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非典型的な経過をたどった原田病と考えられた1例

2017年11月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科34(11):1622.1624,2017c非典型的な経過をたどった原田病と考えられた1例多田篤史西村智治町田繁樹獨協医科大学越谷病院眼科CAtypicalCaseofVogt-Koyanagi-HaradaSyndromewithSpontaneousResolutionAtsushiTada,TomoharuNishimuraandShigekiMachidaCDepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversityKoshigayaHospital目的:漿液性網膜.離(SRD)と脈絡膜の肥厚が認められたが,Vogt-小柳-原田病(原田病)の診断に至らず,経過観察した症例を報告する.症例:症例はC29歳女性で出産後C8カ月の授乳婦である.1カ月前からの視力低下を主訴に紹介受診した.眼外症状なし.初診時の矯正視力は両眼C1.0で,光干渉断層計(OCT)では,両黄斑部のCSRDおよび脈絡膜肥厚が認められた.蛍光眼底造影では本症の典型的所見はみられなかった.原田病を疑ったが,授乳婦であったため,ステロイド全身投与は行わず厳重に経過観察した.SRDおよび脈絡膜肥厚は,それぞれ初診からC1およびC2カ月で消失した.自覚症状は改善したが,夕焼け状眼底を呈した.初診からC17カ月まで炎症の再燃はなく経過した.結論:本症例は,経過観察中に脈絡膜肥厚の改善および夕焼け状眼底が観察されたことから,軽症で非典型的な原田病と考えられ,ステロイド治療なしでも寛解が得られた.CPurpose:WeobservedacaseinwhichVogt-Koyanagi-HaradaSyndrome(Harada’sdisease)washighlysus-pectedCbecauseCofCtheCpresenceCofCbilateralCmacularCdetachmentCandCchoroidalCthickening.CCasereport:A29-year-oldfemalevisiteduscomplainingofblurredvisioninbotheyes.Shehadserousretinaldetachmentsandchoroidalthickeningthatdidnotshowtypicalangiographic.ndings.AlthoughHarada’sdiseasewassuspected,shewasCobservedCwithoutCsystemicCadministrationCofCcorticosteroidsCbecauseCsheCwasClactating.CTheCserousCretinalCdetachmentsandchoroidalthickeningdisappeared1and2monthsaftertheinitialvisit,respectively.Sunsetfundidevelopedwithoutleavingintraocularin.ammatorychangesonthefollowingvisits,until17months.Conclusions:CSinceimprovementofchoroidalthickeninganddevelopmentofsunsetfundiwereseenduringobservation,shewasdiagnosedashavingHarada’sdisease.TherecanbecasesofHarada’sdiseasewithmildin.ammationinwhichsys-temicadministrationofhigh-dosecorticosteroidsmaynotbenecessary.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(11):1622.1624,C2017〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,漿液性網膜.離,脈絡膜肥厚,夕焼け状眼底,授乳婦.