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全層角膜移植術中に生じた角膜裂傷を血漿分画製剤 ベリプラストP を用いて創閉鎖した1 例

2026年6月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科43(6):700.703,2026c全層角膜移植術中に生じた角膜裂傷を血漿分画製剤ベリプラストPを用いて創閉鎖した1例吉満直哉鉄村一晟子島良平森洋斉宮田和典宮田眼科病院CWoundClosureofanIntraoperativeCornealLacerationAfterPenetratingKeratoplastywithPlasmaFractionatedBeriplastPNaoyaYoshimitsu,IsseiTetsumura,RyoheiNejima,YosaiMoriandKazunoriMiyataCMiyataEyeHospitalC目的:全層角膜移植術(PKP)中の縫合時に角膜が裂けた場合は,縫合糸を調整しても創閉鎖が困難なことがある.今回,PKP中に生じた角膜裂傷の症例に対し,血漿分画製剤べリプラストCP(CSLベーリング社)で創閉鎖することができたC1例を経験したので報告する.症例:19年前に施行されたCPKP術後のC76歳女性が矯正視力(0.09)と視力低下をきたし,中心角膜厚もC752μmと増大した.本症例に対し再度CPKPを施行した際,術中にC1.2×2.5Cmm程度の角膜裂傷が生じた.裂傷に対し追加縫合後も前房水漏出が続いたため,術後C12日にベリプラストCPを滴下した.処置後C2日目に漏出は消失し,前房深度と脈絡膜.離は速やかに回復した.術後C2カ月で矯正視力はC0.5,5カ月時点で中心角膜厚はC541μmとなり,7カ月時点でも移植片は良好に接着していた.結論:PKP中に生じた小規模裂傷に対し,血漿分画製剤による創閉鎖が有用となる可能性を示した.CPurpose:Toreportthesuccessfulclosureofanintraoperativecornealtearthatoccurredduringpenetratingkeratoplasty(PKP)usingBeriplastP(CSLBehring),aplasma-derivedfibrinsealant.Case:A1.2×2.5mmcor-nealClacerationCoccurredCinCtheCeyeCofCaC76-year-oldCfemaleCduringCrepeatedCPKP.CDespiteCadditionalCsuturing,Cwoundleakagepersisted.At12-dayspostPKP,BeriplastPwasapplied,andtheleakageimmediatelyceased,theanteriorCchamberCdepthCwasCnormalized,CandCchoroidalCdetachmentCwasCresolved.CAtC5-monthsCpostCtreatment,Cbest-correctedvisualacuityinthetreatedeyeimprovedto0.5withacentralcornealthicknessof541μm,andat7-monthsposttreatment,stablegraftadhesionwasobserved.Conclusions:OurfindingsrevealedthatBeriplastPrepresentsabiocompatibleadjunctforsealingsmallintraoperativecorneallacerationsencounteredduringPKP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)43(6):700.703,C2026〕Keywords:ベリプラストP,フィブリン糊,全層角膜移植術,角膜裂傷.BeriplastP,fibrinsealant,penetratingkeratoplasty,corneallaceration.Cはじめに全層角膜移植術(penetratingCkeratoplasty:PKP)は,角膜感染症後の角膜混濁や重度の水疱性角膜症など,視機能に重大な影響を与える角膜疾患に対する手術として以前より行われている.PKPにおける術中・術後合併症には駆逐性出血や眼内炎,緑内障や拒絶反応などがあるが,まれにレシピエント角膜の菲薄化が原因で裂傷が生じる症例も報告されている1).裂傷から前房水が漏出すると前房消失に伴う虹彩癒着や低眼圧に伴う低眼圧黄斑症が誘発され,移植片の生着率および術後視機能が低下する可能性があるため,迅速かつ確実な創閉鎖が求められる.創閉鎖の手段には角膜への縫合を追加する,生体接着剤であるシアノアクリレート,フィブリン糊などが報告されている2).縫合追加による創閉鎖の問題点として,レシピエント角膜の石灰化や瘢痕で硬化した角膜では縫合が困難であること,過剰な結紮により乱視増加の可能性が〔別刷請求先〕吉満直哉:〒C885-0051宮崎県都城市蔵原町C6-3宮田眼科病院Reprintrequests:NaoyaYoshimitsu,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANC700(106)図1右眼術前の前眼部所見あることがあげられる.シアノアクリレート系接着剤は強固に創を閉鎖できるため有効な症例もあるが,一方で角膜内皮毒性や長期残存による慢性炎症・混濁が問題となる3,4).