《第31回.日本糖尿病眼学会.原著》あたらしい眼科43(5):565.569,2026cブロルシズマブに切り替えた糖尿病黄斑浮腫症例の検討安藤諒太冨田修平野崎実穂名古屋市立大学医学部附属東部医療センター眼科CSwitchingtoBrolucizumabinRefractoryDiabeticMacularEdemaRyotaAndo,ShuheiTomitaandMihoNozakiCDepartmentofOphthalmology,NagoyaCityUniversityEastMedicalCenterC目的:他の抗CVEGF薬に対する反応が不十分であった糖尿病黄斑浮腫(DME)症例に対し,ブロルシズマブへ切り替えた臨床経過を後ろ向きに検討した.対象と方法:2022年C11月.2024年C5月にブロルシズマブへ切り替えたDME症例C4例C6眼を対象とし,切り替え前後の治療内容,平均投与間隔,視力(logMAR),中心網膜厚(CRT),副作用の有無を検討した.結果:切り替え前の抗CVEGF薬平均投与間隔は平均C11.7C±1.6週,切り替え後の抗CVEGF薬平均投与間隔は平均C12.3C±3.6週で有意な変化は認めなかった(p=0.80).視力は有意な改善を認めなかった(0.24C±0.18.0.34C±0.16,p=0.13)が,CRTは有意に減少した(539.0C±73.0μm.380.0C±52.7μm,p=0.004).ブロルシズマブ関連の炎症等の有害事象は認めなかった.結論:難治性CDME症例に対しブロルシズマブへの切り替えにより解剖学的改善が得られたが,視力改善には限界がある可能性が示唆された.CPurpose:Toevaluatetheclinicaloutcomesofswitchingtobrolucizumabincasesofdiabeticmacularedema(DME)refractoryCtoCpriorCanti-vascularCendothelialCgrowthfactor(VEGF)therapy.CPatientsandMethods:AtotalCofC6CeyesCofC4CpatientsCwithCDMECwhoCwereCswitchedCtoCbrolucizumabCbetweenCNovemberC2022CandCMayC2024wereretrospectivelyreviewed.Treatmenthistory,meandosinginterval,best-correctedvisualacuity(BCVA,logMAR)C,CcentralCretinalthickness(CRT)C,CandCadverseCeventsCbeforeCandCafterCtheCswitchCwereCanalyzed.CResults:TheCaverageCadministrationCintervalCforCanti-VEGFCinjectionCbeforeCswitchingCwasC11.7±1.6Cweeks,CandCtheCaverageCadministrationCintervalCforCanti-VEGFCinjectionCafterCswitchingCwasC12.3±3.6Cweeks,CwithCnoCsigni.cantchangeobserved(p=0.80)C.Whilenosigni.cantimprovementinvisualacuitywasobserved(from0.24C±0.18CtoC0.34±0.16,Cp=0.13)C,CRTsigni.cantlydecreased(from539.0C±73.0μmCtoC380.0±52.7μm,p=0.004)C.Nobrolucizumab-relatedCintraocularCin.ammationCorCotherCadverseCeventsCwereCreported.CConclusion:SwitchingCtoCbrolucizumabCinCtreatment-resistantCDMECcasesCresultedCinCanatomicalimprovement;however,CfunctionalCvisualCimprovementmaybelimited.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C43(5):565.569,C2026〕Keywords:ブロルシズマブ,糖尿病黄斑浮腫,視力,中心窩網膜厚.brolucizumab,diabeticmacularedema,vi-sualacuity,centralretinalthickness.Cはじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticCmacularedema:DME)は,糖尿病網膜症における主要な視力障害の原因の一つであり,患者の生活の質(qualityoflife:QOL)に大きく影響する.糖尿病患者のC35.4%に糖尿病網膜症が認められ,そのうちC7.4%にCDMEが合併するとされている1).現在,DMEの第一選択治療は抗血管内皮増殖因子(vascu-larCendothelialCgrowthfactor:VEGF)薬の硝子体内注射であり,ラニビズマブおよびアフリベルセプトC2Cmgが広く使用されているが,一定の割合で治療抵抗性を示す症例もある2,3).近年では,第二世代抗CVEGF薬としてブロルシズマブ,ファリシマブ,アフリベルセプトC8CmgがCDMEに対して承認されている.