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眼感染症由来Staphylococcus aureusの In Viroバイオフィルム形成に及ぼすグルコースの影響と抗菌点眼薬の殺菌効果

2014年4月30日 水曜日

《第50回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科31(4):571.580,2014c眼感染症由来StaphylococcusaureusのInVitroバイオフィルム形成に及ぼすグルコースの影響と抗菌点眼薬の殺菌効果神鳥美智子*1井上幸次*1池田欣史*1藤原弘光*2高畑正裕*3髙倉真理子*3*1鳥取大学医学部視覚病態学*2鳥取大学医学部附属病院検査部*3富山化学工業株式会社綜合研究所InfluenceofGlucoseonInVitroBiofilmFormationbyStaphylococcusaureusIsolatedfromOcularInfection;BactericidalActivityofAntibacterialOphthalmicSolutionMichikoKandori1),YoshitsuguInoue1),YoshifumiIkeda1),HiromitsuFujiwara2),MasahiroTakahata3)andMarikoTakakura3)1)DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,2)3)ResearchLaboratoriesToyamaChemicalCo.,Ltd.TottoriUniversityHospital,目的:糖尿病患者の涙液中グルコース濃度は健常人に比べ高く,結膜.常在菌に影響している可能性がある.そこで,眼感染症由来Staphylococcusaureus(S.aureus)のinvitroバイオフィルム形成に及ぼすグルコースの影響を調べるとともに,バイオフィルム形成菌に対する抗菌点眼薬の殺菌効果を検討した.方法:鳥取大学医学部附属病院の眼感染症患者から分離されたキノロン感受性S.aureus3株を用い,メンブレンフィルター(MF)上のバイオフィルム形成に及ぼすグルコースの影響をMF静置寒天平板培地にこれを添加することで検討した.また,トスフロキサシン,レボフロキサシン,セフメノキシムの各点眼液を最小発育阻止濃度(minimuminhibitoryconcentration:MIC)の30倍濃度(30MIC)でバイオフィルム形成菌に24時間作用させ,生菌数変化,さらに走査型電子顕微鏡による形態観察で殺菌効果を評価した.結果:S.aureusバイオフィルムの成熟度はグルコース濃度(0%,0.01%,0.1%および1.0%)に比例し増大した.0.1%グルコース存在下,バイオフィルム形成菌に対するトスフロキサシン点眼液30MIC作用時の殺菌効果は,いずれの場合も比較点眼液より有意に強かった.結論:S.aureusによるバイオフィルムの成熟度はグルコース濃度の影響を受けることから,糖尿病患者に対する抗菌点眼薬の選択においては,バイオフィルムにより効果のある薬剤を考慮する必要があると考えられた.Purpose:Tearglucoseconcentrationishigherindiabeticpatientsthaninhealthysubjectsandmayinfluenceconjunctivalflora.TheinfluenceofglucoseoninvitrobiofilmformationwasexaminedusingStaphylococcusaureusisolatedfrompatientswithocularinfection.Alsoinvestigatedwerethebactericidaleffectsofantibacterialophthalmicsolutionsagainstbiofilmbacteria.MaterialsandMethods:Usingthreequinolone-susceptibleS.aureusisolatesfrompatientswithocularinfectionatTottoriUniversityHospital,weexaminedtheinfluenceofglucoseonbiofilmformationonmembranefilter(MF)byaddingglucosetotheagarplateontheMF.Bactericidalactivitiesoftosufloxacin(TFLX),levofloxacin(LVFX)andcefmenoxime(CMX)ophthalmicsolutionswereexaminedbycountingviablecellsremainingafterexposureofS.aureusbiofilmtothoseagentsatconcentrations30-foldtheirrespectiveminimuminhibitoryconcentrations(MIC),andbyobservationunderascanningelectronmicroscope(SEM)Results:ThedegreeofS.aureusbiofilmmaturationincreasewasdependentontheglucoseconcentration