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バルベルト緑内障インプラントにおけるチューブのよじれを整復した1例

2017年6月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科34(6):899.902,2017cバルベルト緑内障インプラントにおけるチューブのよじれを整復した1例朝岡聖子本田理峰山口昌大舟木俊成村上晶松田彰順天堂大学医学部眼科学教室ACaseofBearveldtImplantTubeObstructionDuetoKinkingSatokoAsaoka,RioHonda,MasahiroYamaguchi,ToshinariFunaki,AkiraMurakamiandAkiraMatsudaDepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversitySchoolofMedicineバルベルト緑内障インプラント挿入術後合併症にはチューブ閉塞や露出などチューブに関連した合併症がある.今回,チューブのよじれ(kinking)を生じた1例を経験した.血管新生緑内障に対して緑内障インプラント手術を施行後,持続する術後高眼圧の原因検索のため,anteriorsegment-opticalcoherencetomography(AS-OCT)を用いて検査した結果,チューブのよじれによるものと診断した.チューブのよじれに対して観血的整復術を施行し,その後眼圧下降効果を得ることができた.Obstructionsandexposureshavebeenreportedastube-relatedcomplicationsofBearveldtglaucomaimplantsurgeryprocedures.HerewereportacaseofBearveldtimplanttubeobstructionduetokinking.Bearveldtimplantsurgeryhadbeencarriedoutona52-year-oldmaleduetoneovascularglaucoma.Toexaminethecauseofapro-longedpost-surgicalhypertensivephase,weperformedanteriorsegmentOCTandfoundtubekinking.Aftersur-gicalrepositioningofthetube,intraocularpressureiswellcontrolled.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(6):899.902,2017〕Keywords:バルベルト緑内障インプラント,チューブのよじれ,前眼部OCT.Bearveldtglaucomaimplant,kinking,AS-OCT.はじめにバルベルト緑内障インプラント(BearveldtGlaucomaImplant:BGI)は眼外への房水流出を増加させる目的で眼内に挿入する緑内障インプラントの一つである.緑内障インプラントは1969年にMoltenoによって臨床応用が開始され1),2012年に発表された緑内障インプラント手術とマイトマイシンC併用線維柱帯切除術との前向き比較試験(TVT試験)では,両者において同程度の眼圧下降効果が得られこと,また術後5年の手術成功率はインプラント手術のほうが有意に高いことが報告され2),同年より日本においても緑内障インプラントが保険診療で使用できるようになった3,4).BGI手術の合併症として過剰濾過による低眼圧,チューブ閉塞やプレート周囲の瘢痕形成による眼圧上昇,チューブやプレートの露出,チューブの偏位,角膜内皮障害,複視などが起こることが報告されている5).今回,BGI挿入後のチューブのよじれ(kinking)による術後高眼圧に対して観血的に整復し,眼圧が改善した1例を経験したので報告する.I症例患者:52歳,男性.主訴:高眼圧.既往歴:2002年から糖尿病.家族歴:特記すべきことなし.現病歴:2012年4月両眼増殖糖尿病網膜症,右眼網膜前出血のため当院紹介受診し,2013年7月両眼硝子体手術が施行された.2014年3月(硝子体術後8カ月)より左眼眼圧が20mmHg以上となり,血管新生緑内障と診断した.硝子体術後10カ月の時点で眼圧降下薬点眼が開始された.2014〔別刷請求先〕朝岡聖子:〒113-8431東京都文京区本郷3-1-3順天堂大学医学部眼科学教室Reprintrequests:SatokoAsaoka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,JuntendoUniversitySchoolofMedicine,3-1-3Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8431,JAPAN年6月(術後11カ月)に眼圧54mmHgまで上昇を認めたため,左眼BGI挿入術(毛様体扁平部挿入術)を施行した.BGI術前所見:矯正視力VD=(0.7p×sph+0.75D(cyl.1.75DAx100°)VS=(0.6×sph+0.25D(cyl.1.75DAx80°)眼圧Tod=15mmHgTos=54mmHg前眼部右眼特記すべき所見なし.左眼虹彩前面・隅角全周に新生血管の出現,広汎なPASの形成を認めた.視野右眼湖崎分類IIIb左眼湖崎分類IIIbBGI手術所見:チューブは8-0バイクリル糸で2カ所結紮し,シャーウッドスリットを近位側に2カ所作製した.角膜輪部より8mmの2時の方向にプレートを置き,8-0ナイロン糸で固定した.ホフマンエルボーは角膜輪部より3.5mmの位置に8-0ナイロン糸で固定した.チューブは強膜上には直接固定せず,ホフマンエルボーとともに保存強角膜片で被覆し,強角膜片は10-0ナイロン糸で固定した.図1前眼部OCTよじれ(kinking)を認めた.臨床経過:BGI挿入術翌日は眼圧20mmHgであったが,8日目に35mmHgまで上昇し,アセタゾラミド内服を開始するも眼圧の改善を認めず,9日目に前房穿刺を施行した.その後眼圧9mmHgまで低下したため11日目に退院した.しかし外来経過観察時には30mmHgまで再上昇を認め,BGI挿入術後2カ月経過しても眼圧30mmHgと高値が継続したため,AS-OCTでチューブの走行部位を精査したところ,チューブが鋭角に屈曲しよじれのために内腔が閉塞している可能性が疑われた(図1).