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緑内障セミナー:トラベクレクトミー後の低眼圧黄斑症

2024年4月30日 火曜日

●連載◯286監修=福地健郎中野匡286.トラベクレクトミー後の低眼圧黄斑症中野優治中元兼二日本医科大学眼科学教室低眼圧黄斑症は低眼圧が持続すると生じ,視力低下の原因となる.トラベクレクトミー後では,過剰濾過や濾過胞からのリークが原因となる.長期に持続すると不可逆的な視機能障害となる可能性があるため,早期の診断と治療が重要である.保存的治療のほか,外科的治療として経結膜強膜弁縫合や結膜弁を切開し直視化で強膜弁縫合を追加する方法がある.●はじめに低眼圧黄斑症(hypotonyCmaculopathy)は緑内障手術後や眼球穿孔後の高度な低眼圧(通常C5CmmHg以下)が持続した場合に生じ,乳頭浮腫,網膜血管蛇行,網脈絡膜皺襞などがみられる.視力低下・変視症の原因となり,長期にわたると不可逆的な視機能障害となるため注意が必要である.トラベクレクトミーに代謝拮抗薬が使用されたことから,術後の過剰濾過による低眼圧黄斑症が増加した.C●低眼圧黄斑症の所見低眼圧黄斑症は後極全体に網膜と脈絡膜のしわを伴う乳頭浮腫を引き起こし,黄斑部では中心窩から放射状に細かい網膜のひだが形成され,眼軸の短縮による遠視化を引き起こす.網膜血管は蛇行し,網膜静脈はうっ血様になる(図1).脈絡膜.離は伴わないことが多い.眼圧図1低眼圧黄斑症の眼底写真トラベクレクトミー後の低眼圧黄斑症の眼底写真.後極全体に皺襞を生じており,中心窩から放射状の細かい網膜のひだを認める.軽度の乳頭浮腫を伴い網膜血管の蛇行,網膜静脈はうっ血様である.が低いこと,特有の眼底所見から診断は容易であるが,光干渉断層計は検鏡的にわからないようなわずかな変化でも捉えることができるため有用である.とくにCenface画像,Bスキャンの垂直方向の画像が変化を捉えやすい(図2).発症機序としては,低眼圧により強膜が内陥し平坦になることで,その内側の脈絡膜,網膜が余剰になり,しわを形成する.とくに黄斑部においては中心の網膜は薄く,周囲の網膜が厚いため放射状の皺襞が形成されると推察されている.この皺襞により網膜受容体自体が歪み,低眼圧による角膜不正乱視とともに視覚障害を引き起こす.乳頭浮腫は師状板が前方に弯曲し,軸索輸送を減少させることで生じ,腫脹した軸索が視神経への血流を阻害し直接の神経障害を引き起こす可能性が考えられている.進行した緑内障患者では軸索が少ないため,乳頭浮腫を生じない場合もある.図2低眼圧黄斑症の光干渉断層計画像(水平断,垂直断)低眼圧黄斑症の診断においてはCBスキャンの垂直断のほうが変化を捉えやすい.垂直断(b)において軽度の網膜,脈絡膜の皺襞を認め,小さなCcystoidspacesの形成を認めるが,水平断(a)は一見正常所見にみえる.また,enface画像(とくに3D)のほうがしわの状態や分布の視認性が高い(c).とくにCBスキャンにて明らかな所見を認めないごく早期から低眼圧黄斑症の変化を捉えることができ,有用である.(55)あたらしい眼科Vol.41,No.4,20244210910-1810/24/\100/頁/JCOPY図3強膜弁縫合トラベクレクトミー後の過剰濾過に対し,結膜切開をすることにより強膜弁を直視下で縫合する.本症例ではC4針縫合を行い,眼圧上昇と低眼圧黄斑症の改善を得られた.●トラベクレクトミーと低眼圧黄斑症トラベクレクトミー後の過剰濾過,濾過胞からのリークによって低眼圧が生じることが多い.マイトマイシンCC(mitomycinC:MMC)を使用したトラベクレクトミーで低眼圧黄斑症の頻度が高く(4%),MMCの濃度が高いほど,作用させる時間が長いほど,低眼圧黄斑症を生じたと報告されている1).また,MMCによる作用は過剰濾過を引き起こすのみでなく,毛様体に直接作用し房水産生を低下させたり,結膜の線維化を抑制することで無血管ブレブの原因となりうる.若年,近視眼,初回のトラベクレクトミーがリスク因子となる.若年者の強膜はしなやかで低眼圧で収縮しやすく,同様に近視眼の強膜は薄く,剛性が低いため,低眼圧で収縮しやすいと考えられる.また,角膜厚が薄いと低眼圧黄斑症を発症しにくく,角膜厚が厚いと眼圧が8~9CmmHg程度でも発症することもある.C●治療低眼圧黄斑症は眼圧が正常化すると眼球形態も戻り機能も回復するが,長期に持続した場合は,網膜,脈絡膜,強膜に不可逆的な線維化が生じ,脈絡膜の形態が改善されず恒久的な視機能障害が残存することがある.トラベクレクトミー後の過剰濾過に対しては,圧迫眼帯,前房内への粘弾性物質注入,濾過胞への自己血注入,濾過胞圧迫縫合,経結膜強膜弁縫合,観血的強膜弁再縫合などを行う.圧迫眼帯は強膜フラップを圧迫するようにガーゼなどを重ねて置き,下方視させながら固定する.就寝時にはBell現象で上転する可能性があるため,日中のみとする.不適切な圧迫となると過剰濾過を増悪させる可能性があるため,数時間後に効果を確認する.粘弾性物質注入は数日間前房内に滞留している間に,創傷治癒が進みC422あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024適度な濾過量となることを期待して行う.滞留時間は,分散型で短く,凝集型で長くなるので患者ごとに使い分ける.レーザー切糸後では逆にフラップを押し上げ過剰濾過が悪化する場合もあり,注意が必要である.自己血注入は前房内に流入する程度の量を濾過胞に注入する方法だが,有効性はC5~6割程度と確実性は低く,注入後の一過性高眼圧の頻度は高く,前房内に流入した自己血による視力障害を生じる.濾過胞圧迫縫合は濾過胞範囲を縮小させたり,強膜弁部を圧迫することで濾過量を減らす目的で施行する.縫合する方法の中では低侵襲であるが,濾過量が多いと効果不十分になり成功率はC64.4%と限定的である2).経結膜強膜弁縫合は,結膜上から直接強膜弁部を縫合することで濾過量を減らす.盲目的な操作となるため綿棒で濾過胞を圧迫しながら強膜に確実に通糸すること,バイトを長くし,最低でもC2針以上はかけておくことがコツとなる.縫合した糸はC1週間程度で結膜下に埋没し,レーザー切糸も可能となる.これらの方法が無効の場合は,ためらわず結膜切開し直視化で強膜弁を再縫合する(図3).結膜の瘢痕形成のリスクなど侵襲の高い処置であるが,もっとも確実に濾過量を減らすことが可能である.ブレブからのリークがある場合は,少量であれば抗菌薬入り眼軟膏点入,房水産生抑制薬の投与,圧迫眼帯,治療用コンタクトレンズで対処可能な場合もある.また,0.1%ないしC0.3%ヒアルロン酸点眼の有用性も報告3)されており,筆者らの施設でも使用している.しかし,高度なリークの場合は結膜再縫合が必要となる.C●おわりにトラベクレクトミー後の低眼圧黄斑症は視力障害の原因となるため,迅速な診断,治療が必要である.眼圧下降をめざす手術での低眼圧による合併症であり,眼圧上昇を促すことは術者としては悩ましいが,改善がない場合は躊躇わずに昇圧治療を行うことも重要である.文献1)MegevandGS,SalmonJF,ScholtzRPetal:Thee.ectofreducingCtheCexposureCtimeCofCmitomycinCCCinCglaucomaC.lteringsurgery.OphthalmologyC102:84.90,C19952)QuarantaL,RivaI,FlorianiIC:Outcomesofconjunctivalcompressionsuturesforhypotonyafterglaucoma.lteringsurgery.EurJOphthalmolC23:593-596,C20133)SagaraH,IidaT,SuzukiKetal:SodiumhyaluronateeyedropsCpreventClate-onsetCblebCleakageCafterCtrabeculecto-mywithmitomycin.CEyeC22:507.514,C2008(56)

屈折矯正手術セミナー:角膜インレイ眼の白内障手術

2024年4月30日 火曜日

●連載◯287監修=稗田牧神谷和孝287.角膜インレイ眼の白内障手術荒井宏幸みなとみらいアイクリニック老視用角膜インレイであるCKAMRAは,国内での挿入眼数はC13,000眼以上と考えられ,白内障手術が必要となる患者は増加傾向にある.単焦点レンズがよい適応であり,度数計算はCLASIK後の計算式に準じるが,僚眼の計算結果を参考に決定すると大きな誤差は生じない.手術手技としての難易度はそれほど高くない.●老視矯正用角膜インレイ2005年からC2013年頃までの期間,世界的にはC3種類の老視用角膜インレイが使用されていた.もっとも普及したのはCKAMRA(AcuFocus社)であるが,その他にもCVue+(ReVisionOptics社)やCFlexivueCMicrons(Presbia社)などがある.国内ではCKAMRAが主として導入され,2012年に約C4,500眼への手術が行われるなど,総件数ではC13,000件以上に挿入されていると思われる(図1).施術にはフェムトセカンドレーザーが必要なことや,多焦点眼内レンズの性能が向上し普及が進んだことから,現在では老視用角膜インレイ自体を使用する機会がほとんどなくなった.本稿ではCKAMRA挿入眼に対しての白内障手術について述べる.C●多焦点眼内レンズを希望する患者はCKAMRAを挿入した時点において,老視を手術的に改善したいというモチベーションをもっているため,白内障手術の眼内レンズ選択においても,多くは多焦点レンズを希望する.両眼の手術を予定する場合,僚眼は多焦点眼内レンズを選択してもよい.ただし,両眼ともClaserCinCsitukeratomileusis(LASIK)を施行していることが多いため,眼内レンズ度数計算は慎重に行う必要がある.KAMRA挿入眼に対しては単焦点レンズがよい適応であり,ピンホール効果によって焦点深度拡張(expandedCdepthCoffocus:EDoF)効果が発現するであろう.C●KAMRAは残すか抜去するかもっとも議論される点であるが,基本的にCKAMRA挿入直後から問題なく視力が良好であり,遠方から中間・近方までが見えていたという場合には,すでにピンホールによるCEDoF効果が獲得できているということである.この場合には,単焦点眼内レンズで白内障以前の透明性を確保すれば,EDoF効果はそのまま継承され(53)C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY4,5145,0003,7224,0002,5753,0002,0001,40618920092010201120122013591201421520158820161,0002302017図1KAMRAの国内での施術件数の推移(筆者調べ)2012年をピークに急速に減少している.国内での挿入数は13,000眼以上になると考えられる.る.重要なポイントは角膜中心部の透明性である.角膜インレイにおいてもっとも問題となるのは,角膜上皮細胞の栄養障害と角膜実質層のChazeである.KAMRAの中央部分の角膜にChazeが認められた場合には,視力障害の主因が白内障ではない可能性がある.その場合にはKAMRAの抜去を考慮する.抜去後にもChazeは残存するため,半年~1年程度は低濃度ステロイド点眼にてhazeの消退を待ってから白内障手術を予定するとよいであろう(図2).この場合も多焦点眼内レンズではなく,単焦点眼内レンズが適切であると考える.角膜中心部が清明であれば,KAMRAはそのまま留置し,単焦点レンズを選択しCEDoF効果を期待する.C●度数計算はむずかしいKAMRA挿入術を受ける際に,両眼のCLASIKを施行していることがほとんどであるので,両眼の角膜形状解析を行う.僚眼(KAMRA未挿入)を観察して,施行されているCLASIKが近視矯正か遠視矯正かを確認する.行われているCLASIKの種類により,眼内レンズの度数計算式が異なるため,適合する計算式にて算出する.その際,必ず僚眼の計算も行い,KAMRA挿入眼との眼内レンズ度数差を確認する.KAMRA挿入時のCLASIKあたらしい眼科Vol.41,No.4,2024419図2KAMRA挿入眼における角膜混濁の違い(右図は抜去後)多くの場合は左図のように角膜中心部は清明であるが,右図のようにChazeを伴う場合もあり,白内障手術の適応に関して注意が必要である.表1筆者の直近5症例の結果症例CNo.既往CLASIK術前度数挿入CIOL度数術後等価球面度数正解だったIOL度数僚眼の正規IOL度数C1遠視CLASIK+1.25+21.0C.0.75+21.0+21.0C2近視CLASIKC.6.0+17.5C.0.50+17.0+20.5C3近視CLASIKC.2.5+18.5+2.50+22.0+21.5C4近視CLASIK+18.5C.1.0+18.0+20.0C5遠視CLASIK+2.50+16.5+3.50+21.0+21.0術後の屈折度数から正視となる眼内レンズ(IOL)度数を計算した結果と,僚眼の計算結果を示す.僚眼の結果は度数決定の参考となるが,No.2症例のように大きく異なる場合もあるため注意が必要である.は,僚眼は正視に,インレイ挿入眼はC.0.5D程度の近視に設定するため,もし術前の屈折誤差が同程度であった場合には,選択される眼内レンズ度数にも大きな差は出ないはずである.筆者が経験した直近のC5症例における結果および僚眼の計算結果を表1に示す.SRK-T式の成績がよかったという報告はあるが,n数が少ないため参考値であろう1,2).また,KAMRAにはピンホール効果があるため,度数計算の誤差にはある程度の許容範囲があり,通常のCLASIK後の計算よりも厳格に検討する必要はない.ピンホール効果による乱視矯正が機能するため,1.5D程度までの乱視矯正効果がある.そしてほとんどの患者がCKAMRA挿入時のCLASIKにより乱視矯正がなされているため,乱視用眼内レンズは選択する機会は少ないであろう.C●白内障手術手技細隙灯顕微鏡による観察の印象では,白内障手術時における困難さを感じる可能性があるが,実際に手術用顕C420あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024図3KAMRA挿入眼に対する白内障手術の術中写真KAMRAによる術野の隠蔽率はそれほど大きくなく,熟練した術者であれば問題なく手術を完遂できる.微鏡で観察すると,大きな障害とはならない感覚が得られるであろう.眼球を傾斜させながらの操作となるため,難易度は高いが,習熟した術者であれば問題なく完遂することは可能である.急がずにある程度の時間をかけて慎重に進めることがポイントである(図3).C●まずはチャレンジしてみる今後,多くのCKAMRA挿入患者が白内障となり,一般の眼科外来を受診する機会が増えることが予想される.屈折矯正手術後ではあるが,単焦点レンズが選択可能であり,屈折誤差の許容範囲も広いため,まずは勇気をもってチャレンジしてみるとよいと思う.筆者の経験では,術後の満足度は非常に高く,術者としての達成感も大きな手技ではないかと感じている.文献1)TanCTE,CMehtaJS:CataractCsurgeryCfollowingCKAMRACpresbyopicimplant.ClinOphthalmolC7:1899-1903,C20132)MoshirfarCM,CQuistCTS,CSkanchyCDFCetal:CataractCsur-geryinpatientswithaprevioushistoryofKAMRAinlayimplantation:acaseseries.OphthalmolTherC6:207-213,C2017(54)

