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マキュエイド®剤型変更による粒子懸濁の安定化

2013年10月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科30(10):1484.1487,2013cマキュエイドR剤型変更による粒子懸濁の安定化杉本昌彦近藤峰生三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室Modi.edMaqaidRFormulationStabilizesBetterClusterParticleFormationMasahikoSugimotoandMineoKondoDepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:マキュエイドR(以下,MaQ)は新しいトリアムシノロンアセトニド製剤である.しかし,粒子径が不均一で術中視認性を悪化させることもあり,剤型変更が行われた.今回,筆者らはこの新しいMaQ(以下,新製剤)の粒子性状の変化と調整操作再現性について検討した.対象および方法:剤型変更前の製剤(旧製剤)と新製剤を10mg/mlの濃度に調整した.得られた懸濁液の単粒子密度から均一懸濁化を評価した.調整操作の再現性は単粒子密度の変動係数から評価した.得られた懸濁液を硝子体手術に使用し,新旧製剤で比較した.結果:新製剤の単粒子密度は34.8±3.6×104個/mlで,筆者らが既報(Sugimotoetal:JOphthalmol,2013)で述べた旧製剤よりも(14.7±3.3×104個/ml)増加していた.変動係数は旧製剤で検者間36.1%,検者内11.7%で,新製剤では検者間10.5%,検者内5.4%と改善した.術中も新製剤は塊を形成せず均一に散布され,視認性が向上していた.結論:剤型変更によりMaQの安定した調整と使用が可能となった.Purpose:MaqaidR(MaQ)isanewtriamcinoloneacetonidethatdoesnotalwaysachieveauniformsuspensionandsocancausepoorvisibility;butrecently,itsformulawaschanged.Inthisstudy,weexaminedtheparticlepropertymodi.cationandreproducibilityofthenewMaQ(newformula).PatientsandMethod:Using10mg/mleachoftheoldandnewformulas,wecountedthesuspendedMaQsingleclusterparticles,anindicatorofappropri-atesuspension.Toevaluatereproducibility,weestimatedthecoe.cientsofvariance(CV).Wethendeterminedthee.cacyofthenewMaQformulaforsurgeryandvitreousvisualization.Results:Theconcentrationofsingleclusterparticlesinthenewformulawas34.8±3.6×104particles/ml,whichisbetterthanthatintheoldformula(14.7±3.3×104particles/ml),whichwereportedpreviously(Sugimotoetal:JOphthalmol,2013).TheCVbetweenobserversusingtheoldformulawas36.1%andthatbetweenintra-observerwas11.7%.TheCVbetweenobserversusingthenewformulawas10.5%andthatbetweenintra-observerwas5.4%.AdministrationofaMaQsuspensionduringsurgeryenabledclearvisualizationofthevitreouscavity.Conclusion:ThenewMaQformulaachievesanimprovedsuspension.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(10):1484.1487,2013〕Keywords:トリアムシノロンアセトニド,硝子体可視化,均一懸濁粒子,防腐剤無添加.triamcinoloneacetonide,vitreousvisualization,clusterparticle,preservativefree.はじめにステロイド製剤の一つであるトリアムシノロンアセトニド(triamcinoloneacetonide:TA)を用いた硝子体可視化は,現在の硝子体手術に必須の手技となっている.マキュエイドR(以下,MaQ,わかもと製薬)は2010年末に市販されたTA製剤であり,国内で入手可能な同効のTA製剤(ケナコルトR,BristolMyersSquibb社)と異なり,眼科使用のみに特化していることと,防腐剤無添加であるため無菌性眼内炎などの危険性が低下するという利点がある1).その反面,剤型が粉末であるため手術直前の用事調整が必要で使用までの調整操作が煩雑である.調整後もケナコルトRに比し,粒子径が不均一でしばしば粒子塊を形成する.このため術中視認性を逆に悪化させることがあり,網膜面上に沈降してつぎの操作に支障をきたすこともある.