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眼瞼下垂におけるMargin Reflex Distance と上方視野と瞳孔との関係

2011年2月28日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(103)257《原著》あたらしい眼科28(2):257.260,2011cはじめに高齢化社会において眼瞼下垂は増加傾向にあり,視力低下や上方視野狭窄によるqualityoflife(QOL)低下1)につながるため積極的に外科的治療が行われる.眼瞼下垂手術は整容的な目的のみならず,眼科領域では視機能,特に上方視野障害の改善を目的として手術が行われている2).眼瞼下垂手術の術前術後の評価方法として,近年は単眼視下での角膜反射から上眼瞼縁までの距離の測定値であるmarginreflexdistance(MRD)3,4)を一般的に用いて評価が行われている.そこで,MRDと上方視野および瞳孔径の関係を検討したので報告する.I対象および方法2007年4月から2009年12月までに神奈川歯科大学附属横浜クリニック眼科に眼瞼下垂手術希望で来院した患者53名106眼のMRD測定および上方視野測定と瞳孔径測定を行〔別刷請求先〕原直人:〒221-0835横浜市神奈川区鶴屋町3-31-6神奈川歯科大学附属横浜クリニック眼科Reprintrequests:NaotoHara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KanagawaDentalCollegeYokohamaDentalandMedicalClinic,3-31-6Tsuruya-cho,Kanagawa-ku,Yokohama-city221-0835,JAPAN眼瞼下垂におけるMarginReflexDistanceと上方視野と瞳孔との関係小手川泰枝*1原直人*1鈴木裕美*1大野晃司*1望月浩志*2君島真純*1向野和雄*1*1神奈川歯科大学附属横浜クリニック眼科*2北里大学大学院医療系研究科眼科学RelationsBetweenMarginReflexDistance,SuperiorVisualFieldandPupilDiameterinBlepharoptosisPatientYasueKotegawa1),NaotoHara1),HiromiSuzuki1),KoujiOhno1),HiroshiMochizuki2),MasumiKimishima1)andKazuoMukuno1)1)DepartmentofOphthalmology,KanagawaDentalCollegeYokohamaDentalandMedicalClinic,2)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalScience,KitasatoUniversity角膜反射から上眼瞼縁までの距離であるmarginreflexdistance(MRD)は,眼瞼下垂の手術適応や手術効果の判定に用いられている.このMRDと上方視野および瞳孔径の関係を検討した.MRDおよび瞳孔径の測定はNONCONROBOPACHY(KONAN社製)の前眼部写真をもとに計算し,上方視野の測定はGoldmann視野計を用い上眼瞼挙上せず測定した.その結果,上方視野の値とMRDの測定値の間に正の相関が認められた.MRDが2.0~3.0mmで上方視野25~35°が得られることがわかり,眼瞼下垂の程度を上方の視野狭窄という機能障害として評価ができた.さらにMRDが小さくなると縮瞳する傾向がみられた.Marginreflexdistance(MRD),whichisthedistancebetweenthepapillarylightreflexandtheuppereyelidmargin,itwasusingthedecisionsandtheefficacyofblepharoptosissurgery.WeevaluatedrelationshipbetweenMRD,uppervisualfieldandpupildiameter.WecalculatedMRDfortheanteriorsegmentphotographbyspecularmicroscopyandthesuperiorvisualfieldusingtheGoldmannperimeter,withoutelevationofupperlidandskin.ThesuperiorvisualfieldandMRDweresignificantlyrelated;miosiswascausedbyMRDdecrease.Thisreportshowsthatblepharoptosisisappreciablebyfunctionallesionforsuperiorvisualfielddefect,andrecognizedthat25to35degreesofsuperiorvisualfieldwasprovidedinMRDfrom2.0to3.0mm.