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アーメド緑内障インプラントによるチューブシャント手術の中期成績

2015年8月31日 月曜日

《第25回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科32(8):1187.1190,2015cアーメド緑内障インプラントによるチューブシャント手術の中期成績植木麻理*1小嶌祥太*1三木美智子*1河本良輔*1柴田真帆*2徳岡覚*3杉山哲也*4池田恒彦*1*1大阪医科大学眼科学教室*2市立ひらかた病院眼科*3北摂総合病院眼科*4中野眼科医院Intermediate-TermOutcomesofTube-ShuntSurgerieswiththeAhmedGlaucomaValveMariUeki1),ShotaKojima1),MichikoMiki1),RyosukeKoumoto1),MahoShibata2),SatoruTokuoka3)Sugiyama4)andTsunehikoIkeda1),Tetsuya1)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2)DepartmentofOphthalmology,HirakataCityHospital,3)ofOphthalmology,HokusetsuGeneralHospital,4)NakanoEyeClinicDepartment目的:Ahmedglaucomavalveチューブシャント手術(AGV手術)の中期成績を報告する.方法:大阪医科大学においてAGV手術を施行し,3年以上経過観察ができた12例13眼の眼圧と角膜内皮細胞数(ECD)を検討した.前房挿入型(AC型)3眼,経毛様体扁平部挿入型(PP型)10眼.内眼手術既往は平均2.6回.経過観察期間は平均40.3カ月.手術成功は眼圧が5mmHg以上,21mmHg以下,光覚があるものとした.結果:平均眼圧は術前33.9mmHg,術3年後13.5mmHg,術後3年で光覚なしが2眼,5mmHg未満が1眼あり,手術成功率は76.9%であった.合併症は2眼でAGVの露出,2眼で水疱性角膜症があった.ECDはPP群では有意な減少なく,AC群では50%以下に減少した.結論:AGV手術は複数回内眼手術後眼や硝子体術後眼における中期的な眼圧コントロールに関して有効であった.Purpose:Toreporttheintermediate-termoutcomesoftube-shuntsurgerieswiththeAhmedglaucomavalve(AGV).Methods:Thisstudyinvolved13eyesof12caseswhichunderwentAGVimplantationatOsakaMedicalCollege,andintraocularpressure(IOP)andendothelialcelldensity(ECD)wereanalyzedduringthepostoperativefollowed-upperiodofmorethan3years.Anterior-chambertype(ACtype)surgerywasperformedon3eyesandthepars-planatype(PPtype)surgerywasperformedon10eyes.Themeannumberofpreviousintraocularoperationswas2.6,andthemeanfollow-upperiodwas40.3months.SuccesscriteriaweredefinedasvisionofmorethanlightperceptionandIOPbetween5and21mmHg.Results:MeanpreoperativeIOPwas33.9mmHg,andmeanpostoperativeIOPwas13.5mmHgat3yearsaftersurgery.At3-yearspostoperative,2eyeslostlightperceptionandIOPbecamelessthan5mmHgin1eye,andthesuccessratewas76.9%.ComplicationsincludedAGVexposurein2eyesandbullouskeratopathyin2eyes.Postoperatively,ECDwasnotsignificantlychangedinthePPtypeeyes,butwasreducedtolessthan50%intheACtypeeyes.Conclusions:AGVimplantationwasfoundtobeeffectiveforIOPcontrolincaseswithseveralpreviousintraocularoperationsoraftervitrectomy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(8):1187.1190,2015〕Keywords:アーメド緑内障バルブ,中期成績,眼圧,角膜内皮細胞数.ahmedglaucomavalve,intermediateoutcome,IOP,endothelialcelldensity.はじめにプレートを有する緑内障ドレナージデバイス(glaucomadrainagedevices:GDD)によるチューブシャント手術は結膜瘢痕を有する難治緑内障においても有効であり,米国で行われたバルベルト緑内障インプラント(Baerveldtglaucomaimplant:BGI)によるチューブシャント手術と線維柱帯切除術の多施設前向き比較試験においてチューブシャント手術のほうが低い不成功率であったと報告された1).