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フルオレセイン染色法の違いによる涙液メニスカス高への影響

2013年12月31日 火曜日

《原著》あたらしい眼科30(12):1750.1753,2013cフルオレセイン染色法の違いによる涙液メニスカス高への影響金谷芳明堀裕一村松理奈出口雄三柴友明前野貴俊東邦大学医療センター佐倉病院眼科ComparisonofTearMeniscusHeightafterDifferentMethodsofFluoresceinStainingYoshiakiKanaya,YuichiHori,RinaMuramatsu,YuzoDeguchi,TomoakiShibaandTakatoshiMaenoDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySakuraMedicalCenter緒言:オキュラーサーフェスの診察において生体染色は必要不可欠であり,さまざまな染色方法が知られているが,染色をする際は,できるだけ涙液貯留量を変化させないことが重要であるとされている.対象および方法:2006年ドライアイ診断基準に基づき,ドライアイを認めていない正常眼8例16眼に対し,フルオレセイン染色前後における,下方の涙液メニスカス高(TMH)をDR-1(興和)および涙液メニスカス解析ソフト(MeniscusProcessor,トーメーコーポレーション)を用いて測定した.染色方法は,フルオレセイン試験紙に生理食塩水を点眼後よく振って行う方法(フルオレセイン染色),1%フルオレセインをマイクロピペットにて2μl,8μl,15μl点眼する方法(マイクロピペット),硝子棒の先に1%フルオレセインを浸けて点眼する方法(硝子棒),1%に希釈したフルオレセインを点眼瓶から1滴点眼する方法(フルオレセイン点眼)の6種で行った.結果:フルオレセイン試験紙およびマイクロピペット2μlでは点眼前に比べて点眼後でTMHの有意な変化はみられなかったが(p>0.05,paired-ttest),硝子棒,マイクロピペット8μl,マイクロピペット15μlおよびフルオレセイン点眼では,有意なTMHの増加がみられた(p=0.0001,0.000002,0.003,0.00002,paired-ttest).染色前後でのTMHの差はフルオレセイン試験紙が最も小さく,以下マイクロピペット2μl,硝子棒,マイクロピペット8μl,マイクロピペット15μl,フルオレセイン点眼の順に小さく,フルオレセイン試験紙との比較において,硝子棒,マイクロピペット8μl,マイクロピペット15μlおよびフルオレセイン点眼では,有意差を認めた(p=0.0004,0.000008,0.005,0.000005,Studentのt検定).考按:フルオレセイン試験紙に生理食塩水を点眼後よく振って少量の染色を行う方法は,最もTMHを変化させない染色方法であり,本方法とマイクロピペットにて2μlを点眼する方法は,TMHを変化させにくいフルオレセイン染色方法として推奨されうると考える.Purpose:Tocomparetearmeniscusheight(TMH)afterdifferentmethodsoffluoresceinstaining.Methods:Enrolledinthisstudywere16eyesof8normalsubjects.TMHwasmeasuredbyDR-1(KOWA)beforeandafterfluoresceinstainingusingafluoresceinstrip;2μl,8μl,and15μlof1%fluoresceinsolutionusingamicropipette;eyedropsof1%fluoresceinsolution,oraglassstickdippedin1%fluoresceinsolution.Results:Therewerenosignificantdifferencesbetweenbeforeandafterfluoresceinstainingwithafluoresceinstriporwith2μlof1%fluoresceinsolutionbymicropipette(p>0.05,paired-ttest).Fluoresceinstainingwithaglassstick;8μland15μlof1%fluoresceinsolutionusingamicropipette,andeyedropsof1%fluoresceinsolutionchangedTMHsignificantly(p<0.05,paired-ttest).Conclusion:Wefoundthatminimalfluoresceinstainingwithastripandinstillationof2μlof1%fluoresceinsolutiondidnotinfluenceTMH.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(12):1750.1753,2013〕Keywords:フルオレセイン染色,涙液メニスカス高(TMH:tearmeniscusheight),DR-1,フルオレセイン試験紙,マイクロピペット.fluoresceinstaining,tearmeniscusheight(TMH),DR-1,fluoresceinstrip,micropipette.