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正常眼圧緑内障のラタノプロストによる長期視野─ 3,5,6,8 年群の比較─

2008年9月30日 火曜日

———————————————————————-Page1(107)12950910-1810/08/\100/頁/JCLSあたらしい眼科25(9):12951300,2008c〔別刷請求先〕小川一郎:〒957-0056新発田市大栄町1-8-1慈光会小川眼科Reprintrequests:IchiroOgawa,M.D.,JikokaiOgawaEyeClinic,1-8-1Daiei-cho,ShibataCityNiigata957-0056,JAPAN正常眼圧緑内障のラタノプロストによる長期視野─3,5,6,8年群の比較─小川一郎今井一美慈光会小川眼科Long-TermEectsofLatanoprostonVisualFieldinEyeswithNormal-TensionGlaucoma─Comparisonof3,5,6,8-YearGroups─IchiroOgawaandKazumiImaiJikokaiOgawaEyeClinic先にラタノプロスト単独点眼による正常眼圧緑内障の3年,5年,6年群の長期視野を報告した.今回は8年群の成績を述べ,縦列的に各群の経過を比較検討した.8年群は52例52眼Humphrey視野30-2計測(Fastpac)を平均11.2±1.2回施行.全例長期視野を目的とするトレンド型視野変化解析を採用した.平均偏差(meandeviation:MD)スロープの回帰解析で有意(p<0.05)を示した症例を進行眼とした.各群の最終視野測定時の年MDスロープdBを年MD進行度として治療効果比較の指標とした.これにより3年群90眼,5年85眼,6年71眼,8年52眼の治療成績を比較検討した.治療経過3年,5年,6年,8年群の視野障害進行眼比率はそれぞれ10%,17.6%,19.7%,21.2%.年MD進行度(dB)は全例で0.34,0.31,0.21,0.17と漸減し,進行眼群では1.53,1.11,0.83,0.57と著明(t検定有意)に減速している.治療前平均眼圧は14.1±2.2mmHg.眼圧下降率は各群でそれぞれ18.4±10.2%,15.3±9.9%,14.1±10.8%,14.6±9.7%.正常眼圧緑内障にラタノプロスト単独点眼8年で視野障害進行率は経過とともに増加はするが,その程度は漸減する.年MD進行度は全例では3年後と比較して減速しているものの有意ではなかった.進行眼群では3年後と比較して5,6,8年後では有意な減速が認められ,点眼が長期にわたり有効に作用していることがうかがわれた.Thelong-termstatusofvisualeldineyeswithnormal-tensionglaucoma(NTG)treatedbymonotherapywithlatanoprostwasfollowedin3,5,6and8-yeargroups.Atotalof52Japanesepatients(52eyes)werestudiedinthe8-yeargroup.UsingtheHumphrey30-2program(Fastpac),perimetrywasperformedanaverageof11.2±1.2timesoneachpatient.Visualeldchangetrendanalysiswasperformed.Signicant(p<0.05)changeinthemeandeviation(MD)slopeonlinearregressionanalysiswasconsideredtorepresentvisualeldprogression.TheaverageMDdBperyearineachcasewasregardedastherateofMDdBprogressionperyear.Theprogressionratesofthe3,5,6and8-yeargroupswere10%,17.6%,19.7%and21.2%,respectively.EachaverageMDslope(dB)peryeargraduallydecreased(0.34dB,0.31dB,0.21dBand0.17dB)inallcases.Theaveragevalueoftheprogressivegroupclearlydecreased(1.53dB,1.11dB,0.83dBand0.57dB).Theaveragedecrease(rates)ofintraocularpressureoverthecourseoftreatmentwere18.4±10.2%,15.3±9.9%,14.1±10.8%and14.6±9.7%,respectively.Therateofvisualeldimpairmentgraduallyincreasedeachyear,thoughitsgradegraduallydecreased.TheaverageMDslope(dB)peryeardecreasedslightlyintheallcasesgroupandsignicantlyintheprogressivegroup,comparedtothe3-yeargroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)25(9):12951300,2008〕Keywords:正常眼圧緑内障,ラタノプロスト,3,5,6,8年群視野比較,視野変化解析,年平均偏差進行度dB.normal-tensionglaucoma,latanoprost,comparsionofvisualeldson3,5,6,8yearsgroup,visualeldchangeanalysis,averagemeandeviationslopedBperyear.———————————————————————-Page21296あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(108)はじめにラタノプロスト単独点眼による正常眼圧緑内障(NTG)の多数例の5年を超える長期視野についてはいまだほとんど報告されていない.筆者らは先にラタノプロスト単独点眼による3年後視野(2003)1),5年後(2006)2),6年後(2006)3)を報告した.今回は8年群の成績を述べ,各群の経過を比較検討した.治療による効果としては,すでに対象となるNTG症例群の進行度,視野進行の判定法も異なるので直接比較は困難であるが,米国のCollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup(CNTGS)(1998)4,5)はOctopusまたはHum-phrey視野計のevent法による評価で30%以上眼圧下降させた症例では,視野障害進行率は3年でも5年でも20%であったと述べている.筆者らのラタノプロスト単独点眼では3年後(90眼)1)で10%,5年後(85眼)2)で17.6%,6年後(71眼)3)19.7%で,眼圧下降率もそれぞれ18.4%,15.3%,14.1%とCNTGSに比し,はるかに低いがほとんど劣らない成績を示したことを述べた.I対象および方法対象はNTGで先のウノプロストン長期治療を参考として,100例以上の蓄積(一部ウノプロストン症例を中止,移行)と,視野計測,眼圧測定などの予備検査を行った.ラタノプロスト単独点眼で1999年5月1日より4カ月のうちに治療開始した.満3年経過時に規則正しく通院,検査,点眼継続を行っていたかを点検し,条件を満たした症例について第1回報告(2003)1)がなされたNTG90例90眼が登録患者である.死亡,重大身体疾患で通院不可能となった患者,白内障などの内眼手術を受けた患者は報告時には登録から除外された.当然治療開始4カ月以降新たに発見,治療された患者は経過年数を満たさないので登録されてはいない.なお,年平均偏差(meandeviation:MD)進行度が1dB以上となり進行傾向を示した症例に対してもラタノプロスト単独の長期視野経過を観察する目的のため除外ないし,点眼変更,2剤投与などは行わなかった.今回の対象はNTG患者8年群,男性19例19眼,女性33例33眼,計52例52眼で,いずれも満3年継続時の第1回報告の基本登録に入っておりかつ6年報告例のうちで8年まで経過をみることができた症例である.治療開始時年齢(平均±標準偏差)は68.8±8.9歳.観察期間は91.3±3.4カ月.Humphrey30-2プログラム測定(Fastpac)は11.2±1.2回施行.なお,経過途中で23症例にSITA-Standardを試みたが連結せず経過観察症例はそのままFastpacで行った.視野の判定には,視野変化解析で最低5回以上の計測を要するが,薬剤の長期効果を判定するのに有効とされるtrend-typeanalysisで行った.MDslopedBの線形回帰解析で有意(p<0.05)を示した症例を進行眼とした.