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多焦点ソフトコンタクトレンズ-従来型かEDOFデザインか

2020年11月30日 月曜日

多焦点ソフトコンタクトレンズ─従来型かEDOFデザインかProgressive-AdditionLensesversusAnnualarRingsDesignEDOFLenses二宮さゆり*はじめに日本のコンタクトレンズ(contactlens:CL)装用人口は,1991年に初めて使い捨てソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)が販売されたことを機に約1,000万人から2,000万人以上へ1),CL市場規模も約300億円から2,500億円以上へと世界第2位へ急成長した(日本コンタクトレンズ協会調べ).その間に,当然ながらCL装用者の老視化も進んだはずだが,わが国での老視用CL処方の割合は10%に満たないまま推移してきた.先進国における老視者への多焦点ソフトコンタクトレンズ(multifocalSCL:MF-SCL)処方割合は25%(2005年)から40%(2019年)に増加しているので,日本は明らかに世界に出遅れた状態にあった2).しかし,やっと最近になってMF-SCLの処方が増加に転じ始めている.増加の背景には,MF-SCLの光学的デザインや素材の発達,1日使い捨てタイプを好む日本人の国民性に合う製品が増えたことなどが考えられる.IそもそもEDOFとはExtendeddepthof.eld(EDOF)は「拡張された焦点深度」を意味し,簡単にいうなら「ピントが合っていると感じる範囲が広がっている」ということである.本稿では,MF-SCLの主流である累進屈折タイプを念頭においた従来型MF-SCLと,新しく登場したEDOFデザインの「シード1dayPureEDOF」を比較することを目的としているが,最初に明確にしておきたいのは,従来型MF-SCLの主流である累進屈折SCLも焦点深度を拡張する光学特性をもっており,“EDOF”タイプなのだということである.しかし,新しく登場した「シード1dayPureEDOF」は,焦点深度を拡張させるためのレンズ設計が従来からある累進屈折SCLとはまったく異なる.II従来型MF.SCL1.累進屈折SCL従来型MF-SCLの大半は累進屈折SCLで,近見をサポートすることを主目的にしているため,ほとんどの製品において中心近用となっている.図1に示すように,単焦点SCLでは空間周波数特性(modulationtransferfunction:MTF)曲線のピークが高く,焦点が合っている距離では見え方がきわめてシャープであることを示している(MTFが高いほど,見え方の質がよい).焦点が少しずれると急激に見え方は悪くなるのだが,若年者の場合は調節力が十分あるため,このシャープな見え方を自在に近方まで引っ張り,すべての距離をクリアに見ることができている.高加入の累進屈折SCLを遠見に完全矯正した場合を想定したMTF曲線を図2に示す.ピークが下がる代わりに一峰性の山の裾幅はやや広がっていることがわかる.ピークの低下は見え方の質の全体的な低下を示し,山の裾幅の広がりは焦点深度の拡張を示している.MTFは瞳孔径に大きく影響を受けるので,加齢による縮瞳は有利に働き,実際のMTFは少し引き*SayuriNinomiya:伊丹中央眼科〔別刷請求先〕二宮さゆり:〒664-0851兵庫県伊丹市中央1-5-1伊丹中央眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(19)13511.0見えると感じる閾値→遠方調節力近方見える範囲0+1.00+2.00+3.00defocus(D)遠方近方図1単焦点SCLを装用した若者の見え方(調節力を3.0D以上とした場合)若者の場合,単焦点SCLを装用していても,自分の十分な調節力を使って遠方から近方までシャープに見ることができる.1.0MTFA)クッキリ見たい人(閾値が高い)→B)見えたらハッピーな人(閾値が低い)→調節力見える範囲見える範囲0+1.00+2.00+3.00defocus(D)遠方近方図2高加入累進屈折SCLを装用した老視者の見え方(残存調節力を1.0Dとした場合)調節力が乏しい老視者が高加入の累進屈折SCLを装用している場合,縮瞳に助けられてもMTFのピークは単焦点SCLに劣るため,完全矯正をしないと遠見の見え方に満足を得ることができない.