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新しい弱視訓練装置Occlu-Pad®の視覚野に対する効果検証

2015年10月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科32(10):1503.1506,2015c新しい弱視訓練装置Occlu-PadRの視覚野に対する効果検証岩田遥*1半田知也*2石川均*2,3庄司信行*2,3清水公也*3*1北里大学大学院医療系研究科視覚情報科学*2北里大学医療衛生学部視覚機能療法学*3北里大学病院眼科EffectVerificationforVisualCortexofNovelAmblyopiaTreatmentDeviceOcclu-PadRYoIwata1),TomoyaHanda2),HitoshiIshikawa2,3),NobuyukiShoji2,3)andKimiyaShimizu3)1)Master’sProgramofMedicalScience,KitasatoUniversityGraduateSchool,2)DepartmentofRehabilitation,OrthopticsandVisualScienceCourse,SchoolofAlliedHealthScience,KitasatoUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,SchoolofMedicine,KitasatoUniversity弱視は視覚野における眼間抑制を生じる.それを矯正するためには弱視眼を使用しながら視覚野の活性を促すことが重要である.筆者らはOcclu-PadR使用時の視覚野の活性(酸素化ヘモグロビン濃度)を近赤外線分光法(fNIRS)を用いて他覚的に評価した.実験は健常眼の13名を対象に,両眼開放下両眼刺激条件,両眼開放下片眼刺激条件,片眼遮閉下片眼刺激条件,両眼開放下片眼刺激タッチあり条件の4条件で実施した.両眼開放下両眼刺激条件と両眼開放下片眼刺激条件との間には有意差を認めなかった(p=0.86).両眼開放下両眼刺激条件および両眼開放下片眼刺激条件は片眼遮閉下片眼刺激条件と比較して酸素化ヘモグロビン濃度変化量が有意に増大した(p=0.035)(p=0.007).両眼開放下片眼刺激タッチあり条件は両眼開放片眼刺激条件と比較して酸素化ヘモグロビン濃度変化量が有意に増大した(p<0.001).両眼開放下の片眼刺激に加え,眼と手の協調運動により視覚野の一層の活性化を促すOcclu-PadRは,新たな弱視訓練法の一つとして応用できる可能性が示唆された.Amblyopiaisknowntocauseinterocularsuppressioninthevisualcortex.Itisthereforeimportanttopromotetheactivityofthevisualcortexwhileusingtheamblyopiceyeinordertocorrectit.Inthisstudy,weevaluatedvisualcortexactivitywhenusingtheOcclu-PadRamblyopiatreatmentdevicewithfunctionalnear-infraredspectroscopy(fNIRS)inthefollowing4experimentalgroups:1)botheyesopenandbotheyesstimulated,2)botheyesopenand1eyestimulated,3)1eyeopenand1eyestimulated,and4)botheyesopenand1eyestimulatedbytouch.Groups1and2didnotshowanystatisticallysignificantdifferences(p=0.86).TheHbO2changewassignificantlyhigherinthesubjectsinGroups1and2thanthoseinGroup3(p=0.035)(p=0.007).HbO2changewassignificantlyhigherinthesubjectsinGroup4thanthoseinGroup2(p<0.001).OurfindingssuggestthatOcclu-PadR,whichcanencouragevisualcortexactivity,isanovelandusefulnewamblyopia-trainingmethod.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(10):1503.1506,2015〕Keywords:弱視治療,Occlu-PadR,近赤外分光法.amblyopiatreatment,Occlu-PadR,functionalnear-infraredspectroscopy.はじめに弱視は視力低下をはじめ低コントラストの認知低下1),両眼視機能の低下2),視界の歪み3),時間・空間変化の認知低下4)などのさまざまな視機能の低下を生じる.現在,眼科臨床における小児の弱視治療法は完全屈折矯正下での遮閉法(健眼を眼帯などで遮閉)がおもに行われている5.11).しかしながら遮閉法は原理的に両眼視機能の発達を阻害し,また遮閉弱視をはじめとするさまざまな副作用を生じる危険性がある.近年,片眼遮閉をせずに両眼開放下で弱視訓練を行う新たな装置,Occlu-PadR(ジャパンフォーカス社)が開発された12).Occlu-PadRはタブレット端末の液晶モニタの偏光フィルムを.離し,偏光眼鏡を装用することにより,片眼に〔別刷請求先〕岩田遥:〒252-0373神奈川県相模原市南区北里1-15-1A2-5F北里大学大学院医療系研究科視覚情報科学Reprintrequests:YoIwata,C.O.Master’sProgramofMedicalScience,KitasatoUniversityGraduateSchool,1-15-1Kitasato,Minami-ku,Sagamihara,Kanagawa252-0373,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(131)1503 abc図1Occlu-PadR外観a:偏光眼鏡非装用,b:偏光眼鏡装用(弱視眼側),c:偏光眼鏡装用(健眼側).