最終視野測定時の年MDスロープ(MDslopedBperyear)を年MD進行度としてこの2項目を指標として,全症例,進行眼群について,3年,5年,6年,8年群経過の比較検討を行った.症例の選択は1症例1眼で,原則として右眼としたが,右眼に眼底疾患やすでに内眼手術を認めた場合,矯正視力0.7以下,すでに水晶体後混濁を認め,視力低下が予測される白内障,および視野変化解析でMD値信頼性不良で×印が検査回数の3分の1を超える場合は左眼を選択し,あるいは左眼も適切でないと判定した場合には症例から除外した.なお,白内障の進行が予測される糖尿病患者も除外した.視野における症例の選択ではHumphrey30-2プログラム測定で治療開始時に早期の孤立暗点のみの症例は除外し,少なくとも弓状暗点などの初期病変以上の確実な緑内障性視野障害が証明された症例とした.なお,MDは末期では25dBまでとし,かつ視野障害の進行を判定するため周辺にも残存視野が認められるものに限った.眼圧測定は全例外来患者であったため,測定は通常午前9時12時の間に行われた.Goldmann圧平眼圧計を使用し,眼圧は常に20mmHgを超えず,治療前3回測定を行い,平均値をベースラインとした.最終眼圧は最終測定時および前回,ならびに前々回測定値を含め計3回の平均値をとった.ニデック社製無散瞳ステレオ眼底カメラ(3-DxNM)による視神経乳頭のポラロイド写真をステレオ・ビューアで観察,明瞭な緑内障様陥凹が認められる症例とした.乳頭周囲網脈絡膜萎縮(peripapillaryretinochoroidalatropty)(b-zone)の横最大幅と乳頭横径の比をPPA/D,乳頭陥凹縦径と乳頭縦径の比をC/D(cup/discratio)とした.原則として3週1カ月ごとに細隙灯顕微鏡,眼圧測定,視力検査,612カ月ごとにHumphrey視野30-2プログラム測定,視神経乳頭立体撮影を行った.副作用として点眼による眼瞼色素沈着などが著明で患者が気にかける場合には点眼を変更する旨の承諾を得た.II結果1.正常眼圧緑内障のラタノプロストによる3,5,6,8年群の治療成績比較正常眼圧緑内障のラタノプロストによる3年治療群90眼,5年85眼,6年71眼,8年52眼の治療成績を縦列的に比較したのが表1である.これらの症例群はいずれも3年時の基本登録例からの症例であるため,治療前MDdBはそれぞれ8.92±5.72dB,9.2±6.0,9.71±6.15,9.05±6.16でいずれも当然近似する数値であり,correctedpatternstandarddeviation(CPSD)もそれぞれ8.17±3.9dB,8.12±4.1,8.58±4.25,8.54±4.04と大差のない数値であった.視野障害進行眼数(率)はそれぞれ9/90眼(10%),15/———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081297(109)85眼(17.6%),14/71眼(19.7%),11/52眼(21.2%)と増加しているが,その程度は微増の傾向である.年MD進行度dBも前述したごとく,全例でそれぞれ0.34±0.76dB,0.31±0.19,0.21±0.43,0.17±0.34と下降速度がきわめてなだらかで有意ではないが減速傾向を示している.進行眼群では1.53±0.55dB,1.11±0.25,0.83±0.21,0.57±0.17で有意な減速傾向が認められた(t検定p<0.0001).眼圧については治療前眼圧は各群でそれぞれ14.1±1.9mmHg,14.1±2.2,14.2±2.2,13.7±2.3とほとんど等しい数値である.最終眼圧下降幅(率)はそれぞれ2.6±1.9mmHg(18.4±10.2%),2.2±1.5mmHg(15.3±9.9%),2.1±1.6mmHg(14.1±10.8%),2.0±1.4mmHg(14.6±9.7%)で軽度に減少している.2.ラタノプロスト3,5,6,8年の年MD進行度dBの比較先に報告したラタノプロスト3年群の90眼,5年群85眼,6年群71眼,今回の8年群52眼における各例の年MD進行度を示したのが図1である.そのうちMDスロープの線形回帰解析で有意(p<0.05)と判定された進行眼は▲印で示した.一般的には観察期間が短く,視野測定回数が少ないほど症例の分布が大きい傾向であった.ラタノプロスト3年群では視野測定回数が5.3±0.4回で分布が大きく+1.52.0dBに及んでいたが,5年群になると測定回数7.7±1.1回で+1.01.5dBに,6年群になると測定回数9.3±1.1回で+0.561.23dB,8年群では測定回数11.2±1.2回,0.610.36dBとなった.3年群1.0dB以下の症例は5年群ではほとんど進行眼と判定された.