コンタクトレンズセミナー:英国コンタクトレンズ協会のエビデンスに基づくレポートを紐解く コンタクトレンズの湿潤性,洗浄,消毒および涙液との相互作用(後編)

2024年4月30日 火曜日

■オフテクス提供■4.コンタクトレンズの湿潤性,洗浄,消毒および涙液との相互作用(後編)松澤亜紀子聖マリアンナ医科大学,川崎市立多摩病院眼科土至田宏順天堂大学医学部附属静岡病院眼科英国コンタクトレンズ協会の“ContactCLensCEvidence-BasedCAcademicReports(CLEAR)”の第C3章は,コンタクトレンズ(CL)の湿潤性や洗浄・消毒,および涙液との相互作用をとりあげている1).前編に続き,今回は第C3章の後半にまとめられた清潔なレンズ表面の維持とCCLが涙液に及ぼす影響について紐解くこととする.はじめに1日使い捨てソフトCCL(SCL)と連続装用以外のすべてのCCLは,再使用可能でケアが必要である.近年,1日使い捨てCSCLの使用率は大幅に増加しているが,再使用可能なレンズは依然として,世界中で使用されているCCLの少なくとも約半分を占めており,そのうちの約70~90%はCmulti-purposedisinfectingsolution(MPDS)を使用し,残りの一部が過酸化水素消毒システムを使用している.また,日本ではポビドンヨード消毒システムが市場に導入されている.再使用可能なCCLは,CL装用時の快適性を向上させながら,眼表面への毒性を誘発することなく,適切なCCLの洗浄および消毒が可能なレンズケア用剤と組み合わせて使用されることを求められている.清潔なレンズ表面の維持1.レンズケア用剤理想的なレンズケア用剤は,①さまざまな病原性微生物に対して迅速かつ効果的に消毒できる,②眼組織に無毒である,③すべてのCCL素材に適合する,④使用方法が簡便である,⑤レンズ表面の濡れ性と眼の快適性を向上させる,⑥涙液成分の沈着を最小限に抑える,⑦低価格,という特徴をもつことが提案されている.これらの特徴を満たすため,レンズケア用剤には抗菌剤,界面活性剤,緩衝剤,キレート剤,湿潤剤など,さまざまな成分が配合されている(表1).レンズケア用剤の目的は,すべての微生物を除去するのではなく,病原微生物の数を安全なレベルまで減少させることである.そのため,ISO14729で決められたレジメンで微生物(緑膿菌,黄色ブドウ球菌,セラチア菌,カンジダ,フザリウム)をC3ClogまたはC1Clogまで減少させる能力が要求されるが,すべての細菌やアカントアメーバのような微生物に対しての有効性は要求されていない.また,多くのCMPDSが「こすらない」でケアレジメンを承認されているが,多くの研究ではレンズを(51)「こすり洗い」することの利点が実証されている.さらに,適切な洗浄と消毒,レンズケースのメンテナンス,装用スケジュールの遵守など,レンズの衛生管理とコンプライアンスの順守が,眼合併症のリスクを最小限に抑えるために不可欠である.C2.CLのケア用剤成分の取り込みと放出消毒,洗浄,湿潤を目的としたケア用剤の成分はCCL浸漬中にレンズ素材に吸着され,その後レンズ装用中に眼表面に放出され,CLの臨床性能に影響を及ぼす可能性がある.また,これらの成分は角膜ステイニングや結膜充血などのさまざまな臨床症状を引き起こす可能性がある.表1コンタクトレンズケア用剤で使用されている成分作用おもな役割よく使用される成分抗菌消毒過酸化水素ポリヘキサメチレンビグアナイドポリアミノプロピルビグアニドポリクオタニウムC-1ミリスタミドプロピルジメチルアミンアレキシジン,亜塩素酸塩,アミドアミンポリリジン,ポビドンヨード界面活性剤洗浄ポリキサミン,ポロキサマー緩衝剤酸性度(pH)を涙液のpHに保つリン酸塩,ホウ酸,ホウ酸ナトリウムトロメタミン,バイオポール湿潤剤快適性向上ポリビニルピロリドンヒドロキシプロピルメチルセルロースセルロース誘導体,油性エマルジョンパラフィン,ポリビニルアルコールグリセリン,ヒアルロン酸ヒドロキシプロピルグアーポリエチレングリコールプロピレングリコールキレート剤ほかの薬剤との相乗効果エチレンジアミンC4酢酸あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024C4170910-1810/24/\100/頁/JCOPY3.ケア用剤が涙液に与える影響MPDSはレンズ装用に伴い眼表面のサイトカインを変化させるため,眼表面の炎症状態に影響を及ぼす可能性が示唆される.しかし,CL装用に伴うサイトカインレベルの変化は比較的小さく,生理学的に大きな影響を及ぼすものではない可能性があることに留意すべきである.CCLが涙液に及ぼす影響1.CL装用が涙液成分とレンズ装用中の快適性に及ぼす影響CL装用に伴う眼不快症状のある装用者は,涙液中のCb-2-microglobulin,proline-richprotein-4,lacritin,sec-retoglobinC1D1,CwaxestersおよびCwaxesterとCacylg-lycerol比の濃度が減少し,lidwiper領域のCN-acetyl-D-glucosamineまたはCsialicacidの量が低下している可能性が示唆された.一方で,涙液中のCsecretoglobin2A2,アルブミン,DMBT-1,prolactin誘導性蛋白質,Ctriacylglecerols,CIL-17A,CLTB4の濃度は増加している.しかし,これらの涙液成分の変化がCCL装用とどのような関連かあるのか,どの因子が眼不快症状と関連するのかなどは解明されていない.C2.レンズ表面の改質と快適性への影響シリコーンハイドロゲル(SiHy)素材は,大きな酸素透過性能を可能にし,低酸素合併症を防ぐために一般的となった.一方で,レンズ表面が疎水性となり,涙液成分が沈着する可能性があったため,化学的表面処理に注目が集まった.化学的表面処理は,生物付着防止や水濡れ性の向上,装用者の快適性を向上させることが目的とされた.実際にレンズポリマーおよび表面処理は,水濡れ性と生体適合性の面では確実に改善されたものの,レンズ装用中の快適性に直接関与しているかは不明のままである.C3.抗菌コーティング汚染されたCCLは微生物による角膜炎などの合併症を引き起こす可能性が高くなるため,いくつかの抗菌成分を含んだ抗菌CCLを製造するための研究がなされている.銀ナノ粒子を含んだCCLは,細菌やアカントアメーバなどの付着を防ぐことが示されているが,組織に色素沈着を生じることが懸念されている.一方で,緑膿菌やアカントアメーバなどの眼病原体に対し優れた活性をもつ,抗菌ペプチドの一種であるCMel4でコーティングされたCCLは,第Ⅲ相臨床試験に進み,角膜浸潤の発生率を低下させ,安全に装用することが可能であった.抗菌ペプチドに対する細菌耐性は比較的まれであり,緑膿菌や黄色ブドウ球菌を繰り返し暴露させても耐性の発現は促進されなかった.C4.快適性を維持するための涙液サプリメントの役割カルボキシメチルセルロースおよびヒアルロン酸,浸透保護剤を含むさまざまな外用点眼薬を使用した場合,CL装用中の快適性が向上し,異物感や乾燥感などの眼不快症状が改善することが,いくつかの試験で示されている.まとめすべてのCCLは,装用中に涙液の成分を吸着・吸収するが,レンズに付着する成分の種類は,CLのポリマー,表面コーティング,ケア用剤との相互作用によって影響を受ける.また,CLは涙液の生化学的な変化をもたらし,生体適合性やレンズ装用中の快適性に影響を与える可能性がある.涙液は,装用中のレンズ適合性において重要な役割を果たしていると考えられるが,涙液が果たす正確な役割や涙液を変化させることで,レンズ装用中の生体適合性や快適性が改善できるかどうかについては,さらなる研究が必要である.文献1)WillcoxM,KeirN,MaseedupallyVetal:CLEAR-Con-tactlenswettability,cleaning,disinfectionandinteractionswithtears.ContLensAnteriorEye44:157-191,C2021

