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a 溶血レンサ球菌による白内障術後眼内炎と当院におけるレボフロキサシン耐性率

2009年3月31日 火曜日

———————————————————————-Page1(105)3870910-1810/09/\100/頁/JCLS45回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科26(3):387389,2009cはじめにa溶血レンサ球菌(以下,a溶連菌)は緑色レンサ球菌ともよばれ,おもに口腔内の常在菌である.内科領域では心内膜炎の起炎菌として重要であるが,結膜からも常在菌としてしばしば分離され,急性結膜炎や涙炎などの起炎菌にもなる1,2).白内障術後眼内炎の起炎菌ではブドウ球菌や腸球菌が有名であるが,レンサ球菌属もしばしば分離される3).しかしながら,a溶連菌が起炎菌となった術後眼内炎についての報告は少ない4).今回筆者らはa溶連菌による予後不良な白内障術後眼内炎を経験したので,当院での本菌の分離状況とレボフロキサシン耐性状況も含めて報告する.II症例患者:78歳,女性.2007年2月19日に他院にて右眼に耳側角膜切開による超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を2泊入院にて施行された.術後経過は良好であったが,2月28日に右眼眼痛と充血を自覚し,翌日3月1日に眼科受診したところ眼内炎と診断され,当院紹介受診となった.3月〔別刷請求先〕星最智:〒780-0935高知市旭町1-104町田病院Reprintrequests:SaichiHoshi,M.D.,Ph.D.,MachidaHospital,1-104Asahimachi,Kochi-shi,Kochi780-0935,JAPANa溶血レンサ球菌による白内障術後眼内炎と当院におけるレボフロキサシン耐性率星最智大塚斎史北澤耕司橋田正継卜部公章町田病院Alpha-HemolyticStreptococcalEndophthalmitisafterCataractSurgeryandPrevalenceofLevooxacinResistanceinMachidaHospitalSaichiHoshi,YoshifumiOhtsuka,KojiKitazawa,MasatsuguHashidaandKimiakiUrabeMachidaHospital症例は78歳,女性.他院で右眼白内障手術後眼内炎と診断され当院紹介受診となる.初診時右眼視力は光覚弁であり重度の前房蓄膿とびまん性の角膜浮腫を認めた.ただちに硝子体手術と眼内レンズ摘出を行ったが,網膜障害が強く予後不良であった.術中硝子体液からはa溶血レンサ球菌(以下,a溶連菌)が分離され,感受性検査ではアミノグリコシド系に耐性,セフェム系およびレボフロキサシンとガチフロキサシンに中間耐性を示した.2006年1月から2007年12月までに当院外来受診患者から分離培養された3,193株のうち3.0%がa溶連菌であった.レボフロキサシンに中間または耐性を示す株の割合は18.1%であり,腸球菌の7.3%よりも高かった.A78-year-oldfemalewasreferredtoourhospitalwiththediagnosisofendophthalmitisaftercataractsurgeryinherrighteye.Atrstexamination,rightvisualacuitywaslightperception;severehypopionanddiusecornealedemawerealsoobserved.Althoughvitrectomyandintraocularlensextractionwereperformed,visualoutcomewaspoorbecauseofsevereretinaldamage.Alpha-hemolyticstreptococcuswasrecoveredfromthevitreoussam-ple.Susceptibilitytestingshowedthisstraintoberesistanttoaminoglycosideantibioticsandintermediatelyresis-tanttocefemantibiotics,levooxacinandgatioxacin.FromJanuary2006toDecember2007atourhospital,3,193strainswereisolatedfromocularsamplesofoutpatients.Ofthesestrains,3.0%comprisedalpha-hemolyticstrepto-coccus;theresistancerateagainstlevooxacinwas18.1%inthealpha-hemolyticstreptococcus,higherthanthe7.3%inEnterococcusfaecalis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(3):387389,2009〕Keywords:眼内炎,緑色レンサ球菌,a溶血レンサ球菌,レボフロキサシン,耐性菌.endophthalmitis,viridansstreptococcus,alpha-hemolyticstreptococcus,levooxacin,antibiotics-resistance.