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障害年金を含めたロービジョンケアを行った網膜色素変性の 2 症例

2023年11月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科40(11):1496.1499,2023c障害年金を含めたロービジョンケアを行った網膜色素変性の2症例神田晴楽*1小林崇俊*1戸成匡宏*1栗栖理恵*1稲泉令巳子*1清水みはる*1筒井亜由美*1濵村美恵子*1中村桂子*1喜田照代*1広瀬茂*2*1大阪医科薬科大学眼科学教室*2日本ライトハウスCTwoCasesofRetinitisPigmentosaTreatedwithLowVisionCareandAssistanceinApplicationforaDisabilityPensionSeiraKanda1),TakatoshiKobayashi1),MasahiroTonari1),RieKurisu1),RemikoInaizumi1),MiharuShimizu1),AyumiTsutsui1),MiekoHamamura1),KeikoNakamura1),TeruyoKida1)andShigeruHirose2)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2)NipponLightHouseC目的:受診歴の差により,障害年金の申請方法が異なった網膜色素変性のC2症例を経験したので報告する.症例:症例C1はC47歳,男性.症例C2はC41歳,男性.2症例とも視機能低下に伴う就労困難で,ロービジョン外来を受診し,障害年金の申請をすることになった.症例C1はC14歳から継続受診していたため,障害年金の遡及請求が容易であった.症例C2はC20歳で他院を受診したが,継続受診を自己中断したため,初診日の証明ができなかった.自己の申立てで障害年金の受給は認められたが,遡及請求はできなかった.現在C2症例とも,日本ライトハウスで転職に向けて職業訓練を行っている.結論:適切な時期の障害年金申請を含めた,ロービジョンケアが重要であると考える.CPurpose:Toreport2casesofretinitispigmentosainwhichtheapplicationmethodtoobtainadisabilitypen-sionCdi.eredCdueCtoCdi.erencesCinCmedicalCrecordChistory.CCasereports:ThisCstudyCinvolvedC2CcasesCthatCvisitedCourlowvisionoutpatientclinicandappliedforadisabilitypensionafterencounteringdi.cultiesinworkingduetopoorvisualfunction.Case1involveda47-year-oldmalewhohadreceivedmedicalexaminationssincehewas14yearsCold,CandCwhoCcouldCeasilyCmakeCaCretroactiveCclaimCforCaCdisabilityCpension.CCaseC2CinvolvedCaC41-year-oldCmalewhooncevisitedanotherhospitalwhenhewas20yearsold,yetwasunabletoprovethedateofhis.rstvis-itCdueCtoCself-interruption.CAlthoughCheCwasCallowedCtoCreceiveChisCdisabilityCpensionCbyCself-application,CheCwasCunabletomakearetroactiveclaim.Currently,bothpatientsreceivevocationaltrainingattheNipponLighthouseWelfareCenterfortheBlind(Osaka,Japan)tochangetheirjobs.Conclusion:Our.ndingsshowthatlowvisioncare,aswellasapplyingforadisabilitypensionattheappropriatetime,isimportant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)40(11):1496.1499,C2023〕Keywords:遡及請求,継続受診,就労,連携,職業訓練.retroactiveclaim,seeinghis/herdoctorregularly,work,cooperationwithrelatedfacilities,vocationaltraining.Cはじめに視機能が低下すると,生活のさまざまな場面で困難が生じる.とくに,就労年齢にあるロービジョン(lowvision:LV)者の場合,視覚障害から就業に支障をきたし,現職を続けるか転職をするかなど,就労について問題が生じることが少なくない.障害年金は,LV者の生活基盤を支える収入源の一部となる.また転職を含めた就労継続のためには,職業訓練が重要となる.