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エタンブトール内服を契機に女性に発症したLeber遺伝性視神経症の1例

2016年12月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(12):1789?1794,2016cエタンブトール内服を契機に女性に発症したLeber遺伝性視神経症の1例加納俊祐*1山田喜三郎*1遠藤高生*2不二門尚*3久保田敏昭*1*1大分大学医学部眼科学講座*2大阪大学医学部眼科学教室*3大阪大学医学部感覚機能形成学AFemaleCaseofLeber’sHereditaryOpticNeuropathyInducedbyEthambutolAdministrationShunsukeKano1),KisaburoYamada1),TakaoEndo2),TakashiFujikado3)andToshiakiKubota1)1)DepartmentofOpthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicine,OsakaUniversity,3)DepartmentofAppliedVisualScience,OsakaUniversity,GraduateSchoolofMedicine発症当初はエタンブトール(EB)視神経症を疑われたが,EBの内服を契機に発症したレーベル遺伝性視神経症(Leber’shereditaryopticneuropathy:LHON)と診断した症例を経験したので報告する.症例は57歳の女性.非結核性抗酸菌症に対する加療中に胸部X線所見の悪化を認め,2011年12月よりEB投与を開始された.2012年4月に色覚異常,霧視を自覚し,EB視神経症を疑われEB投与を中止された.2012年12月に両眼の視神経乳頭発赤および中心暗点を認めたため,LHON発症を疑った.遺伝子診断にて,ミトコンドリアDNA(mtDNA)11778遺伝子点突然変異が検出され,確定診断に至った.家族にLHON患者はいなかった.眼底所見や家族歴の有無にかかわらず,EB内服後の視力低下に対して,LHONを鑑別に入れる必要がある.WereportacaseinitiallysuspectedofsufferingfromethambutolopticneuropathythatwassubsequentlydiagnosedasLeber’shereditaryopticneuropathy(LHON)inducedbyethambutoladministration.Thepatientwasa57-year-oldfemale.Owingtodeteriorationofhernon-tuberculousmycobacterialpulmonarydisease,shereceivedethambutoladministrationfromDecember2011.InApril2012,shenoticedcolorblindnessandblurredvision.Shewassuspectedofsufferingfromethambutolopticneuropathyandethambutoladministrationwasdiscontinued.AsherbilateralopticdiscsshowedrednessandbilateralcentralscotomawasobservedinDecember2012,LHONonsetwassuspected.GeneticanalysisdisclosedmitochondrialDNA(mtDNA)11778genepolymorphismpointmutation.TherewerenoLHONpatientsinherfamily.Regardlessofthepresenceorabsenceoffundusfindingsandfamilyhistory,weshouldconsiderLHONasapossiblediagnosisforpatientswithvisionlossafterethambutoltreatment.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(12):1789?1794,2016〕Keywords:レーベル遺伝性視神経,エタンブトール視神経症,女性,ミトコンドリアDNA.Leber’shereditaryopticneuropathy,ethambutolopticneuropathy,female,mitchondrialDNA.はじめにLeber遺伝性視神経症(Leber’shereditaryopticneuropathy:LHON)は,Leberにより初めて報告された,母系遺伝形式をとり急性または亜急性に発症する無痛性の両眼性視神経症である.若年男性に多く発症し,高度の視力低下と中心暗点を呈する1).