《原著》あたらしい眼科43(8):1026.1029,2026cミトコンドリア病に伴う難治性兎眼角膜症に生じた角膜穿孔に対し保存角膜にて角膜移植を施行した1例満留一匠*1,2日髙貴子*1池田康博*1*1宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野*2宮崎県立宮崎病院眼科CPartialLamellarKeratoplastywithPreservedDonorCorneaforRefractoryLagophthalmicCornealPerforationinLeighSyndrome:ACaseReportIkkiMitsutome1,2),TakakoHidaka1)andYasuhiroIkeda1)1)DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,UniversityofMiyazaki,2)DepartmentofOphthalmology,MiyazakiPrefecturalMiyazakiHospitalC目的:兎眼の管理に難渋し感染性角膜炎により角膜穿孔をきたしたミトコンドリア病〔Leigh症候群(LS)〕の小児患者に対し,保存角膜を用いた部分表層角膜移植を施行し,良好な治療経過を得たC1例を経験したので報告する.症例:4歳,女児.LSで終日人工呼吸管理下にあった.両眼の兎眼角膜症の診断で宮崎大学医学部附属病院眼科を初診,経過中に右眼の感染性角膜炎を発症し,右眼角膜下方に穿孔を呈した.眼脂の細菌培養検査では,緑膿菌(Pseudomo-nasaeruginosa)が同定された.穿孔径が大きく保存的治療が困難であったため,保存角膜を用いた部分表層角膜移植を施行した.術後経過は良好で,感染や拒絶反応の徴候なく移植片は上皮化が得られた.結論:ミトコンドリア病のような重篤な全身疾患を基礎にもち全身管理を要する小児患者は,全身管理下のリスク因子が複合することで,兎眼角膜症が重篤化し角膜穿孔に至るリスクが高い.今後は保湿や閉瞼などより厳重な兎眼管理が必要である.CPurpose:Toreportthecaseofa4-year-oldgirlwithLeighsyndromewhodevelopedPseudomonasaerugino-sakeratitisandcornealperforationsecondarytorefractorylagophthalmosinwhomtheconditionwassuccessfullymanagedwithpartiallamellarkeratoplastyusingapreserveddonorcornea.Case:Thepatient,dependentonfull-timemechanicalventilation,initiallypresentedwithbilateralexposurekeratopathy.Infectiouskeratitissubsequent-lyCdevelopedCinCherCrightCeye,CresultingCinCanCinferiorCcornealCperforation.CBacterialCcultureCofCtheCeyeCdischargeCidenti.edP.aeruginosa.Giventheperforationsizeandfailureofconservativetreatment,partiallamellarkeratoplas-tyCwasCperformedCusingCaCpreservedCcornea.CTheCpostoperativeCcourseCwasCuneventful,CandCtheCcornealCgraftCachievedCcompleteCepithelializationCwithoutCsignsCofCinfectionCorCimmunologicalCrejection.CConclusion:PediatricCpatientswithmitochondrialdisordersareatahighriskforprogressionfromlagophthalmostocornealperforation,soproactivemanagement,includingintensivelubricationandensuredeyelidclosure,isessentialtopreventvision-threateningcomplicationsinsuchsystemiccases.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)43(8):1026.1029,C2026〕Keywords:角膜穿孔,兎眼,保存角膜,角膜移植,ミトコンドリア病,Leigh症候群(LS).cornealperforation,lagophthalmos,preservedcornea,keratoplasty,mitochondrialdisease,Leighsyndrome(LS).Cはじめに意識障害を有する患者や人工呼吸器管理下にある患者では,閉瞼不全が高頻度に認められる1).