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Adjustable Suturesの線維柱帯切除術への応用

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(113)13010910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(9):13011305,2008c〔別刷請求先〕小林博:〒802-8555北九州市小倉北区貴船町1-1小倉記念病院眼科Reprintrequests:HiroshiKobayashi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,KokuraMemorialHospital,1-1Kifune-machi,Kitakyusyu802-8555,JAPANAdjustableSuturesの線維柱帯切除術への応用小林博*1小林かおり*2*1小倉記念病院眼科*2倉敷中央病院眼科ApplicationofAdjustableSuturestoTrabeculectomyHiroshiKobayashi1)andKaoriKobayashi2)1)DepartmentofOphthalmology,KokuraMemorialHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KurashikiCentralHospital目的:Adjustablesuturesを用いた線維柱帯切除術の降圧効果および安全性を検討した.方法:対象はadjustablesuturesを用いた線維柱帯切除術を施行し,12カ月以上経過観察を行った30眼である.Adjustablesuturesは,Khawらが報告した方法を用いた.強膜弁の縫合は,強膜弁の両隅を10-0ナイロン糸で3-1-1で縫合した後,3辺を1本ずつのナイロン糸で4-0-0で仮縫合した.術後,仮縫合を結膜上から鑷子で緩めて眼圧を調節した.結果:経過観察期間は1218カ月(平均14.3±2.8カ月)であり,ベースライン眼圧は,27.9±3.0mmHgであった.手術3カ月後,6カ月,12カ月後および最終診察時の眼圧は11.6±2.1mmHg,12.1±2.4mmHg,12.3±2.3mmHg,12.6±1.4mmHgであり,いずれの時期においても術前に比較して有意に下降していた(p<0.0001).眼圧の変化は,手術3カ月後,6カ月後,12カ月後では16.3±3.6mmHg(58.1±8.5%),15.8±3.9mmHg,(56.3±9.6%),15.6±3.8mmHg(55.4±12.0%),15.5±3.4mmHg(54.6±7.4%)であり,眼圧変化値および眼圧変化率は術前に比較して有意に下降していた(p<0.0001).合併症としては,低眼圧1名(3%),脈絡膜離1名(3%)が認められたが,adjustablesuturesを緩める操作あるいはレーザー切糸術後に浅前房をきたした症例はなかった.結語:Adjustablesuturesを用いた眼圧下降作用は,従来の手術と同等であり,特殊な機械が不要であり簡便であった.Adjustablesuturesを使用することによって,レーザー切糸術後に起こる低眼圧および浅前房を減少させる可能性があると考えられた.Tostudytheintraocularpressure-loweringeectandsafetyoftrabeculectomyusingadjustablesutures,weconductedaprospectiveclinicalstudyof30open-angleglaucomapatientshavingintraocularpressuregreaterthanorequalto22mmHg.AdjustablesutureswereusedasreportedbyKhawetal.Meanfollow-upperiodwas14.3±2.8months;meanbaselineintraocularpressurewas27.9±3.0mmHg.Meanpostoperativeintraocularpres-surewas11.6±2.1mmHg,12.1±2.4mmHg,12.3±2.3mmHgand12.6±1.4mmHgat3,6,12monthsandnalvisit.Intraocularpressuredecreasedsignicantlycomparedwithpreoperativepressureatallvisits(p<0.0001).Meanintraocularpressurechangewas16.3±3.6mmHg(58.1±8.5%),15.8±3.9mmHg(56.3±9.6%),15.6±3.8mmHg(55.4±12.0%)and15.5±3.4mmHg(54.6±7.4%)at3,6,12monthsandnalvisit(p<0.0001).Com-plicationsincludedhypotensionandchoroidaldetachmentinonecase