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狭隅角眼に対する白内障手術の隅角開大効果

2010年8月31日 火曜日

0910-1810/10/\100/頁/JCOPY(121)1133《第20回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科27(8):1133.1136,2010cはじめに狭隅角眼は,急性原発閉塞隅角症をひき起こす可能性があることから従来は予防的に,隅角開大のためにレーザー周辺虹彩切除術(laseriridotomy:LI)が行われてきた.近年,LIに代わって隅角開大を目的とした白内障手術が行われるようになり,隅角開大効果や眼圧下降効果を得られたとの報告が見受けられる1.5).隅角開大効果の評価は,古くは検眼鏡所見に始まり,近年では超音波生体顕微鏡検査(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)の登場により客観的に,かつ定量的に隅角の開大度を評価できるようになった.ただし,UBMの測定は多くの場合アイカップを溶液で満たし,眼表面に接触して測定する必要があり,白内障手術直後では感染を考慮すると測定しにくい面があった.近年,非接触で測定可能な前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)が登場し,従来のUBMと比較し解像度も向上し,外来で多数の症例を非侵襲,短時間で測定できるようになった.前眼部OCTで狭隅角や隅角〔別刷請求先〕橋本尚子:〒320-0861宇都宮市西1-1-11原眼科病院Reprintrequests:TakakoHashimoto,M.D.,HaraEyeHospital,1-1-11Nishi,Utsunomiya-shi,Tochigi-ken320-0861,JAPAN狭隅角眼に対する白内障手術の隅角開大効果橋本尚子原岳成田正弥本山祐大立石衣津子原たか子原孜原眼科病院Angle-wideningEffectofCataractSurgeryinPrimaryAngle-ClosureTakakoHashimoto,TakeshiHara,MasayaNarita,YutaMotoyama,ItsukoTateishi,TakakoHaraandTsutomuHaraHaraEyeHospital目的:狭隅角眼に対する白内障手術の隅角開大効果を評価する.研究デザイン:前向き研究,対照群はなし.対象および方法:対象は,原眼科病院で白内障手術を行った狭隅角眼,男性4例7眼,女性16例29眼.平均年齢は69.9±11.1(52.89)歳であった.術前と術後1,3カ月で前眼部OCT(光干渉断層計)を用いて耳側のAOD(angleofdistance)500,AOD750,TISA(trabecularirisspacearea)500,TISA750,SS(scleralspur)angleの定量を行った.合わせて,術前,術後1,3カ月での眼圧,角膜内皮細胞密度を測定した.結果:耳側のAOD500は術前,術後1,3カ月の順で,0.11,0.39,0.38mmに,AOD750は0.19,0.60,0.61mmに,TISA500は0.05,0.13,0.13mm2に,TISA750は,0.09,0.25,0.25mm2に,となった.同様にSSangleは12.2,37.5,36.7°となった.いずれのデータも術前と比べ術後1,3カ月でともに有意差(p<0.01)を認めた.眼圧は18.6±5.0,14.4±2.9,13.3±2.6mmHgとなった.角膜内皮細胞密度は,2,539±441,2,434±496,2,348±441/mm2であった.結論:狭隅角眼に対する白内障手術は,隅角を開大する効果があると思われた.Purpose:Toevaluatetheangle-wideningeffectofcataractsurgeryinprimaryangle-closurepatients.PatientsandMethods:EnrolledinthisprospectivestudyatHaraEyeHospitalwere36eyes,allofwhichunderwentcataractsurgery.TemporalAOD(angleofdistance)500,AOD750,TISA(trabecularirisspacearea)500,TISA750andSS(scleralspur)angleweremeasuredbeforeandaftersurgerybyanteriorOCT(opticalcoherencetomograph).Result:AOD500was0.11mmbeforesurgery,0.39mmat1monthaftersurgeryand0.38mmat3monthsaftersurgery.Atthesamerespectivetimepoints,AOD750was0.19,0.60and0.61mm;TISA500was0.05,0.13and0.13mm2;TISA750was0.09,0.25and0.25mm2,andSSanglewas12.2,37.5and36.7°.Conclusion:Cataractsurgeryhastheeffectofwideningtheangleinprimaryangle-closurepatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(8):1133.1136,2010〕Keywords:狭隅角眼,超音波水晶体乳化吸引術,前眼部光干渉断層計,AOD(angleofdistance),TISA(trabecularirisspacearea),SS(scleralspur)angle.narrowangle,phacoemulsificationandaspiration,anteriorOCT,AOD,TISA,SSangle.1134あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(122)閉塞の認められる白内障手術症例の,手術前後の隅角角度の変化を前眼部OCTで定量した報告は調べられた範囲ではまだ少ない1).今回,筆者らは白内障手術の対象症例のなかの狭隅角眼に対して,術前後の隅角の変化を前眼部OCT(VisanteR,カールツァイス社製)で評価したので報告する.I対象および方法対象は,2008年11月から2009年6月までに原眼科病院で白内障のために手術をし,かつ前眼部OCTで耳側の強膜岬での隅角角度(scleralspurangle:SSangle)が25°以下であった20例36眼で,内訳は男性4例7眼,女性16例29眼であった.年齢は69.9±11.1(平均値±標準偏差,以下同様)(52.89)歳,無散瞳下での眼圧は18.6±5.0(12.34)mmHgであった.全例,検眼鏡的に緑内障性視神経乳頭変化を有さなかった.白内障手術方法は,ベノキシール点眼麻酔にて施行した.角膜切開3.2mmを行い,粘弾性物質はヒーロンR+ヒーロンVRを使用したハードシェル法6)で角膜内皮保護を行い,hydrodissection,hydrodelineation後,核分割法で超音波水晶体乳化吸引術(PEA)を施行,IA(灌流吸引術)を行った.その後ヒーロンRで前房形成後アクリル製折り畳み式眼内レンズを.内固定し,IAにて前房を洗浄して創口閉鎖を確認,無縫合で手術を終了した.手術は全症例,同一術者により施行された.なお,LI後,角膜疾患,ぶどう膜炎の既往のある症例は対象から除外した.対象患者には今回の手術治療に関する十分な説明を行い,文書による同意を得た.白内障手術術前と術後1,3カ月で前眼部OCTを用いて隅角の評価を行った.