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虹彩炎の急性増悪を呈した風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎の1例

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):594〜596,2016©虹彩炎の急性増悪を呈した風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎の1例坪田裕喜子*1藤野雄次郎*1寺尾亮*1杉崎顕史*1田邊樹郎*1蕪城俊克*2*1JCHO東京新宿メディカルセンター眼科*2東京大学医学部眼科学教室ACaseofRubellaVirus-associatedFuchsUveitiswithAcuteExacerbationofIridocyclitisYukikoTsubota1),YujiroFujino1),RyoTerao1),KenjiSugisaki1),TatsuroTanabe1)andToshikatsuKaburaki2)1)DepartmentofOphthalmology,JapanCommunityHealthCareOrganizationTokyoShinjukuMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicineandFacultyofMedicine,TheUniversityofTokyo虹彩炎の急性増悪を生じた風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎の1例を報告する.症例は59歳,男性.2011年に左眼の虹彩毛様体炎を発症し,虹彩萎縮や白内障からFuchsぶどう膜炎が疑われた.症状改善後,通院を自己中断していた.ほぼ3年後に左眼の霧視,眼痛,充血を自覚し再受診した.左眼角膜に角膜皺襞と大小不同のびまん性の角膜後面沈着物,虹彩毛様体炎,虹彩萎縮,高度な白内障がみられ,左眼視力は0.02であった.前房水採取時,Amsler’ssign陽性であった.風疹ウイルスの抗体価率(Q値)が49であり,風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎と診断した.ステロイド薬点眼治療で炎症は鎮静化した.本症例は片眼の急性虹彩炎症状を呈したが,虹彩萎縮と白内障がみられ,前房水から高い抗風疹ウイルスIgG抗体が検出されたことから診断を確定できた.Fuchsぶどう膜炎は急性虹彩炎を呈することがあると考えられた.Wereportacaseofrubellavirus-associatedFuchsuveitiswithacuteexacerbationofiridocyclitis.Thepatient,a59-year-oldmale,developedacuteiridocyclitisinhislefteyein2011.WesuspectedFuchsuveitisbecauseofirisatrophyandcataract.Aftersymptomimprovement,hestoppedcomingforcheck-upsonhisownaccord.Threeyearslater,hepresentedwithnephelopsia,ophthalmalgiaandcongestioninthelefteye;healsoexhibitedDescemet’smembranefolds,keraticprecipitates,iridocyclitis,irisatrophyandcataract.WeperformedananteriorchamberpunctureoftheeyeandlookedforAmsler’ssign.TheaqueoushumoursamplewasanalyzedforintraocularantibodyproductionagainstrubellavirusbycalculationoftheGoldmann-Witmercoefficient(GWC=49).Wediagnosedrubellavirus-associatedFuchsuveitis.Thiscasehadacuteiridocyclitis,butwediagnosedFuchsuveitisduetoirisatrophy,cataractandantibodyproductionagainstrubellavirus.ThiscasereportsuggeststhatFuchsuveitiscanoccurwithacuteiridocyclitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):594〜596,2016〕Keywords:Fuchsぶどう膜炎,急性虹彩炎,風疹ウイルス,風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎.Fuchsuveitis,acuteiridocyclitis,rubellavirus,rubellavirus-associatedFuchsuveitis.