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(2):257.260,2011〕Keywords:眼瞼下垂,marginreflexdistance(MRD),上方視野,瞳孔径.blepharoptosis,marginreflexdistance(MRD),superiorvisualfield,pupildiameter.258あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(104)った.上方視野の測定には,GoldmannPerimeter(HAAGSTREIT社製)(以下,Goldmann視野計)を用いた.片眼ずつガーゼ遮閉を行い,前頭筋の使用を抑制するため閉瞼した状態で顎台に顔を乗せ,額を額当てにつけた後に開瞼させ,上眼瞼の挙上および開瞼努力の指示は行わず,正面の黒い固視目標を固視させた.暗室でGoldmann視野計V-4e視標を用い周辺視野測定を行った.上方90°方向と耳側135°および45°と鼻側135°および45°のプロット位置の平均値をGoldmann視野計での上方視野測定値とした(図1).固視目標が見えない場合は上方視野を0°とした.MRDの測定は,新しい試みとしてNONCONROBOPACHY(KONAN社製)の前眼部写真をもとに計算を行った.測定は400luxの室内で行い,上方視野測定時と同様に前頭筋の使用を抑制するように顎台に顎を乗せ,上眼瞼の挙上および開瞼努力の指示は行わずに,測定画面の中央部分に被験者の瞳孔が位置するように調整した.その後,内部の視標を固視させストロボ撮影を片眼ずつ行った.前眼部写真の角膜反射を瞳孔中心として上眼瞼縁までの距離を測定し,撮影した前眼部写真の3mmスケールからMRD(mm)を算出した.同様に角膜反射を通る瞳孔横径を3mmスケールから算出し瞳孔径(mm)とした(図2).眼瞼下垂のため角膜反射が得られない場合と角膜反射を通る瞳孔横径が測定できなかった場合は,それぞれMRDを0mm,瞳孔径は測定不可とした.今回は,上眼瞼縁が撮影した前眼部写真から判定できなかった皮膚弛緩症症例については,対象から除外した.検定にはSpearmanの順位相関を用いて,MRDと上方視野,MRDと瞳孔径のそれぞれの相関関係を検定した.II結果全症例53名の平均年齢は63.7±10.7歳(21~82歳)で女鼻側135°=38°上方90°=30°耳側45°=35°鼻側38°+上方30°+耳側35°3=34.3°(上方視野測定値)図1上方視野の計算上方視野測定は暗室でGoldmann視野計のV-4e視標を用い行った.測定は片眼ずつ行い,得られた周辺視野の90°および135°,45°方向のプロット位置の平均値を上方視野測定値とした.また,正面の固視目標が見えない場合は上方視野を0°とした.MRDの計算式瞳孔径の計算式角膜反射から上眼瞼縁の距離(A)×3(mm)3mmスケールの写真上での実測値(B)角膜反射を含む角膜横径(C)×3(mm)3mmスケールの写真上での実測値(B)図2MRDと瞳孔径の計算方法NONCONROBOPACHY(KONAN社製)の前眼部写真の角膜反射から上眼瞼縁までの距離(A)(MRD)と角膜反射を通る瞳孔横径(C)と3mmスケールの実測値(B)を用いて,図に示す計算式でMRD(mm)と瞳孔横径(mm)を算出した.角膜反射の得られなかったものに関しては,MRDを0mmとした.また,同様に瞳孔横径も角膜反射が得られない場合もしくは角膜反射を通る左右の瞳孔縁が確認できない場合は測定不可とした.(105)あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011259性47名,男性6名であった.症例のうち挙筋機能(levatorfunction:LF)の測定を行っていた41名82眼の平均LFは12.5±2.5mmであり,そのうちLFが10mm以下であったものは8名6眼であった.106眼の平均MRDは1.75±1.22mm(0~4.91mm),平均上方視野は25.5±12.1°(3.0~54.0°)であった.瞳孔横径が測定可能であった43名75眼の全平均瞳孔径は4.30±0.62mm(2.4~6.0mm)であった.MRDと上方視野には相関関係を認め(r=0.925,p=0.0001),MRDが大きくなると上方視野は広くなった(図3).MRD0.5mm以下で上方視野10°以下,MRD1.0~1.5mmで上方視野約20~25°,MRD2.0~2.5mmで上方視野約30°,MRD3.0~3.5mm以上で上方視野35°以上であった(表1).全症例のMRDと瞳孔径に相関関係を認め(r=0.339,p=0.002),MRDが小さくなると瞳孔径も小さくなる傾向を示した(図4).III考察眼瞼下垂の術前評価方法としては,MRDを用いた評価方法5~7)が報告されている.MRDと瞳孔径に関しては,MRDが小さくなると瞳孔径も小さくなる傾向を示した.術前にMRDから上方視野が予測可能であることは有用であると考えられた.術前は,MRDから上方視野狭窄による視機能障害としての評価が可能になり,Goldmann視野計を用いていない施設においてもMRD測定値から眼瞼下垂手術前後の上方視野評価ができることは有用である.MRDと上方視野の研究には自動視野計とGoldmann視野計を用いたものがある.自動視野計での上方視野測定では手術後MRD3.5mm以上の場合で最も上方視野改善を示したとする報告8)や,MRD2.5mm以下になると上方視野はGoldmann視野計のIII4-e視標で12°,自動視野計の10dB視標で30%障害されることが報告されている1).