は通常の映像が提示され,他眼に映像は提示されない(真白い画面が提示)ようになっている.Occlu-PadRを用いた弱視治療法は,原理的に遮閉弱視の心配がなく,さらにはゲーム感覚で楽しみながら弱視治療ができる利点がある.弱視は後頭葉視覚野における眼間抑制が生じることが知られており13),それを矯正するために弱視眼を使用しながら視覚野の活性を促すことが重要である.そこで今回,実際の使用環境に近い状態で脳機能活動を測定することが可能である近赤外分光法(functionalnear-infraredspectroscopy:fNIRS)を用いて,両眼開放および片眼遮閉時の後頭葉視覚野の活性を他覚的に評価した.I対象対象は軽度屈折異常以外に眼科的疾患を有さない健常青年13名(20.5±1.5歳)である.完全屈折矯正下において全例遠方視力1.2以上の視力を有し,両眼視機能,色覚,調節機能は正常であることを確認した.被験者に対して本研究内容についての十分なインフォームド・コンセントの後,同意を得られたことを確認した.本検討は北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会(2013-202)の承認を受けている.II方法視覚刺激装置にはOcclu-PadRを用い,搭載されている弱視訓練プログラム(Catchgame:アリ)を使用した.この弱視訓練プログラムはモニタに表示される動的視標を手でタッチして捕まえる動作を繰り返すものである(図1).本装置はタブレット端末の液晶モニタの偏光フィルムを.離し,被験者は偏光眼鏡を装用することにより,片眼には映像が提示され,他眼に映像は提示されない.実験条件は両眼開放下で両眼ともに映像が見える条件(両眼開放下両眼刺激条件),両眼開放下で片眼のみに映像が見える条件(両眼開放下片眼刺激条件),片眼遮閉下で片眼のみに映像が見える条件(片眼遮閉下片眼刺激条件),両眼開放下で片眼のみに映像が見え,視標にタッチを行う条件(両眼開放下片眼刺激タッチあり条図2計測外観件)の4条件である.検査距離は50cmである.視覚刺激は前レスト(モニタ中央に十字視標を提示)15秒,タスク(動的視標を提示)30秒,後レスト(モニタ中央に十字視標を提示)15秒の計60秒間とした.これを3回連続繰り返し合計180秒間の視覚刺激を行った.脳機能計測装置には近赤外分光脳機能イメージング装置(LABNIRS,島津製作所)を用いた.測定外観を図2に示す.本検討における関心領域は後頭葉視覚野であるので,国際10-20法14)に準拠し,V1およびV3領野に相当する部位に32チャンネルを配置し,同時測定した.サンプリング間隔は0.036秒とした.視覚刺激を180秒間行った際の酸素化ヘモグロビン濃度変化量を測定した.180秒間測定した結果を60秒間に加算平均し,レストからタスクへの酸素化ヘモグロビン濃度変化量を解析した.統計解析にはScheffe検定を1504あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(132) 0.01abレストタスクレスト0.01酸素化ヘモグロビン濃度変化量酸素化ヘモグロビン濃度変化量(mMol-mm)(mMol-mm)酸素化ヘモグロビン濃度変化量酸素化ヘモグロビン濃度変化量(mMol-mm)レストタスクレスト0.0050-0.005-0.010153045600.01時間(秒)時間(秒)cdレストタスクレスト0.01レストタスクレスト0.0050-0.005-0.010.0050-0.005-0.010153045600.005(mMol-mm)0-0.005-0.01015304560015304560時間(秒)時間(秒)図3全条件下の酸素化ヘモグロビン濃度変化a:両眼開放下両眼刺激条件,b:両眼開放下片眼刺激条件,c:片眼遮閉下片眼刺激条件,d:両眼開放下片眼刺激タッチあり条件.用い,有意水準5%以下を有意差ありと評価した.0.0035**0.00300.00250.00200.00150.00100.00050酸素化ヘモグロビン濃度変化量(mMol-mm)***NS両眼開放下III結果図3に全条件下における酸素化ヘモグロビン濃度変化の全32チャンネルの平均値を示す.両眼開放下両眼刺激条件,両眼開放下片眼刺激条件はともにレストからタスクへの酸素化ヘモグロビン濃度の上昇を認めた.しかしながら,片眼遮閉下片眼刺激条件はレストからタスクへの酸素化ヘモグロビン濃度の明らかな上昇を認めなかった.また,両眼開放下片眼刺激タッチあり条件はレストからタスクへの酸素化ヘモグロビン濃度の顕著な上昇を認めた.全条件下のレストとタス両眼開放下片眼遮閉下両眼開放下両眼刺激条件片眼刺激条件片眼刺激条件片眼刺激クの平均値の差分のグラフを図4に示す.両眼開放下両眼刺激条件と両眼開放下片眼刺激条件との間には有意差を認めなかった(p=0.86).両眼開放下両眼刺激条件および両眼開放下片眼刺激条件は片眼遮閉下片眼刺激条件と比較して酸素化ヘモグロビン濃度変化量が有意に増大した(p=0.035)(p=0.007).両眼開放下片眼刺激タッチあり条件は両眼開放片眼刺激条件と比較して酸素化ヘモグロビン濃度変化量が有意に増大した(p<0.001).(133)タッチあり条件*:p<0.05**:p<0.001NS:nonsignificant図4全条件下の酸素化ヘモグロビン濃度変化量IV考按視覚情報入力は網膜から第一次視覚野まで半交叉にて行われる.片眼遮閉を行った場合,一眼の対側および同側入力のみとなるため,後頭葉視覚野の反応は半減することが解剖学あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151505 的に予想される.