測定部位は耳側と鼻側とし,それぞれのAOD(angleofdistance)5007),AOD750,TISA(trabecularirisspacearea)5008),TISA750,SSangleの定量を行った(図1).SSangleは,水平方向(0°,180°)で評価した値を用いた.同時に視力,眼圧,角膜内皮細胞密度を測定した.術前と術後1,3カ月後のデータでBonferroniの多重比較検定を行い,p<0.01を有意水準とした.II結果術前の平均核硬度はEmery-Little分類で2.1±0.8(1.3),手術時間は6.8±2.5(5.17)分であり,対象症例のなかで白内障手術中,術後,経過観察中に特記すべき合併症が認められた症例はなかった.隅角の評価を前眼部OCT(VisanteR)を用いて行った.耳側に関して,耳側のAOD500は術前,術後1,3カ月の順で,0.11,0.39,0.38mmに,AOD750は0.19,0.60,0.61mmに,TISA500は0.05,0.13,0.13mm2に,TISA750は0.09,0.25,0.25mm2に,となった.同様にSSangleは12.2,37.5,36.7°となった(表1).鼻側のAOD500は術前,術後1,3カ月の順で,0.13,0.38,0.39mmに,AOD750は0.22,0.59,0.60mmに,TISA500は0.05,0.13,0.13mm2に,TISA750は0.09,0.25,0.25mm2に,となった.同様にSSangleは13.9,36.2,36.9°となった(表2).AOD500,750,TISA500,750ともに術前と比較して,術後1,3カ月ともにp<0.01と有意差が認められた.視力は,術前と術後1,3カ月の順で,(0.9),(1.0),(1.0)となり,眼圧表1耳側前眼部OCT術前術後1カ月術後3カ月AOD500(mm)0.11±0.060.39±0.13*0.38±0.12*AOD750(mm)0.19±0.100.60±0.21*0.61±0.17*TISA500(mm2)0.05±0.020.13±0.04*0.13±0.04*TISA750(mm2)0.09±0.040.25±0.08*0.25±0.07*SSangle(°)12.2±6.837.5±9.6*36.7±9.2*平均値±標準偏差.*p<0.01.表2鼻側前眼部OCT術前術後1カ月術後3カ月AOD500(mm)0.13±0.060.38±0.14*0.39±0.11*AOD750(mm)0.22±0.110.59±0.20*0.60±0.16*TISA500(mm2)0.05±0.020.13±0.05*0.13±0.05*TISA750(mm2)0.09±0.040.25±0.09*0.25±0.07*SSangle(°)13.9±6.536.2±10.4*36.9±7.7*平均値±標準偏差.*p<0.01.図1OCTによる隅角の測定部位①が強膜岬.強膜岬から虹彩に下ろした垂線の交差部②.①から500μm離れた角膜後面の点③から虹彩に下ろした垂線の交差部④.①から750μm離れた角膜後面の点⑤から虹彩に下ろした垂線の交差部⑥.③④の線の長さがAOD500,⑤⑥の長さがAOD750.①②③④の線で囲まれた面積がTISA500,①②⑤⑥の線で囲まれた面積がTISA750.①③④で囲まれた直角三角形の頂点の角度がSSangle.ICAngle-180°AOD600:0.378mmAOD750:0.533mmTISA500:0.127mm2TISA750:0.239mm2ScleralSpurAngle:36.7°(123)あたらしい眼科Vol.27,No.8,20101135は同様に18.6±5.0,14.4±2.9,13.3±2.6mmHgとなった.角膜内皮細胞密度は同様に,2,539±441,2,434±496,2,348±441/mm2であった.角膜内皮細胞減少率は,術前と比較した1カ月,3カ月後の減少率が,3.8±9.4,7.6±8.9%となった.視力,眼圧において術前に比較して,術後1,3カ月ではp<0.01と有意差が認められた.角膜内皮細胞密度に関しては有意差が認められなかった.III考按今回筆者らは,白内障が認められ白内障手術適応となった症例のうち,前眼部OCTで耳側のSSangleが25°以下であった狭隅角眼に対する隅角の開大効果を,前眼部OCTを用いて検討した(図2).症例選択に関しては本来1例1眼が理想的だが,今回は20例36眼と症例数が少ないため合計36眼を対象とした.隅角の評価は上方,下方,耳側,鼻側で隅角の開大度が異なるが,当院では非接触で,さらに眼瞼の挙上なども行わずに撮影できる水平断を撮影して評価している.閉塞隅角緑内障眼に対する白内障手術での隅角開大効果について,Nonakaらの報告5)では,UBMで評価した閉塞隅角眼の症例に対して白内障手術を行った術前後のAOD500の値は,術前0.09±0.07mm,術後3カ月で0.25±0.09mmと有意な増加が認められた.筆者らの前眼部OCT(VisanteR)での値も水平方向でのAOD500で術前0.1.0.13mmから術後0.38.0.39mmと増加している.Pereiraらの報告9)では通常の白内障症例での術前後の隅角角度を定量した評価で,AODは上方,下方,耳側,鼻側で比較すると術前後ともに水平方向が上下方向よりも隅角が開大している結果となっていた.筆者らの数値は耳側と鼻側の水平方向で評価しているため,上下方向の値よりは数値的に少し大きく出ている可能性もある.今回は測定部位も測定機器も異なるために単純比較はできないが,有意な増大が認められた.VisanteRで閉塞隅角緑内障のある白内障症例の術前後の隅角角度を定量したDawczynskiらの報告1)では,閉塞隅角緑内障症例の術前隅角の水平断での平均値は16.0±4.7°で術後は32.3±7.7°となっており,術後は有意な隅角の開大が認められた.Dawczynskiらの隅角評価は,VisanteRの隅角パラメータであるanteriorchamberangle(ACA)を用いて測定しており,虹彩と角膜の角度を測定したものである.今回の筆者らの隅角評価は同じVisanteRではあるが,強膜岬から隅角角度を測定したSSangleである.強膜岬より500μm離れた角膜後面から虹彩に下ろした垂直線で囲まれた,直角三角形の頂点の角度を測定しているため測定方法がまったく同じではない.結果はほぼ同様の数値となっていたが,これは大きな測定部位の相違がないことと,筆者らと同様の水平断での測定値であるためと思われた.前眼部OCTでの隅角評価は,非接触型であるため,アイカップを用いた方法と比較すると手術直後でも感染の心配がなく検査ができ,短時間での検査が可能であり,しかも解像度が高いため,隅角の詳細な評価をするうえでは有用であると思われた.角膜内皮細胞については,術後1カ月,3カ月の減少率が,3.8±9.4,7.6±8.9%となり,以前当院でヒーロンVRを併用した白内障手術の角膜内皮細胞密度の減少率,2.4%(術後1カ月),1.7%(術後3カ月)6)と比較して高い数値を示した.角膜内皮細胞密度に関しては今後も長期的,経時的な観察が必要と思われた.本研究に際し,術後検査にご協力いただきました猪木多永子先生,金子禮子先生,清水由花先生,原正先生,原裕先生に感謝いたします.