細隙灯顕微鏡下でブルメンタールレンズを用いてチューブ位置の確認を試みた際にチューブの位置を修正し,一時的な低下を得たが,平成26年11月(BGI術後5カ月)に67mmHgとさらなる眼圧上昇を認めたため,観血的チューブ整復術を施行した(図2).II手.術.方.法手術は,フルオレセインを用いてBGIチューブの閉塞部位の確認をしながら屈曲部位のブ整復を行った.①AS-OCTにてよじれが予想された部位の結膜を切開し,チューブを露出させた.②屈曲部位より遠位側でチューブに30G針で穿刺し,フルオレセインを眼内に向かって注入し(図3a),前房内にフルオレセインが広がらないことを確認した(図3b).続いて屈曲部位より近位側で眼内に向かってフルオレセインを注入した(図3c)ところ前房内にフルオレセイン流入が確認され(図3d),鋭角なチューブ屈曲部位でチューブが閉塞していることを確認した.③結膜切開をプレート近くまで広げ,チューブの屈曲が鈍角になるようにチューブを動かし,10-0ナイロン糸で強膜上に固定した.④結膜縫合し,チューブ整復術を終了した.左眼眼圧(mmHg)80706050403020100POD1POD2POD3POD4POD5POD6POD7POD8POD9POD10POD111M2M3M4M5M図2術後眼圧図3閉塞部位の術中確認III結果再手術後の経過であるが,術後3週目の矯正視力はVD=(0.8p×sph+1.5D(cyl.2.25DAx95°),VS=手動弁で,眼圧は右眼20mmHg,左眼17mmHgであった.前眼部には左眼耳側上方結膜下にホフマンエルボーを認め,前眼部OCTで確認したところチューブのよじれは解消した(図4).術後1年以上が経過した2016年現在まで,眼圧は再上昇することなく10mmHg台を推移しており,左眼視野は湖崎分類Vbである.IV考按緑内障インプラント手術におけるチューブのよじれについては,これまでに2報の報告がある.Rothmanらはultra-soundbiomicroscopy(UBM)を用いて3例のチューブ閉塞を診断し,1例はチューブの走行を整復することで,2例はチューブを新しい位置に再挿入することで,眼圧下降効果を得たとしている6).Netlandらはチューブインプラント挿入後の高眼圧に対する再手術中にチューブのよじれを認め,チューブ抜去および再挿入によって眼圧下降効果を得られたと報告している7).BGI手術ではチューブを結紮するために,術後早期には眼圧の下降が得られにくい.本症例のように8.0バイクリル糸で2カ所チューブ結紮した場合には,通常1本で結紮した場合の術後4週ごろ8)と比較し,やや遅れてチューブが開放すると考えられる.本症例では術後8週を過ぎてもチューブ開放に伴う眼圧の下降が観察されなかったため,チューブ先端への硝子体の嵌頓とチューブのよじれの可能性を考え,最初に非観血的に前眼部OCTを用いてチューブのよじれを診断した.術後高眼圧の原因として,チューブ開放後のプレート周囲の線維化による高眼圧期も報告されているが,その場左前眼部OCTのシェーマ図4整復後の前眼部OCT矢印部分が鈍角になっている.合にはチューブ開放後の眼圧の低下が確認できることが多いはずであり,本症例のように通常のチューブ開放時期を過ぎての高眼圧持続例では,まずはチューブ閉塞・よじれの可能性を考えるべきである.一方,よじれの診断から観血的な整復までに約2カ月が経過しており,その間に視機能が低下してしまったことが反省点である.ブルメンタールレンズを用いた用手的なチューブ位置の整復は簡便であるが,その効果は一時的なものであり,よじれの診断後速やかに観血的な整復を施行すべきであったと考えられた.また,今回,よじれを生じた要因として,チューブの長さがプレートとホフマンエルボーの距離に比べて長く,チューブ屈曲の一因となったと推測された.プレート固定の適正な位置は角膜輪部から8.10mmとされており9),本症例では輪部から8mmの位置にプレートを固定した.プレートとチューブの接合部からホフマンエルボー先端部までは10mmの長さがあるため,角膜輪部8mmの部位にプレートを固定した場合にはチューブの長さに余剰が出ることから,本症例ではより後方(10mm程度)にプレートを設置するか,適切なカーブをするためにチューブを強膜上に複数箇所固定すべきであったと考えられる.文献1)MoltenoAC:Newimplantforgraucoma.Clinicaltrial.BrJOphthalmol53:606-615,19692)GeddeSJ,Schi.manJC,FeuerWJ:TreatmentoutcomesintheTubeVersusTrabeculectomy(TVT)studyafterfiveyearsoffollow-up.AmJOphthalmol153:789-803,20123)緑内障診療ガイドライン(第3版)補遺緑内障チューブシャント手術に関するガイドライン.日眼会誌116:388-393,20124)杉本洋輔,木内義明:バルベルトR緑内障インプラント手術.臨眼68:1692-1699,20145)千原悦夫:緑内障チューブシャント手術のすべて.メジカルビュー社,p54-61,20136)RothmanRF,SidotiPA,GentileRCetal:Glaucomadrainagetubekinkafterparsplanainsertion.AmJOph-thalmol132:413-414,20017)NetlandPA,SchumanS:Managementofglaucomadrain-ageimplanttubekinkandobstructionwithparsplanaclip.OphthalmicSurg36:167-168,20058)HongCH,ArosemenaA,ZurakowskiDetal:Glaucomadrainagedevices.SurvOphthalmol50:48-60,20059)MincklerD:Operativetechniquesandpotentialmodi.ca-tions.Glaucoma2ndedition(editedbyShaarawyTM,SherwoodMB,HitchingsRA,CrowstonJG),Vol2,p1069,Saunders,London,2015***