‘コントラスト視力装置’ タグのついている投稿

VDT作業に使用する遮光レンズのコントラスト視力装置CAT2000®を用いた視機能評価―遮光レンズ眼鏡の自覚的,他覚的選択方法の見直し―

2015年10月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科32(10):1499.1502,2015cVDT作業に使用する遮光レンズのコントラスト視力装置CAT2000Rを用いた視機能評価―遮光レンズ眼鏡の自覚的,他覚的選択方法の見直し―堀口涼子原直人内山仁志鈴木賢治古川珠紀髙橋由嗣新井田孝裕国際医療福祉大学保健医療学部視機能療法学科ContrastVisualFunctionEvaluationinIndividualsWearingTintedLensesforVDTWork,UsingContrastVisualAcuityDeviceRyokoHoriguchi,NaotoHara,HitoshiUchiyama,KenjiSuzuki,TamakiFurukawa,YoshiakiTakahashiandTakahiroNiidaDepartmentofOrthopticsandVisualSciencies,SchoolofHealthSciences,InternationalUniversityofHealthandWelfare目的:各種遮光レンズ装用下でコントラスト視力測定を行い,その有効性について検討した.対象および方法:矯正視力1.2かつ眼疾患のない大学生46名を対象とした.実験①:東海光学製遮光レンズCCP400シリーズRの5種類のレンズ(Fallenleaves:FL,SpringColor:SC,Trunk:TR,MiddleGray:MG,LightGray:LG)を用いて,夏の強い日差しの屋外を見た際,そしてPC画面で作業をしたときに,もっとも快適な視界が得られたレンズを選択させた.実験②:21名に対してCAT2000Rを用いて,遠見屈折矯正下,実験①の遮光レンズおよびサングラス下の計7種類でコントラスト視力測定を行った.結果:実験①:PC作業時における遮光レンズの自覚的な選択ではSCがもっとも好まれた.実験②:サングラスは25%以下すべてのコントラスト値において,TRは10%,2.5%コントラスト値において,視力を下げた(p<0.05,反復測定分析).MG,LG,SC間では有意な視力差はみられなかった.結論:PC作業には,自覚的にもっとも好まれたSCが,コントラスト値による視力低下が少なく有用である.Objectives:Toevaluatethevisualfunctionandusefulnessoftintedlenses.Subjectsandmethods:Includedwere46healthyvolunteersaged19to22yearswithcorrectedvisualacuityof1.2whoreceived6typesoflenses,includingtheCCP400Rseriestintedlenses(Fallenleaves:FL;SpringColor:SC;Trunk:TR;MiddleGray:MG;LightGray:LG)andsunglasses.Inexperiment1,thesubjectswereallowedtoselectcomfortablelenseswhileoutdoorsunderstrongsunshineandduringVDTwork.Inexperiment2,thevisualacuityof21ofthe46subjectswastestedusingthecontrastvisualacuitydeviceCAT2000R.Results:Inexperiment1,theSClensesweremostpreferred.Inexperiment2,visualacuitydecreasedinsubjectswearingsunglasses,butnotinthosewearingMG,LG,orSCtintedlenses.Conclusions:SClenses,whichweremostpreferred,werenotassociatedwithdecreasedvisualacuityandwereusefulforVDTwork.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)32(10):1499.1502,2015〕Keywords:遮光レンズ,コントラスト視力装置,VDT作業.tintedlenses,contrastvisualacuitydevice,videodisplayterminalwork.はじめにートフォンの普及によりバックライトに使用されるLED近年,VDT(visualdisplayterminal)機器の普及により,(lightemittingdiode)光源に曝される時間が長くなってい職場におけるVDT作業者数およびVDT作業時間は増加し,る.ブルーライトは460nmを中心とする短波長可視光であさらにVDT機器以外でも,タブレットPC,テレビ,スマり,波長的には長波長光よりもエネルギー量が大きく,網膜〔別刷請求先〕原直人:〒324-8501栃木県大田原市北金丸2600-1国際医療福祉大学保健医療学部視機能療法学科Reprintrequests:NaotoHara,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOrthopticsandVisualSciencies,SchoolofHealthSciences,InternationalUniversityofHealthandWelfare,2600-1Kitakanemaru,OhtawaraCity,Tochigi324-8501,JAPAN0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(127)1499 障害作用が強く,ゆっくりとした縮瞳反応が得られることが特徴である1,2).