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,serousretinaldetachment,choroidalthickening,sunsetfundus,lactating.CはじめにVogt-小柳-原田病(以下,原田病)は,全身のメラノサイトに対する自己免疫反応による汎ぶどう膜炎である.症状は,前駆期に感冒様症状が多く,眼外症状では,耳鳴り,難聴,頭皮違和感などが認められる.急性期所見では,肉芽腫性の前眼部炎症,毛様体の浮腫と脈絡膜.離による浅前房,両眼性の胞状・多房性の漿液性網膜.離および視神経乳頭の浮腫がみられ,回復期の所見として,夕焼け状眼底および眼底周辺部の斑状網脈絡膜萎縮病巣などがあげられる1).治療としてはステロイド大量投与あるいはステロイドパルス療法が行われ,治療後の視機能は良好である.今回筆者らは,両側の漿液性網膜.離と脈絡膜の肥厚が認められたが,典型的な造影所見を呈さず,軽症の原田病と考えられた一例を経験した.授乳婦であったため,ステロイド全身投与を行わず経過観察したところ,夕焼け状眼底を呈して治癒した.眼所見,経過および原田病の国際診断基準2)から,probableCVogt-Koyanagi-HaradaCsyndromeと思われた原田病と考えられた.〔別刷請求先〕町田繁樹:〒343-8555埼玉県越谷市南越谷C2-1-50獨協医科大学越谷病院眼科Reprintrequests:ShigekiMachida,M.D.,DepartmentofOphthalmology,DokkyoMedicalUniversityKoshigayaHospital,2-1-50Minamikoshigaya,Koshigaya,Saitama343-8555,JAPAN1622(138)0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(138)C16220910-1810/17/\100/頁/JCOPYI症例患者:29歳,女性.主訴:1カ月前から両眼の霧視感.既往歴:橋本病(経過観察),授乳婦,アレルギー歴や常用の内服薬なし,妊娠高血圧症などの既往はない.現病歴:数日前から両眼の霧視感で近医を受診した.両眼底の視神経乳頭から黄斑にかけて漿液性網膜.離が認められ,ピット黄斑症候群の疑いで当院へ紹介受診となった.頭痛,難聴,感冒様症状などの全身症状はなかった.初診時所見:視力は,右眼C1.0(1.0C×.0.75D),左眼C1.0(1.0C×.1.00D),眼圧は両眼11mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査では前房および硝子体内に炎症所見はなく,眼底所見として,両眼の黄斑部に漿液性網膜.離が認められたが,視神経乳頭に乳頭小窩は観察されなかった(図1a,b).また,図1初診時の眼底所見とフルオレセイン蛍光眼底造影の後期像右眼左眼初診時初診から1週間後初診から2カ月後図3初診時,初診から1週および2カ月の光干渉断層像矢印は脈絡膜と強膜との境界を示している.眼底の色調は正常であった.前房隅角所見では,周辺虹彩前癒着はなく,軽度の色素沈着が観察された.フルオロセイン蛍光眼底造影(fluoresceinCangiography:FAG)(図1c,d),およびインドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(indocya-ninCgreenCangiography:ICGA)でも,後期の低蛍光斑を含めた特徴的な所見は認められなかった(図2).光干渉断層計(opticalCcoherenceCtomography:OCT)検査では,両眼の黄斑部の網膜.離が認められ,脈絡膜の肥厚が疑われた(図3).全身検査所見:採血結果はASTC17U/l,ALT11U/l,ALPC165CU/l,LDH367CU/l,gGTPC17CU/l,CNaC140Cmmol/l,KC4.1Cmmol/l,CUNC9Cmg/dl,CrC0.7Cmg/dl,WBCC7300/ul,RBCC464万/ul,PLT33.5万/ul,CRPC0.06Cmg/dl.HLA検査ならびに髄液検査は患者から同意が得られず,施行しなかった.経過:難聴,頭痛,皮膚症状などの身体症状に乏しかったが,漿液性網膜.離および脈絡膜肥厚疑いの眼底所見およびOCT所見から原田病を疑った.