筆者らは,Goldmann視野計のV4-e視標で測定を行っており,過去の報告よりも明るい視標で上方視野を評価したため,MRD2.5mmで上方視野30°と,より広い上方視野結果となったと考える.一方でGoldmann視野計での上方視野測定の方法は,自動視野計に比べ短時間で検査手技も容易で高齢者にも適しており9),手術適応と手術効果の判定についてV4-e視標を用いて報告2)されていることからも,本研究における上方視野評価にGoldmann視野計を用いたことは,提示視標の選択に問題はなかったと考えられた.今回の症例のうち,皮膚弛緩症で前眼部写真より上眼瞼縁が判定できなかった症例を検討の対象から除外した.皮膚弛緩症例は,皮膚弛緩による見かけ上のMRDと真のMRDに差異があり,当然皮膚が弛緩していることにより見かけ上のMRDは小さく2),上方視野は障害されていることが考えら表1MRD別上方視野の平均値MRD(mm)平均上方視野(°)<0.510.0±4.7(中央値:8.7)~1.019.4±4.5(中央値:18.3)~1.523.4±6.6(中央値:25.7)~2.027.0±5.5(中央値:27.8)~2.531.4±3.1(中央値:30.1)~3.038.5±3.5(中央値:38.3)~3.540.4±5.2(中央値:40.3)3.5<45.7±4.6(中央値:46.0)Marginreflexdistance(mm)瞳孔径(mm)n=75r=0.339p=0.00276543200.511.522.533.544.555.5図4MRDと瞳孔径53名106眼のうち瞳孔径が測定可能であった43名75眼のMRD(mm)と瞳孔径(mm)を示す.横軸がMRD(mm),縦軸が瞳孔径(mm)で,MRDが小さくなると瞳孔径は縮瞳する傾向を認めた(r=0.339,p=0.002).60555045403530252015105000.511.522.5Marginreflexdistance(mm)上方視野(°)33.544.555.5n=106r=0.925p=0.0001図3全症例におけるMRDと上方視野全53名106眼のMRD(mm)と上方視野(°)を示す.横軸がMRD(mm),縦軸が上方視野(°)で,MRDが小さくなると上方視野は有意に狭くなった(r=0.925,p=0.0001),おおよそ角膜反射が得られないMRD0.5以下の場合は上方視野が10°以下で,MRD1.0~1.5mmで上方視野20~25°,MRD2.0~2.5mmで上方視野30°,MRD3.0mm以上で上方視野35°以上であった.260あたらしい眼科Vol.28,No.2,2011(106)れる.今後,皮膚弛緩症患者における見かけ上のMRDと真のMRDで上方視野測定の検討が必要と考えられた.文献1)FedericiTJ,MeyerDR,LiningerLL:Corelationofthevision-relatedfunctionalimpairmentassociatedwithblepharoptosisandtheimpactofblepharoptosissurgery.Ophthalmology106:1705-1712,19992)西本浩之,北原美幸,堤瑛理ほか:眼瞼下垂手術におけるGoldmann視野計による視野評価とその有用性.眼科手術22:221-224,20093)川本潔:スムースな開瞼と閉瞼を意識した眼瞼下垂手術.眼科手術20:359-363,20074)MeyerDR,LinbergJV,PowellSRetal:Quantitatingthesuperiorvisualfieldlossassociatedwithptosis.ArchOphthalmol107:840-843,19895)RubinPA:Eyelidpositionmeasurement.Ophthalmology112:524,20056)EdwardsDT,BartleyGB,HodgeDOetal:EyelidpositionmeasurementinGraves’ophthalmopathy:Reliabilityofaphotographictechniqueandcomparisonwithaclinicaltechnique.Ophthalmology111:1029-1034,20047)CoombesAG,SethiCS,KirkpatrickWN:Astandardizeddigitalphotographysystemwithcomputerrizedeyelidmeasurementanalysis.PlastReconstrSurg120:647-656,20078)HackerHD,HollstenDA:Investigationofautomatedperimetryinevalutionofpatientsforupperlidblepharoplasty.OphthalmicPlastReconstrSurg8:250-255,19929)RiemannCD,HansonS,FosterJA:Acomparisonofmanualkineticandautomatedstaticperimetryinobtainingptosisfields.ArchOphthalmol118:65-69,2000***