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パクリタキセルとドセタキセルを投与中に囊胞様黄斑浮腫を認めた1例

2014年1月31日 金曜日

《原著》あたらしい眼科31(1):133.136,2014cパクリタキセルとドセタキセルを投与中に.胞様黄斑浮腫を認めた1例佐藤尚人亀田裕介佐伯忠賜朗鷲尾紀章土田展生幸田富士子公立昭和病院眼科ACaseofCystoidMacularEdemaSecondarytoPaclitaxelandDocetaxelNaotoSato,YusukeKameda,TadashiroSaeki,NoriakiWashio,NobuoTsuchidaandFujikoKodaDepartmentofOphthalmology,ShowaGeneralHospital目的:タキサン系抗癌剤であるパクリタキセルとドセタキセルを投与中に,両眼に.胞様黄斑浮腫を認めた1例を報告する.症例:63歳,男性.胃癌肝転移に対しパクリタキセル投与を開始後1カ月より両眼の視力低下を自覚し,4カ月後に当科を受診した.初診時矯正視力は両眼とも0.3,両眼にフルオレセイン蛍光眼底造影検査で異常を認めない.胞様黄斑浮腫を認めた.パクリタキセルの投与を中止したところ黄斑浮腫の改善がみられたものの,ドセタキセルを開始したところ黄斑浮腫が遷延した.パクリタキセルの投与を中止して4カ月後に,矯正視力は右眼0.6,左眼0.9へと上昇した.結論:タキサン系抗癌剤の副作用として両眼に.胞様黄斑浮腫が出現し,薬剤の中止によって改善がみられた.Wereportacaseofcystoidmacularedemaduetotaxanesinthetreatmentofgastriccancer.A63-year-oldmalepresentedwithcomplaintofdecreasedvision1monthafterinitiationofpaclitaxeltreatmentformetastaticgastriccancer.Attheinitialophthalmologicexamination,best-correctedvisualacuitywas0.3OU.Dilatedfundusexaminationdisclosedevidenceofbilateralcystoidmacularedema.Fluoresceinangiographyshowednoevidenceofleakage.Thepaclitaxeltherapywasdiscontinued.3monthslater,theoncologistreintroducedataxanetreatmentusingdocetaxel.By4monthsaftercessationofpaclitaxeltreatment,thepatient’sbestcorrectedvisualacuityhadimprovedto0.6ODand0.9OS.Fundusexaminationfindingsandopticalcoherencetomographyshowedadecreaseinmacularedema.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(1):133.136,2014〕Keywords:パクリタキセル,ドセタキセル,.胞様黄斑浮腫.paclitaxel,docetaxel,cystoidmacularedema(CME).はじめにタキサン系抗癌剤は,乳癌,非小細胞肺癌,卵巣癌を中心に,胃癌,食道癌などの治療に対しても近年広く用いられている抗癌剤であり,その代表的なものとして,パクリタキセルやドセタキセルがよく知られている.タキサン系抗癌剤はセイヨウイチイの樹皮成分に含まれるジテルペンから合成され,微小管の蛋白質重合を促進し,細胞分裂を阻害することで癌の増殖を抑えると考えられている.全身への副作用として骨髄抑制,末梢神経症状などが知られており1),眼科領域のものとしては,蛍光眼底造影にて異常を示さない.胞様黄斑浮腫が近年数例報告されているが2.7),パクリタキセル投与後にドセタキセルが投与され,.胞様黄斑浮腫が遷延したという報告例は数少ない.今回筆者らはパクリタキセルを中止し,その後黄斑浮腫が改善したが,ドセタキセル開始後に黄斑浮腫が遷延した1例を経験したので報告する.I症例患者:63歳,男性.主訴:両眼視力低下.