文献1)DawczynskiJ,KoenigsdoerfferE,AugstenRetal:Anteriorsegmentopticalcoherencetomographyforevaluationofchangesinanteriorchamberangleanddepthafterintraocularlensimplantationineyeswithglaucoma.EurJOphthalmol17:363-367,20072)LamDSC,LeungDYL,ThamCCYetal:Randomizedtrialofearlyphacoemulsi.cationversusperipheraliridotomytopreventintraocularpressureriseafteracuteprimaryangleclosure.Ophthalmology115:1134-1140,20083)HataH,YamaneS,HataSetal:Preliminaryoutcomesofprimaryphacoemulsi.cationplusintraocularlensimplantationforprimaryangle-closureglaucoma.JMedInvest55:287-291,2008術前術後図2白内障術前,術後の前眼部OCT術前と比較して術後は明らかな隅角の開大が認められる.1136あたらしい眼科Vol.27,No.8,2010(124)4)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Cataractsurgeryforresidualangleclosureafterperipherallaseriridotomy.Ophthalmology112:974-979,20055)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Anglewideningandalterationofciliaryprocesscon.gurationaftercataractsurgeryforprimaryangleclosure.Ophthalmology113:437-441,20066)橋本尚子,原岳,原孜ほか:ヒーロンVRの角膜内皮細胞保護作用─術後1年の観察.臨眼63:285-288,20097)PavlinCJ,HarasiewiczK,EngPetal:Ultrasoundbiomicroscopyofanteriorsegmentstructuresinnormalandglaucomatouseyes.AmJOphthalmol113:381-389,19928)RadhakrishnanS,GoldsmithJ,HuangDetal:Comparisonofopticalcoherencetomographyandultrasoundbiomicroscopyfordetectionofnarrowanteriorchamberangles.ArchOphthalmol123:1053-1059,20059)PereiraFAS,CronembergerS:Ultrasoundbiomicroscopicstudyofanteriorsegmentchangesafterphacoemulsi.cationandfoldableintraocularlensimplantation.Ophthalmology110:1799-1806,2003***

前眼部光干渉断層計を用いた結膜封入蝗竃Eの観察と治療

2010年3月31日 水曜日

———————————————————————-Page1(75)3530910-1810/10/\100/頁/JCOPYあたらしい眼科27(3):353356,2010cはじめにこれまで前眼部を詳細に観察する方法として,細隙灯顕微鏡が広く用いられてきているが,定量的な計測や半透明組織の断層像を得るには限界があった.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,赤外線レーザーを光源とする組織断層の撮影装置であり,生体組織の断面を非侵襲的に精密に観察できる方法として,近年,著しい進歩をみせている1).OCTは,眼科領域ではおもに眼底疾患,とりわけ黄斑部疾患の病変部の断層像の観察やその病態評価を目的にめざましい進歩をとげてきた.近年,その適用は前眼部にも拡大し,緑内障の領域においては隅角や術後の濾過胞の観察,およびそれらの定量的な解析2,3),角膜の領域では角膜厚の計測,角膜パーツ移植における移植片の評価4),あるいは,屈折矯正手術における術後のフラップ厚の計測5)に応用されている.その他,有水晶体眼内レンズの観察6),涙液メニスカスの評価7)などにも応用されている.しかし,前眼部OCTの結膜疾患への応用の報告は非常に限られている8).これまで,結膜疾患の観察は,細隙灯顕微鏡検査などによ〔別刷請求先〕横井則彦:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学Reprintrequests:NorihikoYokoi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine,465Kajii-cho,Hirokouji-agaru,Kawaramachi-dori,Kamigyou-ku,Kyoto602-0841,JAPAN前眼部光干渉断層計を用いた結膜封入胞の観察と治療寺尾信宏*1,2横井則彦*2丸山和一*2木下茂*2*1大阪府済生会中津病院眼科*2京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学ObservationandTreatmentofConjunctivalEpithelialInclusionCystUsingAnteriorSegmentOpticalCoherenceTomographyNobuhiroTerao1,2),NorihikoYokoi2),KazuichiMaruyama2)andShigeruKinoshita2)1)DepartmentofOphthalmology,OsakaSaiseikaiNakatsuHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicine筆者らは,細隙灯顕微鏡下で診断し,点眼治療で改善が得られないために外科的治療が必要と判断した結膜胞7例7眼の病変部を前眼部opticalcoherencetomography(OCT)にて観察した後,小切開創を作り,そこから胞を摘出し,病理組織学的検討を行った.さらに,病巣部の術後の前眼部OCT像についても観察を行った.その結果,前眼部OCTにて,全例で結膜下にその輪郭を追うことができ,その内腔が顆粒状の高輝度として観察される胞性病変を認めた.治療では摘出中に破した1例を除き,胞は6例すべてで小さな切開創から一塊として摘出でき,病理組織学的に全例,封入胞と診断された.また,術後の胞の消失は,前眼部OCTでも確認され,術後平均12.1カ月の経過観察において全例で再発を生じていない.封入胞は前眼部OCTによって,診断できる可能性があり,低侵襲的に一塊として娩出可能であり,しかも,本法は再発がない治療法として期待できると考えられた.Sevencasesofconjunctivalcystsfrom7eyeswerediagnosedbyslit-lampbiomicroscopyandwereexaminedbyanteriorsegmentopticalcoherencetomography(ASOCT).Thecystswereexcisedthroughtheuseofamini-mallyinvasivenesssurgery,andthenexaminedhistopathologically.ASOCTdisclosedthatallofthecystsappearedaswell-delineatedcystswithgranularreectioninsidethecysts.Withtheexceptionof1cystthatexperiencedruptureduringexcision,allcystscouldbesqueezedoutthroughthesmall,scissor-madeconjunctivalincisionplacednearthecysts.Accordingtothepathologicalexaminations,itwasdiagnosedthatallcystswereconjunctivalinclusioncysts.TotalremovalofeachcystwasconrmedpostoperativelybyASOCT,andnorecurrenceswereexperiencedafterexcisionduringthepostoperativefollow-upthataveraged12.1months.Theconjunctivalinclu-sioncystscanbediagnosedbyASOCTandremovedthroughaminimallyinvasivesurgerywithnorecurrence.