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視神経鞘髄膜腫に対し強度変調放射線療法が著効した1例

2014年12月31日 水曜日

《原著》あたらしい眼科31(12):1885.1888,2014c視神経鞘髄膜腫に対し強度変調放射線療法が著効した1例柏木孝夫三村治兵庫医科大学病院眼科Intensity-ModulatedRadiationTherapyforOpticNerveSheathMeningioma:ACaseReportTakaoKashiwagiandOsamuMimuraDepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine53歳の女性.緩徐に進行する右眼視力低下で来院した.右眼視力は矯正0.6,Humphrey視野のMD(平均偏差)値で.16dBの低下と右視神経乳頭耳側蒼白を認め,giantcellarteritisGCAでも軽度の菲薄化を認めた.MRI(磁気共鳴画像)で右視神経鞘髄膜腫と診断し,強度変調放射線療法を行ったところ,GCAの菲薄化の進行にもかかわらず視力も視野も正常まで回復した.強度変調放射線療法は視神経鞘髄膜腫の進行停止だけでなく視機能回復にも有効である.Wereportacaseofopticnervesheathmeningiomatreatedbyintensity-modulatedradiationtherapy(IMRT).A53-year-oldfemalepresentedcomplainingofaslowly-progressingvisualdisturbanceinherrighteye.Ophthalmoscopicexaminationrevealedtemporalpalloroftherightopticdisc,andexaminationbyopticalcoherencetomographyrevealedslightthinningofthegiantcellarteritis(GCA)intherighteye.Magneticresonanceimagingrevealedopticnervesheathmeningioma(ONSM)ofthepatient’srightopticnerve,andshesubsequentlyunderwentIMRT.PostIMRT,thethinningoftheGCAslightlyincreased,butherright-eyevisualacuityandmaculardegenerationvaluerecoveredtonormal.IMRTwasfoundtobeeffectivefornotonlyslowingtheprogressionofONSM,butalsofortherecoveryofvisualfunction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)31(12):1885.1888,2014〕Keywords:視神経鞘髄膜腫,強度変調放射線療法,光干渉断層計.opticnervesheathmeningioma,intensitymodulatedradiationtherapy,OCT.はじめに視神経鞘髄膜腫(opticnervesheathmeningioma:ONSM)は,以前は視力・視野障害が現れてから初めて眼科を受診することが多く,進行性視力障害,視神経乳頭蒼白,乳頭毛様短絡血管(optociliaryshuntvessels)が本症の特徴的な三徴(Hoyt-Spencer徴候)とされていた1).しかし,最近では画像診断の進歩とともに健診や眼底検査で早期のONSMが発見されるようになり,それとともに放射線治療も進歩し,以前は経過観察だけであった早期患者に対しても放射線治療の道が拓けつつある2).今回,1年に及ぶ緩徐な片眼の視力低下で受診し,Humphrey視野のMD(平均偏差)値で.16dBの感度低下と光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)のganglioncellcomplex(GCC)の菲薄化が認められたONSM症例に対して,強度変調放射線療法(intensitymodulatedradiationtherapy:IMRT)を行ったところGCC菲薄化の進行にもかかわらず視力・視野の改善がみられた症例を経験したので報告する.I症例患者:53歳,女性.主訴:右眼視力低下.経過:約1年前からの右眼視力低下で近医受診するも原因不明のため,精査目的で2013年12月9日当科を紹介受診した.現症:視力はVD=0.6(0.6×sph+0.50D),VS=1.2(矯〔別刷請求先〕柏木孝夫:〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町1番1号兵庫医科大学病院眼科Reprintrequests:TakaoKashiwagiM.D.,DepartmentofOphthalmology,HyogoCollegeofMedicine,1-1Mukogawa-cyou,Nishinomiyacity,Hyogo663-8501,JAPAN0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(147)1885 図1初診時眼底写真右眼視神経乳頭の軽度耳側蒼白を認める.図2初診時右眼Humphrey視野耳側を中心に求心性狭窄様の視野変化を認める.図3初診時OCT(GCA)右眼GCC厚は左眼に比べて平均10μm菲薄化している.正不能),右眼相対性求心路瞳孔異常(RAPD)陽性,眼圧は正常,眼球運動制限なく,眼球突出度は右眼21mm,左眼18mmであった.眼底では左眼は正常であったが,右眼の視神経乳頭の境界は鮮明であったが,耳側に軽度の蒼白化を認めた(図1).Humphrey視野検査30-2プログラムにて右眼に著明な求心性狭窄を認め(図2),MD値は.16.18dBであった.左眼は特に異常を認めずMDも.0.12dBであった.OCTにてGCC厚は右眼で左眼と比し平均10μmの軽度の菲薄化を認めた(図3).