はじめにFuchs虹彩異色性毛様体炎(以下,Fuchsぶどう膜炎)は虹彩異色(虹彩萎縮),虹彩毛様体炎,白内障を3主徴とする疾患である.自覚症状は視力低下や霧視,飛蚊症などのことが多く,強い結膜・毛様充血や眼痛などの急性炎症症状は認めないことも特徴の一つとされている1,2).また,近年,本症の原因として風疹ウイルスの関与が指摘されており,眼内液に風疹ウイルスに対する抗体,風疹ウイルスあるいはRT-PCRで風疹ウイルスRNA-陽性が得られた症例については風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎(rubellavirusassociatedFuchsuveitis)とよばれることがある3,4).これまでの5つの報告での合計151例中149例に抗風疹ウイルス抗体が検出されている5).これまで,急性炎症をきたしたFuchsぶどう膜炎症例がいくつかの文献でみられるが,詳細な症例報告はなく,わが国での報告もない.今回,急性虹彩毛様体炎を起こした風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎の1例を経験したので報告する.I症例症例は57歳,男性で,2011年2月,左眼の霧視を自覚し,近医受診.左眼の虹彩炎と続発緑内障(左眼眼圧32mmHg)を指摘され,左眼にベタメタゾン(0.1%)点眼1日4回,カルテオロール(2%)点眼1日1回を処方され,3日後に当科紹介初診された.当科初診時,視力は右眼(1.2×sph−5.25Dcyl−1D70°),左眼0.03(0.5×sph−6Dcyl−1.25D80°).眼圧は右眼16mmHg,左眼15mmHg.右眼は前眼部,中間透光体,眼底とも正常.左眼は全体に分布する細かい角膜後面沈着物と大きな角膜後面沈着物とがみられた.前房内2+の細胞とフレア,虹彩萎縮があり,KoeppeおよびBussaca結節もみられた(図1).隅角は両眼III度開放隅角で,左眼は色素の多い隅角であった.水晶体は核白内障がみられた.眼底は黄斑の下方に網脈絡膜変性巣がみられた.前房水を採取しPCR法にて単純ヘルペスウイルス(HSV),水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)およびサイトメガロウイルス(CMV)-DNAを調べたが,いずれも陰性であった.血液生化学検査では白血球数が軽度上昇の他は異常なく,抗humanT-cellleukemiavirustype1抗体陰性,抗トキソプラズマ抗体陰性,梅毒血清反応陰性,angiotensinconvertingenzymeは正常範囲であった.既往歴,家族歴はとくになく,口内炎,皮膚疾患,炎症性腸炎,関節炎症状,糖尿病もなかった.風疹ウイルスの予防接種歴はなく,風疹の既往は不明であった.左眼に両点眼を継続し虹彩炎症状はしだいに軽快していったが,患者は2月中のみ受診し,その後は診察を自己中断し,来院しなかった.その約3年後の2013年12月に左眼の霧視,眼痛,結膜充血を自覚し,当院を受診した.患者はこの3年間,左眼の視力低下を自覚していたが眼痛や充血の自覚は一度もなかった.視力は右眼(0.9×sph−3.75D),左眼0.02(n.c.).眼圧は右眼21mmHg,左眼22mmHg.左眼は毛様充血がみられ,角膜に角膜皺襞と大小不同のびまん性の角膜後面沈着物,前房内2+の細胞とフレア,虹彩萎縮,高度の白内障を認めた(図2).軽度の虹彩後癒着もみられたが,散瞳によって解除され,水晶体前囊上に軽度の色素沈着が残った.また前部硝子体混濁と眼底の前回と同じ部位に網脈絡膜萎縮を認めた.前房水を採取したところ前房出血(Amsler’ssign)を認めた.再度,前房水のHSV,VZVおよびCMV-DNAPCRを施行したがいずれも陰性であった.しかしながら前房水の風疹ウイルスの抗体価率(Q値)は49であった.血液生化学検査では前回と同様,白血球数の軽度上昇以外に異常項目はなく,全身の異常もなかった.0.1%ベタメタゾンを2時間おき,トロピカマイド・フェニレフリン1日4回の点眼加療を開始した.点眼加療後,角膜所見,前房内炎症ともに改善を認め,点眼を漸減した.2014年4月に左眼白内障手術を施行し,矯正視力0.9に改善した.術前の角膜内皮細胞数は右眼2,603,左眼2,504/mm2で両眼に差はなかった.以降,急性炎症はなく,術後1年を経過した時点で経過良好である(図3).II考按Fuchsぶどう膜炎の診断は慢性の軽微な虹彩炎,びまん性の虹彩萎縮あるいは虹彩異色,星状の角膜後面沈着物,白内障,前部硝子体混濁の存在,また虹彩後癒着がないことなどから診断される1,2).前房水採取時にみられるAmsler’ssignや眼内の抗風疹ウイルス抗体測定も診断手段として有用である5,6).本症例は,虹彩炎,虹彩萎縮,白内障,硝子体混濁が認められ,Fuchsぶどう膜炎に合致する症状を呈していた.また,Amsler’ssignがみられ,2回目の急性炎症時の前房水検査で抗風疹ウイルス抗体が陽性であり高いQ値を示したことから,本症は風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎と診断した.鑑別診断としては,Posner-Schlossman症候群があげられる.