また,見えると感じる閾値によって満足度は大きく左右される.近用部移行部遠用部瞳孔径に合わせて度数配分を変えている年齢による瞳孔径の変化図3瞳孔径の変化に対応した光学部デザイン高加入タイプの累進屈折SCLは,それが必要な老視者の瞳孔径が小さくなっていることを考慮した度数配分となっている.度数分布鼻側耳側を示すマーク遠移行部遠図4「2WEEKメニコンプレミオ遠近両用」(高加入タイプ)の度数分布近見時には鼻側にシフトしつつ縮瞳するという瞳孔の近見反応を利用した設計になっている.1.0見えると感じる閾値→MTF0+1.00+2.00+3.00defocus(D)遠方近方図5二重焦点MF.SCLを装用した老視者の見え方(残存調節力を1.0Dとした場合)MTFは遠方と近方に二峰性のピークをもつため,累進屈折CSCLに比べると近見に有利である.中間の見え方に対する連続性が気になる場合もある.ワンデーアキュビューモイスト・マルチフォーカル(中心近用)バイオフェニティ・マルチフォーカル(中心遠用)0.00-1.00AbsolutePower(D)-1.00-2.00-3.00-4.000.00-1.00-2.00-3.00-5.000123-4.000123Semi-Diameter(mm)Semi-Diameter(mm)図6累進屈折SCLといえども度数分布はさまざま(表示度数-3.00Dの場合)累進屈折CSCLにも中央の近見部分から遠方部分への移行部がなだらかなタイプもあれば,急峻なタイプもある.加入度数は,ワンデーアキュビューモイスト・マルチフォーカル:→Low+0.75D.+1.25D/Mid+1.50D.+1.75D/High+2.00D.+2.50Dバイオフィニティ・マルチフォーカル:→Low:+1.00D/Mid:+2.00D/Hi:+2.50D(文献C3より改変引用)累進屈折SCL(中心近用)AirOptixAquaLowMidHighAnnualarRingsDesignEDOF加入度:+0.75D相当加入度:+1.50D相当加入度:+2.25D相当図7累進屈折SCL(中心近用)とAnnualarRingsDesignEDOFの度数配置加入度数が上がるに従い,累進屈折CSCLでは徐々に中央の近見度数が変化している.AnnualarCRingsCDesignEDOFでは,年輪状に遠用度数から近用度数までさまざまな度数が同心円状に繰り返し配列されており,そのパターンもタイプごとに異なっている.(文献C4より改変引用)-4-3-2-101234(mm)レンズ中心からの距離図8Mark'ennovy社のEDOFSCLのpowerpro.leイメージ「MYLOforControl」(グラフの左側)は中央に遠用割合が多く,若年者に対し近視抑制治療用CCLとして処方されている.老視向けの「EDOFforPresbyopia」(グラフの右側)の中央に近用割合が多いという点は,中心近用の累進屈折CSCLに似た傾向といえる.(Mark’ennovy社公開資料より改変引用)累進屈折SCL遠用度数中間用度数近用度数図9中心ズレに対する違い中心ズレが生じても,AnnualarRingsDesignEDOFは瞳孔領内の度数割合への影響を受けにくい.(シード社のCHPより改変引用)累進屈折SCL(中心近用)見えると感じる閾値→High0+1.00+2.00defocus(D)AirOptixAqua遠方近方AnnualarRingsDesignEDOF0瞳孔径3.00mmHigh見えると感じる閾値→瞳孔径5.00mmLog(RetinalImageQuality)-1-2-3-4-50+1.00+2.00defocus(D)遠方近方図10累進屈折SCLとAnnualarRingsDesignEDOFのTFRIQ比較一峰性を示す累進屈折CSCLに対し,AnnualarRingsDesignEDOFは台形のCTFRIQ曲線を示し,どの距離においても一定の見え方を保つ光学設計になっている.(文献C4より改変引用)図11各種MF.SCLの分類イメージ累進屈折CSCLの中にも二重焦点CSCLに似た特徴をもつ製品もあるなど,明確に区別しにくい場合がある.

