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正常者における2種類の眼底直視下微小視野計の計測結果の比較

2012年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科29(12):1709.1711,2012c正常者における2種類の眼底直視下微小視野計の計測結果の比較梶田房枝新井みゆき山本修一千葉大学大学院医学研究院眼科学ComparisonofDifferentFundusPerimetryDevicesinNormalIndividualsFusaeKajita,MiyukiAraiandShuichiYamamotoDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:現在市販されている2種類の微小視野計を用いて,正常者における網膜感度の比較を行った.対象および方法:健常者10例10眼を対象に,同一眼でMicroPerimeter1(MP-1)とMacularIntegrityAssessment(MAIA)で測定した.いずれも黄斑部直径10°の網膜感度を背景輝度4asb,視標サイズGoldmannIII,刺激時間200msecで測定し網膜感度の平均値を比較した.結果:平均網膜感度はMP-1が18.9±0.7dB(視標輝度換算6.3±1.1asb),MAIAが29.8±0.8dB(同1.5±0.3asb)であった.MAIAではMP-1と比較し視標輝度に換算して4.8±1.2asb高い網膜感度の測定が可能であった(p=0.0002).結論:MAIAはMP-1に比べ測定時のダイナミックレンジが広く,高い網膜感度の測定が可能であり,黄斑疾患の初期変化の検出が可能と考えられる.Purpose:Tocomparetwodifferentmicroperimetricdevices,currentlyavailableforclinicaluseinJapan,intermsofretinalsensitivitymeasurementsinnormalindividuals.ParticipantsandMethods:Retinalsensitivitywithinthecentral10degreeswasmeasuredin10eyesof10healthyvolunteersusingtheMicroPerimeter1(MP1)andtheMacularIntegrityAssessment(MAIA).GoldmannIIIsizestimuliwerepresentedfor200mseconawhitebackground,withaluminanceof4asb.Results:Meanretinalsensitivitywas18.9±0.7dB(6.3±1.1asb,asstimulusluminance)withMP-1,and29.8±0.8dB(1.5±0.3asb)withMAIA;thedifferencewasstatisticallysignificant(p=0.0002).TheMAIAshowedhigherthresholdvalueswith4.8±1.2asbthandidtheMP-1.Conclusions:TheMAIAprovideshigherthresholdvaluesthantheMP-1,suggestingthattheMAIAmaydetectfunctionaldefectsintheearlystagesofmaculardiseases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)29(12):1709.1711,2012〕Keywords:眼底直視下微小視野計,網膜感度,正常者,MP-1,MAIA.fundus-relatedmicroperimetry,retinalsensitivity,normalsubjects,MP-1,MAIA.はじめに黄斑疾患において視機能を評価する場合には視力が用いられることが多いが,視力は中心窩もしくは中心窩近傍にある固視点における二点弁別閾であり,黄斑視機能を完全に代言しているとはいえない.このため,しばしば視力による視機能評価と患者の自覚症状とのずれを経験する.眼底直視下微小視野計は,眼底直視下に黄斑周囲の網膜感度をピンポイントで測定し,固視点以外の網膜視機能を評価することができる.自動追尾機能を有するため固視ずれに瞬時に対応でき,眼底写真と重ね合わせた網膜感度をマッピング表示できる特徴から,特に黄斑疾患では臨床研究や日常診療に多用されつつある1.3).糖尿病黄斑浮腫や網膜色素変性において,眼底写真や光干渉断層計などの画像所見と網膜感度を組み合わせることにより病変部位の視機能評価が報告されている3.5).同一部位の測定が可能なフォローアップ機能を活かして,糖尿病黄斑浮腫や加齢黄斑変性,特発性黄斑円孔における治療前後での黄斑部視機能と網膜形態の経時変化の関係も報告されている6.8).