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ブリンゾラミド長期点眼による角膜への影響

2008年5月31日 土曜日

———————————————————————-Page1(135)7110910-1810/08/\100/頁/JCLS18回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科25(5):711713,2008cはじめに近年,緑内障点眼薬は多種にわたり存在している.炭酸脱水酵素阻害薬点眼は内服に比較して全身的な副作用が少なく,追加点眼薬として広く使用を検討される薬剤である.炭酸脱水酵素阻害薬点眼の眼圧下降機序は,毛様体無色素上皮に存在する炭酸脱水酵素(CA)を阻害,おもにCAアイソザイムII型を阻害することで房水産生を抑制し,眼圧を下降させると考えられている.CAアイソザイムII型は角膜内皮にも存在し,角膜実質内への水分の流入を調節するポンプ作用をもつ.そのため,炭酸脱水酵素阻害点眼薬は角膜ポンプ作用を低下させ,角膜含水量を増加させて角膜厚を増加させる可能性があると考えられている.実際に炭酸脱水酵素阻害薬であるドルゾラミド点眼薬(トルソプトR)は,角膜への影響を示す報告がみられている14).しかし,同様の炭酸脱水酵素阻害薬であるブリンゾラミド点眼薬(エイゾプトR)点眼に関する角膜への影響の報告はまだ少ない5).今回,1%ブリンゾラミド点眼薬を24カ月使用した際の角膜厚と角膜内皮,眼圧への影響を検討した.I対象および方法対象は自治医科大学附属病院眼科緑内障外来で2004年11月にブリンゾラミド点眼を処方開始された連続した10例18眼で,2006年11月まで2年の経過観察を行った.症例の内訳は,男性5例10眼,女性5例8眼であった.平均年齢は65.8±8.3歳(5784歳),対象疾患は正常眼圧緑内障を含む広義の原発開放隅角緑内障10例18眼であった.ブリンゾラミド点眼開始前に内眼手術を受けていた症例は3眼であった.〔別刷請求先〕橋本尚子:〒320-0861宇都宮市西1-1-11原眼科病院Reprintrequests:TakakoHashimoto,M.D.,HaraEyeHospital,1-1-11Nishi,Utsunomiya-shi,Tochigi-ken320-0861,JAPANブリンゾラミド長期点眼による角膜への影響橋本尚子*1,2原岳*1,2青木由紀*1國松志保*1*1自治医科大学眼科学教室*2原眼科病院CornealInuenceofLong-TermTopicalBrinzolamideUseTakakoHashimoto1,2),TakeshiHara1,2),YukiAoki1)andShihoKunimatsu1)1)DepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversity,2)HaraEyeHospitalブリンゾラミド長期点眼による角膜への影響を,中心角膜厚と角膜内皮細胞密度で検討した.対象は緑内障18眼,緑内障点眼の変更なくブリンゾラミド点眼を追加し,12カ月,24カ月で中心角膜厚,角膜内皮細胞密度を測定した.中心角膜厚は投与前が529.1±41.1μm,24カ月後は525.1±34.0μmであった.角膜内皮細胞密度は投与前が2,453±356個/mm2,24カ月後は2,486±541個/mm2であった.中心角膜厚,角膜内皮細胞密度ともにブリンゾラミド点眼24カ月使用にても有意差はなかった.対象症例に内眼手術既往例を3眼含んでいたが,そのなかに角膜内皮が著明に減少した症例が1眼あり,今後内眼手術既往眼では注意して経過観察をする必要性があると考えた.Toassessthecornealinuenceoflong-termbrinzolamideuse,weexaminedcornealthicknessandendothelialcelldensityin18glaucomatouseyesfollowingbrinzolamideuse.Centralcornealthickness(CCT)andcornealendotherialcelldensityweremeasuredbeforebrinzolamideuseandat24monthsofuse.CCTwas529.1±41.1μmbeforeuseand525.1±34.0μmat24monthsofuse.Cornealendothelialcelldensitywas2,453±356and2,486±541at24monthsofuse.Thedierenceswerenotsignicant.Of3eyesthathadundergoneintraocularsurgerybeforetheexamination,1showedremarkabledecreaseincornealendotherialcelldensity.Cornealconditionsshouldbecheckediftopicalbrinzolamideisbeingusedafterintraocularsurgery.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(5):711713,2008〕Keywords:ブリンゾラミド,中心角膜厚,角膜内皮細胞密度.brinzolamide,centralcornealthickness,densityofcornealendothelialcells.———————————————————————-Page2712あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008(136)入術(PEA+IOL)(点眼開始36カ月前)を別の機会に施行されており,術前の角膜厚は術前が575μm,24カ月後が548μm,角膜内皮細胞密度は術前が1,973個/mm2,24カ月後が1,200個/mm2であった.症例2はMMC使用線維柱帯切除術(点眼開始96カ月前)を施行されており,術前の角膜厚は術前が531μm,24カ月後が530μm,角膜内皮細胞密度は術前が2,008個/mm2,24カ月後が1,912個/mm2であった.症例3はMMC使用線維柱帯切除術(点眼開始87カ月前)を施行されており,術前の角膜厚は術前が540μm,24カ月後が535μm,角膜内皮細胞密度は術前が2,036個/mm2,24カ月後が2,070個/mm2であった(図1,2).III考按ブリンゾラミド点眼は炭酸脱水酵素阻害点眼薬であるが,同様のドルゾラミド点眼薬には中心角膜厚や角膜内皮への影響を示す報告がなされている14).今回,ブリンゾラミド点眼を24カ月継続使用して経過観察をしたが,中心角膜厚,角膜内皮細胞密度ともに,結果としては有意差がなく,中心角膜厚の増加や角膜内皮細胞の減少など角膜への影響は全体的にはなかった.しかし,内眼手術既往がある眼においてドルゾラミド,ブリンゾラミド各点眼使用後に角膜内皮障害に方法は対象症例に使用中の緑内障治療点眼を変更せずに,ブリンゾラミド点眼を追加した.ブリンゾラミド点眼前,12カ月後,24カ月後に,1)中心角膜厚,2)角膜内皮細胞密度,3)眼圧を測定した.中心角膜厚の測定には点眼麻酔下にて超音波パキメータ(DGH-TECH社,PachetteDGH500R)を用いて中心の角膜圧を5回測定し,その平均値を用いた.角膜内皮細胞密度はスペキュラマイクロスコープ(KONAN社,NONCONROBO-CAR)を用いて撮影し,50個以上の細胞を選択して計測した.なお,炭酸脱水酵素阻害薬の内服症例は除外し,経過観察中に視野障害の進行した場合は投薬を変更することとした.また,併用点眼薬は平均1.3本で,延べ眼数でチモロール・ゲル点眼が10眼,ラタノプロスト点眼が13眼であった.II結果1.中心角膜厚ブリンゾラミド点眼投与前は529.1±41.1μm,投与12カ月後は524.8±35.4μm,24カ月後は525.1±34.0μmであった.点眼投与前との角膜厚の変化率は投与12カ月で0.8%,24カ月で0.6%であった.点眼投与前と12カ月後はp=0.05と有意差が認められたが,24カ月後は有意差が認められなかった.2.角膜内皮細胞密度ブリンゾラミド点眼投与前は2,453±356個/mm2,投与12カ月後は2,488±487個/mm2,24カ月後は2,486±541個/mm2であった.点眼投与前との角膜内皮細胞密度の変化率は投与12カ月で+1.3%,24カ月で+0.8%であった.点眼投与前と12カ月後,24カ月後ともに有意差は認められなかった.3.眼圧下降率ブリンゾラミド点眼投与前は14.7±2.4mmHg,投与12カ月後は13.4±2.5mmHg,24カ月後は14.0±1.8mmHgであった.眼圧下降率は投与12カ月で6.9%,24カ月で2.3%であった.点眼投与前と比較して12カ月後はp<0.05と有意差が認められたが,24カ月後は有意差が認められなかった.