さらに粒子の性状が毎回〔別刷請求先〕杉本昌彦:〒514-8507津市江戸橋2-174三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学教室Reprintrequests:MasahikoSugimoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MieUniversityGraduateSchoolofMedicine,2-174Edobashi,Tsu,Mie514-8507,JAPAN1484(140)0)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY異なり,安定した操作に障害となることは大きな問題であった.2012年になり本剤の剤型変更が行われ,以前に比して粒子が簡便に均一懸濁化できるようになった.今回,筆者らは新しいMaQ(以下,新製剤)の懸濁粒子性状とその調整操作の再現性について評価し,有用性を検討した.I対象および方法MaQ(40mg/vial)はわかもと製薬(東京)から,オペガードMARは千寿製薬(大阪)から購入した.MaQは剤型変更以前の製剤(旧製剤)と変更後の製剤(新製剤)の2種を比較した.ともに薬剤添付文書に記載された調整方法に従い,懸濁液を調整した.すなわち,MaQに4mlのオペガードMARを加え,10mg/mlの濃度にて,バイアルを用手振盪することで行った.均一化の評価は既報に準じ,懸濁液を顕微鏡下にて粒子性状を観察して行った2).よく懸濁化された粒子は粒子塊を形成せず,単一粒子となる(図1).血球計算板を用いて単位面均一懸濁化図1均一懸濁化の模式図不十分な懸濁では,粒子は左図のように不均一な大きさの粒子塊を形成し,術中視認性不良につながる.右図のように,この粒子塊が形成されず,単一粒子に分かれた状態であれば視認性は改善する.積当たりの単一粒子数を計測することで均一懸濁化の指標とした.調整操作の再現性はこの単粒子密度の変動係数を算出し評価した.変動係数は3人の検者による懸濁化操作での変動係数(検者間変動係数)と同一検者による独立した5回の懸濁化操作での変動係数(検者内変動係数)を算出した.変動係数は以下の式で算出した.変動係数=標準偏差/平均値×100(%)得られた均一懸濁液を硝子体手術中に使用し,術中視認性などの使用感を新旧製剤で比較検討した.II結果1.単一粒子数による均一懸濁化の比較図2に新旧製剤懸濁粒子の顕微鏡所見を示す.新製剤は旧製剤に比し,均一な粒子になり,旧製剤でみられた粒子塊の形成は減少していた.新製剤の単粒子密度は34.8±3.6×104個/mlであった(n=5).旧製剤はすでに市場には出ておらず今回改めて調整することは困難であったが,筆者らが同様の手技で算出した結果が14.7±3.3×104個/mlであった2)ことから考えると,新製剤での単粒子密度の改善が認められた.表1に新旧製剤の調整変動係数を示す.旧製剤の変動係数は筆者らが以前報告した既報のデータと比較する.既報では旧製剤での検者間変動係数は36.1%,検者内変動係数は11.7%であり2),検者内の変動係数こそ低いものの検者間の表1新旧製剤の調整変動係数旧製剤新製剤検者間変動係数(%)36.110.5検者内変動係数(%)11.75.4ab図2新旧MaQ製剤粒子性状の比較新旧MaQ製剤の顕微鏡写真を示す.旧製剤(a)に比し,新製剤(b)は粒子塊の形成が減少している.(141)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131485ab図3新旧MaQ製剤粒子術中動態の比較新旧MaQ製剤使用時の術中所見を示す.旧製剤(a)では粒子が塊を形成し,視認性が不良である.黒矢頭に粒子塊を示す.新製剤(b)では粒子があまり塊を形成せず(白矢頭),視認性が改善している.変動係数は高く,調整の都度,懸濁状態が異なることを示唆していた.今回,新製剤の調整変動係数は検者間で10.5%,検者内では5.4%であった(表1).新製剤では検者間・検者内ともに変動係数は低く,手技や人にかかわらず常に製剤が安定して均一に懸濁化されていることを示唆している.2.硝子体手術時の粒子動態の比較つぎに,筆者らはこれら新旧MaQが実際の術中視認性にどのような差を示すかを実際の手術で検証した.Corevit-rectomy後に懸濁MaQを硝子体中に投与し,その動態を比較した.旧製剤では一部で粒子塊が形成され,硝子体腔に散布され,術中視認性は不良であった(図3a).新製剤では塊を形成することなくTA粒子は硝子体中に均一に散布され,視認性が向上していた(図3b).III考按近年,硝子体手術時に硝子体可視化目的にTAが広く用いられている3,4).透明な硝子体を可視化することで術中操作を安全に行うことが可能となり,術中医原性網膜裂孔や網膜.離などの合併症も減少し5),術後成績も良好である6).国内外でこれまで使用されていた同効製剤は防腐剤が添加されていた.黄斑浮腫などに対するTAの硝子体内単回注射時には,0.87.1.9%という頻度ではあるが無菌性眼内炎を生じることも知られており7,8),この添加防腐剤が原因の一つとして考えられている.発症防止には,フィルターによる防腐剤の除去が推奨されている9)が,この方法を用いても無菌性眼内炎の発症を完全には阻止できず,これがTAの眼内投与がためらわれる理由の一つである.今回使用したMaQの特徴は,防腐剤が添加されていないことである.さ1486あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013らに硝子体手術時の使用が認可されていることからも使用しやすい薬剤である.その反面,MaQは剤形が粉末であるため,必要時に適宜調整しなければならない.薬剤添付文書上,注射器内のMaQをしばらく用手攪拌することによる粒子の懸濁と均一化が推奨されている.しかし,調整状況によって懸濁が安定しないことが本剤の唯一の欠点であった.懸濁粒子は塊を形成し,術中視認性低下の原因となり,この塊を単一粒子にすることが必要である.ケナコルトRでもこの問題は指摘されており,粒子をさらに細粒子化する手技が報告されていた10).しかしこれは煩雑で,特殊な機器を用いるものであり,臨床応用は困難であった.筆者らも独自の簡便な方法を開発し本剤の均一懸濁化の良好な再現性と術中可視化の有効性を報告した.しかし,この方法も簡単な事前処理が必要であったため普及には至らなかった2).このように製剤の改善が望まれていたなか,2012年3月にMaQは剤型が変更され,懸濁化が改善された.