による角膜の観察.臨眼C62:1417-1423,C20088)KobayashiCA,CYokogawaCH,CYamazakiCNCetal:InCvivoClaserconfocalmicroscopy.ndingsofradialkeratoneuritisinpatientswithearlystageAcanthamoebakeratitis.Oph-thalmologyC120:1348-1353,C20139)TabinG,TaylorH,SnibsonGetal:Atypicalpresentationofacanthamoebakeratitis.CorneaC20:757-759,C200110)井上幸次:単純ヘルペスウイルス角膜炎.臨眼C70:180-185,C201611)KheirkhahCA,CSatitpitakulCV,CSyedCZACetal:FactorsCin.uencingCtheCdiagnosticCaccuracyCofClasor-scanningCinCvivoconfocalmicroscopyforAcanthamoebakeratitis.Cor-neaC37:818-823,C201812)WangCYE,CTepelusCTC,CGuiCWCetal:ReductionCofCAcan-thamoebacystdensityassociatedwithtreatmentdetectedbyinvivoconfocalmicroscopyinAcanthamoebakeratitis.CorneaC38:463-468,C201913)CarntN,RobaeiD,WatsonSLetal:Theimpactoftopi-calCcorticosteroidsCusedCinCconjunctionCwithCantiamoebicCtherapyConCtheCoutcomeCofCAcanthamoebaCkeratitis.COph-thalmologyC123:984-990,C201614)佐々木香る,嶋千絵子,大中恵里ほか:アカントアメーバ角膜炎の治療における低濃度ステロイド点眼の併用経験.あたらしい眼科36:253-261,C2019***