《原著》あたらしい眼科33(3):461.466,2016c両眼開放のVisualFieldScoreとFunctionalFieldScoreのいずれがNationalEyeInstituteVisualFunctioningQuestionnaire25(VFQ25)とより関連するか?加茂純子*1原田亮*1瀬戸寛子*2大島裕司*3*1甲府共立病院*2九州大学病院*3九州大学大学院医学研究院眼科WhichCorrelatesMoreHighlytotheNationalEyeInstituteVisualFunctioningQuestionnaire25(VFQ25):BinocularVisualFieldScoreorFunctionalFieldScore?JunkoKamo1),RyoHarada1),HirokoSeto2)andYujiOshima3)1)KofuKyoritsuHospital,2)KyushuUniversityHospital,3)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversity目的:両眼加重平均加重平均視野スコアであるFunctionalFieldScore(FFS)と,両眼開放視野スコアであるbinocularVisualFieldScore(bVFS)の,いずれが視覚関連qualityoflife(QOL)と関連があるか調査する.対象および方法:緑内障16例,糖尿病網膜症5例,加齢黄斑変性4例,網膜色素変性2例,網脈絡膜萎縮2例,同名半盲1例など,視野に障害のある32例を研究の対象とした.Humphrey視野計のカスタムプログラムColenbrandergridtest(CGT)を行い,VisualFieldScore(VFS)を測定.各眼で測定したVFSを,片眼に20%,両眼に60%の比率を置いた計算式を用いて,FFSを求めた.両眼開放でCGTを測定したスコアをbVFSとした.CGTには信頼性基準を設け,固視不良20%未満,偽陰性と偽陽性33%未満を信頼性良好とした.視力からFFSと同様の計算式で,FunctionalAcuityScore(FAS)を求めた.FFS,bVFS,FASと,theNationalEyeInstituteVisualFunctioningQuestionnaire-25(VFQ25)との関連を,共分散構造解析(パス解析)を用いて危険率5%未満を有意差ありと判定した.結果:CGTの信頼性が良好と判定されたのは21例であった.信頼性良好群のFFS,bVFS,FASとVFQ各尺度のパス解析の結果,総合スコアVFQ25(11)との関連は,FFSが標準化推定値(係数)0.744(R2=0.568),bVFSは係数0.647(R2=0.428)で,いずれも有意差が得られた.下位尺度についても,周辺視覚,自立,心の健康,社会生活機能,役割制限,遠見視覚,全体的見え方で,有意差が得られ,周辺視覚以外はFFSの係数のほうがbVFSよりも高かった.FASとVFQ25(11)は係数0.093で有意差はなかった.結論:FFSのほうがVFQ25に対して関連が強いことが示唆された.FFSにより,片眼の視野と両眼開放の視野を両方評価することで,その人のqualityofvision(QOV)をより反映しやすくなると考えられた.Purpose:ToinvestigatewhethertheFunctionalFieldScore(FFS)orthebinocularVisualFieldScore(bVFS)correlatesmorehighlytotheNationalEyeInstituteVisualFunctioningQuestionnaire-25(VFQ25).Subjectsandmethods:Subjectswere32cases,including16glaucoma,5diabeticretinopathy,4age-relatedmaculardegeneration,2retinitispigmentosa,2chorioretinalatrophy,1hemianopiaetc.UsingacustomprogramoftheHumphreyFieldAnalyzercalledColenbrandergridtest(CGT),VisualFieldScore(VFS)weremeasured.FromtheresultantVFSofeacheye,wecalculatedFFSusingtheformula(20%VFSod+20%VFSos+60%VFSou).WealsomeasuredbinocularVFS(bVFS)byCGTwithbotheyesopen.Wesetthereliancestandardasfixationlossunder20%,falsepositiveunder33%andfalsenegative33%.Casesthatsatisfiedthestandardweredesignatedthegoodreliancegroup,theremanderthebadreliancegroup.FunctionalAcuityScore(FAS)wascalculatedviaasimilarformulafromVisualAcuityScore.WeanalyzedtherelationshipofFFS,bVFSandFASversusVFQ25withstructuralequationmodeling(SEM).Wesetasignificantdifferenceriskrateoflessthan5%.Results:Thecasesjudged〔別刷請求先〕加茂純子:〒400-0034甲府市宝1-9-1甲府共立病院眼科Reprintrequests:JunkoKamo,M.D.,KofuKyoritsuHospital,1-9-1Takara,Kofu400-0034,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(131)461tobeofgoodreliancebyCGTnumbered21.TheresultbyPASSanalysisshowedstandardizedestimates(coefficient)betweenVFQ25(11)andFFSof0.744(R2=0.568)andbVFS0.647(R2=0.428).Bothshowedsignificantcorrelation(p<0.001).Astothesubscales,suchasPeripheralVision,Dependence,Mentalhealth,Socialfunction,Rolelimitation,DistanceVisionandGeneralVision,significantcorrelationwasobserved.TheCoefficientvaluewasalwayshigherinFFS,exceptfordistancevision.ThecoefficientbetweenFASandVFQ25(11)was0.093andnosignificantcorrelationwasnoted.Conclusion:FFShadbettercorrelationtoVFQ25.NotonlybinocularVFS,butalsoeachVFSreflectedtheQOVoftheindividual.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(3):461.466,2016〕Keywords:FunctionalFieldScore,binocularVisualFieldScore,VFQ25,FunctionalAcuityScore.FunctionalFieldScore,binocularVisualFieldScore,VFQ25,FunctionalAcuityScore.はじめに視機能を判定する基準として,AmericanMedicalAssociation(AMA)では2002年まではGoldmann視野計III/4e(以下,GP)を用いる視能率と,EstermanDisabilityScore(EDS)が併用されていた1,2).しかし,加齢黄斑変性,糖尿病黄斑症などの中心視野障害が起こる病気の増加に伴い,それ以前の米国の視機能基準では対応できないとして,Colenbranderが1990年代初頭にFunctionalVisionScore(FVS)を考案した3).米国では2001年以降,このFVSが視機能基準として推奨され使われている4,5).FVSは,AMAをはじめ,InternationalCouncilofOphthalmology(ICO),InternationalSocietyforLowVisionResearchandRehabilitation(ISLRR)によっても推奨されており,視機能判定の国際基準となっている6),URL1).FVSは,視力から計算されるFunctionalAcuityScore(FAS)と,視野から計算されるFunctionalFieldScore(FFS)の2つのスコアを統合して算出される(図1).FVSという疾患を超えた単一のimpairmentscore(障害の程度)から,disability(障害があることでどのくらいできないか)の見積もりを行政に提供することが可能となる.FVSは特右眼OD,左眼OS,両眼OUその人の見積もられる視機能測定した視機能VisualAcuityScore(VAS)FunctionalAcuityScore(FAS)=認識された文字を数える*は以下の組み合わせ:または=100+50*log10(VA)60%OU+20%OD+20%OSVisualFieldScore(VFS)FunctionalFieldScore(FFS)=検出された点を数えるは以下の組み合わせ:60%OU+20%OD+20%OS他の視覚問題があればFunctionalVisionScore(FVS)オプション調整(15点まで)視覚の総合的能力が見積もられる(両眼視,立体視,グレア,:FAS×FFS/100(-15)色覚など記載する)図1FVSの計算過程462あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016定の疾患の進行をモニターするものではない.FFSを算出するにあたって,VisualFieldScore(VFS)を求める必要がある.GPの結果からはColenbrandergrid(図2)をカウントすることで求める7),URL1).