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副鼻腔手術後の眼窩コレステリン肉芽腫に対して経眼窩アプローチにて摘出可能であった1例

2018年6月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科35(6):832.835,2018c副鼻腔手術後の眼窩コレステリン肉芽腫に対して経眼窩アプローチにて摘出可能であった1例秋野邦彦*1高橋綾*1太田優*1出田真二*1亀山香織*2國弘幸伸*3野田実香*1坪田一男*1*1慶應義塾大学医学部眼科学教室*2慶應義塾大学医学部病理診断科*3慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室CaseReport:ResectionofCholesterolGranulomaoftheOrbitviaOrbitalApproach,afterSinusSurgeryKunihikoAkino1),AyaTakahashi1),YuOhta1),ShinjiIdeta1),KaoriKameyama2),YukinobuKunihiro3),MikaNoda1)CandKazuoTsubota1)1)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofPathologicalDiagnosis,KeioUniversitySchoolofMedicine,3)DepartmentofOtorhinolaryngology,KeioUniversitySchoolofMedicine副鼻腔手術後に生じた頭蓋底と交通する眼窩コレステリン肉芽腫に対し,経眼窩アプローチにより可及的全摘可能であったC1例を報告する.症例はC55歳,男性.2000年に他院で前頭洞.胞に対し経鼻的に開放術を施行された.翌年より右眼球偏位と眼球突出を生じ,頭部CMRIで右眼窩上外側に.胞性腫瘤病変を認めた.2013年C6月に経皮的に.胞の開放および副鼻腔への開放術を行うも症状の改善は得られず,2015年C6月に当科で経皮的生検を行い,コレステリン肉芽腫の診断に至った.画像所見上,頭蓋底の骨欠損を認め,経頭蓋底アプローチによる腫瘤摘出術を検討した.術後瘢痕について患者の同意が得られず,2016年C10月経眼窩アプローチで腫瘤摘出術を行った.術後眼球突出と眼球偏位の改善を認め,術後C2年を経過し,腫瘤の再発は認めていない.CTheCpatient,CaC55-year-oldCmale,ChadCundergoneCtransnasalCopenCsurgeryCofCaCfrontalCsinusCcystCinC2000CatCanotherhospital.Thefollowingyear,hecomplainedofrightoculardisplacementandexophthalmos.MRIrevealedacysticCtumorCinCtheCupperCsideCofCtheCrightCorbit.CInCJuneC2013CheCunderwentCpercutaneousCopenCsurgeryCofCtheCtumorandparanasalsinus,buthissymptomsdidnotimprove,sowebiopsiedthetumorpercutaneouslyanddiag-noseditascholesterolgranuloma.Therewasalossofskullbase,soweplannedtotalresectionviacoronarydissec-tion.Butthepatientdidnotagreewithourplanbecauseofpostoperativescarringofhishead,sowedidresectionviaorbitalapproach.Hisrightoculardisplacementandexophthalmoswentbetter,andMRIshowednorecurrenceat2yearsaftertheoperation.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(6):832.835,C2018〕Keywords:コレステリン肉芽腫,眼窩,経眼窩アプローチ.cholesterolgranuloma,orbit,orbitalapproach.Cはじめにコレステリン肉芽種は出血などの後に析出するコレステリン結晶に対する異物反応として生じる.