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)27(3):353356,2010〕Keywords:前眼部光干渉断層計,結膜胞,封入胞,低侵襲治療.anteriorsegmentopticalcoherencetomo-graphy,conjunctivalcyst,epithelialinclusioncyst,minimallyinvasivesurgery.———————————————————————-Page2354あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(76)って行われてきたが,本検査では,結膜下の微細な組織構造の変化や病変部の観察には限界があった.特に,結膜胞は,病理組織学的にはリンパ胞,封入胞,貯留胞に分けられるが,細隙灯顕微鏡検査のみでこれらを鑑別することは一般に困難である.そこで筆者らは,その鑑別診断において何らかの知見が得られるのではないかと考え,前眼部OCTの結膜胞の応用を試みた.また,その観察所見に基づき低侵襲的な外科治療を試みるとともに,摘出した胞に対して病理組織学的検討を行ったところ,確定診断を得るとともに興味ある知見を得たので報告する.I対象および方法対象は異物感を主訴に受診し,細隙灯顕微鏡検査にて結膜胞と診断され,瞬目時の摩擦の軽減を目的に人工涙液(ソフトサンティアR1日6回)の点眼,および,摩擦による非特異的炎症に対して低力価ステロイド点眼(フルメトロンR点眼液0.1%1日2回)を1カ月以上使用しても効果がなく,外科的治療が必要と判断した7例7眼〔女性7例7眼;平均年齢64.9歳(4278歳)〕である.これら7例に対してインフォームド・コンセントを得た後,前眼部OCT(VisanteTMOCT,CarlZeissMeditec社)にて胞部を観察し(図1),外科的治療を施行した.手術方法は,まず局所麻酔として塩酸オキシブプロカイン液(ベノキシールR点眼液0.4%),出血予防目的にエピネフリン液(ボスミンR液0.1%)を点眼後,血管を避けて,スプリング剪刀にて胞径程度の小切開創を作り,マイクロスポンジにて創口から胞を押し出すように移動させて摘出した(図2).創口は無縫合にて放置し,レボフロキサシン(クラビットR点眼液0.5%)を滴下して手術を終了した.術後点眼としては,レボフロキサシン,0.1%ベタメタゾン(リンデロンR点眼・点耳・点鼻液0.1%)を各1日4回1週間点眼ののち,レボフロキサシン,0.1%フルオロメトロン(フルメトロンR点眼液0.1%)を各1日4回から始めて漸減しながら充血がとれるまで継続した.さらに摘出した胞に対して病理組織学的検討を行った.病理組織学的検討は,ヘマトキシリン・エオシン(HE)染色ならびに,PAS(periodicacid-Schi)染色を用いて行った.また,術後経過を前眼部OCTにて観察し,再発の有無を調べた.なお,本研究は,京都府立医科大学医学倫理審査委員会の承認を得たうえで実施した.II結果すべての検討症例において,前眼部OCTにて結膜下に全体の輪郭を追うことのできる一塊の胞性病変が観察され,その内腔に顆粒状の高輝度として観察される内容物の貯留を認めた.治療においては摘出中に破した1例を除き,胞は6例すべてで小さな切開創から一塊として摘出することができた(図1,2).一方,病理組織学的検討においては,全例,胞壁は重層扁平上皮あるいは重層円柱上皮で構成されており,結膜上皮と考えられる胞壁からなる封入胞図1症例7の結膜病変部およびOCT所見左上:術前の病変部所見,右上:術4カ月後の病変部所見,左下:術前の病変部のOCT所見,右下:術4カ月後の病変部のOCT所見.右眼の鼻側球結膜に胞性病変が観察され(左上,矢頭),前眼部OCTにて内腔が顆粒状の高輝度を示す胞性病変が認められる(左下).胞壁の輪郭を追うことができることがわかる.胞摘出4カ月後,再発や結膜瘢痕を認めず(右上),前眼部OCTでも胞の内腔は,わずかな空隙様所見はあるが,胞性病変の再発はみられない.図2手術方法(症例7)血管を避けかつ胞壁を傷つけないよう胞近傍の結膜を無鈎鑷子にて把持し,スプリング穿刀にて結膜に小切開創を作製(左上および右上).無鈎鑷子で小切開創の縁の結膜を支え,創口から胞が圧出されるよう,逆方向から経結膜的にマイクロスポンジで胞に圧力を加えて創口から押し出し,マイクロスポンジに付着させて胞を摘出(左下および右下).切開創は無縫合にて放置.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010355(77)(epithelialinclusioncyst)と診断された(図3).またそのうち,3例では上皮内に杯細胞と考えられるPAS染色陽性細胞が散在性に観察された.術後の細隙灯顕微鏡による観察,および前眼部OCTによる詳細な観察によって,胞の消失が確認され,術後平均12.1カ月(616カ月)の経過観察においても全例で再発をみていない.なお,患者背景および胞の詳細を表1にまとめた.III考按結膜封入胞は球結膜にみられる半透明でドーム状の隆起性病変である.瞼結膜に生じることはまれであり,原因の明らかでない特発性のものと,外傷や手術後に生じる続発性のものとに分類される.その内容物は漿液性のものからゼリー状のものまでさまざまであることが知られている.結膜封入胞は,結膜上皮が結膜下の粘膜固有層内に陥入してできたものと考えられており,その確定診断は,一般に病理組織学的になされる9).また,病理組織学的に,胞壁は,結膜上皮由来と考えられる非角化上皮から構成されるとともに,しばしばPAS染色陽性を示す杯細胞(gobletcell)が含まれ,胞内腔の内容物としては,ケラチンおよびムチンを含むことが報告されている10).一方,封入胞の鑑別診断として,結膜のリンパ管の一部が拡張して胞状の形態を示すリンパ胞や,炎症性の結膜疾患にしばしば合併し,涙腺の導管開口部の閉塞に続発して涙液の貯留を示す貯留胞があり,これらの鑑別は,細隙灯顕微鏡による観察だけでは必ずしも容易ではない.さらに,治療においては,結膜胞は,しばしば鑑別されることなく,同一疾患として取り扱われ,穿刺がくり返し行われている例も多いのではないかと推察される.しかしながら,封入胞では,穿刺で一時的に胞が消失しても,再発をくり返すこともまれではない.今回用いた前眼部OCT(VisanteTMOCT,CarlZeissMeditec社)は,波長1,310nmの近赤外光を光源とするため光の拡散が少なく,820nmの光源を用いる従来のOCTに比べて組織深達性が高く,混濁部分を通しても解像度の高い画像を得ることができる.このことから角膜のみならず,隅角,虹彩,水晶体など前眼部の断面像の高精度の解析に応用されている11).今回,筆者らは前眼部OCTを用いることにより,細隙灯顕微鏡では観察困難な結膜胞の全体像を詳細に捉えることができた.そして,検討した胞は,病理組織学的にすべて封入胞と診断されたが,これらは,前眼部OCTによる観察では,結膜とは区別されながら,その輪郭を追跡することのできる胞壁と顆粒状の高輝度を呈する内腔の像から構成されていた.