鑑別診断として,中心性漿液性網脈絡膜症,後部強膜炎,uvealCe.usionCsyndromeおよび妊娠中毒症があげられたが,FAGおよびCICGAでこれ図2初診時のインドシアニングリーン赤外蛍光眼底造影上段:初期像,下段:後期像.C図4初診から3カ月後の眼底所見(139)Cあたらしい眼科Vol.34,No.11,2017C1623らの疾患を示唆する所見は認められなかった.原田病の確定診断に至らず授乳婦であり,ステロイドの全身投与が授乳に与える影響を考慮し,患者と相談のうえ,無治療で厳重に経過観察とした.また,前眼部の炎症も認められなかったため,ステロイド点眼も行わなかった.初診からC1週間後,視力は両眼C1.2(n.c.)となり,霧視感は改善した.OCTでは両眼とも漿液性網膜.離は減少していた(図3).漿液性網膜.離は初診からC1カ月後で消失した.初診からC2カ月後,漿液性網膜.離の再発はなく,脈絡膜と強膜の境界線が明瞭となり(図3,矢印),脈絡膜の肥厚が改善していた.初診からC3カ月後には眼底の色素は脱失し,いわゆる夕焼け状眼底を呈した(図4).初診からC17カ月まで漿液性網膜.離の再発ならびに炎症所見はみられずに経過している.経過中に皮膚白斑や白髪などの全身所見はみられなかった.CII考按本症例は,経過観察のみで治癒した軽症型の原田病と考えられる.原田病は診断後早期にステロイド全身投与することが多い3).ステロイドにより経過が修飾され,本来の重症度の評価が困難である3).また,軽症例の明確な基準はなく,報告も少ない3).筆者が調べた限り,無治療で緩解した報告は非常に少なく3,4),本症例は貴重なC1症例と考えられる.本症例は授乳婦であり,ステロイド全身投与を回避した.ステロイドの母乳への移行は,母体血中濃度のC5.25%程度と報告され5),ステロイドが乳児に移行する場合,乳児の成長障害が問題となる5,6).したがって,授乳婦に対して大量ステロイド療法を行う場合は,ステロイド投与と授乳の間隔を設けることや,母乳からミルクに切り替えることを考慮する必要がある.本症例の初診時では,漿液性網膜.離および脈絡膜肥厚疑いの所見が原田病に合致したが,炎症所見がなく,造影所見は典型的所見を呈さなかった.初診時に原田病の診断に至らなかったが,経過中に夕焼け状眼底を呈したことで原田病と確定診断できた.本症例のように,夕焼け状眼底により原田病と確定診断した症例は報告されている7).一方で,速やかに消炎した場合,回復期に夕焼け状眼底を呈さないことがある3).夕焼け状眼底は必ずしも無症状ではなく,コントラスト感度の低下あるいは後天性色覚異常が報告されている7).ステロイドパルス療法を行った場合,夕焼け状眼底の頻度が少なく視力予後が良好であったとの報告があり6),速やかな消炎により夕焼け状眼底を回避できると考えられ,本症例のように経過観察のみの軽症例が夕焼け状眼底を呈しやすいのかもしれない3).本症例が軽症型として発症した原因として,妊娠もしくは授乳が要因の可能性がある.免疫寛容状態にある妊婦は原田病に罹患しにくいとういう報告もある6).過去の報告では,妊娠中に発症した原田病に対し,ステロイドパルス療法もしくはステロイドCTenon.下注射など局所治療により,いずれも緩解し,比較的良好な経過をたどっている8.11).原田病が妊娠を契機に自然軽快あるいは妊娠中に自然治癒したとの報告がある12).授乳期における原田病の発症は,筆者が調べた限りその報告はなく,授乳と原田病の経過との関係は不明である.しかし,ぶどう膜炎と月経との関連を指摘する報告では,エストロゲンやプロゲステロンなどの性ホルモンとぶどう膜炎の消長との間の関連を推察しており12),月経直前から月経中に症状が悪化する症例が報告されている.授乳期では月経が休止するため,原田病の自然経過に好影響を与えた可能性がある.文献1)丸尾敏夫,本田孔子,薄井正彦ほか:ぶどう膜,眼科学第2版(大鹿哲郎編),p307-310,文光堂,20112)RussellCWR,CCaryCNH,CNarsingCARCetCal:RevisedCdiag-nosticCcriteriaCforCVogt-Koyanagi-HaradaCdisease:reportCofCanCinternationalCcommitteeConCnomenclature.CAmCJOphthalmolC131:647-652,C20013)早川むつ子,穂積沙紀,小沢佳良子ほか:原田病軽症例の臨床所見.