兎眼角膜症の発症には,瞬目反射の低下,顔面神経麻痺,甲状腺眼症などが原因としてあげられ,閉瞼不全,涙液蒸発により角膜表面が外気に長時間曝露されることで上皮障害が進行する.兎眼は角膜上皮びらんなどの軽度なものにとどまらず,角膜潰瘍を経て穿孔に至ることがある.失明の危険性を伴う重篤な状態になりうるが,最適な管理の方法については未だに明確なコンセンサスが得られていない.角膜穿孔をきたした〔別刷請求先〕池田康博:〒C889-1692宮崎県宮崎市清武町木原5200宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野Reprintrequests:YasuhiroIkeda,DepartmentofOphthalmologyFacultyofMedicine,UniversityofMiyazaki,5200Kihara,Kiyotake,Miyazaki889-1692,JAPANC図1角膜穿孔時の前眼部写真4C×C2Cmmの角膜穿孔部に虹彩嵌頓を認めた.場合には,角膜移植などが検討されるが侵襲性が高く,とくに小児においては感染などにより移植片不全をきたし,最終的に眼球摘出に至った症例も報告されており2),外科的治療選択は臨床的に難渋することが多い.今回,兎眼の管理に難渋し角膜穿孔をきたしたミトコンドリア病〔Leigh症候群(Leighsyndrome:LS)〕の小児患者に対し,保存角膜を使用した部分表層角膜移植を施行したので報告する.CI症例症例はC4歳,女児.1歳C4カ月でCLSを発症し,気管切開術後で終日人工呼吸管理下にあった.常時両眼が兎眼の状態であり,小児科にて適宜ヒアルロン酸ナトリウム点眼薬,充血時にガチフロキサシンC0.3%点眼薬を使用していた.X年12月C22日頃から右眼の眼脂が多くなり結膜充血が出現し,眼脂を拭こうとすると痛がるためCX年C12月C26日に宮崎大学医学部附属病院眼科(以下,当院)に紹介初診となった.当院初診時に意思疎通はできず視力・眼圧は測定不能で,両眼ともに結膜充血と粘液性眼脂があり,右眼には角膜下部に潰瘍を認めた.周辺に浸潤を認めるものの,Seidel試験は陰性で前房深度は正常,明らかな前房内炎症はなかった.左眼角膜下方には一部にびらんと瘢痕病変を認めた.眼科受診歴はなく以前のドライアイ所見は不明であった.右眼は兎眼角膜症による感染性角膜潰瘍と診断し,ガチフロキサシンC0.3%点眼薬,セフメノキシムC0.5%点眼薬,オフロキサシンC0.3%眼軟膏を開始した.X+1年C1月C7日に再診予定であったが,家族の発熱で受診できずC1月C14日に再診となった.右眼は角膜穿孔をきたしており,前房の著明な狭小化を認めた(図1).眼脂の細菌培養検査では,緑膿菌(Pseudomonasaeruginosa)が同定され,主要な抗菌薬に感受性を示した.セフメノキシムC0.5%点眼薬をトブラマイシンC0.3%点眼薬図2角膜移植1カ月目の前眼部写真移植後の拒絶反応や感染徴候がなく良好に経過した.へ変更し,ガチフロキサシンC0.3%点眼薬,オフロキサシン0.3%眼軟膏は継続でテープ閉瞼を追加した.1月C16日には前房形成を認め改善傾向であったが,1月C24日に右眼角膜は下方でC4C×2Cmmの大きさで穿孔し,虹彩の脱出・嵌頓を認めた.穿孔径が大きく保存的治療での閉鎖は困難と考えられた.保存角膜による角膜移植の方針とし,ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)を装着のうえ,入院管理とした.X+1年C1月C29日に保存角膜(保存期間C3年C9カ月,強角膜片,保存液COPTISOL-GS,C.80℃保存)を用いて右部分表層角膜移植(ホスト角膜切除径6.5Cmm,ドナー角膜径7.0Cmmでトリミング)を全身麻酔下で行った.ドナー角膜は内皮側を.離・除去したのちに10-0ナイロン糸でC8糸端々縫合,その後連続縫合で縫着した.術後,ベタメタゾンC1mg/日の経静脈投与をC3日間行った.その後はベタメタゾンC0.1%点眼薬,オフロキサシンC0.3%点眼薬,トブラマイシンC0.3%点眼薬,オフロキサシンC0.3%眼軟膏,テープ閉瞼を行った.術翌日には右眼角膜びらんを認めたものの経時的に改善し,術後C1カ月時点のC2月C27日には移植角膜は完全に上皮化した(図2).経過中は前房深度正常で感染徴候や拒絶反応を認めなかった.退院後は継続してテープ閉瞼を指導したが,完全閉瞼は困難であった.術後点眼は漸減終了し,現在はオフロキサシン眼軟膏とメパッチクリアでの強制閉瞼で管理している(図3).CII考按兎眼角膜症は,閉瞼不全により角膜が十分に涙液で被覆されずに,乾燥および摩耗による角膜障害をきたす病態である.