《第13回日本視野画像学会原著》あたらしい眼科42(8):1031.1036,2025c運転外来における高齢視野障害患者の運転の特徴平賀拓也*1國松志保*1岩坂笑満菜*1佐藤菜摘子*1千葉るい*1黒田有里*1桑名潤平*2伊藤誠*2広田雅和*3溝田淳*1井上賢治*4*1西葛西・井上眼科病院*2筑波大学システム情報系*3帝京大学医療技術部視能矯正学科*4井上眼科病院CCharacteristicsofOlderDriverswithVisualFieldImpairmentinaDrivingAssessmentClinicTakuyaHiraga1),ShihoKunimatsu-Sanuki1),EminaIwasaka1),NatsukoSato1),RuiChiba1),YuriKuroda1),JunpeiKuwana2),MakotoItoh2),MasakazuHirota3),AtsushiMizota1)andKenjiInoue4)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InstituteofSystemsandInformationEngineering,UniversityofTsukuba,3)COrthoptics,FacultyofMedicalTechnology,TeikyoUniversity,4)InouyeEyeHospitalCDepartmentof目的:高齢視野障害患者の自動車事故のリスクと運転行動を,ドライビングシミュレータ(DS)を用いて検討した.対象と方法:運転外来を受診したC162例に対し,視力検査,Humphrey視野検査(HFA24-2),認知機能検査(MMSE),DSを施行した.DS時には据え置き型眼球運動計測装置にて視線の広がりを求めた.HFA24-2データを基に両眼重ね合わせ視野(IVF)を算出し,DS事故とCIVFの不一致率を調べた.対象を若年群(50歳未満:34名),中年群(50歳以上C70歳未満:76名),高齢群(70歳以上:52名)に分類して比較検討した.結果:高齢群は若年群,中年群と比較して,視野障害度に差がないもののCMMSEスコアは低く,DS事故は多く,水平方向の視線の広がりは小さく(p<C0.005),DS事故とCIVFの不一致率は有意に高かった(p<0.0001).結論:70歳以上のドライバーは,視野障害やその他の要因による自動車事故のリスクを理解する必要がある.CPurpose:Toinvestigatemotorvehiclecollision(MVC)riskanddrivingbehaviorinolderdriverswithvisual.eld(VF)impairmentCusingCaCdrivingsimulator(DS)C.CSubjectsandMethods:ThisCstudyCinvolvedC162Cpatients(patientage:<50years[n=34]C,50-70years[n=76]C,and.70years[n=52])fromCourCdrivingCassessmentCclinicCwhoCunderwentDS(HondaCMotorCo.)testingCwithCtheCHumphreyCFieldCAnalyzerC24-2CSITA-SCprogram(HFA24-2)C.CWeCcalculatedCtheCintegratedVF(IVF)basedConCtheCHFAC24-2Cdata.CEyeCmovementsCduringCtheC5-minuteDStestweremeasuredwitheyetracking(TobiiProNano),andthestandarddeviationofthexcoordi-natewasusedtoassessthehorizontalspreadofsearch.ThediscordancebetweenMVCsintheDSandtheIVFwasdeterminedbyexaminingeye-trackingdatainarecordingoftheDStest.Results:Althoughtherewerenosigni.cantdi.erencesinHFA24-2meandeviationvaluesamongthethreeagegroups,MVCsintheDSincreasedandChorizontalCspreadCofCsearchCwasClowerCinCtheColdestgroup(p<0.0001,Cp=0.0004)C.CDiscordanceCbetweenCDSCMVCsCandCtheCIVFCincreasedCwithage(i.e.,8.3%,9.9%,Cand37.5%;p<0.0001)C.CConclusion:DriversCaged>70CyearsshouldbeawareoftheriskofMVCsduetoVFimpairmentandotherfactors.