眼臨C87:637-644,C19934)NoharaCM,CNoroseCK,CSegawaCK:Vogt-Koyanagi-HaradaCdiseaseCduringCpregnancy.CBrCJCOphthalmolC79:94-95,C19955)蕪城俊克:眼科におけるステロイド大量全身投与目的,薬剤選択と投与量,投与前検査,注意すべき症例.眼科C58:285-291,C20166)小林崇俊,丸山耕一,庄田裕美ほか:妊娠初期のCVogt-小柳-原田病にステロイドパル療法を施行したC1例.あたらしい眼科C32:1618-1621,C20157)安積淳:Vogt-小柳-原田病(症候群)の診断と治療1.病態:定型例と非定型例.眼科47:929-936,C20058)奥貫陽子,後藤浩:【眼科薬物療法】ぶどう膜Vogt-小柳-原田病.眼科54:1345-1352,C20129)MiyataCN,CSugitaCM,CNakamuraCSCetCal:TreatmentCofCVogt-Koyanagi-Harada’sCdiseaseCduringCpregnancy.CJpnJOphthalmolC45:177-180,C200110)松本美保,中西秀雄,喜多美穂里:トリアムシノロンアセトニドのテノン.下注射で治癒した妊婦の原田病のC1例.眼紀C57:614-617,C200611)正木究岳,林良達,劉百良ほか:トリアムシノロンアセトニドCTenon.下注射が奏効した妊婦の原田病のC1例.あたらしい眼科C28:711-714,C201112)高橋任美,杉田直,山田由季子ほか:ぶどう膜炎と月経との関係に関する調査.臨眼C63:1281-1283,C2009***(140)

尋常性白斑の診断を受けていたVogt-小柳-原田病の2例

2014年4月30日 水曜日

《第47回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科31(4):591.594,2014c尋常性白斑の診断を受けていたVogt-小柳-原田病の2例寺尾亮*1藤野雄次郎*1南川裕香*1杉崎顕史*1田邊樹郎*1菅野美貴子*2*1JCHO東京新宿メディカルセンター眼科*2河北総合病院眼科TwoCasesofVogt-Koyanagi-HaradaDiseasewithVitiligoPrecedingOcularDiseaseRyoTerao1),YujiroFujino1),YukaMinamikawa1),KenjiSugisaki1),TatsuroTanabe1)andMikikoKanno2)1)DepartmentofOphthalmology,TokyoKouseinenkinHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KawakitaGeneralHospital尋常性白斑の診断を受けていて後に眼症を発症したVogt-小柳-原田病(VKH)の2例を報告する.症例1は74歳,女性.1998年頃から尋常性白斑と診断されていた.2010年10月中旬から右眼視力低下を自覚し近医を受診後,10月下旬当科を紹介受診した.両眼の網膜皺襞,右眼の漿液性網膜.離を認めた.蛍光眼底造影検査(FA)で両眼にびまん性点状蛍光漏出を認めた.VKHと診断しステロイドパルスを行い両眼の漿液性.離は治癒したが,夕焼け状眼底を呈した.症例2は64歳,女性.2000年頃から白斑が出現していた.2003年8月に近医で右眼白内障手術を施行.3週間後より急激に右眼視力低下と歪視を自覚し当科を紹介受診した.両眼に漿液性網膜.離を認めFAでびまん性点状蛍光漏出を認めた.VKHと診断しステロイドパルスを行い漿液性.