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顔面神経麻痺形成術によって角膜混濁に対する角膜移植が施行できた1例

2008年11月30日 日曜日

———————————————————————-Page1(107)15770910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(11):15771579,2008cはじめに顔面神経麻痺による兎眼は,眼輪筋機能低下に伴う閉瞼機能不全と下眼瞼の下垂および外反によって発症する.眼科医による兎眼に対する治療はおもに点眼や眼軟膏などの内科的治療であるが,角膜表面の障害は慢性的に残存し,乾燥感や異物感の治療に難渋することも多い.眼輪筋麻痺によるlidwiping機能の破綻は角膜のバリア機能の減弱・喪失を意味し,慢性的な角膜上皮障害と角膜感染をひき起こすことがある1).角膜白斑は慢性兎眼性角膜炎のみでも発症することがあるが,特に角膜感染例では感染が消退した後でも重篤な視力障害が残存する.このような角膜白斑に対し角膜移植を施行するにあたっては眼表面が良好な状態であることが望ましいが,眼表面と眼瞼は密接にかかわっているため,開閉瞼を含めた眼瞼機能が正常であることが必要とされる.今回筆者らは,顔面神経麻痺と兎眼に伴った感染性角膜炎後の角膜混濁に対し,lidloading法と下眼瞼形成術を施行す〔別刷請求先〕鹿嶋友敬:〒430-8558浜松市中区住吉2-12-12聖隷浜松病院眼形成眼窩外科Reprintrequests:TomoyukiKashima,M.D.,DepartmentofOculoplasticandOrbitalSurgery,SeireiHamamatsuHospital,2-12-12Sumiyoshi,Naka-ku,Hamamatsu-shi430-8558,JAPAN顔面神経麻痺形成術によって角膜混濁に対する角膜移植が施行できた1例鹿嶋友敬*1嘉鳥信忠*1柳田和夫*2*1聖隷浜松病院眼形成眼窩外科*2やなぎだ眼科医院ACaseofKeratoplastyfollowingEyelidReconstructionforFacialNervePalsyTomoyukiKashima1),NobutadaKatori1)andKazuoYanagida2)1)DepartmentofOculoplasticandOrbitalSurgery,SeireiHamamatsuHospital,2)YanagidaEyeClinic緒言:兎眼による角膜混濁などの視力障害には角膜移植が適応となるが,兎眼の改善が必要である.筆者らは顔面神経麻痺再建術で兎眼の改善が得られたため角膜移植が施行できた症例を報告する.症例:53歳,女性.18歳時に左顔面神経麻痺による兎眼を発症.2年前に角膜潰瘍を発症し視力は光覚弁となった.角膜移植には兎眼の改善が必要であることから顔面神経麻痺再建術を施行した.上眼瞼はgoldplateを瞼板に縫着し眼瞼挙筋腱膜で被覆した.下眼瞼は耳介軟骨を採取し,内眼角靱帯と眼窩外側縁より後方の骨膜に縫着,挙上させた.結果:術翌日より閉瞼可能となり,整容的にも満足が得られた.3カ月後に角膜移植と白内障手術を施行し矯正視力(1.0)に改善した.考按:顔面神経麻痺による兎眼患者に対して手術を施行することで角膜障害のリスク自体を低下させることができた可能性がある.眼科医こそ眼表面の改善のために再建術を考慮すべきと考えられた.Lagophthalmoscausesvisualimpairment,followedbyinfection.Wereportapatientwithlagophthalmoswhorecoveredfollowingeyelidreconstruction.Shewasabletoundergocornealkeratoplastyafterresolutionofthelagophthalmos.Thepatient,a53-year-oldfemale,presentedwitha35-yearhistoryofleftfacialpalsy.Visualacu-itywaslightperception,asaresultofcornealinfection.Wetransplantedgoldplatetothetarsusoftheuppereye-lid;earcartilage,anchoredtothemedialcanthaltendonandperiosteumofthelateralrim,wasusedtoxandliftthelowereyelid.Thepatientwasabletoclosetheeyeonthefollowingday.Cosmeticsatisfactionwasachieved.Keratoplastyandcataractsurgerywerethenperformed,afterwhichthecorrectedvisualacuityimprovedto20/20.Thereconstructionoflagophthalmosdecreasestheriskofcornealdamage.Thepresentcasesuggeststhatsurgicalreconstructionoflagophthalmosisrecommended,inordertoprotecttheocularsurface.