発生部位は頭蓋骨が多く,とくに側頭骨(鼓室内,乳突洞,乳突蜂巣,錐体尖部)に多い.その他に腹膜,肺,リンパ節,精巣,耳など全身に発生しうる.今回,副鼻腔手術後に発生し,頭蓋底と交通していた眼窩コレステリン肉芽腫に対して,経眼窩アプローチにて可及的全摘可能であったC1例を報告する.CI症例患者:55歳,男性.主訴:右眼球突出と眼球偏位.現病歴:2000年に他院耳鼻科で右前頭洞.胞開放術を施行した.翌年右眼球突出と眼球偏位が出現するも,病院を受〔別刷請求先〕秋野邦彦:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:KunihikoAkino,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPAN832(124)図1受診時前眼部写真右眼球突出と下方偏位を認める.ab図3単純および造影MRI(冠状断)a:単純CMRI(T2強調冠状断).眼窩上外側に.胞性腫瘤病変を認め,内部は高信号,周囲が低信号である.Cb:造影CMRI(T1強調冠状断).一部造影効果のある.胞性腫瘤病変を右眼窩上外側に認める.C診しなかった.症状の増悪を認めたため,2013年慶應義塾大学医学部附属病院(以下,当院)耳鼻科と眼科を受診した.頭部CMRIで右眼窩上外側に境界明瞭な.胞性腫瘤病変を認め,同年当院耳鼻科で経皮的経鼻的.胞切開および副鼻腔ドレナージ術を施行した.ドレナージの内容物は液体であり,眼窩内に.胞壁を残した状態で手術は終了した..胞内から副鼻腔にドレーンを留置したが術後早期に脱落し,症状改善が不十分であり,眼球突出と下方偏位の改善目的に追加治療を希望された.既往歴:副鼻腔炎.家族歴:なし.検査所見:右眼球突出および下方偏位を認めた(図1).視力眼圧正常,前眼部・中間透光体・眼底に特記すべき異常所見なし.右眼上転障害,上方視時の複視を認めた.CT所見:右眼窩上方に腫瘤性病変を認めた.眼窩上壁の骨欠損を認めた(図2).MRI所見:右眼窩上外側に一部造影効果のある腫瘤性病変を認めた(図3).手術所見:2015年C6月,腫瘤の減量と生検を目的に手術を施行した.眉毛下外側で皮膚切開をし,腫瘤にアプローチし,内容物を部分的に除去した.腫瘤の表面は平滑,黄色,弾性であり,内容物は鱗状の線維組織で満たされており,液体成分は認めなかった.被膜を切開し,腫瘤を一部摘出し,図2頭部単純CT(矢状断)右眼窩上方に腫瘤性病変を認める.また,骨の欠損を認め,頭蓋底と眼窩が交通している.図4生検病理写真コレステリン結晶の沈着と周囲の線維化,異物型巨細胞を含む炎症細胞浸潤を認める.残りはそのまま温存し閉創した.摘出した検体は病理組織学的に検査した.コレステリン結晶の沈着と周囲の線維化,異物型巨細胞を含む炎症細胞浸潤を認め,コレステリン肉芽腫の診断となった(図4).ただしヘモジデリンの沈着は認められなかった.腫瘤は頭蓋底と交通しており,冠状切開による経頭蓋底アプローチをまず検討したが,本症例の患者はスキンヘッドの舞台俳優であり,術後の整容的問題から冠状切開を拒否された.硬膜損傷の可能性について,十分なインフォームド・コンセントを得たうえで,2015年C10月,脳神経外科医,形成外科医協力のもとで経眼窩アプローチにて腫瘤の摘出術を行った.眉毛下で皮膚切開をし,眼窩上縁から腫瘤へアプローチした.骨に沿って腫瘤の.離を進めた.硬膜が露出している部位は慎重に硬膜と腫瘤を.離し,piecemealに切除し,可及的全摘を行った.骨の欠損部位に関しては,欠損の大きさから骨の補.は行わずに軟部組織の復位のみとした.腫瘤の内容物は結晶状粒子を含んだものであり,肉眼的所見からコレステリン肉芽腫に矛盾しなかった(図5a).また,病理組織学的所見上も前回手術と同様の所見でヘモジ図5全摘検体と病理写真a:全摘出検体写真.腫瘍は一部液状の内容物を認め,結晶状粒子を含むものであった.Cb:全摘検体病理写真.コレステリンの針状結晶と,それを取り囲む異物巨細胞,および泡沫細胞の集簇が認められる.C図6全摘後8カ月の単純MRI(T1強調冠状断)右眼窩上部は眼窩組織で満たされ,腫瘤の再発は認めない.ab図7全摘前後の前眼部の比較a:生検前の前眼部写真.右眼球突出と下方偏位を認める.Cb:全摘後C8カ月の前眼部写真.右眼球突出と下方偏位は若干の残存があるが,改善を認める.Cデリンの沈着を認めないコレステリン肉芽腫だった(図5b).腫瘍断端は陽性であった.II考按術後は特記すべき合併症なく経過良好で,術後C3日目に退眼窩コレステリン肉芽種の発生頻度はまれであり,好発年院となった.齢や性差は中年男性に多く,発生部位は眼窩上外側に多いと術後C8カ月の時点で,単純CMRI(図6)では右眼窩上外側報告されている1.4).