離は治癒したが,夕焼け状眼底を認めた.VKHの皮膚白斑は回復期に出現するとされているが,本症例のように明らかな眼症状の出現に先行する症例も存在すると考えられた.Wereport2casesofVogt-Koyanagi-Haradadiseasethathadbeendiagnosedasvitiligovulgarisprecedingtheonsetofoculardisease.Case1,a74-year-oldfemale,presentedwithvisuallossinherrighteye;shehadbeendiagnosedwithvitiligo20yearsbefore.Fundusexaminationshowedserousdetachment(SRD)intherighteye;fluoresceinangiography(FA)revealeddiffusepinpointleakageinbotheyes.Thepatientreceivedsteroidpulsetherapyandwascured,withsunsetglowfundus.Case2,a64-year-oldfemale,complainedofvisuallossandanorthopiainherrighteye3weeksafterrightcataractsurgerywithoutcomplication;shehadsufferedfromvitiligo3yearsbefore.FundusexaminationshowedbilateralSRDandFAdiscloseddiffusepinpointleakageinbotheyes.Thepatientwassuccessfullytreatedwithsteroidpulsetherapyandsunsetglowfundusappeared.Thediagnosticcriteriaprescribesthatvitiligoshouldnotprecedeoculardisease,butexceptionalcasesmayexist.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(4):591.594,2014〕Keywords:Vogt-小柳-原田病,診断基準,夕焼け状眼底,皮膚白斑.Vogt-Koyanagi-Haradadisease,diagnosticcriteria,sunsetglowfundus,vitiligo.はじめにVogt-小柳-原田病(VKH)は全身のメラノサイトに対する自己免疫疾患で,眼症状の他に皮膚科,耳鼻科,神経内科領域の症状が出現する.病期は前駆期・眼病期・回復期の3期に分類される.前駆期では軽度感冒様症状や頭痛,耳鳴りなどが出現し,眼病期ではびまん性脈絡膜炎を主体とした汎ぶどう膜炎が起こり,回復期では夕焼け状眼底や角膜輪部色素脱失(杉浦徴候),皮膚症状が出現しはじめる.皮膚所見は一般的には回復期に出現するとされており,ReadらのVKHの診断基準においても皮膚症状の出現は「notprecedingonsetofoculardisease」と記載されている1).しかし,これまでに皮膚所見が眼症状に先行したVKH症例が数例報告されている2,3).今回,筆者らは尋常性白斑の診断を受けていて後に後眼部炎症を発症し,夕焼け状眼底を呈したVKHの2例を報告する.I症例1〔症例1〕74歳,女性.〔別刷請求先〕寺尾亮:〒162-8543東京都新宿区津久戸町5-1JCHO東京新宿メディカルセンター眼科Reprintrequests:RyoTerao,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TokyoShinjukuMedicalCenter,5-1Tsukudocho,Shinjuku-ku,Tokyo162-8543,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(113)591 abcdabcd図1症例1a:2007年健診時の眼底写真.夕焼け状眼底はみられていない.b:初診時の右眼光干渉断層計.漿液性網膜.離を認める.c:頭部写真.両眉弓部(矢頭)と頬部(矢印)の左右対称な白斑を認める.d:治癒後の眼底写真.夕焼け状眼底を呈している.現病歴:2010年10月中旬から右眼視力低下を自覚したため10月末日近医を受診したところ,右眼の虹彩炎と後部ぶどう膜炎を指摘され,その2日後東京厚生年金病院(当院:現JCHO東京新宿メディカルセンター)眼科紹介受診した.既往歴:1982年頃から軽度の両眼の虹彩炎が数回出現していたが高度な視力低下を自覚することはなく,1991年以降は虹彩炎を起こしていなかった.また,2007年の健康診断時に撮影された眼底写真は眼底に異常を認めず,夕焼け状眼底は呈していなかった(図1a).1998年頃から頭部・顔面に左右対称性の白斑が出現し尋常性白斑の診断を受けていた(図1c).家族歴:特記事項なし.