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自然寛解したMacular Microhole の1 例

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(143)297《原著》あたらしい眼科28(2):297.299,2011cはじめにMacularmicroholeとは中心窩に小さいhole様の赤色点が認められる病態であり1988年に最初に報告された1).急に発症するが進行せず円孔の大きさは変わらないことより特発性黄斑円孔とは別の疾患と考えられている2).特発性黄斑円孔に比べてまれな疾患であるが光干渉断層計(OCT)の進歩,普及により黄斑の形態が微細に観察可能になったため近年報告が増加している.今回筆者らは経過観察により自然寛解したmacularmicroholeを経験したので報告する.I症例53歳女性,ハンダ付けの仕事をしている.左眼中心部の見えにくさを主訴として2009年9月に当院初診した.右眼視力1.5(矯正不能),左眼視力1.2(矯正不能),眼圧は右眼16mmHg,左眼17mmHgであった.両眼の前眼部に異常なく,検眼鏡で両眼底に異常を認めなかった.Spectraldomain方式のOCT(3DOCT-1000,TOPCON,以下SDOCT)でも黄斑に特に異常を認めなかったが,中心窩周囲に硝子体の付着を認め中心窩陥凹は平坦で少し浅くなっていた(図1A).1カ月後左眼の中心窩にoperculumを伴わない黄色の輪状の変化が出現し,SD-OCTでは中心窩の陥凹がさらに減少していた.視細胞内節外節接合部(IS/OS)は保たれているがその下の層が不整になっていた(図1B).初診時より5カ月後には左眼の中心暗点を自覚するも視力1.5で検眼鏡所見は変化なかった.SD-OCTでは網膜内層面の平坦化はやや改善し外境界膜は正常であるが約100μmのIS/OSとその外層の裂隙が観察された(図1C).その2カ月後にはわずかなIS/OSの挙上は残っているが,網膜外層の裂隙は消失して中心窩の陥凹は正常化した.中心窩の硝子体の付着は明らかではなかった(図1D).自覚症状は改善し中心窩の〔別刷請求先〕原和之:〒730-8518広島市中区基町7-33広島市立広島市民病院眼科Reprintrequests:KazuyukiHara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HiroshimaCityHospital,7-33Motomachi,Naka-ku,Hiroshima-shi730-8518,JAPAN自然寛解したMacularMicroholeの1例原和之寺田佳子細川海音難波明奈広島市立広島市民病院眼科ACaseofSpontaneousResolutionofMacularMicroholeKazuyukiHara,YoshikoTerada,MioHosokawaandAkinaNambaDepartmentofOphthalmology,HiroshimaCityHospital今回,光干渉断層計(OCT)により黄斑外層に小さい裂隙を認めるmacularmicroholeを経験した.53歳女性が左眼の見えにくさを自覚して受診した.検眼鏡では中心窩に黄色の輪状変化を認めた.Spectral-domainOCTで網膜内層面の平坦化と網膜外層に小さい裂隙を認めた.経過観察により網膜外層の裂隙は消失し自覚症状は改善した.硝子体牽引の減少により自然寛解したmacularmicroholeと診断した.今回の症例にみられたmacularmicroholeは黄斑円孔と同様に硝子体の牽引が関与した疾患であると考える.Weexperiencedacaseofspontaneousresolutionofamacularmicroholeintheouterretina.Thepatient,a53-year-oldfemale,presentedwithblurredvisioninherlefteye.Biomicroscopyoftheeyedisclosedayellowringinthefovea.Spectral-domainopticalcoherencetomograph(OCT)revealedasmalldefectintheouterretinaandflatteningoftheinnersurfaceofthefovea.Twomonthslater,thedefectintheouterretinahadresolvedspontaneouslyandvisualsymptomshadimproved.Wesurmisethatthemacularmicroholeseeninourpatientmayhavebeenduetovitreoustraction,likeamacularhole.