(0%,(.)0.01%,0.1%and1.0%).With0.1%glucose,thebactericidaleffectofthetosufloxacinophthalmicsolutionwassignificantlymorepotentthantheotherophthalmicsolutions.Conclusion:SincethedegreeofS.aureusbiofilmmaturationwasaffectedbyglucoseconcentration,itissuggestedthattheantibacterialophthalmicsolutionmostpotentagainstbiofilmbeselectedfordiabeticpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(4):571.580,2014〕〔別刷請求先〕井上幸次:〒683-8504米子市西町36-1鳥取大学医学部視覚病態学教室Reprintrequests:YoshitsuguInoue,M.D.,Ph.D.,DivisionofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity,36-1Nishi-cho,Yonago,Tottori683-8504,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(93)571 Keywords:黄色ブドウ球菌,グルコース,バイオフィルム,トスフロキサシン,点眼薬,殺菌効果.Staphylococcusaureus,glucose,biofilm,tosufloxacin,ophthalmicsolution,bactericidaleffect.はじめにグラム陽性菌のStaphylococcusaureus(S.aureus)は眼感染症の代表的な疾患である結膜炎や角膜炎の主要な起因菌である1).また,発症頻度は低いものの,急性術後眼内炎の起因菌としてもStaphylococcusepidermidis(S.epidermidis)を含むコアグラーゼ陰性ブドウ球菌やS.aureusの割合が高い2,3).S.epidermidisやS.aureusはヒトの結膜.内細菌叢に常在しており,このことが多くの眼感染症の起因菌になる理由と考えられる.分離比率はS.epidermidisが常に最も高いが,糖尿病患者ではS.epidermidisに次ぐS.aureusの比率が健常人より高いとの報告がある4).眼感染症では周術期創部などから常在菌が侵入し,縫合糸などへの菌の定着の後,バイオフィルムを形成するケースや,治療に用いられる眼内レンズなどのバイオマテリアルに形成されたバイオフィルム菌などが発症に関与している場合がある5.7).バイオフィルム形成後の菌の生育はslow-growingあるいはnondividinggrowthの状態にあると同時に,菌体を覆うexopolysaccharidematrixの薬剤低透過性などにより,抗菌薬の殺菌作用を回避すること,また,その成熟度が増した場合,抗菌薬の殺菌作用はさらに減弱されるので,治療の難渋化を招いていることが報告されている5,8,9).筆者らは先に,メチシリンおよびキノロン感受性S.epidermidisを用いてinvitroで作製したバイオフィルム形成菌に対するフルオロキノロン系点眼薬とb-ラクタム系点眼薬の殺菌効果を検討した.その結果,いずれの薬剤もバイオフィルム形成菌に対する殺菌効果は浮遊菌(planktonic菌)の場合より減弱すること,また,バイオフィルム形成菌に対する殺菌効果はb-ラクタム系点眼薬よりフルオロキノロン系点眼薬が強いが,その作用はフルオロキノロン系点眼薬間でも差異が認められるとの成績を得た10).眼感染症起因菌においてS.epidermidisと並び分離頻度の高いS.aureusでは,バイオフィルム形成時,生育環境に存在するグルコースによりバイオフィルム成熟度が変化することが報告されている11,12).ヒト涙液にはグルコース(tearglucose)が正常人で0.004.0.008%含まれているが,糖尿病患者ではこれより高く13.15),眼表面や眼内におけるS.aureusのバイオフィルム形成は正常人の場合と異なるものと考えられる.このため,定着したS.aureusが形成したバイオフィルムに対する抗菌点眼薬の殺菌作用も何らかの影響を受けている可能性が推察される.現在,眼感染症におけるバイオフィルム形成菌について,涙液中のグルコースの影響や生理的なグルコース濃度存在下での,抗菌点眼薬の殺菌効果についての報告は見当たらない.そこで,今回,眼感染症由来S.aureusのinvitroバイオフィルム形成に及ぼすグルコースの影響を調べるとともに,先回報告10)したS.epidermidisに引き続き,S.aureusバイオフィルム形成菌に対する抗菌点眼薬の殺菌効果を検討した.すなわち,2011年から2012年に鳥取大学医学部附属病院の眼感染症患者から分離されたS.aureusのうち,icaA,D遺伝子,薬剤感受性などを検討した3株を用いてinvitroバイオフィルム形成に及ぼすグルコースの影響を調べるとともに,トスフロキサシン,レボフロキサシンおよびセフメノキシム各点眼液の殺菌効果を検討した.I実験材料および方法1.使用菌株鳥取大学医学部附属病院の眼感染症患者から2011.2012年に分離されたS.aureus31株を用いた.