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Purtscher様網膜症で血管新生緑内障を合併し手術に至った1例

2020年11月30日 月曜日

《原著》あたらしい眼科37(11):1449.1454,2020cPurtscher様網膜症で血管新生緑内障を合併し手術に至った1例西島崇敬田中克明武田義玄高木理那榛村真智子木下望髙野博子蕪城俊克梯彰弘自治医科大学附属さいたま医療センター眼科CACaseofPurtscher-likeRetinopathywithNeovascularGlaucomaLeadingtoSurgeryTakayukiNishijima,AkihiroTanaka,YoshiharuTakeda,RinaTakagi,MachikoShinmura,NozomiKinoshita,HirokoTakano,ToshikatsuKaburagiandAkihiroCKakehashiCDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversitySaitamaMedicalCenterC緒言:整形外科手術施行後の患者がCPurtscher様網膜症に血管新生緑内障を合併し,手術に至ったC1例を報告する.症例:74歳,男性.当院整形外科にて両側大腿骨頭壊死に対して両側人工股関節置換術を施行された.手術後C18日目に右眼の視力低下を訴え,当科を受診となった.初診時の矯正視力は右眼(0.02),左眼(1.2).両眼底に軟性白斑を認めた.病歴と所見より,Purtscher様網膜症と診断した.初診時よりC2日後に右眼眼圧上昇,隅角出血,蛍光造影検査時に前房内へのフルオレセイン漏出もみられ,血管新生緑内障と診断した.右内頸動脈の高度狭窄と右後頭葉梗塞が確認されたため,眼虚血が強く緊急性が高いと判断し,硝子体手術併用アーメド緑内障インプラントおよび術中に網膜光凝固を施行した.術後の眼圧は安定し,現在は矯正視力C0.3まで改善している.結論:Purtscher様網膜症からも虚血の程度によっては早期に血管新生緑内障に至る場合もあり,経過観察は慎重に行うべきと考える.CPurpose:ToreportacaseofapatientwithcombinedPurtscher-likeretinopathyandneovascularglaucoma(NVG)postorthopedicsurgery.Casereport:A74-year-oldmancomplainedofdecreasedcorrectedvisualacuity(VA)inhisrighteye18-daysafterbilateralhip-replacementsurgery.Inhisrightandlefteye,theVAwas0.02and1.2,respectively,andfundusexaminationrevealedsoftexudates.At2-dayspostinitialpresentation,increasedintraocularpressure(IOP)andC.uoresceinCleakageCintoCtheCanteriorCchamberCwereCobserved,CandCheCwasCdiag-nosedCwithCNVG.CSevereCstenosisCofCtheCrightCinternalCcarotidCarteryCandCrightCoccipitalClobeCinfarctionCwereCcon.rmed.COcularCischemiaCwasCjudgedCtoCbeCstrongCandCofCurgentCconcern,CthusCresultingCinCAhmedCglaucomaCvalveimplantationcombinedwithvitreoussurgerybeingimmediatelyperformed.Postsurgery,theIOPwasstableandCtheCright-eyeCcorrectedCVACimprovingCtoC0.3.CConclusion:EvenCinCPurtscher-likeCretinopathyCcases,CNVGCmaydevelopearlydependingonthedegreeofischemia.Thus,strictfollow-upisrequired.