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初回手術でバルベルトインプラントを挿入したAxenfeld-Rieger症候群の1例

2019年4月30日 火曜日

《第29回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科36(4):533.536,2019c初回手術でバルベルトインプラントを挿入したAxenfeld-Rieger症候群の1例松谷香菜恵*1中倉俊祐*1小林由依*1田淵仁志*1木内良明*2*1三栄会ツカザキ病院眼科*2広島大学視覚病態学講座InitialInferiorBaerveldtImplantationforAxenfeld-RiegerSyndrome:ACaseReportKanaeMatsuya1),ShunsukeNakakura1),YuiKobayashi1),CHitoshiTabuchi1)andYoshiakiKiuchi2)1)DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,2)DepartmentofOphthalmologyandVisualSciences,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversityC緒言:Axenfeld-Rieger(AR)症候群は,後部胎生環やそれに付着する虹彩の索状物ならびに発達緑内障を認め,全身的には顔面骨や歯牙の発達異常,低身長,精神発達遅滞などを合併する.症例:60歳,女性.平成C28年に両眼の角膜びらんで当院初診となった.完治後右眼視力C0.01(0.01),左眼視力C20cm/手動弁(矯正不能),右眼眼圧C26mmHg,左眼眼圧C40CmmHg(iCare)であった.後部胎生環を両眼全周に認め,特異的な顔貌,歯牙の欠損,低身長(103Ccm)からCAR症候群と診断した.抗緑内障点眼薬を両眼に開始するも眼圧は右眼C18.28CmmHg,左眼C22.40CmmHgで推移した.強い閉瞼と前頭部の突出,下方視が困難なことから上方での濾過手術は術後管理が困難と判断し,両眼ともに白内障手術とバルベルト(耳下側,毛様溝)挿入術を全身麻酔下で同日施行した.最終診察時(術後C6カ月目),右眼視力C0.01(0.01),左眼視力C20cm/手動弁(矯正不能),右眼眼圧C14mmHg,左眼眼圧C10CmmHg(iCare)となった.考察:上方からの濾過手術が困難と予想されたCAR症候群に,初回下方からのバルベルト挿入術は有効であった.Axenfeld-RiegerCsyndrome(AR)isCanCautosomalCdominantCdiseaseCwhoseCocularCcharacteristicsCareCposteriorCembryotoxonCwithCiridocornealCattachmentCanddevelopmentalCglaucoma(about50%)C.CWeCdiagnosedCaCfemaleCpatientashavinglate-onsetdevelopmentalglaucomaduetoAR,basedonposteriorembryotoxonandnon-ocularfeatures.Becauseofuniquefacialfeatures,mentalretardation,narrowpalpebral.ssureandstrongeyelidclosure,wejudgedtrabeculectomyatasuperotemporalsitetobeunwise.WethereforeconductedinitialinferiorBaerveldtimplantationCwithCcataractCsurgeryCinCbothCeyesCunderCgeneralCanesthesia.CAsCaCresult,CherCintraocularCpressureCdecreasedfrom20-30CmmHgtounder15CmmHg.WesuggestthatinferiorBaerveldtimplantationatinitialsurgeryisabetteroptionforglaucomaduetoARsyndrome.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(4):533.536,C2019〕Keywords:緑内障,バルベルトインプラント,Axenfeld-Rieger症候群,後部胎生環.glaucoma,Baerveldtim-plant,Axenfeld-Riegersyndrome,posteriorembryotoxon.CはじめにAxenfeld-Rieger(AR)症候群は神経堤細胞の遊走異常による前眼部間葉異発生の一つとされ,常染色体優性遺伝の形式をとる1.3).眼科的には角膜輪部に後部胎生環や発達緑内障を認め,虹彩低形成,瞳孔変位を認めることもある1.3).全身的には顔面骨や歯牙の発達異常,低身長,心疾患,難聴,精神発達遅滞などを合併する1.3).AR症候群に伴う緑内障の発生頻度は約C50%で,線維柱帯とCSchlemm管の発育不良が原因とされ3),流出路再建術は不向きとされている3,4).今回筆者らはCAR症候群に伴う緑内障に対し,特異な顔貌と強い閉瞼,精神遅滞により下方視が困難なことから,濾過手術は術後管理が困難と判断し,初回からバルベルトインプラ〔別刷請求先〕松谷香菜恵:〒671-1227兵庫県姫路市網干区和久C68-1三栄会ツカザキ病院眼科Reprintrequests:KanaeMatsuya,C.O.,DepartmentofOphthalmology,SaneikaiTsukazakiHospital,68-1AboshiWaku,Himeji,Hyogo671-1227,JAPANCントを両眼ともに耳下側に挿入した症例を報告する.CI症例60歳,女性.家族歴:母親がCAR症候群の疑いあり.姉妹C2人は正常であった.既往歴:2型糖尿病と精神遅滞がある.現痛歴:2016年に原因不明の両眼の角膜びらんで当院紹介となった.角膜びらん完治後右眼視力C0.01(矯正不能),左眼視力C20cm/手動弁(矯正不能),右眼眼圧C26mmHg(iCare),左眼眼圧C40CmmHg(iCare)であった.中心角膜厚は右眼C0.508mm,左眼0.487mm,角膜内皮細胞は右眼2,762個/mmC2,左眼C2,060個/mmC2でCguttataは認めなかった.