遠近両用ソフトコンタクトレンズ-中心近用レンズか中心遠用レンズか

2020年11月30日 月曜日

遠近両用ソフトコンタクトレンズ─中心近用レンズか中心遠用レンズかMultifocalSoftContactLenses─ShouldIChooseaCenter,NearoraCenter-FarLens?塩谷浩*はじめに遠近両用ソフトコンタクトレンズ〔=多焦点ソフトコンタクトレンズ(multifocalsoftcontactlens:MF-SCL)〕は,近方視時の調節補助のため球面度数に近方視用のプラス球面度数が加入されたソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)で,一般的には老視矯正に使用される.MF-SCLは,その特性により処方は単焦点SCLの処方ほど容易ではない.たとえばあるレンズメーカーの製品を選択し,その製品処方マニュアル通りに他覚的に適当と考えられる遠用度数と加入度数を単純に設定したとしても,患者の自覚的な満足が得られないことも多い.MF-SCLは光学部の機能,形状,焦点の特徴から表1のように分類されているが,同じ分類に入る製品でも光学的な特性は異なっており,見え方に違いがあることが多く,また使用する患者によっても見え方は一様ではない1).そこでMF-SCLを使用する患者の満足度を高めるため,すなわち処方を成功させるためには,各製品の特徴を十分に理解したうえで,それぞれの患者に合った光学部デザインの製品を選択する必要がある.光学部の特徴,そのなかでも光学部の構造からのレンズ選択を考えるとき,中心近用レンズか,中心遠用レンズか,どちらのレンズを選択すべきなのかという質問がとくにMF-SCLの処方経験の少ない眼科医からは最初に出てくることは容易に想像できる.その答えにたどり着く前にMF-SCLの特徴と適応について述べ,筆者の表1MF.SCLの分類機能焦点形状中心光学部種類交代視二重焦点セグメント型遠用HCL同心円型同心円型遠用SCL二重焦点近用回折型近用同時視累進屈折力非球面型遠用HCLSCL近用SCL拡張焦点深度同心円型遠用SCL近用HCL:ハードコンタクトレンズ,SCL:ソフトコンタクトレンズ.MF-SCL選択の考え方から,どうレンズを選択すべきなのか解説する.I遠近両用SCLの特徴MF-SCLは,光学部の機能はすべて同時視型であり,焦点の構造から二重焦点型と累進屈折力型,さらに最近登場した拡張焦点深度型に分けられる.光学部の形状からは同心円型,非球面型,回折型(現在は製品として販売されていない)に分けられる(表1).また,中心光学部の配置から,レンズの中心が遠用で同心円状に囲む周辺が近用の中心遠用レンズ(図1)と,レンズの中心が近用で同心円状に囲む周辺が遠用の中心近用レンズ(図*HiroshiShioya:しおや眼科〔別刷請求先〕塩谷浩:〒960-8034福島市置賜町5-26しおや眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(11)1343レンズ中央の遠用部を通った光が結像する遠方視時図1MF.SCLの見え方(中心遠用レンズ)レンズ周辺の遠用部を通った光が結像する遠方視時図2MF.SCLの見え方(中心近用レンズ)II遠近両用SCLの適応MF-SCLの適応は,SCLの使用動機が強くあり,SCLをとくに問題なく装用できることが条件で,一般的には調節力がある程度残っている40.50歳台までの老視の患者である.老視が出現していると考えられる年齢のSCL装用者すべてが必ずしも適応になるわけではなく,使用中の矯正方法や視力補正用具(眼鏡,SCLあるいは裸眼)での近方視に不満があったり不自由を感じていたりする患者が適応になる.さらに視力の必要度や要求度が低い場合であることが条件になる.たとえば自動車の運転を職業としている場合や,細かい近方のものを見る作業を職業としている場合,MF-SCLの見え方に過大な期待を抱いているような場合は,適応かどうか慎重に検討する必要がある2).また,球面SCLの使用経験のある患者であっても角膜頂点間距離補正後の全乱視が1.00Dを超える場合は,残余乱視の影響で球面レンズでは遠方,近方とも視力補正効果が不十分となることが多く,一般的なMF-SCLの適応にならない.