これら分離株すべてについて,各種薬剤に対する感受性,キノロン薬耐性決定領域(quinoloneresistant-determiningregion:QRDR)遺伝子の変異およびicaA,D遺伝子の有無を調べた.2.QRDR遺伝子およびicaA,icaD遺伝子の解析DNAジャイレースおよびトポイソメラーゼIV蛋白のそれぞれのsubunitA蛋白,GyrAならびにGrlAのQRDR部位をcodeするgyrA,grlA遺伝子の主要な変異部位の解析(GyrA:Ser84,Ser85,Glu88.GrlA:Ser80,Glu84)をSreedharanら16),Ferreroら17)の報告に基づいたPCR(polymerasechainreaction)法で行った.また,バイオフィルム形成に関連するslimeの主要成分,polysaccharideintercellularadhesin(PIA)の生合成に関わるicaA,icaD遺伝子の有無をArciolaら18)の方法に基づき検討した.3.使用薬剤薬剤感受性の測定にはトスフロキサシン(富山化学工業株式会社),レボフロキサシン(LKTLaboratories,Inc),セフメノキシム(ベストコールR静注用,武田薬品工業株式会社)を用いた.また,S.aureusのメチシリン耐性の判別のため,オキサシリン(シグマアルドリッチジャパン株式会社)を使用した.Invitroバイオフィルム形成菌およびplanktonic菌に対する殺菌効果の検討には市販のトスフロキサシン点眼液(オゼックスR点眼液0.3%,大塚製薬株式会社),レボフロキサシン点眼液(クラビットR点眼液0.5%,参天製薬株式会社),セフメノキシム点眼液(ベストロンR点眼用0.5%,千寿製薬株式会社)を目的の作用濃度になるよう25%cation-572あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(94) adjustedMueller-Hintonbroth(CAMHB;日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)で適宜希釈し用いた.いずれの薬剤も純度あるいは含量が明らかなものを使用し,濃度は活性本体の値として示した.4.薬剤感受性の測定抗菌薬に対する感受性の測定にはCAMHBを用い,ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute(CLSI)の微量液体希釈法に基づき行った19).メチシリンに対する感受性/耐性はCLSIの判定基準に基づき,オキサシリンに対する最小発育阻止濃度(MIC)(≦2μg/ml:感受性,≧4μg/ml:耐性)によって分類した20).また,キノロン薬に対する感受性/耐性は同判定基準に基づき,レボフロキサシンに対するMIC(≦1μg/ml:感受性,≧4μg/ml:耐性)によって分類した.5.Planktonic菌に対する抗菌点眼薬の殺菌効果今回使用の臨床分離S.aureus31株のうち,キノロン感受性でicaA,icaD遺伝子を保有するメチシリン感受性S.aureus(methicillin-susceptibleS.aureus:MSSA)のF5820およびF-5829株,メチシリン耐性S.aureus(methicillin-resistantS.aureus:MRSA)のF-5809株を用いた(表1).CAMHBにて37℃で一夜培養した菌を新鮮なCAMHBに接種し,さらに4時間前培養した菌液0.5mlに,リン酸緩衝液(PB:1/15mol/l,pH7.0)で5倍濃度に調整した各薬液1ml(終濃度,30MIC),10%グルコース溶液5μlまたは50μl(グルコース終濃度,0.01%または0.1%)を加え,PBで全量5mlにした培養液(CAMHB濃度:通常の10%濃度)を作製した.37℃で振盪培養し,24時間後に生菌数測定を行った(n=1).対照として薬剤不含の同様な10%CAMHB5mlを用い,生菌数を測定した.6.Invitroバイオフィルムの作製とグルコースの影響Planktonic菌に対する殺菌効果の試験に用いたMSSAのF-5820およびF-5829とMRSAのF-5809株の3株で検討した.Websterら21)の方法に基づき,CAMHBで一夜培養したS.aureusの菌液100μlを新鮮なCAMHB10mlに接種し,さらに3.5時間培養した.本菌液100μlを0.01%または0.1%グルコースを含み,通常の10%培地成分濃度になるよう作製したCAMHB10mlに懸濁した.その25μlを0.01%および0.1%のグルコースを含んだ10%培地成分濃度のMueller-Hintonagar(MHA,日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)を平板上に置いたmembranefilter(MF,DuraporeRMembraneFilter0.45μmHV;Millipore)に滴下した(n=3).グルコース濃度0.01%は健常人涙液中濃度,0.1%は糖尿病患者涙液中に含まれるグルコース濃度に近似すると考え検討した13.15).なお,別にバイオフィルム形成に及ぼす詳細なグルコース濃度(0,0.01,0.1および1%)の影響はMSSAF-5820株を用い調べた.