(3%).Noinstancesofshallowanteriorcham-berorhypotonywerefoundafterlooseningofadjustablesuturesorlasersuturelysis.Thehypotensiveeectoftrabeculectomywithadjustablesutureswassimilartothatofprevioustechniques.Thistechniquemayreducetheincidenceofshallowanteriorchamberandhypotonyafterthelooseningofadjustablesuturesorlasersuturelysis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(9):13011305,2008〕Keywords:線維柱帯切除術,adjustablesutures,レーザー切糸.trabeculectomy,adjustablesutures,lasersuturelysis.———————————————————————-Page21302あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(114)はじめに薬物治療で制御できない緑内障に対しては,一般的に線維柱帯切除術が行われている.しかし,線維柱帯切除術の合併症としては,術後早期での低眼圧,浅前房,脈絡膜離,前房出血,術後晩期での白内障の進行および濾過胞に由来する眼内炎が知られており,その頻度は決して低くない14).術後早期の合併症の多くは過剰な濾過に起因しているために,術中,強膜弁をしっかりと縫合し,術後に眼圧を調節するためにレーザーで切糸することが行われている5).今回,術中に仮縫合しておいた10-0ナイロン糸を,術後に鑷子などで緩められるadjustablesutures6)を線維柱帯切除術に用いたので検討した.I対象および方法対象は,薬物治療にかかわらず眼圧が22mmHg以上の開放隅角緑内障30名30眼である.閉塞隅角緑内障,外傷性緑内障,ぶどう膜炎による緑内障,血管新生緑内障および高血圧,糖尿病などの全身性合併症は除外した.12カ月間において,眼圧,自覚症状および他覚所見について観察した.対象患者に対してすべて,Humphrey視野検査,隅角鏡検査,共焦点レーザートモグラフを含む眼科的検査を施行した.経過観察開始後の眼圧はベースライン時±1時間に測定した.ベースライン眼圧は,経過観察前2週間ごとに3回眼圧を測定し,その平均値とした.眼圧はGoldmann圧平眼圧計で3回測定し,その平均値を統計処理には用いた.安全性は,術中および術後の合併症の頻度によって評価した.低眼圧は,術後に眼圧が4mmHg以下に下降した場合と定義した.前房出血は,術後に前房の下方に細隙灯顕微鏡で出血が確認できた場合とした.高眼圧は,術翌日の眼圧が術前に比較して3mmHg以上上昇した場合とした.1.手術手技(図1)12時部位の球結膜をできるだけ輪部に沿って8mm切開して,円蓋部基底の結膜弁を作製した.外方強膜弁を作製する部位を露出し,マイトマイシンC0.04%を3分間,強膜に塗布した後,250mlBSS(平衡食塩液)を用いて洗浄した.輪部を基底として,大きさが4×4mm,厚さは強膜全層の1/3の方形の外方強膜弁を作製した.その内側に,大きさが3×1.5mmで,強膜床が50100μmになるように内方弁を作製した.さらに,Schlemm管外壁を開放し,角膜側に離した後に幅2mmのDescemet膜を露出した.内方弁を切除した後に,離したDescemet膜の中央に1mmの切開を加え,虹彩切除を施行した.外方弁を耳上端と鼻上端を10-0ナイロン糸で3-1-1で縫合した.外強膜弁の側辺と上辺の中央を4回廻した仮縫合でしっかりと縫合した.結膜を円蓋部基底の結膜弁を作製マイトマイシンCを塗布した後,BSSにて洗浄10-0ナイロン糸を用いてwingstretchで結膜を縫合内方弁を切除後に,離Descemet膜の中央に1mmの切開ABCDEF虹彩切除Schlemm管外壁を開放し,幅2mmのDescemet膜を露出4×4mmの外方強膜弁を作製2.5×1.5mmの内方弁を作製4mm4mm2.5mm2mm外方弁を10-0ナイロン糸で2つの3-1-1縫合と3つの仮縫合を用いて閉じた1.5mm図1手術手技A:12時部位の球結膜をできるだけ輪部に沿って8mm切開して,円蓋部基底の結膜弁を作製した.外方強膜弁を作製する部位を露出し,マイトマイシンC0.04%を3分間,強膜に塗布した後,250mlBSSを用いて洗浄した.輪部を基底として,大きさが4×4mm,厚さは強膜全層の1/3の方形の外方強膜弁を作製した.B:その内側に,大きさが2.5×1.5mmで,強膜床が50100μmになるように内方弁を作製した.C:さらに,Schlemm管外壁を開放し,角膜側に離した後に幅2mmのDescemet膜を露出した.D:内方弁を切除した後に,離したDescemet膜の中央に1mmの切開を加えた.E:その後,虹彩切除を施行した.F:外方弁を10-0ナイロン糸で2つの3-1-1縫合と3つの仮縫合を用いて閉じた.