〔別刷請求先〕佐藤尚人:〒187-8510東京都小平市花小金井八丁目1番1号公立昭和病院眼科Reprintrequests:NaotoSato,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ShowaGeneralHospital,8-1-1Hanakoganei,Kodaira-shi,Tokyo187-8510,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(133)133 既往歴・家族歴:特記事項なし.現病歴:平成23年12月より胃癌原発の多発肝転移に対してパクリタキセルによる化学療法を開始された.平成24年1月頃より両眼の視力低下を自覚し,同年4月27日に当科を受診した.初診時所見:視力は右眼0.2(0.3×sph.0.5D),左眼0.3(矯正不能),眼圧は右眼16mmHg,左眼16mmHgであった.対光反応は正常で,瞳孔径に左右差を認めず,前眼部,中間透光体には,軽度白内障を認めた以外,特に異常はみられなかった.眼底所見としては両眼に.胞様黄斑浮腫を認め,光干渉断層計検査(opticalcoherencetomography:OCT)において,中心窩における軽度の漿液性網膜.離および網膜外層を中心とした黄斑浮腫がみられた(図1a,b).中心窩網膜厚は右眼607μm,左眼551μmであった.フルオレセイン蛍光眼底造影(fluoresceinangiography:FA)においては早期から後期にかけて網膜血管からの明らかな蛍光漏出や蛍光貯留はみられなかった(図1c,d).高血圧や糖尿病などの基礎疾患はなく,内服薬や血液検査所見からも他に黄斑浮腫をきたす原因が考えられなかったことから,パクリタキセルが原因の黄斑症と考え,当院外科にコンサルトのうえ,パクリタキセルの投与を中止することにした.経過:平成24年5月22日をもってパクリタキセルを中止し,6月12日から抗癌剤をTS-1とシスプラチンに変更したところ,7月6日には.胞様黄斑浮腫の軽減がみられ,視力も右眼(0.5),左眼(0.5)と改善した.その後TS-1による重篤な角膜障害,涙道障害や,シスプラチンによる網膜血管障害もみられず,経過は順調であったが,腹部CT(コンピュータ断層撮影)にて肝転移腫瘍の増大がみられたため,8月26日より抗癌剤をドセタキセルへ変更した.9月25日受診時の視力は右眼(0.6),左眼(0.9)とさらに改善がみられたものの,OCTにて軽度黄斑浮腫の残存がみられた(図2a,b).中心窩網膜厚は右眼324μm,左眼321μmであった.その後最終観察時点で所見に大きな変化はみられていない.II考察タキサン系抗癌剤による眼への副作用としては黄斑浮腫の他に,視神経中毒症8),鼻涙管狭窄症9)などの報告があるが,abcd図1初診時の所見a,b:光干渉断層計所見(a:右眼,b:左眼).両眼黄斑部に,網膜外層を中心とした.胞様変化がみられ,右眼には漿液性網膜.離を認めた.c,d:フルオレセイン蛍光眼底造影所見後期像(c:右眼,d:左眼).網膜血管および黄斑部において蛍光漏出や蛍光貯留を認めなかった.134あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014(134) abab図2投薬中止4カ月後の所見a,b:光干渉断層計所見(a:右眼,b:左眼).右眼の漿液性網膜.離は消失,両眼黄斑部の.胞様浮腫は改善し,網膜厚の減少もみられるが,.胞様変化の残存がみられる.今回の症例においてはいずれもみられなかった.タキサン系抗癌剤による.胞様黄斑浮腫については海外でいくつかの報告があり2.6,10,11),わが国においては伊藤らを始めとし7)少数ではあるが数例の報告がある.過去の症例報告においては,パクリタキセル投与に伴う黄斑浮腫や,同じくタキサン系抗癌剤であるドセタキセル投与に伴う黄斑浮腫の報告がみられるが2.6),本症例のように,パクリタキセル投与後にドセタキセルを投与され,黄斑浮腫がみられた症例は稀であり,詳細な報告については筆者らの調べた限りではまだない.特徴的所見としてはFAにて異常を示さない.胞様黄斑浮腫があるが,今回の症例においても同様の所見がみられた.類似のFA所見をとる黄斑浮腫の原因疾患としては,X染色体連鎖性網膜分離症,ナイアシン黄斑症,Goldmann-Favre症候群などが知られているが,今回の症例においては,検査結果やこれまでの経過,患者背景からいずれの疾患も否定的であった.本症例のようにタキサン系抗癌剤による黄斑浮腫のFA所見がなぜ異常を認めないのかという原因については,黄斑浮腫が細胞内液の増加によって起こるためであるとする説6)や,貯留する液体の粘性が高いことでフルオレセインの拡散を阻害しているため10),などの仮説が立てられているが,いまだ確定したものはなく,今後さらなる検討が必要と考えられる.