〔別刷請求先〕金谷芳明:〒285-8741千葉県佐倉市下志津564-1東邦大学医療センター佐倉病院眼科Reprintrequests:YoshiakiKanaya,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySakuraMedicalCenter,564-1Shimoshizu,Sakura,Chiba285-8741,JAPAN175017501750あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(102)(00)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY はじめにオキュラーサーフェスの診察においてはフルオレセイン染色,ローズベンガル染色,リサミングリーン染色などの生体染色が必要であり,染色することにより,数多くの情報を得ることができるが,その染色方法にはさまざまな方法がある.一般には,フルオレセイン試験紙に生理食塩水を滴下し,下眼瞼結膜に触れる方法が取られており,わが国で最も広く用いられている染色方法とされている1).特に,できるだけ涙液量を変えずに最小限の量を点眼することが重要とされており,横井は,フルオレセイン試験紙に1.2滴生理食塩水を滴下し,よく振って水分を切ってから下眼瞼の端に少しふれる方法を提唱している1).他に,治験などでは1%に希釈したフルオレセイン注射液をマイクロピペットにて2μl点眼する方法があり,一定の濃度と量を滴下することにより,涙液量に影響を与えない方法として推奨されている2).その理由としては,涙液量を変化させてしまうと,涙液メニスカス高(TMH:tearmeniscusheight)や涙液層破壊時間(BUT:tearfilmbreakuptime),角結膜上皮障害の程度が変化してしまい,正確なドライアイ診断ができなくなることがあげられる.眼表面の染色をする際は,できるだけ涙液貯留量を変化させないことが重要であるとされている1,2).横井は,ドライアイ診療アンケート20111)において,フルオレセイン染色方法についての眼科医725名にアンケートを行ったところ37.9%において「フルオレセイン試験紙に点眼液を滴下し,よく振って投与」していると報告している.また,その他の染色方法としては,「フルオレセイン希釈液を点眼」や,「フルオレセイン希釈液を硝子棒にて投与」といった方法も行われている.涙液量を変化させずにフルオレセイン染色を行うことは重要であるが,実際に染色方法の違いにより,涙液量がどう変化するかを検討した報告は筆者らの知る限りない.本検討では,さまざまな染色方法を用いてフルオレセイン染色前後のTMHの変化を測定し,検討した.I対象および方法対象は2006年ドライアイ診断基準3)に基づき,ドライアイを認めていない正常眼8例16眼である.フルオレセイン染色前後における,下方のTMHをDR-1(興和)および涙液メニスカス解析ソフト(MeniscusProcessor,トーメーコーポレーション)を用いて測定した4).フルオレセイン染色方法は,以下のとおりに行った.フルオレセイン試験紙(フローレスR試験紙0.7mg,昭和薬品化工株式会社)に生理食塩水を2滴たらし,試験紙を3回振って十分に水分を切り,眼瞼縁に少し試験紙を触れる方法(フルオレセイン試験紙),生理食塩水にて1%に希釈したフルオレセイン注射液(フルオレサイトR静注500mg,日本アルコン)をマイクロピペットにて2μl,8μl,15μlを点眼する(103)方法(それぞれマイクロピペット2μl,8μl,15μl),同液に硝子棒の先端を浸けてから,下眼瞼結膜鼻側1/3の部分に触れる方法(硝子棒),ベノキシールR0.4%点眼液(5ml,参天製薬)にフルオレセイン注射液(フルオレサイトR静注500mg)を0.05ml混ぜ,1%の濃度にしたものを,1滴点眼する方法(フルオレセイン点眼)の6通りで行った.測定は各方法をすべて別の日にそれぞれ16眼について行った.すべてのフルオレセイン染色は同一検者が行い,染色後5秒以内にDR-1にて下方のTMHの撮影を行い,動画撮影を別の同一検者が行った.DR-1測定後は細隙灯顕微鏡で眼表面が染色されていることを全例確認した.DR-1で撮影した動画からビットマップファイルとして取り込み,DR-1画像のTMHを測定するために開発された涙液メニスカス解析ソフト(MeniscusProcessor,トーメーコーポレーション)4)を用いてTMHの測定を行った.TMHの測定は既報どおり,DR-1を用いて,下眼瞼縁付近の像がモニターのほぼ中央に位置するようにし,倍率12倍で明確な輝線が観察されるように焦点を合わせて撮影を行った.解析ソフトはDR-1画像の明瞭な輝線と,その下方の眼瞼縁反射像上縁を自動認識して,両者間の距離を計測するソフトである.今回の検討においては,誤って自動認識された領域は手動で除外し,残りの自動認識された領域の距離を平均化した4).統計学的検討は,各染色方法における染色前後のTMHの値(paired-ttest)および,染色前後のTMHの差について,フルオレセイン試験紙法と比較(Studentのt検定)し,p<0.05%を有意水準として検定した.II結果フルオレセイン試験紙およびマイクロピペット2μlでは点眼前(それぞれTMH0.22±0.03mm,0.24±0.05mm)に比べて点眼後(それぞれTMH0.22±0.04mm,0.25±0.05mm)でTMHの有意な変化はみられなかったが(p>0.05,paired-ttest),硝子棒,マイクロピペット8μl,マイクロピペット15μlおよびフルオレセイン点眼では,点眼前(それぞれTMH0.23±0.06mm,0.25±0.03mm,0.27±0.04mm,0.23±0.06mm)に比べて点眼後(それぞれTMH0.29±0.05mm,0.31±0.04mm,0.35±0.09mm,0.37±0.11mm)と有意なTMHの増加がみられた(p=0.0001,0.000002,0.003,0.00002,paired-ttest)(図1).染色前後でのTMHの差はフルオレセイン試験紙,マイクロピペット2μl,硝子棒,マイクロピペット8μl,マイクロピペット15μl,希釈したフルオレセイン注射液を点眼の順に小さく,フルオレセイン試験紙との比較において,硝子棒,マイクロピペット8μl,マイクロピペット15μlおよびフルオレセイン点眼では,有意差を認めた(p=0.0004,0.000008,0.005,0.000005,Studentのt検定)(図2).