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両眼に視神経管浸潤による視神経障害のみをきたした篩骨洞原発びまん性大細胞型B細胞性悪性リンパ腫の1例

2019年10月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科36(10):1330.1334,2019c両眼に視神経管浸潤による視神経障害のみをきたした篩骨洞原発びまん性大細胞型B細胞性悪性リンパ腫の1例阿部竜大佐藤智人高山圭竹内大防衛医科大学校眼科学教室CACaseofPrimaryDi.useLargeBCellLymphomaoftheEthmoidSinusIn.ltratingtheOpticCanalTatsuhiroAbe,TomohitoSato,KeiTakayamaandMasaruTakeuchiCDepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollegeC目的:視神経管浸潤による視神経障害のみをきたした篩骨洞原発びまん性大細胞型CB細胞性悪性リンパ腫(DLBCL)のC1例を報告する.症例:68歳,男性.数週間前より徐々に進行する右眼視力低下で近医眼科を受診し,右眼視神経炎疑いで当院紹介となった.初診時,矯正小数視力は右眼C0.7,左眼C1.2.相対的瞳孔求心路障害(RAPD)は右眼陽性.限界フリッカ値(CFF)は右眼C10CHz,左眼C27CHzであり,前眼部と眼底に特記すべき異常はなかった.複視もなく,眼球突出・眼位も異常なく,眼球運動も正常で眼球運動時痛もなかった.コンピュータ断層撮影で右側が大きい篩骨洞内の腫瘤性病変と右眼視神経管内浸潤があり,生検でCDLBCLと診断された.左眼も同様に視神経管に浸潤し矯正小数視力は右眼光覚弁・左眼C0.3まで低下し視野障害も悪化したが,化学療法による腫瘍の縮小と視神経管浸潤の消失に合わせて改善し,RAPDは右眼陽性が残存したが矯正視力は右眼C0.8,左眼C1.5,CFFは右眼C23CHz,左眼35CHzに回復した.結論:視神経管に浸潤した篩骨洞原発CDLBCLを経験した.視神経障害のみでも腫瘍性病変を検索することが重要である.CPurpose:Toreportacaseofprimarydi.uselargeBcelllymphoma(DLBCL)oftheethmoidsinusin.ltratingtheopticcanalanddefectingbilateralopticnerves.Casereport:A68-year-oldmalewasreferredtoourdepart-mentwithsubacutevisualacuitydefectandvisual.elddefectinhisrighteye.At.rstpresentation,visualacuitywas20/30intherighteyeandrelativea.erentpupillarydefectwaspositiveintherighteye.Duringthecourse,visualCacuitiesCinCbothCeyesCworsened.CComputerizedCtomographyCdisclosedCaCmassCinCtheCethmoidCsinus,CwithCin.ltrationtotherightopticcanal.AfterdiagnosisasprimaryDLBCLbypathologicalexamination,systemicche-motherapyCwasCinitiatedCandCvisualCacuityCimproved.CConclusion:ItCisCimportantCtoCsearchCforCneoplasticClesionsCwithopticnervedisorder.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(10):1330.1334,C2019〕Keywords:視神経障害,視神経管,悪性リンパ腫,化学療法.opticnervedisorder,opticcanal,malignantlym-phoma,chemotherapy.Cはじめに悪性リンパ腫は通常リンパ節ないしは生理的にリンパ組織をもつ臓器に発生し,頭頸部悪性腫瘍における悪性リンパ腫の占める比率は約C10%とされる1,2).頭頸部領域の悪性リンパ腫の好発部位は頸部リンパ節3)やCWaldeyer輪4)だが典型的なリンパ節組織を欠く鼻副鼻腔にも悪性リンパ腫は発生する可能性があり,副鼻腔悪性リンパ腫の発生頻度は頭頸部悪性リンパ腫のC10.25%1,5)とされる.そのなかで,篩骨洞に発生した悪性リンパ腫の場合,視神経,動眼神経,外転神経など,三叉神経のさまざまな神経障害や眼窩部腫脹をきたすことが報告されている6.12).