各群全例の年MD進行度は3年群0.34±0.76dB,5年群0.31±0.19,6年群0.21±0.43,8年群0.17±0.34で漸減している.t検定では3年後と比較して有意でなかった.進行眼群は3年1.53±0.55dB,5年1.11±0.25,6年0.83±0.21,8年0.57±0.17で3年後と比較して5,6,8年後では有意(p<0.0001)な減速が認められた.8年群で1.0dB以下に留ま表1正常眼圧緑内障のラタノプロストによる3,5,6,8年群の治療成績比較治療経過数3年群5年群6年群8年群例(眼)数90857152治療前平均偏差(MD)dB8.92±5.729.2±6.09.71±6.159.05±6.16治療前補正パターン標準偏差(CPSD)dB8.17±3.918.12±4.148.58±4.258.54±4.04進行眼数(進行率)9(10%)15(17.6%)14(19.7%)11(21.2%)年MD進行度dB全例0.34±0.760.31±0.190.21±0.430.17±0.34進行眼群1.53±0.551.11±0.250.83±0.210.57±0.17治療前眼圧(mmHg)14.1±1.914.1±2.214.2±2.213.7±2.3眼圧下降幅(率)(mmHg)全例2.6±1.92.2±1.52.1±1.62.0±1.4(18.4±10.2%)(15.3±9.9%)(14.1±10.8%)(14.6±9.7%)年群年群年群年群+1.0+0.50-0.5-1.0-1.5-2.0(dB):進行眼:非進行眼全例(眼)3年群5年群例数(眼数)90眼85眼進行眼数(%)9眼(10%)16眼(17.6%)測定回数5.8±0.47.7±1.1全眼年MD進行度dB0.34±0.760.31±0.19進行眼年MD進行度dB1.53±0.551.11±0.256年群8年群例数(眼数)71眼52眼進行眼数(%)14眼(19.7%)11眼(21.2%)測定回数9.3±1.111.2±1.2全眼年MD進行度dB0.21±0.430.17±0.34進行眼年MD進行度dB0.83±0.210.57±0.17各群の年MD進行度dBは全眼中央値を結んだ実線はきわめて緩除に進行眼の破線は有意な減速傾向が認められた.図1正常眼圧緑内障のラタノプロストによる3,5,6,8年群の年MD進行度———————————————————————-Page41298あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(110)っているのは52眼中1眼(1.9%)のみであった.これらの各群の平均値を結んだ全例(実線),進行眼群(破線)も図1にみられるように経過年数とともに一見して明らかに減速傾向を示している.なお,年MD進行度の(+)側になった症例数は3年群26/90眼(28.9%),5年群25/85眼(29.4%),6年群25/71眼(35.2%),8年群15/52眼(28.8%)であるが,全体としてはその分布は()側と同様に経過とともに収束してきている(図1).NTGのラタノプロストによる3年後と比較した3,5,6,8年群の年MD進行度dBの成績は表2のごとくである.統計方法については表2の欄外の説明で述べたごとくである.全症例では全評価時期において,年MD進行度dBの有意の変化は認められなかった.3年後の年MD進行度が0.50.5dBの症例でも有意の変化は認められなかった.3年後の年MD進行度が0.5dB以下の症例は経時的に減速し,3年後に比較してすべての評価時期で有意の改善が認められた(表2).III考按NTG視野障害の長期自然経過について,白井ら(1994)6)はOctopus視野で42例56眼につき48カ月の観察でMDが4dB以上に下降した進行眼率は44.5%であったと述べている.Araieら(1994)7)は56眼につきHumphrey視野で緑内障変化確率解析で65カ月で80%と報告している.またCollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup(CNTGS)(1989)4,5),同Group(2001)8)はOctopusまたはHumphrey視野で4of5endpointsイベント法で測定した視野障害進行は3年で40%,5年で60%としている.なお,同Groupは3年以上7)で視野変化解析を行った109眼でMDスロープの有意の下降例を47眼(43%)に認め,年間0.52.0dBの有意の下降を示したと述べている.