また,染色前後でTMHが増加した症例はフルオレセインあたらしい眼科Vol.30,No.12,20131751 せないことが重要であるとされているが1,2),その染色方法はさまざまであり,実際にそれぞれの染色方法における00.7:染色前■:染色後****フルオレセイン試験紙マイクロピペット2μl硝子棒マイクロピペット8μl15μlフルオレセイン点眼00.7:染色前■:染色後****フルオレセイン試験紙マイクロピペット2μl硝子棒マイクロピペット8μl15μlフルオレセイン点眼0.6TMHの変化を比較,検討した報告はない.本検討では,フTMH(mm)0.50.40.30.20.1ルオレセイン試験紙とマイクロピペット2μlにおいて染色前後のTMHに有意な変化は認めず,染色前後のTMHの差は,フルオレセイン試験紙に生理食塩水を2滴点眼してよく振ってから染色する方法(フルオレセイン試験紙)が最も小さかった.また,フルオレセイン試験紙とマイクロピペット2μlとの間に有意差は認めなかったが,その他の染色方法で図1各フルオレセイン染色法による染色前後のTMHの変化フルオレセイン試験紙,マイクロピペット2μlではそれぞれ点眼前に比べて点眼後でTMHの有意な変化はみられなかったが(p>0.05,paired-ttest),硝子棒,マイクロピペット8μl,マイクロピペット15μlおよびフルオレセイン点眼では,有意なTMHの増加がみられた(*p<0.05,paired-ttest).0.3は,染色前後およびフルオレセイン試験紙との差の比較において有意にTMHが増加していた.ドライアイ診療アンケート2011では,フルオレセイン染色において「フルオレセイン試験紙に点眼液を滴下し,よく振って投与」の回答が,第5報では「23.8%に留まっていたが,今回37.9%と倍増した」ことについて,「よく振って投与することで,涙液貯留量を変化させることなく,BUTやその場の涙液量の情報をより正確に評価できるという考え方が浸透しつつあることによると思われる」,と報告しており,フルオレセイン試験紙を用いて水分を十分に切ってから染色する方法が推奨されている.本検討では,実際に推奨されている染色方法とその他の染色方法での染色前後のTMHの変TMHの差(mm)0.250.20.150.10.050*化を比較することで,その有用性を検討した結果,本検討で*もフルオレセイン試験紙とマイクロピペットにて2μl点眼する方法が染色前後でのTMHに有意な変化を認めなかった**が,実際の診療の場において,マイクロピペットを用いて染色することはむずかしいと考える.フルオレセイン試験紙を用いて染色する方法は簡便であり,よく振って水分を切るこ-0.05とで,涙液貯留量に影響を与えにくくすることができると考える.また硝子棒を使用し染色する方法は簡便であり,低刺激であるが染色後のTMHを変化させてしまう傾向にあることを理解したうえで施行すべきである.今回の検討では,フルオレセイン試験紙法が染色前後でのTMHの差が最も小さく,マイクロピペットにて2μl点眼す図2各フルオレセイン染色法による染色前後のTMHの差フルオレセイン試験紙,マイクロピペット2μl,硝子棒,マイクロピペット8μl,マイクロピペット15μl,フルオレセイン点眼の順に小さく,フルオレセイン試験紙との比較において,硝子棒,マイクロピペット8μl,マイクロピペット15μlおよびフルオレセイン点眼では,有意差を認めた(*p<0.05,Studentのt検定).試験紙では16眼中9眼(56.3%),マイクロピペット2μlでは16眼中11眼(68.8%),マイクロピペット8μlでは16眼中16眼(100%),マイクロピペット15μlでは16眼中13眼(81.3%),硝子棒では16眼中14眼(87.5%),フルオレセイン点眼では16眼中16眼(100%)であった.III考按眼表面の染色をする際は,できるだけ涙液貯留量を変化さ1752あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013る方法よりもTMHの差が小さく,ばらつきも小さかった.マイクロピペットを使用すると毎回同じ量のフルオレセインが点眼できるが,この方法は,マイクロピペットが眼に近づいてくるのが被検者に見えてしまい,恐怖心を与える恐れがある.さらに,手技の慣れない検者では,マイクロピペットの先端が結膜.に当たってしまう可能性がある.今回,マイクロピペットのほうがばらつきが大きかったのは,これらの影響が関係しているように思われた.TMHの測定方法は過去にも涙液メニスカスを画像解析する方法5)やフルオレセイン染色写真を画像解析する方法6),スリットランプにスケールを装着する方法7),前眼部OCTを用いる方法8),TearscopePlusを用いる方法9),などが報告されているが,近年坂根らにより,DR-1(興和)を用いる方法4)が報告されている.DR-1はもともと,涙液の油層を観察する装置であるが,撮影時に焦点を下眼瞼縁に合わせる(104) と輝度の弱い反射像と,その上方に明瞭な輝線が現れ,輝線が涙液メニスカスからの反射像と考えられ,輝線と下眼瞼縁反射像の上縁の距離がTMHに相当すると考えられている4).DR-1によるTMHの撮影は染色せずに短時間で施行することが可能である.しかしながら,TMHの測定は画像をパソコンに取り込み,解析ソフトを使用する必要があるため,今後はDR-1にTMH解析ソフトが搭載されることが望まれる.DR-1は涙液油層やNI-BUT(non-invasiveBUT:非侵襲的涙液層破壊時間)を評価し,ドライアイのスクリーニングに用いることが可能な装置である.