涙液には抗菌成分であるCβ.リジン,ラクトフェリン,免疫グロブリンなどが含まれ,眼表面の防御機構に重要な役割を果たしている3).閉瞼不全が生じると涙液蒸発が亢進し,図3角膜移植8カ月目の前眼部写真下方より血管侵入を認めるが,角膜の透明化が得られた.角膜表層が乾燥することで角膜上皮障害が進行する.涙液の蒸発や角膜上皮障害は感染のリスクを高め,感染性角膜炎へと進展した場合には,治癒後も瘢痕形成により不可逆的な視力低下に至りうる.さらに,菲薄化が進行すると角膜穿孔の危険性を伴う.閉瞼不全の原因としては神経疾患などによる瞬目反射の低下やCBell現象の障害,顔面神経麻痺,甲状腺眼症や眼窩腫瘍による眼球突出,外傷などに伴う眼瞼機能不全などがあげられる4).本患児の基礎疾患であるCLSについても考察を要する.LSは,基底核および脳幹部に左右対称性の壊死性病変をきたす進行性の神経変性疾患であり,乳幼児期または小児期早期に発症することが多い.LSはおもにミトコンドリアの酸化的リン酸化機能障害に関連する,遺伝的に不均一な疾患群である.生存予後は不良であり,多くは数年で精神運動発達遅滞,筋緊張低下,不随意運動,運動失調,けいれん,呼吸障害などの重度の中枢神経系異常を呈し,寝たきりや死亡に至る5).LSに伴う眼合併症としては,視神経萎縮,眼振,眼球運動障害,斜視,眼瞼下垂などが報告されており,病変が脳幹や動眼神経核といった中枢神経系の眼球運動制御領域に及ぶことに起因すると推察されている6).本患児が呈した兎眼は,LSの中枢神経系病変による眼輪筋麻痺がおもな原因であると考えられた.他のミトコンドリア病においても,眼輪筋機能低下やBell現象不良に伴う兎眼角膜症の発症が報告されており7),ミトコンドリア機能不全が閉瞼不全をきたす可能性は病態として考慮されるべきである.また,本症例の重篤化の背景に,LSに起因する中枢性の筋力低下および眼輪筋麻痺に加え,全身管理下の高リスク因子の影響があると考えられた.集中治療室(intensivecareunit:ICU)入室患者全体において兎眼の有病率はC34.0%と高く,さらに小児CICU患者ではC40.9%という高い有病率が報告されており,その中でも兎眼発症の危険因子として人工呼吸管理や鎮静,GlasgowComaScaleの低値などがあげられており,瞬目反射の低下がおもな原因とされている8).本症例は外来通院中に角膜穿孔を発症したものの,実態としては寝たきりかつ終日人工呼吸器管理下であった.こうした中枢性の筋力低下や瞬目反射低下を伴う患者群は,重篤な兎眼角膜症を発症する危険性があり,通常より厳格な角膜管理を徹底する必要がある.また,ICU患者における結膜の細菌叢を調べた報告では,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,ジフテロイド,黄色ブドウ球菌などの正常細菌叢についで緑膿菌やアシネトバクターなどの病原菌が検出され,角膜穿孔症例において分離された微生物のなかでもっとも多かったのは緑膿菌であった9).本症例においても眼脂培養検査で緑膿菌が検出された.兎眼角膜症に対しては,眼表面の保護と潤滑維持を目的とした保存的治療が基本となる.人工涙液や眼軟膏を頻回に使用し,並行して眼帯,テーピングによる強制閉瞼が行われる.状況に応じてCSCLを使用し,難治例や重症例では,眼瞼縫合術や側頭筋移行術などが施行される場合もある10).角膜穿孔を生じた場合には,眼圧下降薬併用でのCSCLの装用やシアノアクリレートあるいはフィブリン糊による穿孔部の閉鎖が試みられ,閉鎖に難渋する場合は,結膜被覆術,羊膜移植,全層または表層角膜移植が選択され,眼表面の安定化がはかられる11).角膜穿孔への外科的治療として,とくに小児においては術式選択に難渋する.小児角膜移植における拒絶反応のリスクは成人より高く,とくにC4歳以下の全層角膜移植ではC5年生存率が50%程度との報告もある12).さらに,角膜血管新生は移植片不全および拒絶反応の危険因子の一つであり,本来は免疫寛容を有する角膜に血管新生が生じることでその免疫寛容機構が破綻し,拒絶反応が生じうる.角膜周辺部では角膜中央部と比較して血管侵入が生じやすく,その結果,拒絶反応が起こりやすい13).保存角膜は新鮮角膜と比較して免疫反応を誘発しにくく,術後ステロイド使用量を抑制し,感染や高眼圧のリスクを軽減できる可能性が指摘されている14).本症例はC4歳という若年に加え,角膜周辺部の移植を要した点において拒絶反応のリスクが高いと考えられたが,保存角膜を使用し,さらにドナー内皮を.離し表層移植とすることで,移植片不全の主因となる内皮型拒絶反応を回避でき15),現時点で良好な結果が得られていると考えられた.CIII結論結論として,全身管理を要する小児の難治性兎眼角膜症に生じた角膜穿孔に対し,保存角膜を用いた部分表層角膜移植は,拒絶反応のリスクを抑えつつ眼球温存をはかるための有効な選択肢であると考えられた.