初診時所見:視力は右眼0.1(0.6×+2.50D(cyl.1.50DAx65°),左眼0.2(1.2×+2.50D(cyl.0.50DAx120°).眼圧は右眼14mmHg,左眼16mmHg.両眼とも前房内細胞なし.両眼とも網膜皺襞を認め,光干渉断層計にて右眼は漿液性網膜.離を認めた(図1b).蛍光眼底造影検査では両眼ともびまん性の点状蛍光漏出がみられた.血液検査では末梢血,生化学検査を含め異常項目はなく,髄液検査では細胞数は4/3μlと増多を認めなかった.また,白髪,禿,感音性難聴などは認めなかった.592あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014経過:VKHと診断しメチルプレドニゾロン500mg/日,3日間のセミパルス療法,その後,後療法としてプレドニゾロン40mg/日内服から漸減し3カ月で内服を中止した.その後,2回,網膜皺襞が出現したが,その都度トリアムシノロンアセトニドのTenon.下注射を行い,眼底所見は改善した.両眼ともしだいに夕焼け状眼底を呈した(図1d).〔症例2〕64歳,女性.現病歴:2003年8月近医で右眼の視力低下に対し右眼白内障手術を施行.その3週間後より右眼視力の急激な低下と歪視を自覚し他医受診した.右眼眼底に広く網膜浮腫を認めたため精査・加療目的で当科を紹介受診した.既往歴:2000年頃から左下腹部と両眉弓部に白斑が出現していた(図2c).家族歴:特記事項なし.初診時所見:視力は右眼0.04(矯正不能),左眼0.05(0.4×+5.75D(cyl.1.75DAx90°).眼圧は右眼12mmHg,左眼15mmHgであった.両眼とも前房内細胞1+認め,右眼は眼内レンズ眼,左眼は極軽度の白内障がみられた.また,眼底は後極を中心に漿液性網膜.離がみられた.蛍光眼底造影検査では両眼ともびまん性の点状蛍光漏出および蛍光貯留を認めた(図2a,b).血液検査では末梢血,生化学検(114) cacabd図2症例2a:初診時眼底写真.夕焼け状眼底はみられていない.b:蛍光眼底造影検査.両眼のびまん性点状蛍光漏出を認める.c:頭部写真.両眉弓部(矢印)の左右対称性の白斑を認める.d:治療後の眼底写真.夕焼け状眼底を呈している.査を含め異常項目はなく,髄液検査では単核球数10/3μlと増多がみられた.また白髪,禿,感音性難聴などは認めなかった.経過:VKHと診断しメチルプレドニゾロン1,000mg/日,3日間のパルス療法を2クール行い,その後,後療法としてプレドニゾロン40mg/日内服から漸減した.漸減途中6mg/日のときに両眼後極部に網膜皺襞が出現したため,トリアムシノロンアセトニドのTenon.下注射を行った.2004年5月にプレドニン内服を中止し,それ以降,再発をみていない.両眼とも眼底はしだいに夕焼け状眼底を呈したが(図2d),視力は両眼矯正1.2を得た.なお,本2症例は報告にあたって本人の自由意思による同意(informedconsent)を得ている.II考察VKHの皮膚所見としては白毛,脱毛,白斑がある.皮膚白斑は左右対称性で,眼瞼周囲や頸部に認められるのが特徴的で,尋常性白斑との鑑別を要する4).白斑が先行したVKH症例に関する既報を示す(表1).井上らの報告2)は68歳,女性で,両眼周囲,頸部,手背に左右対称の境界明瞭な白斑が出現,その3年後に両眼の中心部(115)視力低下と歪視を自覚し,VKHと診断されている.内山らの報告3)は67歳,男性で,顔面,両手背,体幹に左右対称性の白斑が出現,さらに5年後に後頭部,肘中部に乾癬が出現していた.その1年後からぶどう膜炎と診断されていたが,さらに1年後に当院を受診され両眼白内障手術を施行したところ,術後眼底検査で夕焼け状眼底がみられたためVKHと診断されている.自験例について,症例1は初診時に滲出性網膜.離,蛍光眼底造影検査におけるびまん性点状蛍光漏出,また後期症状として夕焼け状眼底がみられた.Readらの診断基準では皮膚白斑が先行していたため皮膚所見の基準を満たしていないとすればprobableVKH,皮膚所見を含めた場合はincompleteVKHに該当する.1982.1991年頃の間に軽度虹彩炎のエピソードが数回あったが以降は一旦治まっており,皮膚白斑は1998年頃から出現していた.