原因遺伝子はミトコンドリアDNA(mtDNA)遺伝子変異であり,3460,11778,14484番の各変異でLHON全体の90%を占める.LHON患者の視力低下はほぼ永続的であるが,遺伝子変異のタイプによっては視力が回復する報告もあり,その回復率は11778番点突然変異ではもっとも低く4?22%,14484番点突然変異ではもっとも高く37?71%と報告されている1?5).浸透率は低く,発症には環境因子が強くかかわっていると考えられており,多量の喫煙や飲酒,外傷,低栄養などが発症に寄与するとされる3,5,6).今回筆者らはmtDNA点突然変異を有する女性患者がエタンブトール(EB)投与によって視神経症を発症し,経過中にLHONと診断された1例を経験したので報告する.I症例患者:57歳,女性.主訴:両視力低下.既往歴:非結核性抗酸菌症.家族歴:特記事項なし.嗜好品:特記事項なし現病歴:非結核性抗酸菌症に対し,近医内科でクラリスロマイシン800mg,リファンピシン450mgで加療されていた.2011年12月,左下肺野の陰影悪化のため,ガイドラインに従いEB75mgの追加投与を開始された.EB開始後,同病院眼科を定期受診していた.2012年4月に霧視を自覚するも矯正視力は右眼0.7,左眼1.5であり,視神経乳頭所見はなく経過観察とされた.同月,両眼の視力低下を主訴に他院眼科を受診したが,矯正視力は右眼1.0,左眼1.0であった.視神経乳頭異常所見はないものの視力低下の自覚が強いため,EB内服の中止を勧められ,自己休薬した.5月再診時,矯正視力は右眼0.4,左眼0.3であり,EB視神経症を疑われ精査加療目的に大阪大学医学部附属病院眼科(前医)へ紹介となった.2012年5月前医初診時,眼痛はなく,対光反応異常もなかった.視力は右眼0.09(矯正不能),左眼0.07(矯正0.08)であり,眼圧は右眼16mmHg,左眼16mmHgであった.両眼ともに前眼部,中間透光体に異常所見はなかった.眼底は両眼視神経乳頭の発赤・腫脹があった(図1).Goldmann視野検査では両眼に中心比較暗点があった(図2a).フルオレセイン蛍光眼底造影検査は施行されなかった.頭部造影CT検査では,視神経,眼窩内および頭蓋内に特記所見はなかった.鑑別診断としてEB視神経症,抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎,LHONがあげられたが,臨床経過と検査所見からEB視神経症と診断され,EB内服中止のまま経過観察となった.EB内服中止3カ月後,両眼矯正視力は0.1と他覚的には大きな変化はないものの,自覚症状としては視力・視野は改善傾向にあった.しかし,2012年12月に入り再び視力低下を自覚した.12月前医再診時,視力は右眼0.02(矯正不能),左眼0.04(矯正不能)と低下し,両眼視神経乳頭の蒼白化があった.Goldmann視野検査では両眼の中心暗点が拡大していた(図2b)ため,ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン500mg/day3days)を施行されるも改善はなかった.この時点でLHONを強く疑われ,ミトコンドリア遺伝子検査を施行された.検査結果が出る前の2012年12月,セカンドオピニオン目的に大分大学医学部附属病院(当院)眼科を受診した.当院初診時眼科所見:視力は右眼0.05(矯正不能),左眼0.05(矯正不能)であり,眼圧は右眼19mmHg,左眼19mmHgであった.中心フリッカー値(中間値)は,右眼22.0Hz,左眼21.2Hzであった.両眼ともに前眼部,中間透光体に異常所見はなかった.眼底は両眼視神経乳頭の萎縮があった(図3).Goldmann視野検査では両眼に中心暗点があった(図4a).経過:12月17日,前医よりミトコンドリアDNA11778遺伝子点突然変異が検出されたとの報告があり,LHONと診断した.レスキュラR点眼,ビタメジン配合カプセルB25R,ハイボン錠20mgR,シナール配合顆粒R,コエンザイムQ10Rの内服の治療を開始し,現在治療継続で経過観察中である.約2年半経過した2015年3月16日,視力は右眼0.08(矯正不能),左眼0.15(矯正不能)で改善はないが,Goldmann視野検査では右眼で耳下側欠損部の改善,左眼は比較中心暗点の縮小を認めている(図4b).2015年に策定されたLeber遺伝性視神経症の認定基準においてもLHON確実例と診断される6).II考察LHONの発病は20?30代に多く,女性に比べて男性に多い7).mtDNA点突然変異を有していても必ず発症するというわけではなく,喫煙や飲酒,頭部外傷などの環境要因が発症の誘因となるといわれている2).今回の症例はEB視神経症と当初は考えられていた.EB視神経症の発現はエタンブトール内服の用量依存性にみられる.体重kg当たり15mg以下では1%未満の発生率であるが,25mg/kgでは5?6%,60?100mg/kgでは50%に達するとされている.EBは生体内で銅や鉄,亜鉛などの金属に対して強力なキレート作用をもつ.銅はミトコンドリア電子伝達系における酵素複合体IVに作用するcytochromeCの補酵素であり,その欠乏によりミトコンドリアの呼吸機能が抑制され機能異常が生じ,網膜神経節細胞の障害をきたす.EB投与中止後,一般的に6?8週後に視機能は回復するといわれる.