また,ブルーライトは散乱しやすい光であるために像がぼけやすく,そのために眼が常に調節しようと働いてしまうことで調節機能に負荷がかかる3).このため,光に対する防御の観点から,ブルーライト遮光眼鏡が販売されているが,その効果に関する科学的実証はなされておらず4),その選択方法は購入者の装用時の見やすさといった自覚によるもので,視機能評価はなされていない.遮光レンズは羞明を生じる短波長領域の可視光線を減光することにより,光の散乱によるグレアを抑え,コントラストの向上をもたらす眼鏡である5).この遮光レンズは,光曝露からの眼の保護6)羞明の軽減7),視力やコントラスト感度の改善8)のみならず,(,)体内時計の調整9)にも効果がある.そのため,近年では眼疾患に対する処方だけでなく,ロービジョンケアから健常者用としてVDT作業まで,より一般的に使用されるようになっている10).今回,筆者らは5種類の遮光レンズを用い装用下のコントラスト視力を測定して視機能評価を行い,その有効性について検討したので報告する.I対象矯正視力1.2かつ白内障の影響がなく,またその他眼疾患のない大学生46名(19.22歳平均20.8歳)を対象とした.遮光レンズの自覚的な選択は46名に対して行い,そのなかの21名に対して視機能評価を行った.被験者には事前に書面にて実験の目的を説明し,本人からの自由意思による同意を得たうえで実験を行った.なお,本実験は国際医療福祉大学倫理審査委員会より承認を受けた(承認番号;14-Io-34).II方法実験①:遮光レンズの被験者による選択:東海光学製遮光レンズCCP400シリーズR(Fallenleaves:FL,SpringColor:SC,Trunk:TR,MiddleGray:MG,LightGray:LG)の5種類の中から,夏の強い日差しの屋外を見たとき(以下,強い日差し),そしてPC画面で作業したときに視界がもっとも好ましいあるいは快適だと感じたものを選択させた.使用したCCP400シリーズの分光透過率を図1に示す.実験②:コントラスト視力検査:46名中21名に対してCAT2000(メニコン社製)を用いて,遠見完全屈折矯正下においてコントラスト視力を測定後,実験①の遮光レンズにサングラスを加えた計6種類を装用させて,同様に測定を行った.本機器の視標光源は白色発光ダイオード(lightemittingdiode:LED),視標はlogMAR値.0.1.1.0までの0.1間隔で12サイズ,100,25,10,5,2.5%のコントラストのLandolt環であった.条件は測定距離:遠見(無限遠),昼間視(背景輝度:100cd/m2)において,グレア光なし,ありの2条件とした.既報10,11)に準じて,半暗室(5lux,1000asb)で暗順応を5分間行った後で両眼開放にて昼間視,グレア負荷昼間視の順にそれぞれ5段階(100,25,10,5,2.5%)のコントラスト値で測定を行った.視標は5回呈示したときに3回正答で判別とした.結果の解析にはSPSS22.0を用い,測定したlogMAR値に分散分析(反復測定)を行い,有意差が得られたものに対してBonferroni法を行った.III結果実験①:図2にレンズの選択結果を示す.強い日差しにおける遮光レンズではTRがもっとも好まれ,PC画面作業で図1本研究で使用した5種類の遮光レンズとサングラスの分光透過率曲線遮光レンズの分光透過率曲線は東海光学ホームページを参照とした.(http://www.eyelifemegane.jp/product/product1.php)1500あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(128) FLMGLGTRSCSun-glass0.10.150.20.250.3logMAR値FLMGLGTRSCSun-glass0.20.30.40.50.6logMAR値FLMGLGTRSCSun-glass0.40.50.60.70.8logMAR値********FLMGLGTRSCSun-glass0.10.150.20.250.3logMAR値FLMGLGTRSCSun-glass0.20.30.40.50.6logMAR値FLMGLGTRSCSun-glass0.40.50.60.70.8logMAR値********TRSCLGMGFLTRSCLGMGFL屋外PC画面1410101112191096-0.2-0.100.10.20.3logMAR値0.40.50.60.70.80.9100251052.5FLMGLGTRSCSunglassn=46**:p<0.01FLMGLGTRSCSun-glassFLMGLGTRSCSun-glass-0.08-0.06-0.040-0.020.1**0-0.050.050.15logMAR値いて,有意にlogMAR値が上昇(視力は低下)した(p<0.05,反復測定分析).FL,MG,LG,SC間では有意差はみられlogMAR値なかった.IV考察ヒトは網膜のL,M,S錐体,杆体によって380nmからコントラスト10%コントラスト5%コントラスト2.5%780nmまでの波長の光を感じることが可能であり,明所視時は555nmの波長の光をもっとも明るく感じる.