写真セミナー:毛虫刺症,水疱性角膜症

2024年4月30日 火曜日

写真セミナー監修/福岡秀記山口剛史荻野麟太郎479.毛虫刺症,水疱性角膜症東京歯科大学市川総合病院眼科図2図1のシェーマ①白内障②虹彩萎縮③上皮浮腫+実質浮腫,Descemet膜皺襞図1当院初診時所見虹彩は全体に萎縮し,角膜は上皮浮腫と実質浮腫をきたしており,Descemet膜皺襞も認める.前房内炎症はない.白内障も認めた.矯正視力はC0.02.図3白内障手術および虹彩整復術術後角膜上皮浮腫と実質浮腫は変わらない.6時とC12時で虹彩縫合して虹彩を整復し,瞳孔形成した.前房内は虹彩整復後のため出血している.矯正視力はC10Ccm指数弁.図4DSAEK後3時間Doublechamberはなく,空気もC50%で経過は良好であった.図5DSAEK後1カ月角膜は透明で前房内炎症もない.矯正視力はC0.3.(49)あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024C4150910-1810/24/\100/頁/JCOPY昆虫刺傷は昆虫に刺されたり咬れたり,毒針毛に触れたりすることで生じる.日本においては蜂,毛虫による眼障害が多く報告されている.今回,当院に毛虫刺傷で受診した症例をもとに毛虫刺傷について解説する.ほとんどの植物に毛虫,アオムシが寄生しているが,これらは蝶や蛾の幼虫であり,多くの種類が存在する.この中で毒毛をもっているものは一部しかおらず,わが国ではドクガ科,カレハガ科,ヒトリガ科,イラガ科,マダラガ科の一部の幼虫に限られる.年にC2回,4~6月とC8~9月に発生するものが多く,この時期の庭木に手入れには注意が必要である.毛虫は無数の刺毛をもっているが,毒を含むのは虫体に固定されている毒棘と虫体から抜け落ちる毒針毛で,このうち眼にささるのは毒針毛である.毒針毛は銛(もり)の形をしており,反しがついている.眼球運動や摩擦,瞬目,手指でこすることによる刺激で眼球内に進行するため,患者にはこの点に注意するように伝えることが必要である.炎症の原因は機械的な刺激に加えて毒成分によるものも大きく,ヒスタミン,プロテアーゼ,キニノゲナーゼ,ホスホリパーゼCAなどが原因物質としてあげられる.毛虫刺傷の自覚症状は眼痛と霧視で,診察すると角膜上皮欠損,角膜実質浮腫,角膜内皮障害,ぶどう膜炎が認められる.治療はステロイド点眼およびステロイドの全身投与による炎症管理と,虹彩癒着の予防のための散瞳薬の投与が基本である.角膜内皮障害により水疱性角膜症や角膜瘢痕が生じることも多く,角膜移植の適応となることも多い.70代,女性の症例を提示する.40代のときに右眼に毛虫の毛が入って受傷し,大学病院にてステロイド加療を行った.以降,虹彩が萎縮して散瞳固定されている.毛虫刺傷後の最高矯正視力はC0.3であった.30年以上経過して異物感を主訴に近医を受診し,水疱性角膜症の診断で当院へ移植目的で紹介となった.当院受診時,角膜は軽度瘢痕を伴う水疱性角膜症を発症しており,上皮浮腫と実質浮腫を認めた(図1,2).術前の最高矯正視力はC0.02であった.白内障も認めたため,まずは水晶体再建術を施行する方針となった.その後の角膜内皮移植の前処置として,虹彩整復術も同時に施行した.手術は角膜上皮.離をして,PEA+IOLを施行,その後PC9を用いてC6時とC12時の虹彩を縫合し,瞳孔形成術を行った.術前萎縮していた虹彩は引き延ばされて瞳孔径はC4Cmmほどに縮小した(図3).術後は虹彩整復を行ったため前房出血を伴い,術後視力はC10Ccm指数弁まで低下したが,その後CDescemet膜.離角膜内皮移植術(DescemetCstrippingCautomatedCendothelialCkerato-plasty:DSAEK)を施行し,0.15(0.3C×sph+2.00D(clyC.1.50DAx70°)まで改善した(図4,5).本症例は毛虫刺傷による角膜内皮細胞障害を起こし,そのC30年後に水疱性角膜症に至っており,角膜内皮細胞移植であるDSAEKが著効した.術前に軽度角膜瘢痕を認めたが,術後の拒絶反応などのリスクから全層角膜移植ではなくDSAEKを選択した.毛虫刺傷ではぶどう膜炎や角膜上皮障害,実質障害に加えて,数十年後に水疱性角膜症を発症する可能性のある内皮障害にも注意が必要である.文献1)daSilvaTrincaoFE,DuarteAF,MagricoAAetal:Pro-cessionary(ThaumetopoeaCpityocampaSchi.)inducedCocularlesions:caseCreports.CArqCBrasCOftalmolC75:134-136,2012[ArticleinPortuguese]2)今泉敦志,小池昇,KimuMほか:毛虫の毒針毛による難治性ぶどう膜炎の一例.臨眼57:471-475,C2003

角膜移植のエビデンス

2024年4月30日 火曜日

角膜移植のエビデンスEvidence-BasedKeratoplasty横川英明*小林顕*はじめに1906年に全層角膜移植(penetratingCkeratoplasty:PKP)の成功が初めて報告され,その後角膜移植は大きな進歩を遂げてきた.現代の角膜移植は術式が多様化している.PKPも依然として一般的な術式の一つであるが,選択的層状角膜移植が治療の低侵襲化をもたらしている.選択的層状角膜移植は,健常な層を残して悪い層のみを取り換える移植であり,大まかには,①角膜上皮移植,②前部層状角膜移植・深部層状角膜移植,③角膜内皮移植に分類される(図1).最近の臨床研究は,とくに角膜内皮移植に関するものが多く,本稿では最新の臨床研究に基づくエビデンスの概要を紹介し,筆者らの見解を述べる.これが最適な治療法選択の参考になれば幸いである.CI角膜内皮移植のエビデンス1.角膜内皮移植の術式選択肢:DMEKあるいはultrathinDSAEK角膜内皮移植はCPKPと比較して,クローズドサージャリー,外傷に強い,縫合糸関連の合併症なし,拒絶反応リスク低下,短期間での良好な視力回復など,多くの利点をもつ.そのため水疱性角膜症に対しては角膜内皮移植が第一選択の術式となっている.Descemet膜角膜内皮移植術(DescemetCmembraneCendothelialCkera-toplasty:DMEK)は,Descemet膜内皮のみを移植する術式であり,一方でCultrathinDescemet膜.離角膜内皮移植術(Descemetstrippingautomatedendothelialkeratoplasty:DSAEK)は,後部実質も含むC100Cμm以下の厚みのグラフトを移植する術式である(図2).DMEKとCultrathinDSAEKについて,術後成績や視機能を比較検討するシステマティックレビューとメタアナリシスによれば,術後視力はCDMEKが優れており,角膜内皮細胞密度減少率は両術式間に差はなく,グラフト偏位の合併症はCultrathinDSAEKで少なかった1).したがって,術者がDMEKに習熟している場合は,DSAEKよりもCDMEKを選択したほうがよい.ただし,複雑症例に対しては,術者がCDSAEKに習熟している場合にCultrathinDSAEKも優れた選択肢である.C2.PreloadedDMEKグラフトの安全性と有用性PrestrippedDMEKグラフトは,アイバンクにおいて,ドナーのCDescemet膜内皮を.がし,グラフトの表裏を判別するCSスタンプを刻印したものである.Pre-loadedDMEKグラフトは,さらにパンチし,トリパンブルー染色し,グラフト挿入器具(グラスインジェクター)に装.した状態のものである(図3).prestrippedDMEKグラフトを術者がインジェクターに装.した200症例と,PreloadedDMEKグラフトを使用したC200症例について,術後成績を比較した後ろ向き研究によれば,術後視力,術後C1年の内皮細胞減少,空気再注入率において両者間に差はなかった2).これらを使用することにより,DMEK手術時間を短縮するとともに,グラ*HideakiYokogawa&AkiraKobayashi:金沢大学附属病院〔別刷請求先〕横川英明:〒920-8641金沢市宝町C13-1金沢大学附属病院C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(43)C409角膜上皮角膜上皮移植・前部層状角膜移植角膜実質・深部層状角膜移植(・Bowman層移植)Descemet膜角膜内皮角膜内皮移植ab図2DMEK後症例(a)とultrathinDSAEK後症例(b)a:DMEK後C3カ月で角膜が透明化している(中心角膜厚C442Cμm).Cb:ultrathinDSAEK後で厚さC100Cμm以下のグラフト()が角膜後面に接着している.図1選択的層状角膜移植の分類図3PrestrippedDMEKグラフト(a)とPreloadedDMEKグラフト(b)a:PrestrippedDMEKグラフト.強角膜片()はすでにDescemet膜が.がされている.Cb:PreloadedDMEKグラフト.グラスインジェクター内の青く染色されたグラフトロール()が認められる.図4外傷性無虹彩と全層移植既往眼に対するsafety-netDMEK術中にCsafety-netsutureを張ることでCDMEKが成功した.図5Endothelium-inDMEKの手技a:グラフト()の内皮面を内側に三つ折りにする.Cb:Endothelium-inグラフトをCEndoGlideに装.し,EndoGlideのノズルを前房に入れる.左手の鑷子でグラフトを把持して前房内に引き込む.Cc:鑷子で把持したままでグラフトは正しく展開する.d:鑷子で把持したままでグラフトの下に空気を注入する.7.リパスジル併用Descemet膜切除療法Fuchs角膜内皮ジストロフィ患者においては,角膜浮腫とともに,中央部の肥厚したCDescemet膜(guttae)による視機能低下が起こる.Descemet膜切除療法(DescemetstrippingConly:DSO)は,中央のCDes-cemet膜を切除し,ドナーを移植しない術式である.角膜内皮細胞密度C1,000個/mmC2以上のCFuchs角膜内皮ジストロフィC23人C23眼に対してリパスジル併用CDSOを施行した臨床試験によれば,22眼は平均C4.1週で角膜の透明化が得られたが,残りのC1眼はCDMEKが必要であった.DSO後に角膜が透明化したC22人のうちC21人が手術に満足し,重篤な合併症はみられなかった7).リパスジルを併用したCDSOは,適応症例が限定されることと,角膜透明性までの回復期間が長いことがデメリットであるが,安全性の高い治療選択肢となる可能性がある.C8.人工角膜内皮置換膜人工角膜内皮置換膜(EndoArt,CEyeYonMedical社)は,厚さC50Cμm,直径C6.5Cmmの親水性アクリル素材の柔軟性のある膜である.水疱性角膜症に対してCDSAEKと類似の手技でドナーの代わりにCEndoArtを前房に挿入して角膜後面に接着させると,房水のバリア機能が回復し,角膜が透明化する.EndoArtを移植した合計C7例の症例報告によると,全例で接着不良に対して空気再注入を要したが,最終的には接着と透明性回復が得られ,重篤な合併症はなかった8).結論として,EndoArtはドナーを必要とせず角膜を透明化することができるため,通常の角膜内皮移植で移植片生存期間の短い患者や,視機能ポテンシャルの低い複雑症例に対して,治療選択肢となる可能性がある.CII角膜上皮移植のエビデンス1.自家培養角膜上皮細胞シート世界で初めての自家培養角膜上皮細胞シート製品(ネピック,ジャパン・ティッシュエンジニアリング)が承認され,臨床使用可能となっている.片眼性の角膜上皮幹細胞疲弊症C10眼に対して「医薬品の製造管理及び品質管理の基準」(GMP)に準拠した自家培養角膜上皮細胞シートを移植する前向き多施設臨床試験によれば,手術後C1年間で,10眼のうちC6眼(60%)で角膜上皮再建が成功し,アロの輪部移植で得られる成功率(15%)よりも有意に高かった9).また,視力改善はC50%(1年)とC60%(2年)で認められた.移植に関連する臨床的に有意な有害事象は観察されなかった.片眼性の化学外傷後などの角膜上皮幹細胞疲弊症に対するネピック治療が期待される.CIII角膜実質移植のエビデンス1.Bowman層移植Bowman層移植は,円錐角膜眼の実質内にCBowman層のインレーを挿入する新しい外科的治療である.進行性の円錐角膜C29人C35眼に対し,Bowman層移植を行い,長期経過を観察した報告によれば,進行した円錐角膜(Kmax>69D)に対して円錐角膜を安定化させ,術後C8年までコンタクトレンズの装用が可能であった(成功率C85%)10).とくに進行した円錐角膜(Kmax>69D)に対して,コンタクトレンズ耐性を維持する目的で治療選択肢となる可能性がある.おわりに角膜移植に関して,最新の臨床研究によるエビデンスの概要を紹介した.あくまで概要であるため,実際に各治療を施行する際には,おのおのの詳細を参照することが必要である.文献1)SinghT,IchhpujaniP,SinghRBetal:Isultra-thinDes-cemetCstrippingCautomatedCendothelialCkeratoplastyCaCvia-blealternativetoDescemetmembraneendothelialkerato-plasty?asystematicreviewandmeta-analysis.TherAdvOphthalmol15:25158414221147823,C20232)PottsLB,BauerAJ,XuDNetal:Thelast200surgeon-loadedCDescemetCmembraneCendothelialCkeratoplastyCtis-sueCversusCtheC.rstC200CpreloadedCDescemetCmembraneCendothelialCkeratoplastyCtissue.CCorneaC39:1261-1266,C20203)RosenwasserCGO,CSzczotka-FlynnCLB,CAyalaCARCetal;CCorneaCpreservationCtimeCstudygroup:E.ectCofCcorneaCpreservationCtimeConCsuccessCofCDescemetCstrippingCauto-matedCendothelialkeratoplasty:aCrandomizedCclinicalC(47)あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024C413

