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3 歳児眼科健診における屈折検査の重要性について

2023年5月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科40(5):689.692,2023c3歳児眼科健診における屈折検査の重要性について明石梓藤本愛子窪谷日奈子大塚斎史森井香織三浦真二藤原りつ子あさぎり病院眼科CSigni.canceofRefractiveTestingin3-Year-OldChildHealthCheckupsAzusaAkashi,AikoFujimoto,HinakoKubotani,YoshifumiOtsuka,KaoriMorii,ShinjiMiuraandRitsukoFujiwaraCDepartmentofOphthalmology,AsagiriHosipitalC目的:3歳児眼科健診における屈折検査の有無による弱視治療患者の受診時期,受診の契機について検討すること.方法:2018年C1月C1日.12月C31日に当院斜視弱視外来で検査を行った患者のうち,3歳児眼科健診を終了している例を対象とした.3歳児眼科健診で屈折検査ありの自治体で検査を受けた場合をCA群,屈折検査なしの自治体で検査を受けた場合をCB群に分けて受診時期,受診の契機について比較を行い,8歳以上における視力不良(1.0未満)例について考察した.結果:初診時平均年齢はCA群C3.2歳,B群C4.1歳とCA群のほうが有意に早く(p<0.001),3歳児眼科健診を契機に受診した割合はCA群でC54.7%,B群でC26.5%とCA群で多かった(p<0.001).また,8歳以上における視力不良例(5例)はすべて5.0D以上の遠視があり,80%(4例)でC1.5D以上の不同視が認められた.CAmongthepatientsseenatourdepartment’sstrabismicamblyopiaoutpatientclinicfromJanuary1toDecem-berC31,C2018,CweCtargetedCthoseCwhoChadCcompletedCthe“3-year-oldCchildChealthCcheckups”.CTheCcasesCinCwhichCthethree-year-oldchildhealthcheckupophthalmologicalexaminationwasperformed‘witharefractivetest’werecategorizedasGroupA,whilethoseinwhichtheophthalmologicalexaminationwasperformed‘withoutarefrac-tivetest’werecategorizedasGroupB.Betweenthosetwogroups,thetimingofconsultationwascompared,andtheCproportionCofCcasesCwithCpoorvision(i.e.,CaCvisualacuity[VA]ofClessCthanC1.0diopter[D])amongCpatientsCaged8yearsandolderwasanalyzed.Fromtheresultsofthisstudy,theageatthetimeoftheinitialconsultationwassigni.cantlyearlierinGroupA,withGroupAbeing3.2yearsoldandGroupBbeing4.1yearsold(p<0.001)C,thepercentageofchildrenwhounderwenteyeexaminationsforthree-year-oldswas54.7%inGroupAand26.5%inGroupB(p<0.001)C.Inaddition,allpatientsaged8yearsorolderwithpoorVA(5cases)hadhyperopiaof5.0D,ormore,and80%(4cases)hadanisometropiaof1.5D,ormore.