専用の解析ソフトを使用しなければならないが,涙液油層,NI-BUTに加え,TMHも評価することでより多くの情報を得ることができ,スクリーニングにおける感度,特異度の向上につながると考える.また,前眼部OCTも同様に非侵襲的にTMHの評価が可能であり,今後は前眼部OCTを使用したTMHの評価やDR-1との比較をしていく必要があると思われる.本研究には限界がいくつかある.まず一つは,涙液のターンオーバーについてである.涙液の涙小管への排出は瞬目を繰り返すことで行われるが,本研究では,自由瞬目下で測定を行っている.今回,フルオレセイン染色後ただちに機械に顎をのせてもらい,染色から5秒以内にDR-1にて涙液メニスカスの撮影を行ったが,それでも少なくとも1回は瞬目しており,症例によっても測定までの瞬目回数が異なっている.よってこの瞬目回数の違いで涙液メニスカス高への影響がある可能性がある.しかしながら,同一被検者で1回の瞬目で涙液メニスカス高が大きく変わっている印象はなく,今回の結果にあまり大きな影響を与えてはいないのではないかと考える.また,今回は,事前に通水検査を行っていないため,涙道通過障害が全例になかったかどうかの証明は行っていない.しかしながら今回の検討では点眼前から極端に涙液メニスカスが高かった例はなく,涙道通過状態は正常であったと考えている.二つ目は,フルオレセイン点眼において他の染色法と比較しても有意にTMHの増加が認められたが,ベノキシールR0.4%点眼液を使用しているため,BAC(塩化ベンザルコニウム)による刺激性涙液分泌が生じている可能性がある.また,点眼後,時間が経過している場合には麻痺性涙液分泌減少も生じる可能性があるが,ベノキシールR0.4%点眼液の麻酔効果発現時間は平均16秒と報告されており10),本検討では全例染色後5秒以内にTMHの測定を行っているため,麻痺性涙液分泌減少はきたしていないと考える.三つ目は本研究では,TMH解析ソフトで解析ができない症例があり,その場合はパソコンに取り込んだ動画から再度,静止画像をキャプチャーする必要がある.また,解析ソフトで解析された範囲の平均値をTMHとして表示しているが,解析範囲が狭い症例があり,その場合も再度,静止画像をキャプチャーする必要があると考える.他のTMH測定方法はTMHを1カ所で測定,評価しているのに対し,DR-1では,下眼瞼のほぼ全範囲におけるTMHを測定し,平均値として表示することが可能であり,取り込んだ画像のタイミングや写りが不鮮明であった場合に解析範囲が狭くなってしまうと考えられる.この点が,DR-1を使ったTMH測定の欠点となるわけであるが,1点だけを測定するのではなく,TMHをできる限り広範囲で解析することで,より正確にTMHを評価することができると考える.涙液貯留量やTMHの評価においては,染色の際にできるだけ涙液量に影響を与えない染色方法が望ましく,フルオレセイン試験紙を用いて少量の染色を行う方法およびマイクロピペットにて2μlを点眼する方法は,TMHを変化させにくい染色方法であることが確認できた.今回の検討は正常人で行ったが,ドライアイ症例などもともと涙液メニスカス高が異常な症例においては,染色方法による差がさらに大きくなる可能性があると考えられ,今後の検討課題にしたいと考える.謝辞:本研究において,DR-1画像のTMHを測定するための解析ソフト(MeniscusProcessor,トーメーコーポレーション)をご提供いただいた山口昌彦先生(愛媛大学医学部眼科学教室)に対し,心から感謝申し上げます.文献1)横井則彦:ドライアイ診療アンケート.FrontiersinDryEye6:90-98,20112)鎌尾知行,山口昌彦:ドライアイの生体染色.あたらしい眼科29:1607-1612,20123)島.潤:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,20074)坂根由梨,山口昌彦,白石敦ほか:涙液スペキュラースコープDR-1を用いた涙液貯留量の評価.日眼会誌114:512-519,20105)MainstoneJC,BruceAS,GoldingTR:Tearmeniscusmeasurementinthediagnosisofdryeye.CurrEyeRes15:653-661,19966)KawaiM,YamadaM,KawashimaMetal:Quantitativeevaluationoftearmeniscusheightfromfluoresceinphotographs.Cornea26:403-406,20077)OguzH,YokoiN,KinoshitaS:Theheightandradiusofthetearmeniscusandmethodsforexaminingtheseparameters.Cornea19:497-500,20008)XiaodiQ,LanG,YiLuetal:ThediagnosticsignificanceofFourier-domainopticalcoherencetomographyinSjogrensyndrome,aqueousteardeficiencyandlipidteardeficiencypatients.ActaOphthalmol90:e359-e366,20129)UchidaA,UchinoM,GotoEetal:NoninvasiveinterferencetearmeniscometryindryeyepatientswithSjogrensyndrome.AmJOphthalmol144:232-237,200710)岡村治彦:新しい点眼麻酔薬Novesineの効果について.日眼会誌66:557,1962(105)あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131753

ドライアイモデルラットに対するジクアホソルナトリウム点眼液とヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用効果