このような場合は円柱レンズによる乱視矯正が可能なトーリックMF-SCLの適応とするか,あるいは球面SCLだけで対応する必要がある場合には,通常は優位眼に単焦点レンズであるトーリックSCLを使用し,非優位眼にMF-SCLを使用するモディファイド・モノビジョン法での処方になる.そのためには,処方がスムーズにできるように優位眼を確認しておく必要がある.MF-SCLの処方では,1日交換SCLや頻回交換SCLのようにテスト装用することができるレンズでは,トライアルレンズが実際の処方レンズと同じ見え方(トライアルレンズと処方レンズと同じ規格)になる可能性があるので,患者がテスト装用時に単焦点SCLの見え方との違いに不安感が少なくなるように,装用前にMF-SCLの見え方の特徴(眼鏡や単焦点SCLとの違い,視線の移動,見え方の仕組み,見え方の質)を説明し,MF-SCLに対する理解を得ておくようにすることも処方を成功させるために重要である.さらにMF-SCLの処方では通常は両眼ともに同等の見え方になるように設定することを基本とするが,ケースによっては両眼視機能が維持できる範囲で,遠方視に対して優位眼と非優位眼の度数を調整し,モディファイド・モノビジョン設定にすることがある.トライアルレンズを装用させる前に優位眼の確認をしておくことを忘れないようしなければならない.MF-SCLの適応と考えられた場合には,患者が見やすくしたいと希望している近方の距離,日常生活時に快適と感じている近業の距離を確認する.可能であれば,患者が現在使用している視力補正用具の度数を確認し,過矯正あるいは極端な低矯正ではない場合には,その設定度数での遠方および近方の見え方を把握する.近方視に不満や不自由がある場合には,その程度を確認する.そして患者がMF-SCL使用する場合に重視したいのが遠方の見え方なのか,近方の見え方なのか,遠近のバランスのとれた見え方なのかを処方レンズを選択する前に知っておく.III遠近両用SCLの選択方法1.CLの使用経験からのレンズの種類の選択MF-SCLの選択ではコンタクトレンズ(contactlens:CL)の使用経験を考慮して,まずレンズの種類を選択する(図3).基本的にはハードCL(hardcontactlens:HCL)の使用経験者にはMF-HCLを選択し,SCLの使用経験者にはMF-SCLを選択するが,MF-HCLを選択することになってもフィッティング検査でセンタリングが不良であった場合にはMF-SCLに変更する.CLの使用未経験者には特殊な場合を除き,CLの使用が初めてでも扱いやすく,装用感がよくて慣れるのが早く,また1日交換MF-SCLや頻回交換MF-SCLであればテスト装用ができるため,MF-SCLを選択する.2.遠方視・近方視の重視度からのレンズのタイプの選択レンズの種類がMF-SCLに決まったら,次に各レンズメーカーの中からレンズのタイプあるいは製品を選択する(図3).前述の通り,MF-SCLは光学部の特徴から同じ分類に入りデザインが似ている製品でも,光学的な特性は異なっている.どのレンズもメーカーの製品概(13)あたらしい眼科Vol.37,No.11,20201345CLの使用経験レンズの種類(HCL/SCL)を選択遠方視・近方視の重視度レンズのタイプ(デザイン/メーカー)を選択CLのフィッティング検査処方レンズのタイプを決定~見え方,装用感,ハンドリングレンズ規格を決定し,処方図3MF.SCLの選択遠方の景色道路標識テレビパソコン携帯電話良好不良良好不良良好不良遠方視遠方視遠方視図4MF.SCLの見え方からの分類近方視近方視近方視良好不良良好不良良好不良表2頻回交換MF.SCLの代表的製品製品名エアオプティクスプラスハイドラグライドマルチフォーカルバイオフィニティマルチフォーカル2weekPureマルチステージメダリストフレッシュフィットコンフォートモイスト遠近両用メダリストマルチフォーカル2WEEKメニコンプレミオ遠近両用2WEEKメニコンプレミオ遠近両用トーリックメーカーアルコンクーパービジョンシードボシュロムボシュロムメニコンメニコン中心光学部近用遠用遠用近用近用近用近用ベースカーブ8.68.68.68.68.7/9.08.68.6(mm)サイズ(mm)14.214.014.214.014.014.214.2中心厚(mm)0.080.100.090.070.100.080.08±0.00..10.00球面度数(D)+5.00..10.00+6.00..10.00+5.00..10.00+5.00..10.00+5.00..7.00+5.