しかし,近年の自動視野計の普及に伴い,Goldman視野計を保有する眼科医療機関は減少しており,測定のできる技術者自体も減少傾向にある.そこで筆者らは,自動視野計でVFSを測定することを考えた.筆者らはCarlZeiss(東京)に依頼して,HumphreyFieldAnalyzer(HFA)のカスタムプログラムで,VFSをカウントするためのColenbranderグリッドテスト(CGT)を作った.CGTは視標サイズIII,輝度10dBの閾上刺激を用いたスクリーニングテストである.このCGTを用いて,視野に障害のある44名について,CGTの結果と,GPの結果を比較すると,相関係数はr=0.931(p<0.0001)と非常によく相関した8).両眼開放で測定したbinocularVFS(bVFS)についても筆者らは検討を行った.視野に障害のある36名のbVFSと図2Colenbrandergrid25,65,115,155,195,225,255,285,315,345°の経線上にそれぞれ10点(最周辺部である65°のオプションを加えると11点),全体で100(110)点のドットが配置されている.正常者のVFSは100になる.半径10°以内に50点,周辺に50点,上方に40点,下方に60点と下方に重みがつけられている.(132)(片眼ずつを重ね合わせて合成した両眼視野)VFSouを比較した結果,両者の間に統計学的有意差はなく,ほぼ等しいことが確かめられた9).しかし,FFSはbVFS,VFSouと比較して有意に低い値となった.FFSは計算式が示すように,各眼に20%,両眼に60%の比率で計算され,両眼視を重視し,片眼の欠損も評価する.FFSとbVFSのいずれが患者のqualityofvision(QOV)をより反映しているかについて検討した研究はまだない.そこで今回筆者らは,CGTを用いてFFS,bVFS,およびFASと,theNationalEyeInstituteVisualFunctioningQuestionnaire-25(VFQ25)日本語版10)との関連について調べた.I対象および方法対象は甲府共立病院と九州大学病院の倫理委員会で承認を受けたうえで,視野に欠損のある患者に研究内容についての説明を行い,同意を得た32名(男性18名,女性14名)で,平均年齢は71±13(33.95)歳である.疾患内訳は緑内障16例,糖尿病網膜症(黄斑症)5例,加齢黄斑変性4例,網膜色素変性2例,網膜静脈分枝閉塞2例,網脈絡膜萎縮2例,同名半盲1例であった.症例の選択には,病態が落ち着いており,内眼手術やレーザー,硝子体注射を直近の6カ月以内に施行していないこと,1年以内にlogMAR視力表で3段階落ちていないことを前提とした.視力は万国式試視力表を用いて左右眼の矯正視力を測定した.右眼視力からVisualAcuityScore(VASod),左眼視力からVASos,そして矯正視力の良いほうの眼(良眼)の視力を両眼開放視力として代用して,VASouに換算した.視力値をVASに換算するには,換算表を用いるか4,5),小数視力を計算式に代入することでも可能であるが(図1),これを容易にするための筆者らが開発したColenbrander-KamoFVS計算EXCELシート(FVSシート)を使用したURL2).HFA740のCGTを使用して,右眼でVFSod,左眼でVFSos,両眼開放でbVFSを測定した.VFSod,VFSosの結果より,どちらか一方の眼で見えている点は両眼でも見えているものとしてカウントし,左右眼の視野を重ね合わせたスコアであるVFSouを合成した.CGTは視野の中心10°以内と,10°より周辺部にプログラムが分かれているため,中心視野と周辺視野は分けて測定した.したがって,すべてのVFSは中心と周辺それぞれのVFSを加えて算出した.これらの値をFVSシートに代入して,FFSを算出した.CGTの結果の信頼性について基準を設け,良好例の定義は各眼,中心,周辺通して固視不良が20%未満,偽陽性,偽陰性が33%未満をすべて満たすものとした.bVFS測定の際には視野計の機構上固視監視ができないために,検査の信頼性は偽陽性,偽陰性で評価した.(133)VFQ25は12項目の下位尺度にそれぞれ1.4個の質問があり,全部で25個の質問がある.下位尺度と略語(質問数)はつぎのとおりである.