これが,封入胞の一般的な特徴であるか否かは,今後の症例の積み重ねや,他の胞との比較検討を必要とするが,病理組織学的に封入胞の胞壁が結膜上皮由来と考えられる重層上皮で構成されることや,その内腔に,胞壁に散在する杯細胞から分泌されると考えられるムチンや結膜上皮に含有されるケラチンなどの成分が貯留していることを考慮すると,前眼部OCTは,これらの組織所見に一致図3症例1の前眼部所見,OCT所見および胞の病理組織所見右眼の耳側球結膜に胞性病変が観察され(左上),前眼部OCTにて結膜下に内腔が顆粒状の高輝度を示す胞性病変を認める(右上).胞壁の輪郭も追うことができる.病理組織像では胞壁は異型の乏しい扁平上皮で構成され,被覆上皮にはPAS染色に濃染される杯細胞と思われる細胞(右下,矢頭)を認める.病理組織学的に封入胞と診断された(左下:弱拡大,右下:左下図の枠内の強拡大写真).表1検討対象の背景と病理所見症例年齢(歳)性別左右分布分布状態内容物OCT所見胞壁の病理所見PAS染色陽性細胞の有無病理診断術後観察期間(月)178女性右耳側孤立性高輝度重層扁平+封入胞14242女性右下方孤立性高輝度重層円柱封入胞15360女性右鼻側孤立性高輝度重層扁平封入胞16465女性左上方孤立性高輝度重層扁平+封入胞15569女性左耳側孤立性高輝度重層扁平+封入胞11677女性右鼻側孤立性高輝度重層扁平封入胞6763女性右鼻側孤立性高輝度重層扁平封入胞8———————————————————————-Page4356あたらしい眼科Vol.27,No.3,2010(78)した像を捉えているのではないかと思われる.実際,今回用いた前眼部OCTは,長波長であるため,組織深達度が高く,しかも,解像度が軸方向18μm,横方向60μmと非常に優れていることが,胞壁と結膜との区別を可能にしたのではないかと思われる.また,一般に,前眼部OCTでは,房水の観察像は,低輝度であることが知られている12)が,今回検討した封入胞の胞内腔はすべて高輝度を示していた.この理由として,封入胞はその内容物が水分を主体とするのではなく,粘性のある液体(ケラチンおよびムチンを含んだ液体)からなるためではないかと考えられる.このことは,今後,封入胞の内容物を検討し,その結果を病理組織像と照らし合わせることにより明らかにできると考えている.また,今回の観察所見が,他の胞には認められない結膜封入胞の特徴であるとするなら,結膜胞の鑑別診断において,前眼部OCTは,非常に有用であると考えられる.これについては,今後,他の胞を含めて検討する必要があると思われる.結膜胞の治療においては,その簡便性ゆえに,胞に対する穿刺が外来でよく行われるが,穿刺単独では,再発することが多い.原因として,穿刺のみでは,ほとんどの胞壁が残存するため,穿刺部が容易に修復されてしまい,内腔上皮からの分泌物が再貯留するためではないかと考える.このため,根治治療として,本報告のように,胞の全摘出が最良の方法であると推測する.今回,筆者らは前眼部OCTにて,結膜組織とは独立して孤立性に胞が存在するという所見を見出すことができたため,小切開創からの胞の押し出しを試み,出血をきたすことなく,7例中6例で低侵襲的に胞を一塊として摘出することができた.しかし1例では,一塊として,摘出不可能であった.摘出困難であった症例は以前に他院で穿刺を受けたあとの再発例であり,何らかの癒着が胞と結膜下組織の間に存在したことが,破の原因となったのではないかと推察される.さらに,今回の検討で,低侵襲治療後の胞の消失が前眼部OCTにて確認され,しかも,長期にわたって再発を経験していないことから,本術式は非常に有用な方法であると思われた.以上,今回の検討から,前眼部OCTを用いることで,簡便かつ非侵襲的に結膜封入胞を診断できる可能性が示されたとともに,封入胞は,穿刺の既往がなければ,低侵襲的に一塊として娩出可能であり,しかも本法は再発がない治療法である可能性が示された.また,前眼部OCTにより細隙灯顕微鏡では観察しえない結膜下の微細な組織構造の変化を視覚化できる可能性があり,今後,さまざまな結膜病変への診断および治療への応用が期待できると思われる.文献1)HuangD,SwansonEA,LinCPetal:Opticalcoherencetomography.Science254:1178-1181,19912)SunitaR,JasonG,DavidHetal:Comparisonofopticalcoherencetomographyandultrasoundbiomicroscopyfordetectionofnarrowanteriorchamberangles.ArchOph-thalmol123:1053-1059,20053)MandeepS,PaulT,DavidSetal:Imagingoftrabeculec-tomyblebsusinganteriorsegmentopticalcoherencetomography.Ophthalmology114:47-53,20074)DiPascualeMA,PrasherP,SchlecteCetal:CornealdeturgescenceafterDescementstrippingautomatedendothelialkeratoplastyevaluatedbyVisanteanteriorsegmentopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol148:32-37,20095)RichardL,IqbalK:Anteriorsegmentopticalcoherencetomography:Non-contactresolutionimagingoftheante-riorchamber.TechniqueinOphthlalmology4:120-127,20066)GeorgesB:AnteriorsegmentOCTandphakicintraocu-larlenses:Aperspective.JCataractRefractSurg32:1827-1835,20067)SimpsonT,FonnD:Opticalcoherencetomographyoftheanteriorsegment.OculSurf6:117-127,20088)BuchwaldHJ,MullerA,KampmeierJetal:Opticalcoherencetomographyversusultrasoundbiomicroscopyofconjunctivalandeyelidlesion.KlinMonblAugenheilkd12:822-829,20039)WilliamsBJ,DurcanFJ,MamalisNetal:Conjunctivalepithelialinclusioncyst.ArchOphthalmol115:816-817,199710)GrossniklausHE,GreenWR,LuckenbachMetal:Con-junctivallesionsinadults:Aclinicalandhistopathologicreview.Cornea6:78-116,198711)神谷和孝:前眼部光干渉断層計(VisanteTMOCT,CarlZeissMeditec社).IOL&RS21:277-280,200712)秋山英雄,木村保孝,青柳康二ほか:光学的干渉断層計OCTによる前眼部の観察所見.臨眼52:829-832,1998***

前眼部光干渉断層計を用いて観察した糖尿病角膜症

2009年2月28日 土曜日