なかでもブロルシズマブは分子量が最小で組織浸透性に優れ,高濃度の薬剤投与が可能であることから,難治例への効果や投与間隔の延長が期待されている4.6).本研究では,既存治療に反応不良であったCDME症例に対〔別刷請求先〕安藤諒太:〒C464-8547愛知県名古屋市千種区若水C1-2-23名古屋市立大学医学部附属東部医療センター眼科Reprintrequests:RyotaAndo,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NagoyaCityUniversityEastMedicalCenter,1-2-23,Wakamizu1-chome,Chikusa-ku,Nagoya,Aichi464-8547,JAPANC表1患者背景患者4例6眼年齢C65.7±6.3(6C0.C77)歳性別男性C3例女性C1例有水晶体眼:眼内レンズ挿入眼3:3治療既往(重複あり)アフリベルセプトC2Cmg6眼ラニビズマブ4眼ファリシマブ2眼IVTA3眼STTA2眼局所網膜光凝固3眼切り替え理由他の治療に対して反応不良であったため:6眼切り替え前のClogMAR視力C切り替え前のCCRTC0.24±0.18(C0.10.C0.52)539.0±73.0Cμm(C438.661μm)初回抗CVEGF薬投与から切り替えまでの期間C240.1±121.4週(C97.C417週)切り替え前抗CVEGF薬平均投与間隔C11.7±1.6週(C9.6.C13.9週)切り替え後ブロルシヅマブ平均投与間隔C12.3±3.6週(C8.3.C18週)平均±標準偏差(範囲).IVTA:intravitrealtriamcinoloneacetonideinjection,STTA:sub-Tenontriamcinoloneacetonideinjection,CRT:centralretinalthickness,VEGF:vascularendothelialgrowthfactor.するブロルシズマブへの切り替え効果を後ろ向きに検討した.CI対象と方法筆者の施設で抗CVEGF薬硝子体内注射を行っているCDME症例のうち,2022年C11月.C2024年C5月にブロルシズマブに切り替えた症例C4例C6眼を対象とした.既往治療の内容,切り替えの理由,抗CVEGF薬平均投与間隔,切り替え前および最終受診時のClogMAR視力・中心網膜厚(centralreti-nalthickness:CRT)について検討した.統計学的解析として,切り替え前後の平均投与間隔,logMAR視力,CRTの比較にはCpairedt-testを用いた.p<0.05で有意差ありと判定した.本研究は名古屋市立大学医学系研究倫理審査委員会の承認を受け行った(管理番号C60-23-0162).CII結果表1に患者背景を示す.対象はC4例C6眼(男性C3名,女性1名),年齢はC65.7C±6.3歳であり,ブロルシズマブへの切り替え理由は,いずれも他の治療を行ったが効果不十分であったためである.切り替えまでの治療既往はアフリベルセプトC2Cmg6眼,ラニビズマブC4眼,ファリシマブC2眼,トリアムシノロンアセトニド硝子体内注射(intravitrealCtriamcino-loneacetonideinjection:IVTA)3眼,トリアムシノロンアセトニド後部CTenon.下注射(sub-TenonCtriamcinoloneCacetonideinjection:STTA)2眼,局所網膜光凝固C3眼であった(重複あり).6例中C1例のみ切り替え前の抗CVEGF薬投与時に導入期としてC2カ月連続で投与を行っていたが,他のC5例は導入期を設定していなかった.また,切り替え後はすべての症例で導入期を設けていなかった.初回CVEGF薬投与からブロルシズマブへの切り替えまでの期間はC240.1C±121.4週(97.417週),切り替え前の抗CVEGF薬投与回数の合計はC14.3C±8.2回(4.C24回)であった.切り替え後の経過観察期間はC44.7C±25.7週(15.87週),その間のブロルシズマブ投与回数はC4.3C±2.1回(1.8回)であった.切り替え前の抗CVEGF薬の平均投与間隔はC11.7C±1.6週(9.6.13.9週),切り替え後のブロルシズマブの平均投与間隔はC12.3C±3.6週(8.3.18週)で切り替え前後平均投与間隔に有意差は認めなかった(p=0.80).3眼は眼内レンズ挿入眼で,残りのC3眼は軽度白内障を有していた.図1,2に切り替え前および最終受診時のClogMAR視力,CRTをそれぞれ示す.logMAR視力は切り替え前がC0.24±0.18,最終受診時がC0.34±0.16と有意な改善は認められなかった(p=0.13).CRTは切り替え前がC539.0±73.0μm,最終受診時がC380.0C±52.7μmと有意に改善していた(p=0.004).ブロルシズマブに関連する副作用のうち大きく視力に影響を与えるものとして眼内炎症が報告されている5)が,今回の検討では眼内炎症やその他の副作用は認められなかった.CIII代表症例患者:60歳,男性.主訴:右眼視力低下.既往歴:40歳代から糖尿病を指摘されていたが放置していた.2018年から糖尿病の治療を開始された.現病歴:2019年C12月右眼視力低下を自覚し,近医眼科を受診し,両眼糖尿病網膜症・黄斑浮腫を指摘され,筆者の施設へ紹介された.初診時所見:視力は右眼C0.2(0.3C×sph+1.50DCcyl-1.50DAx50°),左眼C1.2(n.c.).