全体的健康感GH(1),全体的見え方GV(1),目の痛みOP(1),近見視覚による行動NV(2),遠見視覚による行動DV(3),見え方による社会生活機能SF(3),見え方による心の健康MH(4),見え方による役割制限RL(3),見え方による自立DP(3),運転DR(2),色覚CV(1),周辺視覚PV(1),以上が12項目の下位尺度である.下位尺度のうち,全体的健康感GHを除いた11項目の総合スコアがVFQ25(11)である.VFQ25は原則として自己記入,自己記入が不可能な者には面接式として得た.なお,解析はOP,CVを除く10項目の下位尺度と,VFQ25(11)を対象とした.統計解析は,平均の差の検定,および完全逐次モデルによる共分散構造分析(パス解析)を行った.検定の多重共線性を避けるため,FFS,FASを独立変数にVFQ各項目を従属変数としたパス解析と,bVFS,FASを独立変数にVFQ各項目を従属変数としたパス解析に分けて行った.その際,視力と中心視野の多重共線性を避けるため,FFSとbVFSには中心暗点ルール7),URL3)を適用した.解析ソフトにはRforwindowsver3.2.1(RProject)のパッケージlavaanを使用し,統計学的水準として,危険率5%未満を有意差ありと判定した.II結果検査の信頼性良好と判定されたのは21例,不良と判定されたのは11例であった.信頼性の良好,不良に疾患を分けると表1のようになる.加齢黄斑変性,糖尿病黄斑症,網膜静脈分枝閉塞,同名半盲など,中心視野に暗点がある疾患が不良群となった.信頼性不良のおもな理由は固視不良であった.片眼logMAR,両眼logMAR,FAS,VFS,VFSou,bVFS,FFSの結果を表2に示す.信頼性良好群と不良群で平均の差の検定をすると,FASとVFSと両眼logMARはp<0.01,片眼logMARはp<0.001の有意差が検出された.各群のVFQ25の平均値を表したものが図3である.信頼性良好群と不良群で平均の差の検定をすると,運転DRはp<0.001,近見視覚NV,社会生活機能SF,自立DP,VFQ25(11)はp<0.01,遠見視覚DV,心の健康MH,役割制限RL,周辺視覚PVはp<0.05で有意差が検出された.信頼性良好群のFFS,bVFSとVFQ25各尺度に対する共分散構造分析の結果が表3である.FFSとVFQ25各尺度の標準化推定値(係数)は,周辺視覚がもっとも高く0.800〔決定係数(R2)=0.684〕,VFQ25(11)は0.744(R2=0.568)で,いずれも有意差が検出された(p<0.001).なお,適合度については自由度0の完全逐次モデルを用いたため,解析対象あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016463表1信頼性良好群と不良群の疾患内訳および,不良群となった理由疾患集計全対象信頼性片眼での不良群例数と理由(重複あり)両眼開放での不良群例数と理由良好群不良群緑内障加齢黄斑変性糖尿病黄斑症網脈絡膜萎縮網膜色素変性網膜静脈分枝閉塞同名半盲糖尿病網膜症16442221114022210024200111固視不良2固視不良4,偽陰性1固視不良1,偽陰性200固視不良1固視不良1偽陰性100偽陰性100000計322111VFQ25各尺度片眼性,両眼性で分けて示した.両眼では固視チェックをoffとしているので,偽陰性,偽陽性しかチェックできない.表2各群の片眼logMAR,両眼logMAR,FAS,VFS,VFSou,bVFS,FFS片眼logMAR***両眼logMAR**FAS**VFS**VFSoubVFSFFS信頼性良好群0.25±0.44(.0.08.1.52)0.13±0.31(.0.08.1.00)91.0±15.1(46.104)74.1±19.4(23.98)86.3±17.9(37.100)86.4±17.2(37.100)81.5±18.1(34.97)信頼性不良群0.87±0.78(0.00.2.00)0.52±0.57(0.00.1.98)66.0±28.0(1.100)58.7±21.8(0.96)76.7±15.3(50.96)75.2±19.7(32.98)69.5±14.5(44.86)平均値と標準偏差,()内は最低値と最高値を記載.*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001.90.080.070.060.050.040.030.020.010.0***************GVNVDVSFMHRLDPDRPV(11)bVFSとVFQ25各尺度の係数は,FFSと同様周辺視覚PVがもっとも高く0.800(R2=0.661),VFQ25(11)は0.647(R2=0.428)で,有意差が検出された(p<0.001).他に5%確率で有意差のあった尺度と係数は,自立DPが0.651(R2=0.421),心の健康MHが0.627(R2=0.388),社会生活機能SFが0.658(R2=0.455),役割制限RLが0.431(R2=0.194),遠見視覚DVが0.510(R2=0.409),全体的見え方GVが0.472(R2=0.229)であった.