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水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術後に周辺虹彩前癒着 および瞳孔偏位が生じた1 例

2025年4月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科42(4):478.482,2025c水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術後に周辺虹彩前癒着および瞳孔偏位が生じた1例大久保浩平*1白鳥宙*2,3中元兼二*2久保田大紀*1武田彩佳*1高尾和弘*1加藤脩太郎*1天野文保*3岡本史樹*2五十嵐勉*1,3*1日本医科大学千葉北総病院眼科*2日本医科大学眼科*3神栖済生会病院眼科CACaseofPeripheralAnteriorIrisSynechiaandPupilDeformityafteriStentinjectWInsertionCombinedwithCataractSurgeryKoheiOkubo1),NakaShiratori2,3),KenjiNakamoto2),DaikiKubota1),AyakaTakeda1),KazuhiroTakao1),ShutaroKato1),FumiyasuAmano3),FumikiOkamoto2)andCTsutomuIgarashi1,3)1)NipponMedicalSchoolChibaHokusohHospital,2)NipponMedicalSchoolDepartmentofOpthalmology,3)SaiseikaiKamisuHospitalC目的:水晶体再建術併用眼内ドレーン(iStentinjectW.以下,iSw)挿入術後に,周辺虹彩前癒着(PAS)および瞳孔偏位を生じたが,保存的治療により改善したC1例を報告する.症例:74歳,女性.原発開放隅角緑内障.両眼の霧視および視力低下を自覚し,近医より白内障手術目的で紹介された.視力は右眼(0.6),左眼(0.4),眼圧は右眼C15mmHg,左眼C13CmmHg.両眼にCiSw挿入術を施行した.右眼術後C4週,左眼術後C2週に両眼ともにCPASが生じ,iSwはCPASに埋没して確認できない状態であった.また,左眼はCiSw挿入方向に瞳孔が偏位していた.その後,ピロカルピン点眼と術後点眼の継続で,PASおよび瞳孔偏位は改善した.結論:iSw挿入術後のCPASおよび瞳孔偏位は,ピロカルピン点眼と術後点眼による保存的治療で改善することがある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCofCperipheralCanteriorsynechia(PAS)andCpupilCdeformityCafterCiStentCinjectCW(iSw)(GlaukosCorporation)implantationcombinedwithcataractsurgerythatimprovedwithconservativethera-py.Case:A74-year-oldfemalewithprimaryopen-angleglaucomawasreferredbyalocalclinicforcataractsur-geryCafterCexperiencingCbilateralCblurredCvisionCandCdecreasedCvisualacuity(VA).CInCherCrightCandCleftCeyes,Crespectively,CVAwas(0.6)and(0.4)andCintraocularCpressureCwasC15CmmHgCandC13CmmHg,CsoCbilateralCiSwCimplantationwasperformed.However,PASoccurredinbotheyesaftersurgeryandtheiSwwasembeddedinthePASCandCcouldCnotCbeCcon.rmed.CMoreover,CtheCleft-eyeCpupilCwasCdeviatedCtowardCtheCiSwCinsertionCdirection.CThereafter,PASandpupildeviationimprovedwithcontinuedpilocarpineeyedropsandpostoperativeeyedrops.Conclusion:PASCandCpupilCdeviationCafterCiSwCimplantationCcanCbeCimprovedCwithCconservativeCtreatmentCusingCpilocarpineeyedropsandpostoperativeeyedrops.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)42(4):478.482,C2025〕Keywords:水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術,周辺虹彩前癒着,ピロカルピン,iStentCinjectW,瞳孔偏位.Cintraoculardraininsertioncombinedwithcataractsurgery,peripheralanterioririssynechia,pilocarpine,iStentin-jectW,pupildeformity.Cはじめにsurgery:MIGS)があげられる.従来,緑内障手術では線維緑内障は,日本における中途失明原因の第C1位であり1),柱帯切除術が主流であったが,近年,その低侵襲性および高眼圧下降が唯一確実な治療法である.