00..13.00円柱度数.0.75/.1.25円柱軸180°,90°加入度数(D)LO/MED/HI+1.00/+1.50+2.00/+2.50+0.75/+1.50Low/HighLow/High+1.00/+2.00+1.00素材シリコーンハイドロゲルシリコーンハイドロゲルハイドロゲルシリコーンハイドロゲルハイドロゲルシリコーンハイドロゲルシリコーンハイドロゲル含水率(%)33.048.058.036.038.640.040.0FDA分類グループIグループIグループIVグループIIIグループIグループIグループIDk/t※137.5128.033.3130.09.5161.0161.0※単位:×10.9(cm/sec)・(mLO2/mL×mmHg)(.3.00Dの場合)表31日交換MF.SCLの代表的製品製品名デイリーズトータルワン遠近両用デイリーズアクアコンフォートプラスマルチフォーカルプロクリアワンデーマルチフォーカル1dayPureマルチステージ1dayPureEDOFワンデーアキュビューモイストマルチフォーカルバイオトゥルーワンデーマルチフォーカル1DAYメニコンマルチフォーカルメーカーアルコンアルコンクーパービジョンシードシードジョンソン・エンド・ジョンソンボシュロムメニコン中心光学部近用近用近用遠用遠用/近用近用近用近用ベースカーブ8.58.78.78.88.48.48.68.7(mm)サイズ(mm)14.114.014.214.214.214.314.214.2中心厚(mm)0.090.100.090.070.070.080.100.09球面度数+5.00.+5.00.+5.00.+5.00.+5.00.+5.00.+5.00.+5.00.(D).10.00.10.00.10.00.10.00.12.00.9.00.9.00.10.00加入度数(D)LO/MED/HILO/MED/HI+1.50+0.75/+1.50Low/Middle/HighLow/Mid/HighLow/High+1.50素材シリコーンハイドロゲルハイドロゲルハイドロゲルハイドロゲルハイドロゲルハイドロゲルハイドロゲルハイドロゲル含水率(%)33.069.060.058.058.058.078.060.0FDA分類グループIグループIIグループIIグループIVグループIVグループIVグループIIグループIIDk/t※156.026.022.842.942.933.342.022.8※単位:×10-9(cm/sec)・(mLO2/mL×mmHg)(.3.00Dの場合)表4超低加入度数MF.SCLの代表的製品使用期間分類1日交換頻回交換製品名プライムワンデースマートフォーカス1dayPureうるおいプラスFlexバイオフィニティアクティブ2WEEKメニコンデュオメーカーアイレシードクーパービジョンメニコン中心光学部近用遠用近用遠用ベースカーブ(mm)8.88.88.68.6サイズ(mm)14.214.214.014.5中心厚(mm)0.070.070.080.11球面度数(D)+1.00..9.00+5.00..12.00+5.00..10.00.0.25..10.00加入度数(D)+0.50+0.50+0.25+0.50素材ハイドロゲルハイドロゲルシリコーンハイドロゲルハイドロゲル含水率(%)58.058.048.072.0FDA分類グループIVグループIVグループIグループIIDk/t※40.042.9160.030.9※単位:×10.9(cm/sec)・(mLO2/mL×mmHg)(.3.00Dの場合)アキュビューモイストマルチフォーカル」,ボシュロム社の「バイオトゥルーワンデーマルチフォーカル」があげられる.アルコン社の3種類のレンズは光学部の構造は同じで,レンズ全体のデザインと素材が異なっていても見え方は同等と考えられる.遠方重視タイプとしては頻回交換MF-SCLではボシュロム社の「メダリストマルチフォーカル」,クーパービジョン社の「バイオフィニティマルチフォーカル」があげられる.特殊レンズとして乱視矯正もするメニコン社の「2WEEKメニコンプレミオ遠近両用トーリック」があげられる.ボシュロム社の「メダリストマルチフォーカル」は同社の「メダリストフレッシュフィットコンフォートモイスト遠近両用」と光学部の構造は同じであるものの,レンズ全体のデザインと素材が異なっているために見え方が異なっていると考えられる.