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C42(8):1031.1036,C2025〕Keywords:ドライビングシミュレータ,高齢視野障害患者.drivingsimulator,DS,olderdrivers.はじめにわが国では,社会全体の高齢化に伴い,高齢運転者の自動車事故が問題となっている.わが国のC2023年のC70歳以上の運転免許保有者数はC1,362万人(運転免許保有者のC16.6%)に達しており,2001年のC70歳以上の運転免許保有者数C396万人(当時の運転免許保有者数のC5.2%)と比較して,高齢運転者の人数および比率は大幅に増加している1).一方で,交通事故死者数はC2001年からC2023年にかけて,飲酒運転防止対策などにより年々減少傾向にある.しかし,2023年の年齢層別免許保有者C10万人あたり死亡事故件数は,70.〔別刷請求先〕平賀拓也:〒134-0088東京都江戸川区西葛西C3-12-14西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:TakuyaHiraga,NishikasaiInouyeEyeHospital,3-12-14Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPANC0910-1810/25/\100/頁/JCOPY(97)C103174歳でC2.92件,75.79歳でC4.19件,80.84歳でC5.67件,85歳以上ではC9.75件と,年齢が高くなるにつれて多くなっており,高齢運転者の死亡事故のリスクは高いといえる2).視野障害を伴う多くの眼疾患は加齢により増加し,視野障害を自覚しないまま進行することが多い.視野障害をきたす代表的な疾患である緑内障の有病率は,40歳以上ではC5.0%だが,70歳代ではC10.5%,80歳以上ではC11.4%と高齢者に多い3).視野障害が進行すると自動車事故のリスクが増加するとの報告も多く4.7),自動車事故を減少させるためには,視野障害患者のなかでも,とくに高齢視野障害患者に対する安全運転指導が必要と考える.では,高齢視野障害患者にはどのような特徴があるのだろうか.西葛西・井上眼科病院(以下,当院)はC2019年C7月に,速度一定の条件下で,視野障害患者が事故を起こしやすい場面を再現するアイトラッカー搭載ドライビングシミュレータ(drivingsimulator:DS)を用いた「運転外来」を開設した8).この外来では,DSを使用して,視野障害が原因の事故発生リスクについて患者およびその家族に説明を行っている.筆者らは過去に,運転時に水平方向への視線の広がりが大きいほどCDS事故が少ないこと9,10),DS事故のなかには視野障害では説明できないCDS事故と視野障害との不一致例があること11)を報告してきた.今回,高齢視野障害患者の視線の広がりやCDS事故と視野障害の不一致率を若年・中年視野障害患者と比較することにより,高齢視野障害患者の運転の特徴を明らかにして,どのような運転指導が適切か検討した.CI対象と方法2019年C7月からC2024年C2月までに,当院運転外来を受診した視野障害患者C183例(緑内障C149例,網膜色素変性17例,脳血管障害・脳腫瘍C17例,男性:女性=143:40)に対して,視力検査,Humphrey視野計CSITACStandard24-2プログラム(HFA24-2),両眼開放CEstermanテスト,運転調査(1週間あたりの運転時間,運転目的,過去C5年間の事故歴の有無),認知機能検査(mini-mentalCstateCexami-nation:MMSE)を行い,DSを施行した.また,HFA24-2をもとに,既報に基づき12,13)両眼重ね合わせ視野(integrat-edvisual.eld:IVF)を作成し,上下半視野ごとの平均網膜感度を算出した.視力検査,MMSE,DSは同一日に実施し,視力は普通自動車免許取得基準(両眼でC0.7以上,一眼でC0.3以上)を満たす患者を対象とした.HFA24-2および両眼開放CEster-manテストはCDS実施日の前後C3カ月以内に実施した結果を使用した.HFA24-2では,固視不良がC33%以上,偽陽性がC15%以上,偽陰性がC20%以上の場合は対象から除外した.