過去の報告においては,パクリタキセルの投与を中止後1.4カ月程度で改善がみられている例が多く2.4,7),今回の症例でも同様の結果が得られたが,完全に黄斑浮腫が消失するまでには至らなかった.先ほど述べたように,パクリタキセルと同じタキサン抗癌剤であるドセタキセルにおいても同様の黄斑浮腫をきたすことが知られているが5,6),今回黄斑浮腫が遷延した一つの原因として,このドセタキセルを開始したことが関与している可能性も考えられる.しかしながらこれまでのところドセタキセル開始後に黄斑浮腫の悪化や視力低下はみられておらず,今回ドセタキセルが黄斑浮腫に直接的な影響を及ぼしているかどうかについては明らかでないため,今後さらなる経過観察が必要であると思われる.過去の報告ではパクリタキセルによる遷延性黄斑浮腫に対して,アセタゾラミドが奏効した例もあり7,11),今後黄斑浮腫が改善しない場合にはアセタゾラミドの投与も検討する必要があると考えている.今回胃癌原発の多発肝転移に対してパクリタキセルおよびドセタキセルを投与され,.胞様黄斑浮腫が出現した症例を経験した.経過観察にはOCTが有用であった.抗癌剤の変更によってまた同様の副作用が出現する可能性もあるため,化学療法担当医と連携して,継続して経過観察をすることが重要であると考えた.文献1)JimenezP,PathakA,PhanAT:Theroleoftaxanesinthemanagementofgastroesphagealcancer.JGastrointestOncol2:240-249,20112)JoshiMM,GarretsonBR:Paclitaxelmaculopathy.ArchOphthalmol125:709-710,20073)MurphyCG,WalshJB,HudisCAetal:Cystoidmacularedemasecondarytonab-paclitaxeltherapy.JClinOncol28:684-687,20104)SmithSV,BenzMS,BrownDM:Cystoidmacularedemasecondarytoalbumin-boundpaclitaxeltherapy.ArchOphthalmol125:709-710,20075)TeitelbaumBA,TresleyDJ:Cysticmaculopathywithnormalcapillarypermeabilitysecondarytodocetaxel.OptomVisSci80:277-279,20036)TelanderDG,SarrafD:Cystoidmacularedemawithdocetaxelchemotherapyandthefluidretensionsyndrome.SeminOphthalmol22:151-153,20077)伊藤正,奥田正俊:抗癌剤パクリタキセル使用中に.胞様の黄斑症を呈した1例.日眼会誌114:23-27,20108)CapriG,MunzoneE,TarenziEetal:Opticnervedisturbances:anewformofpaclitaxelneurotoxicity.JNatl(135)あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014135 CancerInst86:1099-1101,19949)EsmaeliB,ValeroV,AhmadiMAetal:Canalicularstenosissecondarytodocetaxel(taxotere):anewlyrecognizedsideeffect.Ophthalmology108:994-995,200110)KuznetcovaTI,CechP,HerbortCP:Themysteryofangiographicallysilentmacularoedemaduetotaxanes.IntOphthalmol32:299-304,201211)MeyerKM,KlinkT,UgureiSetal:Regressionofpaclitaxel-inducedmaculopathywithoralacetazolamide.GraefesArchClinExpOphthalmol250:463-464,2012***136あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014(136)