また,頻回交換MF-SCLの中の超低加入度数MF-SCL(老視を適応とした一般的なMF-SCLより低い加入度数で老視前年齢を適応とした,おもに眼精疲労対策として使用されるMF-SCLを,ここでは超低加入度数MF-SCLとして区別する)(表4)では,当然ながら加入度数が低いために加入度数の遠方視への影響が少なく遠方は見やすくなり,クーパービジョン社の「バイオフィニティアクティブ」,メニコン社の「2WEEKメニコンDuo」は,とくに遠方の見やすい遠方重視タイプとしてあげられる.1日交換MF-SCLではクーパービジョン社の「プロクリアワンデーマルチフォーカル」,拡張焦点深度型のシード社の「1dayPureEDOF」,メニコン社の「1DAYメニコンマルチフォーカル」があげられる.1日交換MF-SCLの中の超低加入度数MF-SCLではアイレ社の「プライムワンデースマートフォーカス」,シード社の「1dayPureうるおいプラスFlex」があげられる.この2種類の製品は同じ超低加入度数MF-SCLであるが,前者は中心近用レンズで,より遠方が見やすい遠方重視タイプで,後者は中心遠用レンズで,やや近方が見やすい遠方重視タイプである.両レンズとも本来は老視前年齢の眼精疲労対策に用いられるが,一般的なMF-SCLでは遠方の見え方に不満が強くMF-SCLの適応とならないような老視患者において,遠方の見え方を損なわずに近方の見え方に満足を得ることができること(17)もあり,MF-SCL処方の最後の砦として可能性を秘めた有用な製品である.とくに前者は,筆者の処方経験では遠方視力補正効果が良好で自覚的な満足度も高く,これまでほかのMF-SCLの処方がうまくいかなかった老視患者に試してみてもらいたい製品である.近方重視タイプとしては頻回交換MF-SCLではシード社の「2weekPureマルチステージ」,1日交換MF-SCLではシード社の「1dayPureマルチステージ」があげられる.両レンズの光学部の構造と素材は同じであるが,レンズの中心厚さなどのレンズ全体のデザインが微妙に異なっているために,遠方の見え方には変わりはないものの,近方の見え方では1dayPureマルチステージがやや見やすく感じる患者が多い製品である.おわりに以上は筆者の処方経験からの私見であることをご理解いただいて,本稿をMF-SCL選択の参考にしてほしい.MF-SCLの処方はメーカーの処方マニュアルに従っても必ずしも患者の満足が得られるとは限らないため,一人一人の患者に応じた度数設定のアレンジが必要になる.したがって当然,製品の評価や選択の基準が処方する眼科医によって異なってくる.読者の皆様も処方経験を積んで,自分なりに各レンズ製品の機能を評価してみると,今後の自分流のレンズ選択の役に立つのではないかと思う.文献1)渡邉潔,稲葉昌丸,佐渡一成ほか:バイフォーカルコンタクトレンズの臨床.日コレ誌42:101-112,20002)塩谷浩:各種バイフォーカルコンタクトレンズの選択.あたらしい眼科18:463-468,20013)塩谷浩,梶田雅義:頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズ処方例の検討.日コレ誌44:103-107,20024)塩谷浩,梶田雅義:頻回交換型遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方成績─二重焦点型と累進屈折力型の比較─.日コレ誌48:226-229,20065)塩谷浩:頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズの選択法.あたらしい眼科24:711-716,20076)塩谷浩:遠近両用コンタクトレンズの処方─適応の判断から処方に至るまで─.日コレ誌51:47-51,20107)塩谷浩:遠近両用ソフトコンタクトレンズの処方テクニック.あたらしい眼科30:1363-1368,2013あたらしい眼科Vol.37,No.11,20201349

遠近両用ハードコンタクトレンズ-同心円タイプかセグメントタイプか

2020年11月30日 月曜日

