———————————————————————-Page1(101)17090910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(12):17091711,2008cはじめにコンタクトレンズによる近視治療であるオルソケラトロジーは,LASIK(laserinsitukeratomileusis)の適応にない未成年の若年者にも行える治療としてわが国でも行われている.なかには小学生に対して行われている例もある.オルソケラトロジーでは夜間にコンタクトレンズを装用するため角膜が低酸素状態となり,またレンズの構造上,汚れが蓄積しやすいため,ハードコンタクトレンズであるにもかかわらず感染性角膜炎の発生が少なくない.緑膿菌による細菌性角膜潰瘍の報告が最も多いが,アカントアメーバ角膜炎の報告もある13).海外では現在までに28例の報告があり4),中国13例1),〔別刷請求先〕加藤陽子:〒236-0004横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YokoKato,M.D.,DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,3-9Fukuura,Kanazawa-ku,Yokohama-shi236-0004,JAPAN学童におけるオルソケラトロジー経過中に発症したアカントアメーバ角膜炎の1例加藤陽子*1中川尚*2秦野寛*3大野智子*1林孝彦*1佐々木爽*1水木信久*1*1横浜市立大学医学部眼科学教室*2徳島診療所*3ルミネはたの眼科ACaseofAcanthamoebaKeratitisThatDevelopedduringtheCourseofOrthokeratologyYokoKato1),HisashiNakagawa2),HiroshiHatano3),TomokoOhno1),TakahikoHayashi1),SayakaSasaki1)andNobuhisaMizuki1)1)DepartmentofOphthalmology,YokohamaCityUniversitySchoolofMedicine,2)TokushimaEyeClinic,3)HatanoEyeClinicオルソケラトロジー経過中に発症したアカントアメーバ角膜炎の症例を経験した.症例は11歳,女児.9歳よりオルソケラトロジーを行っていた.右眼の充血を自覚し,近医にてアレルギー性結膜炎と診断された.その後眼痛,霧視が出現し,副腎皮質ステロイド薬,抗菌薬点眼を行ったが改善せず横浜市立大学付属病院眼科を紹介受診した.初診時視力は,右眼(0.03),左眼(1.2)であった.毛様充血と角膜中央部の類円形の浸潤病巣,および放射状角膜神経炎があり,病巣擦過物の塗抹標本でアカントアメーバのシストが認められ,アカントアメーバ角膜炎と診断した.0.02%クロルヘキシジン,フルコナゾールの頻回点眼,ピマリシン眼軟膏の点入を行い,角膜浸潤は徐々に軽減し約8カ月で上皮下混濁を残すのみとなった.矯正視力は(1.0)まで改善した.オルソケラトロジーにおいて,細菌性角膜潰瘍と並び,アカントアメーバ角膜炎も注意すべき感染症の一つと考えられた.AcaseofAcanthamoebakeratitisduetoorthokeratologyisreported.Thepatient,an11-year-oldfemalewhohadbeenundergoingorthokeratologysincetheageof9,developedhyperemiaandwasdiagnosedwithallergicconjunctivitis.Shesubsequentlysueredocularpainandblurredvision;topicalsteroidandantibioticswereinitiat-ed,butherconditiondidnotimprove.Atinitialvisit,hercorrectedvisualacuitywas0.03fortherighteye.Hyper-emia,circularinltrativelesionatthecenterofthecornea,radialneurokeratitisandciliaryhyperemiawereobserved.WefoundanAcanthamoebacystinherscrapedsmear,stainedwithGiemsaandfungiora,anddiag-nosedAcanthamoebakeratisis.Thepatientwastreatedwithinstillationof0.02%chlorhexidine,uconazoleandophthalmicpimaricinointment,afterwhichonlyasubepitheliallesionremained.At8months,hervisualacuityhadimprovedto1.0.Inorthokeratology,itisimportanttobeawareofpotentialinfections,includingAcanthamoebaker-atitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(12):17091711,2008〕Keywords:オルソケラトロジー,アカントアメーバ角膜炎.orthokeratology,Acanthamoebakeratitis.