運転評価のためのCDSはエコ&安全運転教育用CDSであるHondaセーフティナビ(本田技研工業)を改変したものを使用した.運転条件を統一するために速度は一定とし,ハンドル操作はなく危険を感じたらブレーキを踏むのみとしており,所要時間は練習走行約C3分,本走行約C5分とした.運転場面は,信号や右折車,止まれの標識,側方からの飛び出しなどがあり,14場面中の事故件数を記録した11).また,運転時の視線の動きは,据え置き型視線計測装置CTobiiCProX3-120およびCTobiiProNano(TobiiTechnology社)を使用し,サンプリングレートをC100CHzに統一して解析した.解析にあたっては,5分間の走行中の視線の動きをC10ミリ秒ごとに記録し,走行中のすべての視線指標記録の水平方向(x),垂直方向(y)の視線の座標位置(視線の動きの標準偏差,視線水平/垂直Cstandarddeviation:SD)を求め「視線の広がり」と定義した(図1).視線の広がりの数値が大きいほど眼の動きが大きく,数値が小さいほど眼の動きが小さいことを示している9).さらに,サンプリングレートをC100CHzで測定し,0.5°内にC60ミリ秒以上視線が留まったものを「注視」と定義した.つぎに,IVF網膜感度がC20CdB以下の視野障害部位と一致する事故・一致しない事故に分類した.今回はリプレイ画像を用いて,対象物(信号,止まれの標識,右折してくる対向車,側方からの飛び出し)を注視せず,対象物が視野障害に重なり,DS事故が起きたと考えられる場合を「DS事故とCIVFの一致」(図2a),対象物を注視した,あるいは対象物が視野障害に重ならずにCDS事故が起きた場合を「DS事故とCIVFの不一致」と定義した(図2b).また,DS事故とCIVFの不一致件数を全CDS事故件数で割った値を「DS事故とCIVFの不一致率」とした.対象物と視野障害部位の重なりの判定は,DS施行後に,医師および視能訓練士の計C3名以上がリプレイ映像を確認し,DS事故が視野障害部位と一致しているかどうかを判定した.解析にあたっては,対象を若年群(50歳未満),中年群(50歳以上C70歳未満),高齢群(70歳以上)に分けて,年齢,性別,1週間の運転時間,MMSECtotalscore,完全矯正視力(logMAR),視野障害度〔meandeviation:MD(dB)〕,Estermanスコア,IVF上下半視野平均網膜感度(dB),DS事故件数,視線の広がり(ピクセル),DS事故とCIVFの不一致率を比較した.比較にあたってはCKruskal-Wallis検定を行い,Steel-Dwass検定を用いて多重比較を行った.年齢とCDS事故件数,水平方向の視線の広がりの比較にあたっては,Spearmanの順位相関係数を用いて検討した.統計学的検討にはCJMPバージョンC14.0を用い,p<0.05を統計学的に有意と判定した.本研究は,当院倫理委員会の承認のもと(「視野障害患者に対する高度運転支援システムに関する研究」(課題番号:C201906-1)に行い,各対象者よりインフォームドコンセントを得た.aVerticaleyeposition(ピクセル)02004006008001,0001,2001,4001,6001,80001002003004005006007008009001,000Horizontaleyeposition(ピクセル)bVerticaleyeposition(ピクセル)02004006008001,0001,2001,4001,6001,80001002003004005006007008009001,000Horizontaleyeposition(ピクセル)図1視線の動き(視線の広がり)が大きい例と小さい例の比較走行中のすべての視線指標記録をCxy座標軸にプロットしたもの.Ca:全視線指標が中央にまとまって分布している.視線の動きの幅が小さいことを示す.Cb:全視線指標が水平方向にばらついて分布している.視線の動きの幅が大きいことを示す.CII結果運転外来を受診したC183例のうち,車酔いによりCDSを途中で中止したC5例,視野検査の信頼性が低かったC3例,認知症の疑いがあったC2例,視線解析の信頼性がC50%以下であったC11例を除いたC162例〔年齢C22.87歳,61.2C±13.9歳(平均±SD),男性:女性=126:36〕を対象とした.対象疾患の内訳は,緑内障C133例,網膜色素変性C16例,脳血管障害・脳腫瘍C13例,視野良好眼のCMD値はC.11.95±7.15CdB,視野不良眼のCMD値はC.18.27±8.31CdBであった.対象としたC162例を,若年群(50歳未満:34例),中年群(50歳以上C70歳未満:76例),高齢群(70歳以上:52例)のC3群に分けて比較した結果を表1に示す.