今回の結果において,両眼開放下両眼刺激条件は片眼遮閉下片眼刺激条件と比較して酸素化ヘモグロビン濃度変化量の有意な上昇を認めた.また,両眼開放下片眼刺激条件においても片眼遮閉下片眼刺激条件と比較して酸素化ヘモグロビン濃度変化量の有意な上昇を認めた.両眼開放下片眼刺激条件は片眼にはタブレットの映像は見えないが,それ以外の周辺部は両眼で見えている状態である.片眼のみにしか映像は見えていなくても周辺視野からの情報があれば片眼遮閉と比較してより視覚野の活性を得られると考えられる.弱視訓練には,視覚中枢における眼間抑制12)の除去を促すことのできる両眼開放下で片眼のみに視標を提示する方法は有効的であると考えられる.また,両眼開放下片眼刺激タッチあり条件は,両眼開放片眼刺激条件と比較して酸素化ヘモグロビン濃度変化量の有意な上昇を認めた.視標にタッチすることにより,眼と手の協調運動他感覚との連動が,視覚野の活性に効果的であったと推察される.今後,弱視患者を対象にさらなる検討を行う必要があるが,今回の検討において,視覚野の活動に注目すると,弱視訓練には両眼開放がより効果的である可能性が示唆された.これまで,弱視訓練にはおもに遮閉法が用いられていたが,これからは両眼開放下の弱視訓練について臨床的にも検討していく必要がある.さらに,今回使用したOcclu-PadRは両眼開放下の片眼刺激だけではなく,眼と手の協調運動をすることによって,より視覚野の活性を促すことを考えた弱視訓練装置であり,さらなる検討が必要であるが,Occlu-PadRは遮閉法や薬物療法に加えて,副作用のない新たな弱視訓練法の一つとして応用できる可能性が示唆された.文献1)HessRF,HowellER:Thethresholdcontrastsensitivityfunctioninstrabismicamblyopia:evidenceforatwotypeclassification.VisionRes17:1049-1055,19772)CooperJ,FeldmanJ:Random-dot-stereogramperformancebystrabismic,amblyopic,andocular-pathologypatientsinanoperant-discriminationtask.AmJOptomPhysiolOpt55:599-609,19783)BedellHD,FlomMC:Monocularspatialdistortioninstrabismicamblyopia.InvestOphthalmolVisSci20:263268,19814)SpangK,FahleM:Impairedtemporal,notjustspatial,resolutioninamblyopia.InvestOphthalmolVisSci50:5207-5212,20095)vonNoordenGK:Treatmentofamblyopiaandsurgicaloutcome.JPediatrOphthalmolStrabismus35:5-6,19986)PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroup:Arandomizedtrialofatropinevs.patchingfortreatmentofmoderateamblyopiainchildren.ArchOphthalmol120:268-278,20027)PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroup:Arandomizedtrialtoevaluate2hoursofdailypatchingforstrabismicandanisometropicamblyopiainchildren.Ophthalmology113:904-912,20068)PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroup:ArandomizedtrialcomparingBangerterfiltersandpatchingforthetreatmentofmoderateamblyopiainchildren.Ophthalmology117:998-1004,20109)MattaNS,SilbertDI:Part-timevs.full-timeocclusionforamblyopia:evidenceforpart-timepatching.AmOrthoptJ63:14-18,201310)SachdevaV,MittalV,KekunnayaRetal:Efficacyofsplithourspart-timepatchingversuscontinuoushourspart-timepatchingfortreatmentofanisometropicamblyopiainchildren:apilotstudy.BrJOphthalmol97:874878,201311)Foley-NolanA,McCannA,O’KeefeM:Atropinepenalisationversusocclusionastheprimarytreatmentforamblyopia.BrJOphthalmol81:54-57,199712)半田知也:日本発の次世代両眼視機能検査・訓練装置─3DVisualFunctionTrainer-ORTe─.眼臨紀8:332-337,201513)SengpielF,BlakemoreC:Theneuralbasisofsuppressionandamblyopiainstrabismus.Eye10:250-258,199614)JasperHH:Theten-twentyelectrodesystemoftheInternationalFederation.ElectroencephalographyClinNeurophysiol10:371-375,1958***1506あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(134)