わが国でも2012年BGIによるチューブシャント手術が認可され,プレートを有するGDDによるチューブシャント手術が施行でき〔別刷請求先〕植木麻理:〒569-8686大阪府高槻市大学町2-7大阪医科大学眼科学教室Reprintrequests:MariUeki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,2-7Daigaku-choTakatsuki,Osaka569-8686,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(121)1187 表1対象の背景前房挿入(AC)群経毛様体扁平部挿入(PP)群症例数2例3眼10例10眼病型POAG2眼ぶどう膜炎のSGL1眼NVG6眼POAG3眼落屑症候群1眼術前眼圧30.0±4.0(24.36)35.8±9.2(23.52)内眼手術既往2.6±1.2回(1.3回)3.2±1.4回(1.5回)緑内障手術既往1.3±1.2回(0.2回)1.3±1.4回(0.4回)硝子体の有無有硝子体眼3眼無硝子体眼8眼有硝子体眼2眼POAG:原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma)SGL:続発緑内障(secondaryglaucoma)NVG:血管新生緑内障(neovascularglaucoma)るようになったが,それに遅れること2年,アーメド緑内障バルブ(Ahmedglaucomavalve:AGV)が2014年3月末に認可された.AGVはBGIと異なり眼圧調節バルブが付いており,チューブの結紮をしないため術後の過度の一過性高眼圧が起こりにくく,術直後より眼圧下降が得られるという利点がある.また,BGIとAGVの比較試験では,AGVで術後眼圧はやや高いものの合併症は少ないとされている2,3).わが国においてAGVの多数例についての報告はほとんどない.筆者らは大阪医科大学倫理委員会の承認を得て2009年.2012年4月にAGVによるチューブシャント手術を施行した.今回,術後3年以上経過観察できた症例の手術成績を報告する.I対象および方法対象は2010年1月.2012年3月に大阪医科大学病院眼科にてAGVによるチューブシャント手術を施行した17例18眼中,死亡・受診中断を除外し,3年以上経過観察した12例13眼である.男性が8例9眼,女性は4例4眼,手術時年齢は38.85歳(63.3±14.8歳:平均±標準偏差).前房挿入(anteriorchamber:AC)群が2例3眼はアーメドFP-7を挿入した.原疾患は原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)1例2眼,ぶどう膜炎による続発緑内障(secondaryglaucoma:SG)1例1眼であった.経毛様体扁平部挿入(parsplana:PP)群は10例10眼で,parsplanaclipが設置されているアーメドPC-7を挿入した.内眼手術既往回数は3.2±1.4回(うち緑内障手術既往は1.3±1.4回),原因疾患はPOAGが3例3眼,血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)が6例6眼,落屑症候群によるSGが1例1眼であった(表1).NVGは6眼とも硝子体術後眼であったが,うち3眼は硝子体出血も合併しており,硝子体手術との同時手術を行った.落屑症候群の1眼は1188あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015眼内レンズ脱臼を合併しており,硝子体手術を施行し,眼内レンズの摘出および縫着も併用した.POAGのうち2眼は過去に硝子体手術の既往があり,1眼のみチューブシャント手術のため硝子体手術を施行した.経過観察期間は36.55カ月(40.3±6.3カ月),術前後の眼圧,測定が可能であった症例では角膜内皮細胞数の変化について検討した.角膜内皮細胞数はコーナン社製ノンコンロボを用いて角膜中央部を計測した.手術成功の定義は眼圧が5mmHg以上,21mmHg以下かつ光覚があり,緑内障手術の追加がないこととした.数値は平均値±標準偏差で記載し,統計学的検討はonewayANOVA,Mann-WhitneyのU検定を用いた.II結果全例の眼圧推移は図1に示す.平均眼圧は術前34.6±8.6mmHg,6カ月後13.8±4.7mmHg,1年後13.0±4.4mmHg,2年後13.6±3.2mmHg,3年後13.5±5.4mmHgと経過観察中に継続した有意な眼圧下降が得られており,どのポイントにおいてもAC群とPP群の眼圧に有意差はなかった(図1).手術の成功率は3年後,点眼なしで60%,緑内障点眼併用では76.9%であった.不成功となった3眼のうち2眼は増殖糖尿病網膜症の悪化により光覚が消失したものであり,2眼は5mmHg以下の低眼圧となったものであった(重複あり),高眼圧,再緑内障手術により不成功となったものはなかった.術前後に角膜内皮細胞数の測定が可能であったのはAC群3眼,PP群7群であり,PP群では術前2,094±771(cells/mm2)が3年後に1,899±596と有意な変化なかったが,AC群では術前1,668±136が半年後に997±359,3年後には650±139と半数以下に減少していた(図2).合併症はAC群の1眼で術後8カ月にGDD本体が露出,1眼で術3年後に角膜代償不全が起こった.PP群ではもと(122) (mmHg)全体(mmHg)群別全体(mmHg)群別(cells/mm2)504030******20****10050403020100n.s.n.s.n.s.n.s.n.s.n.s.01,0002,0003,0004,000†††n.s.n.s.n.s.術前0.511.523(年)図2角膜内皮細胞数の推移.:AC群(n=3),×:PP群(n=7),†:p<0.01(MannWhitneyのU検定).たと筆者らと同様の報告をしており8),わが国においてレーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症が海外と比較して多く,日本人では角膜内皮障害が起こる可能性が高いとの報告もあり9),日本人では角膜内皮細胞が脆弱であることも考えられた.一方,経毛様体扁平部に挿入するPP型はAC型での角膜障害や虹彩陥頓などの合併症を回避するために開発されたもので,ChiharaらもPP型での12カ月の内皮細胞減少率は10.2%と報告しており10),PP型はAC型よりも角膜内皮細胞障害防止には有効であると考えられる.しかし,PP型では硝子体腔に挿入するため硝子体切除が必要である.筆者らの症例ではチューブシャント手術のために硝子体手術を施行したものは角膜内皮細胞数がすでに1,000cells/mm2以下であった1眼のみであり,10眼中8眼はすでに硝子体術後眼,1眼は眼内レンズ脱臼のために硝子体手術の併用が必要な症例であった.