白内障治療のエビデンス

2024年4月30日 火曜日

白内障治療のエビデンスEvidenceforCataractTreatment松島博之*はじめにエビデンスとは科学的根拠を示す.この科学的根拠に基づいて治療指針を記したものを診療ガイドラインという.日本ではC2002年に『科学的根拠(evidence)に基づく白内障診療ガイドライン策定に関する研究』によって初めて白内障診療ガイドラインが作成されたが,以降アップデートはされていない.今回,このガイドラインも含めて,海外で作成された新しい主要白内障診療ガイドラインの概要をまとめて比較した(表1).CI科学的根拠(evidence)に基づく白内障診療ガイドライン策定に関する研究(日本)1)2002年にC21世紀型医療開拓推進研究事業として日本白内障学会を中心に作成された,日本における唯一の白内障診療ガイドラインである.1987.2000年までのエビデンスの高い文献を整理し,白内障診療をガイドする内容を目指して作成された.190ページにも及ぶ大作で詳細に記載されている.概要を項目別に下記に示す.1)白内障分類と疫学:皮質,核,後.下白内障の三主病型を用いる.喫煙,紫外線,薬物(ステロイド),遺伝などが危険因子.2)手術適応と視機能:視力と視力低下以外のコントラスト感度低下や自覚的視覚障害を参考に手術適応を決める.3)手術:患者状態と術者の技能レベルに適した麻酔方法を選択する.白内障手術によってC95%以上の患者でC0.5以上の矯正視力を得る.小切開から挿入可能なfoldable素材が使用しやすい.多焦点眼内レンズ(intra-ocularlens:IOL)はグレア・ハローが生じやすい.術中合併症や術後合併症の頻度についても記載あり.4)糖尿病白内障:糖尿病者は有意に白内障を発生しやすい.視力改善率はC55%と通常の白内障手術後より低く,網膜症や黄斑浮腫のコントロールが必要である.5)薬物療法:十分な科学的根拠をもつ白内障治療薬はない.認可の時期が古く評価方法も旧式であるため,大規模な比較試験が望まれる.20年以上も前の診療ガイドラインであり,筆者も分担研究者として参加した.多くの文献を確認してまとめたアブストラクトテーブルを作成する作業は,非常に大変であった.現在内容を確認しても新しい分野では不足している情報はあるが,近年の白内障手術でも問題なく通じる診療上参考になる内容である.CIIEvidence-basedguidelinesforcataractsurgery:GuidelinesbasedondataintheEuropeanRegistryofQualityOutcomesforCataractandRefractiveSurgerydatabase(欧州)2)2009年1月1日.2011年8月28日に入力されたデータ(523,921件の白内障手術)に基づき,白内障・屈折矯正手術の治療と標準治療を改善し,ヨーロッパ全土(11カ国対象)における白内障・屈折矯正手術のエビデ*HiroyukiMatsushima:獨協医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕松島博之:〒321-0293栃木県下都賀郡壬生町北小林C880獨協医科大学眼科学教室C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(39)C405表1おもな白内障診療ガイドラインタイトル科学的根拠に基づく白内障診療ガイドライン策定に関する研究CEvidence-basedguidelinesforcataractsurgery:GuidelinesbasedondataintheEuropeanRegistryofQualityOutcomesforCataractandRefractiveSurgerydatabaseCataractinAdults:CManagementCCataractintheAdultEyePreferredPracticePatternCCataract-TreatmentofAdults発行年C2002C2012C2017C2021C2021発行者日本白内障学会CEuropeanSocietyofCataract&RefractiveSurgeons(ESCRS)CNationalInstituteforHealthandCareExcellence(NICE)CAmericanAcademyofOphthalmology(AAO)CBritishColumbiaGuidelinesandproto-colsAdvisoryCommitteeページ数C190C7C25C124C11対象白内障一般白内障一般成人(1C8歳以上)白内障成人(1C8歳以上)白内障成人(1C9歳以上)白内障内容1987年.C2000年の文献を抽出し,白内障の診療に関する課題や疑問点を決定.文献の質を評価し,有用文献からアブストラクトテーブルを作成しエビデンスを抽出した.白内障分類と疫学,手術適応と視機能,手術,糖尿病白内障,薬物療法など詳細にまとめている.2009年C1月C1日.C2011年C8月C28日までに入力C921,されたデータ(C523件の白内障手術)に基づき,白内障・屈折矯正手術の治療と標準治療を改善し,ヨーロッパ全土における白内障・屈折矯正手術のエビデンスに基づいたガイドラインを作成することを目的としたプロジェクト.NICEはイギリスの医療品質を向上させるために設立されたイギリス政府機関管轄下の特別医療機構.ガイドライン作成を業務とし,このガイドラインでは白内障の予防治療について,医療従事者だけでなく患者向けの情報も提供している.術中術後合併症の対処法など専門的な情報も記載している.AAO会員と一般市民へのサービスとして,質の高い眼科医療を提供するためのガイドラインを作成した.個人に適合するものではなく診療パターンの指針を示すことで,各医師が症例に合った治療の選択ができるようにするもの.本ガイドラインの有効期限はC5年間で,2016年が前回の改訂.カナダ,ブリティッシュコロンビア州の開業医に向けて勧告を提供する臨床実践ガイドラインとプロトコールの一部.このガイドラインでは白内障の予防,診断,管理,術後ケアについて,手術よりもプライマリケアに特化して推奨項目をまとめている.評価されている.このガイドラインの対象は医療従事者だけでなく,白内障治療を受ける患者や家族も参考にできる内容となっている.そのため前半は比較的簡単な注意事項などが中心となっているが,後半には専門的な知識も解説されている.医師に対しての解説もこれまでのものとは異なり,白内障術前に説明するべき項目や点眼の種類,術前術後の処置などの丁寧な解説が示されている.研修医向けのような簡易で一般的な項目だけでなく,IOL度数計算では眼軸長に合わせた計算方法などの解説もある.IOLの選択方法を述べたあとに,実際の手術時にCIOL選択間違いを防ぐ方法や当日の注意点まで述べている.さらに両眼同時手術の適応や術中術後合併症である術中虹彩緊張低下症,後.破損,術後眼内炎,黄斑浮腫,カプセルテンションリングの適応などについても解説がある.比較的記載項目が多いが,切り口がほかのガイドラインと異なるところが興味深い.CIVCataractintheAdultEyePreferredPracticePattern(米国)4)米国眼科学会(AmericanCAcademyCofCOphthalmolo-gy:AAO)で作成された診療ガイドラインでC2021年に改訂されている.膨大な情報を整理して有用な情報が記載された診療ガイドラインに仕上げられている.エビデンスを整理することで診療パターンの指針を示しているが,必ずしも個々の患者がこのガイドラインに適合するものではなく,各医師の判断と責任のもとで治療方法を決定すると記載されている.また,ガイドラインの有効期限もC5年間としておりC2016年に続いてC2回目の改訂となる.このガイドラインの概要を示す「所見のハイライトと治療推奨項目」が以下のようにまとめられている.1)白内障は外科的手術が有効である.2)食事や栄養補助食品など白内障の予防や治療に対する効果は立証されていない.3)米国白内障手術の多くは,外来で行われる小切開超音波乳化吸引術と折りたたみ式CIOL挿入術である.4)トーリックやプレミアムCIOLを使用した屈折矯正白内障手術は,眼鏡やコンタクトレンズへの依存度を低下させる.5)フェムトセカンドレーザー白内障手術(femtoClaserCassistedCcataractsurgery:FLACS)は,連続円形切.の正円度,角膜切開の精度を向上させ,核破砕時の超音波のエネルギー量も減少する.しかし,この技術はまだ費用対効果に優れているとはいえず,全体的なリスクプロファイルは未知数である.6)非ステロイド性抗炎症薬点眼は,術後早期の.胞様黄斑浮腫の発生率を減少させる.7)抗生物質の前房内投与は術後細菌性眼内炎のリスクを減少させる.逆に術後局所的抗生物質の有益性についてのエビデンスは少ない.8)軽度から中等度の緑内障患者に対する白内障手術併用低侵襲緑内障手術は眼圧下降効果がある.詳しく読むと術前検査から手術,IOLの種類や術後合併症,白内障手術の費用対効果まで詳細な記載があり,最新の白内障診療情報が得られるガイドラインである.CVBCGuidelinesCataract-TreatmentofAdults(カナダ)5)カナダ・ブリティッシュコロンビア州の眼科診療を支援する目的でC2021年に作成されたガイドラインで,成人(19歳以上)の白内障に対する予防,診断,治療,術後管理について手術を行う病院よりも白内障を初診として診察する一般眼科医に向けてまとめている.このガイドラインでも喫煙とステロイドはリスクファクターとされ,糖尿病や紫外線も白内障の進行を早めるとする.他に,家族歴,高血圧,高圧酸素療法もリスクになるとしている.薬物治療に関しては,前述同様に白内障に対する効果的な薬物療法はなく,眼鏡やコンタクトレンズによる屈折矯正は手術時期を遅らせる効果があるとしている.通常の視力低下による白内障手術適応とは別に,進行した白内障による虹彩炎と眼圧上昇や狭隅角による眼圧上昇のリスクがある場合や,白内障によって糖尿病網膜症や腫瘍などの管理が困難な場合も手術を必要とするとしている.このガイドラインに記載されていた項目で興味深いのが,白内障手術の効果として身体的・精神的に生活の質(qualityoflife:QOL)が改善するだけでなく,転倒骨折の可能性をC38%減少させ,車の運転による交通事故をC53%減少させるという報告が(41)あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024C407-

ぶどう膜炎治療のエビデンス

2024年4月30日 火曜日

ぶどう膜炎治療のエビデンスEvidenceforUveitisTreatment臼井嘉彦*はじめにぶどう膜炎は,狭義ではぶどう膜(虹彩,脈絡膜,毛様体)の炎症をさすが,広義には隣接する網膜,視神経,角膜など眼内に生じた炎症を意味する.原因は多岐にわたり,感染症,自己免疫疾患,薬剤性などがある.ぶどう膜炎はC10万人あたりC17.52人/年の発生で,西欧諸国のC9.15%の失明原因となっている1).現在ではC70種類以上のぶどう膜炎が報告されるため,治療にはさまざまな方法が存在する.ぶどう膜炎の治療に関するエビデンスは多くの研究に基づいているが,それぞれの疾患は希少疾患であり,疾患のタイプや重症度,人種,患者の基礎疾患などによって最適な治療戦略が異なるため明確なエビデンスが存在しないことが多く,エビデンスが不十分であると結論づけられることが多い.とくに,エビデンスピラミッド(図1)の頂点に位置するシステマティックレビューやメタアナリシスでは,ぶどう膜炎に関する十分な症例数と質の高い報告がきわめて少ない.日本では,「ぶどう膜炎診療ガイドライン」2)や「Behcet病診療ガイドライン」3)「サルコイドーシス診療の手引きC2023」4)が策定されたが,いずれも希少疾患のためエビデンスレベルの高い報告がほとんどなく,システマティックレビューによる評価は行われていない.そのため今後も多施設におけるぶどう膜炎の症例を蓄積する必要がある.本稿では,このような背景を踏まえて,非感染性ぶどう膜炎治療のエビデンスについて概説する.I原因に応じた治療ぶどう膜炎は大きく感染性と非感染性に分けられ,感染性ぶどう膜炎では病原微生物に応じた抗生物質,抗真菌薬,抗ウィルス薬などの特異的治療が必要であり,早期の診断と適切な治療が視機能予後を左右する.非感染性ぶどう膜炎の多くは後述のとおり自己免疫的な原因によるもので,ステロイド治療や免疫抑制療法,腫瘍壊死因子(tumorCnecrosisfactor:TNF)阻害薬を代表とした分子標的薬が主体となる.CIIステロイド治療多くの臨床研究がステロイドの炎症抑制効果を示しているため,大部分の非感染性ぶどう膜炎の治療においては点眼,全身投与,もしくは局所注射としてのステロイドが第一選択となる.ステロイドは炎症反応を抑制することで,症状の軽減や再発の予防に効果があり,そのエビデンスは多くの臨床試験や観察研究に基づいている.ステロイドの全身投与は副作用が強いことから(図2),これらを軽減するために,まずは局所投与を試みることが推奨される.局所投与方法には,点眼,結膜下投与,Tenon.下投与,硝子体内投与がある.前眼部をおもに影響する炎症で視機能が保たれている患者では,リン酸ベタメタゾン(リンデロン)点眼と瞳孔散瞳薬(ミドリンCMやミドリンP,アトロピンなど)による治療が行われる.ステロイド点眼は長期使用により白内障や角膜*YoshihikoUsui:東京医科大学臨床医学系眼科学分野〔別刷請求先〕臼井嘉彦:160-0023東京都新宿区西新宿C6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野C0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(33)C399白内障満月様顔貌高眼圧精神障害不眠高血圧胃潰瘍肥満生理不順骨粗鬆症図1エビデンスピラミッド図2副腎皮質ステロイドの全身投与による副作用効果は高いが諸刃の剣である.ステロイド内服量5mg/日10mg/日患者の多くでリスク因子の有無患者の多くでベネフィットがリスクおよび/またはリスクがベネフィットを上回る予防状況に左右されるを上回る図3長期ステロイド内服によるリスクとベネフィット(文献C8より作図)(mg/日)151050期間(週)図4VisualIII試験における経口ステロイドの平均投与量の推移全患者の経口ステロイドの平均投与量は,投与時(0週)がC9.4C±17.1mg/日,150週時がC1.5C±3.9mg/日であった.(文献C12より改変引用)ステロイド,非ステロイド性ハードル小抗炎症薬(NSAID)点眼=効果小,副作用小ステロイド局所投与(結膜下・Tenon.下)ステロイド全身投与免疫抑制薬ハードル大生物製剤(TNF阻害薬)=効果大,副作用大図5非感染性ぶどう膜炎における黄斑浮腫の治療NSAIDs:非ステロイド性抗炎症薬経口ステロイドの平均投与量012304254667890102114126138150-’C’C

