●連載◯141監修=安川力五味文121加齢黄斑変性と黄斑色素尾花明郷渡有子聖隷浜松病院アイセンター黄斑色素は中心窩のCMullercellconeとその周囲の内外網状層に多く存在し,青色光の吸収と抗酸化作用によって視細胞の光酸化ストレス障害を抑制する.その成分であるルテイン・ゼアキサンチンの摂取不足は加齢黄斑変性発症リスクであり,それらを含有したサプリメントは発症予防効果を示す.はじめに多因子疾患である加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)の予防・進行抑制は要因ごとにいくつかのアプローチが考えられるが,年齢や遺伝要因は対処困難なので,現実的には禁煙と,高血圧・動脈硬化など全身疾患予防,光による酸化ストレスの抑制が主となる.黄斑色素は感覚網膜内に存在する黄色色素で,黄斑の名のゆえんである.光が視細胞に及ぼす酸化ストレスを軽減することから,AMDの発症と予防・進行抑制に深くかかわる.黄斑色素の成分と働き黄斑色素は中心窩周囲直径C1.5.2Cmmの黄斑(maculalutea)に多く集積するが,周辺部にも少量が広く分布する(図1).黄斑色素の成分はルテイン(3R,3’R),ゼアキサンチン(3R,3’S),メソゼアキサンチンのC3種類のカロテノイドで,これらは構造式に酸素原子をもつキサントフィル類である.カロテノイドはCCCH56を基本とし,9個の共役二重結合からなるポリエン鎖40の両端に末端基が結合する.自然界に約C800種類が存在し,人体に約C30種類,眼にはC3種類が検出される.カロテノイドは抗酸化作用を有し,活性酸素(一重項酸素など)やラジカル類,とくに脂質ラジカル消去により視細胞を酸化ストレスから防御する.活性酸素の余剰エネルギーは共役二重結合の伸縮による運動エネルギーから熱に緩和図1サル眼網膜断面の無染色写真黄色く見えるのが黄斑色素で,中心窩のCMullercellconeと外網状層と内網状層などにみられる.(文献C1より改変引用)(87)される.カロテノイドは抗炎症作用ももつ.また,ルテインの最大吸収波長はC460Cnmであり,黄斑色素は青色光を吸収する.ルテイン・ゼアキサンチンは小腸で吸収されておもに高比重リポ蛋白(highCdensityClipoprotein:HDL)に結合し,脈絡膜毛細血管から網膜色素上皮細胞のCHDL受容体(SR-BI)を介して取り込まれ,光受容体間レチノイド結合蛋白(retinolbindingCprotein:RBP)を介して視細胞外節に移動する.網膜内でルテインはCStARCrelatedClipidCtransferCdomainCcontaining3(STARD3)に,ゼアキサンチンはCPi-classCglutathioneCS-transfer-ase(GSTP1)に結合して蓄積する2).なお,メソゼアキサンチンは網膜色素上皮細胞内のレチノイドサイクル酵素であるCretinalCpigmentCepithelium-speci.cC65CkDaprotein(RPE65)によりルテインから変換される.黄斑色素の存在部位黄斑色素は中心窩にもっとも多く周辺部は少ない.ただし,分布形態には個人差があり,必ずしも中心窩がピークではない.中心窩のルテイン:ゼアキサンチン:メソゼアキサンチンの割合は1:1:1で,周辺部はルテインの割合が高い.網膜の組織切片と色素分布を重ねると,中心窩ではCMullercellconeに集積し,その周囲の内外網状層に広がる.周辺網膜では視細胞外節と網膜色素上皮細胞付近に存在すると考えられる(図2).Muller細胞の多彩な機能の一つに光ファイバー機能が報告されており,網膜表層に到達した光はCMuller細胞を通じて視細胞に到達するとされ,黄斑色素は光路内で青色光をカットしているのかもしれない.ただし,未だ組織学的にCMuller細胞内のカロテノイドは観察されていない.加齢黄斑変性の黄斑色素AMD眼の黄斑色素量の測定はむずかしく未だ不明点もあるが,既報では同年代の健常眼より少なく,また,片眼にCAMDを発症した患者の反対眼は,AMDを発症あたらしい眼科Vol.41,No.3,20243230910-1810/24/\100/頁/JCOPY図2黄斑色素の分布上はエリア図,中央はCauto.uorescencespectroscopyによるヒトの黄斑色素写真,下は同一眼のCOCT水平断写真に黄斑色素を記したイメージ図.