これはブルーライトの波長領域である12).S錐体は445nmに最大吸収力をもち,L,M錐体と比べ比視感度は極端に悪い13).実験①で屋外において自覚的に選択された遮光レンズTRは,コントラスト視力における視機能評価において,一般のサン図4グレア下におけるコントラスト別の結果の比較図3の結果をさらに詳しく,統計結果とともに表したものを示す.横軸は使用したレンズの種類,縦軸はlogMAR値である.図2遮光レンズの自覚的選択結果図中の数値は屋外,PC画面を見た際,各遮光レンズを自覚的に選択した人数を示す.はSCがもっとも好まれた.実験②:図3にグレア下の各種レンズのコントラスト視力,図4にグレア下の各コントラスト間での比較を示す.サングラスはコントラスト25%以下すべてのコントラストにおいて,有意にlogMAR値が上昇(視力は低下)した(p<0.01,反復測定分析).TRはコントラスト10%,2.5%におコントラスト(%)図3グレア下における各種レンズのコントラスト視力5種類の遮光レンズとサングラスを使用した状態でのCAT2000の測定値の平均をグラフ化したものである.横軸はコントラスト(%),縦軸はlogMAR値であり,logMAR値が下降するほど視力はよい.コントラスト100%コントラスト25%*:p<0.05グラスより結果はよいものの,他の遮光レンズと比較すると良好な結果を示すことができなかった.これは,TRの分光透過率が700nm以下から極端に低下しているため,比視感度も低下し,コントラスト視力の低下につながったと考えられる.遮光レンズFL,MG,LG,SCは各々のコントラスト視力値に有意差はみられなかったが,PC画面上における自覚的なレンズ選択では遮光レンズSCがもっとも好まれた.Zigmanは480nm以下の波長の光を除去するフィルターを装用することで視機能の向上がみられると報告している8).他の遮光レンズと比較しても,SCは555nmにおいて透過率を維持し,かつ480nm以下の短波長領域の透過率を適度に低下させているため,またグレア光照射による瞳孔縮瞳により収差が軽減されコントラスト視力が上昇したと考えられる.ラットの視神経切断だけでは光刺激による羞明反応としての瞬目は消失せず,三叉神経の切断により瞬目は消失することから,視覚系ではなく三叉神経系が羞明感に重要な役割を持つとしている14).遮光レンズによりS錐体の活動が抑制され,網膜光受容体への光入力による三叉神経核の興奮15)を軽減させて羞明感の緩和に役立っているからではないかと考えられる.PC作業時には遮光レンズSCが有用であることが示された.(129)あたらしい眼科Vol.32,No.10,20151501 本研究の一部は日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(c)課題番号25350629の助成を受けて行った.文献1)鈴木三保子:ブルーライトによる網膜障害.眼科55:769772,20132)石川均:内因性光感受性網膜神経節細胞の特徴.眼科55:773-777,20133)坪田一男:ブルーライト問題総論.眼科55:763-767,20134)尾花明:光による眼の障害(特集資料青色照明光の心理・生理的効果とその評価).照明学会誌97:621-626,20135)楡井しのぶ,堂山かさね,国谷暁美ほか:井上眼科病院における遮光眼鏡の選定に影響を及ぼす因子.日視会誌39:217-223,20106)ZhouJ,SparrowJR:Lightfilteringinaretinalpigmentepithelialcellculturemodel.OptomVisSci88:759-765,20117)堀口浩史:遮光眼鏡と羞明分光分布から羞明を考える.あたらしい眼科30:1093-1100,20138)ZigmanS:Visionenhancementusingashortwavelengthlight-absorbingfilter.OptomVisSci67:100-104,19909)SassevilleA,PaquetN,SevignyJetal:Blueblockerglassesimpedethecapacityofbrightlighttosuppressmelatoninproduction.JPinealRes41:73-78,200610)金澤正継,魚里博:薄暮視における遮光レンズの分光透過率とコントラスト感度との関係.眼臨紀6:542-547,201311)野上かおり,魚里博,藤山由紀子ほか:CAT2000での低コントラスト視力.日本視能矯正協会誌32:115-119,200312)AtchisonDA,SmithG:OpticsoftheHumanEye.p99104,Butterworth-Heinemann,England,200013)SmithVC,PokornyJ:Spectralsensitivityofthefovealconephoto-pigmentsbetween400and500nm.VisionRes15:161-171,197514)DolgonosS,AyyalaH,EvingerCetal:Light-inducedtrigeminalsensitizationwithoutcentralvisualpathways:anothermechanismforphotophobia.InvestOphthalmolVisSci52:7852-7858,201115)OkamotoK,TashiroA,ChangZetal:Brightlightactivatesatrigeminalnociceptivepathway.Pain149:235242,2010***1502あたらしい眼科Vol.32,No.10,2015(130)