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C40(5):689.692,C2023〕Keywords:3歳児眼科健診,受診時期,屈折検査,弱視,遠視.3-year-oldchild’shealthcheckups,consultationtime,refractiontest,amblyopia,hyperopia.Cはじめにわが国のC3歳児健康診査視覚検査(以下,3歳児眼科健診)は,1991年より全国の保健所で視機能発達の阻害因子をもつ児を早期に発見する目的で開始された.その後C1999年に実施母体が都道府県から市町村に移譲され現在に至っている.3歳児眼科健診は弱視検出に有用な機会ではあるが,健診をすり抜けて就学時健診や学校健診で弱視を指摘され受診するケースがあることも問題視されてきた1,2).3歳児眼科健診は自治体によって検査内容に差があるが,多くの自治体が自覚的な視力検査と問診のみであり,屈折検査などの他覚的検査を施行している自治体の割合は少ない3,4).令和C3年度に行われた日本眼科医会の全国調査の結果では,3歳児眼科健診で屈折検査を行っている自治体の割合はC28.3%であった.屈折検査の導入が進まない理由としては,検査時間の長さや人員確保,費用面の問題があった.3歳児眼科健診の精度を上げるために追加すべき検査が屈折検査であることは,これまで多数報告されてきた5.8).しかし,同一施設においてC3歳児眼科健診で屈折検査ありの自治体を経た児と屈折検査なしの自治体を経た児における受診時期を比較した報告は少ない10).そこで,今回筆者らは当院斜弱外来で治療中の患〔別刷請求先〕明石梓:〒673-0852兵庫県明石市朝霧台C1120-2あさぎり病院眼科Reprintrequests:AzusaAkashi,DepartmentofOphthalmology,AsagiriHosipital,1120-2Asagiridai,AkashiShi,HyogoKen673-0852,JAPANC者を対象に,3歳児眼科健診を屈折検査ありの自治体で終了した群と屈折検査なしの自治体で終了した群に振り分け,比較検討を行った.CI対象および方法2018年C1月C1日.12月C31日に当院斜視弱視外来に通院中の患者のうち,3歳児眼科健診を終了しているC229名(男児C93名,女児C136名)を対象とした.発達遅滞などで視力検査が不正確な児は除外した.疾患の内訳は屈折異常弱視が157名,不同視弱視がC66名,斜視弱視と屈折異常弱視の合併がC3名,斜視弱視と不同視弱視の合併がC2名,斜視弱視が1名,平均観察期間はC3年C10カ月であった.3歳児眼科健診で屈折検査ありの自治体で検査を受けた児をCA群,屈折検査なしの自治体で検査を受けた場合をCB群に振り分けた.なお,屈折検査ありの自治体では据え置き型のオートレフラクトメータが使用され,要精査の基準は+1.5Dを超える遠視,±1.5Dを超える乱視,C.2.0Dを超える近視であった.なお,A群の自治体ではC3歳C6カ月,B群の自治体ではC3歳3カ月で健診が実施されていた.A群CB群の当院の初診時年齢,6歳以降の受診の割合,各群におけるC3歳児眼科健診を契機に受診した割合,就学時健康診断(以下,就学時健診)を契機に受診した割合の比較検討を行い,8歳以上の児のうち,視力不良(1.0未満)の児について考察した.各群の平均年齢の比較には対応のないCt検定,受診者の割合に関してはCFisher検定を用いて統計学的有意水準をC5%未満とした.本研究は当院の倫理審査委員会の承認を得た後,ヘルシンキ宣言に準拠して実施された.統計解析には統計ソフトウェアであるCEZR(version1.54)を使用した.CII結果3歳児眼科健診を屈折検査ありの自治体で検査を受けたCA群はC127名,屈折検査なしの自治体で検査を受けたCB群は102名であった.また,弱視の原因となるようなリスクファクターは米国小児眼科・斜視学会(AmericanCAssociationCforCPediatricCOphthalmologyCandStrabismus:AAPOS)の定めたものを基準とし9),初診時のサイプレジン点眼下の屈折値を参考にした.その結果,3.5D以上の遠視はCA群で59.8%,B群でC71.6%(p=0.071),1.5D以上の乱視はCA群でC37.0%,B群でC32.4%(p=0.488),1.5D以上の近視はCA群でC8.7%,B群でC7.8%(p=1.000),斜視の割合はCA群で14.2%,B群でC21.6%(p=0.163)と各群で有意差は認められなかったが,1.5D以上の不同視はA群でC24.4%,B群で46.1%(p<0.001)と有意差がみられた(表1).