生物学的製剤のエビデンス

2024年4月30日 火曜日

生物学的製剤のエビデンスEvidenceforBiologicalMedicalProducts溝渕朋佳*山城健児*はじめに生物学的製剤は,生物が産生する蛋白質などを使用した薬剤である.現在,眼科領域では加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)やぶどう膜炎,視神経脊髄炎スペクトラム障害の再発予防薬などさまざまな疾患に使用されており,近年次々に新しい薬剤が開発されている.そのなかから今回は,新生血管型AMDに対して使用されている抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬と,萎縮型AMDに対して近年米国で承認された薬剤について概説する.IVEGFとはVEGFは血管新生や血管透過性を亢進させるサイトカインで,網膜の発生や病態に重要な役割を果たしている.VEGF-A,VEGF-B,VEGF-C,VEGF-D,VEGF-E,VEGF-F,胎盤増殖因子(placentalgrowthfactor:PlGF)のVEGFファミリーで形成されており,一般的にVEGFという言葉を使った場合にはVEGF-Aのことをさす.VEGF受容体にはVEGFR-1,VEGFR-2,VEGFR-3があり,網膜にはVEGFR-1とVEGFR-2が発現していることが知られている(図1).VEGFR-2がおもに血管新生や血管透過性亢進に関与しており,VEGFR-1は炎症を介して血管新生や血管透過性亢進に関与している.血管新生にかかわる因子をターゲットにすることによって,腫瘍に対する新たな治療方法が開発できるのではないかという議論が,1970年代からなされていた.1989年にその因子がVEGFであることが発見され,同時にVEGFが以前から血管透過性因子(vascularper-meabilityfactor:VPF)とよばれていたものであることも判明した.その後,動物実験レベルでは腫瘍や脈絡膜新生血管に対する抗VEGF抗体の効果が示されていたが,世界初の抗VEGF抗体薬であるベバシズマブが転移性大腸癌の治療薬として米国で承認されたのは2004年のことである.眼科領域では,2005年にベバシズマブの全身投与がAMDに有効であることが示され1),同年にベバシズマブの硝子体内注射も試されている2).そして,2006年にはベバシズマブの硝子体内注射がAMDに有効であることが確認された3).AMDに対する抗VEGF薬としては2004年にベガプタニブが米国で承認されているが,2006年に承認されたラニビズマブの登場後に徐々に使用されることがなくなり,日本では2019年にベガプタニブの販売が中止されている.II抗VEGF薬現在,AMDに対して保険適用となっている抗VEGF薬はラニビズマブ(ルセンティス),バイオシミラーのラニビズマブBS,アフリベルセプト(アイリーア),ブロルシズマブ(ベオビュ),ファリシマブ(バビースモ)であり,ベバシズマブ(アバスチン)は保険適用外である.*TomokaMizobuchi&KenjiYamashiro:高知大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕山城健児:〒783-8505高知県南国市岡豊町小蓮高知大学基礎・臨床研究棟6F高知大学医学部眼科学講座0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(27)393重鎖軽鎖軽鎖Fab領域Fc領域VEGFR-1VEGFR-2VEGFR-3図1VEGFとVEGF受容体図2ベバシズマブの構造表1抗VEGF抗体の構造と適用疾患アバスチンラニビズマブアフリベルセプトブロルシズマブファシリマブ抗体標的CVEGF-ACVEGF-ACVEGF-ACVEGF-BCPlGFCVEGF-ACVEGF-ACAng-2分子量C147CkDaC48CkDaC97-115CkDaC26CkDaC149CkDa投与量C1.25CmgC0.5CmgC2.0CmgC6.0CmgC6.0Cmg中心窩下脈絡膜新生血管を伴う◯C◯C◯C◯適用疾患加齢黄斑変性C糖尿病黄斑浮腫C◯C◯C◯C◯網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫C◯C◯C◯近視性脈絡膜新生血管C◯C◯血管新生緑内障C◯未熟児網膜症C◯C◯CアフリベルセプトベバシズマブVEGFR-1VEGFR-2Tie-2Integrin図3抗VEGF抗体と受容体の応答図4補体経路とペグセタコプラン,アバシンカプタドペゴルの作用部位

信頼される再生医療に向けたエビデンス構築について

2024年4月30日 火曜日

信頼される再生医療に向けたエビデンス構築についてEvidencefortheBuildingofReliableRegenerativeMedicine八代嘉美*はじめに再生医療とは,疾患や外傷などさまざまな理由によって不可逆的な機能不全状態となった臓器を,薬や人工素材,細胞などを用いて回復させることをめざす医療の総称である.わが国では再生医療を政策的に推進するため,2013年に「再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律(再生医療推進法)」が公布された.これを基本法として,薬や医療機器の品質や安全性について定めていた薬事法に新たに再生医療や遺伝子治療にかかわる項目が加えられ,薬機法として改正されるなど法制度でも大きな変革へとつながっている.新法の制定はかねてより新しい医療技術を取り入れるスピード感の乏しさが指摘されてきたわが国の医療行政の大きな変化となる契機でもあった.しかし,再生医療はこれまでの化学的に合成された物質を起源とする医薬品と異なり,生きた「細胞」を原料とすることから,既存の安全性や有効性評価と異なる評価が必要となる.一方,再生医療という新たな医療技術に対しては社会からの期待が大きく「hype(過熱)」状態を招来しかねない状況にあり,科学的なエビデンスを積み重ねて社会からの信頼を獲得するべき状況にある.本稿では再生医療の社会的な制度とエビデンス構築について概説し,社会実装のために必要な事項について考察する.I再生医療のこれまで日本において,再生医療を推進する法律が成立した契機としてはiPS細胞の樹立が大きかったが1),政策的に重要視されるようになったのはそれをさかのぼること約10年,新千年紀を迎えるにあたって政府が主導・策定した「ミレニアムプロジェクト」において,「再生医療の実現化プロジェクト」が策定されたことに源流が求められよう.高齢化社会の進展に伴い増加した不可逆的変性を伴うさまざまな疾患に対して,根治療法を提供する手段として再生医療領域に予算が重点的に配分されることとなった2).再生医療は従来の薬物の投与や外科的処置といった治療法とは異なり,培養を行うなどした細胞の体内への移植を伴う.そのため2006年に「ヒト幹細胞を用いる臨床研究指針」(ヒト幹指針)が定められ,①安全性と有効性の確保,②倫理性の担保(臨床試験を行う当該施設の倫理審査委員会と中央審査会の二重審査を経る必要がある),③事前の十分な説明に基づくドナーおよび被験者の同意の確保,④ヒト幹細胞臨床研究に使用されるヒト幹細胞などの品質の確認,⑤公衆衛生上の安全の配慮,⑥情報の公開,⑦個人情報の保護などの項目のすべての要件に適合するものでなければならないとされていた.当初,ヒト幹指針の対象は組織幹細胞に限定され,ES細胞や死亡胎児由来幹細胞に関しては規程がなかったが,iPS細胞の出現などによって状況は変わり,2010*YoshimiYashiro:藤田医科大学橋渡し研究支援人材統合教育・育成センター〔別刷請求先〕八代嘉美:〒470-1192愛知県豊明市沓掛町田楽ケ窪1-98藤田医科大学橋渡し研究支援人材統合教育・育成センター0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(21)387年C11月の改正では,ES細胞(細則において,当面はこれらを実施しないとの条件付き)・iPS細胞がその対象として盛り込まれることになった.さらにC2013年C10月に改正された新しいヒト幹指針においては,ES細胞の臨床研究に関する細則が削除され,ES細胞を用いた臨床研究にも道が開かれた.このような紆余曲折のなか,2013年に新しい法律が成立し,ヒト幹指針が効力を失うC2003.2013年の間にC99件の研究が承認されている.ただし,「指針」は法律ではないため罰則規定はなく,国などから公的な研究資金を受けているケースでもない限り,機関に対して何らかの制裁を加えることは困難であった.すなわち市中のクリニックなどで,医師の裁量権を根拠とする保険外診療にて細胞の投与を行う場合は,特別な審査を経ることもない.そのため安全性の確保や,患者からの適切な同意取得が行われていたかも不透明であり,患者にとってリスクの高い幹細胞の輸注,投与,移植と称する行為がなされていた可能性があった.このように,臨床研究は国のレベルでの承認が必要とされるものの,法律ではないルールに基づいていたが,一方で法律に定められたルールに則って実施されたものもあった.それが薬事法に基づく治験のルートによる再生医療であった.このルートでは従来の薬物などと同様の製造管理の水準や,安全性や有効性を確保するために多数の症例数が必要とされた.工業製品として相当に厳密な品質の幅の元に生産することが可能な薬物と違い,再生医療は生物として,同系統の細胞においても性質の振れ幅が大きい細胞を基礎とすること,またその治療法が適応となる患者数が必ずしも多いとは限らないことなどから,薬物と同じ水準での評価が必要となることはボトルネックとなる.そのため,薬事法のもとで承認された再生医療製品は米国やCEUのみならず,隣国韓国と比較してもかなり少なく,2例にとどまっていたことから,再生医療関係者の間では治験の制度の見直しが求められていた.CII間葉系幹細胞と再生医療前述の体性幹細胞の一つに,間葉系幹細胞,あるいは間葉系間質細胞(mesenchymalCstemcell:MSC)とよばれる細胞がある.1970年にCWolfとCTrentinは脾臓中もしくは骨髄内に造血幹細胞の分化を抑制し,幹細胞を維持できる環境があることを報告した3).こうした幹細胞が存在するための環境を「ニッチ」とよぶが,1977年になりCDexterらは骨髄から取り出した細胞を長期培養できる方法を確立した4).体外での造血幹細胞の維持は,この細胞との接着性と密接に関係することがわかり,この集団が重要な役割を果たすことが明らかとなってきた.さらに細胞の膜表面抗原パターンにより,これらのなかで造血幹細胞を支持する細胞集団を選択的に単離できるようになり,その研究は飛躍的に進んだ5).梅澤らがこうした骨髄中の細胞から,骨,軟骨,脂肪といった細胞に分化するユニークな性質をもった細胞株を樹立した6).間質系細胞は中胚葉から分化してできる細胞と考えられているが,ほかの体性幹細胞と比較しても,分化できる細胞の多様さは特筆すべきものがある.また,その細胞の起源となる部位についても,当初は骨髄中や臍帯血中の細胞集団をさしていたが,2002年に脂肪組織から性状のよく似た細胞集団を得ることができるという報告がなされ,再生医療のリソースとして,大きな注目を浴びることとなったのである7).CIII市中クリニックにおける事故の発生このような間葉系幹細胞の「神秘的」な性質や,iPS細胞のもつポジティブなイメージを利用する形で,細胞の移植があたかも万能薬であるかのように喧伝しているクリニックも少なからず存在している.国外に目を転じても,市中のクリニックが行う再生医療にはさまざまな問題があることが指摘されている.たとえば,幹細胞クリニックが実施するCwebでの情報発信では,幹細胞があらゆる疾患に効果的で安全性が確保されているような宣伝がなされるが,実際はそうした内容の裏付けに乏しいケースが散見される.そのため,患者は十分かつ適切な情報を得られず,危険にさらされる可能性があった8).そうしたなか,2010年に韓国人男性が日本国内で,糖尿病を治療する目的で脂肪由来細胞とされる点滴を輸注され,その後死亡するという事例が生じた.韓国では,仮に同一患者の細胞であろうとも,ひとたび体外に取り出された後は薬事法による治験などの手続きを経な388あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024(22)ければ体内に移植することはできないが,日本では医師の裁量権を根拠とする保険外診療で細胞の投与を行う場合,薬事法に基づく治験の申請は必要ないと考えられていた.また,前述の「ヒト幹指針」は法律ではなく,あくまで臨床研究を対象とした指針であるために,保険外診療は対象外であった.この患者では,死因と点滴を明確に結びつける解剖結果などは報じられておらず,その因果関係は明らかではないが,逆にいえばそのような不明瞭な点が残ること自体が患者保護の観点から大きな問題であった9).市中クリニックにおける行為が明るみに出るにつれ,これらの行為は医療倫理の観点から重大な問題であるのみならず,研究を推進する立場からも健全な再生医療の推進の妨げになると考えられるようになった.すなわち,ルールを遵守した研究によって科学的根拠を打ち立てようとする側ほどさまざまなルールにがんじがらめにされ,自由診療であればエビデンスが明確でなくとも自由にサービスを提供できることになってしまう,という矛盾を抱えていた.CIV法制度の整備そこでC2013年に議員立法によって「再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律」(再生医療推進法)が成立し,ついで内閣提出による「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(再生医療等安全性確保法)が成立,薬事法が改正され,「医薬品,医療機器等の品質,有効性および安全性の確保等に関する法律」(薬機法)となり,再生医療を推進する法律の整備が行われた(再生医療等安全性確保法の施行に伴い,ヒト幹指針は施行前日のC2014年C11月C24日限りで廃止).ヒト幹指針では機関内会と国の二重審査が必要とされてきたが,安全性確保法では,再生医療等行為がリスクのレベルによって三つに分けられており,もっともハイリスクなもののみが特定認定再生医療等委員会での審査と厚生科学審議会での審議という二重審査が求められる.その下のレベルでは特定認定再生医療等委員会,もっとも低リスクとみなされるものでは特定認定再生医療等委員会よりも構成メンバーの要件が緩やかな認定再生医療等委員会の審査で承認されたのちは,厚生労働大臣への届け出のみで実施できる(図1).この法律が施行されることによって,自由診療による再生医療等行為の提供自体が禁止されるわけではないが,届出を行っていなかったり,届出と異なる行為を行っていたりする場合に取り締まる根拠ができ,有害な事象が生じた場合にも,施設内に立ち入って調査・把握することができるようになった.薬事法が薬機法に改正されたなかで,再生医療に関する大きな変更は,「再生医療等製品」を新たに定義したうえで再生医療等製品に関する「章」を新設し,「条件および期限付き承認制度」を新たに導入したことである(図2).この制度により,前例よりも治験での症例数が少ない場合でも,有効性が推定され安全性が確認できれば早期承認することが可能になった.そのうえで市販後に症例を蓄積し,7年を超えない期間内に改めて承認申請がなされ,承認を受ければそのまま継続販売が可能,ということが明文化されたのである.2024年C2月現在,薬機法のもとでは四つの製品が条件・期限付き承認とされている.CV再生医療のエビデンスレベル再生医療等製品の条件・期限付き承認での有効性の水準は,いわゆる希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)で許容されることがある水準と同等と説明されている.統計的な厳密さをもたなくても,試験集団での有効性の傾向や,癌の治療効果でよく用いられるようなサロゲート・エンドポイントのみでの探索的な有効性,臨床的な意義のある有効性をもつ実患者の例などであり,「条件・期限付き承認」はこうした水準を「有効性の推定」として明文化したものということができる(図3).オーファンドラッグと条件をそろえることとなったのは,希少な疾患を対象とする疾患では少数の治験例に頼らざるを得ないことや,比較臨床試験や統計的に厳密な評価が困難であることといった条件が再生医療と通底するからであると考えられる.そのため,どちらについても,市販後の追加的な有効性の調査や,適正使用の確保のために使用できる医療機関が限定されるなどの承認条件が付されている10).(23)あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024C389(注1)再生医療等技術や法律の専門家などの有識者からなる合議制の委員会で,厚生労働大臣の認定を受けたもの.図1「安全性確保法」の実施プロセス-条件付き承認通常承認通常の医薬品・再生医療等製品の追加・条件付き・期限付き承認の追加従来の承認プロセス臨床臨床試験承認市販研究有効性および安全性の確認早期実用化に対応した承認制度臨床臨床試験条件付き市販承認研究効能の前提,安全性期限付き効能の確認と販売後のまたは市販の確認承認更なる安全性の検証取り消し患者からの同意を得て,市販後調査を実施図2「有効性の推定」と承認の関係再生医療等製品-