今回,両眼の視神経管に浸潤したことによって視神経障害のみをきたした篩骨洞原発びまん〔別刷請求先〕高山圭:〒359-8513埼玉県所沢市並木C3-2防衛医科大学校眼科医局Reprintrequests:KeiTakayama,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,NationalDefenseMedicalCollege,3-2Namiki,Tokorozawa,Saitama359-8513,JAPANC1330(108)abcd図1初診時の眼底写真とCT画像両眼底・視神経乳頭に異常はなかった(Ca,b)が,CT検査にて両側の篩骨洞に腫瘤性病変,右視神経管浸潤(.)と右眼眼窩内浸潤があった(Cc).また,右後頭葉に陳旧性脳梗塞と考えられる一部低吸収域があった(C.,d).性大細胞型CB細胞性悪性リンパ腫(di.uselargeBcelllym-phoma:DLBCL)のC1例を経験したので報告する.CI症例68歳,男性.1カ月前から右眼の視力低下が出現し徐々に増悪するため近医を受診した.矯正小数視力が右眼C0.8・左眼C1.0,相対的瞳孔求心路障害(relativea.erentpupillarydefect:RAPD)が右眼陽性,限界フリッカ値(criticalCfusionfrequency:CFF)が右眼低下していたとのことで,右眼視神経炎疑いで当院に紹介となった.既往歴として,62歳時に脳梗塞の既往があるが副鼻腔炎はなかった.当院初診時,矯正小数視力は右眼C0.7,左眼C1.2,眼圧は右眼11.0CmmHg,左眼C10.5CmmHg,RAPDは右眼陽性,対座法で右眼耳側の視野狭窄があり,CFFは右眼C10CHz,左眼C27Hzと右眼が優位に低下していた.眼瞼腫脹はなく,眼位は正位,眼球運動は正常で眼球運動痛はなかった.両眼の前眼部・中間透光体・眼底に特記すべき異常なく,視神経乳頭も色調正常・境界明瞭で腫脹はなかった(図1a,b).右眼の球後視神経障害を疑い,占拠性病変の除外診断のために当日に緊急でコンピュータ断層撮影(CT)を施行したところ,両側の篩骨洞に腫瘤性病変,右眼視神経管浸潤,右眼眼窩内浸潤があった(図1c).また,右後頭葉に陳旧性脳梗塞と考えられる一部低吸収域があった(図1d).右視力障害・視野障害の原因として篩骨洞悪性腫瘍の眼窩内浸潤を疑い,耳鼻咽喉科にて内視鏡下鼻副鼻腔手術を施行し病理検査を施行したところ,腫瘍は明瞭な核小体を含有する類円形核を有する比較的大型で核/細胞質(N/C)比の高い腫瘍細胞が一部CstarryCskyappearanceを呈しつつびまん性に増殖し,免疫染色にてCCD20,CD10,bcl-2が陽性だった(図2a.d).転移性悪性リンパ腫を疑い陽電子放出断層撮影を施行したが,同部位以外の有意な集積はなかった(図2e,f).以上から,篩骨洞原発のCDLBCLと診断した.上記精査中のC10日間で視力ef図2病理画像と陽電子放射断層撮影の結果強拡大像(400倍)にて,腫瘍は明瞭な核小体を含有する類円形核を有する比較的大型でCN/C比の高い腫瘍細胞が一部CstarryCskyappearanceを呈しつつびまん性に増殖し(Ca),免疫染色にてCCD20(b),CD10(Cc),bcl-2(Cd)が陽性だった.転移性悪性リンパ腫を疑い陽電子放出断層撮影を施行したが,同部位以外(Ce)の有意な集積はなかった(Cf).スケールバー:50Cμm.障害・視野障害が増悪し,矯正小数視力が右眼光覚弁,左眼に対してシクロフォスファミド・ドキソルビシン・ビンクリ0.3,CFFは右眼測定不可,左眼C25CHzと減少,CT検査にスチン・プレドニゾロンからなるCCHOP療法を施行したとて篩骨洞腫瘤性病変の拡大,右眼眼窩内浸潤の拡大,左眼視ころ,眼窩内浸潤と視神経管浸潤の縮小(図3c)に伴い視神経管への浸潤がみられ(図3a),Goldmann視野検査にて力・視野障害が改善した.治療開始C1カ月にてCRAPDは右右眼測定不能,左眼多数の暗点が出現した(図3b).DLBCL眼陽性と残存したが,矯正小数視力が右眼C0.8,左眼C1.5,図3治療前後でのCT画像とGoldmann視野検査結果CTにて篩骨洞腫瘤性病変の拡大,右眼眼窩内浸潤の拡大,左眼視神経管への浸潤がみられ(Ca),Goldmann視野検査にて右眼は検査不能,左眼に多数の暗点が出現した(Cb).化学療法で腫瘍が縮小し視神経管浸潤が消失すると(Cc),Goldmann視野検査も右眼は耳側の欠損が残存したが,左眼は正常と改善した(Cd,e)CFFが右眼C22CHz,左眼C35CHzに改善し,治療C2カ月にて,矯正小数視力が右眼C1.0,左眼C1.0,CFFが右眼C20CHz,左眼C36CHz,Goldmann視野検査も右眼は耳側の欠損が残存したが,左眼は正常と改善した(図3d,e).