高齢群は若年群および中年群と比較してCMMSECtotalscore,視力良好眼,視力不良眼の視力は有意に低かった(p=0.0002,p=0.0083,Cp=0.013,Kruskal-Wallis検定).一方で,性別,1週間の運転時間,視野良好眼,視野不良眼のCMD値,Estermanスコア,IVF上半・下半視野の平均網膜感度は年齢群による有意差はみられなかった.また,高齢群ほど,DS事故件数(99)は有意に多く,水平方向の視線の広がりは有意に小さかった(p=0.0004,p<0.0001,Kruskal-Wallis検定).しかし,垂直方向の視線の広がりについては年齢群による有意差はみられなかった.DS事故とCIVFの不一致率は,年齢とともに増加した(8.3C±25.4%,9.9C±27.3%,37.5C±44.7%,p<C0.0001)(図3).年齢とCDS事故件数,年齢と水平方向の視線の広がりは,それぞれ有意な相関が認められた(rs=0.28,p=0.0003,rs=.0.40,p<0.0001,Spearman順位相関係数)(図4a,b).CIII考按筆者らは,高齢視野障害患者の運転の特徴について,若年群(50歳未満)34例,中年群(50歳以上C70歳未満)76例,高齢群(70歳以上)52例に分けて比較検討した.その結果,高齢群は若年群および中年群と比較して,認知機能,視力が低下し,DS事故件数が多く,DS事故とCIVFの不一致率が高く,水平方向の視線の広がりが小さかった.若年群および中年群と比較して,高齢群の認知機能や視力が低下していたのは,加齢に伴い認知機能が低下しているたあたらしい眼科Vol.42,No.8,2025C1033IVFIVF図2DS事故とIVFの一致例(上段)とDS事故とIVFの不一致例(下段)上段:下方視野障害のために,白いトラックが見えず衝突した例.C●は視線の位置.Ca:IVFのグレースケール.Cb:通常CDS画面.Cc:運転場面にCIVFを重ねたもの.下段:白いトラックを何度も見ていたにも関わらずに衝突した例.視線の位置(C●)がトラックに重なった時点で,ブレーキを踏めば停止できる距離であった.d:IVFのグレースケール.Ce:通常CDS画面.Cf:運転場面にCIVFを重ねたもの.表1患者背景若年群(n=34)中年群(n=76)高齢群(n=52)p値年齢(歳)C41.1±7.3C60.4±6.0C76.8±4.8<C.0001+性別(男性:女性)28:660:2C038:1C0C0.66++1週間の運転時間(h/w)C9.1±12.5C6.6±12.2C4.5±8.8C0.48+MMSEtotalscoreC29.2±1.3C29.1±1.3C27.9±2.1C0.0002+視力良好眼視力(logMAR)C.0.04±0.08C.0.03±0.08C.0.0004±0.01C0.0083+視力不良眼視力(logMAR)C0.13±0.07C0.17±0.05C0.26±0.06C0.013+視野良好眼CMD(dB)C.13.74±8.56C.11.61±6.97C.11.26±6.33C0.42+視野不良眼CMD(dB)C.19.15±9.06C.17.90±7.27C.19.19±7.10C0.50+EstermanスコアC75.6±28.3C85.5±18.7C80.1±18.2C0.067+IVF上半視野の平均網膜感度(dB)C18.47±9.88C21.37±9.16C19.69±8.74C0.53+IVF下半視野の平均網膜感度(dB)C22.24±9.97C24.79±8.72C23.00±8.32C0.51+DS事故件数(件)C0.9±1.4C1.0±1.7C2.1±2.1C0.0004+DS事故とCIVFの不一致率(%)C8.3±25.4C9.9±27.3C37.5±44.7<C.0001+水平方向の視線の広がり(ピクセル)C205.7±42.4C189.7±42.2C159.4±33.3<C.0001+垂直方向の視線の広がり(ピクセル)C96.0±23.1C87.1±21.2C89.8±19.7C0.15+平均±SD値/+Kruskal-Wallis検定++Fisher正確確率検定MMSE:mini-mentalstateexamination,logMAR:logarithmoftheminimumangleofresolution,MD:meandevi-ation,IVF:integratedvisual.eld,DS:drivingsimulator(n=162)100DS事故と視野障害との不一致利率(%)806040200若年群中年群高齢群8.3±25.4%9.9±27.3%37.5±44.7%年齢群Kruskal.Wallis検定,Wilcoxon検定図3DS事故-視野障害との不一致率(年齢群別)水平線は全体平均,ひし形の中央線は各群の平均値,ひし形の縦の長さは平均のC95%信頼区間を表している.