———————————————————————-Page2388あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009(106)1日当院初診時,右眼視力は光覚弁であり,右眼眼圧は30.7mmHgと高値であった.眼瞼浮腫と結膜充血を認めるが,疼痛の自覚はなかった.細隙灯検査では前房蓄膿と角膜切開部の浸潤および広範な角膜浮腫を認め,眼底透見不能な状態であった(図1a).ただちにバンコマイシンとセフタジジム灌流下で硝子体手術と眼内レンズ摘出を施行した.術中所見として硝子体混濁と網膜血管の白鞘化を認めた.術後はフロモキセフ2g/日の点滴を2日間とモキシフロキサシン400mg内服を2日間投与した.局所投与ではモキシフロキサシンとセフメノキシムの頻回点眼と0.1%ベタメタゾン点眼4/日,1%アトロピン点眼2/日を行った.また,術翌日も前房炎症が高度であったため,3月2日と3日にバンコマイシンとセフタジジム添加灌流液により前房洗浄を施行した.その後,次第に角膜浮腫と前房炎症は軽快し,3月22日には眼底検査にて網膜点状出血と網膜動脈の白線化が確認できる程度まで改善し,3月26日退院となった(図1b).8月14日の当院最終受診時の右眼矯正視力は0.03であり,失明は免れたものの予後不良な状態であった.術中採取した硝子体液からはa溶連菌が多数検出され,薬剤感受性検査ではアミノグリコシド系に耐性,セフェム系およびレボフロキサシンとガチフロキサシンに中間耐性を示した.つぎに,起炎菌であるa溶連菌がレボフロキサシンに中間耐性だったことから,a溶連菌のレボフロキサシン耐性化状況を把握するため,当院における外来患者の眼部から分離されたa溶連菌について調査を行った.対象は2006年1月から2007年12月までの当院外来受診患者の眼部培養3,193検体である.検体は眼感染症のほか,内眼手術前の結膜監視培養も含まれる.2,377検体が培養陽性であり,3,474株の細菌が分離された.全分離株のうちa溶連菌は105株(3.0%)であり,腸球菌95株(2.7%)と類似していた.ディスク法による薬剤感受性検査ではレボフロキサシンに中間または耐性を示す株はa溶連菌が18.1%であり,腸球菌の7.3%よりも多かった(表1).一方,a溶連菌のセフメノキシムに対する感受性は99.1%と良好であった.II考按a溶連菌は口腔内の常在菌で血液寒天培地の溶血環が緑色を呈することから緑色レンサ球菌ともよばれ,Streptococcus(S.)mutans,S.mitis,S.sanguinis,S.anginosus,S.sali-variusなどが含まれる.白内障術後眼内炎に関する過去の表1当院で分離されたa溶連菌と腸球菌の各種抗菌薬耐性率菌種株数分離割合(%)耐性率(%)SBPCCMXGMTOBEMCPTFLXLVFXGFLXa溶連菌1053.04.70.931.467.635.21.967.618.113.3腸球菌952.710010010010074.710.589.47.33.1SBPC:スルベニシリン,CMX:セフメノキシム,GM:ゲンタマイシン,TOB:トブラマイシン,EM:エリスロマイシン,CP:クロラムフェニコール,TFLX:トスフロキサシン,LVFX:レボフロキサシン,GFLX:ガチフロキサシン.ab1初診時前眼部と術後眼底写真a:前房蓄膿と耳側角膜切開部に実質内浸潤(矢印)を認める.b:網膜血管の白線化を認める.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.3,2009389(107)調査では眼内炎の起炎菌としてブドウ球菌属や腸球菌についでレンサ球菌属がさらに分離されている3).この調査では起炎菌を確定できない症例も多く,ESCRS(ヨーロッパ白内障・屈折手術学会)スタディのように眼内液のpolymerasechainreaction(PCR)による菌種同定も行えば緑色レンサ球菌が分離されてくる可能性がある5).また,本症例や過去の報告からa溶連菌の眼内炎は網膜や血管への障害を強く起こす可能性があり,同じく予後不良といわれている腸球菌と同程度に注目すべき微生物と考えて疫学的分離状況や薬剤感受性傾向を把握する必要がある4).