信頼性不良群のFFS,bVFS,FASとVFQ25(11)の係数は,FASが係数0.608と強く影響し,視野スコアではbVFSは係数0.439,R2は0.531で,いずれも有意差があっスコア0.0信頼性良好群■信頼性不良群た(p<0.05).FFSは係数0.353で有意差は検出されなかっ図3VFQ25各尺度の結果*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001.GV:一般的見え方,NV:近見視覚,DV:遠見視覚,SF:社会生活機能,MH:心の健康,RL:役割制限,DP:自立,DR:運転,PV:周辺視覚,VFQ25(11):痛みと色覚を除いた総合スコア.とならなかった.他に5%確率で有意差のあった尺度と係数は,自立DPが0.757(R2=0.575),心の健康MHが0.704(R2=0.495),社会生活機能SFが0.731(R2=0.562),役割制限RLが0.542(R2=0.304),遠見視覚DVが0.603(R2=0.516),全体的見え方GVが0.561(R2=0.322)であった.FASとVFQ25各尺度の解析では,遠見視覚DVのみ係数0.365で有意な結果が得られた(p<0.05).464あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016た.III考察FFS,FVSとVFQ25の相関について述べた論文は,加齢黄斑変性を主とした研究でFuhrら11)が,網膜色素変性でSeoら12)が,緑内障をもつ運転手では筆者ら13)により報告されている.また柳澤らもI/4e,およびI/2eの視能率の判定はVFQ25と相関しないが,FFSは相関することを示した(2010年臨床眼科学会).VFQ25の妥当性については,古くはMassofら14,15),日本語版では鈴鴨ら10)に続き,わが国でも多数の論文がすでに出版されている.今回筆者らは両眼開放の視野スコアであるbVFSと,両眼加重平均を用いた(134)表3bVFS,FFS,FASとVFQ25の各尺度に対する標準化推定値と決定係数(R2)全体的見え方GV近見視覚NV遠見視覚DV社会生活機能SF心の健康MHFFS0.561**0.2190.603**0.731***0.704***bVFS0.472*0.1600.510**0.658***0.627***FAS0.068(0.038)0.341(0.333)0.365*(0.333*)0.136(0.093).0.023(.0.064)決定係数(R2)0.322(0.229)0.171(0.148)0.516(0.409)0.562(0.455)0.495(0.388)役割制限RL自立DP運転DR周辺視覚PV総合スコアVFQ25(11)FFS0.542**0.757***0.2290.800***0.744***bVFS0.431*0.651***0.2290.800***0.647***FAS0.080(0.055)0.021(.0.020)0.192(0.179)0.136(0.080)0.093(0.051)決定係数(R2)0.304(0.194)0.575(0.421)0.133(0.094)0.684(0.661)0.568(0.428)検定の多重共線性を避けるため,FFS,FASを独立変数にVFQ各項目を従属変数としたパス解析と,bVFS,FASを独立変数にVFQ各項目を従属変数としたパス解析に分けて行った.()内の数値はbVFS,FAS,VFQ各項目のパス解析で得られたFASの係数とR2である.*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001.FFSで,どちらがVFQ25の関連因子であるかを検討した.今回の信頼性良好群において,FFS,bVFSと,VFQ25各尺度に対する係数は,FFSのほうがやや高い値となった.同じパスで解析をすることができないため,係数の間接的な比較しかできないが,bVFSよりはFFSのほうが患者のQOVに関連する因子であることが示唆されたと考える.しかし,QOVに明らかに影響するはずの視力スコアであるFASが,近見視覚以外は視野スコアに比べて低い係数となり,遠見視覚DV以外は有意差も検出されなかった.この原因として考えられるのは,検査の信頼性良好群は視力良好群であり,正常か比較的軽度の視力障害の者が多かったことがあげられる.近見視覚NVと視野スコアの関連が低いのは,中心暗点ルールが適応されないほどの視力(小数視力で0.67以上)にもかかわらず,中心視野に欠損がある症例が少なかったことが考えられる.Fuhrら11)の研究では黄斑疾患が38%と多く,FFSの相関係数も0.45と高い.筆者らの症例は信頼性良好群21例のうち,緑内障が14例と多く,視力障害が主体である網膜循環障害や黄斑疾患は少数であった.信頼性不良群ではVFQ25(11)とFASとの関連がみられたが,これは視力不良例が多かったことが原因であると考えられる.