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(2):297.299,2011〕Keywords:macularmicrohole,光干渉断層計,fovealredspot.macularmicrohole,opticalcoherencetomograph(OCT),fovealredspot.298あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(144)輪状変化は消失した.II考按Macularmicroholeは以前より知られていた病態であるがOCTによる観察は最近になって散見される.Zambarakjiらは臨床的にmicroholeの形態を認める症例をtime-domain方式のOCTで観察すると18眼中15眼で網膜外層または色素上皮層の欠損を認め,全層の円孔を認める症例はなかった3)としている.OCTの出現前にmicroholeとされていた病態が全層の網膜欠損であったのか不明であり,初期の報告のような全層の欠損とZambarakjiらの報告した網膜外層だけの欠損が同じ疾患であるかは疑問である.全層の欠損を伴わないmicroholeをfovealredspotとよび,その多くはmacularmicroholeの治癒した状態ではないかという意見もある4).Macularmicroholeの定義は混乱した状態であり,いくつかの疾患が含まれている可能性がある.今回の症例は網膜全層ではなく網膜外層のIS/OSの裂隙であった.Microholeの発生前のSD-OCTでは異常が認められなかったので以前に特発性黄斑円孔のような全層の欠損があり,その治癒過程で網膜外層の裂隙が残っていた可能性は否定的である.また,日光網膜症でも同様のOCT所見を示すことが知られているが,日光を注視した既往はなかった.同様に網膜外層だけの欠損を両眼に認めた報告5)があるが,視力は低下しており1年後にも欠損は残っていた.この文献の症例では中心窩の陥凹は正常であったので硝子体の牽引が病態に関与しているとは考えにくく,網膜外層の欠損をひき起こす原因がほかにもある可能性がある.Microholeの寛解時にはWeissringの形成は確認できなかったが硝子体の変性は進行していた.SD-OCTでは判別困難であったが図1C,Dでは硝子体面は確認できず硝子体.離が疑われた.中心窩内面の平坦化がmicroholeの寛解とともに減少して正常な陥凹に改善していることより,今回の症例では中心窩への硝子体牽引の減少が網膜外層の裂隙の寛解に寄与していると考えた.過去の報告でも,Laiらは全層の網膜欠損であるmicroholeが自然に閉鎖した症例を報告しており,硝子体の中心窩への牽引の解除が関与しているとしている6).黄斑円孔,硝子体黄斑牽引症候群もmicroholeと同様に中心窩への硝子体の牽引が発症に関与していると考えられるが,最終的に網膜の形態に差ができる原因は不明である.Stage1の黄斑円孔の形成過程をOCTで連続的に観察した報告では,最初に中心窩で網膜内層,外層間に分離が生じその後,小さい三角形の中心窩.離が形成されるとしている7).網膜が分離したために中心窩が挙上されやすくなり残った中心窩下の円柱状の構造物(Mullercellcone)に牽引が集中して外層だけではなく全層の裂隙に進行した可能性がある.硝子体の牽引力,付着部位の差だけではなく最初に網膜分離が起こるかどうかで最終的な形態に差が出るのかもしれない.硝子体の牽引の軽減により自然寛解したと思われる網膜外層のmacularmicroholeを経験した.Macularmicroholeの発症機序の一つとして硝子体の中心窩への牽引が考えられるが,黄斑円孔,硝子体黄斑牽引症候群と相違をもたらす原因については不明である.さらに高解像度のOCTによる発症初期の連続的観察が望まれる.文献1)CarinsJD,McCombeMF:Microholesofthefoveacentralis.AustNZJOphthalmol16:75-79,19882)ReddyCV,FolkJC,FeistRMetal:Microholesofthemacula.ArchOphthalmol114:413-417,19963)ZambarakjiHJ,SchlottmannP,TannerVetal:Macularmicroholes:pathogenesisandnaturalhistory.BrJOphthalmol89:189-193,20054)JohnsonMW:Posteriorvitreousdetachment:Evolutionandcomplicationsofitsearlystages.AmJOphthalmol149:371-382,2010図1SD.OCT所見A:初診時.B:1カ月後.中心窩の陥凹が減少している.C:5カ月後.網膜外層に裂隙を認める.D:7カ月後.裂隙は消失した.ABCD(145)あたらしい眼科Vol.28,No.2,20112995)照井隆行,近藤峰生,杉田糾:Macularmicroholeが疑われた症例の他局所網膜電図所見.眼臨紀2:739-742,20096)LaiMM,BresslerSB,HallerJAetal:Spontaneousresolutionofmacularmicrohole.AmJOphthalmol141:210-212,20067)TakahashiA,NagaokaT,IshioSetal:Fovealanatomicchangesinaprogressingstage1macularholedocumentedbyspectral-domainopticalcoherencetomography.Ophthalmology117:806-810,2010***