しかしながらPosner-Schlossman症候群も急性炎症症状を起こすことはなく,また眼圧上昇がより高度である.Posner-Schlossman症候群は半数の症例でCMVの関与が指摘されているが,本症例はCMV-DNAが陰性であった7).本症は,最初の急性虹彩炎出現時に,すでに虹彩萎縮を認めていたことから,もともと本人の気付かない慢性の虹彩炎が持続していたうえに虹彩炎の急性増悪が生じたと考えられた.通常,Fuchsぶどう膜炎は慢性の経過を取ることが特徴の一つとされているが,まれに急性炎症を起こすことが報告されている.Jonesらは,Fuchsぶどう膜炎103例中2例は前房中に2+の細胞,1例は3+の細胞がみられたと報告しており,Fuchsぶどう膜炎の臨床症状は従来いわれてきたものより多彩で,当初は急性虹彩炎と似ていることがあるとしている8).Wensingらは風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎54例中2例に急性症状が,56例中8例で2+以上の前房内細胞が,55例中4例で虹彩後癒着がみられたと報告している9).このように頻度は少ないがFuchsぶどう膜炎でも急性の炎症症状を伴う症例が存在する.日本人の茶褐色の虹彩では虹彩異色はまれで,虹彩萎縮が虹彩の特徴となるが,虹彩萎縮,白内障,虹彩毛様体炎,硝子体混濁のある症例では,急性炎症症状であってもFuchsぶどう膜炎を念頭に検査をすることが重要であると考えられた.文献1)KimuraSJ,HoganMJ,ThygesonP:Fuchs’syndromeofheterochromiccyclitis.ArchOphthalmol54:179-186,19552)MohamedQ,ZamirE:UpdateonFuchs’uveitissyndrome.CurrOpinOphthalmol16:356-363,20053)QuentinCD,ReiberH:Fuchsheterochromiccyclitis:rubellavirusantibodiesandgenomeinaqueoushumor.AmJOphthalmol138:46-54,20044)deVisserL,BraakenburgA,RothovaAetal:Rubellavirus-associateduveitis:clinicalmanifestationsandvisualprognosis.AmJOphthalmol146:292-297,20085)KrepsEO,DerveauxT,KeyserFDetal:Fuchs’uveitissyndrome:Nolongerasyndrome?OculImmunolInflammAug19:1-10,20156)Bloch-MichelE,FrauE,ChhorSetal:Amsler’ssignassociatedsignificantlywithFuchs’heterochromiccyclitis(FHC).IntOphthal19:169-171,19967)CheeSP,JabA:PresumedfuchsheterochromiciridocyclitisandPosner-Schlossmansyndrome:comparisonofcytomegalovirus-positiveandnegativeeyes.AmJOphthalmol146:883-889,20088)JonesNP:Fuchs’HeterochromicUveitis:areappraisaloftheclinicalspectrum.Eye5:649-661,19919)WensingB,RelvasLM,CaspersLEetal:Comparisonofrubellavirus-andherpesvirus-associatedanterioruveitis:clinicalmanifestationsandvisualprognosis.Ophthalmology118:1905-1910,2011〔別刷請求先〕坪田裕喜子:〒162-8543東京都新宿区津久戸町5-1JCHO東京新宿メディカルセンター眼科Reprintrequests:YukikoTsubota,DepartmentofOphthalmology,JapanCommunityHealthCareOrganizationTokyoShinjukuMedicalCenter,5-1Tsukudo-cho,Shinjuku-ku,Tokyo162-8543,JAPAN594(112)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY図12011年2月初診時a:虹彩縁にKoeppe結節(矢印①)を認める.またBussaca結節も認める(矢印②).b:角膜には全体に分布する細かい角膜後面沈着物と大きな角膜後面沈着物とがみられる.図22013年12月急性増悪時角膜皺襞と大小不同のびまん性の角膜後面沈着物,前房炎症,虹彩萎縮,高度の白内障を認める.(113)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016595図3白内障術後1年経過時左:僚眼,右:患眼.患眼は虹彩萎縮がみられる.596あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(114)