今回,筆者らは,ともにC40代の網膜色素変性症例で,同程度の視機能障害を認めたが,受診歴の差により,障害年金の申請方法やCLVケアに違いが生じたC2症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕神田晴楽:〒569-8686大阪府高槻市大学町C2-7大阪医科薬科大学眼科学教室Reprintrequests:SeiraKanda,C.O.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalandPharmaceuticalUniversity,2-7Daigakumachi,Takatsuki,Osaka569-8686,JAPANC1496(126)I症例2症例とも男性の網膜色素変性症例で,仕事に従事していたが,視機能の低下の進行に伴い就業継続に問題が生じ,当院CLV外来を受診し面談を受けた.以下,症例ごとにその経過を記す.[症例1]14歳時に当院初診.初診時の視力は右眼(0.8C×sph.1.00D(cyl.1.25DCAx180°),左眼(0.8C×sph.0.50D(cyl.1.50DAx180°).初診時から両眼とも,I/4eがC10°以内に視野狭窄していた(図1).25歳時に身体障害者手帳視覚障害C2級を取得.また,視機能改善のため,遮光眼鏡装用,眼球運動トレーニング,暗所視支援眼鏡などのCLVケアを受けていた.職業は理容師で,実家が営んでいる理髪店で働いていた.視野は狭いが,矯正視力が両眼とも(0.8)前後に保たれていたため,就業継続への問題はとくに感じていなかった.しかし,44歳頃から徐々に視機能が悪化し,現在C47歳であるが,右眼視力(0.04),左眼視力(0.4)に低下した.視野は両眼ともV/4eがC10°にまで狭窄し,右眼には傍中心暗点が現れた(図2).そのため,就業継続の困難を感じ,LV面談を受けた.面談では障害年金の申請をサポートし,転職も視野に入れ,職業訓練を目的に日本ライトハウスを紹介した.障害年金の申請については,14歳から継続して受診していたため,初診日の証明が容易であった.20歳未満で年金加入前に発症していたため,無拠出のC20歳前障害基礎年金受給が可能な症例に該当する.障害認定日であるC20歳前後の障害等級に該当する視機能の記録があったため,障害認定日請求でC20歳前障害基礎年金C2級が認められた.受給の権左眼右眼図1症例1の初診時の視野(14歳)左眼右眼図2症例1の現在の視野(47歳)左眼右眼図3症例2の初診時の視野(41歳)利が発生するのは障害認定日からであり,認定日まで遡及して受け取ることができるが,遡及請求には時効があるため,最大のC5年分がさかのぼって受給できた.また,無拠出で給付されるため,今まで納めていた国民年金が払い戻しされた.なお,令和C4年C1月から障害年金の認定基準が改正され,1級に該当するため額改定請求を行った.就業については,理容師を続けながら,定休日にはパソコン訓練のために日本ライトハウスに通っている.[症例2]41歳時に当院初診.初診時視力は右眼視力(0.3C×sph.5.00D(cyl.1.00DAx80°),左眼視力(0.4C×sph.0.75D(cyl.2.00DCAx85°).視野は両眼ともV/4eが10°の求心性視野狭窄を認めた(図3).20歳時に視力低下の自覚で他院を受診し,網膜色素変性と診断されたが,有効な治療法がないといわれ,継続受診を自己中断していた.何回か転職し,電気系技術職の仕事に従事したが,就業に困難を自覚し,前医初診からC21年後のC41歳で当院を受診,LV面談を受けた.面談では,症例C1と同様に,障害年金の申請をサポートし,職業訓練を目的に日本ライトハウスを紹介した.身体障害者手帳は面談後ただちに申請し,視覚障害C2級を取得できた.障害年金については,前医初診時の受診歴はあるものの,21年前のため診療録がなく,初診日の証明ができなかった.そのため,受診状況等証明書が添付できない申立書(以下,申立書)で申請することになった.申立書には初診日証明書類の添付が必要となるため,健康保険の給付記録を添付し初診日の証明ができた.障害認定日当時も,障害年金の障害等級に該当していた可能性があるが,初診日以降受診していないため,障害認定日以降C3カ月の視機能の記録がなく,遡及表12症例の比較障害年金日本ライトハウスでの訓練ロービジョンケア受給遡及請求症例C1C○C○C○C○症例C2C○申立書※で申請C×○C△C※受診状況等証明書が添付できない申立書.請求はできなかった.初診日に厚生年金に加入していたため,事後重症化請求で障害厚生年金C2級が認められた.なお,症例C1と同様,障害年金の認定基準が改正され,1級に該当するため額改定請求を行った.また,継続受診をしていなかったため,今までCLVケアはまったく受けておらず,以前から羞明を感じていたが,当院を受診して初めて遮光眼鏡の処方となった.つぎに就労については,面談後に会社を退職しており,失業中であった.そこで筆者らは,日本ライトハウスへ見学に行くことを勧めた.それまでは自宅にこもりがちであったが,自分と同様の視機能,もしくは自分よりも重度の視機能障害をもちながらも活発に行動している人と出会い,希望を持てたとのことであった.現在,ほぼ毎日訓練のために通い,特別委託訓練の試験に合格し,1年間,月にC10万円の訓練手当が受給可能となった.「障害年金を受給できたおかげで,現在職業訓練に専念ができている」とのことであった.2症例の比較をまとめて表に示す(表1).CII考按網膜色素変性症は治療法が確立されておらず,継続受診を中断する患者が多い.こうした背景をふまえ,継続受診の重要性について考える.