(95)37℃,48時間培養後,走査型電子顕微鏡(SEM:HITACHIS-3400)を用いてバイオフィルム像を観察した.SEM像の観察に当たっては,試料を1.5%glutaraldehyde(和光純薬工業株式会社)にて1時間,さらに1%osmiumtetroxide(TAABLaboratories)に18時間浸漬し固定した.アルコール脱水-酢酸イソアミル(和光純薬工業株式会社)置換を経た後,臨界点乾燥を行った試料を白金-パナジウム蒸着した.7.Invitroバイオフィルム形成菌に対する抗菌点眼薬の殺菌効果0.01%あるいは0.1%グルコースを含む10%培地成分濃度のMHA上に静置したMFに菌液を滴下し,37℃,24時間培養した後,MFを各薬剤30MICを含む新しいMHA上に移した.さらに37℃,24時間培養した後,生菌数を測定した.作用濃度(30MIC)はトスフロキサシン頻回反復点眼時の結膜.内濃度などを参考にした22).なお,MRSAF-5809株の場合はセフメノキシム点眼液の溶解必要濃度が高すぎることから薬剤含有MHAが作製できず,トスフロキサシン点眼液とレボフロキサシン点眼液のみで殺菌効果を検討した.生菌数の測定に当たっては上述のMFをMulti-BeadsShockerR(安井器械株式会社)で破砕,ホモジナイズした試料を適宜希釈し,MHA平板に塗布し,生育コロニー数を計測した.得られた生菌数は各比較群間でパラメトリックDunnett型多重比較による有意差検定を行った.また,SEMでバイオフィルムに対する薬剤作用像を観察した.II結果1.使用菌株の各種抗菌薬に対する感受性,GyrAおよびGrlA蛋白におけるQRDR部位のアミノ酸変異,icaA,icaD遺伝子の解析S.aureus31株に対するトスフロキサシンとレボフロキサシン,またはセフメノキシムとのMIC相関図を図1に示す.トスフロキサシンは試験株すべてに対し,レボフロキサシンおよびセフメノキシムと同等か,2.512倍以上強い抗菌活性を示した.31株中,MRSAは22株(71.0%),キノロン耐性S.aureusは18株(58.1%)であった.また,キノロン耐性S.aureus18株のQRDR部位における最も頻度の高い変異株はGyrAのSer84Leu,Glu88Gly変異およびGrlAのSer80Tyr,Glu84Lys変異を同時に保有する株であった(7株/18株,38.9%).icaA,icaD遺伝子については今回使用した眼由来臨床分離株は31株すべて両遺伝子を保有していた.バイオフィルム形成菌に対する殺菌効果の検討に使用した3菌株の各遺伝子の解析および薬剤感受性の結果を表1に示す.GyrA,GrlAのQRDR主要部位に変異は認められず,キノロン薬に感受性で,MICはトスフロキサシンが0.0313あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014573 トスフロキサシMIC(μg/ml)≧1684210.50.250.1250.06≦0.03111136311114315533≦0.030.1250.528≦0.030.1250.5280.060.2514≧160.060.2514≧16レボフロキサシンMIC(μg/ml)セフメノキシムMIC(μg/ml)図1Staphylococcusaureus31株に対するトスフロキサシンとレボフロキサシン,またはセフメノキシムとのMIC相関図相関図中の数値は株数.いずれの株もトスフロキサシンのMICはレボフロキサシン,セフメノキシムのMICと同等か,低かった.表1使用菌株の各種抗菌薬に対する感受性,icaA,icaD遺伝子の有無,およびGyrA,GrlAのアミノ酸変異菌株トスフロキサシンMIC(μg/ml)レボフロキサシンセフメノキシムオキサシリンicaA,icaD遺伝子の有無icaAicaDQRDRアミノ酸変異GyrASer84,Ser85,Glu88GrlASer80,Glu84F-58200.06250.2520.5++──F-58290.03130.12521++──F-58090.06250.25832++──+/─:検出/非検出.μg/mlあるいは0.0625μg/ml,レボフロキサシンは0.125μg/mlあるいは0.25μg/mlであった.また,F-5820およびF-5829株はMSSA,F-5809株はMRSAであり,セフメノキシムのMICは前2株が2μg/ml,F-5809株は8μg/mlであった(表1).2.Planktonic菌に対する抗菌点眼薬の殺菌効果Planktonic菌に対する薬剤30MIC,24時間作用後の生菌数を図2に示す.いずれの薬剤も30MIC作用後の生菌数は薬剤無添加の場合に比べ,10.6以上減少し,検出限界以下(LogCFU/ml:≦1.30)であった(図2).3.Invitroバイオフィルム形成に及ぼすグルコースの影響MSSAF-5820株において,培地にグルコースを0.01%,0.1%,1%濃度になるよう添加し,バイオフィルム形成能をグルコース無添加の場合と比較した結果,培養48時間後の成熟度は濃度依存的に増大した.バイオフィルム形成能は0.01%添加から影響がみられたが,0.1%,1%添加時にはMF構造に沿って多くのslime様物質が付着し,これらに覆われた球菌の数も多かった(図3).4.Invitroバイオフィルム形成菌に対する抗菌点眼薬の殺菌効果バイオフィルムを形成した各株に対する抗菌点眼薬30MIC,24時間作用後の生菌数を図4に示す.