複視,眼球突出,眼球偏位,視力障害に腫瘤の再発は認めない.また,眼球突出および下方偏位はなどさまざまな症状を呈し,臨床症状やCCT所見からは表皮若干の残存があるが改善を認め,術後C2年で再発の徴候なく様.腫や類皮.腫などとの鑑別が困難であり,MRIが診断現在経過観察中である(図7).Cの一助となる.成因については解明されていないが,含気腔に関しては閉鎖腔となり長期に陰圧化すること,あるいは出血が要因であるとの説がある3,5).Parkeらは自験例および過去の文献から,眼窩コレステリン肉芽腫は外傷が誘因とは考えにくく,板間層内の解剖学的な異常により出血をきたしやすく,同部位が眼窩のコレステリン肉芽腫に罹患しやすくなるという仮説を立てている3,6).またCHillらは眼窩前頭部のコレステリン肉芽腫が眼窩上外側の前頭骨の板間層のスペースに発生するものと報告しており3,7),含気腔に発生するコレステリン肉芽腫とはその成因を異にするものと考えられている.治療は完全切除が望ましいが,眼窩コレステリン肉芽種は発生部位によっては骨破壊や骨偏位を伴っていることもあるため,完全切除が困難であることもまれではない8).本症例は,副鼻腔手術後に生じた眼窩コレステリン肉芽種であった.生検時および肉眼的全摘時の病理組織学的検査ではコレステリン結晶やその周囲に異物巨細胞の集簇が認められるものの,ヘモジテリン沈着は認められなかったため,手術後の出血を契機に発生したものではなく,前頭骨の板間層内のスペースに特発性に発生したものと考えられた.腫瘤は骨破壊を伴い,頭蓋底と交通していたため,冠状切開による経頭蓋底アプローチが適切と考えられた.しかし,本症例は,手術瘢痕による整容的問題から冠状切開を拒否され,経眼窩アプローチを希望した.術中の安全性が確保されない場合および硬膜損傷などの合併症が生じた場合には冠状切開に変更する点,および脳神経外科,形成外科の協力の上で経眼窩アプローチによる手術を行う点について十分にインフォームド・コンセントを得たうえで,手術を施行した.眼窩コレステリン肉芽種の発生頻度はまれではあるものの,眼窩に発生する腫瘤性病変の鑑別として常に念頭に置かなければならない.骨破壊や骨偏位によるさまざまな症状を呈し,完全切除には経頭蓋底アプローチによる侵襲的な手術が必要となることもまれではない.筆者らが渉猟した限りでは経眼窩アプローチによる眼窩コレステリン肉芽種の摘出を行った報告は少ない2).骨破壊,骨偏位,腫瘤の進展の程度,腫瘤の発生部位などを十分に考慮したうえで,症例は限られるものの,経眼窩アプローチによる腫瘤摘出は低侵襲的でかつ術後の整容面の問題からも患者の満足度も高く,考慮されるべき有効な治療法と考えられる2).CIIIまとめ本症例は,副鼻腔手術の既往のある右眼窩上外側に発生し,頭蓋底と交通するコレステリン肉芽腫であったが,経眼窩アプローチにより可及的全摘可能であった.頭蓋底と交通がある眼窩病変は,その程度にもよるが,患者の十分な理解と脳神経外科や形成外科の協力下にて経眼窩アプローチで低侵襲的に摘出できる場合もある.文献1)YanCJ,CCaiCY,CLiuCRCetCal:CholesterolCgranulomaCofCtheCorbit.CraniofacSurgC26:124-126,C20152)ShriraoCN,CMukherjeeCB,CKrishnakumarCSCetCal:Choles-terolCgranuloma:aCcaseCseriesC&CreviewCofCliterature.CGraefesArchClinExpOphthalmolC254:185-188,C20163)金城東和,田中博紀,石田春彦:眼窩前頭部コレステリン肉芽種の一例.日鼻誌44:136-140,C20054)山本直人,中井啓裕,佐藤裕子:眼窩コレステリン肉芽腫のC1例.形成外科41:961-965,C19985)矢沢代四郎:コレステリン肉芽腫.外耳・中耳(野村恭也,中野雄一,小松崎篤ほか編),CLIENT21,p219-227,中山書店,20006)ParkeDW2nd,FrontRL,BoniukMetal:Cholesteatomaoftheorbit.ArchOphthalmolC100:612-616,C19827)HillCCA,CMoseleyCIF:ImagingCofCorbitofrontalCcholesterolCgranuloma.ClinRadiolC46:237-242,C19928)高木明:頭蓋内進展した巨大側頭骨コレステリン肉芽腫の手術.OtolJpn17:353,C2007***