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(109)1477《原著》あたらしい眼科28(10):1477?1481,2011cはじめに現在,国内でドライアイ治療に使用されている主な点眼液には,人工涙液,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液と,2010年に上市されたジクアホソルナトリウム点眼液がある.人工涙液は,一時的な水分および電解質の補充効果のみを期待するものであり,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液は,角膜上皮〔別刷請求先〕堂田敦義:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社研究開発センターReprintrequests:AtsuyoshiDota,Research&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayama-cho,Ikoma-shi,Nara630-0101,JAPANドライアイモデルラットに対するジクアホソルナトリウム点眼液とヒアルロン酸ナトリウム点眼液の併用効果堂田敦義中村雅胤参天製薬株式会社研究開発センターCombinedEffectofDiquafosolTetrasodiumandSodiumHyaluronateOphthalmicSolutionsinRatDryEyeModelAtsuyoshiDotaandMasatsuguNakamuraResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.眼窩外涙腺を摘出したラットに,送風を負荷したドライアイモデルを作製し,本モデルに対するジクアホソルナトリウムとヒアルロン酸ナトリウムの併用効果を検討した.ドライアイモデルラットに,人工涙液単独,0.1%ヒアルロン酸ナトリウム単独,3%ジクアホソルナトリウム単独,もしくは,0.1%ヒアルロン酸ナトリウムと3%ジクアホソルナトリウムの併用点眼を1日6回実施し,点眼6週後の角膜フルオレセイン染色スコアにより薬効を比較検討した.その結果,本ドライアイモデルに対して,0.1%ヒアルロン酸ナトリウムと3%ジクアホソルナトリウムの単独点眼の染色スコアは,人工涙液単独点眼と比較して,統計学的に有意な差を認めないものの低値を示した.一方,3%ジクアホソルナトリウムと0.1%ヒアルロン酸ナトリウムの併用点眼の染色スコアは,各点眼液の単独点眼よりも低値を示し,人工涙液単独点眼と比較して有意に低値であった(p=0.03).以上より,3%ジクアホソルナトリウムと0.1%ヒアルロン酸ナトリウムの併用点眼は,本ドライアイモデルにおける角膜上皮障害を各点眼液単独以上に改善させる相加的作用を有することが示唆された.Wecreatedtheratdryeyemodelthroughexorbitallacrimalglandremovalandexposuretoconstantairflow,andinvestigatedthecombinedeffectof3%diquafosoltetrasodiumand0.1%sodiumhyaluronateophthalmicsolutionsoncornealfluoresceinstainingscoreintheratdryeyemodel.Ratswithexorbitallacrimalglandremovedwerekeptunderconstantairflow.Inthisdryeyemodel,artificialtears,0.1%sodiumhyaluronate,3%diquafosoltetrasodiumoracombinationofthelattertwowasapplied6timesdailyfor6weeks,withcornealfluoresceinstainingscoredbeforeandafterapplication.Theapplicationof0.1%sodiumhyaluronateor3%diquafosoltetrasodiumalonetendedtodecreasethecornealfluoresceinstainingscoreincomparisonwithartificialtears.Applicationofthetwosolutionsincombination,however,significantlydecreasedthecornealfluoresceinstainingscoreincomparisonwithartificialtears(p=0.03)andshowedlowerscoresthan0.1%sodiumhyaluronateor3%diquafosoltetrasodiumalone.Theseresultssuggestthatinthisratdryeyemodel,thecombinationof3%diquafosoltetrasodiumand0.1%sodiumhyaluronatemightbemoreeffectiveinimprovingcornealepithelialdamagethaneithersolutionalone.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(10):1477?1481,2011〕Keywords:ジクアホソルナトリウム,ヒアルロン酸ナトリウム,ラット,ドライアイ,フルオレセイン染色,角膜上皮障害.diquafosoltetrasodium,sodiumhyaluronate,rats,dryeye,fluoresceinsataining,cornealepithelialdamage.1478あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(110)伸展促進作用および保水性による涙液安定化作用を有するものの,涙液量が極度に減少しているドライアイ患者に対しては,治療効果は低いと考えられている1).