今回,筆者らはこの粒子形状と調整操作の再現性を確認し,従来法に比し調整者や環境に左右されない安定した状態で使用できることを示した.市販されている用事懸濁製剤のほとんどは凍結乾燥による粉末化であり,親水性は良好で容易に溶解する.これらと異なり,MaQ旧製剤は溶解時の親水性が不良であった.このため,分散性や親水性を増すために製造工程を変更する必要があり,今回の剤型変更では粒子表面の性状を変えることで親水性を改善している.また,凝集塊を含まない粒子に改良されることで均一懸濁液調整が容易となった(わかもと製薬株式会社との私信).懸濁されたMaQは均一な粒子で構成されるわけではなく,種々の粒子径の粒子から成っている.今回の剤型変更により,MaQの粒度分布は大きな粒子径が(142)占める割合が増加したとされている.新製剤では旧製剤に比し粒度や粒子形状がケナコルトRに近づき,粒子間に空気を含まないため,調整の際に懸濁化が比較的楽になった感があるとされている.旧製剤でみられる凝集塊もほとんど消失したとされている11).今回実際の手術で新旧MaQを使用比較したが,印象としては既報と同様であった.これらの製造過程の変更により,新製剤MaQは術中動態や術中視認性が改善されている.本報ではMaQの粒子性状を単一粒子密度という新しい指標を用いて,この改善を定量的に評価することができた.この結果は筆者らが新製剤を用いた際の使用感を裏付けるものとなっている.当院では毎回特定の手術スタッフや医師が懸濁調整を行えるわけではない.加えて,各個人の調整法は単なる懸濁といえども同一ではなく,術中使用に適切な均一懸濁化を得るためには習熟が必要であり,特に手術介助に入るコメディカルスタッフや研修医の負担となっている.このため,調整の都度懸濁状態が変化してしまい,術中使用に支障をきたしていた.誰がいつ調整を行っても常に同じ質の均一懸濁液を得ることは安定した手術操作に必須である.今回剤型変更された新製剤は調整者に依存せず,常に安定した懸濁液に調整可能であった.この点から,スタッフ・研修医のストレスは大幅に軽減したと考える.加えて,術中視認性の改善は術者のストレス軽減となり,術中の過剰MaQ除去などの余分な操作が不要となる.これは手術時間の短縮につながり,手術侵襲の軽減となる.以上,新しい懸濁TA製剤MaQは懸濁均一化調整が安定し,改善されていることが明らかになった.本製剤は剤型変更に伴いより簡便かつ確実な調整が可能となり,このことは本剤の欠点を補い,安全な手術の一助となる.文献1)吉田宗徳:硝子体手術補助剤マキュエイド.─ケナコルトAに代わる硝子体可視化剤─.眼科手術24:461-464,20112)SugimotoM,KondoM,HoriguchiM:Uniformsuspensionoftheclusteredtriamcinoloneacetonideparticle.JOph-thalmolhttp://dx.doi.org/10.1155/2013/315658,20133)PeymanGA,CheemaR,ConwayMDetal:Triamcinolo-neacetonideasanaidtovisualizationofthevitreousandtheposteriorhyaloidduringparsplanavitrectomy.Retina20:554-555,20004)SakamotoT,MiyazakiM,HisatomiTetal:Triamcinolo-ne-assistedparsplanavitrectomyimprovesthesurgicalproceduresanddecreasesthepostoperativeblood-ocularbarrierbreakdown.GraefesArchClinExpOphthalmol240:423-429,20025)YamakiriK,SakamotoT,NodaYetal:Reducedinci-denceofintraoperativecomplicationsinamulticentercontrolledclinicaltrialoftriamcinoloneinvitrectomy.Ophthalmology114:289-296,20076)YamakiriK,SakamotoT,NodaYetal:One-yearresultsofamulticentercontrolledclinicaltrialoftriamcinoloneinparsplanavitrectomy.GraefesArchClinExpOphthalmol246:959-966,20087)MoshfeghiDM,KaiserPK,BakriSJetal:Presumedster-ileendophthalmitisfollowingintravitrealtriamcinoloneacetonideinjection.OphthalmicSurgLasersImaging36:24-29,20058)TabanM,SinghRP,ChungJYetal:Sterileendophthal-mitisafterintravitrealtriamcinolone:apossibleassocia-tionwithuveitis.AmJOphthalmol144:50-54,20079)NishimuraA,KobayashiA,SegawaYetal:Isolatingtri-amcinoloneacetonideparticlesforintravitrealusewithaporousmembrane.lter.Retina23:777-779,200310)岡本紀夫,大野新一郎,伊藤吉將ほか:自家調製トリアムシノロン水性懸濁液中の薬物の粒子径について.眼臨紀2:326-330,200911)小椋祐一郎,堀口正之,生野恭司ほか:マキュエイド.硝子体内注用40mgの硝子体可視化の使用感向上に関する検証.診療と新薬49:99-102,2012***(143)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131487