その観血的治療法の一い安全性からわが国においてもCMIGSが施行される頻度がつとして,低侵襲緑内障手術(minimallyinvasiveglaucoma増加している1).水晶体再建術併用眼内ドレーン挿入術であ〔別刷請求先〕大久保浩平:〒270-1694千葉県印西市鎌苅C1715日本医科大学千葉北総病院眼科Reprintrequests:KoheiOkubo,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchoolChibaHokusohHospital.1715Kamagari,Inzai-Shi,Chiba,270-1694JAPANC478(88)るCiStentinjectW(以下,iSw)挿入術は,MIGSの一つに分類され,隅角鏡を用いて線維柱帯に二つのデバイスを挿入しCSchlemm管への房水流出を促進する目的で行われる術式である.iSw挿入術の適応は,隅角鏡観察でCSha.er分類Cgrade3以上の開放隅角で,周辺虹彩前癒着(peripheralanterioririssynechia:PAS)を認めないこと2),早期ないし中期の開放隅角緑内障患者で,白内障手術との併施でのみ施行できる.MIGSの中でもCiStentは,KahookCDualCBlade3)やマイクロフック・トラべクロトミー4)より前房出血などの合併症が少なく,安全性が高いと報告されている.今回,iSw挿入術施行後に,PASにより,著明な瞳孔偏位を生じたが,保存的治療により改善したC1例を経験したので報告する.CI症例患者:74歳,女性.現病歴:前医で緩徐に進行する原発開放隅角緑内障と診断され,ラタノプロストC0.005%点眼で治療されていたが,経過観察中に両眼の霧視および視力低下を自覚した.両眼の白内障と診断され,白内障手術目的で紹介となった.当院初診時所見:視力右C0.4(0.6C×sph+2.50D(cyl.1.50DCAx110°)左0.4(0.5C×sph+2.00D(cylC.0.50DCAx90°),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C13CmmHgであった.中心角膜厚は右眼C497Cμm,左眼C460Cμm,両眼ともに中間透光体に未熟白内障があり,眼底には垂直陥凹乳頭径比C0.7の視神経乳頭陥凹拡大があった.隅角鏡検査では両眼ともにCSha.er分類Cgrade2.3,PASはなかったが,虹彩高位付着およびプラトー虹彩形態があった.術前の超音波CAモード法(UD8000トーメーコーポレーション)による眼軸長は右眼23.46mm,左眼C23.53mm,中心前房深度は,右眼C3.19mm,左眼C3.00Cmmであった.既往歴:特記事項なし.家族歴:特記事項なし.経過:両眼にCiSw挿入術を施行した.手術は両眼とも同一術者(T.I.)により施行された.水晶体再建術を施行後,iSw挿入術は,スワンヤコブオートクレーバルブゴニオプリズム(Ocular社)を用いて,線維柱帯を同定し鼻側にCiSwを2個挿入した.術中,iSwはいずれもC1回の操作で挿入でき,手術は問題なく終了した.手術後の一過性の眼圧上昇を予防するため,手術日のみ,夕食後にアセタゾラミドC250CmgC1錠,アスパラカリウムC600Cmg1錠を内服させた.術後点眼は,術翌日よりモキシフロキサシンC0.5%C4回,ブロムフェナクナトリウムC0.1%C2回,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC0.1%C4回,ピロカルピン塩酸塩C2%C4回を点眼させた.右眼は術翌日に凝血塊を伴う前房出血があったため,視力C0.6(n.c.)であったが,眼圧はC9CmmHgで,術後C1週には視力C0.4(1.0C×sph.0.75D(cyl.0.50DAx100°),眼圧はC10CmmHgと良好な経過であった(図1).左眼も術翌日に凝血塊を伴う少量の前房出血があり,視力(0.7C×sph+2.50D(cyl.1.50DAx110°),眼圧は11mmHg,術後1週には,視力C0.6(1.0C×sph.0.50D(cyl.0.50DCAx90°),眼圧11CmmHgであった.ただし,iSwのC1個はCPAS下に埋没して確認できず,瞳孔はCiSw挿入方向に偏位していた(図2).さらに,右眼術後C4週,左眼術後C2週に両眼ともに隅角にPAS(右眼はC2.4時,左眼はC7.10時)が生じ,左眼瞳孔はCiSw挿入側に偏位していた.iSwは,両眼とも完全に虹彩嵌頓し,確認できなかった.眼圧は右眼C13CmmHg,左眼14CmmHgであった(図3).右眼術後C5週,左眼術後C3週に,両眼のCPASはピロカルピン点眼を含む術後点眼の継続で改善し,右眼のCiSwはC2個とも確認でき,左眼はC1個のみ確認できるようになった(図4).眼圧は右眼C13CmmHg,左眼11CmmHgであった.右眼術後C16週,左眼術後C14週には,PASの改善に伴い,瞳孔偏位はほぼ治癒した(図5).CII考按今回の症例では,iSw挿入術後にCPASおよび瞳孔偏位が生じた.わが国では,iSw挿入術でCPASの形成はC1.3%の頻度で生じたとする報告4)はあるが,瞳孔偏位については筆者らが調べた限りでは報告はない.iSw挿入術によるCPAS形成の機序に関しては不明であるが,レーザー線維柱帯形成術5)および線維柱帯切開術(眼内法)6)などの主経路に作用する他の緑内障手術でも,PASが形成されることはよく知られている.谷原らは,線維柱帯切開術(眼外法)術後の隅角鏡所見を検討し,PASの発生機序として,房水流出量増加に伴い,周辺虹彩とトラベクロトームにより切開された線維柱帯の裂隙が接近すること,また術後炎症および前房出血の関与を指摘しているが,iSwのPASも同様の機序が関与している可能性がある.