治療による効果としては,米国のCNTGS(1998)4,5)は4of5endpointsイベント法による評価で,手術,レーザー,薬物療法を含み30%以上眼圧下降した症例では,視野障害進行率は3年でも5年でも20%であった述べている.山本ら(1999)9)は120週で3dB以上の悪化はラタノプロスト23例のうち20%,チモプトール24例のうち20%と述べている.小関,新家ら(2000)10)は進行症例のNTG23例23眼に線維芽細胞増殖阻害薬を使用して線維柱帯切除術を行い,視野変化解析により3眼(13%)に進行を認めた.小川らは表2のごとく,ラタノプロスト単独点眼によるNTG3年群90眼1),5年群85眼2),6年群71眼3),8年群52眼の視野変化解析で進行眼率はそれぞれ10%,17.6%,19.7%,21.2%で,増加はするが,その程度は漸減傾向であった.なお,小川らはNTG48眼へのウノプロストン単独でのトレンド型視野変化解析による視野障害進行率は6年で17.8%(2003)11),41眼への10年(2006)12)で22.5%と報告している.視野進行判定法にはevent-typeanalysisとtrendtype表2正常眼圧緑内障のラタノプロストによる3,5,6,8年後の治療成績(3年後と比較)3年後の症例情報評価時期症例数平均値±標準誤差3年後からの変化量平均値±標準誤差p値全眼3年後5年後6年後8年後907562460.34±0.080.27±0.050.22±0.050.26±0.05─0.07±0.070.12±0.070.08±0.08─0.34890.09640.327年MD進行度dB0.5以下3年後5年後6年後8年後352822141.05±0.080.46±0.100.38±0.090.34±0.08─0.58±0.090.66±0.110.71±0.11─<0.0001<0.0001<0.00010.50.53年後5年後6年後8年後453732260.07±0.050.19±0.060.12±0.050.17±0.05─0.12±0.070.05±0.060.10±0.06─0.0660.42050.09153年後に測定データがある同一症例(90例)の治療経過.年MD進行度dBによる治療成績(3年後と比較)は上記のごとくである.長期経過に伴う脱落例の欠測メカニズムにMCA(missingcompletelyatrandom)を仮定し,線形混合モデルを用いて,各評価時期の最小二乗平均値を推定した.また,分散の推定に,サンドウィッチ分散を用いて,3年後と各評価時期間の平均値の差の検定を行った.全症例では全評価時期において,年MD進行度の有意な変化はみられず,3年後の年MD進行度が0.50.5dBの症例でも有意な変化は認められなかった.しかし3年後の年MD進行度が0.5dB以下の症例では,年MD進行度は経時的に減速し,3年後と比較してすべての評価時期で有意な改善が認められた(p<0.001).———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.9,20081299(111)analysisがあり,event-typeanalysisでは比較的短期間に判定ができ,局所的の視野障害の検出に有効であるが,変動の影響を受けやすい.Trend-typeanalysisでは,継続的なデータをすべて使って,回帰直線の傾きにより進行を評価する.全体的な視野障害の進行検出に有効であり,微妙な変化をとらえる可能性があるため,治療効果の比較試験に適しているとされている.CNTGSでのNTGの自然経過および眼圧30%下降による視野障害進行の判定は4of5endpoints法によるevent-typeanalysisで行われている.その他多くの多施設研究および従来の研究でもevent法で行われた.筆者らの行った視野変化解析(MDslope)はtrend-typeanal-ysisでHumphrey視野計による5回以上の測定を要するが,視野障害進行の判定は客観的に有意か否かが視野用紙に印刷され一見して容易に行われるため,日常臨床ではきわめて実施しやすい方法であると考える.したがってCNTGSの結果の数値は筆者らの数値とは同一判定方式でないため,さらに治療群の進行状態も異なるため,直接比較は困難である.年MD進行度についてはTomitaら(2004)13)はNTGラタノプロスト24眼,チモプトール24眼で3年間の経過観察によりラタノプロスト群では0.34±0.17dB,チモロール群で1.0±0.18dBであったが,両群間に有意の差は認めなかったとしている.