———————————————————————-Page1(109)2470910-1810/09/\100/頁/JCLS14回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科26(2):247253,2009cはじめに糖尿病を有する患者の眼に手術を行ったり点眼薬を用いたりすると,角膜上皮障害がなかなか改善しないことを経験する.糖尿病角膜症とよばれるこの病態は平時には無自覚で経過しており,所見はあってもわずかで軽度の点状表層角膜症を有する程度で見過ごされているが,眼表面へのストレスを契機に顕性化,重症化する14).強い角膜上皮障害による霧視感や視力低下が生じ,視機能に影響を与え,ときに再発性角膜上皮びらんや遷延性角膜上皮欠損に移行しきわめて難治となることがある.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,光の波としての性質であるコヒーレンス(可干渉性)に着目し,反射波の時間的遅れを検出し画像化する新しい光断層画像解析装置である.OCTは後眼部の形態観察装置として広く認められ,その優れた画像解析能力は網膜疾患の解剖学的理解を深め,診断・治療に欠かせない要素の一つとなった5).前眼部領域においても,角膜や前房の形態描出に優れ6),角膜手術の術前後の評価7)や緑内障の診断治療8)に用いられ,〔別刷請求先〕花田一臣:〒078-8510旭川市緑が丘東2条1丁目1-1旭川医科大学医工連携総研講座Reprintrequests:KazuomiHanada,M.D.,DepartmentofMedicineandEngineeringCombinedResearchInstitute,AsahikawaMedicalCollege,2-1-1MidorigaokaHigashi,Asahikawa078-8510,JAPAN前眼部光干渉断層計を用いて観察した糖尿病角膜症花田一臣*1,2五十嵐羊羽*1,3石子智士*1加藤祐司*1小川俊彰*1長岡泰司*1川井基史*1石羽澤明弘*1吉田晃敏*1,3*1旭川医科大学医工連携総研講座*2同眼科学教室*3同眼組織再生医学講座CornealImagingwithOpticalCoherenceTomographyforDiabeticKeratopathyKazuomiHanada1,2),ShoIgarashi1,3),SatoshiIshiko1),YujiKato1),ToshiakiOgawa1),TaijiNagaoka1),MotofumiKawai1),AkihiroIshibazawa1)andAkitoshiYoshida1,3)1)DepartmentofMedicineandEngineeringCombinedResearchInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,3)DepartmentofOcularTissueEngineering,AsahikawaMedicalCollege増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後に角膜上皮障害を生じた3例3眼について,Optovue社製のRTVue-100に前眼部測定用アダプタ(corneaanteriormodule:CAM)を装着した前眼部光干渉断層計(OCT)で角膜形状と角膜厚を観察した.OCT像は前眼部細隙灯顕微鏡所見と比較しその特徴を検討した.前眼部OCTによって硝子体手術後の角膜に対して低浸襲かつ安全に角膜断層所見を詳細に描出でき,病変部の上皮の異常や実質の肥厚が観察できた.再発性上皮びらんを生じた症例では上皮下に生じた広範な間隙が観察され,上皮接着能の低下が示唆された.本法は,糖尿病症例にみられる角膜上皮障害の病態の把握に有効である.Wedescribetheuseofanteriorsegmentopticalcoherencetomography(OCT)inevaluatingcornealepithelialdamageaftervitrectomyforproliferativediabeticretinopathy(PDR).ThreecasesofcornealepithelialdamageaftervitrectomyforPDRwereincludedinthisreport.AnteriorsegmentOCTscanswereperformedwiththeanteriorsegmentOCTsystem(RTVue-100withcornealanteriormodule;Optovue,CA).TheOCTimageswerecomparedtoslit-lampmicroscopicimages.TheanteriorsegmentOCTsystemisanoncontact,noninvasivetech-niquethatcanbeperformedsafelyaftersurgery.Theimagesclearlyshowedvariouscornealconditions,e.g.,epi-thelialdetachment,stromaledemaandsubepithelialspaces,ineyeswithrecurrentepithelialerosion.OCTimageshavethepotentialtoassesstheprocessofcornealwoundhealingaftersurgeryandtohelpmanagesurgicalcom-plicationsindiabeticpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(2):247253,2009〕Keywords:糖尿病角膜症,増殖糖尿病網膜症,硝子体手術,角膜上皮障害,前眼部光干渉断層計.diabetickeratopathy,proliferativediabeticretinopathy,vitrectomy,cornealepithelialdamage,anteriorsegmentopticalcoherencetomography.———————————————————————-Page2248あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(110)その有効性が多数報告されている.今回筆者らは糖尿病網膜症患者に硝子体手術を行った後にみられた角膜上皮障害について,前眼部OCTを用いて経過を観察した3例3眼を経験し,若干の知見を得たので報告する.I対象および方法対象は増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後,遷延性角膜上皮障害を生じた3例3眼である.これらの症例の角膜上皮障害について前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)を用いて測定し修復過程を観察した.筆者らが用いた前眼部OCTはOptovue社製のRTVue-100である.後眼部の計測・画像解析用に開発された機種であるが,前眼部測定用アダプタ(corneaanteriormodule:CAM)を装着することで前眼部OCTとして用いることができる(図1).測定光波長は後眼部用の840nm,組織撮影原理にはFourier-domain方式が用いられており,画像取得に要する時間が最短で0.01秒とtime-domain方式と比べ1/10程度に短縮されている.今回,角膜上皮層と上皮接着の状態,角膜実質層の形態および角膜厚について,前眼部OCTで得られた角膜所見と前眼部細隙灯顕微鏡所見を比較検討した.II症例呈示〔症例1〕32歳,女性.右眼の増殖糖尿病網膜症と白内障に対して硝子体切除術と超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を同時施行,手術所要時間は4時間34分,術中視認性確保のため角膜上皮掻爬を行っている.術後角膜上皮びらんが遷延し,2週間たっても上皮欠損が残存,容易に離する状態を呈していた(図2a).