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ラタノプロスト点眼薬へのb 遮断点眼薬および炭酸脱水酵素阻害点眼薬追加の長期効果

2008年7月31日 木曜日

———————————————————————-Page1(95)9990910-1810/08/\100/頁/JCLS18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(7):9991001,2008cはじめにラタノプロストは,プロスタグランジンF2a誘導体で,良好な眼圧下降効果を有し,全身性副作用の報告が少ないことからも1,2),緑内障点眼薬の第一選択として用いられることが多くなっているが,ラタノプロストのみでは十分な眼圧下降が得られない症例も存在し,2剤目の薬剤の併用が必要となることがある.以前筆者らは,ラタノプロスト単独使用例に対し,0.5%チモロール,ブリンゾラミドを追加投与した症例において,投与後2カ月で検討した結果,チモロール追加群・ブリンゾラミド追加群で有意な眼圧下降を示し,両群間で眼圧下降幅・下降率については有意差を認めなかったと報告した3).しかしこれは2カ月間と比較的短期間での解析〔別刷請求先〕佐藤志乃:〒761-0793香川県木田郡三木町池戸1750-1香川大学医学部眼科学教室Reprintrequests:ShinoSato,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KagawaUniversityFacultyofMedicine,1750-1Ikenobe,Miki,Kita,Kagawa761-0793,JAPANラタノプロスト点眼薬へのb遮断点眼薬および炭酸脱水酵素阻害点眼薬追加の長期効果佐藤志乃廣岡一行高岸麻衣溝手雅宣馬場哲也白神史雄香川大学医学部眼科学講座Long-TermAdditiveIntraocularPressure-loweringEectofTimololorBrinzolamidewithLatanoprostShinoSato,KazuyukiHirooka,MaiTakagishi,MasanoriMizote,TetsuyaBabaandFumioShiragaDepartmentofOphthalmology,KagawaUniversityFacultyofMedicine原発開放隅角緑内障におけるラタノプロスト点眼への0.5%チモロールあるいはブリンゾラミド追加の長期効果についてレトロスペクティブに検討した.対象は原発開放隅角緑内障で,3カ月以上ラタノプロスト単独点眼加療を受けている患者のうち,2剤目として0.5%チモロールを追加した10例,ブリンゾラミドを追加した17例で,追加投与前と投与後2カ月ごとに12カ月までの眼圧を比較検討した.12カ月間継続投与できたのは,チモロール追加群7例,ブリンゾラミド追加群11例であった.眼圧はチモロール追加群で投与4カ月後に最も大きな眼圧下降を示したが,その後効果は減弱した.ブリンゾラミド追加群では12カ月にわたって眼圧下降効果がみられた.無効による中止はチモロール追加群0例,ブリンゾラミド追加群4例(c2検定,p=0.26),副作用による中止はチモロール追加群3例,ブリンゾラミド追加群2例(c2検定,p>0.99)であった.Weretrospectivelystudiedthelong-termadditiveintraocularpressure(IOP)-loweringeectoftimololorbrinzolamideusedadjunctivelywithlatanoprost.Weevaluated27eyesof27patientswithprimaryopen-angleglaucomawhohadbeentreatedwithlatanoprostaloneformorethanthreemonths.Eachpatientreceivedadjunc-tivetreatmentwitheithertimolol(n=10)orbrinzolamide(n=17).IOPwasmeasuredatthebaselineandat2,4,6,8,10and12monthsafteradditiontolatanoprost.In7ofthe10patientstreatedadjunctivelywithtimololand11ofthe17patientstreatedadjunctivelywithbrinzolamide,IOPwaswellcontrolledfor12months.Long-termdriftinIOPwasseenineyestreatedadjunctivelywithtimolol,whereasbrinzolamideloweredIOPfromthelatanoprostbaselinefor12months.Nopatientstreatedadjunctivelywithtimolol,and4patientstreatedadjunctivelywithbrin-zolamide,discontinuedtreatmentbecauseofinsucientecacy(p=0.26).Threepatientstreatedadjunctivelywithtimololand2patientstreatedadjunctivelywithbrinzolamidediscontinuedtreatmentbecauseofmedicationintoler-ance(p>0.99).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(7):9991001,2008〕Keywords:原発開放隅角緑内障,ラタノプロスト,チモロール,ブリンゾラミド,眼圧,長期効果.primaryopen-angleglaucoma,latanoprost,timolol,brinzolamide,intraocularpressure,long-termeect.———————————————————————-Page21000あたらしい眼科Vol.25,No.7,2008(96)降率についてはStudentのpairedt検定およびunpairedt検定を,無効症例・副作用の出現率についてはc2検定を用い,危険率5%を有意水準とした.II結果12カ月間継続投与でき,解析の対象となった症例はチモロール追加群7例,ブリンゾラミド追加群11例であった.両群の性別,年齢,ベースライン眼圧には,いずれも両群間で有意差はみられなかった(表1).ベースライン眼圧と比較してブリンゾラミド追加群では,2,4,8,10カ月後で有意な眼圧下降がみられ,1年間効果が持続した.一方,チモロール追加群では,4カ月後に眼圧下降効果が最大となり,その後は効果の減弱がみられた(図1).眼圧下降幅には,両群間で有意差はみられなかった(図2).眼圧下降率では,追加後2カ月目にブリンゾラミド追加群で有意に大きかったものの,それ以降は差を認めなかった(図3).であり,長期間での両群の眼圧下降効果を検討した報告はない.そこで今回,追加投与後1年間の効果について比較検討した.I対象および方法1.対象香川大学医学部附属病院眼科外来に通院中の原発開放隅角緑内障で,3カ月以上ラタノプロストを単独で使用している症例のうち,眼圧コントロールが不十分な症例に対し,0.5%チモロールを追加した10例と,ブリンゾラミドを追加した17例を対象とした.ぶどう膜炎,強膜炎,角膜疾患の合併例,1年以内に内眼手術およびレーザー治療の既往があるもの,炭酸脱水酵素阻害薬,副腎皮質ステロイド薬を投与されているものは除外した.2.方法ラタノプロストを3カ月以上投与した症例のうち,眼圧下降が不十分な症例に対してチモロール,またはブリンゾラミドを追加投与し,12カ月間の眼圧の経過について検討した.追加投与前の眼圧をベースライン眼圧とし,ベースライン,その後2カ月ごとに12カ月までの眼圧をGoldmann圧平眼圧計にて測定した.測定時刻は午前912時までとした.検討項目は眼圧,眼圧下降幅,眼圧下降率,無効症例・副作用の出現率とし,統計学的解析は眼圧,眼圧下降幅,眼圧下図1眼圧の経過眼圧経過表1患者背景チモロール追加群ブリンゾラミド追加群p値性別(男/女)5/24/70.33*年齢(歳)62.4±10.564.21±11.50.75**ベースライン眼圧(mmHg)17.5±4.518.9±3.80.45***c2検定.**対応のないt検定.図2眼圧下降幅012345672468:ブリンゾラミド追加群:チモロール追加群眼圧下降幅(mmHg)期間(月)10120510152025302412:ブリンゾラミド追加群:チモロール追加群眼圧下降率(%)期間(月)**:p<0.056810図3眼圧下降率———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.7,20081001(97)経過観察中,ブリンゾラミド追加群において無効であった症例が4例あった.これらは追加投与後2カ月目,4カ月目の時点での眼圧がベースライン時と比較し不変もしくは上昇したものであり,無効症例はベースライン眼圧が1415mmHgと低い症例であった.単剤投与の場合と同様,治療開始前眼圧の低い症例については,眼圧下降が得られにくいものと思われる.一方,チモロール追加群では無効症例はなく,眼圧下降に対する感受性については本剤のほうが高いことが推測された.