今回,10眼中7眼で術前,術後の角膜内皮細胞数を観察できたが角膜内皮細胞数は3年で有意な減少はなく,3年という中期においても角膜内皮細胞数が維持されていた.硝子体術後眼や硝子体手術併用が必要な症例において3年間の眼圧には有意差なく,角膜内皮細胞数も維持されているためAC型よりもPP型を選択するほうがよいと思われた.IV結論AGVによるチューブシャント手術は複数回内眼手術後,硝子体術後眼において3年以上の中期成績は良好であった.AC型は角膜内皮細胞障害が起こる可能性が高く,可能であれば経毛様体扁平部より挿入するPP型が望ましいと思われる.術前0.511.523術前0.511.52(年)3(年)図1眼圧変化.:AC群(n=3),×:PP群(n=10),**:p<0.05(ANOVA),†:p<0.01(Mann-WhitneyのU検定).もと角膜内皮細胞数が500cells/mm2であった1眼で術直後より水疱性角膜症となり,術8カ月後に角膜内皮移植を行った.また,この症例では角膜内皮移植術後に強膜移植片の縫合部が離解し,parsplanaclipが露出,再縫合を必要とした.眼球運動障害や複視が出現した症例はなかった.III考按プレートを有するGDDによるチューブシャント手術は結膜瘢痕例に対して有効であるとされている1).今回,筆者らの症例は硝子体手術を含む内眼手術既往数が平均3.1回(1.5回),緑内障手術既往数が平均1.3回(1.3回)であったが,3年間で緑内障として再手術となった症例はなく,複数回内眼手術後の結膜瘢痕を有する症例においても眼圧コントロール率は点眼なしで60%,緑内障点眼併用では76.9%であった.また,内眼手術後の結膜瘢痕を有する眼は線維柱体切除術のリスクがあるが,とくに血管新生緑内障の硝子体術後眼,硝子体手術併用眼でリスクが高いことはよく知られている4,5).今回の検討では硝子体術後もしくは硝子体手術の併用が必要なPP群において3眼が増殖糖尿病網膜症の悪化による光覚消失および5mmHg未満の低眼圧で不成功となり,成功率は70%であったが,眼圧上昇による不成功はなく,眼圧コントロールには有効な術式であった.角膜内皮障害はチューブシャント手術において視機能低下をきたす重篤な合併症である.AC型の角膜障害の報告はTVTstudyにおいて早期合併症ではなかったものの,晩期合併症では5年後には16%に角膜代償不全・恒久的角膜浮腫が発症しており,経年的に増加する6).今回,筆者らの症例はAC型は3眼のみであるが角膜内皮細胞数が半数以下に減少していた.LeeらはAC型の内皮細胞数が12カ月で15.3%,24カ月で18.6%減少したと報告しており7),筆者らの症例はそれに比して非常に悪い.しかし,わが国でのAC型の報告で河原らは1年で約50%の内皮細胞数減少があっ(123)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151189 利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)GeddeSJ,SchiffmanJC,FeuerWJetal:TreatmentoutcomesintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)studyafterfiveyearsoffollow-up.AmJOphthalmol153:789803,20122)BudenzDL,BartonK,GeddeSJetal:Five-yeartreatmentoutcomesintheAhmedBaerveldtcomparisonstudy.Ophthalmology122:308-316,20153)ChristakisPG,TsaiJC,KalenakJWetal:TheAhmedversusBaerveldtstudy:three-yeartreatmentoutcomes.Ophthalmology120:2232-2240,20134)TakiharaY,InataniM,FukushimaMetal:TrabeculectomywithmitomycinCforneovascularglaucoma:prognosticfactorsforsurgicalfailure.AmJOphthalmol147:912-918,20095)KiuchiY,SugimotoR,NakaeKetal:TrabeculectomywithmitomycinCfortreatmentofneovascularglaucomaindiabeticpatients.Ophthalmologica220:383-388,20066)GeddeSJ,HerndonLW,BrandtJDetal:PostoperativecomplicationsintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)studyduringfiveyearsoffollow-up.AmJOphthalmol15:804-814,20127)LeeEK,YunYJ,LeeJEetal:ChangesincornealendothelialcellsafterAhmedglaucomavalveimplantation:2-yearfollow-up.AmJOphthalmol148:361-367,20098)河原純一,望月英毅,木内良明ほか:難治性緑内障に対するAhmedGlaucomaValveの手術成績.あたらしい眼科27:971-974,20109)AngLP,HigashiharaH,SotozonoCetal:Argonlaseriridotomy-inducedbullouskeratopathyagrowingprobleminJapan.BrJOphthalmol91:1613-1615,200710)ChiharaE,UmemotoM,TanitoM:PreservationofcornealendotheliumafterparsplanatubeinsertionoftheAhmedglaucomavalve.JpnJOphthalmol56:119-127,2012***1190あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(124)