フィブリン糊はフィブリノゲンとトロンビンによる生理的凝固反応を再現して三次元フィブリン網を形成する生分解性接着剤で,翼状片手術や網膜硝子体手術の止血補助など眼科領域でも応用が拡大している2,5).しかし,PKP術中の角膜裂傷に対する臨床報告は依然として限られ,適応基準や長期成績は明確ではない.今回,角膜移植術中に生じた裂傷に対して追加縫合後も創閉鎖が得られなかった症例に対し,血漿分画製剤ベリプラストCPを使用し良好な創閉鎖と視機能回復を得られたC1例を経験したので報告する.CI症例患者:76歳,女性.主訴:視力低下.既往歴:混合結合組織病.現病歴:両眼に原因不明のCDescemet膜皺襞を生じ,X-19年にCPKPを施行された.X-5年時点で右眼矯正視力0.5であったが,慢性的な角膜石灰化が進行し,徐々に右眼視力が低下した(図1).X年C1月には矯正視力がC0.09まで低下したため,同年C4月に再CPKPを施行した.PKP施行前に行ったカルシウム沈着除去によりレシピエント角膜C3時方向が一部欠損し,PKP縫合後にC1.2×2.5Cmmの裂傷を生じた.裂傷へ端々縫合を追加し(図2),治療用ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)を装用して手術を終了した.経過:本症例では端々縫合を追加したにもかかわらず,術後より浅前房を認めた.術後C2日目にCSCLをはずした際には明らかな前房水漏出は認められなかったが,同日施行した超音波検査にて脈絡膜.離を認めた.その後,前房深度は徐々に回復傾向を示したが,術後C5日目に再び浅前房となり,SCL除去時にC3時方向の裂傷部より前房水漏出を認め図2右眼術中の端々縫合追加a:縫合前の裂傷部().前房水の漏出を認めた.b:縫合追加後().図3術後12日目ベリプラストPのCA液とCB液を混合して裂傷部へ少量適下した.た.再度CSCLを装用したが,術後C9日目でも前房水漏出は改善せず,術後C12日目にベリプラストCPのCA液(フィブリノゲン・アプロチニン溶液)とCB液(トロンビン・塩化カルシウム溶液)を専用のプランジャーホルダーを用いて混合して裂傷部へC5.6滴適下し(図3),SCLを再装用した.処置3日後には漏出が消失した(図4).処置C7日後時点で中心角膜厚C658μmと角膜浮腫は認めたものの,脈絡膜.離も消失し退院となった.退院時の矯正視力はC0.06,眼圧はC18CmmHgであった.処置からC2週間経過した時点では,角膜浮腫が残存しており矯正視力はC0.15であったが,前房水漏出は認めず正常な前房深度を保っていた.その後,術後C2カ月で角膜浮腫は消失し矯正視力C0.6,眼圧はC16CmmHgであった.術後C5カ月時点では中心角膜厚C541μmとなり,術後C1年以上経過した時点でも移植片の状態は良好で(図5),前房水漏出の再発はなく良好な視力を維持している.経過中,眼圧の著しい上昇a図4ベリプラストP術前と術後の前眼部OCTa:ベリプラストCP術前.Cb:ベリプラストCP術後C3日目.もみられなかった.CII考按本症例では,2回目のCPKP術中に生じた角膜裂傷に対し,追加縫合後も前房水漏出が持続した.このため,術後C12日目にフィブリン糊(ベリプラストCP)を滴下し,SCLを装用させることで創閉鎖が得られた.角膜移植術における創閉鎖不全による前房水漏出の持続によって,眼内炎のリスクが高まることが報告されている6).また,前房深度の不安定化に伴い虹彩・水晶体と角膜内皮細胞が接触することで,術後早期からの角膜内皮細胞密度の低下が懸念される7).さらに,Heinzelmannらによれば,遷延する創口は上皮細胞の迷入(epithelialCingrowth)の経路となりうるため,早期の創閉鎖が重要となる8).本症例のレシピエント角膜は,カルシウム沈着により石灰化および菲薄化をきたしていた.Yehらの報告にあるように,石灰化した角膜組織は脆弱で,縫合操作自体が困難な場合や,縫合による十分な水密性が得られにくい場合がある9).このような状況下では,フィブリン糊が縫合を補完し,創部の安定化に寄与する有効な手段となりうると考えられる.フィブリン糊は接着直後から物理的に創部を保持し,48時間で最大強度に達するとされる.縫合糸が創縁を物理的に圧着するのに対し,フィブリン糊は創面を被覆するとともに,角膜実質細胞の遊走とコラーゲン産生を促進し,炎症性サイトカインの過剰発現を抑制することで,角膜透明性の早期回復に寄与すると考えられる6,10).Chenらはフィブリン糊の接着強度に関して,シアノアクリレート系接着剤と比較した場合耐えうる眼圧が低いと報告している11).本症例では,フィブリン糊を一次的な創閉鎖として単独で使用したのではなく,すでに行われた連続縫合の補強,および微小な漏出の閉鎖を目的として使用した.術後眼圧が正常範囲内であり,かつCSCLによる被覆を併用したことが,フィブリン糊の接着強度でも十分な効果を発揮できた要因と考えられた.シアノアクリレート系接着剤はより強図5術後1年経過後の右眼前眼部所見固な接着力を有するが,前房内に侵入した場合の角膜内皮毒性や,硬化した接着剤による異物感,炎症惹起のリスクが懸念される.したがって本症例のような状況では,より高い安全性を確保する観点から,フィブリン糊がより適切な治療選択であったと判断される.本症例においてフィブリン糊による治療が奏効した理由として,前房水の漏出が比較的少量であり,創縁がある程度整平であったため,フィブリン糊が創面に安定して接着しやすかった点があげられる.一方で,フィブリン糊は生分解性であるため,眼圧上昇や強い物理的刺激により再開裂する可能性がある.