術前の角膜内皮細胞密度は2,848/mm2,六角形細胞変動率は0.35であった.術後2週間目の眼圧は24mmHg,前房内に軽度の炎症細胞を認めた.前眼部OCTでは接着不良部の上皮肥厚と実質浮腫を認めた(図2b).OCTで測定した角膜厚は中央部で675μmであった.この時点まで点眼薬はレボフロキサシンとリン酸ベタメタゾンが用いられていたが,リン酸ベタメタゾンを中止,0.1%フルオロメトロンと0.3%ヒアルロン酸ナトリウムを用いて上皮修復を促進するよう変更,治療用ソフトコンタクトレンズを装用して経過を観察した.術後4週間目で上皮欠損は消失したが,上皮面は不整で一部混濁を伴う隆起を生じていた(図3a).前眼部OCTでは上皮肥厚は残存し,修復した上皮基底に沿って1層の低信号領域が認められた.実質浮腫には改善傾向が認められた(図3b).術後6週間目で上皮混濁は減少し,軽度の点状表層角膜症を認める程度に改善した(図4a).前眼部OCTでは上皮肥厚は消失,上皮基底に沿った低信号領域も消失した.実質浮腫もさらに改善がみられ(図4b),OCTab250μm2症例1a:32歳,女性.硝子体手術後上皮びらんが遷延し,2週間後も上皮が容易に離する.b:前眼部OCT.接着不良を起こした部位の上皮肥厚と実質浮腫を認める.図1前眼部OCTOptovue社製RTVue-100.前眼部測定用アダプタ(corneaanteriormodule:CAM)を装着して前眼部光断層干渉計として用いる———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009249(111)で測定した角膜厚は中央部で517μmであった.〔症例2〕59歳,男性.右眼の増殖糖尿病網膜症と白内障に対して硝子体切除術と超音波乳化吸引術を同時施行,術中視認性確保のため角膜上皮掻爬を行っている.広範な牽引性網膜離があり,増殖膜除去後に硝子体腔内を20%SF6(六フッ化硫黄)ガスで置換して手術を終了,手術所用時間は1時間54分であった.術前の角膜内皮計測は行われていない.経過中に瞳孔ブロックを生じ,レーザー虹彩切開術を追加,初回術後3週間目に生じた網膜再離に対して2度目の硝子体切除術を行っている.手術所用時間は1時間12分.2度目の硝子体手術後4週間目に角膜上皮離が生じた(図5a).点眼薬はレボフロキサシン,0.1%フルオロメトロン,0.5%マレイン酸チモロール,1%ブリンゾラミドおよび0.005%ラタノプロストが用いられていた.術後4週間目の眼圧は17mmHg,前房内に軽度の炎症細胞を認めた.前眼部OCTでは接着不良部の上皮肥厚と実質浮腫を認め,上皮下には大きな間隙が生じていた(図5b).OCTで測定した角膜厚は中央部で793μmであった.治療用ソフトコンタクトレンズを装用し,経過を観察したところ,2週間で上皮欠損は消失したが,上皮面は不整で混濁を伴っていた(図6a).前眼部OCTでは上皮肥厚は残存し,修復した上皮基底に沿って1層の低信号領域が認められた.実質浮腫には改善がみられた(図6b).OCTで測定した角膜厚は中央部で527μmであった.その後も上皮びらんの再発をくり返し,術後12週間目で角膜上は血管侵入を伴う結膜で被覆された(図7a,b).ab250μm3症例1:上皮修復後①a:術後4週間.上皮欠損は消失したが,上皮面は不整で混濁を伴う隆起を生じている.b:前眼部OCT.上皮肥厚は残存し,修復した上皮基底層に沿って1層の低信号領域を認める.実質浮腫には改善傾向がみられる.ab250μm図4症例1:上皮修復後②a:術後6週間.上皮混濁は減少し,軽度の点状表層角膜症を認める程度に改善.b:前眼部OCT.上皮肥厚は消失,角膜上皮の基底層に沿った低信号領域が消失.実質浮腫もさらに改善がみられる.———————————————————————-Page4250あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(112)〔症例3〕48歳,女性.左眼の増殖糖尿病網膜症と白内障に対して硝子体切除術と超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を同時施行,術中視認性確保のため角膜上皮掻爬を行っている.黄斑部に牽引性網膜離を生じており,増殖膜除去後に硝子体腔内を空気置換して手術終了,手術所要時間は2時間3分であった.血管新生緑内障に対して2%塩酸カルテオロール,0.005%ラタノプロスト点眼を用いて眼圧下降を得た.術後3日で角膜上皮は一度修復したが.術後4週間目に強い疼痛とともに上皮欠損が生じた(図8a).上皮離時の角膜内皮細胞密度は2,770/mm2,六角形細胞変動率0.29,眼圧は23mmHg,前房内に軽度の炎症細胞を認めた.点眼薬はレボフロキサシン,0.1%フルオロメトロン,0.5%マレイン酸チモロール,1%ブリンゾラミドおよび0.005%ラタノプロストが用いられていた.前眼部OCTでは上皮欠損とその部位の実質浮腫を認めた(図8b).OCTで測定した角膜厚は中央部で580μmであった.治療用ソフトコンタクトレンズを装用,術後7週間目で上皮欠損は消失し,軽度の点状表層角膜症を認める程度に改善した(図9a).前眼部OCTでは上皮肥厚は消失し実質浮腫も改善がみられた(図9b).OCTで測定した角膜厚は中央部で550μmであった.III考察糖尿病角膜症14)とよばれる病態は,眼表面へのストレスを契機に顕性化,重症化する.強い角膜上皮障害による霧視感や視力低下が生じ,視機能に影響を与え,ときに再発性上ab250μm図5症例2a:59歳,男性.2度目の硝子体手術後4週間目に生じた角膜上皮離.b:前眼部OCT.接着不良を起こした部位の角膜上皮肥厚と実質浮腫.上皮下には大きな間隙が生じている.ab250μm6症例2:上皮修復後①a:術後6週間.上皮欠損は消失したが,上皮面は不整.b:前眼部OCT.角膜上皮の肥厚は残存し,修復した上皮の基底層に沿って1層の低信号領域が認められる.実質浮腫には改善がみられる.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009251(113)ab250μm7症例2:上皮修復後②a:術後12週間.角膜上は血管侵入を伴う結膜によって被覆されている.b:前眼部OCT.肥厚した上皮によって角膜実質が覆われている.ab250μm図8症例3a:48歳,女性.術後4週間目に強い疼痛とともに上皮欠損が生じた.b:前眼部OCT.上皮欠損とその部位の実質浮腫を認める.ab図9症例3:上皮修復後a:術後7週間目で上皮欠損は消失.b:前眼部OCT.上皮肥厚は消失し実質浮腫も改善がみられる.250μm———————————————————————-Page6252あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009(114)皮びらんや遷延性上皮欠損に移行しきわめて難治となる.この病態の基礎には,角膜知覚の低下911),アンカーリング線維やヘミデスモゾームなどの密度低下による上皮接着能の低下12),上皮基底膜障害13),上皮下へのAGE(advancedgly-cationendproducts)の沈着14),上皮のターンオーバー速度の低下15,16)があるとされる.糖尿病網膜症に対する治療の際,手術侵襲や点眼薬の多剤使用,長期使用で上皮の異常が顕性化,重症化するといわれている1720).加えて,角膜内皮細胞の潜在的異常21),手術を契機とする内皮障害に伴う実質浮腫,術後高眼圧も角膜上皮にとってストレスとなりうる.今回検討した3症例いずれについても,内眼手術と角膜上皮掻爬の施行,術後高眼圧とその対応としての点眼薬の多剤使用が上皮障害の背景にある.この病態を把握し治療にあたるには角膜の様子を生体内でいかに的確に捉えるかが重要である.前眼部OCTは角膜・前房の形態観察装置として開発され,その優れた画像解析能力は種々の角膜手術の術前後の評価や緑内障の診断治療に役立つよう工夫されてきた68).