筆者らの3,5,6,8年の比較では表1のごとく,全例ではそれぞれ0.34±0.76dB,0.31±0.19,0.21±0.43,0.17±0.34と3年後と比較して減速してはいるものの有意ではなかった.進行眼群ではそれぞれ1.53±0.55dB,1.11±0.25,0.83±0.21,0.57±0.17と3年後群と比較して5,6,8年後では下降速度が有意な減速が認められた.このことから単独点眼が長期にわたり全例にも進行眼群にも有効に作用し続けていることがうかがわれた.このことは各群の平均値を結んだ全例(実線),進行眼(破線)の傾きからも一見して明らかである.8年群で年MD進行度が1.0dB以下に留っているのは52眼中1眼(1.9%)のみであった.年MD進行度dBでは表2に示すごとく,3年後と比較して全症例および0.50.5dBの軽度症例では有意の減速は認められなかったが,0.5dB以下の進行眼症例ではむしろ経時的に減速し,有意の改善が認められた.ラタノプロスト単独点眼でも進行眼症例に長期にわたり,有効に作用していることが示唆された.先に報告したウノプロストン単独点眼を行ったNTG48例48眼と10年40眼における年MD進行度11,12)をみると,全例では6年群平均が0.31±0.54dB,10年群では0.16±0.32dBと減速している.進行眼群では6年群9眼の平均が1.09±0.57dBから,10年群の9眼0.56±0.15dBと約半分近くに減速している成績が認められた.以上,ラタノプロスト,ウノプロストンともいずれも長期使用にかかわらず効果が減弱することなく年MD進行度(下降速度)が減速し点眼が長期にわたり有効に作用している状態がうかがわれた.このことはプロスタグランジン系点眼薬に特徴的なことなのか,他の眼圧下降点眼薬でも同様の所見が認められるものか,あるいは統計学的に計測を重ねることにより分布が収束されてくることによるものか,NTG経過に特徴的なことなのかなどについては不明であり,今後の検討を要するところである.ラタノプロストの眼圧に関する報告は数多いが,NTGについて長期使用に関するものは比較的少ない.Tomitaら13)はラタノプロスト24例,チモプトール24例について,3年間の眼圧下降率は1315%で両群間に差を認めなかったと述べている.橋本ら(2003)14)はラタノプロスト・ノンレスポンダー(NR)の定義として眼圧下降率が10%以下とすることが最も適しており,欧米の報告に比し日本では多く,各種緑内障46例46眼について12カ月で26.3%であり,投与前眼圧が低いほどNRの割合は多かったとしている.Camarasら(2003)15)は最初にラタノプロストに反応しなかった患者の多くがチモロールに比べても6カ月の継続使用によりレスポンダーになったと述べている.筆者らが別研究で経過観察を行ったNTG50例50眼の同一症例の同一眼にウノプロストン点眼4年後と,2週間の休薬期間をおいた後の,ラタノプロスト各4年間点眼との比較(2004)16)では,眼圧下降率はウノプロストン12.1±4.9%に対しラタノプロスト17.9±9.1%で有意差を認めた.治療開始時眼圧を15mmHg以上と14.9mmHg以下の2群に分けて治療効果を検討すると視野進行眼(率)は初め4年間投与されたウノプロストン群では15mmHg以上群は4/15眼(26.7%),14.9mmHg以下群は1/35眼(2.9%)であったのに対し,つぎの4年間投与されたラタノプロストでは15mmHg以上群は1/15眼(6.3%),14.9mmHg以下群は8/34眼(33.5%)であった.薬剤投与の順序にも関連があるのかもしれないが,ラタノプロストはハイティーン群で優り,ウノプロストンはむしろローティーン群で有効な成績が認められた.56年以上にわたる長期視野観察期間は老化による水晶体混濁が進行し視野に影響を与えると考えられる.Smithら(1997)17)は白内障手術により視野改善とともにMDが改善したことを認めている.したがって,症例の選択にあたってはすでに水晶体混濁,特に後下混濁を認めた場合,矯正視力0.7以下,糖尿病患者などは除外した.8年群で経過中白内障手術を施行した9症例は除外している.8年群の視野の非進行群では初診時に比し視力低下はきわめて軽度であり,進行眼群では,視力表の1段階程度視力が下降しているが,高齢者の水晶体混濁の進行はMD,CPSDなどに行われてい———————————————————————-Page61300あたらしい眼科Vol.25,No.9,2008(112)る年齢による補正と相まって,今回の視野進行判定には大きな影響を与えていないと考えられた.