近視進行抑制のエビデンス

2024年4月30日 火曜日

近視進行抑制のエビデンスLatestEvidencefortheControlofMyopia森紀和子*栗原俊英**はじめに近視人口は急増しており,今や世界人口の約1/3が近視である.とくに東アジア各国での近視人口割合は高く,若年者の8.9割が近視である.近視の増加は各国で喫緊の課題としてとりあげられており,近視に関する基礎研究,疫学調査,臨床試験などが近年盛んになっている.しかし,近視進行抑制治療を評価する研究は,臨床での実践と根底にある作用機序の両方を伝える方法で計画されるべきであり,その結果として近視進行抑制の妥当性を検証するものでなければならない.しかし,最近の試験の一部には,盲検化,無作為化,同時対照群,明確に定義された登録基準など,バイアスを最小限に抑える要素が欠けているものがあり,不正確な結論が生じる可能性がある.2015年,世界保健機関(WorldHealthOrganiza-tion:WHO)はオーストラリアのブライアン・ホールデン視覚研究所と共同で,近視と強度近視の公衆衛生に与える影響に関する声明を発表し,近視と強度近視は視覚障害の起因となりうると結論づけた.それに応じる形で,国際近視機関(InternationalMyopiaInstitute:IMI)が設立され,世界各国の近視研究・臨床専門家による議論のうえでエビデンスに基づいた近視の分類,患者への対応,研究成果をまとめ,2019年から2年ごとに白書が発行されている.本稿では,「IMI白書2023」1)を踏まえながら執筆時点での最新のエビデンスを紹介し,今後の近視研究の方向性を提示する.I近視の定義と分類1.近視近視とは眼の調節が弛緩しているときに,眼軸に平行に眼に入る光線が網膜の前で焦点を結ぶ屈折異常のことをいう.多くの場合,眼球の前後径(眼軸長)の過度な伸長が原因(軸性近視)であるが,過度に弯曲した角膜や屈折力が増大した水晶体によって引き起こされる場合(屈折性近視)もあり,いずれも近視と定義されている.以前は近視と強度近視の定義が研究によってさまざまであったが,中国の100万人以上の参加者による41件の研究を含む最近のメタ解析2)では,近視は.0.5D,強度近視は.6.0Dという閾値についてコンセンサスが得られている.乱視に関してはばらつきがあるものの.0.75Dがもっとも一般的であった.この大規模な研究において,正視は近視または遠視として認定されない除外基準によって定義されている.これにより,近視と遠視の両方を定義した23件の研究のうち11件では正視が等価球面度数(sphericalequivalent:SE)>.0.50Dおよび<+2.0Dと定義されていた.以上より近視は.0.50..6.0D,強度近視は.6.0Dより強度のもの,遠視は+2.0Dより強度,乱視は0.75Dより強度のものと定義すると「IMI白書2023」では結論づけられている.これにより不明確な基準のもとで行われていた臨床研究が一致した基準のもとに行われて効果比較が容易になった.*KiwakoMori:慶應義塾大学医学部眼科学教室,慶應義塾大学医学部眼科学教室光生物学研究室,麹町大通り眼科**ToshihideKurihara:慶應義塾大学医学部眼科学教室,慶應義塾大学医学部眼科学教室光生物学研究室〔別刷請求先〕森紀和子:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/24/\100/頁/JCOPY(9)37522mm24mm成人時:正視(0D)水晶体屈折力:24D強度近視(-6D)26mm図1眼球の前後径(眼軸長)の伸長と屈折力生後,眼球全体が大きくなるにしたがって,角膜はより平坦に,水晶体厚はより薄く変化し,屈折力は減少する一方,眼球の前後径(眼軸長)は1歳時点では20mm,6歳までに22mm,成人で24mm程度へと伸長し,屈折は正視を保とうとする.正視状態の均衡を破ってさらに眼軸長が伸長するのが,一般的に9.15歳ごろの学童期に進行する軸性近視である.近視性黄斑症正常な眼軸過剰に伸長した眼軸=強度近視近視性脈絡膜新生血管症緑内障・視神経症図2強度近視が引き起こしうる眼疾患強度近視では,過度な眼軸長伸長による眼球の形態的変化により,裂孔原性網膜.離,緑内障・視神経症,黄斑症,脈絡膜新生血管症など,視覚障害につながる眼疾患を引き起こしうる.図3軽度近視(>-3.00D),中等度近視,強度近視(<-6.00D)と近視合併症発症リスクの関連a:失明リスクのオッズ比は軽度近視1.71,中等度近視5.54,強度近視87.63.b:近視性黄斑症の発症リスクは軽度近視13.57,中等度近視72.74,強度近視845.08.c:網膜.離の発症リスクは軽度近視3.15,中等度近視8.74,強度近視12.62.d:緑内障の発症リスクは軽度近視1.59,中等度近視2.92,強度近視2.92.以上のように,近視の強度が強くなるほど合併症のリスクが上がる.(文献9より改変引用)95%近視(%)100806040200年齢小学校中学校(歳)図4日本の近視疫学調査による近視罹患率の変遷近視有病率がC1984年.1994年にかけてC10.20%の増加を示し,2017年にはさらに著しく増加している.(文献C10,11より改変引用)357911131517抑制率(%)屈折抑制効果(%)眼軸長抑制効果(%)80807060504030201007775747270696663646260555352535252525050504747434342393737363634343231303026242121202018171715151411113累進屈折カレンズ15)二重焦点眼鏡38)MiYOSMART(DIMS)16)Stellest(HALT)30)SightGlass(DOT)28)オルソケラトロジー50)オルソケラトロジー51)オルソケラトロジー52)オルソケラトロジー53)オルソケラトロジー17)オルソケラトロジー62)二重焦点SCL18)二重焦点SCL19)二重焦点SCL32)EDOF35)EDOF46)多焦点SCL62)多焦点SCL46)多焦点SCL20)1%atropine21)0.5%atropine21)0.1%atropine21)0.01%atropine21)0.01%atropine22)0.01%atropine41)7.MX69)クロセチン71)屋外活動23)屋外活動24)屋外活動25)赤色光80)紫色光88)紫色光89)オルソ+0.01%atropine26)多焦点SCL+0.01%atropine67)多焦点SCL67)併用療法図5各近視介入研究による近視進行抑制効果(グラフ横軸の各項目に記載した番号の文献より改変引用)調節ラグ遠見近見時に調節できない焦点ずれ軸外収差理想的な周辺視近見時に生じる周辺の焦点ずれ特殊眼鏡による軸外収差補正図6遠視性デフォーカス(焦点ぼけ)による眼軸長伸長仮説とその理論に基づく近視進行抑制特殊眼鏡レンズの作用機序単焦点レンズによる屈折矯正では近見時の不十分な調節(調節ラグ)もしくは視軸外の周辺光線(軸外収差)により網膜後方に焦点が生じ(遠視性デフォーカス),眼球はこれに順応しようとして眼軸長が伸長し近視が誘発される.近視進行抑制特殊眼鏡では視軸を除いた周辺光線が網膜前方に焦点を生じるため,眼軸長伸長が抑制される.の治療を受けていた患者では,休薬によってより速いリバウンドがみられ,休薬と継続治療の差は年齢が高いグループほど小さかった45).また,別の研究で,不同視患者の眼軸長が長い眼に投与された単眼のC0.125%アトロピン療法では,眼軸長伸長を抑制し,不同視を軽減させた65).さらにCpre-myopiaの学童を対象としたC0.01%アトロピン点眼投与試験で,アトロピン点眼投与が近視の発症を遅らせる可能性があることが示された66).濃度アトロピン点眼と光学的介入を組み合わせた試験ではさまざまな結果が報告されている.+2.50D加入の非球面多焦点CSCLを含むC3年間の観察で毎日C0.01%アトロピン点眼を追加しても有効性の相乗効果はみられなかった67).一方,学童を対象としたCOrtho-K単独群またはC0.01%アトロピンとCOrtho-Kを併用した群のランダム化臨床試験においては,併用群でより高い効果が得られたことが報告されている68).Cb.経口7-メチルキサンチン(7-MX)カフェインの近縁種であるアデノシン拮抗薬のC7-MXは,観察研究が行われたデンマークですでに使用が承認されており,そこではC7.15歳のC711人の患者コホートを使用して年齢と用量による効果が調査され,その結果,高用量がもっとも高い近視抑制効果を示した69).7-MXによる近視進行抑制治療は欧州で行われているが,日本において近視進行抑制を目的に未承認薬として用いている医療機関は限定的である.Cc.クロセチン207種類の食品由来因子のスクリーニングを行い近視抑制因子CEGR-1の活性程度を測定したところ,クロセチンにもっとも大きな活性を認めた70).クロセチンは,クチナシやサフランに含まれる黄色の天然色素であるカロテノイドの一種で,強い抗酸化作用がある.古くから着色料やスパイスなどの食用として,また薬用にも使われている.細胞レベルにおいてクロセチンにより近視抑制因子CEGR-1が有意に活性化され,またマウスの投与実験においては眼軸長伸長の抑制効果が示された70).さらに学童における多施設ランダム化対照試験ではクロセチン投与群がプラセボ投与群に比較して有意に近視の進行が抑制された71).3.環境的介入a.屋外活動の推進屋外で過ごす時間が少ない学童は,近視を発症する可能性が高くなる72).インドの学童を対象とした研究では,週にC4時間以上ビデオゲームをすることで近視になるリスクがC8倍に上昇し,時間に比例してリスクが上がる一方,週にC14時間,1日C2時間以上の屋外活動をすると近視のリスクがC0.2に低下したとの報告がある73).また,屋外活動時間が確保されれば,近業作業が長くても近視発症リスクが抑えられるとの報告もある74).これらの研究から,近視の発症を遅らせ,発症を予防する効果を最大限に高めるには,屋外で過ごす時間をC1日あたり平均約C2時間確保すべきであるとされている.C4.光療法a.赤色光長波長可視光の赤色光はアカゲザルとツバイにおいて眼軸長伸長抑制効果を認め75.77),2021年以降,学童の近視進行抑制治療として応用されている.しかし,近視研究でよく使われるほかの動物種においては一貫した効果がなく,とくにヒヨコにおいて眼軸長はむしろ伸長することが示されている78,79).メカニズムについても不明な点が多く,さらなる研究が必要である.低レベル赤色光(low-levelred-light:LLRL)療法とよばれる少なくともC4時間の間隔をあけてC1日C2回C3分間長波長光(635.650Cnm・0.29.0.4CmW)を照射する治療に関する前向き臨床試験と後ろ向き研究の報告がC4件80.83)あり,そこでは少なくともC2年間で単焦点レンズ単独群に比べてCLLRL療法群において明らかな眼軸長伸長抑制効果が認められた84).これまで一般的に他の薬理学的介入や光学的介入で報告されてきた効果に比べて非常に大きな治療効果が注目を集めている.一方ではCLLRL治療中に生じた網膜障害による視力低下の報告85)もあり,今後の長期的な安全性評価が待たれる.Cb.紫色光紫色光は屋外光に含まれるC360.400Cnmの短波長可視光だが,一般的なCLEDや蛍光灯などの人工照明には含まれず,窓ガラスによって遮断されてしまうため屋内にはほぼ存在しない.また,ほとんどの眼鏡やCCLはこ(15)あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024C381の波長域の光を遮断するため,これらによって矯正を行っている眼には届かない.マウスにおける動物実験では,赤,緑,青,紫の四つの光の波長のうち,紫色光が近視誘導における屈折・眼軸長伸長抑制および脈絡膜厚の維持効果を示した86).そのメカニズムとして,一部の網膜神経節細胞が発現する紫色光感受性非視覚光受容体OPN5が刺激され近視抑制因子CEGR1が活性化し,脈絡膜厚が維持されることによって眼軸長伸長が抑制されることが動物実験によって明らかとなっている86,87).これら基礎研究を基に開発された紫色光透過眼鏡のC6.12歳のC82名の学童を対象としたランダム化比較試験では,初めて眼鏡を使用した学童に対して有効性を認めた88).また,310CμW/cmC2の紫色光をC1日C3時間照射する紫色光照射眼鏡を用いたランダム化比較試験ではC8.10歳の学童で屈折,眼軸長ともに近視抑制効果を認めた89).いずれも有害事象は今のところ認めていないが,今後長期的な効果・安全性の検証が必要である.Cc.近業作業の軽減近業作業の増加は近視発症のリスクを高める.屋外活動の減少に伴ってスマートフォンやタブレットなどの使用時における近業が増加していることが昨今の近視増加と関連が深い.台湾で行われた大規模介入研究において,近業作業の軽減のみでは近視の罹患率が増加したのに対して,屋外活動時間の確保により近視進行抑制効果が示されている7).近業作業の軽減単独では近視進行抑制効果が得られないというのが現時点での見解である.おわりに近視の研究分野は急速に拡大を続けており,近視進行抑制治療,とくに前近視Cpre-myopiaの段階での介入へ関心が高まっている.今後は学童近視の進行抑制に加えて,強度近視の構造的影響を理解し,これに特有の治療法を提供する必要があり,成人強度近視の進行抑制するための効果的な治療法の開拓が必要である.疫学,基礎研究の発展により分子・細胞レベルでのさらに詳細な近視進行メカニズムを理解し,それに基づく安全で効果的な治療法を適切な臨床研究で実証していくことが今後も求められている.