両眼眼底に網膜出血および硬性・軟性白斑を認め,光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で黄斑浮腫を認めた(図3).蛍光眼底造影検査で,4象限にわたる広範な無灌流域を認めたが新生血管は検出されず,両眼増殖前糖尿病網膜症と診断した.経過:両眼汎網膜光凝固術を開始し,両眼黄斑浮腫に対しアフリベルセプトC2Cmg硝子体内注射を開始された.右眼はp=0.13p=0.004(μm)0.67006000.55000.40.22000.11000.00切り替え前最終受診時切り替え前最終受診時図1切り替え前後の視力図2切り替え前後の中心網膜厚(CRT)LogMAR視力400CRT0.3300logMAR視力は切り替え前C0.24C±C0.18,最終受診時CRTは切り替え前がC539.0C±C73.0μm,最終受診時0.36C±C0.16と有意な改善は認められなかった.がC380.0C±C52.7μmと有意に改善していた.図3代表症例のOCT像a:初診時.矯正視力(1.2),CRT459μm.網膜内液および硬性白斑による高輝度反射を認める.Cb:切り替え前.矯正視力(0.8),CRT438μm.アフリベルセプトC2Cmg硝子体内注射を施行しても網膜内液は残存している.Cc:最終受診時.矯正視力(0.8),CRT295μm.中心窩陥凹が認められ,網膜内液は改善していた.アフリベルセプトC2Cmg硝子体内注射に反応良好で,視力乏しく,途中ラニビズマブ(計C4回)やCSTTAを試みたが浮(1.0)に改善したが,左眼は反応不良でありC2年間にアフリ腫の改善は得られなかった(図3,4).そこで,2022年C11ベルセプトC2Cmg計C12回注射を行ったが黄斑浮腫の改善に月からブロルシズマブに切り替えたところ,徐々に黄斑浮腫(μm)いる9,10).本検討では,抗CVEGF薬投与開始からブロルシズC500450マブへの切り替えまでに約C4年以上を要しており,すべてのブロルシズマブめ,切り替え前後で投与間隔も検討したが,有意な変化は認400症例で他治療への抵抗性がみられたことから,長期にわたるC350黄斑浮腫の持続が視力予後不良の一因と考えられる.今後C300250は,治療抵抗性が疑われた段階でより早期にブロルシズマブCRT(LogMAR)への切り替えを行うことで,解剖学的改善に加えて視機能のC0.120.1改善も期待できる可能性がある.視力0.080.06ブロルシズマブに変更後,投与間隔延長も期待されるた0.020図4代表症例のCRTおよび視力推移アフリベルセプトからブロルシズマブに切り替えたあと,CRTは大幅に改善し,視力維持可能であった.は改善し中心窩陥凹もみられるようになった(図3).そのあとにCtreatandextendで約C13週間隔の治療となった(図4).CIV考按本検討では,ブロルシズマブ以外の抗CVEGF薬や局所光凝固,IVTA,STTAなどに反応不良を示したCDME症例に対し,ブロルシズマブへ切り替えた際の臨床経過を後ろ向きに検討した.ブロルシズマブへの切り替えによりCCRTは有意に減少し,解剖学的には改善が認められた一方で,視力の有意な改善は得られなかった.難治性CDME症例におけるブロルシズマブとアフリベルセプトの有効性を比較した報告でも,いずれの薬剤でも有意な視力改善はみられず,CRTはアフリベルセプト群では有意差がなかったが,ブロルシズマブ群では有意な減少が示されていた7).また,未治療および治療抵抗性CDMEに対する両薬剤の効果を比較した報告では,いずれの群でも視力とCRTの改善がみられたが,治療抵抗性群では未治療群に比して視力改善の程度は小さいとされている8).本研究結果は,こうした既報と一致しており,難治性CDMEにおいてブロルシズマブは解剖学的改善が期待できる一方で,視力改善は限定的であることを示唆する.DME治療の第一選択は抗CVEGF薬の硝子体内注射であり,現在国内ではC4種類の薬剤が承認されている.これらはそれぞれ構造や作用機序が異なり,ブロルシズマブはVEGF-Aを標的とする単鎖抗体フラグメントで,他薬剤に比べて分子量が小さく,同等の投与量でより高いモル濃度が達成できることから,難治例においても黄斑浮腫の改善が期待されている4.8).しかし,DMEが長期間にわたり遷延した場合には網膜外層の不可逆的障害が生じることがあり,浮腫が改善しても視力の回復が得られない可能性が指摘されてめられなかった.本研究で有意差がみられなかった原因としては,切り替え前はCprorenata(PRN)で投与を行っていたこと,浮腫があっても患者の同意が得られず抗CVEGF薬投与できなかったなど,厳密な再投与プロトコルに基づくものではなかったためと考えられる.本研究はC6眼と症例数が少なく,一部症例の影響が全体に及んでいる可能性が否定できないため,今後さらに症例数を増やして検討を行う必要がある.また,本研究は後ろ向きであり,視力およびCCRTは切り替え前と最終受診時との比較にとどまる.最終受診時の抗CVEGF薬投与からの経過期間も症例間で統一されておらず,今後は前向き研究による評価が望まれる.なお,本研究においてはC4症例C6眼という限られた症例数ながら,ブロルシズマブに関連する眼内炎症は認めなかった.Parkらによる韓国での大規模研究では,糖尿病はブロルシズマブ後の眼内炎症リスクを下げる因子として報告されており11),DMEに対しては比較的安全に使用できる可能性が示唆されている.ただし,ブロルシズマブ投与に際しては眼内炎症のリスクを常に念頭においた患者教育と経過観察が重要である.