当院初診時より以前からVKHによる後眼部炎症が起こっていた,あるいは関連する非常に軽症のぶどう膜炎を繰り返していた可能性も考えられるが,2007年の眼底写真では夕焼け状眼底は呈していなかったため,この時点ではまだVKHのような汎ぶどう膜炎は発症しておらず,1991年以前に起きていた虹彩炎はVKHとは違う病態であったのではないかと考えられた.したがっあたらしい眼科Vol.31,No.4,2014593 表1皮膚白斑が先行したVogt-Koyanagi-Harada病の報告例報告者報告年年齢性皮膚所見経過眼所見井上ら2)200068歳女性1993年頃から両眼周囲,頸部,手背に左右対称の境界明瞭な白斑が出現.白斑出現3年後に中心部視力低下と歪視自覚.近医でぶどう膜炎を診断されステロイド点眼処方されたが,視力低下が進行したため紹介.初診時に視神経乳頭浮腫,滲出性網膜.離,周辺部夕焼け状眼底を認めた.内山ら3)201067歳男性1998年頃より顔面,両手背,体幹に左右対称性の白斑,5年後から後頭部,肘中部に乾癬が出現.白斑出現6年後からぶどう膜炎と診断されていた.2008年4月精査目的で紹介受診.ぶどう膜炎と白内障を認めた.初診の1週間後両眼の白内障手術を施行.術後に眼底を確認したところ,夕焼け状眼底を認めた.て,2010年10月の両眼性後眼部炎症がVKHの眼病期にあたり,それよりも皮膚所見のほうが先行していたと考える.症例2は今回の眼内炎症を起こす3年前から左下腹部と両眉弓部に白斑が出現していた.初診時に両眼滲出性網膜.離,蛍光眼底造影検査におけるびまん性点状蛍光漏出,脳脊髄液細胞増多,また後期症状として夕焼け状眼底を認めていた.片眼の白内障手術後に両眼性眼内炎症をきたしたため,内眼手術の既往のある場合を一律に交感性眼炎とする立場をとれば,本症も白内障手術が虹彩損傷のない小切開白内障手術であったとしても交感性眼炎に分類されることになる5).しかし,Kitamuraらは杉浦の診断基準によって診断されたVKH169症例をReadらの診断基準にあてはめたところ14症例が基準を満たしておらず,うち2症例は白内障手術既往のある症例であったと報告しており,通常の白内障手術の既往があるものがVKHの該当から除外されることについては疑問視している6).そのような意見も鑑み,本症例は白内障手術以前から存在した皮膚病変と今回の眼症を同一疾患と考えVKHと診断した.また,右眼白内障術前から緩徐なVKHによる炎症があった可能性もあるが,白内障手術を受けていない左眼は白内障も軽度でそれ以前に視力低下の自覚がないことから,その可能性は低く,今回のエピソードが初回の内眼炎であると考えられた.内眼手術歴以外の項目において検討すると皮膚所見を含まないのであればincompleteVKH,含めた場合はcompleteVKHに該当する.いずれの症例も白斑が主体ないし先行したVKHと考えられた.Readらの診断基準では白斑は眼症状に先行しないとされているが例外も存在する可能性があり,少なくとも左右対称性の特徴的な分布を示す皮膚白斑がみられた場合は,それが眼症状出現前でもVKHの可能性があると思われ,今後も症例を蓄積していく必要があると考える.文献1)ReadRW,HollandGN,RaoNAetal:ReviseddiagnosticcriteriaforVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportofaninternationalcommitteeonnomenclature.AmJOphthalmol131:647-652,20012)井上裕悦,大西善博,榎敏生ほか:白斑が先行したVogt・Koyanagi・原田病.皮膚臨床42:214-215,20003)内山真樹,三橋善比古,大久保ゆかりほか:Vogt-Koyanagi-Harada病を合併した尋常性乾癬.皮膚病診療32:959962,20104)鈴木民夫,金田眞理,種村篤ほか:尋常性白斑診療ガイドライン.日皮会誌122:1725-1740,20125)DemicoFM,KissS,YoungLH:Sympatheticophthalmia.SeminOphthalmol20:191-197,20056)KitamuraM,TakamiK,KitachiNetal:ComparativestudyoftwosetsofcriteriaforthediagnosisofVogtKoyanagi-Harada’sdisease.AmJOphthalmol139:10801085,2005***594あたらしい眼科Vol.31,No.4,2014(116)