グルコース0.01%存在下,MSSAF-5820株におけるトスフロキサシン点眼液30MICの24時間作用時の殺菌効果は,同MIC濃度のレボフロキサシン点眼液と同等,セフメノキシム点眼液より有意(p<0.001)に強かった.グルコース0.1%存在下での24時間作用時の殺菌効果は,同MIC濃度のレボフロキサシンおよびセフメノキシム点眼液より有意(p<0.001)に強かった.また,グルコース0.01%と0.1%存在下での殺菌効果を比較すると,トスフロキサシンおよびセフメノキシム点眼液では差異がみられなかったが,レボフロキサシン点眼液では,0.1%存在下の殺菌効果は0.01%の場合より有意(p<0.001)に弱かった.グルコース0.01%存在下,MSSAF-5829株におけるトスフロキサシン点眼液30MICの24時間作用時の殺菌効果は,同MIC濃度のレボフロキサシン点眼液およびセフメノキシム点眼液より有意(p<0.001)に強かった.また,グルコース0.1%存在下での24時間作用時の殺菌効果は,同MIC濃574あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(96) Glucose0.01%Glucose0.1%Viablecellscount(LogofCFU/ml)108642010864201086420F-5820MSSAF-5829MSSAF-5809MRSANT108642010864201086420F-5820MSSAF-5829MSSAF-5809MRSANT検出限界(≦1.30)ControlトスフロキサシンレボフロキシサンセフメノキシムControlトスフロキサシンレボフロキシサン点眼液点眼液点眼液点眼液点眼液図2Staphylococcusaureusのplanktonic菌に対する各種抗菌点眼薬の殺菌効果NT:試験せず.Planktonic菌に対してはいずれの点眼液も強い殺菌効果を示した.セフメノキシム点眼液度のレボフロキサシンおよびセフメノキシム点眼液より有意(p<0.001)に強かった.また,グルコース0.01%あるいは0.1%存在下での殺菌効果はセフメノキシム点眼液では差異がなかったが,トスフロキサシンおよびレボフロキサシン点眼液では,0.1%存在下のほうが0.01%の場合より有意(p<0.01,p<0.001)に弱かった.グルコース0.01%および0.1%存在下,MRSAF-5809株におけるトスフロキサシン点眼液30MICの24時間作用時の殺菌効果は,同MIC濃度のレボフロキサシン点眼液より有意(p<0.01)に強かった.また,トスフロキサシンおよびレボフロキサシン点眼液ともに,グルコース0.1%での殺菌効果は0.01%の場合より有意(p<0.01,p<0.001)に弱かった.5.MSSAF.5820株が形成したinvitroバイオフィルムに対する抗菌点眼薬の作用像0.1%グルコース存在下,invitroでMSSAF-5820株が形成したバイオフィルムに対する各点眼液30MIC作用時のSEM像を図5に示す.セフメノキシム点眼液作用後のバイオフィルム像(図5G,図5H)は薬剤無添加群(図5A,図5B)とほぼ同様であった.トスフロキサシン点眼液作用時(図5C,図5D)では,バイオフィルム構造の消失や,これを構成する菌塊構造の軽度化が観察された.レボフロキサシ(97)ン点眼液の場合は薬剤無添加群に比べ,低倍でバイオフィルム構造が若干消失した像が観察されたが,バイオフィルム上部の菌塊構造の厚みの変化はトスフロキサシン点眼液作用時より小さかった(図5E,図5F).なお,今回の試験では,他の2株でもMSSAF-5820株と同様なバイオフィルム形成像,また各抗菌点眼薬作用像がSEMで観察された(データ示さず).III考按結膜.における検出菌の分離比率はS.epidermidisが最も高いが,糖尿病患者では本菌種に次いでS.aureusの比率が健常人より高いとの報告がある4).眼感染症ではバイオフィルム形成菌がその発症に関与することが報告されており,S.aureusやS.epidermidisもコンタクトレンズ,眼内レンズ,手術時縫合糸,涙道形成用チューブ等の医療材料に付着してバイオフィルムを形成することが知られている5,6).近年,眼感染症においては,Staphylococcus属以外にも,Pseudomonasaeruginosa(P.aeruginosa)などによるバイオフィルム形成が臨床的に問題となっているが,さまざまな菌種でバイオフィルム形成菌はその成熟度によって抗菌薬の殺菌作用が影響を受けることが報告されている8,9).S.aureusではバイオフィルムの成熟度は生育環境に存在するグルコーあたらしい眼科Vol.31,No.4,2014575 ABCDEFGHIJKLIJKABCDEFGHIJKLIJK図3StaphylococcusaureusF.5820株のバイオフィルム形成に及ぼすグルコースの影響培養時間:48時間,A,E,I:glucose0%,×100,×3,000,×10,000,B,F,J:glucose0.01%,×100,×3,000,×10,000,C,G,K:glucose0.1%,×100,×3,000,×10,000,D,H,L:glucose1%,×100,×3,000,×10,000.グルコース0.1%,1%添加時には多くのslime様物質が産生され,これに覆われた球菌の数も多かった.スの影響を受け,濃度依存的にその成熟度が増大するとの報告がある11,12).