一方,ジクアホソルナトリウム点眼液は,涙液の分泌促進作用,ムチン様糖蛋白質の分泌促進作用などを示すことが報告2,3)され,ドライアイ患者の涙液層の質的および量的な改善作用を示すと考えられている.ドライアイは,『さまざまな要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う』と定義されている4).また,ドライアイ発症には,さまざまな要因(内因的もしくは外因的)が重なっていることも多いと報告されている5).これら種々の要因が重なって生じているドライアイに対して,各点眼液を単独で点眼しても治療効果が十分でない場合も存在すると考えられる.これまでに報告されている眼窩外涙腺を摘出したラットのドライアイモデル2)は,涙腺摘出による涙液減少型ドライアイを外挿したモデルであり,単一の原因により誘発された動物疾患モデルと考えられる.そこで,今回,送風負荷を加えることにより,複数の要因によるドライアイモデルを作製するとともに,そのモデルを用いてドライアイ治療に用いられている各種点眼液の単独点眼および併用点眼の有用性を,角膜上皮障害の指標であるフルオレセイン染色スコアを用いて検討した.I実験方法1.ラットのドライアイモデル作製Fujiharaらの方法2)に従って,雄性SDラット(日本エスエルシー)の眼窩外涙腺を摘出した.対照として,眼窩外涙腺摘出を実施しない正常ラットを設定した.送風負荷は,Nakamuraらの方法6)を参考に涙腺摘出直後からラットケージの扉側から扇風機を用いて風速約2?4m/secの送風をあて,8週間飼育した.点眼実験では,点眼期間中も送風を継続した.なお,ラットは,1週間馴化飼育した後,試験に使用した.また,群ごとに別々のラットを設定し,モデル作製試験では,涙腺を摘出した群は5匹10眼,涙腺を摘出した群を除いた群は6匹12眼,薬効比較試験では,人工涙液と0.1%ヒアルロン酸併用点眼群は3匹6眼,人工涙液と0.1%ヒアルロン酸併用点眼群を除いた群は4匹8眼のフルオレセイン染色スコアを用いて評価した.本研究は,「動物実験倫理規程」,「参天製薬の動物実験における倫理の原則」,「動物の苦痛に関する基準」の参天製薬株式会社社内規程を遵守し,実施した.2.点眼および観察薬効比較試験における群構成を表1に示す.涙腺摘出・送風負荷8週間後より,人工涙液(ソフトサンティアR,参天製薬),0.1%ヒアルロン酸ナトリウム点眼液(ヒアレインR点眼液0.1%,参天製薬)(以下,0.1%ヒアルロン酸と略す),3%ジクアホソルナトリウム点眼液(ジクアスR点眼液3%,参天製薬)(以下,3%ジクアホソルと略す)の各単独,人工涙液と0.1%ヒアルロン酸の併用,あるいは,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用を1回5μL,1日6回(約1.5時間間隔)両眼にマイクロピペットにて6週間点眼した.なお,0.1%ヒアルロン酸と人工涙液併用点眼は,人工涙液点眼5分後に0.1%ヒアルロン酸を,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼は,3%ジクアホソル点眼5分後に0.1%ヒアルロン酸を点眼した.角膜の観察は,点眼前および点眼6週後に,村上らの方法7)に従って,両眼のフルオレセイン染色スコアにより評価した.3.統計解析EXSAS(アーム社)を用いて,5%を有意水準として解析した.モデル作製試験では,正常ラットと涙腺を摘出したラット,送風を負荷した正常ラットと涙腺を摘出し送風を負荷したラット,涙腺を摘出したラットと涙腺を摘出し送風を負荷したラット,正常ラットと涙腺を摘出し送風を負荷したラットの角膜フルオレセイン染色スコアについて,それぞれStudentのt検定を実施した.薬効評価試験では,ドライアイモデルのラットと正常ラットの角膜フルオレセイン染色スコアについてStudentのt検定を,点眼液(人工涙液,0.1%ヒアルロン酸,3%ジクアホソルの単独点眼,0.1%ヒアルロン酸と人工涙液,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼)を点眼したラットの角膜フルオレセイン染色スコアについて,Tukeyの多重比較検定を実施した.表1群構成群番号処置送風の有無点眼液点眼回数1無処置(正常)無なしなし2眼窩外涙腺を摘出有なしなし3眼窩外涙腺を摘出有人工涙液6回/日4眼窩外涙腺を摘出有0.1%ヒアルロン酸6回/日5眼窩外涙腺を摘出有3%ジクアホソル6回/日6眼窩外涙腺を摘出有人工涙液+0.1%ヒアルロン酸6回/日7眼窩外涙腺を摘出有3%ジクアホソル+0.1%ヒアルロン酸6回/日(111)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111479II結果1.正常および眼窩外涙腺を摘出したラットに対する送風負荷の影響正常および涙腺を摘出したラットに,送風負荷を8週間行った後の角膜フルオレセイン染色像を図1に示す.正常ラットでも角膜フルオレセイン染色がわずかに認められた(図1A).送風を負荷した正常ラットの角膜フルオレセイン染色像は,正常ラットと大きな違いは認められなかった(図1C).一方,眼窩外涙腺を摘出すると,角膜フルオレセイン染色は顕著に亢進し(図1B),さらに,送風を負荷することで,角膜フルオレセイン染色の増強が認められた(図1D).角膜フルオレセイン染色像をスコア化した結果を図2に示す.涙腺を摘出したラットの角膜フルオレセイン染色スコアは,正常ラットと比較して有意に高い値を示した(p<0.01).