エリアCAではCMullerCcellconeに集積し,ゼアキサンチンが多い.エリアCBでは網状層に広がり,エリアCCでは視細胞・網膜色素上皮細胞付近に少量のルテインが広がると考えられる.していなくても黄斑色素が少ない.このことから,色素が少ないことがCAMDの発症要因の一つである可能性が考えられる.ルテイン・ゼアキサンチン摂取による加齢黄斑変性の予防米国人を対象としたCcase-controlstudyでは,ルテイン・ゼアキサンチン最大摂取群(中央値C3.5Cmg/日)は最小摂取群(中央値C0.7Cmg/日)より,滲出型CAMDのオッズ比はC0.65,萎縮型はC0.45であった.女性を対象とした研究で,intermediateAMD(AMD前駆病変)の頻度とルテイン・ゼアキサンチン摂取量に有意な関係はなかったとの報告もあるが,一般的にはルテイン・ゼアキサンチン摂取はCAMD発症に抑制的に働くと考えられる.Age-relatedCEyeCDiseaseStudy(AREDS)Groupのカロテノイドと抗酸化ビタミン,ミネラルを含む複合サプリメントを使用したC2001年の報告(図3a)2)では,5年間摂取でCAMD発症率が対照群のC36%に対して摂取群はC27%となり,有意な低下が認められた.しかし,Cb-カロテンの多量摂取は肺癌リスクを上昇させることから,AREDS2試験3)ではルテイン・ゼアキサンチンを含むサプリメント(図3b)が検証され,滲出型CAMDC324あたらしい眼科Vol.41,No.3,2024ab図3Age-RelatedEyeDiseaseStudyで滲出型加齢黄斑変性の予防効果の認められた複合サプリメントa:2001年の報告2)で使用されたもの.Cb:2013年の報告3)で使用されたもの.発症率がC22%低下することが確認された.ただし,AREDSの亜鉛含有量は厚労省基準では過剰になり,国内のCAREDS2準拠商品は含有量が調整されている.ルテイン・ゼアキサンチン含有サプリメントを摂取すると,摂取開始後C1カ月で血中濃度に相関する皮膚カロテノイド密度が上昇し,2カ月後に黄斑色素密度の上昇がみられた.ただし,サプリメントの効果には個人差があり,摂取後の黄斑色素の増加程度や増加時期は人によって異なる.サプリメントの具体的な推奨開始年齢は未定だが,AREDS2開始時の平均年齢C72歳が一つの目安になる.おわりに黄斑色素は視細胞を保護し,その成分であるルテイン・ゼアキサンチン摂取はCAMDの予防・進行抑制に有用であると考えられる.食事からのルテイン推奨摂取量はC6Cmg/日であるが,日本人の平均摂取量はそれに及ばないと推定される.禁煙意識は進んだが,カロテノイドを含む緑黄色野菜・果物の積極的な摂取を心がける必要がある.文献1)SnodderlyCDM,CAuranCJD,CDeloriFC:TheCmacularCpig-ment.IISpatialdistributioninprimateretinas.CInvestOph-thalmolVisSciC25:674-685,C19842)Age-RelatedEyeDiseaseStudyResearch,Group:Aran-domized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesup-plementationCwithCvitaminsCCCandCE,CbetaCcarotene,CandCzincCforCage-relatedCmacularCdegenerationCandCvisionloss:AREDSCreportCno.C8.CArchCOphthalmolC119:1417-1436,C20013)Age-RelatedCEyeCDiseaseCStudyC2CResearch,Group:CLutein+zeaxanthinandomega-3fattyacidsforage-relat-edCmaculardegeneration:theCAge-RelatedCEyeCDiseaseCStudy2(AREDS2)randomizedCclinicalCtrial.CJAMAC309:C2005-2015,C2013(88)