どの程度回復するかは,軽微な段階で投与中止できるかによって異なり,いったん視力が大きく低下した症例では視力が元通り回復するのは約半数に留まるといわれる7).一方LHONは,患者のもつmtDNA点突然変異により,酵素複合体Iが障害を受け,酸素反応分子腫(ROS)が過剰産生される.ROSはミトコンドリア膜透過遷移小孔を開口させ,アポトーシス誘導因子やcytochromeCをミトコンドリア内から細胞質へ放出させる.ROSの過剰産生は,LHON患者において網膜神経節細胞のアポトーシスを誘導する8)(図5).EB視神経症とLHONはともにミトコンドリア呼吸鎖の障害による疾患であることはわかっている.しかし,現在までにmtDNA遺伝子点突然変異をもつ患者が,EB内服によってLHONを発症する機序は明らかにされていない.今回の症例は女性であったが,LHONは男性の発症例が多い.男女比は11778番変異では5:9,14484番変異では5:5,3460番変異では3:2とされる4).このような発症の性差について,mtDNA変異のみで説明するのはむずかしく,環境因子や遺伝要因がLHON発症にかかわると考えられる.X染色体連鎖劣性遺伝子の影響が考えやすいが,このような遺伝子はまだ確認されていない9).性ホルモンが関与することも考えられているが,LHONの発症年齢は若年から中年にわたって幅広いことから,性ホルモン分泌が発症に強く関与するとはいえない.やはり複数の因子が発症に寄与するものと考えられる10).視力の自然回復例はあるが,LHONに対する治療についてコンセンサスは得られていない.臨床的にはビタミンB12,ビタミンC製剤の内服などが行われているが,有効とはいえない.コエンザイムQ10は抗酸化作用やミトコンドリア内エネルギー代謝改善作用を有するとされ,ミトコンドリア病の治療に広く使用されている.しかし,脂質親和性が高く,吸収性に難がある.近年,コエンザイムQ10の誘導体であるイデベノンRの大量投与により,視力障害の進行を抑えることができるという報告もある11,12).III結論EB内服によりLHONを発症したという報告は散見される13,14).EBは,結核や非結核性抗酸菌症に対する標準治療に含まれており,EBを内服している患者は多い.EBを内服している患者が視力低下をきたした場合,EB視神経症を疑うのはもちろんだが,眼底に特徴的な所見がない場合や家族歴がない場合でも,LHONを鑑別に入れことが重要である.文献1)RiordanEP,SandersMD,GovanGGetal:TheclinicalfeaturesofLeber’shereditaryopticneuropathydefinedbythepresenceofapathogenicmitochondrialDNAmutation.Brain118:319-337,19952)DonaldRJ,KatrinkaLH,NeilRMetal:Leber’shereditaryopticneuropathyclinicalmanifestationsof14484mutation.ArchOpthalmol111:495-498,19933)EdwinMS,NancyJN,NeilRMetal:VisualrecoveryinpatientswithLeber’shereditaryopticneuropathyandthe11778mutation.JClinNeuroopthalmol12:10-14,19924)SprijtL,KolbachDN,CooRFetal:InfluenceofmutationtypeonclinicalexpressionofLeberhereditaryopticNeuropathy.AmJOpthalmol141:676-682,20065)NancyJN,MarieTL,DouglasCW:TheclinicalcharacteristicsofpedigreeofLeber’shereditaryopticneuropathywiththe11778mutation.AmJOpthalmol111:750-762,19916)中村誠,三村治,若倉雅登ほか:Leber遺伝性視神経症認定基準.日眼会誌119:339-346,20157)KozakSF,InderliedCB,HsuHYetal:Theroleofcopperonethambutol’santimicrobialactionandimplicationsforethambutol-inducedopticneuropathy.DiagMicrobiolInfectDis30:83-87,19988)中村誠:レーベル遺伝性視神経症の発症分子メカニズムの展望.日眼会誌109:189-196,20059)SadunAA,CarelliV,SalomaoSRetal:ExtensiveinvestigationoflargeBrazilianpedigreeofItalianancestry(SOA-BR)with117788/haplogroupJLeber’shereditaryopticneuropathy(LHON).AmJOpthalmol136:231-238,200310)野崎令恵,宮永嘉隆,中井倫子ほか:レーベル遺伝性視神経症と診断した女性の一家系.