まず,障害年金の申請1)に関しては,継続受診をしている場合は初診日の証明ができ,障害認定日前後の検査記録があり,視機能および他の要件を満たしていれば,円滑に障害認定日請求を行うことができる.障害認定日とは,初診日が18歳C6カ月より前の場合はC20歳の誕生日前日であり,18歳C6カ月以降は初診日からC1年半後の日である.申請には,前者はC20歳の誕生日前後C3カ月の検査記録,後者は障害認定日以降C3カ月の検査記録が必要である.たとえ障害認定日請求をしなかったとしても,症例C1のように遡及請求が可能な場合もある.また,障害認定日には視機能の障害程度が該当しなくても,重症化して対象になったときに,速やかに事後重症化請求ができる.症例C2のように継続的に受診していなかった場合,最初の医療機関の初診日証明がむずかしい場合がある.診療録の保存期間は,5年間と定められているため,閉院も含め,最後の診察からC5年以上経過した場合,診療録が破棄される可能性がある.実際に症例C2は,初診日にあたる他院での診療録が残っていなかったため,申立書で申請した.その場合,初診日に関する参考書類を別途用意しなければならないが,いくつかの条件があり,認められるとは限らない.つぎに,医療の観点から継続受診の重要性について考える.当院は,症例C1に対して,視機能の変化に合わせながら,さまざまなCLVケアを行ってきた.他方,症例C2は若い頃から羞明があったにもかかわらず,遮光眼鏡を処方できたのはC41歳のときであった.このように,受診を継続していなければ,視機能の変化に合わせたCLVケアを受けることがむずかしい場合がある.また,網膜色素変性には黄斑浮腫や経年変化による白内障など,他の疾患を合併する場合があり,これらの疾患に対しては治療を行うことで視機能が改善する可能性がある2,3).必要な治療を適切な時期に受けるためにも,継続受診は重要と考える.しかし,継続受診していた症例C1への障害年金についての情報提供が遅れたことは,今回の反省点と考える.症例C1は申請していれば,20歳から障害基礎年金C2級が受給可能であった.基本的には患者自身が申請するものだが,症例C1のように視野は狭いが視力が良好な人や,就労中で所得がある人は,自分が障害年金の対象ではないと思っている場合がある.患者の視機能を把握しているのは医療側のため,必要な情報提供が適宜できるよう4)就労年齢のCLV者には障害年金のことも意識して対応したい.また,継続受診していても,障害年金の請求に必要な検査が必要な時期に行われていない場合もある.日頃から障害年金を申請する可能性を考えて検査することが望ましいが,現状としてはむずかしい.しかし,前後の検査結果から障害認定日にも同様であったと推定され,受給可能となる例もあるのであきらめずに申請するとよいと思われる.つぎに,福祉施設との連携について考える.筆者らは,患者が今必要としている適切なアドバイスをするためには,病状を把握している医療スタッフと,福祉の専門家が協力して,医療機関のなかで面談する必要があると考え行ってきた5,6).その後,眼科医の参加が必要不可欠と考え7),現在では,眼科医,視能訓練士に加え,必要に応じて福祉施設の相談員も参加し,病院内で面談を行っている.今回のC2症例は就労継続の問題があったため,職業訓練につなげていくために日本ライトハウスの相談員が面談時より同席し,訓練の内容などを説明した.2症例とも具体的な話を聞き,転職に向けて職業訓練を開始することができた.自ら動き出すことができたのは,相談員とのかかわりをもつ機会を得たことが大きいと思われる.視機能の低下のために,生活訓練や職業訓練などの必要性がある場合,適切に福祉制度を利用し,できるだけ速やかに訓練を受けられるよう,日頃から密接に福祉施設と連携することが重要と考える8,9).今回,視機能の低下により仕事の継続に不安や困難を抱えていたC2症例が,LV面談を受け,福祉施設とかかわりをもつことで転職に向けてふみ出すことができた背景には,障害年金を受給することができたことも大きいと推察する.受給までの経過には違いがあったが,生活の基盤である収入がある程度保証されたことで,今後を見すえた職業訓練に取り組めたと思われる.眼科としては適切な時期で障害年金の申請を含めたCLVケアができるよう心がけたい.文献1)漆原香奈恵,山岸玲子,村山由希子:知りたいことが全部わかる!障害年金の教科書.久保田賢二(編),ソーテック社,20192)山本修一,村上晶,高橋政代ほか:網膜色素変性診療ガイドライン.日眼会誌120:846-859,C20163)吉村長久,後藤浩,谷原秀信:眼科臨床エキスパート網膜変性疾患診療のすべて.村上晶,吉村長久(編),医学書院,p274-275,C20164)植木麻里:身体障害者手帳,障害年金,介護保険の適用患者と書類作成のコツ.日本糖尿病眼学会誌C22:60-63,C20175)中村桂子,菅澤淳,澤ふみ子ほか:大阪医科大学における成人視覚障害者の面談.日本視能訓練士協会誌C29:203-210,C20016)中村桂子:ロービジョンケアにおける専門施設との連携.あたらしい眼科22:1273-1248,C20057)稲泉令巳子,江富朋彦,戸成匡宏ほか:眼科医を中心とした院内におけるロービジョン外来.眼科C52:1709-1714,C20108)西脇友紀,仲泊聡,西田朋美ほか:中間アウトリーチ支援の実践可能性.視覚リハ研究3:60-65,C20139)永井春彦:ロービジョン関連施設と眼科医の関わり方.日本の眼科89:1217-1220,C2018