再現性の高い角膜厚測定や形状解析とともに前房や隅角を捉える能力が必要とされ,そのためには混濁した角膜下の様子や結膜や強膜といった不透明な組織の奥にある隅角の所見を得るために見合った光源の波長が選択される.OCTに多く用いられる光源波長には,840nmと1,310nmという2つの帯域が存在する.多くの前眼部OCTは組織深達度の点を考慮して1,310nmを採用して混濁した角膜下の様子や隅角所見の取得を可能にしている.一方,網膜の観察を目的としたOCTでは,軸方向の解像度を優先して840nmを採用しているものが多い.網膜は前眼部の構造物と比べ薄く比較的均一で,光を通しやすいからである.筆者らが用いたOptovue社製のRTVue-100は,後眼部の計測・画像解析用に開発されたOCTであるが,CAMを装着することで前眼部OCTとして用いることができる.測定光の波長は後眼部用の840nmであり,網膜の観察にあわせた光源波長が選択されている.前眼部専用の機種ではないため,光源の特性から組織深達度が低いが逆に解像度が高いという特徴がある22).角膜の形態については詳細な描出が可能で,上皮と実質の境界がはっきりと識別できる.この特徴からRTVue-100とCAMの組み合わせは,糖尿病患者にみられる角膜病変の観察と評価に適しているといえる.筆者らが経験した糖尿病患者の硝子体手術後角膜上皮障害では,OCT画像で接着不良部の上皮の浮腫や不整の様子,上皮下に生じた広範な低信号領域が検出できた.これらは上皮分化の障害と上皮-基底膜間の接着能の低下を示唆する所見である.このような微細な所見は細隙灯顕微鏡ではときに観察や記録が困難であるが,RTVue-100とCAMの組み合わせは高精細な画像所見を簡便かつ低侵襲で取得することにきわめて有効であった.上皮修復過程を経時的に観察,記録することも容易であり,この点は病態の把握に有効で,実際の治療方針の決定にあたってきわめて有用であった.今回の3症例では上皮-基底膜間の接着が十分になるまでの保護として治療用コンタクトレンズの装用を行ったが,OCT画像でみられた上皮下低信号領域の観察はコンタクトレンズ装用継続の必要の評価基準として有用であったと考えている.前眼部OCTを用いて角膜画像所見とともに角膜厚を測定したが,いずれの症例も上皮障害時には角膜実質の浮腫による肥厚があり,上皮修復とともに改善する様子が観察された.上皮障害が遷延している糖尿病患者の角膜では,欠損部はもちろん,上皮化している部位でも,基底細胞からの分化が十分ではなくバリア機能が低下して実質浮腫が生じる.糖尿病患者の角膜内皮細胞については形態学的異常や内眼手術後のポンプ機能障害の遷延が知られており21),さらに術後遷延する前房内炎症や高眼圧がポンプ機能を妨げ角膜浮腫の一因となる.角膜上皮下に形成された低信号領域は上皮-基底膜接着の障害に加え,内皮ポンプ機能を超えて貯留した水分による間隙の可能性も考えられる.糖尿病症例においては十分に上皮-基底膜接着が完成しないことと角膜実質浮腫の遷延とが悪循環を生じて簡単に上皮が離し脱落してしまい,びらんの再発を生じやすい.前眼部OCTでは角膜形態と角膜厚の計測を非接触かつ短時間で行うことができるが,これは糖尿病症例のような脆弱な角膜の評価にきわめて有用である.今回筆者らは,糖尿病網膜症患者に硝子体手術を行った後にみられた角膜上皮障害について前眼部OCTを用いて経過観察することにより,生体内における糖尿病角膜症の形態学的特徴を捉え,従来の報告と比較することでその治癒過程について理解を深めることができた.この3例3眼の経験を今後の糖尿病症例に対する治療方針決定と角膜障害への対応の参考としたい.前眼部OCTの活用についても,引き続き検討を重ねていきたい.文献1)SchultzRO,VanHomDL,PetersMAetal:Diabeticker-atopathy.TransAmOphthalmolSoc79:180-199,19812)大橋裕一:糖尿病角膜症.日眼会誌101:105-110,19973)片上千加子:糖尿病角膜症.日本の眼科68:591-596,19974)細谷比左志:糖尿病角膜上皮症.あたらしい眼科23:339-344,20065)HuangD,SwansonEA,LinCPetal:Opticalcoherencetomography.Science254:1178-1181,19916)RadhakrishnanS,RollinsAM,RothJEetal:Real-timeopticalcoherencetomographyoftheanteriorsegmentat1,310nm.ArchOphthalmol119:1179-1185,20017)LimLS,AungHT,AungTetal:Cornealimagingwith———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.26,No.2,2009253(115)anteriorsegmentopticalcoherencetomographyforlamel-larkeratoplastyprocedures.AmJOphthalmol145:81-90,20088)RadhakrishnanS,GoldsmithJ,HuangDetal:Compari-sonofopticalcoherencetomographyandultrasoundbio-microscopyfordetectionofnarrowanteriorchamberangles.ArchOphthalmol123:1053-1059,20059)SchwartzDE:Cornealsensitivityindiabetics.ArchOph-thalmol91:174-178,197410)RogellGD:Cornealhypesthesiaandretinopathyindiabe-tesmellitus.Ophthalmology87:229-233,198011)SchultzRO,PetersMA,SobocinskiKetal:Diabeticker-atopathyasamenifestationofperipheralneuropathy.AmJOphthalmol96:368-371,198312)AzarDT,Spurr-MichaudSJ,TisdaleASetal:Decreasedpenetrationofanchoringbrilsintothediabeticstroma.Amorphometricanalysis.ArchOphthalmol107:1520-1523,198913)AzarDT,Spurr-MichaudSJ,TisdaleASetal:Alteredepithelialbasementmembraneinteractionsindiabeticcorneas.ArchOphthalmol110:537-540,199214)KajiY,UsuiT,OshikaTetal:Advancedglycationendproductsindiabeticcorneas.InvestOphthalmolVisSci41:362-368,200015)TsubotaK,ChibaK,ShimazakiJ:Cornealepitheliumindiabeticpatients.Cornea10:156-160,199116)HosotaniH,OhashiY,YamadaMetal:Reversalofabnormalcornealepithelialcellmorphologiccharacteris-ticsandreducedcornealsensitivityindiabeticpatientsbyaldosereductaseinhibitor,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