以上より,他の抗CVEGF薬に対して反応不良を示すCDME症例において,ブロルシズマブへの切り替えはCCRTの有意な改善をもたらしたものの,視力の改善は得られなかった.抗CVEGF薬による治療導入の遅れが視力回復の限界につながることはすでに報告されており9,10),今後は治療抵抗性が示唆された時点で早期にブロルシズマブへの切り替えを検討することが視機能の改善にもつながる可能性があると考える.本論文の要旨は第C31回日本糖尿病眼学会で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)YauJW,RogersSL,KawasakiRetal;Meta-AnalysisforEyeDisease(META-EYE)StudyCGroup:GlobalCpreva-lenceCandCmajorCriskCfactorsCofCdiabeticCretinopathy.CDia-betesCareC35:556-564,C20122)BresslerCSB,CAyalaCAR,CBresslerCNMCetal:PersistentCmacularCthickeningCafterCranibizumabCtreatmentCforCdia-beticmacularedemawithvisionimpairment.JAMAOph-thalmolC134:278-285,C20163)DugelCPU,CCampbellCJH,CKissCSCetal:AssociationCbetweenCearlyCanatomicCresponseCtoCanti-vascularCendothelialCgrowthfactortherapyandlong-termoutcomeindiabeticmacularedema:anCindependentCanalysisCofCprotocolCiCstudydata.RetinaC39:88-97,C20194)ChakrabortyD,ShethJU,BoralSetal:Off-labelintravit-realCbrolucizumabCforCrecalcitrantCdiabeticCmacularedema:aCreal-worldCcaseCseries.CAmCJCOphthalmolCCaseCRepC24:101197,C20215)MonesJ,SrivastavaSK,JaffeGJetal:Riskofin.amma-tion,retinalvasculitis,andretinalocclusion-relatedeventswithbrolucizumab:posthocreviewofHAWKandHAR-RIER.Ophthalmology128:1050-1059,C20216)AbuCSerhanCH,CTahaCMJJ,CAbuawwadCMTCetal:SafetyCandCefficacyCofCbrolucizumabCinCtheCtreatmentCofCdiabeticCmacularCedemaCandCdiabeticretinopathy:aCsystematicCreviewCandCmeta-analysis.CSeminCOphthalmolC39:251-260,C20247)ChakrabortyD,SharmaA,MondalSetal:Brolucizumabversusa.iberceptforrecalcitrantdiabeticmacularedemainIndianreal-worldscenario-TheBRADIRstudy.AmJOphthalmolCaseRepC36:102152,C20248)RubsamCA,CHosslCL,CRauCSCetal:Real-worldCexperienceCwithCbrolucizumabCcomparedCtoCa.iberceptCinCtreatment-naiveandtherapy-refractorypatientswithdiabeticmacu-laredema.JClinMedC13:1819,C20249)BrownCDM,CNguyenCQD,CMarcusCDMCetal;RIDECandCRISECResearchGroup:Long-termCoutcomesCofCranibi-zumabCtherapyCforCdiabeticCmacularedema:theC36-monthCresultsCfromCtwoCphaseCIIItrials:RISECandCRIDE.OphthalmologyC120:2013-2022,C201310)ChitturiCSP,CVenkateshCR,CManglaCRCetal:Real-worldCtreatmentCoutcomesCafterCdelayedCintravitrealCtherapyCinCcenter-involvingCdiabeticCmacularCedemaC-RETORTCstudy.IntJRetinaVitreousC9:22,C202311)ParkCHS,CLeeCSW,CParkCHCetal:IncidenceCofCintraocularCin.ammationCandCitsCriskCfactorsCinCpatientsCtreatedCwithbrolucizumab:aCnationwideCcohortCstudy.CSciCRepC14:C22913,C2024C***