ひし形の横の長さは被験者数に対応している.若年群・中年群と比較して,高齢群はCDS上の事故と視野障害との不一致率が高い.Cab40035030025020015010050DS事故件数(件)76500202530354045505560657075808590202530354045505560657075808590年齢(歳)年齢(歳)図4年齢とDS事故件数の相関(a),年齢と水平方向の視線の広がりの相関(b)a:年齢とCDS事故件数は有意な相関が認められた(rs=0.28,p=0.0003,Spearman順位相関係数).b:年齢とCDS事故件数は有意な相関が認められた(rs=.0.40,p<0.0001,Spearman順位相関係数).め11),また,緑内障患者が高齢になるほど罹病期間が長く,進行例が多くなるためと考える.今回は,高齢群で水平方向への視線の動きが小さく,DS事故件数が多くなっていた.水平方向への視線の動きは,左右からの車や自転車,歩行者の飛び出しなど,危険を発見するために必要である14).Romoserらは,高齢ドライバーC18名(年齢C72.87歳,平均C77.7歳)と経験豊富な若年ドライバーC18名(年齢C25.55歳,平均C35歳)を対象に,視線の動きを記録しながら,DSを走行させ,3カ所の交差点進入時のCscanningbehaviorについて評価した.その結果,高齢ドライバーは,交差点進入時に前方の進路方向を注視し,左右の危険な場所をCscanしていないため,若年ドライバーと比較してCscanningCperformanceが劣っており,高齢ドライバーは交差点での事故のリスクが高い可能性があると報告している15).筆者らの検討でも高齢群ほど水平方向への視線の広がりが小さく,DS事故件数が多かったことから,高齢視野障害患者では,左右への視線の動きが小さいことが,DS事故の増加につながる可能性があると考えた.CLeeSSらは,高齢緑内障患者では,scanningbehaviorを変えることで,運転技能と安全性が向上する可能性があると報告している16).深野らは,過去にCDS事故と視線の動きの関連について,水平方向への視線の広がりが大きい群と,それが小さい群に分けて比較検討した.その結果,水平方向への視線の広がりが大きい群は,DS事故件数が少なく,危険を予測しながら運転していたと報告している10).今回の結果では,高齢群において水平方向の視線の動きが小さく,DS事故件数が多い傾向が見られた.このことから,高齢視野障害患者に対して,危険を予測しながら運転するように指導する安全運転教育を行うことで,視線の動きが左右に広がり,自動車事故の減少が期待できると考えた.今回,高齢群では視野と一致しない自動車事故が増えていた.小原らは過去に,高齢群は若年群および中年群と比較して,DS事故とCIVFの不一致率が高かったと報告している11).今回,症例数を増やしても同様の結果が得られた.高齢視野障害患者は,視野障害が原因ではない認知機能や判断力,運動能力の低下による事故が増えるため,DS事故とIVFの不一致率が高くなったと考えた.自動車の運転は,認知,判断,操作のC3要素で成り立っている17).交通事故は,このC3要素のいずれかで運転者のミスが生じることにより発生する.高齢視野障害患者は,認知,判断,操作の能力が低下することに加えて,視野障害により認知の失敗のリスクが高くなり,さらに運転事故のリスクは高くなることが考えられるため,高齢視野障害患者の運転指導においては,視野障害部位にあわせて,どのような運転場面で事故リスクが高まるかを周知し,注意喚起を行うことが重要である.今回の結果から,高齢視野障害患者では視線の左右の動きが小さかったことから,危険予測をするように目を左右によく動かすように指導する必要がある.さらに,高齢視野障害患者では視野と一致しないCDS事故が増えることから,視野障害に起因する事故と,それ以外の運動能力の低下などで起きた事故とを分けて説明することも大事である.今後は,運転外来受診後に再度CDSを行うことにより,視線の広がりやCDS事故件数に改善がみられるのか,DSを用いた訓練が可能であるかどうかを検討していきたい.本研究は,トヨタモビリティー基金およびCJSPS科研費21K09737の助成を受けたものである.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)警察庁交通局運転免許課:運転免許統計(令和C5年版).