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C37(11):1449.1454,C2020〕Keywords:Purtscher様網膜症,Purtscher網膜症,血管新生緑内障,アーメド緑内障インプラント.Purtscher-likeretinopathy,Purtscher’sretinopathy,neovascularglaucoma,Ahmedglaucomavalveimplantation.CはじめにPurtscher網膜症およびCPurtscher様網膜症は網膜血管閉塞性疾患である1).Purtscher網膜症が外傷に起因する網膜血管閉塞性疾患であるのに対し,Purtscher様網膜症は全身疾患や手術手技などに起因して発症する網膜血管閉塞性疾患である2).Purtscher網膜症はC1910年にCPurtsherが頭部打撲の患者で報告したものが最初であり,典型的な所見は両眼の眼底に多発する綿花状軟性白斑と網膜内出血である3).今回,筆者らは人工股関節置換術後の患者がCPurtscher様網膜症を発症し,内頸動脈狭窄を合併して血管新生緑内障を発症したため手術に至ったC1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕西島崇敬:〒330-0834埼玉県さいたま市大宮区天沼町C1-847自治医科大学附属さいたま医療センター眼科Reprintrequests:TakayukiNishijima,DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversitySaitamaMedicalCenter,1-847CAmanumacho,Oomiyaku,Saitama-shi,Saitama330-0834,JAPANCab図1両眼の眼底写真a:初診時.両側で綿花様白斑(Purtscher.ecken)の散在がみられた.Cb:術後.両側で綿花様白斑は軽快がみられた.I症例患者:74歳,男性.初診日:2017年C8月8日.主訴:右眼の視力低下.既往歴:虫垂炎,高血圧,高脂血症,再生不良性貧血,両眼内レンズ挿入眼.現病歴:自治医科大学附属さいたま医療センター(以下,当院)の整形外科にて大腿骨頭壊死に対して両側人工股関節置換術を施行された.手術施行後C18日目,右眼の視力低下を訴えて当院眼科(以下,当科)を受診となった.初診時所見:視力は右眼C0.01(0.02),左眼C1.2(1.2).眼圧は右眼C23CmmHg,左眼C14CmmHgであった.前房は保たれており,炎症細胞を認めず,角膜は混濁や浮腫なく,その他の前眼部所見にとくに異常は認められなかった.両眼の眼底所見としては,多発する軟性白斑を認めた(図1a).Gold-mann視野計による視野検査では,右眼の中心暗点,両眼の左下C1/4盲がみられた(図2a).視野所見から脳梗塞の合併を疑い,初診日の翌日に頭部CMRI/頸部CMRAを施行した.精査の結果,右後頭葉に脳梗塞所見を認めた.また,右内頸動脈に高度狭窄を認めた(図3).以上の病歴と所見より,Purtscher様網膜症の診断に至った.経過:初診時よりC2日後に右眼の眼圧上昇(36CmmHg),隅角出血を認めた.フルオレセイン蛍光造影検査では右眼に著明な造影剤の灌流遅延を認めた(図4).角膜混濁のため隅角,虹彩に新生血管は確認できなかったが,不鮮明ではあるが,前房内へのフルオレセインの漏出がみられ,血管新生緑内障と診断した.まずは網膜光凝固も考慮したが,角膜浮腫が強く施行を断念した.同日,アスピリンC100Cmg内服,降圧薬点眼(ラタノプロスト,ブリモニジン酒石酸塩,リパスジル塩酸塩水和物,ドルゾラミド塩酸塩,チモロールマレイン酸塩),アセタゾラミドC1,000Cmg内服,D-マンニトール点滴を開始し,網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮の合併も疑い抗血管内皮増殖因子薬(アフリベルセプト)硝子体注射を施行した.初診後C7日目にはいったんは眼圧C6CmmHgまで改善がみられた.しかし,右内頸動脈の高度狭窄と右後頭葉梗塞も認めており,眼虚血が強く,急性発症で予後不良症例と判断し,初診後C8日目に硝子体手術併用アーメド緑内障インプ図2両側の動的視野検査a:初診時.右眼の中心暗点,両眼の左下C1/4盲あり.Cb:術後.中心暗点の残存を認めるものの,左下C1/4盲はやや改善がみられた.ラントおよび術中に網膜光凝固を施行した.アーメド緑内障インプラントは,前房留置用を硝子体扁平部よりチューブを硝子体腔に留置した(院内臨床倫理委員会承認済).