謝辞:本稿中の図表イラストの一部を作成提供した慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程のCKateGettinger氏に深く感謝いたします.文献1)SankaridurgCP,CBerntsenCDA,CBullimoreCMACetal:IMIC2023digest.InvestOphthalmolVisSci64:7,C20232)TangCY,CChenCA,CZouCMCetal:PrevalenceCandCtimeCtrendsCofCrefractiveCerrorCinCChinesechildren:aCsystem-aticCreviewCandCmeta-analysis.CJCGlobCHealthC11:08006,C20213)LiuCL,CLiCR,CHuangCDCetal:PredictionCofCpremyopiaCandCmyopiaCinCChineseCpreschoolchildren:aClongitudinalCcohort.BMCOphthalmol21:283,C20214)GuoCC,CYeCY,CYuanCYCetal:DevelopmentCandCvalidationCofCaCnovelCnomogramCforCpredictingCtheCoccurrenceCofmyopiainschoolchildren:aprospectivecohortstudy.AmJOphthalmol242:96-106,C20225)FangPC,ChungMY,YuHJetal:Preventionofmyopiaonsetwith0.025%atropineinpremyopicchildren.CJOculPharmacolTher26:341-345,C20106)YamCJC,CZhangCXJ,CZhangCYCetal:E.ectCofClow-concen-trationatropineeyedropsvsplaceboonmyopiaincidenceinchildren:theCLAMP2CrandomizedCclinicalCtrial.CJamaC329:472-481,C20237)WuCPC,CChenCCT,CChangCLCCetal:IncreasedCtimeCout-doorsCisCfollowedCbyCreversalCofCtheClong-termCtrendCtoCreducedCvisualCacuityCinCtaiwanCprimaryCschoolCstudents.COphthalmologyC127:1462-1469,C20208)FlitcroftDI:TheCcomplexCinteractionsCofCretinal,CopticalCandenvironmentalfactorsinmyopiaaetiology.ProgRetinEyeResC31:622-660,C20129)HaarmanCAEG,CEnthovenCCA,CTidemanCJWLCetal:TheCcomplicationsCofmyopia:aCreviewCandCmeta-analysis.CInvestOphthalmolVisSciC61:49,C202010)MatsumuraH,HiraiH:Prevalenceofmyopiaandrefrac-tiveCchangesCinCstudentsCfromC3CtoC17CyearsCofCage.CSurvCOphthalmol44(Suppl1):S109-S115,C199911)YotsukuraCE,CToriiCH,CInokuchiCMCetal:CurrentCpreva-lenceCofCmyopiaCandCassociationCofCmyopiaCwithCenviron-mentalfactorsamongschoolchildreninJapan.JAMAOph-thalmol137:1233-1239,C201912)MoriK,KuriharaT,UchinoMetal:HighmyopiaanditsassociatedCfactorsCinCJPHC-NEXTCeyestudy:ACcross-sectionalobservationalstudy.JClinMedC8,C201913)BullimoreCMA,CRitcheyCER,CShahCSCetal:TheCrisksCandCbene.tsCofCmyopiaCcontrol.COphthalmologyC128:1561-1579,C202114)ChuaCSYL,CSabanayagamCC,CCheungCYBCetal:AgeCofConsetCofCmyopiaCpredictsCriskCofChighCmyopiaCinClaterCchildhoodCinCmyopicCSingaporeCchildren.COphthalmicC382あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024(16)PhysiolOpt36:388-394,C201615)HasebeCS,CJunCJ,CVarnasSR:MyopiaCcontrolCwithCposi-tivelyCaspherizedCprogressiveCadditionlenses:aC2-year,Cmulticenter,randomized,controlledtrial.InvestOphthalmolVisSci55:7177-7188,C201416)LamCSY,TangWC,TseDYetal:DefocusincorporatedmultipleCsegments(DIMS)spectacleClensesCslowCmyopiaprogression:a2-yearrandomisedclinicaltrial:BrJOph-thalmol104:363-368,C202017)HiraokaCT,CKakitaCT,COkamotoCFCetal:Long-termCe.ectCofovernightorthokeratologyonaxiallengthelongationinchildhoodmyopia:aC5-yearCfollow-upCstudy.CInvestCOph-thalmolVisSciC53:3913-3919,C201218)ChamberlainP,Peixoto-de-MatosSC,LoganNSetal:A3-yearrandomizedclinicaltrialofmisightlensesformyo-piacontrol.COptomVisSciC96:556-567,C201919)SankaridurgP,BakarajuRC,NaduvilathTetal:MyopiacontrolCwithCnovelCcentralCandCperipheralCplusCcontactClensesandextendeddepthoffocuscontactlenses:2yearresultsfromarandomisedclinicaltrial.OphthalmicPhysi-olOptC39:294-307,C201920)FujikadoT,NinomiyaS,KobayashiTetal:E.ectoflow-additionsoftcontactlenseswithdecenteredopticaldesignonCmyopiaCprogressionCinchildren:aCpilotCstudy.CClinCOphthalmolC8:1947-1956,C201421)ChiaCA,CChuaCWH,CCheungCYBCetal:AtropineCforCtheCtreatmentCofCchildhoodmyopia:safetyCandCe.cacyCofC0.5%,C0.1%,CandC0.01%doses(atropineCforCtheCtreatmentofmyopia2)C.OphthalmologyC119:347-354,C201222)ChuaWH,BalakrishnanVB,ChanYHetal:AtropinefortheCtreatmentCofCchildhoodCmyopia.COphthalmologyC113:C2285-2291,C200623)WuCPC,CTsaiCCL,CWuCHLCetal:OutdoorCactivityCduringCclassCrecessCreducesCmyopiaConsetCandCprogressionCinCschoolchildren.COphthalmology120:1080-1085,C201324)HeCM,CXiangCF,CZengCYCetal:E.ectCofCtimeCspentCout-doorsatschoolonthedevelopmentofmyopiaamongchil-drenCinchina:aCRandomizedCClinicalCTrial.CJAMAC314:C1142-1148,C201525)WuCPC,CChenCCT,CLinCKKCetal:MyopiaCpreventionCandCoutdoorClightCintensityCinCaCschool-basedCclusterCrandom-izedtrial.OphthalmologyC125:1239-1250,C201826)KinoshitaCN,CKonnoCY,CHamadaCNCetal:E.cacyCofCcom-binedCorthokeratologyCandC0.01%CatropineCsolutionCforCslowingCaxialCelongationCinCchildrenCwithmyopia:aC2-yearrandomisedtrial.SciRep10:12750,C202027)LamCS,TangWC,LeePHetal:Myopiacontrole.ectofdefocusincorporatedCmultipleCsegments(DIMS)spectacleClensCinCChinesechildren:resultsCofCaC3-yearCfollow-upCstudy.BrJOphthalmolC106:1110-1114,C202228)RapponCJ,CChungCC,CYoungCGCetal:ControlCofCmyopiaCusingCdi.usionCopticsCspectaclelenses:12-monthCresultsCofCaCrandomisedCcontrolled,Ce.cacyCandCsafetyCstudyC(CYPRESS).BrJOphthalmolC107:1709-1715,C202329)ZhuCX,CWangCD,CLiCNCetal:E.ectsCofCcustomizedCpro-gressiveadditionlensesvs.singlevisionlensesonmyopiaprogressionCinCchildrenCwithesophoria:aCrandomizedCclinicaltrial.CJOphthalmolC2022:9972761,C202230)BaoJ,HuangY,LiXetal:Spectaclelenseswithaspheri-calClensletsCforCmyopiaCcontrolCvsCsingle-visionCspectaclelenses:aCrandomizedCclinicalCtrial.CJAMACOphthalmolC140:472-478,C202231)ProusaliCE,CHaidichCAB,CDastiridouCACetal:Part-timeCversusCfull-timeCspectaclesCforCmyopiacontrol(PARMAstudy):aCrandomizedCclinicalCtrial.CCureusC14:e25995,C202232)ChamberlainCP,CBradleyCA,CArumugamCBCetal:Long-termCe.ectCofCdual-focusCcontactClensesConCmyopiaCpro-gressionCinchildren:aC6-yearCmulticenterCclinicalCtrial.COptomVisSciC99:204-212,C202233)HiedaO,NakamuraY,HiraokaTetal:ClinicalstudyontheCe.ectCofCmultifocalCcontactClensesConCmyopiaCprogres-sionCinCmyopiaCschoolchildren:multifocalCcontactClensCstudyCforCsuppressionCofCmyopiaCprogression.CTrialsC22:C239,C202134)Ruiz-PomedaCA,CPrieto-GarridoCFL,CVerdejoCJLHCetal:CReboundCe.ectCinCtheCMisightCassessmentCstudyCSpain(Mass).CurrEyeResC46:1223-1226,C202135)ShenCEP,CChuCHS,CChengCHCCetal:Center-for-nearCextended-depth-of-focussoftcontactlensformyopiacon-trolinchildren:1-yearresultsofarandomizedcontrolledtrial.OphthalmolTherC11:1577-1588,C202236)JakobsenCTM,