あたらしい眼科25:1447-1452,200811)HongZL,ShunPH,TsaiRK:Treatmentofleber’sheriditaryopticneuropathy-AnUpdate.神眼31:89-94,201412)KlopstockT,YuWMP,DimitriadisKetal:Arandomizedplacebo-controlledtrialofidebenoneinLeber’shereditaryopticneuropathy.Brain134:2677-2686,201113)IkedaA,IkedaT,IkedaNetal:Leber’shereditaryopticneuropathyprecipitatedbyethambutol.JpnJOpthalmol50:280-283,200614)SeoJH,HwangJM,ParkSSetal:AntituberculosismedicationasapossibleepigeneticfactorofLeber’shereditaryopticneuropathy.ClinExperimentOphthalmol38:363-366,2010〔別刷請求先〕加納俊祐:〒879-5503大分県由布市挾間町医大ヶ丘1-1大分大学医学部眼科学講座Reprintrequests:ShunsukeKano,M.D.,DepartmentofOphthalmology,OitaUniversityFacultyofMedicine,1-1Idaigaoka,Hasama-machi,Yufu-shi,Oita879-5503,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(111)17891790あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(112)図1眼底写真(前医初診時)両眼の視神経乳頭の発赤・腫脹がみられた.図2aGoldmann視野検査(前医初診時)両眼に中心比較暗点を認めた.図2bGoldmann視野検査(前医再診時)視力低下を自覚したため再診.両眼中心暗点の拡大を認めた.(113)あたらしい眼科Vol.33,No.12,20161791図3眼底写真(当院初診時)両眼の視神経乳頭の萎縮を認めた.図4aGoldmann視野検査(当院初診時)両眼に中心暗点を認めた.図4bGoldmann視野検査(2年半経過後)右眼は耳下側の視野欠損部の改善を認め,左眼も比較暗点の縮小を認める.1792あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(114)図5ミトコンドリア電子伝達系と,LHON,EB視神経症について文献7,191頁,図1を参考に作成した.正常のミトコンドリア電子伝達系の概略を実線で示した.点線でLHONの,二重線でEB視神経症の発症機序を示した.LHONでは複合体Iの障害により酸素反応分子種(ROS)が過剰産生される.ROSがミトコンドリア膜透過遷移小孔を開口させ,アポトーシス誘導因子やcytchromeCを細胞質内へ放出し,網膜神経節細胞のアポトーシスを誘導する.EB視神経症では,EBが複合体IVで働くcytchromeCの補酵素となる銅をキレートするため,ミトコンドリアの呼吸機能が抑制され網膜神経節細胞の障害をきたす.(115)あたらしい眼科Vol.33,No.12,201617931794あたらしい眼科Vol.33,No.12,2016(116)

Leber 遺伝性視神経症と診断した女性の一家系

2008年10月31日 金曜日

———————————————————————-Page1(119)14470910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(10):14471452,2008cはじめにLeber遺伝性視神経症(Leber’shereditaryopticneuropa-thy:LHON)は母系遺伝形式をとる急性ないし亜急性の両眼性視神経症で,ミトコンドリアDNAの点突然変異によりもたらされることが知られている.好発年齢は1020歳代であるが,4050歳代にも小さなピークがある.患者の8090%は男性であり,女性はキャリアにとどまることが多いといわれている.今回筆者らは治療が奏効しない球後視神経炎疑いで受診した女性に遺伝子診断を施行し,LHONと診断できた家系より,数名の女性発症例を確認したので報告する.I症例〔症例1〕発端者:28歳,女性.現病歴:23歳のとき,急激な視力障害を自覚し近医眼科,県立病院などを受診.片眼発症10カ月後に他眼も発症.球後視神経炎として入院し,ステロイド加療を行ったが改善なく,原因不明のまま近医にて経過観察されていた.セカンドオピニオンを求め,平成14年7月19日西葛西・井上眼科病院(以下,当院)を受診した.家族歴:母方の叔父が片眼視力不良(詳細不明).