結膜を10-0ナイロン糸で37糸で縫合した.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081303(115)10-0ナイロン糸で37糸で縫合した.2.術後管理手術後,すべての緑内障薬を中止し,デキサメタゾン0.1%およびレボフロキサシン0.1%を3回/日,1カ月間点眼させた.目標眼圧まで下降しない場合,仮縫合を無鉤鑷子あるいは綿棒を用いて結膜上から緩めた.それで十分に眼圧が下降しない場合,強膜弁の両隅の10-0ナイロン糸をアルゴンレーザーで切断した(図2).3.中止例中止例は,(1)5-フルオウラシル結膜下注射および外科的追加処置を施行した場合,(2)連続して2回の検査で,眼圧が21mmHg以上であった場合,(3)予定された診察を受けなかった場合とした.脱落・中止症例では,脱落・中止直前の診察時の眼圧を最終診察時の眼圧とした.4.統計解析連続変数の比較には,両側Studentt-検定を用いた.分割表での比較には,c2検定,Fisher検定を用いた.II結果表1に,患者の背景をまとめた.経過観察期間は1218カ月(平均14.3±2.8カ月)であった.平均年齢は70.8±8.4歳であり,男性15名(50%),女性15名(50%)であった.1.眼圧の変化ベースライン眼圧は,27.9±3.0mmHgであり,手術3カ月後,6カ月後,12カ月後および最終診察時の眼圧は11.6±2.1mmHg,12.1±2.4mmHg,12.3±2.3mmHg,12.6±1.4mmHgであり,いずれの時期においても術前に比較して有意に下降していた(p<0.0001)(図3).眼圧の変化は,手術3カ月後,6カ月後,12カ月後では16.3±3.6mmHg(58.1±8.5%),15.8±3.9mmHg(56.3±9.6%),15.6±3.8mmHg(55.4±12.0%),15.5±3.4mmHgA.B.C.眼圧下降が不十分な場合仮縫合を結膜上から鑷子で緩めるアルゴンレーザーで切断レーザー鑷子図2術後処置A,B:眼圧下降あるいは濾過胞形成が不十分な場合は,鑷子で結膜上から仮縫合を緩める.C:それでも不十分な場合は,両隅の10-0ナイロン糸をレーザーで切断した.ABC期間(月)期間(月)期間(月)眼圧(mmHg)眼圧変化値(mmHg)眼圧変化率(%)-80-60-40-202005101520253035-25-20-15-10-505036912036912036912図3眼圧の変化A:眼圧の推移,B:眼圧変化値の推移,C:眼圧変化率の推移.表1患者の背景患者数30名男性女性15名(50%)15名(50%)年齢70.8±8.4歳(4283歳)視力0.361(0.021.0)Humphrey視野測定(Meandeviation)16.14±6.76dB(4.8829.35dB)陥凹面積/乳頭面積比0.648±0.170(0.3960.888)眼圧27.9±3.0mmHg(2334mmHg)経過観察期14.3±2.8カ月(1218カ月)表2術前および最終診察時の眼圧の比較術前眼圧27.9±3.0mmHg(2334mmHg)薬剤数3.3±0.8(24)最終診察時眼圧12.4±2.7(817)薬剤数0.07±0.25(01)無投薬で≦20mmHg29(97%)投薬(+/)で≦20mmHg30(100%)無投薬で≦16mmHg27(90%)———————————————————————-Page41304あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(116)(54.6±7.4%)であった(p<0.0001)(図3).手術12カ月後において,無治療で眼圧が20mmHg以下である症例数は29名(97%)であり,無治療で眼圧が16mmHg以下である症例数は27名(90%)であった(表2,図4).2.術後処置と合併症Adjustablesuturesを鑷子あるいは綿棒で緩める操作は16名(53%)に対して施行し,レーザー切糸術は5名(17%),ニードリングは1名(3%)に施行した.5-フルオロウラシル注射は行っていない.術後合併症として,低眼圧1名(3%),脈絡膜離1名(3%)が認められたが,これは術直後からみられたものであり,adjustablesuturesを緩める操作あるいはレーザー切糸術後に浅前房をきたした症例はなかった(表3).III考按強膜弁の縫合にadjustablesutureを用いた線維柱帯切除術は,従来のレーザー切糸を使用した線維柱帯切除術とほぼ同様な眼圧下降効果が得られた7,8).そのうえ,低眼圧および脈絡膜離の発症頻度が3%であり,過剰な濾過による合併症が従来のレーザー切糸を用いた線維柱帯切除術の報告に比較して有意に低いことがあげられる9,10).従来,術後早期の眼圧調整には,レーザー切糸術6)や鑷子などで糸を抜くreleasablesutures11)で行われてきたが,糸を切ったり抜いたりするとその糸が弁を抑える力がなくなり,その処置直後に浅前房あるいは低眼圧をきたす危険性があったのに対して,adjustablesuturesでは糸を緩めることで糸が弁を抑える加減を調整でき,浅前房を起こしにくいことが特徴である.