初診後16日目にアスピリンC100Cmg,クロピドグレル硫酸塩C75Cmgに内服変更し,初診後C21日目に当院脳神経外科にて内頸動脈狭窄に対して頸動脈ステント留置術が施行された(図5).術後はおおむね眼圧C15CmmHg程度で安定して経過し,現在は眼底の白斑は改善しており(図1b),矯正視力C0.3まで改善が得られている.視野は中心暗点の残存を認めるものの,左下C1/4盲はやや改善を認めた(図2b).CII考按Purtscher網膜症はC1910年にCOtmarPurtscherにより,樹から落下した頭部外傷の症例で報告された網膜の血管閉塞性疾患である1).手術手技,全身疾患,急性膵炎,腎不全,結合組織病などの外傷以外が原因のものはCPurtscher様網膜症とされている2).原因は多岐に及び,重量挙げ4)や落雷5)などによる発症も報告されている.多くが両眼性で,視力障害は外傷や関連する疾患から数時間から数日遅れて発症し,中心暗点,傍中心暗点,弓状暗点などの視野障害もみられる.眼底所見としては網膜綿花様白斑,火炎状シミ状出血の所見がみられ,蛍光造影検査では網膜細動脈レベルでの閉塞による灌流遅延,後期相での遅延漏出,視神経からの漏出がみられることもある.以上の臨床所見と蛍光造影検査所見から診断に至る.今回の症例は,整形外科的手術後に視力低下を主訴に発症した症例であり,両眼の網膜に綿花様白斑を認め,蛍光造影検査では灌流遅延を認めていた.また視野検査結果より右後頭葉に脳硬塞を認め,右内頸動脈狭窄も認めていたことから,本症例では,もともと内頸動脈狭窄狭窄に伴う眼虚血の状態が起きており,手術に伴うCPurtscher様網膜症が関与して右眼の血管新生緑内障が急激に進んだと考える.治療としては,本来は予後良好のため多くは経過観察,もしくはステロイド投与で視機能の改善が報告されている6)が,エビデンスのある治療法はいまだに確立されていない.大部分の患者で治療なしでC1.3カ月で外傷前レベルに戻る視覚機能の緩徐な経過をたどることが多く,予後は比較的良好な疾患とされている2,6).本症例では硝子体注射を施行して一時的に高眼圧状態の解除はできたものの,高眼圧に伴う角膜の浮腫が強いために網膜光凝固がむずかしく,また,内図3頭部MRI,頸部MRA右後頭葉に脳梗塞所見,右内頸動脈に高度狭窄を認めた.図4両眼のフルオレセイン蛍光造影検査右眼に造影剤の著明な灌流遅延を認めた.頸動脈狭窄症を合併しているため眼虚血症状のさらなる増悪ると考えられる.の可能性も考えられたため,手術を行った.眼虚血が軽度の本疾患の明確な病態はいまだ解明されていないが,虚血再場合であれば経過観察で対処が可能な症例が多いとされてい灌流障害による毛細血管レベルの障害が両眼に起こったものるが,本症例のように新生血管緑内障を合併するような高度と考える.本症例は以前に筆者らが報告した急性心筋梗塞にな虚血を認める場合は,手術による積極的な加療も適応とな対する経皮的冠動脈形成術後の網膜症8)に酷似した所見,臨術前術後図5右内頸動脈造影検査右内頸動脈狭窄に対して頸動脈ステント留置術が施行され,内頸動脈の狭窄の改善認めた.床経過である.経皮的冠動脈形成術後による虚血再灌流障害が起こり,その結果として白血球が活性化され毛細血管レベルでのCretinalleukostasisが惹起され,眼底に出血や軟性白斑が認められたと推察している.本症例では,慢性的内頸動脈狭窄が手術を契機に一過性の内頸動脈の完全閉塞を惹起し,その結果として虚血再灌流障害が発生し経皮的冠動脈形成術後の網膜症とほぼ同様な病態で発症したものと推測される.とくに右眼は右内頸動脈閉塞に伴う網膜虚血そのものも関与したため,血管新生緑内障までに至ったものと思われる.本症例のように血管新生緑内障にはバルベルト緑内障インプラントやアーメド緑内障バルブインプラント挿入も適応となる9).今回はアーメド緑内障バルブ挿入術を施行した.アーメド緑内障バルブは調圧弁をもつドレナージ装置であり,シリコーン製のチューブと内圧C8.12CmmHgで開く調圧弁をもつプレートから構成されている.チューブを眼内に差し込み,流出する房水をプレート部分でその周囲に形成される結合組織の被膜を通して周囲組織に吸収させることで眼圧を下げる構造となっている.アーメド緑内障バルブはこのような構造により術直後の低眼圧が起こりにくいという特徴をもち,当科では重症緑内障患者に対して良好な手術成績を残している10,11).過去の論文検索において,Purtscher網膜症またはCPurtscher様網膜症で血管新生緑内障を合併した症例は筆者らの知る限りではC2例のみである12,13)が,本症例のように手術に至った症例報告はない.