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(11):15771579,2008〕Keywords:顔面神経麻痺,兎眼,角膜移植,再建術,lidloading法.facialnervepalsy,lagophthalmos,kerato-plasty,reconstruction,lidloadingmethod.———————————————————————-Page21578あたらしい眼科Vol.25,No.11,2008(108)ることで兎眼の改善が得られたため,角膜移植を施行し良好な視力回復が得られた症例を報告する.I症例症例は53歳,女性.18歳時に脳腫瘍手術を施行され,その後左顔面神経麻痺による兎眼を発症した.兎眼性角膜炎に対し点眼や軟膏点入による加療を行っていたが,2年前に真菌性角膜潰瘍を発症した.角膜潰瘍は抗真菌薬で軽快したが,角膜混濁が残存し視力障害をきたした.兎眼があり角膜移植は適応外であったため,兎眼の改善とその後の角膜移植を目的に聖隷浜松病院眼形成眼窩外科を紹介受診となった.初診時,左眼矯正視力は光覚弁であった.顔面神経本幹の完全麻痺による眉毛下垂,上眼瞼皮膚弛緩を認めた.強閉瞼で閉瞼不全と下眼瞼下垂および外反のため,角膜中央部で4mmの兎眼を呈し,通常の瞬目では強度の閉瞼不全を起こしていた.細隙灯顕微鏡所見では,角膜全体に及ぶ新生血管侵入と実質混濁,乾燥による強度の結膜充血がみられた(図1).術前に重りを上眼瞼に貼布し,十分な開閉瞼機能の獲得に最適な重量と思われた1.4gのgoldplateを選択した.手術は全身麻酔下で施行した(図2).上眼瞼は重瞼線に沿って25mm幅で皮膚切開ののち,眼輪筋と瞼板前面のleva-toraponeurosisを切開し瞼板に到達した.そこから尾側に瞼板とaponeurosisの間を離,頭側にMuller筋とlevatoraponeurosisの間を離しgoldplate移植のための空間を作製した.Goldplateは眼瞼の形状に合わせて弯曲させた.これを瞼板に7-0ナイロン糸で縫着し,levatoraponeurosisでその前方を被覆した.睫毛内反の予防のため睫毛側皮下と瞼板を縫着した.下眼瞼の下垂・外反には,睫毛下2mmで25mmの幅で皮膚切開し瞼板まで到達した後lowereyelidretractorsを露出し,瞼板との境界で切離し,そのまま下方へ結膜から離した.耳介軟骨の一部を30×5mmで採取し,内側はmedialcanthaltendonに,外側は眼窩外側縁より2mm後方の骨膜に5-0ナイロン糸で縫着した.瞼板と耳介軟骨,lowereyelidretractorsと耳介軟骨を7-0ナイロン糸で固定した.最後に皮膚を縫合した.II結果術翌日からgoldplateによって上眼瞼が容易に降下し,下眼瞼下垂も矯正されたため,強閉瞼せずとも平常の瞬目でも完全閉瞼が得られ,兎眼は消失した.これらに伴い術1カ月図2手術所見(上:頭側,右:耳側)左上:上眼瞼切開の後,Muller筋と挙筋腱膜を離.右上:aponeurosisの後方にgoldplateを移植する.左下:耳介軟骨採取.右下:耳介軟骨をmedialcanthaltendonと眼窩外壁骨膜へ縫着.図1初診時写真上:開瞼時.左側眉毛下垂,下眼瞼下垂および外反症による下方強膜露出とそれらに伴う兎眼性充血を認める.下:閉瞼時.強く閉瞼するが,5mmの兎眼が存在する.右:前眼部.角膜全体に全層性角膜混濁と角膜輪部の新生血管がみられる.図3顔面神経麻痺形成術後写真上:開瞼時.下眼瞼下垂は修正されており下方強膜は露出していない.Goldplateは目立たない.下:閉瞼時.軽い閉瞼でも兎眼0mmへ改善した.Goldplateが軽度浮き上がる.右:前眼部.角膜移植+白内障手術後.移植角膜の透明性は保たれている.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.11,20081579(109)後には下方強膜の露出や結膜充血は改善された.Marginreexdistanceは3mmであり,goldplateの移植に伴う開瞼障害はなかった.また,goldplateは閉瞼時には上眼瞼の皮下にその輪郭が軽度浮き上がるが,開瞼時にはlevatoraponeurosisの運動ベクトルと同様に後上方の眼窩内に引き込まれるため外見上問題とならなかった.兎眼形成手術3カ月後に角膜移植術と白内障手術を施行し,最終的に左眼矯正視力(1.0)と大幅に改善した.下眼瞼下垂や結膜充血のため醜形となっていたが,手術によって改善されたため整容的にも満足が得られた(図3).頻回の内科的治療は不要となったが,就寝時にはgoldplateの重力がかからず兎眼が残存しているため,就寝前の眼軟膏は継続している.III考按顔面神経麻痺に伴う兎眼症例に対し,形成術を施行し,完全な閉瞼を得,後に角膜移植を施行し良好な視力を得ることができた.兎眼に対する治療には,点眼や眼軟膏を用いられることが多いが,これらは姑息的加療である.本症例のように完全麻痺の患者の場合,眼瞼形態の異常は重篤となり,眼表面の正常化は困難であることが多い.