今回の結果から,ブリンゾラミドおよびチモロールは,ラタノプロスト単剤使用時よりもさらなる眼圧下降を示したが,長期的にみるとその眼圧下降効果に異なった傾向がみられた.臨床においては,両点眼薬のそれぞれの傾向を考慮したうえでの選択・投与が必要と思われる.文献1)WillisAM,DiehltKA,RobbinTE:Advancesintopicalglaucomatherapy.VeteOphthalmol5:9-17,20022)WaldockA,SnapeJ,GrahamCM:Eectofglaucomamedicationsonthecardiorespiratoryandintraocularpres-surestatusofnewlydiagnosedglaucomapatients.BrJOphthalmol84:710-713,20003)廣岡一行,馬場哲也,竹中宏和ほか:開放隅角緑内障におけるラタノプロストへのチモロールあるいはブリンゾラミド追加による眼圧下降効果.あたらしい眼科22:809-811,20054)緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20065)O’ConnorDJ,MartoneJ,MeadA:Additiveintraocularpressureloweringeectofvariousmedicationswithlatanoprost.AmJOphthalmol133:836-837,20026)MarchWF,OchsnerKI,TheBrinzolamideLong-TermTherapyStudyGroup:Thelong-termsafetyandecacyofbrinzolamide1%(Azopt)inpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOph-thalmol129:136-143,20007)緒方博子,庄司信行,陶山秀夫ほか:ラタノプロスト単剤使用例へのブリンゾラミド追加による1年間の眼圧下降効果.あたらしい眼科23:1369-1371,20068)BogerWP:Shortterm“Escape”andLongterm“Drift.”Thedissipationeectofthebetaadrenergicblockingagents.SurvOphthalmol28(Supple1):235-240,1983今回の経過観察中に中止となった症例については,無効による中止がチモロール追加群0例(0%),ブリンゾラミド追加群4例(23.5%)で,両群間で有意差はなかったものの,ブリンゾラミド追加群で多い傾向にあった(p=0.26).副作用による中止は,チモロール追加群で3例(30.0%)あり,原因として息切れ・動悸,角膜上皮障害,眼瞼炎があげられ,ブリンゾラミド追加群では2例(11.8%)で,原因は充血,眼瞼炎であった(p>0.99).III考按現在,国内においても多数の緑内障治療薬が認可されているが,薬物治療の原則は必要最小限の薬剤と副作用で最大の効果を得ることであり,それぞれの薬理効果,副作用を考慮したうえでの選択が必要である4).併用療法においては異なった薬理作用の薬剤の併用が望ましく,ぶどう膜強膜流出を促進するラタノプロストを第一選択薬として使用した場合,房水産生抑制効果のあるb遮断薬または炭酸脱水酵素阻害薬の併用は効果が期待できる.実際,ラタノプロストへの併用薬として,炭酸脱水酵素阻害薬の一つであるドルゾラミド,もしくはb遮断薬を用いた場合に有意な眼圧下降効果が得られることが報告されている5).筆者らが追加薬剤としてチモロールとブリンゾラミドを選択し,追加投与2カ月で検討した報告では,両群ともにラタノプロスト単剤投与時よりもさらなる眼圧下降が得られ,かつ両群間で眼圧下降幅・下降率に有意差を認めなかった3).しかし,今回12カ月の長期投与ではブリンゾラミド追加群については12カ月間の長期にわたり効果が持続したが,チモロール追加群については効果の減弱がみられた.Marchらは,ブリンゾラミドの単剤投与における長期効果の検討で,18カ月間にわたって有意な眼圧下降効果が持続したと報告しており6),緒方らは,ラタノプロストへのブリンゾラミド追加投与による眼圧下降効果は1年以上減弱することなく持続したと報告している7)が,今回の検討でも同様に,ブリンゾラミド追加群では12カ月間の長期にわたり効果が持続した.一方,以前からチモロールの長期間投与において効果が減弱する症例があること,他剤への併用薬として用いた場合にもその傾向が多くみられることが報告されている8)が,筆者らの結果においてもチモロール追加群において効果の減弱がみられた.***