糖尿病患者の涙液中グルコース(tearglucose)濃度は健常人に比べ高く,正常人では0.004.0.008%であるのに対し,糖尿病患者ではこれより5.10倍以上高く,0.03.0.13%以上含まれると報告されている13.15).また,糖尿病患者では急性結膜炎を含む各種細菌感染症のリスクが高いこと,網膜症,白内障など,さまざまな眼の組織における病態に高血糖が悪影響を与えるとの報告がある23,24).これらのことから,糖尿病患者では眼表面や眼内に定着したS.aureusがバイオフィルムを形成する場合,その成熟度が増し,抗菌点眼薬の殺菌作用が何らかの影響を受ける可能性が考えられ,今回の検討を行った.眼感染症由来S.aureusのバイオフィルム形成に及ぼすグルコースの影響をSEMで形態観察した報告や,バイオフィルム形成菌に対する抗菌点眼薬の殺菌効果などを検討した報告はこれまでなかった.今回,眼感染症由来S.aureusのinvitroバイオフィルム形成に及ぼすグルコースの影響を調べた結果,これまでの報告11,12)に記述されているようにその成熟度はグルコース濃度の影響を受けており,糖尿病患者の涙576あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014液中グルコース濃度に想定した0.1%添加時では,無添加時に比べ,slime様物質が多く産生され,これらがMF構造や菌体表面に付着したバイオフィルム像が観察された.S.epidermidisではPIAの生合成はica遺伝子locusが関連し,icaA,DはN-acetylgulcosaminetransferase,icaBはPIAdeacetylase,icaCはPIAのexporter遺伝子とされ25),ソフトコンタクトレンズ装用者における急性結膜炎患者から分離されたブドウ球菌ではicaA,D遺伝子保有率が高いとの報告がある26).しかしながら,S.aureusではicaA,D遺伝子はほとんどすべての株が保有しており,本遺伝子のバイオフィルム形成時における意義は両菌種で異なる可能性が考えられた.Izanoら27)はブドウ球菌属のバイオフィルムにおける主要な2つの構成ポリマーはPIAとextracellularDNA(ecDNA)であり,S.aureusではPIAがバイオフィルムの主要な構成成分ではなく,ecDNAがその主成分としている.また,別の報告でS.aureusの臨床株ではグルコースが調節するバイオフィルム形成はicaADBC遺伝子の発現に関係しないとされ,同じブドウ球菌属ながら,バイオフィルム形成,発現様式について違いが存在する可能(98) Glucose0.01%Glucose0.1%Viablecellscount(LogofCFU/MF)109876510987651098765F-5820MSSA10***98765***NS†††***F-5820MSSA******F-5829MSSA†††††***1098765F-5829MSSA***F-5809MRSAF-5809MRSA10****98†††††76NTNT5ControlトスフロキサシンレボフロキシサンセフメノキシムControlトスフロキサシンレボフロキシサンセフメノキシム点眼液点眼液点眼液点眼液点眼液点眼液図4Staphylococcusaureusのinvitroバイオフィルム形成菌に対する各種抗菌点眼薬の殺菌効果薬剤作用時間:24時間,n=3,有意差:***:p<0.001,**:p<0.01vs.トスフロキサシン点眼液,†††:p<0.001,††:p<0.01vs.0.1%glucose,NS:notsignificant,(Dunnetttest),NT:試験せず,MF:membranefilter0.1%グルコース存在下では,いずれの場合もトスフロキサシン点眼液は同じ30MIC濃度で比較したレボフロキサシンあるいはセフメノキシム点眼液より有意に強い殺菌効果を示した.性があり,現在,詳細は明らかでない28).眼感染症由来S.aureusはレボフロキサシン,セフメノキシムに対する感受性が高い1).今回の使用菌株に対する抗菌活性はトスフロキサシンがレボフロキサシン,セフメノキシムと同等か,2.512倍以上強く,2009年分離の外眼部感染症由来S.aureusの成績とほぼ同様であった29).現在S.aureusのバイオフィルム形成菌に対するこれら抗菌点眼薬の殺菌効果に関する成績は見当たらない.そこでinvitroバイオフィルムを作製し,汎用されている市販抗菌点眼薬,トスフロキサシン,レボフロキサシンおよびセフメノキシム各点眼液の殺菌効果を検討した.トスフロキサシンについては健康成人男子を対象に1回1滴,1日8回14日間点眼し,結膜.内濃度を測定した成績があり,点眼14日目の初回点眼24時間後の濃度は2.0±2.69μg/mlであったとの報告がある22).この24時間値(約2.0μg/ml)は今回invitroでバイオフィルムを作製したS.aureus3株に対するトスフロキサシンのMIC値(0.0313μg/mlおよび0.0625μg/ml)の約32あるいは64倍に相当する.このことから,作用濃度および作用時間はいずれの点眼液も30MIC,24時間とした.