本症例の感染経路に関しては術中感染か術後感染かを明確にすることはできない.手術から1週間以上経過して発症していることや角膜切開創に浸潤を認めたことから,術後早期の脆弱な角膜切開創を経由して菌が眼内に侵入した可能性は否定できない.さらにa溶連菌は口腔内の常在菌であることから,術後の飛沫による眼表面の汚染の可能性も考えられる.人工喉頭を設置した患者の白内障術後眼内炎で,眼内と眼瞼皮膚からa溶連菌が分離されたという自身の飛沫によると考えられる報告がある4).白内障術後には感染予防として抗菌点眼薬を用いるが,点眼後12時間以上経過した状態では眼表面に存在する抗菌薬はわずかである6).したがって飛沫などにより一過性に眼表面が汚染されると抗菌点眼薬を用いる前に細菌が眼内に侵入する可能性があり,十分な感染予防効果が期待できないのかもしれない.したがって,術後数日間は抗菌薬点眼のほかに飛沫予防のための保護眼鏡を常時装用するなどして,眼表面の一過性の汚染を予防する対策が必要と考えられる.つぎに,本症例から分離されたa溶連菌はレボフロキサシンに中間耐性を示した.当院の外来患者の眼部から分離された菌株を調査したところ,全分離株の3.0%と腸球菌の分離率とほぼ同程度であったものの,レボフロキサシンの耐性率はa溶連菌が18.1%であり,腸球菌の7.3%よりも高かった.眼科における過去の報告ではa溶連菌のレボフロキサシン耐性率は8%程度であるため,直接的な比較はできないが耐性率が増加してきている可能性も考えられる7,8).さらに末梢血幹細胞移植後の好中球減少時にレボフロキサシンを予防投与した際,敗血症を呈した患者の起炎菌を調べたところ,レボフロキサシン耐性S.mitisが多く認められたという他科からの報告がある9).S.mitisは緑色レンサ球菌の一種であるが,系統的には肺炎球菌に非常に近い菌種である10).今回の症例や調査で分離されたa溶連菌の菌種同定はできていないため,レボフロキサシン耐性株がS.mitisかどうかは不明であるが,フルオロキノロン系抗菌点眼薬が眼科領域で頻繁に用いられている以上,レンサ球菌属のフルオロキノロン耐性化は重要な問題である.今後は菌種の同定も含めたさらなる調査が必要と考えられる.文献1)CavuotoK,ZutshiD,KarpCLetal:UpdateonbacterialconjunctivitisinSouthFlorida.Ophthalmology115:51-56,20072)BharathiMJ,RamakrishnanR,ManekshaVetal:Com-parativebacteriologyofacuteandchronicdacryocystitis.Eye22:953-960,20073)薄井紀夫,宇野敏彦,大木孝太郎ほか:白内障に関連する術後眼内炎全国症例調査.眼科手術19:73-79,20064)MatsuuraT,IshibashiH,YukawaEetal:Endophthalmi-tisfollowingcataractsurgeryconsideredtobeduetoanoralpathogen.JournalofNaraMedicalAssociation57:51-55,20065)ESCRSEndophthalmitisStudyGroup:Prophylaxisofpostoperativeeodophthalmitisfollowingcataractsur-gery:resultsoftheESCRSmulticenterstudyandidenticationofriskfactors.JCataractRefractSurg33:978-988,20076)和田智之,多鹿哲也,高橋浩昭ほか:点眼投与を想定したガチフロキサシンのPostantibioticEect.あたらしい眼科21:1520-1524,20047)加茂純子,山本ひろ子,村松志保ほか:病棟・外来の眼科領域細菌と感受性の動向20012005年.あたらしい眼科23:219-224,20068)加茂純子,喜瀬梢,鶴田真ほか:感受性からみた年代別の眼科領域抗菌薬選択2006.臨眼61:331-336,20079)RazonableRR,LitzowMR,KhaliqYetal:Bacteremiaduetoviridansgroupstreptococciwithdiminishedsus-ceptibilitytolevooxacinamongneutropenicpatientsreceivinglevooxacinprophylaxis.ClinInfectDis34:1469-1474,200210)河村好章:ブドウ球菌とレンサ球菌の分類─この10年の変遷.モダンメディア51:313-327,2005***