また,網膜色素変性患者において黄斑部の網膜感度が視覚関連QOL(qualityoflife)とよく相関することも報告されており,眼底直視下視野計で測定した網膜感度は〔別刷請求先〕梶田房枝:〒260-8670千葉市中央区亥鼻1-8-1千葉大学大学院医学研究院眼科学Reprintrequests:FusaeKajita,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,ChibaUniversityGraduateSchoolofMedicine,1-8-1Inohana,Chuo-ku,Chiba260-8670,JAPAN0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(119)1709 患者の自覚症状を反映している9).現在わが国では2種類の微小視野計が市販されているが,測定条件が大きく異なっており,測定結果の差異も明らかになっていない.そこで,本研究では正常者の網膜感度の比較を2機種の間で行った.I対象および方法軽度の屈折異常以外に眼疾患を有しない健常者10名10眼(女性6名,男性4名,年齢23.57歳)を対象に前向き研究を行った..6.0Dを超える強度近視は除外し,すべての被検者で矯正視力は1.0以上,眼底検査で黄斑に異常がないことを確認した.被検者には本研究の内容と意義について説明し研究参加の同意を得た.同一眼でMicroPerimeter1(MP-1,NIDEK社)とMacularIntegrityAssessment(MAIA,トプコン社)で測定した.いずれも無散瞳で黄斑部直径10°の範囲内の網膜感度を測定し,測定データの信頼性指標に対する判定はすべて100%であった.MicroPerimeter1(MP-1)は赤外光カメラと自動視野計を組み合わせ,眼底病変に対応した部位の網膜感度を測定する眼底直視下微小視野計である.自動的に眼球運動を追尾するトラッキング機能により網膜上の同じ測定点を正確に刺激でき,黄斑部に病変のある固視不良例に対しても再現性の高い検査が可能である.視標輝度は4asbから400asb,刺激幅は相対輝度で20dBであり,4-2-1ストラテジーにより閾値決定される.測定条件は白色背景光下で背景輝度4asb,GoldmannIIIの視標サイズを選択し,視標呈示時間200msec,黄斑部中心10°の範囲を24点測定した(図1).MacularIntegrityAssessment(MAIA)では共焦点走査眼底画像を用いて眼底をモニターしながら網膜感度を測定す図1MicroPerimeter1(MP.1)による黄斑部中心10°の測定結果24点を測定し,0.20dBで表示される.るため,トラッキング機能の精度が向上した.MP-1より視標輝度の幅が広がり,0.25asbから1,000asbまで呈示可能で,相対輝度で0.36dBで表示される.閾値決定は4-2ストラテジーによる.測定条件は白色背景光下で背景輝度はMP-1と同様に4asb,視標サイズはGoldmannIII,刺激時間200msecとし,視標呈示パターンは中心10°の範囲に円周状に37点を測定するパターンを選択した(図2).表1に両者の視野計の比較を示す.黄斑部直径10°以内の測定点がMAIAは37点に対し,MP-1は24点でMP-1の測定点が少ないため,全体を平均した網膜感度(dB)およびそれに相当する輝度(asb)の平均値を比較した.なお,最低感度である0dBは視野計の最高輝度によって異なるため,絶対暗点を意味しているわけではない.MP-1は最低輝度4asbのときの網膜感度を20dB,最高輝度400asbのときの網膜感度を0dBと表示し,MAIAでは最低輝度0.25asbの光で刺激したときの網膜感度を36dB,1,000asbの最高輝図2MacularIntegrityAssessment(MAIA)による黄斑部中心10°の測定結果37点を測定し,0.36dBで表示される.表1MicroPerimeter1(MP.1)とMacularIntegrityAssessment(MAIA)の設定条件,機能の比較MP-1MAIA眼底画像近赤外眼底カメラSLO画角45°円形36°×36°解像度1,280×1,024pix1,024×1,024pix視標サイズGoldmannI.IVGoldmannIIIのみ最小瞳孔径4mm2.5mm背景輝度4asb4asb視標呈示液晶ディスプレー白色LED視標最大輝度400asb1,000asb視標最小輝度4asb0.25asbダイナミックレンジ0.20dB0.36dB1710あたらしい眼科Vol.29,No.12,2012(120) MAIA(asb)3210456789MP-1(asb)図3MicroPerimeter1(MP.1)とMacularIntegrityAssessment(MAIA)で測定した中心10°の平均網膜感度から換算した輝度の比較両者の間に有意な相関はみられなかった(rs=.0.081,p=0.798).度で刺激したときの網膜感度を0dBとしている.II結果黄斑中心10°以内の平均網膜感度は,MP-1では18.9±0.7dB,MAIAでは29.8±0.8dBであった(図3).これを輝度に換算するとMP-1では6.3±1.1asb,MAIAでは1.5±0.3asbであった.平均検査時間はMP-1では3分12秒,MAIAでは5分42秒であった.MP-1ではMAIAで測定した正常者の平均網膜感度はMP-1より有意に高い結果となり(Man-Whitney,p=0.0002),輝度に換算して平均4.8±1.2asb高い値となった.両者に有意な相関はみられなかった(rs=.0.081,p=0.798).