現在,血液内科で化学療法を継続している.CII考按今回,片眼性の視力低下・視野障害で発見された,視神経管に浸潤し視神経障害のみが出現した篩骨洞原発CDLBCLの1例を経験した.頭頸部悪性腫瘍全体のなかで悪性リンパ腫は約C10%とされ1,2),副鼻腔原発悪性リンパ腫の発生頻度は頭頸部悪性リンパ腫のC10.25%1,5)とされる.以上から,頭頸部悪性腫瘍のうちで副鼻腔原発悪性リンパ腫は1.3%(10%×10.25%)と予想される.金田らはC36例の副鼻腔原発悪性リンパ腫の症例検討を行い,DLBCLとCNK/Tcelllym-phomaがそれぞれ半数を占め,さらにCCT検査にて悪性リンパ腫に特徴的とされる浸透性進展像はあまり示さずに非特異的所見が多いことを報告した13).本症例では病理検査でDLBCLと確定診断されたが,CT検査にて浸透性進展像を示した点と両眼に進展したために両眼に症状が出現した点が既報とは違う点だった.浸透性進展がみられたため,視神経への圧迫による症状が出現するとともに急速に増悪したと考えられる.篩骨洞に発生した悪性リンパ腫の場合,視神経,動眼神経,外転神経など,三叉神経のさまざまな神経障害や眼窩部腫脹をきたすことが報告されている6.12).本症例では,視神経障害のみが出現,増悪し,その他の神経症状や眼窩部症状は出現しなかった.CT検査でCDLBCLが両視神経管を経由して眼窩先端部に浸潤していたことを確認したが,眼窩先端部に浸潤すると多数の神経症状や血流圧迫による眼窩部腫脹が出現すると考えられる.しかしながら,解剖学的に視神経と非常に密に接している関係にある視神経管への浸潤による視神経圧迫か視神経への浸潤によって,眼窩先端部症候群の症状が出現する前に視神経障害が出現したと考えられる.CHOP療法が奏効したため視神経障害による症状が改善し他の症状は出現しなかったが,もし同療法の効果が不十分な場合には他の神経症状・眼瞼腫脹も出現したと予測される.一般的に視神経症の鑑別診断には造影CMRIが必要とされている14).本症例では,まず占拠性病変の除外のために緊急で検査を行う必要があった.当院では緊急で核磁気共鳴画像検査(MRI)を撮影できないため,CT検査を選択して副鼻腔内腫瘍を発見した.後日,耳鼻科での腫瘍生検前にCMRIを施行して,篩骨洞原発CDLBCLの視神経管への浸潤を確認するとともに視神経を確認している.CIII結論今回,片眼性の視力低下・視野障害で発見され,両眼の視神経管に浸潤することによって視神経障害のみが出現した篩骨洞原発CDLBCLのC1例を経験した.視神経障害のみ場合でも悪性リンパ腫によるものの可能性があるため,球後視神経炎が疑われる場合も画像検査にて腫瘍性病変を検索することが重要である.文献1)久保田修,榎本仁美,善浪弘善ほか:症例をどうみるか鼻副鼻腔悪性リンパ腫のCCT画像の検討.JOHNSC17:C1407-1411,C20012)丹生健一:頭頸部がん.日本癌治療学会誌C50:335-336,C20153)若杉哲郎,三箇敏昭,武永芙美子ほか:頸部リンパ節生検術C114例の臨床的検討.頭頸部外科24:101-107,C20144)長谷川昌宏,古謝静男,松村純ほか:当科におけるワルダイエル輪リンパ腫型CATLのC15症例の検討.日本耳鼻咽喉科学会会報103:1101,C20005)古謝静男,糸数哲郎,新濱明彦ほか:当科における鼻・副鼻腔悪性リンパ腫症例の検討.耳鼻と臨床46:37-40,C20006)後藤理恵子,米崎雅史:三叉神経の単神経障害を初発症状とした悪性リンパ腫例.日本鼻科学会会誌56:103-109,C20177)高橋ありさ,川田浩克,錦織奈美ほか:眼症状を伴った小児の副鼻腔原発CBurkittリンパ腫のC1例.眼臨紀C11:349-352,C20188)山本一宏,神田智子,中井麻佐子:Tolosa-Hunt症候群様症状を呈し,篩骨洞病変で診断された悪性リンパ腫のC1症例.日本鼻科学会会誌41:19-22,C20029)浅香力,三戸聡:外転神経麻痺で発症した蝶形骨洞悪性リンパ腫例.耳鼻咽喉科臨床補冊:48-52,201010)米澤淳子,安東えい子,手島倫子ほか:急速な増大を示した眼窩悪性リンパ腫のC1例.眼臨C97:107-109,C200311)野澤祐輔,佐藤多嘉之,十亀淳史ほか:非ホジキンリンパ腫の一症例.北海道農村医学会雑誌41:100-102,C200912)三浦弘規,鎌田信悦,多田雄一郎ほか:当院における鼻腔・篩骨洞悪性腫瘍の検討.頭頸部癌39:21-26,C201313)金田将治,関根基樹,山本光ほか:鼻副鼻腔原発悪性リンパ腫の検討下鼻甲介腫大を呈する症例の紹介.日本耳鼻咽喉科学会会報121:210-214,C201814)毛塚剛司:【多発性硬化症最前線】視神経炎の鑑別と治療について.神経眼科35:33-40,C2018***