そのC2例では狭心症,糖尿病,急性腎不全などの基礎疾患歴や合併疾患あるが,2例のいずれの症例においても眼症状が出現してからC1カ月以降に血管新生緑内障を認めている.一方,本症例では,もともとの内頸動脈による重度の眼虚血があり,手術後のCPurtscher様網膜症が契機となって急激に新生血管緑内障が引き起こされたと考える.Purtscher様網膜症は予後良好な疾患とされているが,虚血の程度によっては早期に血管新生緑内障に至る場合もあり,経過観察は慎重に行うべきであると考える.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)PurtscherO:NochCunbekannteCBefundeCnachCSchadel-trauma.BerDeutschOphthalmolGesC36:94-301,C19102)AgrawalCA,CMcKibbinMA:PurtscherC’sCandCPurtscher-likeretinopathies:aCreview.CSurvCOphthalmolC51:129-136,C20063)ProencaCPinaCJ,CSsi-Yan-KaiCK,CdeCMonchyCICetal:Purtscher-likeretinopathy:casereportandreviewoftheliterature.JFrOphtalmolC31:609,C20084)KocakN,KaynakS,KaynakTetal:UnilateralPurtscher-likeCretinopathyCafterCweight-lifting.CEurCJCOphthalmolC13:395-397,C20035)SharmaA,ReddyYCVG,ShettyAPetal:ElectricshockinducedPutsches-likeretinopathy.IndianOphthalmolC7:C1497-1500,C20196)AtabayCC,CKansuCT,CNurluCGCetal:LateCvisualCrecoveryCafterintravenousmethylprednisolonetreatmentofPurtscher’sretinopathy.AnnOphthalmolC25:330-333,C19937)MiguelCAIM,CHenriquesCF,CAzevodoCLERCetal:SystemicreviewCofpurtscher-likeCretinopathyies.CEye(Lond)C27:C1-13,C20138)KinoshitaCN,CKakehashiCA,CYasuCTCetal:ACnewCformCofCretinopathyCassociatedCwithCmyocardialCinfarctionCtreatedCwithpercutaneouscoronaryintervention.BrJOphthalmolC88:494-496,C20049)SudaM,NakanishiH,AkagiTetal:BaerveldtorAhmedglaucomaCvalveCimplantationCwithCparsCplanaCtubeCinser-tioninJapaneseeyeswithneovascularglaucoma:1-yearoutcome.ClinOphthalmolC12:2439-2449,C201810)上原志保,小林未奈,髙木理那ほか:増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対する毛様体扁平部バルベルト緑内障インプラントの初期成績.あたらしい眼科C33:291-294,C201611)髙木理那,小林未奈,田中克明ほか:重症緑内障に対するアーメド緑内障バルブインプラント術の初期成績.あたらしい眼科35:116-119,C201812)KurodaCM,CNishidaCA,CKikuchiCMCetal:PurtscherC’sCreti-nopathyfollowedbyneovascularglaucoma.ClinOphthal-molC7:2235-2237,C201313)SanchezCVicenteCJL,CCastillaCMartinoCM,CContrerasCDiazCMetal:Purtscher-likeretinopathyprecedingacuterenalfailure.ArchSocEspOftalmolC93:198-201,C2018***