———————————————————————-Page21710あたらしい眼科Vol.25,No.12,2008(102)台湾4例2,3),韓国4例5),オーストラリア3例6,7),アメリカ2例8,9),カナダ2例10)と,アジア諸国で多くみられる傾向にある.わが国では海外で処方され国内で発症した1例11)が報告されているのみである.今回筆者らは,小学生のオルソケラトロジー経過中に発症したアカントアメーバ角膜炎の1例を経験したので報告する.I症例患者:11歳,女児.主訴:右眼充血.現病歴:平成18年1月上旬に右眼の充血が出現したためオルソケラトロジーレンズ処方医を受診した.アレルギー性結膜炎と診断され,抗アレルギー点眼薬を処方された.しかしながら症状は軽快せず,2月上旬には右眼眼痛,および右眼霧視も自覚したため他院を受診,オルソケラトロジーを中止した.副腎皮質ステロイド薬,抗菌薬点眼を使用したが増悪したため,2月25日,さらに別の眼科を受診した.角膜潰瘍がみられ3月3日に横浜市立大学付属病院眼科を紹介受診となった.なお,角膜潰瘍を発症した経過については,オルソケラトロジーレンズ処方医は把握していない.オルソケラトロジーの背景としては,平成14年に視力低下を自覚,近視性乱視を指摘されたが,本人が眼鏡を嫌がり,水泳をしていたこともあり,親がテレビの報道で知ったオルソケラトロジーを希望し,平成15年(9歳)より開始した.オルソケラトロジーレンズは,夜間睡眠時に約10時間装用していた.コンタクトレンズの洗浄法は,ハードコンタクトレンズ用洗浄保存液でこすり洗いを行い水道水ですすぎ,洗浄保存液を入れたレンズケースで保存するという通常の方法を行っていた.蛋白除去は週1回行っていた.コンタクトレンズの溝に対しての洗浄については特別に指導はされなかった.装着前とはずす前には人工涙液点眼を行っていた.定期検診は3カ月ごとに行っていた.初診時所見:視力は右眼0.02(0.03×3.5D(cyl-2.0DAx180°),左眼0.07(1.2×3.75D(cyl2.75DAx180°),右眼に毛様充血を認め,角膜中央部に類円形の実質浸潤病巣を認め(図1),角膜耳側には放射状角膜神経炎がみられた.オルソケラトロジーレンズ装用の既往,角膜所見よりアカントアメーバ角膜炎が疑われたため,病巣を擦過し,ギムザ染色にて鏡検を行ったところ,二重壁をもつ円形物質が認められた(図2).ファンギフローラYR染色を行い円形の特異蛍光を示すアカントアメーバシストを確認,アカントアメーバ角膜炎と診断した.即日入院となり,0.2%フルコナゾール点眼,0.02%クロルヘキシジン点眼を1時間ごと,ピマリシン眼軟膏3回/日点入,ガチフロキサシン点眼6回/日を開始,週2回角膜掻爬を行った.1カ月後,角膜浸潤は軽減し,瞳孔領の透見が可能になった.入院7週間後より残存した角膜混濁に対し,プレドニゾロン5mg内服を開始,3カ月後より0.02%フルオロメトロン点眼に変更した.角膜混濁は経過とともに軽減した.治療開始5カ月後,フルコナゾール点眼,クロルヘキシジン点眼を中止,8カ月後にはすべての点眼薬を中止した.上皮下混濁と血管侵入は残存したが,角膜混濁はさらに軽減し,矯正視力1.0まで改善した.II考按オルソケラトロジーは,睡眠時に特殊デザインのハードコンタクトレンズを装用することにより角膜の形状を一時的に変化させ,日中の裸眼視力を向上させる屈折矯正法である.アジア地域では,近視進行遅延効果を期待し,小児へのオルソケラトロジーが多く行われている12).しかしながら,中国,台湾では,トポグラフを用いずにコンタクトレンズを処方する,経過中の定期検診を行わない,など問題も指摘されており,アカントアメーバを含む角膜感染症が多発した一因と考えられている.コンタクトレンズ関連のアカントアメーバ角膜炎患者のう図1初診時角膜浸潤所見図2アカントアメーバシスト(ギムザ染色)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.12,20081711(103)ち,ハードコンタクトレンズ使用者は8.8%と少ない13).しかも,ほとんど例外なく,レンズケアを怠ったり,定期検査を受けない,などの不適切な使い方をして発症したものがほとんどである.しかし,本症例では,指示通りの使用方法とケア方法を行っており,定期検診を受けていたが,アカントアメーバ角膜炎を発症した.