涙腺を摘出し送風を負荷したラットの角膜フルオレセイン染色スコアは,涙腺を摘出したラットと比較して,有意に高い値を示した(p<0.01).正常ラットと比較して涙腺を摘出し送風を負荷したラットの角膜フルオレセイン染色スコアは,有意に高い値を示した(p<0.01).フルオレセイン染色スコアは,涙腺摘出により正常ラットの値(2.2±0.8:平均値±標準偏差)の約2.4倍(5.3±1.2)に,涙腺摘出と送風負荷により約3倍(6.6±0.7)にまで達した.2.眼窩外涙腺を摘出したラットに送風を負荷したドライアイモデルに対する3%ジクアホソルおよび0.1%ヒアルロン酸併用点眼の効果人工涙液,0.1%ヒアルロン酸または3%ジクアホソルの単独点眼,もしくは,0.1%ヒアルロン酸と人工涙液あるいは3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼を,本ドライアイモデルに1日6回,6週間行ったときの角膜フルオレセイン染色スコアの結果を図3に示す.点眼6週間後,人工涙液点眼の染色スコアは,無点眼と比較してほとんど変化が認められなかった(p=0.59).また,0.1%ヒアルロン酸単独点眼,3%ジクアホソル単独点眼,人工涙液と0.1%ヒアルロン酸併用点眼の染色スコアは,人工涙液単独点眼の染色スコアと比較して統計学的な有意差は認められないものの低値を示した(それぞれ,p=0.78,p=0.24,p=0.49).一方,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼の染色スコア(4.3±1.2)は,人工涙液単独点眼の染色スコア(6.3±0.8)と比較して統計学的に有意に低値を示した(p=ABCD図1正常ラットおよび眼窩外涙腺を摘出したラットに送風負荷を8週間行った後の角膜フルオレセイン染色像A:正常ラット;角膜にわずかにフルオレセイン染色が認められる.B:涙腺を摘出したラット;眼窩外涙腺の摘出により,角膜フルオレセイン染色が亢進した像が認められる.C:送風を負荷した正常ラット;送風負荷により,角膜のフルオレセイン染色像に大きな変化は認められない.D:涙腺を摘出し,送風を負荷したラット;涙腺の摘出により亢進した角膜のフルオレセイン染色に送風負荷することで,さらに染色が増強された像が確認される.9.08.07.06.05.04.03.02.01.00.0角膜フルオレセイン染色スコア処置8週間後:正常ラット:涙腺を摘出したラット:送風を負荷した正常ラット:涙腺を摘出し,送風を負荷したラット††††##**図2正常ラットおよび眼窩外涙腺を摘出したラットの角膜フルオレセイン染色スコアに及ぼす送風の影響送風負荷の有無で正常ラットの角膜フルオレセイン染色スコアに有意な差は認められなかった.涙腺を摘出したラットの染色スコアは,正常ラットと比較して有意に高い値を示した.涙腺を摘出し,送風を負荷したラットの染色スコアは,涙腺を摘出したラットと比較して有意に高い値を示した.各値は10眼(涙腺を摘出した群)または,12眼(涙腺を摘出した群を除いた群)の平均値±標準偏差を示す.##:p<0.01,涙腺を摘出したラットとの比較(Studentのt検定),**:p<0.01,送風を負荷した正常ラットとの比較(Studentのt検定),††:p<0.01,正常ラットとの比較(Studentのt検定).1480あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(112)0.03).III考按ドライアイは,大きく分けて涙液減少型と涙液蒸発亢進型の2つに分類される.これまでに報告されている眼窩外涙腺を摘出したラットのドライアイモデルは,Schirmer値が正常ラットの約半分に低下する2)ことから,涙液量の減少によって角膜上皮障害が発症する涙液減少型ドライアイモデルと考えられる.涙液の蒸発率を亢進させる送風8)は,ドライアイのリスクファクターの一つである5)と報告されており,エアコンを用いた空調設備の充実といったオフィス環境の変化が,涙液層を不安定化させる蒸発亢進型ドライアイ患者を増加させている.さらに,VDT(visualorvideodisplayterminal)作業の増加やコンタクトレンズ装用者の増加も,涙液層が不安定なタイプのドライアイ患者を増加させる原因となっている5).涙腺を摘出したラットへの送風負荷は,涙液減少で生じる角膜障害に加え,送風による涙液の蒸発亢進によって,さらに,障害を悪化させることが示唆された.したがって,本モデルは,涙液減少と涙液蒸発亢進を併発したドライアイモデルになりうると考えられた.今回,このドライアイモデルラットを用いて各点眼液の薬効を検討した結果,0.1%ヒアルロン酸,3%ジクアホソルの各単独点眼,もしくは,0.1%ヒアルロン酸と人工涙液の併用点眼は,角膜上皮障害改善傾向を示し,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼は,角膜上皮障害をさらに改善し,人工涙液と比較して有意な効果を示した.この結果は,複合的な要因で発症した重症の角膜上皮障害に対して,0.1%ヒアルロン酸もしくは3%ジクアホソル単独点眼は,改善傾向を示すものの十分な効果を示さず,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸併用点眼が,相加的な作用により有意な改善効果を示したものと推察される.ヒアルロン酸には,角膜上皮創傷治癒促進作用に加えて,保水作用による蒸発抑制作用や乾燥防止作用が報告されている9).また,ヒアルロン酸は,ムチンとの相互作用により,優れた粘膜付着性を有し10),涙液安定化などの作用を発揮していると考えられている11).一方で,ジクアホソルは,結膜にあるP2Y2レセプターに作用し,結膜からの水分の分泌およびムチンを含む蛋白質の分泌を増加させることにより涙液環境を改善し,ドライアイ症状を緩和すると考えられている2,3,12).