その結果,0.01%グルコース存在下では,invitroでバイ(99)オフィルムを形成したS.aureusに対し,トスフロキサシン点眼液はMSSAF-5820株では,レボフロキサシン点眼液と同等,MSSAF-5829株,MRSAF-5809株ではレボフロキサシンあるいはセフメノキシム点眼液より有意に強い殺菌効果を示した.0.1%グルコース存在下では,いずれの場合もトスフロキサシン点眼液は同MIC濃度で比較したレボフロキサシンあるいはセフメノキシム点眼液より有意に強い殺菌効果を示し,SEMによる形態観察でも,MSSAF-5820株のバイオフィルム形成菌に対し,トスフロキサシン点眼液作用時,強い殺菌像が観察された.また,フルオロキノロン系抗菌点眼薬の殺菌効果はMSSAF-5820株バイオフィルムに対するトスフロキサシン点眼液の場合を除き,いずれも糖尿病患者の涙液中グルコース濃度を想定した0.1%グルコース存在下のほうが0.01%グルコース存在下より弱く,バイオフィルムの成熟度がフルオロキノロン系抗菌点眼薬の殺菌効果に影響を及ぼす可能性が考えられた.バイオフィルムを形成した細菌がplanktonic菌に比べ抗菌薬抵抗性を示すこと,また,その抵抗性には薬剤系統差があることが知られている8).S.aureusにおいてフルオロキノロン系抗菌薬レボフロキサシンはplanktonic菌よりバイあたらしい眼科Vol.31,No.4,2014577 ABCDEFGHABCDEFGHABCDEFGHABCDEFGH図5StaphylococcusaureusF.5820株が形成したinvitroバイオフィルム形成菌に対する各種抗菌点眼薬作用時の走査型電子顕微鏡像A,B:control,×100,×3,000,C,D:トスフロキサシン点眼液,×100,×3,000,E,F:レボフロキサシン点眼液,×100,×3,000,G,H:セフメノキシム点眼液,×100,×3,000.低倍率でもトスフロキサシン点眼液の作用により,バイオフィルム構造の大部分が消失している像が観察された.オフィルム形成菌に対する殺菌効果が弱いとの報告があム形成菌に対する殺菌作用では,フルオロキノロン系抗菌る30).今回の試験でもplanktonic菌に比べ,バイオフィル薬,アミノ配糖体系抗菌薬,b-ラクタム系抗菌薬の順に強ムを形成した菌に対する殺菌作用はいずれの薬剤も弱かっいことも報告されている8).さらに,S.aureusのバイオフィた.薬剤系統差については,P.aeruginosaのバイオフィルルムにおける薬剤透過性はb-ラクタム系抗菌薬のオキサシ578あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(100) リン,セフォタキシム,またグリコペプチド薬であるバンコマイシンより,アミノ配糖体のアミカシンやフルオロキノロン系抗菌薬のシプロフロキサシンのほうが良好との報告がある31).これらのことから,S.aureusのバイオフィルム形成菌に対しては,b-ラクタム系抗菌薬よりもフルオロキノロン系抗菌薬を,また,そのなかでも目標とする菌種に対して,より強い抗菌活性を示すフルオロキノロン系抗菌薬を選択すべきと考えられた.今回の成績は,先に報告10)したS.epidermidisのバイオフィルム形成菌における結果と近似しており,殺菌効果はb-ラクタム系点眼薬よりフルオロキノロン系点眼薬が強いが,その効果はフルオロキノロン系点眼薬間でも差異が認められる点では同様の成績が得られた.術後感染症としての眼内炎の起因菌は60%以上をStaphylococcus属が占める.S.epidermidisの比率が最も高いものの,MRSAを含むS.aureusが起因菌の場合も多い3).眼内炎は重篤な感染症であり,手術前後に眼瞼および結膜.内を十分殺菌することが重要である.フルオロキノロン系点眼薬の周術期における無菌化率は高く,トスフロキサシン点眼液の場合も手術14日後に判定した術後感染症の発症は全例(108例)において認めず,また,術後無菌化率は95.1%で,類薬と同程度であった32,33).これらの成績におけるバイオフィルム形成菌関与の程度は不明であるが,そのような場合にも殺菌効果が十分期待できる抗菌点眼薬の使用が望ましいことから,その選択には十分な配慮が必要と考えられた.以上,トスフロキサシン点眼液はレボフロキサシン点眼液およびb-ラクタム系のセフメノキシム点眼液より,バイオフィルムを形成したS.aureusに強い殺菌効果を示した.トスフロキサシン点眼液はバイオフィルムを形成したキノロン感受性S.aureusによる眼感染症の治療,予防において有用と考えられた.利益相反:高畑正裕(カテゴリーE:富山化学工業株式会社社員),髙倉真理子(カテゴリーE:富山化学工業株式会社社員)文献1)小早川信一郎,井上幸次,大橋裕一ほか:細菌性結膜炎における検出菌・薬剤感受性に関する5年間の動向調査(多施設共同研究).あたらしい眼科28:679-687,20112)DurandML:Endophthalmitis.ClinMicrobiolInfect19:227-234,20133)薄井紀夫,宇野敏彦,大木孝太郎ほか:白内障に関連する術後眼内炎全国症例調査.眼科手術19:73-79,20064)BilenH,AtesO,AstamNetal:Conjunctivalflorainpatientswithtype1ortype2diabetesmellitus.AdvTher24:1028-1035,20075)亀井裕子:眼感染症とバイオフィルム.