今回の経過中に,視野進行のため投薬を変更した症例はなかった.また,内眼手術既往症例では,これまで炭酸脱水酵素阻害薬点眼にて角膜浮腫の不可逆性変化をきたしたとの症例報告がいくつかある6,7).そのため,今回の症例のなかで,内眼手術既往症例を検討してみた.今回の対象症例18眼中3眼に内眼手術既往があった.症例1はマイトマイシンC(MMC)使用線維柱帯切除術(点眼開始66カ月前),超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿図2角膜内皮細胞密度の経時変化灰色の丸は18例全症例の平均値,黒丸は症例1,黒三角は症例2,黒四角は症例3の角膜内皮細胞密度(個/mm2)を示す.経時変化(月)01224:全症例:症例:症例:症例05001,0001,5002,0002,5003,0003,500角膜内皮細胞密度(個/mm2)図1中心角膜厚の経時変化灰色の丸は18例全症例の平均値,黒丸は症例1,黒三角は症例2,黒四角は症例3の角膜厚(μm)を示す.経時変化(月)010020030040050060070001224:全症例:症例:症例:症例中心角膜厚(μm)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.5,2008713(137)tyandecacystudyofdorzolamide,anovel,activetopi-calcarbonicanhydraseinhibitor.ArchOphthalmol111:1343-1350,19932)InoueK,OkugawaK,OshikaTetal:Inuenceofdorzol-amideoncornealendothelium.JpnJOphthalmol47:129-133,20033)LassJH,KhosrofSA,LaurenceJKetal:Adouble-maskedrandomized,1-yearstudycomparingthecornealeectsofdorzolamide,timolol,andbetaxolol.ArchOph-thalmol1161003-1010,19984)EaganCA,HodgeDO,McLarenJWetal:Eectofdor-zolamideoncornealendothelialfunctioninnormalhumaneyes.InvestOphthalmolVisSci39:23-29,19985)井上賢治,庄司治代,若倉雅登ほか:ブリンゾラミドの角膜内皮への影響.臨眼60:183-187,20066)KonowalA,MorrisonJC,BrownSVLetal:Irreversiblecornealdecompensationinpatientstreatedwithtopicaldorzolamide.AmJOphthalmol127403-406,19997)安藤彰,宮崎秀行,福井智恵子ほか:炭酸脱水酵素阻害薬点眼後に不可逆的な角膜浮腫をきたした1例.臨眼59:1571-1573,20058)橋本尚子,原岳,高橋康子ほか:正常眼圧緑内障に対するチモロール・ゲル,ラタノプロスト点眼の短期使用と長期眼圧下降効果.日眼会誌108:477-481,2004よると思われる不可逆的な角膜浮腫を生じた症例報告6,7)がなされており,今回の症例のなかで内眼手術既往がある3眼を検討してみた.3眼のうち,内眼手術を2回受けていた症例1で,角膜内皮細胞密度の明らかな減少が認められた.その症例は,ブリンゾラミド点眼開始までの経過時間が線維柱帯切除術から66カ月,PEA+IOLから36カ月であった.手術侵襲による内皮減少も否定はできないが,ブリンゾラミド点眼開始から12カ月後は大きな減少ではなく24カ月後で大きく減少しているため,今後,内眼手術既往眼は注意して角膜内皮細胞密度を確認する必要性があると思われた.眼圧下降率に関してブリンゾラミド投与12カ月後では投与前と比較して眼圧下降の有意差が認められたが,24カ月後は有意差が認められなかった.ブリンゾラミドは基本的には併用薬として使用されているため,眼圧に関しては併用薬との兼ね合い8)もある可能性も考えられた.今後も症例数を増やし,また経過期間も延ばしつつ角膜への影響についてさらに検討していく必要性があると考えた.文献1)WilkersonM,CylrinM,LippaEAetal:Four-weeksafe-***