遠近両用ハードコンタクトレンズ─同心円タイプかセグメントタイプかRigidContactLensesforPresbyopia─ConcentricTypesorSegmentTypes梶田雅義*はじめに屈折異常のある眼の老視矯正には,二重焦点の遠近両用眼鏡が用いられており,中間距離を明視する必要性が高い場合には三重焦点レンズが用いられていた.そのため,累進多焦点レンズが開発されたのは斬新的な進歩であった.その後,累進屈折力眼鏡が普及し,現在ではわずかにデザインを異にする遠中近累進屈折力,中近累進屈折力,近々累進屈折力と使用者のニーズに応じて処方の選択肢が多くなってきている.一方,老視矯正をコンタクトレンズ(contactlens:CL)で行いたいという要望も強くなってきた.最初に,二重焦点レンズが登場した.その後,同心円状の二重焦点レンズが登場し,累進屈折力レンズ,二重焦点の境目を累進屈折力デザインでつないだタイプが主流になると,上下に遠用と近用レンズを配置したデザインは姿を消した.ところが最近になって,再び遠近度数を上下に配置した二重焦点タイプが登場してきた.本稿では,遠近両用ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)の種類の変遷と,筆者の臨床経験から得た各レンズの特徴について述べる.I矯正効果から分類する遠近両用HCLのデザイン遠近両用HCLのデザインは,1.二重焦点セグメントデザイン2.二重焦点同心円デザイン3.二重焦点移行部累進屈折力同心円デザイン4.累進屈折力同心円デザインに分類できる(図1).筆者がこれまでに処方した遠近両用HCLに対する患者の反応から,レンズのデザインと見え方には以下のような特徴がある.1.二重焦点セグメントデザインの特徴初期のセグメントタイプで,近用部と遠用部に明らかな境目(セグメントライン)が確認できた(図1a).レンズが回転しないようにプリズムバラスト(図2)が採用されていた.このセグメントラインの位置が正面視の状態で瞳孔下縁付近に安定するのがよいフィッティングとされていたが,HCLは瞬目による動きが大きく,安定位置も毎回の瞬目後でまったく同じではなく,セグメント位置を適切に処方することはかなり困難であった.また,瞬目直後にはセグメントラインは瞳孔上縁よりも上方に位置し,すぐに下方に落ちて安定するが,その瞬間に像のジャンプが生じ,不快感をもたらした.30年ほど前の話ではあるが,筆者が数名に処方を試みて,実際に装用を続けてくれた患者は1名だけだった.2.二重焦点同心円デザインの特徴初期の同心円状デザインのレンズには遠用度数と近用度数の間に境目が確認できた(図1c).瞬目後にこの境目が瞳孔を通過するときに像のジャンプが生じて,不快*MasayoshiKajita:梶田眼科〔別刷請求先〕梶田雅義:〒108-0083東京都港区芝浦3-6-3協栄ビル4階梶田眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(3)1335abcdef図1遠近両用HCLの種類(筆者の分け方)a:旧二重焦点セグメントタイプ.セグメントラインが明確に観察でき,セグメント位置を設定して処方する必要があった.プリズムバラストでレンズ回転を抑制している.b:新二重焦点セグメントタイプ.セグメントラインは観察することができない.セグメントの位置は変更できない.プリズムバラストでレンズ回転を抑制している.c:旧二重焦点同心円タイプ.遠用度数と近用度数に境目が観察できた.今はもう存在しない.d:新二重焦点同心円タイプ.遠用度数と近用度数の境目を摺り下ろし,境目は観察できなくなった.これによって境目で生じていたゴーストは生じなくなった.e:二重焦点移行部累進屈折力同心円タイプ.遠用度数と近用度数の境目を累進屈折力デザインでつないだ構造になっている.これによって,遠用度数から近用度数への移行部での違和感が少なくなり,中間距離も見やすくなっている.f:累進屈折力同心円タイプ.中央から周辺に累進的に連続的に度数が分布している.ハードレンズ特有の交代視に加えて,同時視的な遠近の見え方を提供できる.一方で,二重焦点レンズタイプに比べると,全体的にピントはあまく感じるが,見え方を許容できれば加入度数以上に明視できる範囲が広がる.プリズム部図2プリズムバラストレンズの一方の厚みを増して,全体としてプリズムレンズのような構造にすることによって,角膜と上眼瞼でCLを圧迫すると,厚い部分が圧迫から早く解放されるように滑り出してくる(スイカの種理論).これによって,CLの分厚い部分が常に下方に位置し,CLの回転を抑える仕組みである.a.理想的な安静位b.開瞼直後のレンズ位置c.開瞼中のレンズ位置d.下方視時のレンズ位置e.