臨床と微生物36:439-444,20096)BehlauI,GilmoreMS:Microbialbiofilmsinophthalmologyandinfectiousdisease.ArchOphthalmol126:15721581,20087)KodjikianL,BurillonC,LinaGetal:Biofilmformationonintraocularlensesbyaclinicalstrainencodingtheicalocus:ascanningelectronmicroscopystudy.InvestOphthalmolVisSci44:4382-4387,20038)SpoeringAL,LewisK:BiofilmsandplanktoniccellsofPseudomonasaeruginosahavesimilarresistancetokillingbyantimicrobials.JBacteriol183:6746-6751,20019)AmorenaB,GraciaE,MonzonMetal:AntibioticsusceptibilityassayforStaphylococcusaureusinbiofilmsdevelopedinvitro.JAntimicrobChemother44:43-55,199910)井上幸次,池田欣史,藤原弘光ほか:眼感染症由来Staphylococcusepidermidisが形成したInVitroバイオフィルムに対するトスフロキサシン点眼液の殺菌効果.あたらしい眼科29:1681-1688,201211)LimY,JanaM,LuongTTetal:Controlofglucose-andNaCl-inducedbiofilmformationbyrbfinStaphylococcusaureus.JBacteriol186:722-729,200412)CroesS,DeurenbergRH,BoumansMLetal:StaphylococcusaureusbiofilmformationatthephysiologicglucoseconcentrationdependsontheS.aureuslineage.BMCMicrobiol9:229,200913)SenDK,SarinGS:Tearglucoselevelsinnormalpeopleandindiabeticpatients.BrJOphthalmol64:693-695,198014)DaumKM,HillRM:Humantearglucose.InvestOphthalmolVisSci22:509-514,198215)ChatterjeePR,DeS,DattaHetal:Estimationoftearglucoselevelanditsroleasapromptindicatorofbloodsugarlevel.JIndianMedAssoc101:481-483,200316)SreedharanS,OramM,JensenBetal:DNAgyrasegyrAmutationsinciprofloxacin-resistantstrainsofStaphylococcusaureus:closesimilaritywithquinoloneresistancemutationsinEscherichiacoli.JBacteriol72:72607262,199017)FerreroL,CameronB,ManseBetal:CloningandprimarystructureofStaphylococcusaureusDNAtopoisomeraseIV:aprimarytargetoffluoroquinolones.MolMicrobiol13:641-653,199418)ArciolaCR,BaldassarriL,MontanaroL:PresenceoficaAandicaDgenesandslimeproductioninacollectionofstaphylococcalstrainsfromcatheter-associatedinfections.JClinMicrobiol39:2151-2156,200119)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute:MethodsforDilutionAntimicrobialSusceptibilityTestsforBacteriaThatGrowAerobically;ApprovedStandard-EighthEditionM07-A8,ClincalandLaboratoryStandardsInstitutes,Wayne,PA,200920)ClinicalandLaboratoryStandardsInstitute:PerformanceStandardsforAntimicrobialSusceptibilityTesting;NineteenthInformationalSupplementM100-S22,201221)WebsterP,WuS,GomezGetal:Distributionofbacterialproteinsinbiofilmsformedbynon-typeableHaemophilusinfluenzae.JHistochemCytochem54:829-842,2006(101)あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014579 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