また,本症例の場合はCSha.er分類Cgrade2.3の軽度狭隅角眼で,虹彩高位付着およびプラトー虹彩形態もあったため,術前から周辺虹彩と線維柱帯の距離が近く,さらにCiSw挿入によりCSchlemm管への房水流出抵抗が減弱し,Schlemm管への房水流出量が増加したため,周辺虹彩が線維柱帯切開部に引き込まれて,PASが形成された可能性も考えられる.また,瞳孔偏位が左眼にあったが,これは丈が高いCPASの形成および虹彩嵌頓が原因と考えられる.そして,左眼のC7-9時方向にCPASが残存した.これは挿入されたCiSwへの流入によりCiSwに周辺虹彩がはずれないほど深く嵌頓してしまったためと考える.iSwの嵌頓を認めていたときでも眼圧が落ち着いていたのは,一時的なアセタゾラミド内服と継続使用したピロカルピン点眼の効果も考えられる.本症例は,術前両眼の眼圧は緑内障点眼治療中でC15図1右眼術後1週の前眼部および隅角鏡所見(鼻側)a:前眼部所見.b:隅角鏡所見(鼻側).凝血塊を伴う前房出血があったが,iSwはC2個とも確認できた.図2左眼術後1週の前眼部および隅角鏡所見(鼻側)a:前眼部所見.Cb:隅角鏡所見(鼻側).凝血塊を伴う少量の前房出血と瞳孔偏位があった.iSwのC1個はCPAS下に埋没して確認できなかった.図3右眼術後4週,左眼術後2週の隅角鏡所見(鼻側)a:右眼.Cb:左眼.両眼ともCiSw挿入部のCPASが悪化し(右眼はC2.4時,左眼はC7.10時),iSwは両眼ともPASに覆われていた.図4右眼術後5週,左眼術後3週の隅角鏡所見(鼻側)a:右眼.b:左眼.PASは改善し,iSwは右眼C2個,左眼C1個のみ(C→)確認できた.図5右眼術後16週,左眼術後14週の前眼部所見a:右眼.b:左眼.PASの改善に伴い,瞳孔偏位は改善した.mmHg前後と顕著に高くはなかったが,通院および点眼治療のアドヒアランスが不良であったため,緩徐に視野障害が進行していた.そのため,本症例は隅角開大度の点でCiSw挿入術の適応に懸念があったが,術後には隅角開大度が改善されることを見越してCiSw挿入術を施行した.しかし,この適応外使用が虹彩嵌頓,瞳孔偏位の原因になった可能性もあり,たとえ軽度な狭隅角眼と考えても,適応を拡大してはいけないと痛感した.本症例では,ピロカルピン2%点眼と通常の術後の消炎で,PASおよび瞳孔偏位は著明に改善した.その原因の一つとして,iSwが虹彩内に嵌頓したことで房水流出機能が低下し,iSwを介したCSchlemm管への房水流出量が減少したところに,ピロカルピンによる縮瞳作用により虹彩が整復した可能性が考えられる.iStentおよびCiSwが虹彩に嵌頓した場合,YAGレーザーでCPASを解除する方法7,8)もあるが,今回の症例ではCiSwが完全にCPAS下に埋没しており,また,眼圧上昇もなかったので,YAGレーザーは施行しなかった.今回,筆者らは,iSw挿入後に生じたCPASによる瞳孔偏位が保存的治療により改善したC1例を経験した.iSw挿入術では,PASや瞳孔偏位は頻度の少ない合併症ではあるが,比較的軽度の閉塞隅角であってもとくに虹彩高位付着あるいはプラトー虹彩を有する症例では,術後のCPASおよび瞳孔偏位に注意する必要がある.また,本症例から術後CPASや瞳孔偏位が生じたら,まずはピロカルピンを含む術後点眼を継続しながら注意深く経過観察すべきであると考える.これらの要旨は,第C34回日本緑内障学会で発表した.文献1)TanitoM:NationwideCanalysisCofCglaucomaCsurgeriesCinC.scalCyearsCofC2014CandC2020CinCJapan.CJCPersCMedC13:C1047,C20232)白内障手術併用眼内ドレーン会議:白内障手術併用眼内ドレーン使用要件等基準(第C2版).日眼会誌C124:441-443,C20203)IwasakiCK,CTakamuraCY,COriiCYCetal:PerformancesCofCglaucomaCoperationsCwithCKahookCDualCBladeCorCiStentCcombinedwithphacoemulsi.cationinJapaneseopenangleCglaucomapatients.IntJOphthalmolC13:941-945,C20204)TakayanagiY,IchiokaS,IshidaAetal:Fellow-eyecom-parisonbetweenphaco-microhookab-internotrabeculoto-myCandCphaco-iStentCtrabecularCmicro-bypassCstent.CJClinMedC10:2129,C20215)BaserEF,AkbulutD:Signi.cantperipheralanteriorsyn-echiaeCafterCrepeatCselect.veClaserCtrabeculoplasty.CCanJOphthalmolC50:e36-e38,C20156)谷原秀信,永田誠:トラベクロトミー術後の隅角所見とその意義1.基本パターン.臨眼C41:1334-1338,C19987)GuedesCRAP,CGravinaCDM,CLakeCJCCetal:IntermediateCresultsCofCiStentCorCiStentCinjectCimplantationCcombinedCwithcataractsurgeryinareal-worldsetting:alongitudi-nalCretrospectiveCstudy.COphthalmolCTherC8:87-100,C20198)塚本彩香,徳田直人,豊田泰大ほか:同一症例における白内障手術併用眼内ドレーン挿入術と内方線維柱帯切開術の術後早期成績について.あたらしい眼科C37:105-109,C2020C***