±11(C.0.96)歳,B群で4C±初診時年齢はA群で3.24(1.83)C歳とCA群のほうが有意に早く(p<0.001),6歳以降の受診はCA群でC4.8%,B群でC33.3%とCB群で多くなった(p<0.001)(表2).また,3歳児眼科健診を契機に受診した割合はA群で54.7%,B群で26.5%とA群で多く(p<0.001),園での眼科健診もあるため就学時健診を契機に受診した割合はA群で0.8%,B群で9.8%(p=0.03)とCB群で多かった(表3).また,3歳児眼科健診と就学時健診で要精検となり受診した児以外の受診の契機としては,両群ともに「親が異常に気がついた」「他疾患で来院時に検査で判明した」というケースが多くを占めていた.8歳以上の視力不良例はC5名であり,1.5D以上の不同視がC80%(4例),全例において5D以上の強い遠視が認められた(表4).CIII考按本研究の結果から,屈折検査ありの自治体群のほうが屈折検査なしの自治体群よりも,眼科の初診時年齢は早いことがわかった.3歳児眼科健診を契機に受診した割合は屈折検査ありの自治体群で有意に多く,初診時年齢のC2群間での差異に影響を及ぼしていると考えられる.また,視覚の感受性期間(criticalperiod)の終了に近いC6歳以降の受診の割合は屈折検査なしの自治体群で有意に多いこともわかった.就学時健診を契機に受診した割合は屈折検査なしの自治体群で有意に多く,3歳児眼科健診をすり抜けて就学時健診で弱視が発見されたケースが多くあると考えられる.今回の検討と同様に,川端らは屈折検査の有無での初診時年齢,屈折異常の発見動機などを検討しているが,「治療を必要とする屈折異常の発見動機」においてC3歳児眼科健診が動機となったケースは,3歳児眼科健診で屈折検査ありの自治体でC72.3%(34/47),屈折検査なしの自治体ではC18.5%(17/92)と統計学的にも有意差を認めており,本研究の結果と合致するものであった10).また,8歳以上の視力不良例(5例)は全例5D以上の遠視があり,80%(4例)にC1.5D以上の不同視が認められた(表4).不同視弱視と斜視弱視の合併例(症例番号①②④)など,適切な時期に弱視治療を開始されるも視力の向上が不十分な症例もあった.症例①④は斜視手術が施行されていたが術後も斜視は顕性化していたこと,①②④ともに健眼遮閉訓練に対する抵抗があり訓練が不十分であったことが最終矯正視力不良であった要因の一つと考える.ただし,criticalCperiodに近い年齢で不同視弱視が発覚したため治療が奏効しない症例も認められており(症例番号③⑤),これらはもっと早い段階で受診し治療が開始されていれば最終矯正視力が良好であった可能性がある.また,各群の初診時年齢の分布図からみるとCA群はC3歳以下がC80%であり,4歳以降の受診はC19.7%と少ないが,B群ではC3歳以下の受診が多いものの,4歳以降の受診者も43.1%見受けられている(図1).やはりC3歳児眼科健診で強度の遠視と不同視を発見することは弱視の予防に重要である表1対象背景A群(n=127)B群(n=102)p値3.5D以上の遠視1.5D以上の乱視1.5D以上の近視1.5D以上の不同視8Δ以上の恒常性斜視59.8%(C76/127)37.0%(C47/127)8.7%(C11/127)24.4%(C31/127)14.2%(C18/127)71.6%(C73/102)C32.4%(C33/102)C7.8%(C8/102)C46.1%(C47/102)21.6%(C22/102)C0.0710.4881.000p<C0.001C0.163表2初診時年齢と6歳以降の受診割合A群(n=127)B群(n=102)p値初診時年齢C3.24±0.96C4.11±1.83p<C0.0016歳以降の受診割合4.80%(C6/127)33.30%(C34/102)p<C0.001表33歳児眼科健診と就学前時眼科健診の受診割合A群(n=127)B群(n=102)p値3歳児眼科健診54.70%(C69/127)26.50%(C27/102)p<C0.001就学時眼科健診0.80%(C1/127)9.80%(C10/102)C0.003表48歳以上の視力不良例の内訳(5例)症例番号群初診時年齢初診時矯正視力最終矯正視力屈折値治療期間病型①CA右C3C0.6C1.5+4.0DC7Y4M不同視弱視+斜視弱視左C0.08C0.6+6.0DC②CB右C3C0.06C0.7+8.5DC9Y5M屈折異常弱視+斜視弱視左C0.2C1.2+8.0DC③CB右C6C1.2C1.5+2.0DC7Y11M不同視弱視左C0.2C0.7+5.0DC④CB右C3C0.6C1.2+2.0DC9Y3M不同視弱視+斜視弱視左C0.1C0.4+6.5DC⑤CB右C9C0.4C0.4+5.5DC2Y11M不同視弱視左C1.5C1.5+1.0DCことが推測される.