よって,顔面神経麻痺による兎眼患者に対しては,良好な視機能を維持するために兎眼矯正が選択されるべきであると思われた.本症例は18歳時の手術から33年間慢性的な角膜障害が存在するものの,その程度は軽度であった.しかしその後重篤な角膜障害を発症した.原因として,慢性的な角膜炎に加え,加齢による涙液・油脂分泌低下および眼輪筋の痙性低下や弾性線維などの支持組織の退行性変化による下眼瞼の下垂の増悪が考えられた.よって,手術を早期に施行することによって角膜障害発症のリスク自体も低下させることができた可能性があると思われた.顔面神経麻痺では眼輪筋および前頭筋の麻痺によって眉毛下垂や上眼瞼皮膚余剰,下眼瞼外反が起こる.その一方でlevatoraponeurosisやMuller筋は神経支配が異なるため正常である.顔面神経麻痺に対する再建術は眼瞼周囲の構造を吊り上げるのと同時に,goldplateの重量で閉瞼させるlidloadingという一見矛盾した術式であるが,眼瞼挙上が正常であればgoldplate1.4gの重量は眼瞼下垂を起こすような重さではなく,機能の回復を目指した理にかなった術式である.Goldplate移植の術後合併症としてgoldplateが露出すること2)や,乱視成分が増加することが知られている3).これはgoldplateの形状が眼表面と微細な差があるためであると考えられる.今回の症例では角膜移植を施行しており乱視についての検討はしていないがgoldplateの露出はなく,goldplateを眼表面の形状に合わせて曲げることでこれらの合併症を回避できると考えた.顔面神経麻痺による兎眼に対してはgoldplate移植29),platinumchain移植9),耳介軟骨移植10)やlateraltarsalstrip11)など多くの報告がある.しかしその多くは形成外科による整容面,開閉瞼機能面での報告であり眼科からの報告はわずかである4,5,10).眼表面の診察を行う眼科外来で内科的治療が行われていることも多く経験するが,角膜びらんや結膜充血などの前眼部所見やバリア機能の改善のためにも眼科医が率先して早期より兎眼形成術を選択すべきと思われた.本論文の要旨は第32回角膜カンファランスで報告した.文献1)KakizakiH,ZakoM,MitoHetal:Filamentarykeratitisimprovedbyblepharoptosissurgery:twocases.ActaOphthalmolScand81:669-671,20032)ChoiHY,HongSE,LewJM:Long-termcomparisonofanewlydesignedgoldimplantwiththeconventionalimplantinfacialnerveparalysis.PlastReconstrSurg104:1624-1634,19993)SalehGM,MavrikakisI,deSousaJLetal:Cornealastig-matismwithuppereyelidgoldweightimplantationusingthecombinedhighpretarsalandlevatorxationtech-nique.OphthalPlastReconstrSurg23:381-383,20074)太根伸浩:麻痺性兎眼症の静的再建における長期間の検討GoldWeightImplantによるLidLoading法について.眼臨101:990-996,20075)渡辺彰英,嘉鳥信忠:オキュラーサーフェスを考慮した眼瞼へのアプローチ─オキュラーサーフェスを考慮した眼瞼の形態的・機能的再建.眼科手術20:339-345,20076)AggarwalE,NaikMN,HonavarSG:Eectivenessofthegoldweighttrialprocedureinpredictingtheidealweightforlidloadinginfacialpalsy:aprospectivestudy.AmJOphthalmol143:009-1012,20077)TerzisJK,KyereSA:Experiencewiththegoldweightandpalpebralspringinthemanagementofparalyticlago-phthalmos.PlastReconstrSurg121:806-815,20088)SeiSR,SullivanJH,FreemanLNetal:Pretarsalxationofgoldweightsinfacialnervepalsy.OphthalPlastRecon-strSurg5:104-109,19899)BerghausA,NeumannK,SchromT:Theplatinumchain:anewupper-lidimplantforfacialpalsy.ArchFacialPlastSurg5:166-170,2003.10)丸山直樹,渡辺彰英,嘉鳥信忠ほか:耳介軟骨を用いた下眼瞼の形態的,機能的再建.あたらしい眼科24:943-946,200711)ChangL,OlverJ:Ausefulaugmentedlateraltarsalstriptarsorrhaphyforparalyticectropion.Ophthalmology113:84-91,2006***