そのため,レーザー切糸術では,切る糸の本数で眼圧を調整するために7本かけていたのに,糸が弁を抑える力を調整できるためにかける糸の本数を減少させることができるようになった.レーザー切糸術では,低熱量のレーザーとはいえ,結膜,Tenon,強膜に熱傷が起こり,炎症が起こることは否めない.それによって,‘ringofsteel’などの結膜瘢痕化が生じる可能性があると考えられ,adjustablesutureではレーザーによる熱作用を減らすことができると思われた12).元来,Khawらが報告した際には10-0ナイロン糸を緩める際には,特殊な鑷子が用いられていたが,基本的はに無鉤鑷子であればよく,綿棒でも代用できた6).眼球マッサージでも糸を緩めることができるので,マッサージしながら糸を緩めて眼圧を調整することも可能であった.術中手技も簡単であり,今後,レーザー切糸術の代用になるものと考えられた.今回,adjustablesutureを用いた線維柱帯切除術の降圧作用は,報告されているレーザー切糸術を使用した線維柱帯切除術の成績に比較して同様であり,合併症に関しては低眼圧が低率であった.さらにadjustablesutureとレーザー切糸術を直接比較する必要があると考えられた.文献1)LehmannOJ,BunceC,MathesonMMetal:Riskfactorsfordevelopmentofpost-trabeculectomyendophthalmitis.BrJOphthalmol84:1349-1353,20002)PoulsenEJ,AllinghamRR:Characteristicsandriskfac-torsofinfectionsafterglaucomalteringsurgery.JGlau-coma9:438-443,20003)DeBryPW,PerkinsTW,HeatleyGetal:Incidenceoflate-onsetbleb-relatedcomplicationsfollowingtrabeculec-tomywithmitomycin.ArchOphthalmol120:297-300,20024)RothmanRF,Liebmann,RitchR:Low-dose5-uorouraciltrabeculectomyasinitialsurgeryinuncomplicatedglauco-ma:long-termfollow-up.Ophthalmology107:1184-1190,20005)SavegeJA,CondonGP,LytleRAetal:Lasersuturelysisaftertrabeculectomy.Ophthalmology95:1631-1638,19886)KhawPT:Improvementintrabeculectomyandtech-niquesofantimetabolitesusetopreventscarring.Pro-ceedingof3rdInternationalCongressonGlaucomaSur-gery,2006,Toronto,Canada7)原岳,白土城照,宮田典夫ほか:マイトマイシンCを用いた初回線維柱帯切除術.日眼会誌99:1283-1287,表3合併症の頻度低眼圧1(3%)浅前房0(0%)脈絡膜離1(3%)高眼圧3(10%)前房出血0(0%)虹彩前癒着0(0%)虹彩後癒着0(0%)濾過胞の平坦化1(3%)白内障0(0%)濾過胞炎/眼内炎0(0%)A.B.期間(月)期間(月)眼圧≦20mmHg眼圧≦16mmHg確率00.20.40.60.8103691200.20.40.60.81036912図4無治療での20mmHg以下(A)および16mmHg以下(B)の確率———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081305(117)19958)堀暢英,山本哲也,北澤克明:マイトマイシンC併用トラベクレクトミーの長期成績─眼圧コントロールと視機能─.眼科手術12:15-19,19999)KapetanskyFM:Lasersuturelysisaftertrabeculectomy.JGlaucoma12:316-320,200310)RalliM,Nouri-MahdaviK,CaprioliJ:OutcomesoflasersuturelysisafterinitialtrabeculectomywithadjunctivemitomycinC.JGlaucoma15:60-67,200611)StarkWJ,GoyalRK:Combinedphacoemulsication,intra-ocularlensimplantation,andtrabeculectomywithreleasablesutures.ProceedingofCurrentConceptinOph-thalmology,9-11/12/2000,Baltimore,Maryland12)L’EsperanceFA:Theocularhistopathologiceectofkryptonandargonlaserradiation.AmJOphthalmol68:263-273,1969***