本検討により,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の単独点眼では十分な改善効果を認めないが,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼では角膜上皮障害改善効果が最も高く,両点眼液併用による相加的な効果が確認された.この併用効果のメカニズムとして,ジクアホソルにより増加した眼表面のムチンが,ヒアルロン酸との相互作用により涙液滞留性を高めるとともに,ジクアホソルにより増加した水分が,ヒアルロン酸の保水効果により眼表面上で保持される結果と推察された.詳細な作用機序の解析には,さらなる研究が必要と考えられる.また,上記のような推察から,併用時には,3%ジクアホソルに続いて0.1%ヒアルロン酸の順に点眼することが,眼表面の涙液保持に効果的であると考えられる.近年の環境変化により,蒸発亢進型のドライアイ患者が増加している.また,高齢化に伴う涙腺機能の低下は,涙液減少型のドライアイ患者を増加させると予想される.このようにさまざまなリスクファクターが原因となっているドライアイ患者に対して,単独点眼で治療効果が不十分な場合には,3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の組み合わせのように相互作用が期待できる点眼液を併用することで,治療効果をあげることができると考えられる.8.07.06.05.04.03.02.01.00.0角膜フルオレセイン染色スコア点眼6週間後正常ラット:無点眼涙腺を摘出し,送風を負荷したラット:無点眼:人口涙液単独点眼:0.1%ヒアルロン酸単独点眼:3%ジクアホソル単独点眼:人口涙液と0.1%ヒアルロン酸併用点眼:3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸併用点眼##*図3眼窩外涙腺を摘出し,送風を負荷したラットのドライアイモデルの角膜フルオレセイン染色に対する3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸の併用点眼効果0.1%ヒアルロン酸単独点眼,3%ジクアホソル単独点眼,人工涙液と0.1%ヒアルロン酸併用点眼の角膜フルオレセイン染色スコアは,人工涙液単独点眼と比較して低い値を示した.3%ジクアホソルと0.1%ヒアルロン酸併用点眼の角膜フルオレセイン染色スコアは,人工涙液単独点眼と比較して有意に低い値を示した.各値は,6眼(人工涙液と0.1%ヒアルロン酸併用点眼群)または,8眼(人工涙液と0.1%ヒアルロン酸併用点眼群を除いた群)の平均値±標準偏差を示す.##:p<0.01,正常ラットとの比較(Studentのt検定),*:p<0.05,人工涙液単独点眼との比較(Tukeyの多重比較検定).(113)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111481文献1)高村悦子:ドライアイのオーバービュー.FrontiersinDryEye1:65-68,20062)FujiharaT,MurakamiT,FujitaHetal:ImprovementofcornealbarrierfunctionbytheP2Y2agonistINS365inaratdryeyemodel.InvestOphthalmolVisSci42:96-100,20013)FujiharaT,MurakamiT,NaganoTetal:INS365suppresseslossofcornealepithelialintegritybysecretionofmucin-likeglycoproteininarabbitshort-termdryeyemodel.JOcularPharmacolTher18:363-370,20024)島﨑潤:2006年ドライアイ診断基準.あたらしい眼科24:181-184,20075)丸山邦夫,横井則彦:環境と眼の乾き.あたらしい眼科22:311-316,20056)NakamuraS,ShibuyaM,NakashimaHetal:D-b-hydroxybutyrateprotectsagainstcornealepithelialdisordersinaratdryeyemodelwithjoggingboard.InvestOphthalmolVisSci46:2379-2387,20057)村上忠弘,中村雅胤:眼窩外涙腺摘出ラットドライアイモデルに対するヒアルロン酸点眼液と人工涙液の併用効果.あたらしい眼科21:87-90,20048)BorchmanD,FoulksGN,YqappertMCetal:Factorsaffectingevaporationratesoftearfilmcomponentsmeasuredinvitro.EyeContactLens35:32-37,20099)NakamuraM,HikidaM,NakanoTetal:Characterizationofwaterretentivepropertiesofhyaluronan.Cornea12:433-436,199310)SaettoneMF,ChetoniP,TorraccaMTetal:Evaluationofmuco-adhesivepropertiesandinvivoactivityofophthalmicvehiclesbasedonhyaluronicacid.IntJPharm51:203-212,198911)川原めぐみ,平井慎一郎,坂本佳代子ほか:ヒアルロン酸点眼液の角膜球面不正指数を指標としたウサギ涙液層安定化作用.あたらしい眼科21:1561-1564,200412)七條優子,篠宮克彦,勝田修ほか:ジクアホソルナトリウムのウサギ結膜組織からのムチン様糖蛋白質分泌促進作用.あたらしい眼科28:543-548,2011***