CMollerF:ControlCofCmyopiaCusingCortho-keratologyClensesCinCScandinavianCchildrenCagedC6CtoC12Cyears.CEighteen-monthCdataCfromCtheCDanishCrandomizedstudy:clinicalstudyofnear-sightedness;treatmentwithorthokeratologylenses(CONTROLstudy)C.CActaCOphthal-mol100:175-182,C202237)ChanCHHL,CChoiCKY,CNgCALKCetal:E.cacyCofC0.01%Catropineformyopiacontrolinarandomized,placebo-con-trolledCtrialCdependsConCbaselineCelectroretinalCresponse.CSciRepC12:11588,C202238)ChuangCMN,CFangCPC,CWuPC:StepwiseClowCconcentra-tionatropineformyopiccontrol:a10-yearcohortstudy.SciRepC11:17344,C202139)CuiC,LiX,LyuYetal:Safetyande.cacyof0.02%and0.01%CatropineConcontrollingCmyopiaCprogression:aC2-yearclinicaltrial.SciRep11:22267,C202140)FuCA,CStapletonCF,CWeiCLCetal:RiskCfactorsCforCrapidCaxiallengthelongationwithlowconcentrationatropineformyopiacontrol.SciRepC11:11729,C202141)HiedaO,HiraokaT,FujikadoTetal:E.cacyandsafetyof0.01%atropineforpreventionofchildhoodmyopiaina2-yearCrandomizedCplacebo-controlledCstudy.CJpnCJCOph-thalmolC65:315-325,C202142)Moriche-CarreteroCM,CRevilla-AmoresCR,CDiaz-ValleCDCetC(17)あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024C383al:MyopiaCprogressionCandCaxialCelongationCinCSpanishchildren:e.cacyCofCatropineC0.01%Ceye-drops.CJCFrCOph-talmol44:1499-1504,C202143)SaxenaCR,CDhimanCR,CGuptaCVCetal:AtropineCforCtheCtreatmentCofCchildhoodCmyopiaCinindia:multicentricCran-domizedtrial.OphthalmologyC128:1367-1369,C202144)WangCM,CCuiCC,CSuiCYCetal:E.ectCofC0.02%CandC0.01%CatropineConastigmatism:aCtwo-yearCclinicalCtrial.CBMCCOphthalmol22:161,C202245)YamCJC,CZhangCXJ,CZhangCYCetal:Three-yearCclinicalCtrialoflow-concentrationatropineformyopiaprogression(LAMP)study:continuedversuswashout:phase3report.OphthalmologyC129:308-321,C202246)WengCR,CLanCW,CBakarajuCRCetal:E.cacyCofCcontactClensesCforCmyopiacontrol:insightsCfromCaCrandomised,CcontralateralCstudyCdesign.COphthalmicCPhysiolCOptC42:C1253-1263,C202247)WildsoetCCF,CChiaCA,CChoCPCetal:IMIC-interventionsCmyopiainstitute:interventionsCforCcontrollingCmyopiaConsetCandCprogressionCreport.CInvestCOphthalmolCVisCSciC60:M106-M131,C201948)ChengCD,CWooCGC,CDrobeCBCetal:E.ectCofCbifocalCandCprismaticbifocalspectaclesonmyopiaprogressioninchil-dren:three-yearCresultsCofCaCrandomizedCclinicalCtrial.CJAMAOphthalmol132:258-264,C201449)BaoJ,YangA,HuangYetal:One-yearmyopiacontrole.cacyCofCspectacleClensesCwithCasphericalClenslets.CBrJOphthalmol106:1171-1176,C202250)KakitaCT,CHiraokaCT,COshikaT:In.uenceCofCovernightCorthokeratologyConCaxialCelongationCinCchildhoodCmyopia.CInvestOphthalmolVisSci52:2170-2174,C201151)ChoCP,CCheungSW:RetardationCofCmyopiaCinCorthokera-tology(ROMIO)study:a2-yearrandomizedclinicaltrial.InvestOphthalmolVisSci53:7077-7785,C201252)CharmCJ,CChoP:HighCmyopia-partialCreductionCortho-k:aC2-yearCrandomizedCstudy.COptomCVisCSciC90:530-539,C201353)ChenCC,CCheungCSW,CChoP:MyopiaCcontrolCusingCtoricorthokeratology(TO-SEEstudy).InvestCOphthalmolCVisCSci54:6510-6517,C201354)LoertscherCM,CBackhouseCS,CPhillipsJR:MultifocalCortho-keratologyCversusCconventionalCorthokeratologyCforCmyo-piacontrol:apaired-eyestudy.CJClinMed10:447,C202155)PauneCJ,CFontsCS,CRodriguezCLCetal:TheCroleCofCbackCopticzonediameterinmyopiacontrolwithorthokeratolo-gylenses.CJClinMed10:336,C202156)LauCJK,CWanCK,CChoP:OrthokeratologyClensesCwithCincreasedcompressionfactor(OKIC):a2-yearlongitudi-nalCclinicalCtrialCforCmyopiaCcontrol.CContCLensCAnteriorCEyeC46:101745,C202357)LongW,LiZ,HuYetal:PatternofaxiallengthgrowthinCchildrenCmyopicCanisometropesCwithCorthokeratologyCtreatment.CurrEyeRes45:834-838,C202058)LuCW,CJinW:ClinicalCobservationsCofCtheCe.ectCofCortho-keratologyCinCchildrenCwithCmyopicCanisometropia.CContCLensAnteriorEye43:222-225,C202059)ZhangY,SunX,ChenY:Controllinganisomyopiainchil-drenbyorthokeratology:Aone-yearrandomisedclinicaltrial.ContLensAnteriorEyeC46:101537,C202360)JiCN,CNiuCY,CQinCJCetal:OrthokeratologyClensesCversusCadministrationCofC0.01%CatropineCeyeCdropsCforCaxialClengthCelongationCinCchildrenCwithCmyopicCanisometropia.CEyeContactLensC48:45-50,C202261)ZhangKY,LyuHB,YangJRetal:E.cacyoflong-termorthokeratologyCtreatmentCinCchildrenCwithCanisometropicCmyopia.IntJOphthalmol15:113-118,C202262)FangJ,HuangZ,LongYetal:RetardationofmyopiabymultifocalCsoftCcontactClensCandorthokeratology:AC1-yearCrandomizedCclinicalCtrial.CEyeCContactCLensC48:C328-334,C202263)RichdaleCK,CTomiyamaCES,CNovackCGDCetal:CompoundC-ingCofClow-concentrationCatropineCforCmyopiaCcontrol.CEyeCContactLensC48:489-492,C202264)LiCFF,CZhangCY,CZhangCXCetal:AgeCe.ectConCtreatmentCresponsesCto0.05%,0.025%,andC0.01%atropine:Low-concentrationatropineformyopiaprogressionstudy.Oph-thalmologyC128:1180-1187,C202165)KaoCPH,CChuangCLH,CLaiCCCCetal:EvaluationCofCaxialClengthtoidentifythee.ectsofmonocular0.125%atropineCtreatmentforpediatricanisometropia.SciRepC11:21511,C202166)JethaniJ,KamatA,JaiswalJ:E.ectoflow-concentrationatropine(0.01%)eyedropsonhigher-orderaberrationsinmyopicchildren.IndianJOphthalmolC69:2898,C202167)JonesCJH,CMuttiCDO,CJones-JordanCLACetal:E.ectCofCcombiningC0.01%CatropineCwithCsoftCmultifocalCcontactClensesConCmyopiaCprogressionCinCchildren.COptomCVisCSciC99:434-442,C202268)TanQ,NgAL,ChengGPetal:Combined0.01%atropinewithCorthokeratologyCinCchildhoodCmyopiacontrol(AOK)study:AC2-yearCrandomizedCclinicalCtrial.CContCLensCAnteriorEyeC46:101723,C202369)TrierK,CuiD,Ribel-MadsenSetal:Oraladministrationofca.einemetabolite7-methylxanthineisassociatedwithslowedCmyopiaCprogressionCinCDanishCchildren.CBrCJCOph-thalmol107:1538-1544,C202370)MoriCK,CKuriharaCT,CMiyauchiCMCetal:OralCcrocetinCadministrationCsuppressedCrefractiveCshiftCandCaxialCelon-gationinamurinemodeloflens-inducedmyopia.SciRepC9:295,C201971)MoriCK,CToriiCH,CFujimotoCSCetal:TheCe.ectCofCdietaryCsupplementationCofCcrocetinCforCmyopiaCcontrolCinCchil-dren:aCrandomizedCclinicalCtrial.CJCClinCMedC8:1179,C201972)XiongCS,CSankaridurgCP,CNaduvilathCTCetal:TimeCspentCinCoutdoorCactivitiesCinCrelationCtoCmyopiaCpreventionCandC384あたらしい眼科Vol.41,No.4,2024(18)-