初診時所見:視力は右眼0.03(0.05×3.0D),左眼0.03(0.04×3.0D),眼圧は右眼17mmHg,左眼16mmHg,対光反応正常,相対的求心性瞳孔障害(relativeaerentpupillaridefect:RAPD)なし.前眼部,中間透光体に特記すべき異常は認めず,両眼底に視神経萎縮を認めた(図1a).Goldmann動的視野検査にて求心性視野狭窄とⅠ-4にて中心部の絶対暗点を認めた(図1b).パネルD-15にて第〔別刷請求先〕野崎令恵:〒134-0088東京都江戸川区西葛西5-4-9西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:NorieNozaki,M.D.,Nishikasai-InouyeEyeHospital,5-4-9Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPANLeber遺伝性視神経症と診断した女性の一家系野崎令恵*1宮永嘉隆*1中井倫子*2菊池俊彦*3井上治郎*4*1西葛西・井上眼科病院*2眼科中井医院*3水戸大久保病院眼科*4井上眼科病院FamilyofaFemaleDiagnosedwithLeber’sHereditaryOpticNeuropathyNorieNozaki1),YoshitakaMiyanaga1),NorikoNakai2),ToshihikoKikuchi3)andJiroInouye4)1)Nishikasai-InouyeEyeHospital,2)NakaiEyeHospital,3)DepartmentofOphtalmology,MitoOkuboHospital,4)InouyeEyeHospital症例:原因不明の視神経炎と診断された女性に遺伝子検査を行い,Leber遺伝性視神経症と診断した.その後姪に原因不明の視力障害と視神経萎縮を認め,遺伝子解析を行ったところ11778番ヘテロプラスミー変異を確認した.そこで可能な限りの家系調査を施行したところ,同様の点突然変異を妹,姪,甥と母に認めた.結論:女性や幼小児においてもLeber遺伝性視神経症を発症する場合があり,原因不明の視力障害を診た場合には性別や年齢によらずLeber遺伝性視神経症も念頭に置く必要があると考えられた.Weconductedgenetictestingonafemalediagnosedwithopticneuritisofuncertainetiology,anddiagnosedLeber’shereditaryopticneuropathy.Subsequently,blurredvisionandopticnerveatrophyofuncertainetiologywereidentiedinherniece.Geneticanalysisconrmedheteroplasmyforthe11778mutation.Thepatient’slineagewastheninvestigatedtotheextentpossible,andasimilarpointmutationwasfoundinheryoungersister,niece,nephewandmother.Leber’shereditaryopticneuropathycanaectevengrownfemalesandinfants.Whenblurredvisionofuncertainetiologyisexamined,Leber’shereditaryopticneuropathyshouldbekeptinmind,regardlessofpatientsexorage.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(10):14471452,2008〕Keywords:Leber遺伝性視神経症,女性,11778番ヘテロプラスミー変異,家系.Leber’shereditaryopticneu-ropathy,female,heteroplasmyforthe11778mutation,lineage.———————————————————————-Page21448あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(120)3色盲は認めなかった.蛍光眼底造影検査,中心フリッカー試験は施行していない.経過:患者の同意を得,ミトコンドリアDNAについて検査を行い,11778番の正常型と変異型の混在型ヘテロプラスミーを確認し,LHONと診断した(図5a).その後経過をみながらビタミンB群(ビタメジンR),ビタミンB12(メチコバールR),コエンザイムQ10などの内服を行っており,視力は右眼(0.1),左眼(0.3)となっている.経過観察中に結婚,出産を経て現在は2児の母となり,3歳の長女はすでに右眼の視神経萎縮を認め,視力は0.06となっている.2歳の長男については不明である.〔症例2〕発端者の姪(妹の長女):9歳,女児.現病歴:平成15年,就学前健診で視力不良を指摘(右眼0.2,左眼0.3ともに矯正不能).