信頼性良好群の下位尺度のうち,視野に関する質問である周辺視覚PVと視野スコアが当然のことながら高い係数を示した反面,同じく視野が関係するはずの運転DRと視野スコアの間には,有意差は検出されなかった.今回の対象は高齢者が多く,運転免許を所持したことがない者も多くいたこと,視力自体は良好な者が多かったこと,R2=0.094という決定係数から視覚以外の原因が大きく関係していることが考えられる.周辺視覚PVについてはbVFSもFFSも係数は同値であった.これは周りの物に気付くかどうかという,大まかな質問に対しては差が生じなかったことが考えられる.しかし,社会生活機能SF,心の健康MH,役割制限RL,自立DRの4つの下位尺度,つまり精神的安定や社会生活を反映した下位尺度ではFFSの係数が高くなった.これは両眼で見えているとされる視野よりも,片眼の視野障害も考慮に入れることで,実生活における種々の自覚的な困難を反映しやすくなったのではないかと考える.両眼開放で測定するbVFSのほうが簡便であり,日常の視野を評価しているという点では,こちらを採用するという考え方も確かにある.しかし,両眼開放視野は正常と判定されるが,片眼に欠損があり,反対の眼で補っているというケースについても考慮に入れる必要があると筆者らは考えている.たとえば緑内障で鼻側視野欠損やBjerrum(ビエルム)暗点があっても,欠損部位や暗点が重ならなければ,両眼開放で視野を測定すると正常視野が検出されるケースは珍しくない.しかし,患者に聞き取りを行うと,日常生活のなかでも視野異常のある部位に見えづらさを感じていると答える人がいる.両眼開放視野については,両眼の網膜対応点における加算現象であるbinocularsummation16)が知られている.とくに中心視野では加算が起こりやすく,両眼同程度の感度であれば,片眼で見るよりも感度が上昇する.また,対応点の視野感度に左右差がある場合,加算が減少することが報告されている17).このことから,片眼の感度低下が両眼開放の視野にも影響を及ぼすことがわかる.閾上刺激を用いるCGTでは,閾値の変化は捉えていないため,片眼に感度低下があったとしても,両眼で10dBが見えればその点は正常であるとみなされる.しかし,両眼で10dBが見えたとしても,片眼に感度低下があれば加算現象は起こりにくくなるため,見え方の質が同じであるとはいえないであろう.この点からも,両眼視野だけではなく,片眼の視野も評価すること(135)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016465が必要であると考える.さらにFVSでは,視力,視野のみで表現できないにもかかわらず,就労の継続が困難になる視機能,たとえば,片眼の機能低下による立体視の喪失,後天的錐体機能障害による色覚欠損などに対し,オプションで15点引くことができる.今回の研究の結果,FFSのほうがVFQ25に対して関連が強いことが示唆された.FFSにより,片眼の視野と両眼開放の視野を両方評価することで,その人のQOVをより反映しやすくなると考えられた.現行の身体障害者等級判定法は,5級ではI/4e,4級以下ならI/2eによる視野の広さを基準としているが,イソプター内側の視野障害は評価の対象とならない.FFSではIII/4eイソプター内側の中心暗点やBjerrum暗点なども評価の対象となる.また,CGTは測定範囲が広い割には,片眼の標準的な測定時間が6分程度と比較的短時間で行えるという利点もある8).計算過程がやや複雑であるが,今後筆者らは自動視野計にFFSの算出プログラムを搭載することを考えている.視野計に視力値を入力すればFASが計算され,CGTを測定すればFFS,FVSまで自動で計算をしてくれるようになれば,複雑な計算の必要はなくなる.簡便で患者の負担が少なく,かつQOVとの関連が深いFFSについて,今後も検討を重ねていきたい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AmericanMedicalAssociation:Section6,Evaluationofpermanentvisualimpairment.In:WeisbeckerCA,FraufelderFT,RheeDetal(eds),Physicians’DeskReferenceforOphthalmology,28thed,p66,MedicalEconomicsCo,Montvale,20002)DouglasRA,VincentMP:Visualimpairmentanddisability.In:CravenL(ed),AutomatedStaticPerimetry,2nded,p237-241,CVMosby,StLouis,19993)ColenbranderA:Thefunctionalvisionscore─Acoordinatedscoringsystemforvisualimpairments,disabilities,andhandicaps.In:KooijmanAC,LooijestijinPL,WellingJAetal(eds),ResearchandNewDevelopmentsinRehabilitation.StudiesinHealthTechnologyandInformatics,11LowVision,p552-561,IOSPress,Amsterdam,19944)ColenbranderA:Chapter12,Thevisualsystem.In:CochiarelliL,AndersonGBA(eds),GuidestotheEvaluationofPermanentImpairments.5thed,p277-304,AmericanMedicalAssociation,Chicago,20015)ColenbranderA:Chapter12,Thevisualsystem.In:RondinelliRD(ed),GuidestotheEvaluationofPermanentImpairment.6thed,p281-319,AmericanMedicalAssociation,Chicago,20086)ColenbranderA:Assessmentoffunctionalvisionanditsrehabilitation.ActaOphthalmol88:163-173,20107)加茂純子:身体障害認定における視覚障害評価.VisualAcuityScore(VAS)とVisualFieldScore(VFS)の測定の実際.日本の眼科82:755-775,20118)加茂純子,原田亮,宇田川さち子ほか:AmericanMedicalAssociationのVisualFieldScoreのHumphrey視野計のカスタムプログラムによる静的視野とGoldmann視野の結果の比較の試行.臨眼65:1243-1249,20119)原田亮,加茂純子,瀬戸寛子ほか:Colenbranderグリッドスコアの右左合成両眼と両眼開放,FFSの関係.臨眼68:1161-1166,201410)鈴鴨よしみ,大鹿哲郎,大木孝太郎ほか:NEI-VFQ25日本語版の開発と信頼性・妥当性の検討.日眼会誌107:297,200311)FuhrPSW,HolmesLD,FletcherDCetal:TheAMAGuidesFunctionalVisionScoreisabetterpredictorofvision-targetedqualityoflifethantraditionalmeasuresofvisualacuityorvisualfieldextent.VisImpairmentRes5:137-146,200312)SeoJH,YuHG,LeeBJ:Assessmentoffunctionalvisionscoreandvision-specificqualityoflifeinindividualswithretinitispigmentosa.KoreanJOphthalmol23:164-168,200913)加茂純子,原田亮,松本行弘ほか:緑内障のある運転手のBinocularEstermanScore対FunctionalFieldScoreのThe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaireへの関連.日ロービジョン会誌13:11-15,201314)MassofRW,FletcherDC:EvaluationoftheNEIVisualFunctioningQuestionnaireasanintervalmeasureofvisualabilityinlowvision.VisRes41:397-413,200115)MassofRW:Themeasurementofvisiondisability.OptomVisSci79:516-552,200216)若山暁美,松本長太,楠部亨ほか:両眼視野におけるBinocularSummationについて正常者における融像刺激に対する検討.眼臨93:1057-1060,199917)PardhanS,WhitakerA:Binocularsummationinthefoveaandperipheralfieldofanisometropicamblyopes.CurrEyeRes20:35-44,2000URL1)http://www.icoph.org/downloads/visualstandardsreport.pdf2)http://mayeyeclinic.sharepoint.com/Pages/ColenbranderKamoFVScalculationsheet.aspx3)http://mayeyeclinic.sharepoint.com/Pages/central_scotoma_rule.aspx***466あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(136)