さらに,両者の測定点の分布が異なり,MAIAではMP-1に比べ中心窩に近い測定点が多いことから,中心2°の範囲内,すなわちMAIAの中心13点とMP-1の中心4点の平均網膜感度を比較したが有意な相関はみられなかった(rs=.0.467,p=0.092).III考按MAIAではより弱い光の視標呈示が可能になったことで,MAIAで測定した正常者の平均網膜感度はMP-1に比べて,輝度に換算して4.8asb高いことがわかった.また,黄斑10°以内および2°以内のいずれにおいても両者の平均網膜感度に有意な相関はみられなかった.さらに,MP-1で最高感度20dBに達していた5症例では,MAIAでは最高感度に達しておらず,正常者のような視力良好例ではMP-1では測定上限を超えることが明らかとなった.検査時間の差異はMAIAの測定点がMP-1より多いことが反映されているが,閾値決定方法からはMAIAのほうがMP-1より短時間の検査が可能であると考えられる.Humphrey自動視野計においても網膜感度の定量的評価は可能であるが,黄斑疾患などの限局性病変との対比は必ずしも容易ではなく,特に固視不良例では信頼性および再現性(121)に乏しく,黄斑疾患への応用には問題が少なくない3).しかし,MP-1はHumphrey視野計などに比べ網膜感度のレンジが狭く,絶対暗点の測定は不可能であり,最高および最低感度のなかに測定範囲を超えた感度も含まれていた.後発機種であるMAIAでは,このようなMP-1における問題点の多くに解決が試みられ,刺激強度の幅が上下に拡張されることにより,全体的により低感度から高感度まで測定可能になった.操作性においてはMAIAでは多くの操作が自動化され簡便になった.また,MAIAは加齢黄斑変性患者を含むデータベースとの比較により早期および中期の変化を検出する機能が備わり,加齢黄斑変性の初期病変の検出が期待されている.もちろんMAIAにおいてもHumphrey視野計との測定条件の相違点には注意が必要であるが,MP-1より高い網膜感度の測定が可能になり,黄斑疾患の初期変化の検出に有用であると考えられる.文献1)三田村佳典,山本修一:眼底視野計(MP-1).あたらしい眼科24(臨増):21-27,20072)長澤利彦,香留崇,三田村佳典:眼底視野計MP-1による臨床研究.眼科53:1853-1860,20113)SpringerC,BultmannS,VolckerHEetal:FundusperimetrywiththeMicroperimeter1innormalindividuals.Ophthalmology112:848-854,20054)OkadaK,YamamotoS,MizunoyaSetal:Correlationofretinalsensitivitymeasuredwithfundus-relatedmicroperimetrytovisualacuityandretinalthicknessineyeswithdiabeticmacularedema.Eye20:805-809,20065)MitamuraY,AizawaS,BabaTetal:Correlationbetweenretinalsensitivityandphotoreceptorinner/outersegmentjunctioninpatientswithretinitispigmentosa.BrJOphthalmol93:126-127,20096)AizawaS,MitamuraY,HagiwaraAetal:Changesoffundusautofluorescence,photoreceptorinnerandoutersegmentjunctionline,andvisualfunctioninpatientswithretinitispigmentosa.ClinExperimentOphthalmol38:597-604,20107)OkadaK,Kubota-TaniaiM,KitahashiMetal:Changesinvisualfunctionandthicknessofmaculaafterphotodynamictherapyforage-relatedmaculardegeneration.ClinOphthalmol3:483-488,20098)NakamuraY,MitamuraY,OgataKetal:Functionalandmorphologicalchangesofmaculaaftersubthresholdmicropulsediodelaserphotocoagulationfordiabeticmacularoedema.Eye24:784-788,20109)OokaE,MitamuraY,BabaTetal:Fovealmicrostructureonspectral-domainopticalcoherencetomographicimagesandvisualfunctionaftermacularholesurgery.AmJOphthalmol152:283-290,201110)SugawaraT,SatoE,BabaTetal:Relationshipbetweenvision-relatedqualityoflifeandmicroperimetry-determinedmacularsensitivityinpatientswithretinitispigmentosa.JpnJOphthalmol55:643-646,2011あたらしい眼科Vol.29,No.12,20121711