山田らは弱視治療の予後に関するメタアナリシスを行った結果,弱視の治癒率はC3.5歳ではC89.6%,6歳以上ではC81%となり,オッズ比はC2.27(95%CCI:1.24.4.15)で早期治療の有用性を示しており,早期の弱視発見が望ましいと考えられる3).なお,本研究においては受診契機の割合に関して「3歳児眼科健診」および「就学時健診」のみ比較検討を行ったが,それ以外の受診契機についてはさらなる検討が必要と思われる.このたび厚生労働省における令和C4年度予算概算要求に,「母子保健対策強化事業」が盛り込まれ,事業の補助対象として「屈折検査機器の整備」が明示された.これにより自治体が機器を購入する際に,半分が国庫から補助されることになり,屈折検査のデメリットと考えられてきた費用の部分が軽減される.また,WelchAllyn社から発売されたSpotCVisionScreener(以下,SVS)はフォトスクリーナーの一つであるが,これまでの屈折検査機器と比較すると検査時間が格段に短くなり保健師など眼科検査に慣れていない者でも簡単に操作が可能で,幼児でも検査がスムーズに行える工夫がなされていることより,検査の労力面を軽減することが可能となった.今後はCSVSなどのフォトスクリーナーの普及に伴い,3歳児眼科健診には屈折検査が必須の時代になると予測される.A群(人)120100806040200年齢(歳)B群(人)1201008060402000~34567<年齢(歳)図1初診時年齢の分布IV結論屈折検査ありの自治体でC3歳児眼科健診を受けた群のほうが,屈折検査なしの群よりもC3歳児眼科健診をきっかけに受診する割合は多く,初診時年齢も早かった.3歳児眼科健診の際に屈折検査を行うほうが,弱視治療の適応児に早く治療を開始できるため,屈折検査の導入が望ましいと思われる.0~34567<利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)坂本章子,関向秀樹,織田麻美ほか:三歳時眼科検診開始後に学校検診で発見された視力不良例.臨眼C95:758-760,C20012)渡邉央子,河津愛由美,大淵有理ほか:三歳児健診での弱視見逃しについて.日視会誌36:125-131,C20073)山田昌和:弱視スクリーニングのエビデンスCScreeningCProgramsCforCAmblyopiaCinChildren.あたらしい眼科C27:1635-1639,C20104)中村桂子,丹治弘子,恒川幹子ほか:3歳児眼科健診の現状日本視能訓練士協会によるアンケート調査結果.臨眼C101:85-90,C20175)板倉麻理子,板倉宏高:群馬県乳幼児健診における視覚発達の啓発と屈折検査導入への取り組み.臨眼C72:1313-1317,C20186)RowattAJ,DonahueSP,CrosbyCetal:FieldevaluationoftheWelchAllynSureSightvisionscreener:incorporatC-ingCtheCvisionCinCpreschoolersCstudyCrecommendations.CJAAPOSC11:243-248,C20077)DonahueCSP,CNixonC:VisualCsystemCassessmentCinCinfants,children,andyoungadultsbypediatricians.Pedi-atricsC137:28-30,C20168)林思音:3歳児眼科健診の視覚スクリーニングにスポトビジョンスクリーナーは有用か.あたらしい眼科C37:C1063-1068,C20209)DonaueSP,ArthurB,NeelyDEetal:Guidlinesforauto-matedpreschoolvisionscreening:A10-year,evidenced-basedupdate.JAAPOSC17:4-8,C201310)川端清司:フォトレフラクトメーターによるC3歳児健診あずみの眼科C8年間のまとめ.眼臨98:959-962,C2004***