またReardonら(2004)18)は総計28,741名の患者に各種眼圧下降薬,ラタノプロスト,チモロール,ベタキソロール,ドルゾラミド,プリモニジン,トラボプロスト,バイマトプロストなどを12カ月投与し,そのうちラタノプロストの患者が有意に最も点眼の維持性を示したと述べている.以上のごとく,NTGへのラタノプロスト単独点眼8年の経過観察により視野障害進行率は経過とともに増加するが,その程度は漸減した.年MD進行度は全例ではごく微度の,進行眼群では有意な減速傾向が認められ,点眼が長期にわたり有効に作用していることが示唆された.文献1)小川一郎,今井一美:ラタノプロストによる正常眼圧緑内障の3年後視野.あたらしい眼科20:1167-1172,20032)小川一郎,今井一美:ラタノプロストによる正常眼圧緑内障の長期視野─5年後の成績─.眼紀56:342-348,20053)小川一郎,今井一美:ラタノプロストによる正常眼圧緑内障の長期視野─3,5,6年群の経過比較─.緑内障15(臨増):117,20054)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpres-sure.AmJOphthalmol126:487-497,19985)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnomal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19986)白井久行,佐久間毅,曽我野茂也ほか:低眼圧緑内障における視野障害の経過と視野進行因子.日眼会誌86:352-358,19927)AraieM,SekineM,SuzukiYetal:Factorscontributingtotheprogressionofvisualelddamageineyeswithnormal-tensionglaucoma.Ophthalmology101:1440-1444,19948)AndersonDR,DranceSM,SchulzerM;CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Naturalhistoryofnormal-tensionglaucoma.Ophthalmology108:247-253,20019)山本哲也:正常眼圧緑内障の診療戦略.p26-35,メディカル葵出版,199910)小関信之,新家真:正常眼圧緑内障の手術療法.正常眼圧緑内障,p149-154,金原出版,200011)小川一郎,今井一美:ウノプロストンによる正常眼圧緑内障の長期視野─6年後の成績─.眼紀54:571-577,200312)小川一郎,今井一美:単独点眼による正常眼圧緑内障の長期視野経過─10年後の成績─.眼紀57:132-138,200613)TomitaG,AraieM,KitazawaYetal:Athree-yearpro-spective,randomizedandopencomparisonbetweenlatanoprostandtimololinJapanesenormal-tensionglau-comapatients.Eye18:984-989,200414)橋本尚子,原岳,高橋康子:正常眼圧緑内障に対するチモロール・ゲルとラタノプロスト点眼に対するノンレスポンダーの検討.日眼会誌108:288-291,200315)CamarasCB,HedmanKfortheLatanoprostStudyGroup:Rateofresponsetolatanoprostortimololinpatientswithocularhypertensionorglaucoma.JGlauco-ma12:466-469,200316)小川一郎,今井一美:ウノプロストン後ラタノプロスト各4年点眼による正常眼圧緑内障の視野比較.眼紀55:740-746,200417)SmithO,KatzJ,QuigleyHA:Eectofcataractextrac-tionontheresultsofautomatedperimetryinglaucoma.ArchOphthalmol115:1515-1519,199718)ReardonG,GailF,SchiwartzGFetal:Patientpersisten-cywithtopicalocularhypotensivetherapyinamanagedcarepopulation.AmJOphthalmol137:S3-S12,2004***