細隙灯顕微鏡にて,両眼全周に後部胎生環を認め(図1a),特異な顔貌(図1b),歯牙の欠損(図1c),低身長(103Ccm)(図1d),虹彩の菲薄化(図1e)からCAR症候群と診断した.隅角検査では,全周に後部胎生環を認めたがそこに至る虹彩の索状物は認めなかった.眼底所見では,進行した緑内障性視神経症を認めた.視野検査(Goldmann視野)Cabでは湖崎分類で両眼CV-bであった(図2).CII経過トラボプロストC0.004%とブリンゾラミドC1%を両眼に開始するも,眼圧は右眼C18.28CmmHg,左眼C22.40CmmHgで数カ月推移した.Goldmann圧平式眼圧計の測定には困難を要したため,reboundtonometer(iCareCorIcarePRO)を用いた.強い閉瞼と前頭部の突出,精神遅滞から下方視が困難なことから,上方での濾過手術は術後管理が困難と判断した.全身麻酔下で両眼ともに超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術,ならびにバルベルトインプラント(BaerveldtGlau-comaImplant)(エイエムオー・ジャパン社:BG101-350)挿入術を施行した.瞼裂も狭く,術後管理も考慮し,耳上側ではなく耳下側の毛様溝にチューブを挿入した(図3).バルベルトインプラントはC8-0バイクリル糸で結紮し,完全閉塞を確認したうえで,SherwoodスリットをC3箇所作製した.チューブ内へのステント留置は行わず,8-0バイクリル糸が融解するまで眼圧下降を待つ方法をとった.チューブの被覆には強膜反転法を用いた5).図1特異な前眼部ならびに全身形態異常a:両眼全周に後部胎生環(黒矢印)を認めた.瞼裂は狭い.Cb:特異な顔貌.Cc:歯牙の欠損.Cd:低身長(103cm).Ce:虹彩の菲薄化(.).図2Goldmann視野(術前)両眼ともに湖崎分類でCV-bで,著明な視野狭窄を認めた.図3術中ならびに術後前眼部写真上段:術中前眼部写真.瞼裂は狭い.下段:術後の前眼部写真.両眼ともに耳下側から毛様溝に挿入されたバルベルトのチューブ先端が確認できる.両眼ラタノプロスト0.005%(1回/日)術翌日右眼眼圧C23.0CmmHg(icarePRO),左眼眼圧C22.2眼圧(mmHg)353025201510533mmHg(IcarePRO)であった.両眼にラタノプロストC0.005%の点眼を開始した.術後C1週間で両眼ともに眼圧はC11mmHg(IcarePRO)と安定した.術後C2週間からC1カ月で眼圧上昇がみられたが,その後眼圧は安定し最終診察時(術11後C6カ月目),右眼視力C20cm/指数弁(0.01p),左眼視力0眼前/手動弁(矯正不能),右眼眼圧C14CmmHg(iCare),左眼眼圧C10CmmHg(iCare)であった(図4).図4術後眼圧の経過III考察今回筆者らはCAR症候群と診断できた患者に,初回から耳下側にバルベルトを挿入することで良好な眼圧下降を得ることができた.隅角検査で発見できるものを含めると,眼科外来で後部胎生環はC17.9%でみられるという報告もあり6),後部胎生環のみではCARの確定診断にはならないが,家族歴,歯牙の欠損や身体的特徴からCARと診断できた.AR症候群における緑内障発症年齢はC2ピークで,小児か若い成人である4).これまでCAR症候群の小児緑内障に対しては長期間の術後経過を報告したものがあるが,成人ではない4,7).MandalらはCAR症候群C44眼に初回からCtrabeculectomy+trabecu-lotomyもしくはCtrabeculectomyを施行し,術前の眼圧はC27.0±4.8CmmHgから術後C14.8C±3.6CmmHgと有意に低下し,平均下降率はC45.14%であった4).また,Kaplan-Meier生存解析による成功確率(全身麻酔下<16CmmHgCorCGoldmann圧平式<21CmmHg)はC6,7,8,9,10年でそれぞれC88.1%,82.3%,70.5%,56.4%,42.3%で良好であったと報告している.Goniotomyで行ったCRiceら7)は11例19眼のうち,2眼のみ眼圧のコントロールができたと報告している.AR症候群は線維柱帯とCSchlemm管の発育不良が原因とされ3),trab-eculectomyが成人でも向いている可能性が高い.ただ本症例のようにCDeepCseteyeで強い閉瞼をし,下方視が困難な症例の場合,術後のレーザー切糸はかなり困難と術前に予測できる.Changら1)も隅角手術が失敗に終わった場合,下方からのインプラント挿入術がCtrabeculectomyに比べて診察の頻度も少なく,よい選択肢であると述べている.今後長期間の経過観察が必要である.CIV結論上方からの濾過手術が困難と予想されたCAR症候群に,初回下方からのバルベルト挿入術は有効であった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ChangCTC,CSummersCCG,CSchimmentiCLACetal:Axen-feld-RiegerCsyndrome:newCperspectives.CBrCJCOphthal-molC96:318-322,C20122)尾関年則,白井正一郎,馬嶋昭生:Axenfeld-Rieger症候群の臨床像.臨眼C51:1727-1730,C19973)ShieldsMB:Axenfeld-RiegerCsyndrome:aCtheoryCofCmechanismanddistinctionsfromtheiridocornealendothe-lialCsyndrome.CTransCAmCOphthalmolCSocC81:736-784,C19834)MandalCAK,CPehereN:Early-onsetCglaucomaCinCAxen-feld-Riegeranomaly:long-termsurgicalresultsandvisu-aloutcome.Eye(Lond)C30:936-942,C20165)藤尾有希,中倉俊祐,野口明日香ほか:強膜反転法を用いたインプラントチューブ被覆術.あたらしい眼科C35:957-961,C20186)尾関年則,白井正一郎,佐野雅洋ほか:後部胎生環の臨床的検討.臨眼C48:1095-1098,C19947)RiceNSC:Thesurgicalmanagenmentofcongenitalglau-comas.AustJOphthalmolC5:174-179,C1977***