しかし,根本的な原因である兎眼は残存しているため,術後も保湿や閉瞼などの厳重な管理継続が不可欠である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)JammalCH,CKhaderCY,CShihadehCWCetal:ExposureCkera-topathyCinCsedatedCandCventilatedCpatients.CJCCritCCareC27:537-541,C20122)PainterCSL,CRanaCM,CBaruaCACetal:OutcomesCfollowingCtacrolimusCsystemicCimmunosuppressionCforCpenetratingCkeratoplastyCinCinfantsCandCyoungCchildren.Eye(Lond)C36:2286-2293,C20223)EzraCDG,CLewisCG,CHealyCMCetal:PreventingCexposureCkeratopathyinthecriticallyill:aprospectivestudycom-paringeyecareregimes.BrJOphthalmolC89:1068-1069,C20054)HartfordCJB,CBianCY,CMathewsCPMCetal:PrevalenceCandCriskCfactorsCofCexposureCkeratopathyCacrossCdi.erentCintensivecareunits.CorneaC38:1124-1130,C20195)FinstererJ:LeighCandCLeigh-likeCsyndromeCinCchildrenCandadults.PediatrNeurolC39:223-235,C20086)HanJ,LeeYM,KimSMetal:OphthalmologicalmanifesC-tationsinpatientswithLeighsyndrome.BrJOphthalmol99:528-535,C20157)LockJH,IraniNK,NewmanNJ:Neuro-ophthalmicmani-festationsCofCmitochondrialCdisordersCandCtheirCmanage-ment.TaiwanJOphthalmol11:39-52,C20208)ChenY,HeJ,WuQetal:Prevalenceandriskfactorsofexposurekeratopathyamongcriticallyillpatients:asys-tematicCreviewCandCmeta-analysis.CNursCOpenC11:e2061,C20249)RamaniCK,CKaliaperumalCS,CSarkarCSCetal:StudyCofCcon-junctivalmicrobial.orainpatientsofintensivecareunit.KoreanJOphthalmolC35:318-324,C202110)WolkowCN,CChodoshCJ,CFreitagSK:InnovationsCinCtreat-mentCofClagophthalmosCandCexposureCkeratopathy.CIntCOphthalmolClinC57:85-103,C201711)内藤紘策,鈴木宏光,豊島馨ほか:角膜穿孔症例への治療とその効果についての検討.あたらしい眼科C25:213-217,C200812)BachmannCB,CAvgitidouCG,CSiebelmannCSCetal:Horn-hautchirurgieCundChornhauttransplantationCbeiCkindern(PediatricCcornealCsurgeryCandCcornealtransplantation)C.COphthalmologeC112:110-117,C201513)小山あゆみ,大松寛,井上幸次ほか:蘇生後脳症後兎眼に生じた角膜穿孔に対し保存角膜にて角膜移植を施行した1例.あたらしい眼科34:120-123,C201714)SimonCM,CFellnerCP,CEl-ShabrawiCYCetal:In.uenceCofCdonorstoragetimeoncornealallograftsurvival.Ophthal-mology111:1534-1538,C200415)BorderieCVM,CGuilbertCE,CTouzeauCOCetal:GraftCrejec-tionCandCgraftCfailureCafterCanteriorClamellarCversusCpene-tratingCkeratoplasty.CAmCJCOphthalmolC151:1024-1029,Ce1,C2011C***