感染の原因として,コンタクトレンズが固着気味でセンタリングが不良であったため,夜間装用時の涙液交換の低下により,角膜の低酸素状態をひき起こし,角膜上皮障害を生じた可能性がある.また,レンズの構造上,内面の溝部分に汚れが蓄積しやすく14),コンタクトレンズケースの洗浄や交換を行っていなかったことが汚染につながったものと考えられる.平成18年度学校現場でのコンタクトレンズ使用状況調査によると,小学生のコンタクトレンズ使用者は0.1%で,そのなかでオルソケラトロジーレンズ使用者の割合は11.1%と高率であった15).日本において行われている治験では,オルソケラトロジーの対象は18歳以上とされているが,近視進行遅延効果を期待し,学童期にオルソケラトロジーを希望する保護者が多くみられるためと考えられる.オルソケラトロジーは,2002年に米国FDA(食品・医薬品局)で認可され,日本でも開業医を中心に行われている.しかし,現在日本では未認可であり,オルソケラトロジーに精通していない医師によるレンズ処方が行われている場合もあると考えられる.また,オルソケラトロジーによって近視が治ると誤解させたり,年齢が低いほど効果があると謳った広告を行い,幼児への処方を推奨する施設もみられる.オルソケラトロジーの長期的な経過はまだ不明なことが多い.睡眠中のコンタクトレンズ装用に伴うリスク,コンタクトレンズの管理が困難な低年齢の学童に施行することのリスク,さらに,それらに伴う角膜感染症発症のリスクを,事前に十分説明する必要があると考えられる.アカントアメーバ角膜炎は,細菌性角膜潰瘍と並んで,オルソケラトロジーにおいて注意すべき重篤な合併症であり,今後,治験の評価をふまえ,より安全に行われるような適応基準が定められる必要があると考えられる.本稿の要旨は第44回日本眼感染症学会にて発表した.文献1)SunX,ZhaoH,DengSetal:Infectiouskeratitisrelatedtoorthokeratology.OphthalmicPhysiolOpt26:133-136,20062)TsengCH,FongCF,ChenWLetal:Overnightorthoker-atology-associatedmicrobialkeratitis.Cornea24:778-782,20053)HsiaoCH,LinHC,ChenYFetal:Infectiouskeratitisrelatedtoovernightorthokeratology.Cornea24:783-788,20054)WattK,SwarbrickHA:Microbialkeratitisinovernightorthokeratology:Reviewoftherst50cases.EyeCon-tactLens31:201-208,20055)LeeJE,HahnTW,OumBSetal:Acanthamoebakeratitisrelatedtoorthokeratology.IntOphthalmol27:45-49,20076)WattKG,SwarbrickHA:Trendsinmicrobialkeratitisassociatedwithorthokeratology.EyeContactLens33:373-377,20077)WattKG,BonehamGC,SwarbrickHA:Microbialkerati-tisinorthokeratology:theAustralianexperience.ClinExpOptom90:182-187,20078)WilhelmusKR:Acanthamoebakeratitisduringorthokera-tology.Cornea24:864-866,20059)RobertsonDM,McCulleyJP,CavanaghHD:Severeacan-thamoebakeratitisafterovernightorthokeratology.EyeContactLens33:121-123,200710)YepesN,LeeSB,HillV:Infectiouskeratitisafterover-nightorthokeratologyinCanada.Cornea24:857-860,200511)福地祐子,前田直之,相馬剛至ほか:オルソケラトロジーレンズ装用者に認められたアカントアメーバ角膜炎の1例.眼紀58:503-506,200712)吉野健一:オルソケラトロジーの適応と合併症対策.眼科プラクティス9,屈折矯正完全版,p90-92,文光堂,200613)石橋康久:アカントアメーバ角膜炎37自験例の分析.眼科44:1233-1239,200214)Araki-SasakiK,NishiI,YonemuraNetal:Characteris-ticsofPsedomonascornealinfectionrelatedtoorthokera-tology.Cornea24:861-863,200515)日本眼科医会学校保健部:平成18年度学校現場でのコンタクトレンズ使用状況.日本の眼科78:1187-1200,2007***