下方視時の安静位置(下眼瞼潜り込み)(下眼瞼突き上げ)図3単焦点レンズの位置のイメージa.理想的な安静位b.やや上方安定のセグメントc.やや下方安定のセグメント位置設定位置設定d.開瞼直後のレンズ位置e.下方視時のレンズ位置f.下方視時の安静位置(下眼瞼潜り込み)(下眼瞼突き上げ)図4旧二重焦点セグメントタイプレンズの位置のイメージa.理想的な安静位b.やや上方安定の場合c.やや下方安定の場合d.開瞼直後のレンズ位置e.下方視時のレンズ位置f.下方視時の安静位置(下眼瞼潜り込み)(下眼瞼突き上げ)図5新二重焦点セグメントタイプレンズの位置のイメージa.理想的な安静位b.やや上方安定の場合c.やや下方安定の場合d.開瞼直後のレンズ位置e.下方視時のレンズ位置(下眼瞼潜り込み)図6二重焦点同心円タイプレンズの位置のイメージf.下方視時の安静位置(下眼瞼突き上げ)a.理想的な安静位b.やや上方安定の場合c.やや下方安定の場合d.開瞼直後のレンズ位置e.下方視時のレンズ位置(下眼瞼潜り込み)f.下方視時の安静位置(下眼瞼突き上げ)図7二重焦点移行部累進屈折力同心円タイプレンズの位置のイメージa.理想的な安静位b.やや上方安定の場合c.やや下方安定の場合d.開瞼直後のレンズ位置e.下方視時のレンズ位置f.下方視時の安静位置(下眼瞼潜り込み)(下眼瞼突き上げ)図8累進屈折力同心円タイプレンズの位置のイメージ

序説:コンタクトレンズ-選択の秘訣

2020年11月30日 月曜日

コンタクトレンズ─選択の秘訣TheSecretsofPropeContactLensSelection小玉裕司*近年のコンタクトレンズ(CL)の開発には目覚ましいものがあり,続々と新しいCLが市販されてきている.それらのCLの中から,患者の要望に合うレンズを選択するのは容易ではない.比較的多くのCLを処方している筆者でも,臨床の場においてCLの選択に迷うことがある.あまりCLを処方することのない先生方においては,なおさら困られているのではないかと危惧し,今回の企画を立てた.まずは遠近両用CLについてであるが,ハードコンタクトレンズ(HCL)とソフトコンタクトレンズ(SCL)とでは光学的デザインがまったく異なっている.HCLは交代視型であり,遠用と近用でレンズにおいて用いる部位が異なり,その点では光学的機能は損なわれない.最初はセグメント型のもののみであったが,最近では同心円型が主流となり,一時的にセグメント型は姿を消した.しかしごく最近になって,セグメント型の長所を活かしたかたちで再登場した.このセグメント型レンズと同心円型のレンズとの違いなどを梶田雅義先生に解説していただいた.同時視型の遠近両用SCLは加入度数が累進的に入っている多焦点SCL(multifocalsoftcontactlens)がほとんどであるが,大きく分けて中心遠用レンズと中心近用レンズがある.最初は筆者も中心近用レンズは近方の視力がよく,中心遠用のレンズは遠用の視力がよいと思っていたが,いろいろな多焦点SCLを処方していくなかで,そのような単純なものではないと思い直している.この観点から塩谷浩先生に両者の選択法について解説していただいた.最近市販されたEDOF(正確にはAnnualRingsdesignEDOF)は,従来の多焦点SCLと比較して,いかなる性格を有しているのか,その実態がわかりにくかった.その点については二宮さゆり先生に詳細に解説していただいた.遠近両用CLの中でも,加入度数がきわめて低いレンズがHCL,SCL双方で市販されている.このような超低加入度数のCLについて,その使用目的と選択法に関して東原尚代先生と山岸景子先生に解説していただいた.乱視矯正には光学的にHCLのほうがよいとされているが,近年の乱視用SCLの開発は目覚ましく,ある程度までの乱視であれば十分に満足できる矯正視力を提供できるSCLが市販されている.乱視用SCLにはレンズの回転防止(軸の安定)のためにデザイン上の工夫がなされており,プリズムバラストタイプとダブルスラブオフタイプに大別される.それらのレンズの選択法について山岸景子先生と東原尚代先生に解説していただいた.*YujiKodama:小玉眼科医院0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(1)1333

Vol.37 No.11(2020年11月号)

2020年11月30日 月曜日