総合病院にて毛様体過緊張と診断され,近医にて経過みるも改善せず,視神経萎縮を認めるようになり,精査加療目的に平成17年7月27日当院紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.6(0.8×0.25D(cyl0.5DAx30°),左眼0.8(1.2×0.25D(cyl0.5DAx40°),眼圧は右眼18mmHg,左眼17mmHg,輻湊反応良好,立体視はほぼ正常.対光反射・RAPDについては記載なし.前眼部,中間透光体に特記すべき異常は認めず,両眼底に軽度の視神経萎縮を認めた(図2a).Goldmann動的視野検査にて傍中心比較暗点を認めた(図2b).中心フリッカー試験は右眼1914mmHg,左眼3631mmHgであった.全屈折検査,石原式色覚検査では両眼とも異常は認めなかった.蛍光眼底造影検査は施行していない.経過:母親が症例1の妹であり,同意を得てミトコンドリアDNA検査を行ったところ,同様の11778番の正常型と変異型の混在型ヘテロプラスミーを認め,LHONと診断した(図6b).トロピカミド(ミドリンMR)右眼就寝前点眼にて経過観察中にMRD(marginreexdistance)右眼6mm,左眼図1a症例1(28歳,女性)の眼底写真上:右眼,下:左眼.視神経萎縮を認める.図1b症例1のGoldmann動的視野検査所見上:右眼,下:左眼.Mariotte盲点拡大と中心暗点を認める.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081449(121)8mmと右上眼瞼下垂を認めている.また,平成18年12月27日左方視時に複視を訴え,動眼神経麻痺についても注意して経過をみている.平成19年12月26日,視力は右眼(0.4),左眼(1.0)で,両眼とも視神経萎縮が進行している.そこで遺伝性の確認のため同意を得,本患者の3世代にわたる家系について調査した.家系図を示す(図3).〔症例3〕症例2の母:31歳,女性.現病歴:自覚症状はなかったが家族性の確認のため平成17年12月28日当院初診.初診時所見:ミトコンドリアDNA検査を行ったところ,同様の11778番の正常型と変異型の混在型ヘテロプラスミーを認めた.前眼部,中間透光体に特記すべき異常は認めなかった.経過:平成19年2月28日,視力は右眼0.01(0.04×cyl1.5DAx90°),左眼0.1(0.9×cyl1.75DAx70°)と右眼の視力障害を認めたが,眼底に視神経萎縮は認めなかった.同年3月14日,右眼(0.02),左眼(0.8)となったため,プレドニゾロン(プレドニンR)15mgを14日,5mgを14日図2a症例2の眼底写真上:右眼,下:左眼.右眼に視神経萎縮を認める.図2b症例2のGoldmann動的視野検査所見上:右眼,下:左眼.傍中心暗点を認める.4症例6症例712432135症例5126345:発端者:正常または未定:発症者:保因者:DNA検査済図3家系図———————————————————————-Page41450あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(122)間内服.このとき右眼の視神経の色調はやや不良となっていた(図4).その後はビタミンB群(ビタメジンR)の内服にて経過をみており,同年12月26日右眼(0.03),左眼(0.02)となり右眼の視神経萎縮は進行している.対光反応については記載なし.視野検査や蛍光眼底造影検査,色覚検査,中心フリッカー試験は行っていない.〔症例4〕症例2の妹:8歳,女児.〔症例5〕症例2の弟:3歳,男児.〔症例6〕症例1の父:65歳,男性.〔症例7〕症例1の母:56歳,女性.現病歴:症例47においては自覚症状はなかったが,家族性の確認のため平成17年12月28日当院初診.初診時所見:ミトコンドリアDNA検査を行ったところ,11778番ヘテロプラスミー変異を症例4,5,7に認めた.症例6では異常は認めなかった(図5c).眼底検査を行ったところ症例5に両眼,特に右眼の視神経萎縮を認めた(図6).症例5の視力は両眼とも0.8で,他の家族に異常は認めなかった.経過:全症例で現在視力障害の訴えはないが,症例5では行動異常知能発達障害を認めている.II考按今回筆者らは原因不明の視神経萎縮を認めた若年女性につ未1131.124bp(異変型)正常型2混在型3図5a症例1のmtDNA11778解析1131.124bp(異変型)正常型2混在型3図5b症例2のmtDNA解析1正常型2混在型3図5c父親のmtDNA点突然変異を認めず正常.図4症例3(31歳,女性)の眼底写真上:右眼,下:左眼.右眼視神経萎縮を認める.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.10,20081451(123)いてミトコンドリアDNA解析を施行し,LHONと診断できた家系より数名の女性発症者を認めた.8歳の姉が発症していないにもかかわらず,男児では3歳という若年齢ですでに視神経萎縮を認めていたことより,従来の報告通り1)同じ遺伝子をもっていても性別により浸透率に相違があることがわかる.