警察庁CWebサイト.https://www.npa.go.jp/publications/Cstatistics/koutsuu/menkyo/r05/r05_main.pdf2)警察庁交通局:令和C5年における交通事故の発生状況について.警察庁CWebサイト.https://www.npa.go.jp/bureau/Ctra.c/bunseki/nenkan/060307R05nenkan.pdf3)疫学調査委員会:日本緑内障学会多治見疫学調査報告書(2000-2001年),日本緑内障学会,20124)JohnsonCCA,CKeltnerJL:IncidenceCofCvisualC.eldClossCinC20,000CeyesCandCitsCrelationshipCtoCdrivingCperformance.CArchOphthalmolC101:371-375,C19835)OwsleyCC,CBallCK,CMcGwinCGCetal:VisualCprocessingCimpairmentCandCriskCofCmotorCvehicleCcrashCamongColderCadults.JAMAC279:1083-1088,C19986)McGwinG,XieA,MaysAetal:Visual.elddefectsandtheCriskCofCmotorCvehicleCcollisionsCamongCpatientsCwithCglaucoma.InvestOphthalmolVisSciC46:4437-4441,C20057)TanabeCS,CYukiCK,COzekiCNCetal:TheCassociationCbetweenprimaryopen-angleglaucomaandmotorvehiclecollisions.InvestOphthalmolVisSciC52:4177-4181,C20118)平賀拓也,國松志保,野村志穂ほか:運転外来にて認知機能障害が明らかになったC2例.あたらしい眼科C38:1325-1329,C20219)平賀拓也,國松志保,深野佑佳ほか:運転外来におけるドライビングシミュレータ事故に関与する因子.臨眼77:C1296-1302,C202310)深野佑佳,國松志保,平賀拓也ほか:運転外来における視野障害患者のドライビングシミュレータ事故と視線の動きの関連.臨眼78:1220-1226,C202411)小原絵美,野村志穂,國松志保ほか:西葛西・井上眼科病院運転外来における視野障害と事故との関連.あたらしい眼科40:257-262,C202312)Nelson-QuiggJM,CelloK,JohnsonCA:PredictingbinocC-ularCvisualC.eldCsensitivityCfromCmonocularCvisualC.eldCresults.InvestOphthalmolVisSciC41:2212-2221,C200013)CrabbCDP,CFitzkeCFW,CHitchingsCRACetal:ACpracticalCapproachCtoCmeasuringCtheCvisualC.eldCcomponentCofC.tnesstodrive.BrJOphthalmolC88:1191-1196,C200414)UdagawaCS,COhkuboCS,CIwaseCACetal:TheCe.ectCofCcon-centricCconstrictionCofCtheCvisualC.eldCtoC10CandC15CdegreesConCsimulatedCmotorCvehicleCaccidents.CPLosCOneC13:e0193767,C201815)RomoserCMR,CPollatsekCA,CFisherCDLCetal:ComparingCtheCglanceCpatternsCofColderCversusCyoungerCexperienceddrivers:scanningCforChazardsCwhileCapproachingCandCenteringCtheCintersection.CTranspCResCPartCFCTra.cCPsy-cholBehavC16:104-116,C201316)LeeCSS,CBlackCAA,CWoodJM:ScanningCbehaviorCandCdaytimeCdrivingCperformanceCofColderCadultsCwithCglauco-ma.JGlaucomaC27:558-565,C201817)三村將,藤田佳男:2.安全運転と認知機能.日老医誌C55:191-196,C2018***