この点において,表層角膜移植術(lamellarkera-toplasty:LKP)や羊膜移植は,物理的な強度と生体適合性を兼ね備え,とくに広範な角膜欠損や再建を要する症例において,長期的な安定性を提供する点でベリプラストCP単独よりも優位性をもつと考えられる.既報でも,LKPや羊膜移植はより大きな組織欠損や持続的な支持が必要な場合に,組織の置換または修復を促進する治療として確立されており12),フィブリン糊はそれらの手術に補助的に併用する形が望ましいと考えられる10).したがって,フィブリン糊はおもに小規模な裂傷の閉鎖や補助的な止血,またはCLKPや羊膜移植の縫合を補強する役割に適しているといえ,裂傷の大きさや形態に応じて,これらの治療法の選択または組み合わせを慎重に検討する必要がある.角膜移植術中に生じた裂傷に対し,フィブリン糊による治療が本症例では奏効した.今後は,角膜裂傷のサイズ,部位,深さ,原因疾患,眼圧などの因子とフィブリン糊治療の成績との関連性を明らかにするため,多施設共同の前向き研究による症例集積と治療成績の検証が望まれる.また,新規に開発されつつある他の生体接着剤13)との比較検討を通じて,角膜移植術を含む角膜外科手術の安全性と患者の生活の質(qualityoflife:QOL)のさらなる向上が期待される.おわりにPKP中に発生した小規模角膜裂傷に対し,ベリプラストPは縫合を補完する安全で有効な創閉鎖手段となりうる.とくに縫合のみで漏出を制御できない症例や,シアノアクリレートの毒性が懸念される状況で本製剤の適用を検討すべきである.利益相反:宮田和典HOYA株式会社ほか企業より講演料・研究費受領(クラス4)文献1)PaganoL,ShahH,AlIbrahimOetal:UpdateonsuturetechniquesCinCcornealtransplantation:aCsystematicCreview.JClinMedC11:1078,C20222)PandaCA,CKumarCS,CKumarCACetal:FibrinCglueCinCophthalmology.IndianJOphthalmolC57:371-379,C20093)SharmaA,SharmaN,BasuSetal:TissueadhesivesfortheCmanagementCofCcornealCperforationsCandCchallengingCcornealconditions.ClinOphthalmolC17:209-223,C20234)永田有司,子島良平,木下雄人ほか:角膜穿孔に対してシアノアクリレートが有効であったC2例.あたらしい眼科C36:1591-1595,C20195)LagoutteFM,GauthierL,ComtePR:AfibrinsealantforperforatedCandCpre-perforatedCcornealCulcers.CBrCJOphthalmolC73:757-761,C19896)McMasterD,BaptyJ,BushLetal:EarlyversusdelayedtimingCofCprimaryCrepairCafterCopen-globeCinjury.COphthalmologyC132:431-441,C20257)FioreCPM,CRichterCCU,CArzenoCGCetal:TheCe.ectCofCanteriorCchamberCdepthConCendothelialCcellCcountCafterCfiltrationsurgery.ArchOphthalmolC107:1609-1611,C19898)HeinzelmannCJ,CStoicaCS,CVogtCARCetal:IntraocularCepithelialCingrowthCafterCtraumaticCandCsurgicalCcornealCinjuries.DiagnosticsC14:1401,C20249)YehCPT,CHouCYC,CLinCWCCetal:RecurrentCcornealCperforationCandCacuteCcalcareousCcornealCdegenerationCinCchronicCgraft-versus-hostCdisease.CJCFormosCMedCAssocC105:334-339,C200610)DuchesneB,TahiH,GalandA:Useofhumanfibringlueincornealperforations.CorneaC20:230-232,C200111)ChenCWL,CLinCCT,CHsiehCCYCetal:ComparisonCofCtheCbacteriostaticCe.ects,CcornealCcytotoxicity,CandCtheCabilityCtoCsealCcornealCincisionsCamongCthreeCdi.erentCtissueCadhesives.CorneaC26:1228-1234,C200712)KrysikCK,CDobrowolskiCD,CLyssek-BoronCACetal:CDi.erencesCinCsurgicalCmanagementCofCcornealCperforations,CmeasuredCoverCsixCyears.CJCOphthalmolC2017:1582532,C201713)LiCS,CMaCX,CZhangCYCetal:ApplicationsCofChydrogelCmaterialsCinCdi.erentCtypesCofCcornealCwounds.CSurvCOphthalmolC68:746-758,C2023***