女性より男性のほうが発症率が高いことについて,X染色体劣性遺伝子の可能性や核遺伝子の影響が考えられたこともあったが,現時点ではこれらの考えは否定的である.深水ら7)は女性に発症した場合は男性に比べて少なくとも片眼は症状が軽い可能性があると報告しているが,本症例においてはそうともいえない.一方,女性は同じ遺伝子をもっていても発症する者としない者が存在し,また発症する者でも時期に違いがあり,発症には何らかの誘因が関わっていることが示唆される.過去の報告では発症因子として喫煙やアルコール,性ホルモンが考えられている2,5).思春期以降から更年期までの発症を認めることより性ホルモンの関与4)や授乳が発症のトリガーになる可能性が指摘されている3)が今回,思春期以前,10歳以下の幼児においても発症することがわかった.中年発症例も報告されていることより6,7),年齢においてLHONを否定することはできない.発症にはさまざまな因子が関係していると思われる.LHONは日本人家系でも欧米人家系でも女性における浸透率は低いと考えられており4,5),特に幼小児だと弱視11)や心因性視力障害,検査に非協力的であるためなどと考えられる可能性があり,確定診断としてLHONは見落とされる可能性がある.またLHONでは初期には視神経萎縮が出現しないことも診断を困難にする一因である.遺伝子解析という複雑な検査や母系遺伝であることも家族間のトラブルを生む可能性があり8),説明には十分慎重を要する.いくつかの独立した研究により,LHONを発症した女性の子孫は未発症の女性の子孫より有意に高い率で発症することが示されている4,9,10).LHONの患者を診た場合,現時点でその家系に眼疾患歴がなくともできる限りの家系単位で定期的な検査を継続していくべきであると考える.一方で女性発症は年々減少している5)との報告もある.今回経験した症例より,稀であっても女性や女児においてもLHONを発症する可能性があり,原因不明の視力障害や治療が奏効しない視神経炎を認めたときにはLHONも念頭に置き注意して経過観察を行う必要があると考えられた.今後できる限り症例を増やし,女性発症と男性発症を比較し,トリガーとなるものが何かを解明することが本症の予防や治療につながると考える.また,2008年2月5日,イギリスのニューカッスル大学の研究チームが体外受精で残った不完全な胚を使って,男性1人と女性2人のDNAからヒトの胚を合成することに成功したと発表した.体外受精の過程で卵子の細胞の核を第三者の卵子に入れ,核の遺伝子は親のもの,ミトコンドリアDNAは第三者のものになるようにし,ミトコンドリアDNAに含まれる欠陥が子供に遺伝しないようにしたという.倫理面上の問題もあるが,同研究チームは5年以内に遺伝病の治療に活用できるようになるようになることを期待している.将来LHONの発症を未然に防ぐことができるようになる日が来るかもしれない.文献1)PovaikoN,ZakharovaE,RudenskaiaGetal:AnewsequencevariantinmitochondrialDNAassociatedwithhighpenetranceofRussianLeberhereditaryopticneu-ropathy.Mitochondrion5:194-199,20052)真島行彦:レーベル病.神経眼科11:34-41,19943)井街譲:レーベル氏病.附.優性型幼児性視神経萎縮症.図6症例5(弟,3歳)の眼底写真上:右眼,下:左眼.右眼視神経の色調が蒼白である.———————————————————————-Page61452あたらしい眼科Vol.25,No.10,2008(124)日眼会誌77:1685-1735,19734)中村誠:Leber遺伝性視神経症.臨眼61(増):98-102,20075)中村誠:レーベル遺伝性視神経症の発症分子メカニズムの展望.日眼会誌109:189-196,20056)筒井一夫,新田進人,西信元嗣:ミトコンドリアDNA解析により診断確定したレーベル病の中年発症例.眼臨94:434-438,20007)深水真,藤江和貴,若倉雅登:女性に発症したレーベル遺伝子性視神経症の特徴.臨眼57:427-430,20038)若倉雅登:視神経疾患のロービジョンケア.眼紀58:138-141,20079)CarelliV,GiordanoC,d’AmatiG:PathogenicexpressionofhomoplasmicmtDNAmutationsneedsacomplexnuclear-mitochondrialinteraction.TrendsGenet19:257-262,200310)PuomilaA,HamalainenP,KiviojaSetal:EpidemiologyandpenetranceofLeberhereditaryopticneuropathyinFinland.EurJHumGenet(Epubaheadofprint):200711)YokoyamaT,FujiiK,MurakamiAetal:Long-termfol-low-upoftwosisterswithLeber’shereditaryopticneu-ropathy.JpnJOphthalmol50:78-80,2006***