経過:右眼の軽度眼球突出,緩徐進行性の視力・視野障害から,ONSMや眼窩内腫瘍による圧迫性視神経症を疑い,頭部造影MRI(磁気共鳴画像)検査を施行した.MRIの結果では,右眼窩内に右視神経鞘を含む長径9mm大の腫瘍性病変を認め,周囲への浸潤は認めなかった.T1強調像では筋肉と等信号,STIRで高信号を呈し,造影剤で増強効果を認めONSMを疑う所見(図4)であった.視機能が非常に緩徐ではあるが進行性に悪化していることから,放射線治療の適応と考え,近医放射線科に治療を依頼した.2014年1月30日から3月13日まで,同放射線科にて右ONSMに対しIMRT(Novalis6MV)を用い,線量1.80Gy/回を計30回の総線量54Gy照射を行った.IMRT治療中である2月27日,右眼矯正視力は1.0に,右眼Humphrey視野検査にてMD値も.1.90dB(図5)まで回復し,RAPDは陰性化した.また,4月17日IMRT治療効果判定のため頭部造影MRI検査(図6)を行い,右ONSMの大きさに変化がないことを確認できた.6月12日現在,VD=(1.0×sph+0.50D),右眼Humphrey視野検査にてMD+0.04dBの視機能を維持している.一方で,OCT検査におけるGCC厚は右眼平均20μmの菲薄化に至り(図7),視機能とGCC厚の相関は認められなかった.II考按ONSMは,視神経鞘の硬膜から発生し,全眼窩腫瘍の約2%,全髄膜腫の1.2%を占める比較的稀な良性腫瘍で中年女性に多い3).眼科を受診する契機は視神経を取り巻く視神経鞘への腫瘍の進展のための圧迫性視神経症であり,眼症状1886あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(148) 図5終診時右眼Humphrey視野右眼耳側の感度の低下は消失している.図4頭部MRI冠状断のT1強調像(上段)およびSTIR法(中段)で右視神経の拡大,冠状断の造影(下段)MRIで高度の増強効果が認められる.図6IMRT後の頭部MRI冠状断の造影MRIで右ONSMの大きさは変化がない.図7終診時OCT(GCA)右眼のGCC厚は左眼に比し,さらに平均20μmの菲薄化を認める.としては視力・視野障害,ときに眼球突出,眼球運動障害,眼痛4)などを訴える.治療は,1990年以前は“waitandsee”といわれるように経過観察が原則で,患側眼が完全失明するか視交叉(反対眼)に及びそうになって初めて脳外科的な手術が行われた.これは観血的に全摘を行うと,たとえ視神経を温存しても網膜中心動脈閉塞などによる重篤な視力・視野障害をきたし,失明に至ることが多いためであった5).しかし,現在では放射線治療技術が飛躍的に進歩し,(149)健常組織への照射を最低限にしつつ視神経周囲に限局的な分割照射を行うことで,視機能の維持のみならず改善までが得られることが明らかになってきた.この放射線治療としては,照射野をコンピュータ制御で行う3次元分割放射線治療(hyperfractionatedradiationtherapy:HFRT),あるいは定位放射線治療(stereotacticradiotherapy:SRT)が一般的である.これら放射線治療の侵襲性を示す晩期合併症は,放射線網膜症,硝子体出血,視神経症,放射線白内障などでああたらしい眼科Vol.31,No.12,20141887 るが,その頻度は外科手術や経過観察よりもはるかに低く,SRTの有用性を否定するものにはならない5).最近ではさらなる低侵襲をめざし,画像誘導下分割照射でより複雑な形状の病変に対して行われるIMRT6)が普及しつつある.このIMRTの利点としては,照射野を腫瘍の複雑な形状に合わせることができるために,線量分布が均一となり腫瘍に対して均一にダメージを与えることができ,周囲の正常組織への線量を最小限にとどめ副作用を極力減らすことができる.一方,OCTでは黄斑部網膜内層の神経節複合体をGCC厚として解析することができる.今回のGCC厚の変化は,ONSMによる圧迫性視神経症のため網膜神経節細胞が逆行性変性をきたし,GCC厚の菲薄化として認められたものと思われる.今回経験した症例においては,IMRT後にOCT検査にて健常眼と比べて平均10.20μmとGCC厚のさらに進行性の菲薄化を認めながらも,視機能の維持のみならず視力・視野の正常化にまで至った.このことは,ONSMに対しIMRTが有用であるとする三村らの報告2)と,GCC厚は視機能を直接に反映しているわけではないとする山下らの報告7)と同様であった.また,IMRT後の頭部造影MRI検査で,ONSMの大きさや性状に変化がないにもかかわらず視機能が改善したことは,圧迫性視神経障害をもたらした腫瘍の軟化や浮腫が改善したことにより軸索輸送や循環障害が改善したためと推察される.この結果から,眼科医が患者に対しONSMの診断を下した場合,いたずらに視機能の進行性の悪化を待つのではなく,たとえGCC厚の菲薄化が認められたとしても積極的に放射線治療医に紹介することが求められると考える.文献1)Muci-MendozaR,ArevaloJF,RamellaMetal:Optociliaryveinsinopticnervesheathmeningioma.Ophthalmology106:311-318,19992)三村治,林綾子:視神経髄膜腫.眼科55:685-692,20133)EddlemanCS,LiuJK:Opticnervesheathmeningioma:currentdiagnosisandtreatment.NeurosurgFocus23:E4,20074)LandertM,BaumertBG,BoschMMetal:Thevisualimpactoffractionatedstereotacticconformalradiotherapyonseveneyeswithopticnervesheathmeningiomas.JNeuroopthalmol25:86-91,20055)白根礼造,渡辺孝男,鈴木二郎:視神経髄膜腫5例の検討.日外会誌22:739-743,19826)MacleanJ,FershtN,BremnerFetal:Meningiomacausingvisualimpairment:outcomesandtoxicityafterintensitymodulatedradiationtherapy.IntJRadiatOncolBiolPhys85:e179-186,20137)山下力,三木淳司:半盲.眼科55:933-942,2013***1888あたらしい眼科Vol.31,No.12,2014(150)